飛べ!星のカービィ

とべ!ほしのカービィ


概要

うらぎりのマホロアに あやつられている
(あま)かける(ふね) ローア。まるで ぶきのように
あつかわれ、カービィたちに あだなす!()
(くろ)く そまる あの(ふね)に、もし(こころ) あるならば
一体(いったい) いま、(なに)(おも)の だろうか…

マホロアとローアが 出会(であ)った あの()
(かれ)(たい)ローアは (なに)かを(かん)じた。
楽園(らくえん)へ いざなうはずが、クラウンだっかん
手先(てさき)となった ローアは だれかに()めて
もらいたく本来(ほんらい)(ちから)を かくして いたという。


本作のラストステージであるレベル8「ザ ラストバトル イン アナザーディメンション」で流れる曲。
誤解が解けたランディアの背に乗り、本性を表したマホロアを追って異空間ロードを進む、シリーズ恒例のシューティングステージである。
進んだ先ではマホロアの手に落ちた天かける船ローアとの対決が控えており、ローア戦でも引き続きこの曲が流れる事になる。
シチュエーションとしては明確にSDXの「銀河にねがいを:シューティング面」の枠であるのだが、曲の方向性は全く別物であり全体的に疾走感のある熱い曲である。
またサビの部分は厳正な面持ちの管楽器が曲の雰囲気をガラッと変え、「ぼうけんのはじまり」と「カービィ凱旋」のフレーズで曲全体をヒロイックな流れに仕上げている。
また強制スクロールステージも曲の展開に合う様に設計されており、曲のループと共に次のステージに移動し、巨大ディメンションメテオの地帯では「カービィ凱旋」が流れる様にタイミングを取っている。
シリーズ屈指の大どんでん返しに負けぬよう奮い立たせるこの曲は、本作のラストバトルに相応しい曲と言えるだろう。

曲名の由来はUSDXと本作のラストバトルにおけるスペシャルページと同様に、アニメ「星のカービィ」の最終話のサブタイトルからである。
このアニメは色々と衝撃的な内容で様々な伝説を打ち立て、今なお語り草となっている作品であり、その後のカービィシリーズにも多大な影響を与えた程である。
そんなアニメの最終話は宿敵であるナイトメアとの決着を描いた話なのだが、後年桜井政博氏から壮絶としか言い様の無い舞台裏が明かされている*1

+ 脚本の真実
この最終話に限って展開に幾つかの矛盾や説明不足が不自然な位に見受けられるのだが、桜井氏が吉川惣司監督に電話をかけた所、ここで吉川氏の妻が危篤であった事が発覚。
妻の最期に間に合う様に極限の精神状態の中、急いで脚本を完成せざるを得なかったのが理由だった。
仕事の先延ばしを選択せず、周囲の誰にも告げずに脚本を書き上げた事に桜井氏はもし自分が同じ立場だった場合、「泣きながらあっさりと逃げ出してしまうのかもしれません」と語っている。
そしてアニメもゲームも非常に多くのスタッフのプライベートを犠牲にして作られており、見た目以上の産みの苦しみは必ずある事、この事を明かしたのは「モノを作るときにはこういうこともある」という事を知って貰いたかったと続けている。

+ 幻となったセリフ
最終話のアフレコの際に、カービィ役である大本眞基子氏がアドリブで、意思を持ってコトバを発した事でスタジオ中が驚愕。
何故かと言うと物語全体のテーマとして「カービィの精神的な成長」というのがあり、殆どしっかりとした言葉を発しないカービィが意思を持って言葉を発するという事はこのアニメが本当の終わりを迎える事を意味していたからである。
その為に桜井氏と吉川氏が協議した結果、最後の一回にしか使えないという事でボツにしたそうである。
これは「なんらかのカタチでアニメ『カービィ』を続けたいと、監督やスタッフが願っているからではなかろうか」と桜井氏は解釈している。

そして、『星のカービィ Wii』は公式インタビュー「社長が訊く」でも語られている様に、『星のカービィ64』以降11年もの間、据置型ゲーム機で発売が出来ておらず、三つの作品をお蔵入りにした程の難産だった作品である。
当時USDXのディレクターだった熊崎信也氏は、相当の危機感を感じていたことを「ニンテンドードリーム 2018年6月号特別付録 プププメモリアル」にて語っている。

私はその当時、携帯機のゲーム開発をしていたんですが、その状況にひとりで勝手におこっていました。「『カービィ』をこんなところで終わらせてなるものか」って。そのときの気持ちは今でもはっきりと覚えています。胸をはれる『カービィ』が出せるか、『カービィ』が世の中から忘れられてしまうか…という瀬戸際だったんです。
誰かがやらねばシリーズが終わるという気持ちもあって、本編である『カービィ』新作の制作にディレクターとして入り、結果『星のカービィ Wii』を完成させることができました。

熊崎氏がどこまでアニメ最終話の裏事情を知っていたのかは定かではないが、同時期に開発されアニメの曲を多数収録した『カービィのエアライド』からシリーズに参加した経歴を考えると知っていた可能性は十分にある。
シリーズの存続すら賭けた作品のラストバトルの曲名に、アニメ最終話のサブタイトルを冠した事の意味がどれ程重いものであるか察する事が出来るだろう。
そしてこれ以降の作品のラスボス曲は、曲名にさり気なく「星」の名を冠しており、カービィシリーズにおいて「星」という存在が如何に重要な意味を持っているのかが分かるはずである。

サントラの『星のカービィ Wii ミュージックセレクション』にはボーナストラックとしてアレンジメドレーが三曲収録されているが、そのうちの一曲「サイゴノタタカイ」は「ゼンブ教えてヤルヨ」のイントロと「飛べ!星のカービィ」「支配してアゲルヨォ」「CROWNED」そして「Return to Dreamland」のアウトロで構成されたWiiのラスボスメドレーである。
管弦楽器で主旋律を組んだオーケストラアレンジであり、激しさの中に荘厳な趣が感じられるようになっている。
特に「飛べ!星のカービィ」の場面は美しい旋律が奏でる悲哀感が原曲の印象と余りにもかけ離れているにもかかわらず、ゲームのストーリーと重なって胸に響いてくる。
そして原曲のサビで一気に切なくも熱く盛り上げる展開に言葉を失うだろう。
各曲の繋がりも違和感が全くなく、サントラのボーナストラックにもかかわらずその完成度の高さから知名度のある曲である。

過去ランキング順位

星のカービィ Wii「飛べ!星のカービィ」

星のカービィ Wii ミュージックセレクション「サイゴノタタカイ」


サウンドトラック

星のカービィ Wii ミュージックセレクション


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安藤浩和
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最終更新:2025年04月24日 18:40

*1 「桜井政博のゲームについて思うこと」より