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非常の剣

最終更新:2019年12月01日 12:07

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
御意討ち秘伝
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)深江《ふかえ》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)本|孫市《まごいち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#感嘆符疑問符、1-8-78]
-------------------------------------------------------

[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

「あとで泉林寺の籔までおいでくださいまし、きっとお待ち申しております……」耳許で囁いた深江《ふかえ》の、温い呼吸と縋るような声音が、弦次郎《げんじろう》にはいつまでも忘れられなかった。
「あっははははは」
「胸がいっぱいなのだろう」
「おい高松、なんとか言えよ!」
 名を呼ばれて、はっ[#「はっ」に傍点]と弦次郎は顔をあげた。稽古道具を肩にして先へいく中井《なかい》、河口《かわぐち》、倉本《くらもと》などという連中が、立停まってなにか笑っている。
「何か言えとは、なにを――?」
「おい隠すな隠すな」お饒舌りの倉本|孫市《まごいち》がにやにやしながら言った、「貴公の顔にはちゃんと、『深江さまはおれのものだ』と書いてあるぞ。明日の総試合に勝抜いたものに深江どのを妻せる――と先生は仰せられたが、勝抜くのは貴公に決っている」
「後でたっぷり奢ってもらわなければならぬぞ」
「それはむろん承知さ、なあ高松《たかまつ》」
 弦次郎は苦笑するばかりであった。
「ところでそうなると気毒なのは藤枝清三郎《ふじえだせいざぶろう》だ、彼はこの二年来まるで深江さまに魂をぬかれていたからなあ」
「しかし酒癖が悪いし、稽古だってあのとおりの怠者では、とても高松の敵ではないよ」
「それに深江さまを家妻に欲しいのは、なにも藤枝に限ったことではないだろう、こういう我々だって大いに辛いぞ」
「どっちにしても高松は罪作りさ」
 そして一同声を合せて笑った。
 弦次郎は鉄砲組屋敷の角で皆に別れた、――心は熱く波打っていた。この小田原藩に道場をもつ貝原次郎左衛門《かいばらじろうざえもん》は、小野派一刀流の名手として江戸にまで聞えた剣客であり、その門下には小田原藩中の腕利を選っていたが、中にも藤枝清三郎、堀越市松《ほりこしいちまつ》、高松弦次郎の三人は、年頃三羽烏と呼ばれてきた。……中にも堀越市松は『魔剣の市松』といわれて、師匠も舌を巻くほど鋭い切尖を持っていたが、性質が偏屈なうえに酒乱のため、半年ほどまえついに破門をされてしまった。つまり三羽烏が二羽になったのである、――ところが残った二羽のうち藤枝清三郎も、この頃どうやら酒に親みはじめた様子で、稽古も怠けがちだし時折町で酔態を見かけるようになった。門弟たちは、――藤枝のやつ、深江さまを思詰めて自棄酒を呑んでいるのだ、と噂をし合った。
「堀越のぐれ[#「ぐれ」に傍点]たのもそのためだぞ」と言う者もあった。
 貝原次郎左衛門はこの噂を耳にして考えさせられた。次郎左衛門には娘が二人あった。姉が深江といって二十、妹は文江《ふみえ》と呼んで十八――二人とも評判の美しい娘であった。殊に深江は人眼につく姿をしているので、門弟の中には早くから己の妻にと望む者が少くなかったのである。その娘のために、大切な門弟が悪くなると聞いては捨てておけなかった、……この辺で娘の身の振方を定《き》めなければなるまい、次郎左衛門はそう思ったので、例年行われる総試合の当日、最後まで勝抜いた者に、深江を妻せるということを触出したのだった。
 弦次郎は生れつき温和な性質で、どんな場合にも控えめに振舞っている方だったが、それでも美しい深江の姿に心惹かれていたことには変りがなかった。だから今日、総試合の条件を聞くと、
 ――よし、是非とも勝ってみせるぞ!
 と私かに固く決心したのである。
「しかし何の話だろう」
 自分の家への曲り角まできた時、弦次郎は逆の方へ道を取りながら呟いた。――泉林寺へ行くためなのだ。さっき稽古をしまって、裏の洗場で汗を拭っていた時、深江が走ってきてそっと囁いた、
 ――あとで泉林寺の籔まで……。
 きっと待っているから、といった言葉。今日までほとんど話らしい話を交したこともない師匠の娘から、明日の総試合を控えて思いがけぬ言を囁かれた弦次郎は、――半は不安、半は妖しい胸のときめきを感じていた。
 泉林寺裏の籔は黄昏れて、匂うような靄に包まれていた。その乳色の靄の中に、あざやかに白く、一輪の夕顔の花が咲いている、――弦次郎はその花の下に深江の姿をみつけて近寄った。
「お待たせ申しました」
「あ、高松さま」深江は待兼ねていたように走寄って、「こんなところへお出でを願ってすみませぬ、でも他ではとてもお話しができませぬので、――お赦しくださいませね」
「いやそのお言葉には及びません」
「失礼でございますけれど、父に気付かれぬ内に帰らなければなりませぬゆえ、急いでお願いだけ申上げます」

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

「お願い――とおっしゃいますか」
「そうなのです、高松さま」深江は急に息をはずませて、「――貴方さまにだけ適えて頂けるお願いなのです。明日の総試合につきまして」
「はあ……」
「わたくし、あの、あのう」深江はさっと頬を染めた。――弦次郎はそれを見るに、「是非勝ってくれ」といわれるのだと思い、我にもなく血の躍るのを感じた。しかしやがて思い切ったようにいう深江の言葉はまるで逆だった。
「高松さま、深江が七生までのお願いでございます、どうぞ、どうぞ明日」
「――?」
「藤枝さまを勝たせてくださいませ」
 弦次郎は頭上へ落雷を受けたように、愕然として眼を閉じた。――けれど深江は相手の容子に気付く様子もなく続けた。
「こんなことを申すとお蔑みかも知れませぬ、でもどうぞお嗤いくださいますな、深江はずっと以前から藤枝さまをお慕い申しておりました。この頃あの方が御酒をあがるようになり、身持も悪いと聞く度に、わたくし毎《いつ》も泣いていたのでございます。けれど、もう明日の試合に勝つことさえできましたら、……わたくし妻として必ずあの方を立派な武士に立返らせてごらんに入れます。どうぞ深江のお願いをお肯きくださいませ」
「お待ちください」弦次郎はきっと顔色を変えた、「折角のお言葉ですが、それは、はっきりお断り申します、拙者にはできません!」
「え! 駄目だとおっしゃいますの?」
「無論のことです、拙者はまだ拵え試合などをするほど腐った魂は持合せていません。藤枝にしても勝を譲られて平気でいるほど堕落はしないはず、勝負はどこまでも腕と腕です。御免!」
「ああ待って、高松さま」
 忿然《ふんぜん》として行こうとする相手の様子に、驚いて深江は二三歩追ったが、しかし弦次郎は見向きもせず、靄の中を逃げるように立去っていった。――深江は茫然として、その後姿を見送っていた。
 その夜ひと夜、弦次郎はほとんど眠らずに明かした、なにを思悩んで眠らなかったのか誰にも分るまい、――そして総試合の日がきた。
 馬場外の貝塚道場には、七十余名の門弟が集った、例年この日の試合によって道場の席次が定まるのだし、今年は更にそれへ『美しい深江を妻せる』という条件が出たので、試合は始めから凄じい競合いを演じた。
 朝の六時から始まって午に半刻の休憩があり、すぐ続いて開始されたが、この日は藤枝清三郎もさすがに日頃の腕をあらわして、高松弦次郎と共にぐんぐん勝抜き、午後の五時ごろにはついにこの両人だけが勝残った。
「さあいよいよ関ヶ原だぞ」
「だが今日の藤枝はばかに強いじゃないか」
「そうさ、案外面白い勝負になるかも知れぬ」
 門弟たちはにわかに興味を増した。――それほどその日の清三郎は颯爽としていたのである。しばらく息をいれた後、二人は次郎左衛門の合図で道場の中央へ進出た。
「久しぶりだな高松」藤枝はにやりと笑っていった、「――おれはこのところ稽古を怠けていたが、貴公はますます上達だそうでめでたい。願おうか」
「参ろう!」
 二人はさっと分れた。――その時、奥へ通ずる切戸が少し明いて、深江の気遣わしそうな顔が見えた。そしてその後には妹の文江の姿もあった。
「どうぞお勝ち遊ばすように」
 深江が祈るように呟いた。
「大丈夫、きっと藤枝さまのお勝ですわ」
 妹が確心あり気に言ったので、深江は驚いて、
「本当にそう思えて?」
「あたくしが思うだけではありませんわ、たしかにそうなのですもの」
「あら、たしかだなんてどうしてなの?」
 問返されて、文江は自分のいいすぎに気づいたか、あわてて打消しながら答えた。
「いいえ、だって。そうよ、――だって今日の藤枝さまは見違えるようにお強いじゃありませんか」
「でも相手が高松さまでは……」言いかけた時、
「えイーッ」と藤枝清三郎の絶叫が起り、だっ! と床板が鳴って二人の姿が跳躍した。――そして勝負は実に瞬間に終った、清三郎の烈しい一撃が、弦次郎の面を襲った刹那、体をひらいた弦次郎は、どうしたことかそれを受損じて肩を一本取られ、
「参った!」と言いながら二三間退った。
「や、やった」「藤枝がやったぞ」わあっと道場も破れんばかりのどよめき、――秘かに見ていた深江も、思いがけぬ人の勝利に、妹のいることも忘れて、
「藤枝さま、お見事、お見事」と狂喜に身を揉んでいた。その喝采の中に唯一人、文江だけは眼に涙を湛えながら、今しも悄然と道場を退っていく弦次郎の方へ、何度も何度もやさしい頷きを送っていたのである。

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

 夏になっていた。――藤枝清三郎が約束どおり深江を娶り、一藩の羨望の的となってから既に百余日経っている。必ず勝つと思われた弦次郎が案外脆く負けたので、
「なんだ高松のやつは、まるで成っていないじゃないか」
「深江さまを賭けられたので気が昂ったのだろう」
「案外みかけ倒しだぞ、彼は」
 と評判はひどく悪かった。それに気づいたか、弦次郎はその後なんとなく元気がなく、人との付合もなるべく避ける風で、毎も家に引籠っていた。――この不評判の中に、一人だけ時折弦次郎を見舞う者がある。それは深江の妹の文江であった。この十八の娘は、姉ほど派手な美しさは持っていなかったが、思慮の深さをあらわす額と、温い愛情の溢れる眸子を持っていた。――今日も弦次郎を訪ねてきて、もう一刻あまりも対座していたが、午後四時の鐘を聞いて驚いたように、
「まあ、もう四時ですのね、ずいぶんお邪魔をしてしまいましたわ、もう帰らなくては」
「そうですね、余り遅くなっても」
 文江は引留めてもらいたそうであった。けれど弦次郎は気付かぬ風で、
「先生のお叱りを受けるといけません」
「父はこちらへ伺ったことを承知なのですわ」
「それにしても、もう遅過ぎます」
「では……」文江は淋しそうに立上った。弦次郎はそれを送っていきながら、
「お姉様はお仕合せですか」と訊いた。文江はちょっと立止まった、そしてしばらく躊躇《ためら》うようだったが、
「……仕合せだと思います」
「思う、とおっしゃると?」
「義兄《あに》は、また御酒に乱れ始めました」
 そういい捨てて文江は帰った。
 弦次郎にはその言葉は意外であった。総試合にも勝ち、かねて望みの深江を妻にした清三郎、今度とそ行状も改まり、立派な武士になるであろうと思っていたのに、――また酒に乱れ始めたとは、
「お気毒な深江どの」弦次郎は眉を顰めて呟いた。
 ところが、それから三日めの宵だった。弦次郎が夕食の後で書見をしていると、ふいに藤枝清三郎が訪ねてきた。――かつて一度も家へきた例などないことだし、顔色も蒼白め、挙動も落着かぬ様子なので、なにか重大な用事できたなということが察しられた。
「夜中に邪魔をしてすまぬ」
「いや構わぬ、――なにか用でもあるのか」
 清三郎は座につくと、蒼い顔をあげて、
「実は恥を忍んで頼みにきた」
「拙者にできることなら……」
「貴公でなければできぬことなのだ、打明けていうが、――今日、堀越市松が御前で無礼を働いたため、御意討を仰出されたのだ」
「なに、市松を御意討?」
「そして討手は拙者と決った」
 酒癖の悪い堀越市松、そのために貝塚道場も破門されたが、今度は藩侯にまで暴慢無礼をしてついに御意討ちを受けるに至ったのだ。――しかし彼は『魔剣の市松』といわれるほど、その剣は一種の魔力を持っていて、到底並の者では手に合わない、そとで今年の総試合に勝抜いた藤枝清三郎に討手の役が命ぜられたのである。
「それで、頼みというのは?」
「恥しい話だが、拙者にはとても市松を討つ自信がないのだ」
「――」
「どうか助太刀をしてくれ」
 弦次郎はさっと色を作《な》した。
 ――清三郎は早くも相手の怒を察して、
「こんなことを頼んで、実に恥入った話だ。本来なら返討になるまでもひとりで役目を果すべきなのだが、――拙者が死んだ場合、後に残る深江のことを思うと」
「…………」弦次郎の眉間に苦しそうな皺が現われた、――清三郎はそれと見て膝を乗り出し、
「どうか頼む、拙者のためとはいわぬ、拙者が死んだ場合、深江がどんなに悲しむか、――それを考えて助太刀をしてくれ、頼む、頼む!」
「討つのは何日だ?」
「明日の夜と定めてあるのだ」
 弦次郎は眼を閉じたまま、
「では助勢しよう」
「おお肯いてくれるか、有難い、これで拙者は」
「いやもうなにもいうな」弦次郎は相手の言葉を遮って、
「このことについてはもう何も聞きたくないし言いたくもない、ただ一言いっておくが――藤枝、これから深江どのの良人として恥しくない人物になると誓え、誓えるか※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

 清三郎は悄然とうなだれて答えた。
「誓う」
「この場限りの誓いではあるまいな」
「いや、今度こそ眼が覚めた、これからは本当に生れ変った気で武道を励む、そして立派な武士になる覚悟だ」
「よくいった、それでよい」弦次郎は静かに頷いて、「では今夜はこれで帰ってくれ、この事は決して他言しないから安心してよい」
「かたじけない、くれぐれも頼む」
 清三郎はそういって、逃げるように帰って行った。
 しかし、それから一刻(二時間)と経たぬうちに、事件は思いがけぬ方へ発展した。――清三郎が帰去《かえ》ったあと、明日の夜の助太刀に備えるため、伝来の名刀備前長光を取出して手入れをしていると、慌しく老家扶|源兵衛《げんべえ》がきて、貝塚様のお嬢さまがお見えでござります」
「なに、文江さまが?」弦次郎は驚いてすぐ客間へ出ていった。――文江は蒼白い顔をして、入ってくる弦次郎を見上げながら、
「大変な事ができました」
「どうなすったのです」
「義兄が、義兄が斬られたのです」
 弦次郎はぎょっとして思わず膝を立てた。
「えッ、藤枝が斬られた? そ、それはどこで、誰に?」
「義兄はこちらへお伺いいたしましたでしょう? その帰る途中、わたくしと道で会ったのです。わたくし大庭丹後《おおばたんご》さまのお邸に歌合せがありまして晩くなり、丹後さまの御家来に送って頂いて帰る途中でしたから、そこで御家来と別れ、義兄と二人で帰ってきたのです、――すると馬場先までまいりました時」
「馬場先へきた時……?」
「堀越市松さまが三人の御家来と一緒に現われて」
「や!」
「貴公は御意討の討手と聞く、待受けていたいざ勝負!」
 といいさま抜きつれ、あっという間もなく斬伏せられてしまいました」
「しまった、しまった!」弦次郎は呻いて起つ、「早くそこへ案内をしてください」
「おいでくださいますか」
「誰にも知られぬ内に処置しなければなりません、早く」備前長光の一刀を提げて外へ。
 馬場先へきて見ると、清三郎の死体があった。――肩から胸へ一刀、みごとに斬下げられている。しかも清三郎は刀の柄へ手をかけているばかり、一刀も合せていないのだ。
「なんという未熟者だ!」と呻くように言ったが、「文江どの」と振返り、「貴女はすぐにお家へ帰り、目附方へ今宵御意討を果すから御検死をお遣わしくださるようと届出てください」
「貴方は――?」
「拙者はこれから堀越へまいる、それからここで藤枝の討たれたことは、決して誰にもいわないでください」
「はい!」
「必ず他言無用ですぞ」固くいい含めて文江を立去らせると、弦次郎は何を思ったか、清三郎の死体を背負って歩きだした。――濃い夜霧の中を五六丁行く、やがて堀越市松の屋敷の前へくると、背中から死体を下ろし、手早く襷鉢巻をし袴の股立を取って、つかつかと門へ進寄った。
「御免、――御免」と叩いて叫ぶ、「堀越氏に至急申上げたいことがござる、急を要する儀ゆえすぐお取次願いたい」「は、何誰《どなた》でござるか」いいながら内から潜戸を明ける、待兼ねていた弦次郎、いきなり門内へ入ると、呆れている番士を、抜討ちに斬った。
「あ、むーッ」だあっと倒れるのを見向きもせず、大股に玄関へ走上って、
「堀越市松、出会え!」と大音に叫んだ。
 既に覚悟はしていたらしい、声に応じてばたばたと立現われた堀越市松、弟|孫六《まごろく》、同く甚七《じんしち》、それと三名の家来たち、いずれも身揃え充分に、大剣を抜きつれている。
「やあ、二番手は貴様か」市松はせせら笑って、「今年の総試合で清三郎ごとき奴に負けた貴様、この市松が討てると思うか」
「御意だ!」弦次郎は唯一言、叫ぶよと見るや、た! 右手へ廻った家来の一人を、水もたまらず斬っておとした。
「うぬ小癪なッ」
「それ※[#感嘆符二つ、1-8-75]」叫びと共に白刄が躍った。だだ[#「だだ」に傍点]、乱れる超音、がらがら、びしッと羽目の裂ける音、瞬時に家来三名が倒れ、孫六が倒れた、――残るところ市松と甚七の二人。
「堀越――」弦次郎はにっこと笑っていった。
「貴公の魔剣と手を合せるのも久方振りだが、その魔剣もどうやら今宵限りらしいぞ」
「く、くそっ!」
「急ぐな、胴が空いたぞッ」喚く、同時に左手から斬込んできた甚七の剣をひっ外して、だ! 市松の真向へ一刀、体を捻って市松が胴を狙う剣、
「や、えイーッ」かっ! 剣が鳴るよと見る、踏込んだ甚七を、殴りつけるように斬返してくる市松とのあいだで、光のように剣が走った。
「えいッ、とう※[#感嘆符二つ、1-8-75]」叫んで弦次郎が跳退く、――同時に相手二人は、首根と脇腹を斬放されて、血しぶきをあげながらどうと倒れた。正に、正に神技ともいうべきであろう。
「これで、――何もかもよい」弦次郎は淋しげに刀を押拭った。

[#8字下げ]五[#「五」は中見出し]

 半刻の後、文江の知らせで、検死役和田一郎兵衛《わだいちろうベえ》、米村正作《よねむらしょうさく》の二名、それに清三郎の身を気遣って貝塚次郎左衛門と、深江、文江の姉妹が駈けつけてきた。
 堀越家には人の気配がなかった。
「藤枝氏――藤枝氏」叫びながら踏込んだ検視役は、
「あっ、――」と驚きの声をあげた。
 明々と燈の光に照されて、堀越市松はじめ五人の者が、血溜りの中に死んでいる、そして少し離れたところに、藤枝清三郎が血刀を右手に絶命していた。
「おおやった、やった……」という声を聞いて、駈寄ってきた深江、――むざんな良人の死体を見ると、あっといってそこへ立竦んだ。次郎左衛門は叱るように、
「取乱すでないぞ深江、」といった、「見ろ、清三郎はみごとに役目を果したのだ、唯一人で魔剣といわれた市松兄弟、家来合せて五人を討取った……あっぱれな死ざまだぞ、褒めてやれ」
「はい、はい」深江は涙の溢れてくる眼を抑えながら、良人の死体に向って生ける人にいう如く、
「旦那さま、お見事でござりました、今日までは御酒に乱れ、世間からの悪様に噂された貴方さま、――これで立派に日頃の汚名が雪がれました、やはり貴方さまはお偉い方でございました」
「実に見上げた腕でござる」
 検視役の二人も側から感嘆の声をあげた。
「この見事な斬死を、申上げたらさぞお上にも御満足でござろう、さすがは貝塚先生の婿殿、ただ感服の外はござらぬ」
「あっぱれ、じつにあっぱれ……」人々は暗然と、しかし新しい感激の眼で、心から清三郎の死体に頭を下げるのであった。
 それから七日めの朝、泉林寺の裏の籔蔭を、弦次郎と文江の二人が歩いていた。――清三郎の初七日の墓参をした戻りである。
「高松さま」文江がふと足を停めていった。
「義兄は小田原藩随一の勇士として死にました。五人を斬って自分も斬死に――あっぱれの武士として唯一人疑う者もおりませぬ」
「そうです、それでよいのです」
「でも文江だけは知っております、誰が義兄さまを汚名から救ってくだすったか、わたくしだけ知っていますわ」
 弦次郎は強く遮った、
「いけません、どんなことがあろうと、それだけは決して口外しない約束です」
「ええ致しませんわ、決して他言は致しませんわ。――今だから申します、高松さまは総試合の時にも、わざとお負けになりましたのね、いいえお隠しなさいますな、あの時ここで……姉上が貴方にお願い申しているのを、文江はこの籔蔭から見ていたのです」
「え?……ここに貴女が※[#感嘆符疑問符、1-8-78]」
「貴方は負けてやることはできぬとおっしゃいました、そして姉は本当にそうなのだと思いました、――けれど蔭で見ていた文江には分っていました、貴方があの時から、姉上のためならどんなことでもなさろうという御決心を遊ばしたことを」
「文江どの」
「お偉い方、お偉い高松さま」文江は尊敬と愛情に輝く眼で、ひたと弦次郎を見上げながらいった。
「そしてそれを知っているのはわたくしだけ」
「貴女だけです、――文江どの」
 弦次郎が微笑しながらいった。
「けれど、その貴女さえ知らぬことがひとつある」
「なんでございましょう」
「言いましょうか」弦次郎はつと文江の手を取って、
「今日これから、先生のところへいってこういうつもりです、文江どのを高松弦次郎の妻に申受けとうござる――と」
「まあ、弦次郎さま」
 文江は耳根まで染めて、我知らず弦次郎の胸へ縋りついた。――藪の中で、若い二人を祝福するように老鶯が鳴いていた。



底本:「痛快小説集」実業之日本社
   1977(昭和52)年11月15日 初版発行
   1980(昭和55)年2月20日 五版発行
底本の親本:「譚海」
   1937(昭和12)年8月号
初出:「譚海」
   1937(昭和12)年8月号
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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