atwiki-logo
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このウィキの更新情報RSS
    • このウィキ新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡(不具合、障害など)
ページ検索 メニュー
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
  • ウィキ募集バナー
  • 目安箱バナー
  • 操作ガイド
  • 新規作成
  • 編集する
  • 全ページ一覧
  • 登録/ログイン
ページ一覧
harukaze_lab @ ウィキ
ページ検索 メニュー
  • 新規作成
  • 編集する
  • 登録/ログイン
  • 管理メニュー
管理メニュー
  • 新規作成
    • 新規ページ作成
    • 新規ページ作成(その他)
      • このページをコピーして新規ページ作成
      • このウィキ内の別ページをコピーして新規ページ作成
      • このページの子ページを作成
    • 新規ウィキ作成
  • 編集
    • ページ編集
    • ページ編集(簡易版)
    • ページ名変更
    • メニュー非表示でページ編集
    • ページの閲覧/編集権限変更
    • ページの編集モード変更
    • このページにファイルをアップロード
    • メニューを編集
    • 右メニューを編集
  • バージョン管理
    • 最新版変更点(差分)
    • 編集履歴(バックアップ)
    • アップロードファイル履歴
    • ページ操作履歴
  • ページ一覧
    • このウィキの全ページ一覧
    • このウィキのタグ一覧
    • このウィキのタグ一覧(更新順)
    • このページの全コメント一覧
    • このウィキの全コメント一覧
    • おまかせページ移動
  • RSS
    • このwikiの更新情報RSS
    • このwikiの新着ページRSS
  • ヘルプ
    • ご利用ガイド
    • Wiki初心者向けガイド(基本操作)
    • このウィキの管理者に連絡
    • 運営会社に連絡する(不具合、障害など)
  • atwiki
  • harukaze_lab @ ウィキ
  • 失恋第五番

harukaze_lab @ ウィキ

失恋第五番

最終更新:2019年11月01日 06:14

harukaze_lab

- view
管理者のみ編集可
失恋第五番
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)儲《もう》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)骨|逞《たくま》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#6字下げ]
-------------------------------------------------------

[#6字下げ]一[#「一」は中見出し]

 千田二郎は東邦合成樹脂株式会社の連絡課長である。名目は課長であるが秘書の宮田俊子がいないとなんにも出来ない、いっそはっきり言ってしまえば、事務のすべては宮田秘書が処理をし、千田課長はなんにもしないのである。――会社は新興産業界に隠れもない儲《もう》けがしらで、市場における株価は常に高値のトップを占めている。川崎にある大工場の他にいま月島へ研究所を備えた三つの工場と、五階建ての本社を建築している状態だから、社内の活気だっていることは勿論《もちろん》、実際どの部も眼の廻るように忙しい。丸ビル三階で七室占めている事務所は、絶え間のない訪問客やとびまわる社員や給仕の出入りで、どの扉も殆んど閉っていた例《ためし》がないし、室内はいつも電話や卓上ベルや人を呼ぶ声や書類を繰る音などの反響で、締切りどきの新聞社のように騒然としている。それはどんなに要慎深い投資家も財布の紐《ひも》を解かずにはいられない景況である。
 壁でさえ黙って見ているのが辛そうなこの忙しさの中で、連絡課長ひとりは泰然と時間をもて余していた。と云っても決して事務が閑散なのではない、伝声管《ボイス・パイプ》のブザーは鳴るし電話は掛って来るし、給仕や社員もひっきりなしに伝票や書類を持って来たり受取っていったりする。が、それらは宮田秘書がひとりで手際よく片付けて呉《く》れるので、彼は椅子に掛けて眺めていればいい。もし宮田嬢が手の放せないことをしている時、電話が掛るとか伝声管《ボイス・パイプ》のブザーが鳴るかすれば、彼はやむなく受話器を取ってこう答える。「ああ連絡課です、課長はいま手が放せないから、急ぐならこのままちょっと待っていて下さい」そして宮田嬢にひきつぐのである。午前十時から午後四時半まで、革張りの椅子に掛けて煙草をふかしたり、仮睡《まどろ》んだり、鉄亜鈴を持って屋上へ、躰操をしにいったり、喫茶にでかけたりする以外、彼でなくてはならないという用事は(少なくとも今のところ)一つもない。退社時間は四時で、社員がすっかり退けたあと書類金庫に鍵《かぎ》を掛け、課室《ブース》の扉をロックして帰るのが課長の役であるが、これも宮田嬢がすっかりやって呉れるし、おまけに曲っているネクタイを直し、外套《がいとう》を着せ帽子を冠らせ、靴《かばん》を持たせて「さあ宜しゅうございます」と、扉口まで送り出して呉れる。――ばかばかしい、「それならなんのための課長なんだ、そんな人間がどうして馘《くび》にならずにいるんだ。こう不審をうたれる人があるかも知れない、そこで申上げるが彼は社長の一人息子なのである。
 ――ははあ、それでわかった、そんなのがよくいるよ、恐らく彼も低能なばか息子のひとりなんだろう。
 そうかも知れない。彼は千田仁一郎社長の一粒だね[#「だね」に傍点]で、東大の英法科を良い成績で出ている。在学中はラグビイの選手だった。柔道もやるし水泳もやる、殊に水泳は「飯より好きだ」と云うくらいで、いちど泳ぎだすと二三時間はあがって来ないのが普通だ。いちど沖へ出たっきり小半日も帰って来ないので溺《おぼ》れたに違いないと大騒ぎになったととがある。人を集め舟を出して捜しまわったところ、四浬も沖で海豚《いるか》のように遊んでいるのを発見された。碧色の水の上で仰向きに浮いたり、くるりとでんぐり返しを打ったり、潜ったり跳ねたり、まったく海豚のように喜々として遊んでいたそうである。――戦争ちゅうは海軍にいて、終戦のときは中尉だった。南方にいたので復員が後れ、帰還したのは二十二年の二月で、すぐに父から合成樹脂の連絡課長の席を与えられた訳だ。こういう経歴に加えて二十九歳という年齢《とし》と、五尺八寸五分の筋骨|逞《たくま》しい堂々たる躰躯《たいく》と、ちょっと眼尻は下っているが線のはっきりした愛嬌《あいきょう》のある顔つきを想像すれば、どんなに安く踏んでも相当に精力的な青年実業家といえるだろう。にも拘《かかわ》らず事実はまえに紹介したとおりだ、課長とは名ばかりでなんにもしない(或いは出来ない)のである。なにしろ躯《からだ》が躯だから無為でいることも楽ではないとみえ、会社には十ポンドの鉄亜鈴が置いてあって、日に何回も屋上へいっては、躰操をし、家にいると四貫目ある青銅の火鉢を、座ったまま直腕で二三十回も上げ下ろしする。それでも骨や筋肉がむずむずしてやりきれないと云う、そしてそれが彼唯一の不平のようだった。
 低能なばか息子のひとりだろう、こういう推定に対して、作者がいちおう「そうかも知れない」と応じた理由はもう一つある。それは彼のずぬけて惚《ほ》れっぽい性分だ、実によく惚れる。それも決して知己親類や身のまわりには眼を呉れないで、通りすがりの娘とか、商店の売子とか、どこかのタイピストなどという類に定《きま》っていた。詰りまったく未知の女性でないと興味がないらしい。戦争の前にはそんなことはなかったそうだが、此《こ》の頃では自分でも欠点だと認めるほど顕著な性格になった。
「おれあよっぽどおんな好きなんだな」彼は時どきこう呟《つぶや》く、「それもどうやら普通のおんな好きじゃあねえらしい――」
 帰還してから四人の見知らぬ女性に恋し、四たびとも失恋している。会社にいる女事務員たちの中には、ずいぶん積極的に好意を示す娘たちが少なくない。然し彼はそういう娘たちには無関心で、専《もっぱ》ら未知の女性に惚れては失恋を繰り返して来た。そしていま五人めの恋に熱中しているところである。だがどうしてそうそう失恋ばかりするのだろうか、宜しい――五人めの恋人を彼がどう扱うか拝見することにしよう。

[#6字下げ]二[#「二」は中見出し]

「銀座の資生堂まで三十分でゆけるかね」
「いい趣味ではございませんわ、このネクタイ」
「タクシイが有るだろうか」
「赤すぎますわ、どうしても少し赤すぎますわ」
「時間だけは守るという約束なんでね」
「お服もグレイのになさればよかったんですのに、これではまるで調和がとれませんわ」
「花がいいかね、チョコレートかね」
 このちぐはぐな会話の一人は千田二郎であり、相手は宮田俊子である。場所は連絡課のブースの中、時計は四時二十分過ぎだ。社員はあらかた帰ったあとで、いま宮田秘書が千田課長のネクタイを結び直してやっているところである。――俊子は二十五歳だが老けてみえる。少しそばかす[#「そばかす」に傍点]があるけれどもなかなかの縹緻《きりょう》で、肉付きの緊った敏捷《びんしょう》そうな躯つきだ、特に細くすんなりと伸びた脚と、利巧そうなよく動く眼とがひとめを惹《ひ》く。彼女はネクタイが済むと自分の水油と櫛《くし》を出して、乱れている彼の髪を撫《な》でにかかる。
「いつ頃からお知り合におなりですの」
「二週間ばかりになるかな」二郎は膝《ひざ》を跼《かが》めて彼女が楽に頭をいじれるように上躰を低くする、「……名前は灰山スミ子っていうんだ、嘘じゃないぜ、火鉢の中みたいな名だけど本当なんだ」
「どこに勤めていらっしゃいますの、ちょっと横をお向きになって」
「商工ビルのなんとかいう事務所だってさ」彼は跼んだまま頭だけ横へ向ける、「……駅でよく会うんだ、頬ぺたに黒子《ほくろ》があってね、降車口の階段の下で待っているんだよ、ちょっと気は強そうだが悪くはない、ウインクというやつを食ったには負けたけれどね、なにしろかなり可愛い娘だよ」
「はい宜うございます」宮田嬢は櫛を置いて彼を立たせ、後ろから外套を着せかける、「……資生堂までなら三十分あればたっぷりですわ、贈り物はマクスエルの詰合せチョコレートになさいまし、もしお食事にお誘いでしたら倶楽部《クラブ》へ電話して置きますわ」
「飯は家のがいちばん美味《うま》いよ」
「二郎さまはそうでもお伴《つ》れさまをお誘いなさらないんですの」
「お伴れさま」彼は驚いたように秘書の顔を眺める、「……あのひと飯を食うかね」
 宮田嬢は帽子を冠らせ、さあいらっしゃいませいらっしゃいませと彼を扉口へ押しやる。そして廊下へ出てゆく後ろから「お鼻を捻《ひね》る癖はいけませんですよ」と注意を与える。そして向うへ曲ってしまうまで見送ると部屋へ戻って椅子に掛け、がっかりしたように肩を落して溜息《ためいき》をつく。明らかに悩みを持つひとの溜息だ。眼がうるみ唇が微《かす》かに顫《ふる》えだす。いけない、どうやら彼女は泣きだすようにみえる、失礼して千田二郎の後を追いかけるとしよう。
「鼻を捻るべからず」彼は大股《おおまた》に数寄屋橋を渡りながらこう呟く。コンパスが長いから恐ろしく早い。往来は黄昏《たそがれ》の混雑どきで織るような人出だが、彼はその早足ですばらしく巧みに追いぬき身を躱《かわ》しすりぬけてゆく。「……鼻を捻る癖はいけない、マクスエルで詰合せチョコレートを買う、晩飯は家で喰《た》べると」そして彼は右手でその隆《たか》い鼻を摘んでぐいと捻った。――西五丁目の裏に「マクスエル」という西洋菓子店がある。千田二郎はその店へはいった。
「いらっしゃいませ、お珍しゅうございますわね」カウンターにいた綺麗《きれい》な娘がにこやかに笑いながら挨拶した、「……どちらかへ旅行でもなすっていらしったんですの」
「旅行じゃあないチョコレートを貰いたいんだ、詰合せのやつをね」彼はにこりともしないで脇のケースを覗《のぞ》く、「……そのまん中にあるのがいい、五時までだから、リボンを掛けて呉れないか」
 ちょうど支払いをしに来た客があるにも拘らず、娘は、「はい」と答えてたいそう熱心にケースの戸を明ける。郎は壁の時計を見る。五時十分前と慥《たし》かめながら鼻を捻る、そのとたんに後ろから肩を叩かれた。
「おい千田じゃないか」
 振向くと二人の青年紳士が立っていた。
「よう――」二郎の眼尻が下り、明けっぴろげな笑いで顔の造作が崩れた、「……森口に沼井か、どうした」
「どうするもんか貴様をみつけただけさ、が、まあとにかくどっかで腰掛けよう」
「いやそいつはC・C(元海軍士官一部のスラングで「困る困る」の略)だ」彼は包んでくれたチョコレートを受取り、金を払いながら残念そうに首を振った、「……今日は五時に人と会う約束がしてあるんでね、これからすぐ」
「電話を掛ければいいさ」こう云って一人がカウンターにある電話器を寄せた、「……今日は戦友に会ったからゆけないってさ、生死を誓った戦友にさ、おれが掛けてやろうか」
「いや自分で掛けるよ」彼は不承不承に受話器を取りダイアルを廻した、「……しようがねえなあ、然し三十分だぜ、「今日は三十分で勘弁して貰うぜ、なにしろ相手は、ああもしもし、そちらは――」

[#6字下げ]三[#「三」は中見出し]

 二十分の後かれらは「麭包《パン》亭」という地下室の酒場で、ウイスキイ・ハイボールを飲みながら景気よく笑ったり話したりしていた。森口乙彦は太くて濃い眉毛をはじめ、鼻も口も眼も耳も並外れて大きいから印象がはっきりする。ちょっと珍しい相貌で、海軍にいた頃は「羅漢さん」という綽名《あだな》があった。これは適評であるし自分でも認めているとみえ、おれの面は坊主にでもなるより他に通用しねえと諦めていた、だが生家は某財閥の一族でも有名な資産家で知られている。――沼井裕作はちょっと紹介しにくい、顔だちも躯つきもごく有触れた、諸君の周囲に幾らでも発見できる人柄だ、昂奮《こうふん》すると頬が赧《あか》くなり、少し吃《ども》るのが特徴といえば特徴であろう、無口だし、話すときも低い声でたいそうもの静かである。名古屋の大きい建築家の四男坊で、千田二郎と同じ大学の独文科を出ていた。
「これで失敬するぜ、あと十分きりなくなった」
「なに大丈夫だ三分でゆけるよ」森口が肩を押えつける、「……それより千田、あの梶原を覚えているか、あのいじらしい勘忍袋をさ」
「いじらしい勘忍袋か」二郎はふっと煙ったいような眼つきになる、「……ああ覚えてる、覚えてるよ、梶原宗助……洒落《しゃれ》のうまい奴だった」
 そして話が続く。が、間もなく彼は吃驚《びっくり》して椅子を起つ。
「いけねえ、こんどこそ帰る、もう五分前だ」
「そう慌てるな、駆けてゆけば一分三十秒だ」こんどもまた森口が彼を椅子へひき戻す、「……これから肝心な話があるんだ、君は巻野を忘れちゃあいないだろうな、機関兵曹の巻野八郎をさ」
 そこで巻野八郎のために思わず時間が空費され、気がついたときは五時四十分になっていた、電話で懇願のうえ延ばした時間から十分過ぎた訳だ。二郎は電話へとびついた、森口は沼井を肱《ひじ》で小突く、そして大きな眼を細くしてにやりと笑う。二郎はやがて落胆と失望のあまり片手をやけに振りながら戻って来た。
「冗談じゃあねえ帰っちゃったぜ」
「皇室の物は皇室へ返すさ、無理をするな」森口はこう嘯《うそぶ》いてマダムを呼んだ、「……先方が帰ったらこっちも河岸を変えよう、これから梶原に会わせてやる」
「梶原に会わせる、――梶原宗助にか」
「八巻にも橋本にも草野にもさ」森口はこう言いながら勘定をすると、千田二郎の手からチョコレートの箱をひったくってマダムに渡した、「……お千代が来たらお土産だって遣って呉れたまえ、さあ出よう」
 彼等は地下室から出た。まだそれほどの時刻ではないが、飾り窓や街燈が明るく輝きだしたので、表通りはもうすっかり宵の気分だった。
「ついそこにおれたちの倶楽部があるんだ」電車道を三十間堀のほうへ横切りながら、森口はこう言って千田と腕を組んだ、「……酒神《バッカス》倶楽部といってな、時どきみんな集まって気楽に呑むんだ、唯ちょっとした条件があるんだが、君にもぜひはいって貰いたいと思ってね」
「いいとも、だが条件ってなんだい」
「なにたいした事じゃない、ほんのちょいとした試験さ、詰り君にその資格があるかないかというね、――こっちへ曲るよ」
 橋を渡って右へ折れると左側、木挽町六丁目の一角に五階建ての「樹緑ビル」というさして大きくはないががっちりした建物がある。何々商事、某々事務所といった看板の四つ五つ並んだ表の扉を入り、暗くて狭い階段を足さぐりに三階へ登った、「恐ろしく暗いなあ」二郎は階段に蹴躓《けつまず》きながら不平を言った、「これあ倶楽部というより悪漢仲間の巣窟という感じだぜ」「文句を云うな、ことだ」三階の廊下を曲ると窓の明るい部屋がある、沼井がそこの扉を叩《ノック》したが、その叩き方には符号があるらしかった、返辞が聞えて、扉は中から開かれた。
「いい鴨《かも》を拾って来たぞ」森口がいきなりそう云って千田を前へ押しやった、「……そら、どうだ」
 扉を明けた青年は、「やあ」と言った。これは美男子である、蒼白《あおじろ》い面長《おもなが》な顔に口髭《くちひげ》を立て、憂鬱な眼と、もの哀《がな》しげな唇《くち》つき(それは毎《いつ》も少し片方へ歪《ゆが》んでいる)とが、そのきれいに手入れをした口髭と共に、一種の犬儒派的な感じを与える、けれどもかなり貴族的な美男子といっても間違いはないだろう。旧大名華族の中でも富裕の評判の高い、梶原宗近氏の二男で宗助、これがさっき「麭包亭」で噂《うわさ》の出たいじらしい[#「いじらしい」に傍点]勘忍袋その人なのである。
「千田君だね」梶原は鼻にかかった声で、こう云いながら手を差出した、「……しばらく、御機嫌よう」
「いまチョコレートをね、いや」二郎は手を握りながら片方の手を振った、「……いや資生堂で会う約束があってね、十分おくれちゃったもんだから、君がいるというんでね、髭を生やしちゃったのかい」
「相変らず千田の話は白文だね、返り点がないと他人にあ訳がわからねえ」森口はこう云ってひょいと梶原にめくばせをした、「……どうだ、先に試しちまおうか」

[#6字下げ]四[#「四」は中見出し]

「そうだね、念のためにひとつ」梶原は端麗な顔に微笑をうかべた、「……そのあいだに祝杯の支度をして置こう」
「じゃあちょっと、千田こっちへ来て呉れ」
 森口乙彦は外套を脱いで沼井に渡すと、すぐ右手にある扉を明けて千田を招いた。――そこは四坪ばかりのがらんとした室で、閉めてある窓際に長椅子が一つ、まん中に接客用の卓子と粗末な椅子が四脚あるだけ、他には家具らしい物のない、湿っぽい陰気な部屋だった。「外套を脱いだらどうだ」後からはいって来る千田に、森口がこう云った。千田は裸電球の光りに曝《さら》されたこの殺風景な室内を眺め、冠った帽子も取らずに肩を竦《すく》めた。
「寒いよ、これは、脱げやしない」
「へえ――脱げないかね」
 森口はこう云って眼を細くしながら千田を見た。そして突然、右手を大きく振ったと思うと、力いっぱい千田の横っ面を殴った。すばらしくいい音がして二郎の頭がぐらつき、帽子がはね飛んだ。あっけにとられて、寧《むし》ろなにをされたのかすぐには理解のできない態で、二郎は漠然と棒立ちになっている。森口はその大きな眼で鋭く睨《にら》みつけながら、
「まだ脱げないかね、これでも」
 右手の甲がこんどは二郎の左の頬を痛烈に打った。そして「これでも」と追っかけ右頬へ平手打ちである。二郎の顔がぱっと輝いた。彼は外套の釦《ボタン》へ手を掛け、「おれを知らねえぞ」と妙な念を押した。
「いいか森口、おれのせえじゃあねえぞ」
 彼が外套をぬぎ終るとたんに、森口はすばやく上衣をぬぎ捨てて猛然と突っ掛って来た。遠慮も加減もない猛烈な躰当りである、二郎の躯は斜になってすっ飛ばされ、背中で壁へぶつかって横倒しになった。そのときまだ片手に外套を持っていたのが、倒れるはずみに頭から冠さったのは奇観である。二郎は外套の中でほう[#「ほう」に傍点]という声をあげた、そして悠《ゆっ》くり立上ったのだが、それから後はちょっと書きようがない、なぜなら森口の殴りかかる拳《こぶし》を二郎が左の肱《ひじ》で受け、豹《ひょう》のように身を翻すまではみえたが、あとは暴《あら》あらしい呼吸と、肉躰の相撃つ壮快な響きが聞え、室内を転々縦横する二人の影が見えるだけで、どれが森口かどっちが千田かの区別さえつかなかったから、――尤《もっと》もそれは十五秒から、精々二十秒の間のことだった。椅子が砕け、卓子が倒れ、その倒れた卓子の上へ二人の躯が組んだまま転倒し、更に二つめの椅子をめりめりと押潰《おしつぶ》したとき、千田二郎が森口を捻《ね》じ伏せ、馬乗りになった左手で喉元《のどもと》を押えつけながら、右手の拳で上から三つ四つ、ピストンのように的確で激しい打撃を呉れた。
「おいもう止せ」森口は下で呻《うめ》いた、「……わかったよ、もう試験は済んだ」
 森口の呻きと同時に扉が明いて、とびこんで来た梶原と沼井が、後ろから二郎を抱止めた。「訳があるんだ千田、もう止せ」こう云われても暫《しばら》く二郎は動かなかった。そしてとくとく流れだす鼻血を拳で押し拭いながら、馬乗りになったままさもけげんそうに森口の顔を眺めていた。
 十分の後かれらは低いがっちりした卓子を囲み、ウイスキイ・ソオダの祝杯を挙げていた。その室は十坪ほどの広さで、橙色《だいだいいろ》の壁紙を張った壁面に、猪熊弦一郎と岡田謙三の画が一点ずつ、他にゾオンの海景裸婦のエチングが一点掲けてある。すばらしく贅沢《ぜいたく》な大きい酒|戸納《とだな》、電気蓄音器、探偵小説や画集や天文、地理や文学書などという無系統な雑書の詰っている本棚、そして若い杉を植えたのや椰子《やし》竹や高野|槇《まき》やパパイヤなどの鉢を置いた間に、いずれも低い卓子や椅子がゆったり据えられてある。ぜんたいが温かくて明るく、いかにもおちついた気分に満ちていた。――祝杯を挙げながら四人は幾たびも笑いこけた。千田二郎の鼻血は水に浸した手帛《ハンカチ》ですぐ止ったが、森口はまったく面相が変ってしまったからである。裂けた上唇はまくれあがり、左の眼は周囲が紫色に腫《は》れて殆んど糸のようだ、額には大きな瘤《こぶ》が出来、顔ぜんたいが歪んでいる。「これを見ろ」と鏡を渡されて覗《のぞ》いたとき、自分でも可笑《おか》しかったのだろう、ぷっと失笑《ふきだ》したとたんに、「あっ痛った」と椅子から跳上った。
「千田は学校時代に、ラグビイの試合でなんど相手チイムの者を気絶させたかわからない」沼井が低い声でそう云った、「……しまいには彼にタックルされそうになると、球《ボール》を抛《ほう》りだす選手もあったくらいだ」
「横鎮時代に江田島チームとやった時も凄《すご》かったね、覚えてるよ」梶原がにっと笑いながら頷《うなず》いた、「……然し今でもそのまんまだとは思えなかったからね」
「親父の会社の課長なんかにおさまって、社員たちに甘やかされて、相当なま[#「なま」に傍点]になってると思ったんだ」森口の話しぶりは捲《まく》れ上った唇のようにどこか調子が歪んでいた、「……それで試す次手《ついで》にちょいと焼きを入れてやろうと思ったんだが、ひでえめにあわしゃあがった」
「こんど会ったら詫《わ》びを云うさ、ねえ千田君」梶原が二郎を見た、「……せんだ[#「せんだ」に傍点]っては失敬って」

[#6字下げ]五[#「五」は中見出し]

「どうしてこんな乱暴なことをしたか、その理由を話すんだが」梶原が改まった口調でこう言いだした、「……我われは南方のあの基地で敗戦の詔勅を聞いたね、あの前後のことをちょっと思いだして貰いたいんだ」
 二郎は梶原の顔を見た。室内の空気がとつぜん結晶してしまったような、澄み徹った沈黙が起こり、電気ヒーターの鈍い唸《うな》りがはっきりと聞えた。梶原宗助はごく普通な淡々とした口ぶりで続ける。
「詔勅を聞いたあとで、海へ突込んでいった仲間があったね、庄野も、川部も、佐藤も、堀田も内山も、――それぞれ愛機に乗って海の向うへ消えていった、僕たちのガンルウムで残った仲間は七人、ここにいる四人と八巻正一、草野勇雄、橋本五郎、これだけだった、然しこの七人も、うっちゃっといたらみんな突込んでゆく仲間の筈だった」
「まったく、気持としては生きちゃあ帰れなかったよ」千田二郎があっさり頷いた、「……我われの手許《てもと》からあれだけ特攻隊に死んで貰ったんだからな、正直のところこっちもあっさりいきたかったよ」
「それを突込まずに生きて還ったのはなぜだったろう」梶原はゆったり腕組みをした、「……草野がいきりたって、真赤な顔に涙をながして、靴で床板を踏み鳴らしながら呶号《どごう》したね、ここで死ぬのは卑劣だ、二重の罪悪だ、おれたちの責任はいま死ぬことで果されやしない」
「若い幾百千の特攻隊は、軍閥、官僚の繁栄を祈って死んだのではない、みんなも承知のとおり、彼等の多くは戦争がすでに絶望だということを知っていた」沼井裕作が低い静かな声で、暗誦《あんしょう》するように梶原のあとへつけてこう云った、「……死んでゆく彼等の頭にあったのはもう勝敗じゃあない、祖国がどうなるか、同胞がどうなるかという事だけだった、我われが本当に多くの特攻隊員を殺したことに責任を感ずるなら、死ぬ瞬間まで彼等の心を占めていたこの一点に応えるべきだ」
「祖国は再建されなくちゃあならない」と、こんどは森口が不自由な口で続けた、「……日本は生れ変るんだ、どういうかたちで再建されるかはわからないが、非常な困苦|艱難《かんなん》と想像以上の年月を要するだろう、軍閥官僚に代る悪徳、無秩序、混乱、いや暴動流血の悲惨も予期しなければならない、我われはそのとき平和の特攻隊になろうじゃあないか、いま死ぬ命をそのときまで延ばそうじゃないか、これが絶望の戦いに死んでいった彼等に対する唯一つの贖罪《しょくざい》だ」
 森口の言葉が切れて、再び室内は沈黙に占められた。千田は漠然たる眼つきで天床を眺めていた、椅子の腕木に両肱を掛け、指を組んだままさっきから身動きもしない、――が、彼の頭には心痛む一つのイメージがはっきりと思いうかべられていた、敵機の絶えざる爆撃で、修理する暇もなく破壊された滑走路の脇、すっかり裸にされたり根から倒れたりしている椰子林の中だ、まだ二十になった許《ばか》りの神経質な眼をした隊員が、掌《てのひら》へ載せた蜥蜴《とかげ》の頭を撫《な》でながらこっちを見ている、「敗戦したら崩壊ですね」彼はべそ[#「べそ」に傍点]をかくようにこう云っている、「日本は日本人に依って亡びますよ、僕たちは内地にいるときそう言い合ってました、敵は英国でも米国でもない国内にあるんだって、――現にこれだけの戦争をしながら、本当に闘っている人間はごく少数なんですからね、これでもし敗戦にでもなったら、――ああ、僕には見えるようです、そして、それだけが心残りです」青年の手の上で、蜥蜴がききききと鳴いていた。
「だいたい試験された意味がわかったよ」千田二郎はやがて暢びりとこう云った、「……然しいったいどういうことをするんだ」
「そのまえに草野に会わせよう」梶原はそう云いながら立って、書棚の中から大きなアルバムを出して来た、革張りで縦二尺横一尺五寸ほどある大きいものだった、「……見たまえ」
 梶原が開いて差出したアルバムを、千田は椅子から立って覗いた。草野勇雄の逞しく笑っている半身像が貼《は》ってあった。千田は思わず微笑し、右手の二本指で挙手敬礼のまねをした、然しその写真の下に書いてあった左のような文字を読んだとき、彼の愛嬌のある顔から忽《たちま》ち微笑がかき消された。
[#ここから2字下げ]
昭和二十二年九月十八日。栃木県桐生市外大里村に於《おい》て、鈴木秀雄ら一味十三名の強盗団を襲える際。拳銃にて頭部負傷。同市立病院に入院。同日死す。二十九歳。彼はその責任を果したり。
[#ここで字下げ終わり]
「その次を見たまえ」梶原がごくあたりまえの声で云った、「……八巻に会えるよ」
 二郎はアルバムをめくった。八巻正一の気弱そうな、眉を顰《しか》めた顔が現われた、素人写真の引伸しだろう、粒子が荒れているし線もはっきりしない、だが二郎はその顔より先に下に書いてある字を読んだ。
[#ここから2字下げ]
昭和二十二年十一月二十二日。東京中央区月島三号地海岸に於て。集団強盗をその本拠に急襲せる際。警官隊に先行して腹部に重傷。伊豆山にて療養中。
[#ここで字下げ終わり]
 千田はアルバムから離れ、卓子の上にある自分のタムブラーを取ってひと口ぐっと呷《あお》った。そして漫然と片手で卓子の端を撫で、その問いたげに三人の顔を眺めた。
「そうだよ」梶原がその眼に応えて静かに頷いた、「……そうだよ千田君、草野の云った我われの時期[#「時期」に傍点]が来たんだよ」

[#6字下げ]六[#「六」は中見出し]

「祖国再建を阻んでいる悪条件は少なくない、その中で我われに最も身近な、そして我われの責任に繋《つな》がっている問題がある、千田君も聞いているだろう、『特攻くずれ[#「くずれ」に傍点]』という言葉だ、犯罪者と特攻くずれ[#「くずれ」に傍点]とがシノニムのように考えられていることだ、事実は特攻隊員でもなんでもなかった者までが、犯罪を行うばあい一種の兇器のようにこれを誇称する、こういう犯罪者の心理に対して、曽《かつ》て特攻隊員を育て、その多くの者を絶望的な死へ送り出した我われは、誰よりも直に責任を感じなければならない、そう思わないか千田君」梶原は口髭を撫で、言葉に似合わない静かな眼で二郎を見た、「……近頃めだって来たのは犯罪が兇暴で惨忍になったことだ、時を選ばず戸障子を打毀《うちこわ》して侵入し、なんの防禦も抵抗もしない者を、いきなり拳銃で射殺し斬り殺し撲殺する、人間の生命を虫けらほどにも思わず、犯罪を英雄的行為のようにすら考えている、これらの兇悪無残な犯罪者が、然も――段だん集団化されつつあるという、街路で人を襲うにも家宅へ侵入するにも、五人十人と組んでいる、隊をなし、数台のトラックで倉庫へ乗り着け、番人や看守を殺傷し、資材を山と強奪して堂々と引揚げる、そしてこれらの背後には更に組織立った犯罪機構が生れつつあるんだ」
 二郎はまだ立ったままで、ウイスキイ・ソオダの少し残っているタムブラーを片手に、じっと卓子の面を眺めていた。
「これはもう、政治の無能とか道義の頽廃《たいはい》とか、生活苦などという定価票を貼って済まして置ける問題じゃない、アメリカであれほど猖獗《しょうけつ》を極めたギャングが掃蕩《そうとう》されたのは、民衆の正義的奮起とGメンの決死的攻勢に依るものだという、――正義に依って団結した民衆の奮起、これは日本じゃあまだ望めない、然しGメン的役割を果す者ならある、わかるね千田君」
「……で、――」と、二郎は眼を天床へやりながら、暢《のん》びりした口調で訊き返した、「……酒神《バッカス》倶楽部が出来たんだね」
「森口と草野が主唱者で、去年の八月この部屋で結成の杯を挙げた、それからひと月、草野が……まず、責任を果した、続いて八巻が倒れた、然しこのあいだに某有力筋の息のかかっていた隠匿物資の摘発が二件、集団強盗が三件、兇悪な三人組の殺人強盗の検挙が一件かたづいている、そしてその成績が認められて、我われに一つの特権章が与えられたんだ、――沼井君」
 梶原がこう言って振返ると、沼井は立って隅にある書き物卓子へゆき、その中から小さな桐の箱を出して来た。梶原はそれを受取って蓋を明け、見たまえと云いながら千田のほうへ差出した。それは直径一寸ばかりの緋色《ひいろ》のバッジで、真中に「国務省特命公安員」と小さい字で浮彫りになっているのが読めた。
「交通機関、通信機関、警察、その他の公共的機構は、このバッジ一つで必要な便宜を与えて呉れる、――千田君、僕たちは君がこれを胸に付けて呉れると信じたいんだが、どうだろう」
 二郎は黙ってバッジを取り、上衣の左の前裏に付けて、いちど前を合わせてから、ひょい[#「ひょい」に傍点]と捲《まく》って付き具合を眺めた。なかなか伊達《だて》なもんである、彼はもういちど効果を試してにこりと微笑した。
「このまま付けていていいのかい」
「明日の午後五時に横浜へいって貰いたいんだよ」梶原がウイスキイの壜《びん》を取った、「……沼井君が事情の説明と案内をする」
「フェデラル・エイジェントが、……僕が必要だったんだね」
「どうしても必要だったのさ、一週間まえから君の現在の状態を調べ、明日は社へ訪ねてゆく積りだった、君は一人息子だから、できるなら仲間へ入れたくはなかったんだがね」
「親父はおれの戦死公報を貰ったことがある、敗戦の年の十月にね」二郎は残りのウイスキイを乾した、「……そのとき親父はこう言ったそうだ、あいつまだ生きていたのかってさ」
「なんの意味だいそれあ、だって戦死の公報なんだろう」
「だからさ、彼としてはだね、戦死の公報を出されるまではおれが生きていたんだってことにびっくりした訳なんだ」
「聞いてるほうが吃驚《びっくり》すらあ、千田のところじゃあ親父まで白文なんだな」
 そして和やかな笑い声が室いっぱいに反響した。――梶原が改めてウイスキイ・ソオダを作り、四人は卓を囲んで立った。二郎は片手でアルバムを開き、草野勇雄の写真をじっと見下ろした、ほんの一瞬かれの眼は燃えるような光りを放った、ほんの一瞬のことである、そして静かにその写真に向ってタムブラーを挙げた。
 梶原も沼井も森口も黙ってそれに倣《なら》った。
 酒神《バッカス》倶楽部に於ける千田二郎の加盟式は以上で終った。右に紹介したこと以上にはなにもなかった。彼等は「平和の特攻隊」だという、七人のメムバーから既に死者と重傷者を一人ずつ出している、それにも拘らず彼らがこのように淡々と笑い、むぞうさに振舞っていることを、不自然だとか気障とか思う読者があるかも知れない、だが作者は弁解も説明もせずに置く、かれら自身がその為すことで事実を説明して呉れると思うから、――家へ帰った二郎はその夜一時過ぎまで、父親と楽しそうに将棋を指していた。

[#6字下げ]七[#「七」は中見出し]

 明くる日の午後四時十五分前、東邦合成樹脂の事務室で、千田課長は外套の片方の袖に手を通したまま電話にかかっていた。それはもう十分間も続いていて、然も永久に終りそうのない電話だった。宮田秘書は横から課長の鼻を眺めていた、彼の鼻は二段になって脹《は》れ、尖端《せんたん》が巴旦杏《はたんきょう》めいた色に光っている、――朝来たとき彼は電車の扉へぶっつけたと云ったが、今よく見るとそんな単純なことではないらしい、俊子嬢は帽子を持った手を背へ廻しながら、靴の尖《さき》でこつこつと床を叩いた。
「ええ明日の五時半、こんどこそ絶対に間違いなしです」二郎はようやく解放されるらしい、「……ええ決して、こんどこそ、では明日五時半に、はあ、いや決して、では――」
「お電話灰山さんでございますか」宮田嬢は電話が終るとすぐにこう訊いた、「……昨日はお約束をお破りになったんですのね」
「冗談じゃないよチョコレートは買ったよ、尤もお千代が喰《た》べてるだろうがね、三十分延ばしたのは、友達に会っちゃったんでね、ネクタイはこれでいいかい、なに明日また会うからいいんだよ」
「お鼻どうなさいましたの」宮田嬢は手を伸ばしてネクタイを直す、「……たしか寝台からお落ちになったと仰《おっ》しゃいましたわね」
「そんなことを云うものか、もう五分前だ、横浜へ五時までにゆけるかね、子供じゃあるまいし、帽子、寝台から落ちるなんて」
「お鼻をどうなさいましたの」
「帽子と手袋を呉れ、人にぶつかったのさ、あの角の、手袋はことだ、花売りが出ているだろう、相手が石あたま[#「あたま」に傍点]だったんだよ」
「今朝は電車の扉だと仰しゃいましたわ」
「そんならもう疑う余地はないじゃないか、忘れ物はなしと、じゃあ今日はもう帰らないからね」
「横須賀線か汽車でいらっしゃいまし」宮田嬢はとびだしてゆく課長の後からこう叫んだ、「……横浜までなら三十五分でまいります、お鼻にお気をつけあそばせ」
 五時二十分。千田二郎は沼井裕作と横浜中華街にある某料亭の特別室で、麦酒《ビール》を飲み食事をしながら話していた、沼井の口ぶりは例のように低いあっさりしたさりげない調子である。――話題は当時の新聞を賑《にぎ》わしている東京湾の海賊事件だった。横浜沖へ停泊した船から、積荷を荷足《サンパン》に移し、これを三|艘《そう》か五艘の牽引船《ランチ》で曳船《えいせん》してゆく途中、とつぜん快速汽艇で襲いかかり、荷物を強奪して逃げ去る。警戒を厳重にし、罠《わな》をかけてみたりするが、賊はその裏を掻《か》き網の目をくぐって鮮やかに目的を達し、きれいに踪跡を眩《くら》ましてしまう。
「彼等は東京湾の海上地理に精《くわ》しい、それも極めて精しいようだ、それから用いている汽艇の速力がずばぬけている、戦艦付属級の優秀なやつらしい、この点から海軍出身者だという見当をつけた、それで橋本が沖仲仕になって、荷役の中へもぐった」
「橋本五郎、へえー、彼もいたんだね」
「もうすぐ逢えるよ」沼井は箸《はし》を措《お》いて時計を見た、「……水上署、湾内の沿岸各警察、航路部、船舶運輸局、こういう関係組織と、船員や沖人夫などに糸を通していった結果、彼等の中心に元の機関兵曹がいるということだけははっきりした、それで君に出て貰うことになったんだ」
「するとそいつは僕が知っている男なのか」
「巻野八郎なんだよ」
 千田二郎はちょっと眼をつむった。麭包亭で森口にその名前を言われたとき、二郎は一種のなつかしさに胸を温ためられた、巻野は撃沈された戦艦Yの生存者の一人で、半年ばかり彼等の基地の宿舎に居候をしていた。年は三つ四つ上だったが、いわゆる兵曹|型《タイプ》でない、ごく柔和な、怒るということを知らないような人間で、ガンルウムへよく将棋を指しに来るうち千田二郎と親しくなり、まるで第一級の従僕のように彼の世話をして呉れた。
「あの男がねえ」二郎は太息《といき》をついた、「……それで、やっぱり人も殺しているのかい」
「これまでは無いようだが、危ないね、段だん遣方が荒くなる、最近は二度ばかり負傷者をだした、拳銃でね、――が、そろそろ出よう、七時までに本牧へゆかなくちゃあならない」
 六時四十分頃、二人は本牧の海岸を歩いていた。牛込の浜といわれる処で、西側に断崖《だんがい》があり、ちょっとした入江になっている、此処《ここ》だけ独立した狭い漁村があるとみえ、小さな平底舟や三|噸《トン》足らずの機動漁船が二十艘ばかりあげてあった。――すっかり昏《く》れていたが、浜へ下りるとすぐ右手から、煙草の火で輪を描きながら近寄って来る者があった。潮の香が暖まるように匂い、靴の下でぱりぱりと目殻が砕けた。
「よう、来たな、千田」相手は低い声でそう言いながら、強くこちらの手を握った、「……調子はいいか」
「専らFCC(前出スラングと同じで「ふられて困る困る」の略)だ、すっかりおんな好きになっちゃってね、普通じゃあねえらしい」
「よかろう、いい趣味だ」相手はにこりともしないで沼井に振返った、「……それじゃあ帰ってくれ、乗るから」
 汀に小さな平底舟が下ろしてあり、十八九になる少年が楫《かい》を持って待っていた。なかなか端正な顔の美少年である、乗込んで舟が辷《すべ》りだすと、橋本は空を見あげながら、「この風は強くなりゃあしないか一《かず》さん」と訊いた。少年は巧みに楫を使いながら、歯切れのよいせっかちらしい口ぶりで、然し言葉少なにこう答えた。
「これはすぐやみますよ、明日の午頃までは凪《なぎ》です」
 
[#6字下げ]八[#「八」は中見出し]

 一時間の後、二人は大型|荷足《サンパン》の中にいた、五千噸あまりの貨物船へ横着けにされた、三艘の中の一つで、いまさかんに荷下ろしをしている。すぐ側にある船の排水孔から水が溢《あふ》れ落ちているし、人夫たちの喚き交わす声や、けたたましいウインチの音などでひどく騒がしい。――二人は鼻の閊《つか》えそうな片隅で荷物と荷物の間に腰を掛けていた。
 貨物船の舷側燈が仄《ほの》かに、頭上から橋本五郎の風貌を初めて我われに見せて呉れる。眉と眉との迫った眼の鋭い、性急で強情らしい顔つきだ、無精髭が伸びているし人夫の仕事着を着ているから、いっそう人品がよくない。彼は青森県の豪農の四男に生れ、札幌の農科を卒業まぎわに仙台の工科へ転じ、間もなく海軍へ取られた。梶原が我慢づよいので「いじらしい勘忍袋」と云われたのに対し、彼は喧嘩《けんか》っ早いので森の石松という綽名《あだな》が付いていた。
「奴等は高価で量の少ない物を覘《ねら》う」橋本が囁《ささや》くように云った、「……どこから情報を取るか、実に正確に覘って来るんだ、この荷役は五日続いている、おれは毎晩あみ[#「あみ」に傍点]を張って来た、だが現われない、――知っているんだ、今夜の荷の中に貴重な化学薬品があるということを、今日まで手を出さなかったのは、それを知っていたからに違いない、――これが済めば当分めぼしい荷は入らないというし、おれには、予感があるんだ、……今夜こそ、奴等はきっと来る」
 二郎は要慎ぶかくそっと鼻を捻った。
「君はまだ、――出会ったことはないのか」
「きれいに二度|小股《こまた》を掬《すく》われた」忌いましそうに橋本は顔を顰《しか》める、「……いちどは離れたところだったが、一週間ばかり前には鼻の先だった、それもほんの二浬ちょっとの鼻っ先さ、こっちは囮荷足《おとりサンパン》に乗っていたんだが、奴等はみごとに本物を掴《つか》んでいった、――水上署の汽艇の探照燈《ライト》が、逃げてゆくところを見せて呉れた、艇尾にまっ白く、スクリウの巻立てる波が沸騰していたよ」
「そんな距離で追いつかないんだね」
「五分もすると消えてしまった、すばらしく出る、逃げだしたら到底だめだ」
 言葉が切れた。人夫の喚きやウインチの音は相変らずやかましい。――向うで防波堤の赤と白の燈台が明滅していた。
「接近して来るときにわからないのかね」
「曳航と同速で接近する場合と、牽引船《ランチ》の正面から来る場合とあるが、まるで艦隊夜間戦闘の隠密接敵以上に巧妙なものらしい、まず牽引船《ランチ》へ三人、荷足《サンパン》へ二人ずつ乗込む、みんな拳銃を持って、合図することも声をあげることも出来ない、そのまま曳航を続けさせながら、目的の物をすばやく汽艇へ移す、そして」橋本は片手で一種の身振りをした、「……さっと引揚げるんだ」
 二郎は黙って眼をそらした。その貨物船は港外の八番|浮標《ブイ》に繋留《けいりゅう》されている。まだほかに遠く近く、幾艘か停泊した船が見える。だがみんな黒い影だけでひっそりと音もしない。風は殆んどおちた、空は螺鈿《らでん》のような星だった。
「どういう風にやるんだ、愈《いよ》いよ現われたとして、――水上署なんぞと連絡はあるんだろうが」
「いやそんなものは無い、警戒はあるが形式だけだ」
「すると、どういうことになるんだ」
「君とおれと二人でやるんだ、巻野を掴むか、奴等の根城を掴むか、どっちか一つをものにするのさ、躰当りだ」
 十時近くに牽引船《ランチ》が来た。そのときちょっとごたごたがあった、三艘を左から繋《つな》ぐ筈なのを、右端へ着けて来た。予定では二人の乗っている荷足《サンパン》が末尾になるところを、先頭の位置で直に牽引船《ランチ》へ繋がれたのである。橋本は二郎に隠れていろと言って注意しにいった。
「これじゃあ繋ぎ方が逆だ、あっちへ着けて呉れ」彼はぶっきら棒に喚いた、「……向うが頭になるんだ、そう聞いて来なかったのか」
「命令でこうしたんだ、おれたちあ知らねえ」
「これじゃあ困る、船長はいないのか」
 二郎はそっと覗いてみた、すると牽引船《ランチ》の艫《とも》へ武装警官が五人出て来た、そして中の一人、軽機銃を持っている警官が彼に答えた。
「この荷足《サンパン》には貴重品が積んである、だからこれを先頭にして繋ぐことになったんだ、君は誰だ」
 橋本は舳先《へさき》へいってくるっと半纏《はんてん》の前裏を開いた。例の緋色のバッジ[#「緋色のバッジ」に傍点]を見せたのだろう、その警官は挙手の礼をし、言葉も穏やかに改めた。
「御苦労さまです、知らなかったものですから」
「水上署の汽艇さえ遠慮して貰っているのに、諸君がこんなに来られてはちょっと困りますね、不必要な犠牲者はどちらからも出したくないんです、今夜は肝心な機会《チャンス》なんですから」
「然し我われる上司の命令でまいったのですから」警官は困惑したように同僚のほうへ振返った、「……もしお望みでしたら、我われは貴方の合図があるまで出ないことにします、発砲もしません、その点はお指図どおりにします」
 それでは声を掛けるまで決して出ないこと、絶対に銃器を使わないこと、橋本はその二つに固く念を押して戻った。然し非常に不満らしい、元の場所へ腰を掛けると、烈しく肩を揺り上げ、舌打ちをした。
「余計なところへでしゃばりあがる、恐らく奴等に情報がいってるだろう、事に依ると今夜もむだ骨になるかも知れない」
「こんな事までわかっちまうのか」
「だからおれは警戒を解かせたんだ、もしそれを承知で来るとすれば、――唯じゃあ済まない」橋本は胸の上で腕を組んだ、「……奴等の遣方は相当に荒っぽくなって来ている、いきなりぶっ放すという危険は充分なんだ」

[#6字下げ]九[#「九」は中見出し]

「だがそれも一つの手じゃないか」二郎が云った、「……彼等にはぽんぽんやらせて置いて、その隙に僕たちは僕たちのことをすればいい」
「おれは犠牲者を出したくないんだ」
「盲腸炎を治すには腹を切らなくちゃならない、僕だってぶっ放すかも知れないぜ」
 荷下ろしが終ったのは十一時近かった。橋本は最後尾の荷足《サンパン》へ移った、――前後に分れて機会を掴もうというのだ、移ってゆくとき彼はもういちど武装警官を呼んで念を押した。
「絶対に射たないで下さい、声を掛けるまでは決しておもてへ出ないで下さい、責任は僕がもちますから、お願いします」
 牽引船《ランチ》の艫でスクリウが水を巻き始め、繋がれた三艘の荷足《サンパン》は互いに曳綱《ロープ》をきしませながら、やがて徐々に船腹から離れだした。――人夫は五人ずつ分乗して来たが、曳船が始まると船頭の室へ下りていった。夜食でもするのだろう、間もなく賑《にぎ》やかな談笑の声が聞えて来た。
 杉田から金沢、横須賀あたりへかけて、町の灯がちらちらと、ビーズ玉を列ねたようにまたたいている。観音崎の燈台であろう、暗い海の彼方で廻転光茫が時おりさっと青白く光る。――二郎は眼をつむる、すると巻野八郎の柔和なまるい顔が見える、防暑服を着た彼は、ガンルウムの隅の椅子に掛け、両股を開いた間に、指を組合せた手を垂れて、泣笑いのように顔を歪めながら、
 ――罪だよ、千田中尉、これは罪だよ。
 こう呟いては二郎を見上げる。
 ――一機命中なんて、これはもう戦争じゃあないよ、屠殺場《とさつば》で牛か豚を殺すのと違わないじゃないか、もしも戦争に勝って、日本が世界の王様になれたとしたって、この罪だけで神も仏も赦しゃあしないよ、千田中尉、……ひど過ぎる、罪にしてもひど過ぎるよ。
 十九年十一月三日、神風特攻隊のレイテ島急襲に、大本営発表は「一機命中」と報道した。そのときのことである、この表現は基地の若い士官たちを憤激させたが、最も深く二郎が心をうたれたのは、巻野兵曹のしずかな「罪だよ」という呟きだった、泣笑いのような顔で、呻吟《しんぎん》のように呟いたその単純な言葉ほど、真実で、人の心の奥底にくいいるものはなかった。
 二郎は眼を明けて伸上った、右舷のほうへ低いエキゾスの音が聞えたから、――遠く漁火が三つばかり見える、ぽんぽんという低い音は右前方から近づいて来るようだ。彼はポケットへ入れた手を出す、焼玉エンジンの音だ、果して間もなく一艘の漁船がすれ違っていった。
「どうも昼間は寝られねえだよ」漁船の中でこう云うのが聞えた、「……眼はつぶるがねえ、どうもぐっすり眠れねえだよ」
 二郎は再び腰を下ろす。空気が冷えて来て、じっとしていると身震いがでる。
 ――武装警官の情報で諦《あきら》めたのか。
 曳船を始めてから三十分以上も経つ。煙草の喫えないのが辛い。芝浦の岸壁へ向っている筈だから、向うに見える灯は川崎か鶴見だろう。ひどく寒い。西北の空にオリオンが光っている。――と、牽引船《ランチ》の上に人が出て来た。
「もういいだろう」こう云うのが聞える、「……ここまで来れば心配はない」
「危険区域は過ぎた、最後の五分ということもあるが」別の声がそう答えた、「……それにしても寒い、あがったらなにより先に一杯だな」
 彼等はもう危険感から解放されたらしい、煙草の火を点《つ》けるのが見える。橋本がいたら怒るだろう、然しこっちも一服やりたいのは慥《たし》かだ。二郎は外套の衿を立てる。話し声が消え、牽引船《ランチ》でちーんと機関士《エンジン》への合図が起こる、スクリウが激しく水を噛《か》む、と、荷足《サンパン》の触先がとんと当った。速力をおとしたらしい、どうしたのかと覗こうとすると、牽引船《ランチ》からこっちへ乗移って来る者があった。例の武装警官だ。軽機銃を持ったのが先頭で、七人いた。
 警官たちは船縁を歩いて艫へゆく、二郎は荷物の間から頭だけ出した。警官の一人が船頭部の室の引戸を明ける。中から射す燈火で拳銃と軽機銃がにぶく重げに光る。
「出ろ、声を立てるな」しゃがれた声だ、「……早くしろ、物を持つな、手を隠しから出せ、早く」
 船頭が出る、人夫が一人ずつ出て来る。
「これで全部か、よし、向うへゆけ」
 彼等の姿は暗くなり、見えなくなる、「綱《ロープ》を引け、静かに引くんだ」こんな声が聞える。
 なにが起こったかを、二郎は了解する。頭がじーんとなる。本能的に海上を見まわす。遠い沿岸の灯の他にはなにも見えない。既に隅田川の水がさしているのだろう、舷側《ふなばた》にびちゃびちゃと流れの寄る音がする。
「みんな向うへ乗れ、声を立てると、――」
 船頭や人夫たちは次の荷足《サンパン》へ移されたようだ、「よーし」という声が聞える。牽引船《ランチ》の機関室でちんちん[#「ちんちん」に傍点]と合図が二つ鳴る。機関が唸りだし、ぐんと衝動《ショック》がくる、同時にどこかで綱《ロープ》の切れる音がし、牽引船《ランチ》の船尾で滝のような水音が起こった。
「ひでえ寒さだ」警官たちは戻って来る、「……爪尖がばかになっちまった、なん時だ」
「十二時半だ、五分おくれてる」彼等は荷物の間へ入って来た、「……幾らか凌《しの》げるぜ」
 二郎は背中をぴったり荷物へ押付け、右手をズボンのポケットへ入れた。拳銃を握ると掌が汗になっているのを感じた。

[#6字下げ]十[#「十」は中見出し]

 荷足《サンパン》を一艘だけ曳いて、その牽引船《ランチ》が一浬ばかり来たとき、右手の後方で拳銃の音がした、置去りにされた荷足《サンパン》の中からだ、海面では音響が近く聞える、殆んど鼻先のように。
「赤いバッジの先生さ」彼等の一人がごそごそ身動きをして唾を吐く、「……だが先生も怒ることはないさ、とにかく家へは帰れるんだ」
「来たらしいな」一人が荷物をがたりと揺らす、「……音が聞える、煙草を捨てないか、叱られるぜ」
 軽快な柔らかい機関の音が近づいて来る。二郎は荷物の間から身をずらし、舷側へぴたりと貼り着く。間もなくさあと、舳先で水を切る音が近くなる、こっちの速力は変らない、――二郎は渇きに襲われる、唾をのもうとするが舌が動かない、喉の上下がくっつきそうな激しい渇きだ。
 ――壕の中で爆撃をくっているときもこんなことがあった。
 灯を点けない汽艇が辷《すべ》るように荷足《サンパン》と並行し、どんと接着した。二郎は指で手首の脈搏《みゃくはく》を探った。人声はしない、足音が多くなる。汽艇の、いかにも柔らかい機関の響きを縫って、荷物を運ぶ音だけが続く。あたりはまっ暗だ、――二郎は躯をそっとずらせる、心臓がひき裂けそうに激しく搏《う》つ、もう少し身をずらす、外套の裾がなにかにひっかかる、彼はそっとそれを脱ぐ。
「包を間違えるな」汽艇の上からぽつんと人の声がした、「……慌てることはないんだ、足もとに気をつけて呉れ」
 二郎は這《は》った。五六人の男が荷包を担いでは汽艇へ移している、誰かがこんこんと咳《せき》をする、二郎は人影の動きを見定めた。それから身を跼めて荷包に手を掛ける、担ごうとすると、後ろで低い声がした。
「そいつは違うぜ」
 二郎は息をのんだ。
「こっちだ、この山までだ」
 相手は手で積荷を叩いた。二郎は示された荷包を担いだ、重くはない、支えた両手で頭を隠す、先へゆく男の後ろへ付く、靴が滑りそうだ。舷側が少し離れて、揺れている、まっ黒い水が見える、だが跳び移る。――汽艇の後半が大きく口をあけている、荷包はその中へ積まれている、二郎は中へ下りて、担いで来た物を積みあげる、人はいない。彼はすばやく片蔭へ身をひそめる。……むっと軽油《ガソリン》の匂いが鼻を掩《おお》い、また激しい渇きが起こる。水が欲しい、ひと口でいいから、彼は耐え難そうに喘《あえ》いだ。
 十分の後、汽艇は快速で走っていた。
「彼はその責任を果した」二郎はそっとこう呟く、「……草野、見えるよ、君の笑い顔が」
 三十分そこそこで汽艇は速力をおとした。徐航が続いた。それから五分、機関は後退《ゴースタン》の唸りをあげ、艇尾で水が騒いだ。
 汽艇はまったく停止し、人声が起こった。
「先にいっぱい注射するか」これは初めて聞く声だ、然し二郎には覚えがある、「……それとも揚げてっからにするか」
「片付けちまいましょう」
 そのほうがいい、落着いてやれる。みんな元気な声だ。すぐに足音が近づく、二郎は身を縮める。もし灯《あか》りがあるとしたら、――が、蓋が明くとまっ暗だ。「よいしょ」誰かが下りて来た。口笛を吹く、荷包を抱える。「いいか」上に待っている者が手を出す、「もうちっとだ」荷は下から押上げられる、手から手へ。……二郎は唇を噛む、これでは紛れ込むことはできない。荷包は次ぎ次ぎに減ってゆく、軽油《ガソリン》の匂いが強く揺れる。「霜が下りてるぜ」上で声がする、「地面がばりばり鳴りあがる」どしんと荷包が崩れた、二郎は後ろへ反った。
 無限のように感じられる時間だ、が、ついに終った。「これでしまいだ」「よいしょ」最後の一つが上へ渡された。男は口笛を吹きばたばた躯をはたく。二郎がその後ろから、右手を首へ掛けながら跳びかかった。
「おいどうした」上から誰かが呼ぶ、「……なにを暴れてるんだ」
「滑っちゃった」二郎はこう云って双手に力を入れる、「……ううん、痛え、向う脛をやった」
 相手はすぐにおち[#「おち」に傍点]た。二郎は身を起こす、「先へいって呉れ」こう云ってひゅっと口笛を吹き、唸る、「痛くって立てねえ、すぐにゆく」手早く男の革帯《バンド》を抜いたが、まず上衣を背中からぐいと捲って顔へ冠せる、それから両手を後ろへまわして縛った。
「ひでえめに遭った」二郎は上へあがる、「……弁慶の泣きどころだ」
 艙蓋《ハッチ》を閉めるあいだに、待っていた三人が歩きだす、水を引いた艇庫の中だ。外へ出ると樹があった、混凝土《コンクリート》の塀《へい》が仄白く続き、バラックが並んでいる。どこだろう、横須賀沿岸か、千葉か。「まだ痛えや」先へゆく一人が振返る。二郎は口笛を吹く、「たいしたこたあねえ」そして跛《びっこ》をひく、――こっちのものだ。
 石造の倉庫に突当ると右へ曲った。靴の下で凍った土が鳴る。倉庫は五棟並んでいる、その向うに少し離れて、木造の平ったい亜鉛|葺《ぶ》きの建物がある、後ろはまっ黒に樹の繁った丘だ。三人はその建物の明いている扉口から入った。

[#6字下げ]十一[#「十一」は中見出し]

 運送店の事務所といった、がらんとだだっ広い室だ。遮光笠《しゃこうがさ》を着けた電燈が一つ点いている。その光りの下に二人の男が立って、一人は煙草を銜《くわ》えて、笑いながら話している、下半身は並んでいる机に隠れて見えない。他の者は硝子《ガラス》戸を明けて奥へいった、着換えだろう、――二郎は煙草を銜えた男を眺める。口髭を立てた、顔はいよいよまるく、日に焦けて逞しくなった、だが巻野八郎である、眼も鋭くなり、人相も変った、だが巻野八郎だ。
「問題はトラックですがね」巻野の相手はこう云いながら跼む、「……五台ないと間に合いませんよ、二|噸《トン》半のが都合できれば」
 巻野は短くなった煙草を投げ、靴で踏消してから、机を廻って右手の扉《ドア》を明けて去る。身を跼めていた男は酒壜を取出し、机の上に並べる。巻野がなにか抱えて戻って来る。
 二郎は前へ静かに歩きだす。
「――吃驚するぜ」巻野がこっちを見た、「……誰だ」
 二郎は悠くり前へ進む、それから帽子をあみだにして立停る、顔が見えるように。
「しばらくだね、巻野兵曹」
 酒壜を並べていた男がぎくっと振向いた。椅子が倒れて高い音が天床へ反響した。二郎はもう一歩、悠《ゆっ》くりと前へ出た。
「忘れたのかい、千田二郎だ」
 巻野は眼を瞠《みは》ってこっちを見る。振向いた男は机の上の拳銃を取った。巻野はなにも言わない。硝子戸の向うから男たちが戻って来る。巻野はこっちを見たまま、抱えている物を静かに机の上へ置く、罐が一つ転げると、それを起こしながら、眼ではやはりこっちを見ている。――戻って来た男たちは(もう警官服ではない)異様な空気に気づいて立停る、順々に立停って、そこにいる二郎を見る。
「おれのお客さんだ」巻野がしゃがれた声で悠くりと云う、「……騒ぐには及ばない」
 眼はまだ二郎から少しも離さない。くいいるような、ねばりつくような眼だ。
「簡単に言って下さい」歯と歯の間から低い声で言う、「……御用はなんです」
「君と二人で話したいんだ」
 云いながら二郎は拳銃を出し、静かに側の机の上へ投げた。巻野の眼はまだ彼から動かない、然しゆらりと手を振った。
「あっちへゆきましょう」それがら男たちを眺めまわした、「……先にやってて呉れ、用はすぐに済む」
 巻野はさっき入った部屋の扉を明けた。二郎はその後へ続いた、巻野は電燈を点け、扉に鍵《かぎ》を掛けた。そう粗末でない応接間といった感じだが、家具が少なくて、床の広く明いているのが寒ざむしく見える。――巻野は接客卓子に背を凭《もた》せ、煙草に火を点けながら眼をあげた。憎悪の燃えている眼だ、それから唇を歪めた。
「伺いましょう、但し、お説教じゃあないでしょうね」
「拳銃を持ってるかい」
「危ない橋を渡りますからね」
「それを出したまえ」
 巻野は唇で冷笑し、上衣のポケットへ手を突込んだ、そして小型のコルトを取出し、掌でくるっと一回転させてから、卓子の上へ置こうとした。
「いや置くんじゃない持つんだよ」二郎はこう云いながら上衣を開いた、「……しっかり持つんだ、安全錠を外してね」
 それから上衣の左の裏を見せた。
「射ちたまえ、これが僕の用事だ」
 巻野の口から煙草が落ちた。緋色のバッジ、巻野の眼はすぐ二郎の顔へ戻る、右手はそろっと拳銃を握り直した。
「そうだ、それで引金を引くんだ、――さあ」
「射たないとでも思ってるのかい先生」歯と歯の間から巻野が云う、「……おふくろや、女房や子供が生きていたら、そのくらいの洒落っ気は出るかも知れない、巻野兵曹、はは、人間が違ってるんだ、おまえさんの考えるような」
「射ちたまえ」二郎は遮《さえぎ》った、「……僕も君の洒落っ気なんか見たくって来やあしない、文句はいらないんだ、射ちたまえ」
 巻野は安全錠を外した。凭れていた躯を起こした。だがそのまま五秒経つ。
「こうすれば射てるか」
 二郎が大股に出た、手を挙げて巻野の頬を殴った。巻野の頭がぐらっと揺れ、手から拳銃が飛んだ、二郎は相手の衿を掴んだが、巻野の拳が非常な速さで二郎の顎へ来た、躯が打当り、組んだまま扉へのめりかかった。
 獣のような喘ぎと拳の乱打と憎悪の呻きがもつれ合って、椅子を押倒しながら部屋の一隅へ転倒し、がらがらと整理戸納の硝子戸が砕けた。扉の外へ駆けつけた男たちが、喚き叫びながら入ろうとする、扉が歪んで悲鳴をあげた。
「入るな入るな」巻野は二郎を捻伏せながら絶叫した、「……なんでもない、もう片付く」
 巻野は双手で二郎の首を絞めあげる、二郎の鼻と頬から血がふき出ている、口からも。――そして抵抗をやめ、眼をつむっている。
 巻野はぞっ[#「ぞっ」に傍点]として手を緩めた。
「もうひと息だ」二郎が呻く、「……巻野、緩めるな、すぐ済んじまう」
「なぜだ、どういう訳だ、なんのために」巻野は激しく郎の首を掴んで揺する、そして喘ぐ、「……なんのために貴様は」
「罪の償いだ、君が言ったじゃないか」
「おれが、なにを言った」
「これは罪だ、千田中尉」二郎のつむった眼から涙がこぼれる、「……これは罪だ、一機命中なんて、これはもう戦争じゃあない、――たとえ、日本が勝って世界の、王様になっても、この罪だけで神や仏は赦すまい、……覚えてる、あの時の君の声も、顔も、忘れちゃあいない」
 二郎は床の上で頭を揺する。涙がついついと両眼から頬へ縞を描く。巻野は歯をくいしばり、ぎゅっと顔を歪める。こみあげてくるものを暫く押殺している、然しそれは余りに烈しく、強い、彼は両手を床へ突く。
「千田さん」巻野は悲鳴をあげ、両手で二郎を抱きながら泣き伏す、「……千田さん」
 逞しい躯が波を打ち、男の嗚咽《おえつ》が喉をひき裂く。二郎はその背中へ手を廻す。
「罪は誰にある、千田二郎だ、あれだけ多くの特攻隊を、おれはこの手で送りだした、……企画し、命じた者はほかにある、だが送り出したのはおれだ、おれたち基地の者だ、それだけじゃない、……戦争に負けた現在、殺人、強盗、闇屋、――戦争であれだけ悲惨なめに遭った同胞が、立直ろうとしてもがいているのを射ち殺し、斬り殺し、掠《かす》め盗る、……ひっくるめて特攻隊くずれ[#「くずれ」に傍点]と云われている、巻野、――特攻隊くずれ[#「くずれ」に傍点]だ、そして彼等の手で殺され奪われる者の中には、特攻隊の遺族がある、子供を、兄弟を、特攻隊に取られた遺族がある、……おれにこの人たちを守る力がなければ、せめて、こんなことにした罪だけは償わなければならない」二郎の声は低くかすれた、「……おれたちはそれを誓った、草野は、――もうその償いをした、去年の九月十八日、あいつは桐生で、強盗団の弾丸《たま》をあびて死んだ、……洒落やごまかしで来たんじゃあないんだよ、巻野、君の手で償いを果して貰いたいんだ」
 巻野の嗚咽は慟哭《どうこく》になった。
「わかったらやって呉れ」二郎は巻野の手を探った、「……巻野、おれに償いをさせて呉れ」

[#6字下げ]十二[#「十二」は中見出し]

 午後二時二十分、二郎は木挽町の樹緑ビルの階段を登っている。片面を残して包帯に包まれた頭で、帽子が傾いている。左手も包帯して首から吊ってある。おまけに右足をひきずって、――いやはや派手な恰好だ。
 酒神《バッカス》倶楽部の扉を叩く、
「開いているよ、どうぞ――」
 二郎は扉を明けて入る。昼間だが電燈が点いて、梶原と森口がいる。二人はこちらを見て口をあける、二郎は片手をくるりと廻し、跛《びっこ》をひきながら卓子の側へゆく。
「――千田君か」梶原が眼を瞠って、がたりと椅子を揺らせて立つ、「……なんと」
 突然わはははと森口が笑いだす、彼はまだ眼のまわりが紫色である、然し唇はもういいのだろう、椅子の上で、のけ反って、思うさま笑う。
「電話を掛けて、呉れないか」二郎はそーっと椅子へ腰を掛ける、半分だけである、「……千代田の一二二七だ」
 梶原が電話器を引寄せてダイヤルを廻す。二郎は煙草を出す、口に銜えると、森口が眼を拭きながらライターを差出す、笑い過ぎて涙が出て来た訳だ、二郎はうまそうに、然しそーっと煙を吹く。
「出たらね、そう、灰山スミ子さん」二郎の言葉ははっきりしない、舌がよく動かないとみえる、「……灰山スミ、そう、その人を呼んでね、いや君が、君が頼む、――出たかい」
「出たよ」梶原は送話器の口を塞ぐ、「……これが君のアミか」
「こう云って呉れたまえ、今日はまいれません、……いいかい、今日は用事が出来て、そう、急用だな、え――出し入れのならない急用で、いけないからって、――」
 梶原はそれを伝える。二郎は背中をそーっと椅子の先れへ当てる、太息をつく。梶原の持っている受話器から向うの声がもれる。きんきんかんかんと矢継早に響く、梶原はそれを耳から離して二郎のほうへ向ける。
「このとおりだ、恐ろしく怒ってる、まるで悪鬼|羅刹《らせつ》だね、絶交だと云ってる」
「云って呉れたまえ、待って呉れって、一週間――」
 梶原はそう言おうと努力する、然しそのきんきん声はきんきん喚くなり、がちゃっと思いきりよく切れてしまった。――梶原は肩を竦《すく》め、受話器を二郎に見せて首を振った。
「おしまいだよ、……諦めるんだね」
 二郎は天床を眺める、暫くして唸る、それからそーっと椅子を立つ。
「巻野は、四五日うちに自首するよ、――贓品《ぞうひん》は散らしてないそうだ、そっくり戻るだろう、たぶん」そして静かに扉口へゆく、「……帰らなくっちゃあね、いや止めないで呉れ、秘書がやかましいんだ、なんと云われるか、この恰好だからね、――じゃあ、そういう訳だから」
 唖然と見送る二人をあとに、二郎は悠くりと扉口を出る、階段の手摺《てすり》に捉《つか》まって、そろそろと、見当をつけながら降りてゆく。
「五番めもか、へっ、埒《らち》あねえや」



底本:「山本周五郎全集第二十一巻 花匂う・上野介正信」新潮社
   1983(昭和58)年12月25日 発行
底本の親本:「新青年」
   1948(昭和23)年2月号
初出:「新青年」
   1948(昭和23)年2月号
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

タグ:

山本周五郎
「失恋第五番」をウィキ内検索
LINE
シェア
Tweet
harukaze_lab @ ウィキ
記事メニュー

メニュー

  • トップページ
  • プラグイン紹介
  • メニュー
  • 右メニュー
  • 徳田秋声
  • 山本周五郎



リンク

  • @wiki
  • @wikiご利用ガイド




ここを編集
記事メニュー2

更新履歴

取得中です。


ここを編集
人気記事ランキング
  1. 怪人呉博士
  2. 異人館斬込み(工事中)
  3. こんち午の日
  4. 猫眼レンズ事件
  5. 熊谷十郎左
  6. 輝く武士道(工事中)
  7. 神経衰弱
  8. 威嚇
  9. 牡丹悲曲(工事中)
  10. 醜聞
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2002日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2003日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2003日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2003日前

    鏡(工事中)
  • 2003日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2003日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2003日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2003日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2003日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2003日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
「山本周五郎」関連ページ
  • No Image 化け広告人形
  • No Image 藤次郎の恋
  • No Image 花咲かぬリラの話
  • No Image 浪人走馬灯
  • No Image 一念不退転
  • No Image 小さいミケル
  • No Image あらくれ武道
  • No Image 武道用心記
  • No Image 溜息の部屋
  • No Image 祖国の為に
人気記事ランキング
  1. 怪人呉博士
  2. 異人館斬込み(工事中)
  3. こんち午の日
  4. 猫眼レンズ事件
  5. 熊谷十郎左
  6. 輝く武士道(工事中)
  7. 神経衰弱
  8. 威嚇
  9. 牡丹悲曲(工事中)
  10. 醜聞
もっと見る
最近更新されたページ
  • 2002日前

    白魚橋の仇討(工事中)
  • 2003日前

    新三郎母子(工事中)
  • 2003日前

    湖畔の人々(工事中)
  • 2003日前

    鏡(工事中)
  • 2003日前

    間諜Q一号(工事中)
  • 2003日前

    臆病一番首(工事中)
  • 2003日前

    決死仏艦乗込み(工事中)
  • 2003日前

    鹿島灘乗切り(工事中)
  • 2003日前

    怪少年鵯十郎(工事中)
  • 2003日前

    輝く武士道(工事中)
もっと見る
ウィキ募集バナー
新規Wikiランキング

最近作成されたWikiのアクセスランキングです。見るだけでなく加筆してみよう!

  1. MadTown GTA (Beta) まとめウィキ
  2. AviUtl2のWiki
  3. R.E.P.O. 日本語解説Wiki
  4. シュガードール情報まとめウィキ
  5. 機動戦士ガンダム EXTREME VS.2 INFINITEBOOST wiki
  6. ソードランページ @ 非公式wiki
  7. シミュグラ2Wiki(Simulation Of Grand2)GTARP
  8. ドラゴンボール Sparking! ZERO 攻略Wiki
  9. 星飼いの詩@ ウィキ
  10. ヒカマーWiki
もっと見る
人気Wikiランキング

atwikiでよく見られているWikiのランキングです。新しい情報を発見してみよう!

  1. アニヲタWiki(仮)
  2. ストグラ まとめ @ウィキ
  3. ゲームカタログ@Wiki ~名作からクソゲーまで~
  4. 初音ミク Wiki
  5. 検索してはいけない言葉 @ ウィキ
  6. 発車メロディーwiki
  7. 機動戦士ガンダム バトルオペレーション2攻略Wiki 3rd Season
  8. Grand Theft Auto V(グランドセフトオート5)GTA5 & GTAオンライン 情報・攻略wiki
  9. オレカバトル アプリ版 @ ウィキ
  10. MadTown GTA (Beta) まとめウィキ
もっと見る
全体ページランキング

最近アクセスの多かったページランキングです。話題のページを見に行こう!

  1. 参加者一覧 - ストグラ まとめ @ウィキ
  2. 魔獣トゲイラ - バトルロイヤルR+α ファンフィクション(二次創作など)総合wiki
  3. 高崎線 - 発車メロディーwiki
  4. 鬼レンチャン(レベル順) - 鬼レンチャンWiki
  5. 暦 未羽 - ストグラ まとめ @ウィキ
  6. 召喚 - PATAPON(パタポン) wiki
  7. ステージ攻略 - パタポン2 ドンチャカ♪@うぃき
  8. 暦 いのん - ストグラ まとめ @ウィキ
  9. 鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎 - アニヲタWiki(仮)
  10. ロスサントス警察 - ストグラ まとめ @ウィキ
もっと見る

  • このWikiのTOPへ
  • 全ページ一覧
  • アットウィキTOP
  • 利用規約
  • プライバシーポリシー

2019 AtWiki, Inc.