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決死仏艦乗込み(工事中)
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決死仏艦乗込み
山本周五郎
山本周五郎
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)半兵衛《はんべえ》
(例)半兵衛《はんべえ》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)死|仏艦《ふつかん》
(例)死|仏艦《ふつかん》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定]
(数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]
(数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「二点しんにょう+官」、第3水準1-92-56]
[#3字下げ]仏艦ネプチュン[#「仏艦ネプチュン」は中見出し]
半兵衛《はんべえ》は静かに双肌《もろはだ》をぬいだ。
たつき13検査
たつき13完成
「虫がないているな」と低く呟きながら、短刀を抜いて白紙できりきりと巻いた。瞑目する耳へ、近々と聞えてくる虫の音だ。「虫念仏か」ともう一ど呟いてにっこり笑うと、短刀を逆手にとって左の脇腹へ、ぐっと押当てようとする、刹那!「父上!しばらく!」と叫んで、襖を蹴放さんばかりに跳りこんだ新三郎、まさに突立てようとする父の腕をしかと掴んだ。「え、見苦しい、放せ!」「放しませぬ、ひと言、たったひと言聞かせて頂くことがござります、しばら
たい」く!」必死に押えて放さぬ力だ。半兵衛はせんかたなく体を崩して、「よし、ひと言とあれば聞かしてやろう、何なりときけ」
つかまっ「御生害の次第、何故の儀にござりますか、お伺い仕りまする」
つきた。
っか
(ごしょうがい」
うわがき」
「自殺の理由はそれに認めてある」
半兵衛の指さす机上に、新三郎殿へと上書のしてある遺書の一通。拝見!といって新三郎は封をきった。(
3)遺書の次第を手短かに話そう。
もし、
なべしまはんおい
らんぽう
もと
そう
しゅんこう」
決死仏艦乗込み
たた
ここ、九州佐賀鍋島藩に於ては、数年前から蘭法の図面を基本に、一般の鋼鉄軍艦を建造中であった。それは安政元年にいたってほぼ竣工したのだが、いかにせん設計図は古法のもので、機関の一部にどうしても不可解な点がある、藩では苦心焦慮して、江戸から造船家の名ある人々を招き、意見を叩いてみたが、何しろ普通の蒸汽船とちがって鋼鉄軍艦のことだ、どうしても不明の点を解くことができない。「困ったことになったものだ!」『造船係の役人達がはたと思案の体に行迷った時、天の助ともいうべき事件が起ったのである。C識設
3本大西意(それは、安政二年二月、長崎港へ仏蘭西の鋼鉄軍艦ネプチュンが入港した。百ポンド巨砲を四門、三十六ポンド・ボムカノン砲を二十門もっているという優秀艦で、a艦長のデマリオン大佐は有名な日本好き、へたな奴よりも上手に日本語を話すとい
ゆきまよ」
たすけ
クーポンながさきみなとフランス?________________
たい」く!」必死に押えて放さぬ力だ。半兵衛はせんかたなく体を崩して、「よし、ひと言とあれば聞かしてやろう、何なりときけ」
つかまっ「御生害の次第、何故の儀にござりますか、お伺い仕りまする」
つきた。
っか
(ごしょうがい」
うわがき」
「自殺の理由はそれに認めてある」
半兵衛の指さす机上に、新三郎殿へと上書のしてある遺書の一通。拝見!といって新三郎は封をきった。(
3)遺書の次第を手短かに話そう。
もし、
なべしまはんおい
らんぽう
もと
そう
しゅんこう」
決死仏艦乗込み
たた
ここ、九州佐賀鍋島藩に於ては、数年前から蘭法の図面を基本に、一般の鋼鉄軍艦を建造中であった。それは安政元年にいたってほぼ竣工したのだが、いかにせん設計図は古法のもので、機関の一部にどうしても不可解な点がある、藩では苦心焦慮して、江戸から造船家の名ある人々を招き、意見を叩いてみたが、何しろ普通の蒸汽船とちがって鋼鉄軍艦のことだ、どうしても不明の点を解くことができない。「困ったことになったものだ!」『造船係の役人達がはたと思案の体に行迷った時、天の助ともいうべき事件が起ったのである。C識設
3本大西意(それは、安政二年二月、長崎港へ仏蘭西の鋼鉄軍艦ネプチュンが入港した。百ポンド巨砲を四門、三十六ポンド・ボムカノン砲を二十門もっているという優秀艦で、a艦長のデマリオン大佐は有名な日本好き、へたな奴よりも上手に日本語を話すとい
ゆきまよ」
たすけ
クーポンながさきみなとフランス?________________
おふねがぎょう
ことわ
&
ことわ
&
うぐらいの人物だった。部員日本ハムが11日
「よし、大佐に談じこもう」造船係の役人たちは相談一決、さっそく御船奉行へこの事を申し立て、藩公の許しをえて、家の道道で
の自「機関部密図の借覧を―」と申込んだ。しかし、デマリオン大佐は意外にも即座にこれを拒んで、、
、
、「軍艦の機関部は秘図であるから見せるわけにはゆかぬ!また教えることはできぬ」ときっぱり断ってきた。
そう
いうこの交渉が行われている時、軍艦ネプチュンの水兵達は、連日長崎へ上陸して、傍若無人の振舞を行い、ある日のごときは街上を行く三人の娘にからかいかけ、酔にまかせて軍艦へ担ぎこんでしまった。
かけあい「怪しからぬ赤毛共だ」「掛合に行け!」と押して行くと、二人の娘をかえして、軍「連れてきたのはこの二人だ」といい張り、「三人などとはいい懸りだ」
頑として突ぱねた。もちろんそれは嘘だ、艦には一人残されていた。これは長崎下馬場に住む船大工藤太夫の娘で澄江という、今年十五になる少女だった。)
機関部の密図は見せぬ、見学も許さぬという上に、水兵共の暴行を聞いて御船奉
臆病一番首
まち」
ふるまい
かつ
あかげ
うそ
しもばば
とうだゆう
すみえ
さま」
行もついに怒り、さっそく役人を遣わして残っている娘一人を返すよう、厳重に交渉をした。ところがデマリオン大佐は水兵の暴行を実際は知らなかったので、これを日本人の腹いせと思い、「さような疑いをかけられては迷惑、嘘と思うなら艦内をお探し下さい」と答えた。
よし!というのですぐ様艦内を捜査したが、軍機の秘密といって機関部はもちろん、砲塔の中へなどへは頑として入れないので、結局娘はみつからなかった。。
「残念!」と腕を撫して艦を下りると、まもなく軍艦ネプチュンは長崎の港を出帆乗してしまった。
「よし、大佐に談じこもう」造船係の役人たちは相談一決、さっそく御船奉行へこの事を申し立て、藩公の許しをえて、家の道道で
の自「機関部密図の借覧を―」と申込んだ。しかし、デマリオン大佐は意外にも即座にこれを拒んで、、
、
、「軍艦の機関部は秘図であるから見せるわけにはゆかぬ!また教えることはできぬ」ときっぱり断ってきた。
そう
いうこの交渉が行われている時、軍艦ネプチュンの水兵達は、連日長崎へ上陸して、傍若無人の振舞を行い、ある日のごときは街上を行く三人の娘にからかいかけ、酔にまかせて軍艦へ担ぎこんでしまった。
かけあい「怪しからぬ赤毛共だ」「掛合に行け!」と押して行くと、二人の娘をかえして、軍「連れてきたのはこの二人だ」といい張り、「三人などとはいい懸りだ」
頑として突ぱねた。もちろんそれは嘘だ、艦には一人残されていた。これは長崎下馬場に住む船大工藤太夫の娘で澄江という、今年十五になる少女だった。)
機関部の密図は見せぬ、見学も許さぬという上に、水兵共の暴行を聞いて御船奉
臆病一番首
まち」
ふるまい
かつ
あかげ
うそ
しもばば
とうだゆう
すみえ
さま」
行もついに怒り、さっそく役人を遣わして残っている娘一人を返すよう、厳重に交渉をした。ところがデマリオン大佐は水兵の暴行を実際は知らなかったので、これを日本人の腹いせと思い、「さような疑いをかけられては迷惑、嘘と思うなら艦内をお探し下さい」と答えた。
よし!というのですぐ様艦内を捜査したが、軍機の秘密といって機関部はもちろん、砲塔の中へなどへは頑として入れないので、結局娘はみつからなかった。。
「残念!」と腕を撫して艦を下りると、まもなく軍艦ネプチュンは長崎の港を出帆乗してしまった。
[#3字下げ]新三郎|起《た》つ[#「新三郎起つ」は中見出し]
ところが――。一度出帆したネプチュンは、神《かみ》ノ島《しま》の砲台下で急に停まってしまった。そして二三日すると短艇を下ろして御船奉行へ使をよこし、文書をもっていうには、「機関部に故障ができた故、修理のできるまで碇泊するお許しが願いたい、それから、船艦造修の智識ある船大工、鍛冶工人を四五名お貸し下されたい!」そういう願い出であった。出であった。干
しぶるぶる
ていはく、
かじこうじん
8?________________
しぶるぶる
ていはく、
かじこうじん
8?________________
ねがい
おみなかたこもりた
前からの関係から考えて、こんな勝手な願は当然突ぱねるべきだが、御船奉行は協議の結果、
大「この機会に、腕のある造船家を乗込ませて、ネプチュンの機関部の秘密を探索させるがよかろう!」ということになった。
そこで選まれたのが、御船方の小森田半兵衛である。半兵衛は蘭学に通じ、またフランス語も話すことのできる才物、おまけに造船術については藩中指折りの士で首あった。
「ネプチュン修理に事よせて、機関部の秘図を写してくるよう!」という秘命を受けた半兵衛は、心利きたる船大工、鍛冶工人五名を連れてネプチュンへ出かけることになった。その船大工の中には、例の娘を奪われた藤太夫も入っていたのである。
一行は艦へ乗こんだが、娘澄江のことで狂人のようになっていた藤太夫が、娘のありかを探すために、砲塔内へ忍び入ったところを発見され、気関す。「六名は密偵である!」といいなされ、ついに艦から下されてしまった。半兵衛の役目は水泡に帰したのだ。「御船方を勤むるほどの者が、なんという粗忽!」奉行に面責されて、面目を失った半兵衛、家に帰るとともに、切腹の覚悟をきめ
臆病一番首
こころき
そこつ
たのである。
よみ
おもて
決死仏艦乗込み
うなず一
「遺書の次第をとくと読おわった新三郎、「よくわかりました、父上!」と改めて両手をつき、「つきましては、御自害を明朝までお延ばし下さいませぬか!」、
です「明朝まで延ばしてなんとする」「私これよりネプチュンへ乗込み、機関部の密図を奪い出してまいります、明朝までには必ずもどります故、それまで!」と決死のさまだ。半兵衛その面をじっとみつめていたが、ふたたび頷いて、「頼む!」と一言、あとは無言で体新三郎の手を握るばかりであった。
その夜、新三郎は屋敷をぬけだし、出島の岸から一艘の小舟を操って沖へでた。はるかに黒く横わる神ノ島、岬の突端、砲台のあたり近くに、巨鯨のごとき、仏艦ネプチュンの姿が見えている――。「この辺でよかろう」呟いた新三郎、くるくると衣服を脱ぐと下は稽古着一枚、関五郎の脇差を口にくわえると、舟ばたを蹴って、しずかに波の中へ身を沈めた。
せがれ
でじま
よこた一
けいこぎ
わきざし
85?________________
おみなかたこもりた
前からの関係から考えて、こんな勝手な願は当然突ぱねるべきだが、御船奉行は協議の結果、
大「この機会に、腕のある造船家を乗込ませて、ネプチュンの機関部の秘密を探索させるがよかろう!」ということになった。
そこで選まれたのが、御船方の小森田半兵衛である。半兵衛は蘭学に通じ、またフランス語も話すことのできる才物、おまけに造船術については藩中指折りの士で首あった。
「ネプチュン修理に事よせて、機関部の秘図を写してくるよう!」という秘命を受けた半兵衛は、心利きたる船大工、鍛冶工人五名を連れてネプチュンへ出かけることになった。その船大工の中には、例の娘を奪われた藤太夫も入っていたのである。
一行は艦へ乗こんだが、娘澄江のことで狂人のようになっていた藤太夫が、娘のありかを探すために、砲塔内へ忍び入ったところを発見され、気関す。「六名は密偵である!」といいなされ、ついに艦から下されてしまった。半兵衛の役目は水泡に帰したのだ。「御船方を勤むるほどの者が、なんという粗忽!」奉行に面責されて、面目を失った半兵衛、家に帰るとともに、切腹の覚悟をきめ
臆病一番首
こころき
そこつ
たのである。
よみ
おもて
決死仏艦乗込み
うなず一
「遺書の次第をとくと読おわった新三郎、「よくわかりました、父上!」と改めて両手をつき、「つきましては、御自害を明朝までお延ばし下さいませぬか!」、
です「明朝まで延ばしてなんとする」「私これよりネプチュンへ乗込み、機関部の密図を奪い出してまいります、明朝までには必ずもどります故、それまで!」と決死のさまだ。半兵衛その面をじっとみつめていたが、ふたたび頷いて、「頼む!」と一言、あとは無言で体新三郎の手を握るばかりであった。
その夜、新三郎は屋敷をぬけだし、出島の岸から一艘の小舟を操って沖へでた。はるかに黒く横わる神ノ島、岬の突端、砲台のあたり近くに、巨鯨のごとき、仏艦ネプチュンの姿が見えている――。「この辺でよかろう」呟いた新三郎、くるくると衣服を脱ぐと下は稽古着一枚、関五郎の脇差を口にくわえると、舟ばたを蹴って、しずかに波の中へ身を沈めた。
せがれ
でじま
よこた一
けいこぎ
わきざし
85?________________
86
きとうりゅう|
ねむけ
こちら|
せ、
かたわら)
きとうりゅう|
ねむけ
こちら|
せ、
かたわら)
[#3字下げ]起倒流《きとうりゅう》秘術[#「起倒流秘術」は中見出し]
起倒流秘術
(
中へ、「仏艦ネプチュンの甲板見張所だ。
ルイとマズルウといわれる二人の水兵が見張に立っていたが、睡気がさして二人ともい眠りをやっている。
と、ふいにルイは横っ面をぐわんとやられて眼をさました、士官にみつかったの首かと冷汗をかいて直立不動の姿正をとって、
「は!三等水兵ルイ……」といいかけたが誰もいない、見ると傍にはマズルウの奴がいびきをかいて眠っている、畜生此奴だな!と思ったから、、面「やいこの、地獄の番卒野郎め!」と吸鳴りながら、力まかせに横っ面をはりとばした。吃驚とび起きたマズルウ、殴ったのがルイとわかって、「殴りやがったな二十日大根め!」と組ついて行った。のっぽのルイ、二十日大根といわれるちびのマズルウは、無我夢中で格闘をはじめた。
と―――闇の中から躍り出た黒い人影、「やっ!」叫ぶと共にルイとマズルウの二人に神速の当身だ。起倒流の秘手をまともに喰った両人、うんともいわずに絶気するのを、引倒して充分におとす、いわず
びっくり
はっか
しんそく
ひきたお
ひきおこ
げかん)
はしご
決死艦乘?人
と知れた新三郎だ。「夢の中で気のすむまで殴り合をやるがよかろう、ふふふ」低く笑いながら、二十日大根のマズルウを引起して服を脱がせ、稽古着の上へ手早く着こんだ。「これでよし」頷いた新三郎、父から貰ってきた艦内見取図を頼りに、そっと下甲板へ忍び込んだ。とたんに梯子の下でばったり出あったのは、見張所を見まわりに行く甲板士官だ。「誰だ?」と声をかけられて新三郎、父親から日ごろ教えられているフランス語で、「三等水兵マズルウです!」と答えた。士官は頷いて行すぎる、刹那!後ろからおどりかかった新三郎、。
禁室(中央「やっ!」というと頸へ腕を巻いて引倒し、ぐいぐいと絞めておとすと、そばにある扉をあけて暗い雑具室の中へ放りこんだ。出ようとすると、ふとかすかに聞えてくる人声、
クンの「この夜更に、騒がしい人の声、さてはみつけられたか?」と身をひそめて聞くと、「さあ、呑めよ、ジャン!」母(1)「己やあもう、へべれけだ、貴様呑め!」とかすかに響いてくる酔いどれ声だ。
しょけ
おれ、
87?________________
(
中へ、「仏艦ネプチュンの甲板見張所だ。
ルイとマズルウといわれる二人の水兵が見張に立っていたが、睡気がさして二人ともい眠りをやっている。
と、ふいにルイは横っ面をぐわんとやられて眼をさました、士官にみつかったの首かと冷汗をかいて直立不動の姿正をとって、
「は!三等水兵ルイ……」といいかけたが誰もいない、見ると傍にはマズルウの奴がいびきをかいて眠っている、畜生此奴だな!と思ったから、、面「やいこの、地獄の番卒野郎め!」と吸鳴りながら、力まかせに横っ面をはりとばした。吃驚とび起きたマズルウ、殴ったのがルイとわかって、「殴りやがったな二十日大根め!」と組ついて行った。のっぽのルイ、二十日大根といわれるちびのマズルウは、無我夢中で格闘をはじめた。
と―――闇の中から躍り出た黒い人影、「やっ!」叫ぶと共にルイとマズルウの二人に神速の当身だ。起倒流の秘手をまともに喰った両人、うんともいわずに絶気するのを、引倒して充分におとす、いわず
びっくり
はっか
しんそく
ひきたお
ひきおこ
げかん)
はしご
決死艦乘?人
と知れた新三郎だ。「夢の中で気のすむまで殴り合をやるがよかろう、ふふふ」低く笑いながら、二十日大根のマズルウを引起して服を脱がせ、稽古着の上へ手早く着こんだ。「これでよし」頷いた新三郎、父から貰ってきた艦内見取図を頼りに、そっと下甲板へ忍び込んだ。とたんに梯子の下でばったり出あったのは、見張所を見まわりに行く甲板士官だ。「誰だ?」と声をかけられて新三郎、父親から日ごろ教えられているフランス語で、「三等水兵マズルウです!」と答えた。士官は頷いて行すぎる、刹那!後ろからおどりかかった新三郎、。
禁室(中央「やっ!」というと頸へ腕を巻いて引倒し、ぐいぐいと絞めておとすと、そばにある扉をあけて暗い雑具室の中へ放りこんだ。出ようとすると、ふとかすかに聞えてくる人声、
クンの「この夜更に、騒がしい人の声、さてはみつけられたか?」と身をひそめて聞くと、「さあ、呑めよ、ジャン!」母(1)「己やあもう、へべれけだ、貴様呑め!」とかすかに響いてくる酔いどれ声だ。
しょけ
おれ、
87?________________
はなしごえ
ドア
のそ
臆病一番首
&
ドア
のそ
臆病一番首
&
「酒盛をやっているのか」ほっと安心して雑具室を出ようとする、新三郎の耳へつ
づいて聞えてきたのは、、「おい、この日本娘にも呑ませろよ!」「そうだそうだ、強情を張りやあがったら、口を割ってでもやれ!」という声。「澄江だ!」と胸おどらせた新三郎、声を頼りに忍んでいくと、雑具室の奥にもうひと部屋ある様子、話声はそこから聞えてくる。「ここだ!」と頷いて、静かに壁をさぐって行くと、扉の握り手にふれた。音のせぬように、そろそろとあけて覗くと、案の定、そこはがらんとした監禁室で、中央にランプを下げ、三名の荒くれた士官が坐りこみ、手に手に盃を持って騒いでいる。「澄江は?」と見ると、士官共のまん中に、着物を剥がれて半裸体、しかも後手に縛りあげられて、蒼白い顔をきっとあげ、さすがは日本の乙女だ、臆した色を見せずに、卑しみの眼で士官達を見下している。
や
ら長い「おいジャン、己はこの赤い着物をきるぞ」と士官の一人は、そこへ引?いでおいた澄江の長襦袢をとると、へらへら笑いながら着込んでしまった。「よし、では僕はこれを着るぞ」ジャンと呼ばれた士官は、それと見るより澄江の友禅の着物をとってきた。
さかずき
うしろで、
あおじろ
ひっ
ながじゅ
ゆうぜん
「かんぱい
えりがみ
くせもの
たま
「似合う似合う、わっはっは」「乾盃だ!」と盃をうちつける、とたんに!扉を蹴放して跳りこんだ新三郎、
づいて聞えてきたのは、、「おい、この日本娘にも呑ませろよ!」「そうだそうだ、強情を張りやあがったら、口を割ってでもやれ!」という声。「澄江だ!」と胸おどらせた新三郎、声を頼りに忍んでいくと、雑具室の奥にもうひと部屋ある様子、話声はそこから聞えてくる。「ここだ!」と頷いて、静かに壁をさぐって行くと、扉の握り手にふれた。音のせぬように、そろそろとあけて覗くと、案の定、そこはがらんとした監禁室で、中央にランプを下げ、三名の荒くれた士官が坐りこみ、手に手に盃を持って騒いでいる。「澄江は?」と見ると、士官共のまん中に、着物を剥がれて半裸体、しかも後手に縛りあげられて、蒼白い顔をきっとあげ、さすがは日本の乙女だ、臆した色を見せずに、卑しみの眼で士官達を見下している。
や
ら長い「おいジャン、己はこの赤い着物をきるぞ」と士官の一人は、そこへ引?いでおいた澄江の長襦袢をとると、へらへら笑いながら着込んでしまった。「よし、では僕はこれを着るぞ」ジャンと呼ばれた士官は、それと見るより澄江の友禅の着物をとってきた。
さかずき
うしろで、
あおじろ
ひっ
ながじゅ
ゆうぜん
「かんぱい
えりがみ
くせもの
たま
「似合う似合う、わっはっは」「乾盃だ!」と盃をうちつける、とたんに!扉を蹴放して跳りこんだ新三郎、
- ひばら「うぬ、犬め!」と叫ぶと、先ずジャンの脾腹を力任せに蹴った。あっ!といって立つ奴を、衿髪つかんで肩車にかけるや、「曲者だ」と仰天して立つ次の奴の、頭の上へぐわんと叩きつけた。なんで耐ろう、「ぎゃっ!」といって倒れる二人、残ったのが短剣を抜こうとする、刹那!手もとにとびこんだ新三郎、拳を握って下腹へひと当て、
目
合。「ぐっ!」といって身を弱める奴を、引落して頸を絞めた。これを見て、
「あ、新三郎様!」と澄江が叫ぶ、走り寄った新三郎、決「しずかに!」制しながら縛った縄をきった。
こぶし
したはら
かが
ひきおと一
決死艦乘
合。「ぐっ!」といって身を弱める奴を、引落して頸を絞めた。これを見て、
「あ、新三郎様!」と澄江が叫ぶ、走り寄った新三郎、決「しずかに!」制しながら縛った縄をきった。
こぶし
したはら
かが
ひきおと一
決死艦乘
[#3字下げ]あっぱれ新三郎![#「あっぱれ新三郎!」は中見出し]
縄をとかれた澄江は、
「新三郎様、ありがとうございます」とすがりつく。
「もはや大丈夫でござる、さぞ苦痛《いた》いめをみられた事でござろうな」
「もう駄目かとぞんじ、じつは今宵《こよい》にも舌を噛切《かみき》って死のうかと――」
こょい
かみき?________________
「新三郎様、ありがとうございます」とすがりつく。
「もはや大丈夫でござる、さぞ苦痛《いた》いめをみられた事でござろうな」
「もう駄目かとぞんじ、じつは今宵《こよい》にも舌を噛切《かみき》って死のうかと――」
こょい
かみき?________________
1
90
危い時にまに合ってようござった」「嬉しゅうぞんじます」韓と手をとる澄江、新三郎も思わず引寄せて背を撫でてや
はインサインがかんしてしへ
ささや
こころえ一
臆病-番首
「ところで」と、やがて気を取直した新三郎は、澄江の耳へ口をよせてしばらく何か囁いたが、「はい、心得ました」
頷く澄江、新三郎は自分の着ている水兵服を脱ぐと、手早く澄江に着せて、しずかに監禁室を出て、雑具室から廊下へぬけた。「ようござるか、決死の覚悟で」「はい、それでなくとも死んだつもりの私、必ずお役目を果します」手をとり合った二人は、まっ直ぐに艦長室へ近づいた。新三郎は扉へ近寄って叩く。「誰だ?」と答える声。
明
こで「三等水兵マズルウであります」「なんだ、入れ!」「はっ」扉をあけて入ると、艦長は軍服のまま机に向っている、新三郎につづいて入った澄江は、艦長が振向かぬまにそばの衣装戸棚の蔭へ身を忍ばせた。
かげ
テーブル
しょるいばこ
ピストルとりだ
ひるが
そこ
決死仏艦乗込み
「なんの用だ!」と振返った艦長、そこに立っている稽古着ひとつの新三郎をみつけて、「あっ!」と叫んだ。新三郎はにっこり笑って、
、
、「機関部の密図を頂きにまいりました」の「なにっ!」と思わず艦長は、卓子の上にある書類筐を手でおさえた。
「その書類管の中にあるのですね」という新三郎、隠れている澄江に眼配せをするみすきだ、つと艦長が短銃を取出す、
「しまった」と叫んだ新三郎、燕のように身を飜えすと、ぱっと室をとび出した。「曲者だ、みんな来い!」喚きながら追ってでる艦長、声を聞きつけて其室からも此室からも、士官やら水兵やらがぞくぞく出てきた。
資「あすこへ行く奴を捕えろ、日本人だ!」「それ!わっ!」と雪崩のように追う。見取図で艦内の容子に精しい新三郎は、狭い廊下狭い通路を選んで逃げる、追う方は大勢だから、互いにぶつかったり躓いたりして、不便この上もない。二十分あまりたったと思う、時分はよしと、新三郎は火薬庫の中へかけこんだ。「しめた、追込んだぞ!」と勇み立って、艦長を先頭にどやどやとこみ入ってみる
ここ
つかま」
になだれ|
ようす
くわ
つまず
おいこ」?________________
90
危い時にまに合ってようござった」「嬉しゅうぞんじます」韓と手をとる澄江、新三郎も思わず引寄せて背を撫でてや
はインサインがかんしてしへ
ささや
こころえ一
臆病-番首
「ところで」と、やがて気を取直した新三郎は、澄江の耳へ口をよせてしばらく何か囁いたが、「はい、心得ました」
頷く澄江、新三郎は自分の着ている水兵服を脱ぐと、手早く澄江に着せて、しずかに監禁室を出て、雑具室から廊下へぬけた。「ようござるか、決死の覚悟で」「はい、それでなくとも死んだつもりの私、必ずお役目を果します」手をとり合った二人は、まっ直ぐに艦長室へ近づいた。新三郎は扉へ近寄って叩く。「誰だ?」と答える声。
明
こで「三等水兵マズルウであります」「なんだ、入れ!」「はっ」扉をあけて入ると、艦長は軍服のまま机に向っている、新三郎につづいて入った澄江は、艦長が振向かぬまにそばの衣装戸棚の蔭へ身を忍ばせた。
かげ
テーブル
しょるいばこ
ピストルとりだ
ひるが
そこ
決死仏艦乗込み
「なんの用だ!」と振返った艦長、そこに立っている稽古着ひとつの新三郎をみつけて、「あっ!」と叫んだ。新三郎はにっこり笑って、
、
、「機関部の密図を頂きにまいりました」の「なにっ!」と思わず艦長は、卓子の上にある書類筐を手でおさえた。
「その書類管の中にあるのですね」という新三郎、隠れている澄江に眼配せをするみすきだ、つと艦長が短銃を取出す、
「しまった」と叫んだ新三郎、燕のように身を飜えすと、ぱっと室をとび出した。「曲者だ、みんな来い!」喚きながら追ってでる艦長、声を聞きつけて其室からも此室からも、士官やら水兵やらがぞくぞく出てきた。
資「あすこへ行く奴を捕えろ、日本人だ!」「それ!わっ!」と雪崩のように追う。見取図で艦内の容子に精しい新三郎は、狭い廊下狭い通路を選んで逃げる、追う方は大勢だから、互いにぶつかったり躓いたりして、不便この上もない。二十分あまりたったと思う、時分はよしと、新三郎は火薬庫の中へかけこんだ。「しめた、追込んだぞ!」と勇み立って、艦長を先頭にどやどやとこみ入ってみる
ここ
つかま」
になだれ|
ようす
くわ
つまず
おいこ」?________________
つみあ
セットクル
おち
つき一
臆病一番首
てなげだん%と、新三郎は山と積上げた火薬を背にして、片手に手投弾を高く振上げて立ってい
た。電「あっ!」と息を呑む艦長。パ
ー「どうですデマリオン大佐、短銃をお撃ちなさいませんか、それともこの手投弾を叩きつけましょうか――?」「ま、待て」大佐は慌てて制した。「待てとおっしゃるなら待ちましょう、そこではっきりした談判だ!」新三郎は落着はらったものだ。「私は正当な要求として、ネプチュンの機関部の密図を頂戴いたしたいのです」「正当な要求?」「そうです、貴艦の水兵は、長崎で日本の乙女を不法に誘拐しました」「だがその二人は無事に返したはずじゃ」管クー「一人残っております」「しかしそれも、お国の役人衆が、艦内を捜査した結果、監禁していない事をたしかめて帰られておる」「ところが娘は現にこの艦の秘密監禁室に捕えられておりました、ジャンという士
ちょうだい
ばか
はだぎ
ピストル
はた
決死艦乘??
官とほか二人の者が、娘を裸にして酒を呑み、狼藉を働いている場所を私が発見したのです」「そんな馬鹿な話があるか」「人をやって下さい、雑具室の奥に、乙女の着物、肌衣を着た、三人の士官が倒れているはずです!」
艦長はすぐに人をやった。そして三人の士官が、新三郎のいう通り、澄江の着物みを着てぐでんぐでんに酔っ払っているさまを見た時、手にした短銃を下ろした。
「私の父は役目を果さなかった責をひいて、今宵自殺しようとしました。密図を借覧させてくれぬ限り、私もこの手投弾を叩きつけて火薬庫を爆破し、ネプチュンを長崎湾の水底に沈めるつもりです、デマリオン大佐!」
第
7新三郎はきっぱりといった。、、、「機関部の密図の借覧を承知しますか、それともネプチュンを爆破しましょうか」「儂の負けじゃ」大佐は呻いた。「いかにも密図を貸そう、だがそれはネプチュン爆破が怖ろしいからではない、
貴下の素晴しい勇気に感じたからじゃ、ああ儂は生れてはじめて日本人の恐ろしさ%を知った」
あなた?________________
セットクル
おち
つき一
臆病一番首
てなげだん%と、新三郎は山と積上げた火薬を背にして、片手に手投弾を高く振上げて立ってい
た。電「あっ!」と息を呑む艦長。パ
ー「どうですデマリオン大佐、短銃をお撃ちなさいませんか、それともこの手投弾を叩きつけましょうか――?」「ま、待て」大佐は慌てて制した。「待てとおっしゃるなら待ちましょう、そこではっきりした談判だ!」新三郎は落着はらったものだ。「私は正当な要求として、ネプチュンの機関部の密図を頂戴いたしたいのです」「正当な要求?」「そうです、貴艦の水兵は、長崎で日本の乙女を不法に誘拐しました」「だがその二人は無事に返したはずじゃ」管クー「一人残っております」「しかしそれも、お国の役人衆が、艦内を捜査した結果、監禁していない事をたしかめて帰られておる」「ところが娘は現にこの艦の秘密監禁室に捕えられておりました、ジャンという士
ちょうだい
ばか
はだぎ
ピストル
はた
決死艦乘??
官とほか二人の者が、娘を裸にして酒を呑み、狼藉を働いている場所を私が発見したのです」「そんな馬鹿な話があるか」「人をやって下さい、雑具室の奥に、乙女の着物、肌衣を着た、三人の士官が倒れているはずです!」
艦長はすぐに人をやった。そして三人の士官が、新三郎のいう通り、澄江の着物みを着てぐでんぐでんに酔っ払っているさまを見た時、手にした短銃を下ろした。
「私の父は役目を果さなかった責をひいて、今宵自殺しようとしました。密図を借覧させてくれぬ限り、私もこの手投弾を叩きつけて火薬庫を爆破し、ネプチュンを長崎湾の水底に沈めるつもりです、デマリオン大佐!」
第
7新三郎はきっぱりといった。、、、「機関部の密図の借覧を承知しますか、それともネプチュンを爆破しましょうか」「儂の負けじゃ」大佐は呻いた。「いかにも密図を貸そう、だがそれはネプチュン爆破が怖ろしいからではない、
貴下の素晴しい勇気に感じたからじゃ、ああ儂は生れてはじめて日本人の恐ろしさ%を知った」
あなた?________________
しりめ
大佐はそういって去ろうとする、新三郎はそれを止めて、「ああ、密図ならもう頂いてあります」また、
日本人。「え?何?」と驚くのを後眼に、新三郎は物陰にひそんでいた澄江をさし招いた。澄江は書類筐を奪って早くもここに隠れていたのである。「あっ!」と眼を瞠るデマリオン大佐。今までで
も「ご紹介しましょう、これが捕われていた澄江です!」首「素晴しい、じつに際立った少年だ!」大佐は舌を巻いて嘆賞する、新三郎は書類筐を抱えて、悠々と笑った。
かくて数ヶ月の後、日本における最初の鋼鉄軍艦朝日は、無事に竣工し、堂々たる勇姿を長崎湾上に浮かべたのであった。日本恐るべし!の言葉は、この時分から欧米諸国の人々にいわれ初めたのである。あっぱれ新三郎!
大佐はそういって去ろうとする、新三郎はそれを止めて、「ああ、密図ならもう頂いてあります」また、
日本人。「え?何?」と驚くのを後眼に、新三郎は物陰にひそんでいた澄江をさし招いた。澄江は書類筐を奪って早くもここに隠れていたのである。「あっ!」と眼を瞠るデマリオン大佐。今までで
も「ご紹介しましょう、これが捕われていた澄江です!」首「素晴しい、じつに際立った少年だ!」大佐は舌を巻いて嘆賞する、新三郎は書類筐を抱えて、悠々と笑った。
かくて数ヶ月の後、日本における最初の鋼鉄軍艦朝日は、無事に竣工し、堂々たる勇姿を長崎湾上に浮かべたのであった。日本恐るべし!の言葉は、この時分から欧米諸国の人々にいわれ初めたのである。あっぱれ新三郎!
底本:「周五郎少年文庫 臆病一番首 時代小説集」新潮文庫、新潮社
2019(令和1)年10月1日発行
底本の親本:「少年少女譚海」
1933(昭和8)年2月号
初出:「少年少女譚海」
1933(昭和8)年2月号
※表題は底本では、「決死|仏艦《ふつかん》乗込み」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ
2019(令和1)年10月1日発行
底本の親本:「少年少女譚海」
1933(昭和8)年2月号
初出:「少年少女譚海」
1933(昭和8)年2月号
※表題は底本では、「決死|仏艦《ふつかん》乗込み」となっています。
入力:特定非営利活動法人はるかぜ