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harukaze_lab @ ウィキ

羅刹

最終更新:2019年11月13日 20:04

harukaze_lab

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管理者のみ編集可
羅刹
山本周五郎

-------------------------------------------------------
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)魁偉《かいい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)土|埃《ぼこり》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号またはUnicode、底本のページと行数)
(例)※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64]
-------------------------------------------------------

[#8字下げ]一[#「一」は中見出し]

「うすっきみが悪いな」鬼松が眉をひそめながらそう云った。「……おまえさんさっきからおれの面ばかり見ているが、どうしてそうじろじろ見るんだ」
「見ちゃ悪いのかい」
「そういうわけじゃないが、おまえさんの眼がきみが悪くていけねえから」
「ふふん」
 相手は顔をしかめながらせせら笑いをした。
 奇妙な男だった。この近江路で鬼松といえば、熊髭の生えた魁偉《かいい》な顔つきとともに知らぬ者のないごろつき馬子である、強請《ゆす》りや押し借りは云うまでもなく、酔えば鬼のように暴れまわって手がつけられない、ほんとうの名は松蔵というのだが、この街道筋では鬼の松蔵、ひと口に鬼松と呼んで、彼の姿が見えるとみんな道をよけて通るほどだった。ところがその若者は、道で鬼松に会うといきなり「親方、すまないが一杯つきあって貰えまいか」そう云って誘いかけた。曽《かつ》てないことなので、さすがの鬼松も少しばかりとまどいしたが、別に断わることもないのでいっしょにこの支度茶屋へはいった。それから一刻《いっとき》あまりもこうして呑み合っているのだがどういうわけか気持が落着かなかった。相手の男は二十七八であろう、色のあさ黒い痩《や》せたからだつきの町人風だが、どこかに神経のぴりぴりした尖《とが》りがみえる、殊に落ち窪《くぼ》んだ両眼はねばりつくような光を帯びていて、それがさっきから絶えず鬼松の顔をするどく見つめ続けるのだった。
「つまらねえ面《つら》だ」やがてその若者が吐き出すように云った。「……どこからどこまで下司に出来ていやぁがる、まったくとりえのねえ駄面《だつら》だ」
「そいつはおれのことか」鬼松が聞き咎《とが》めた。
「そうだおまえの面だ」若者はぐいと身を乗り出すようにした、「……この近江路でおまえは鬼の松蔵とか云われているそうだが、評判ほどにもない間抜けな面じゃないか、そのうえ他人の振舞い酒に酔って筋のほぐれたところは、まるで潮吹き面《めん》の水ぶくれというざまだ、これからは潮吹き松と呼ぶがいいぜ」
「――――」松は胆をぬかれた。いったいなんのために酒を奢《おご》って呉れたのか、なんのためにじろじろ顔ばかり見るのか、なんのためにそんな悪態をつくのかまるで見当がつかない、けれども、潮吹き面の水ぶくれと云われてはもう黙っているわけにはいかなかった、「……おい、きさまそれを正気で云っているのか」
「念を押すにゃ及ばねえ」
「なんだと、もういちど云ってみろ」松蔵の顔はかっと赤くなった。
「うぬの面の棚卸《たまおろ》しをされて念を押すにゃ及ばねぇと云うのだ」
「ぬかしたな」
 がらがらと皿小鉢をはね飛ばしながら鬼松が若者へ組み付いた。居合せたほかの客たちは総立ちになる、店のあるじがびっくりして、暖簾《のれん》口から「松造さんそりゃいけない」と、とび出して来た。然しそれより早く、
「あれ危ない、待って下さい」と叫びながら、まだ若い町娘がひとり外から走りこんで来て、いま若者を殴ろうと振り上げた鬼松の腕へひっしとしがみついた。「ええ放しゃがれ」「どうぞ待って下さい、お詫びはどのようにでも致しますからどうぞ待って」
 紫陽花《あじさい》の花が咲いたような、みずみずと美しい娘だった、客たちも眼をみはったが、亭主はあっと叫んで駈け寄った「これ松蔵さん乱暴しちゃあいけない、浄津の嬢《いと》さんだ、近江井関の嬢さんだぞ」「えっ……」と、松蔵はびっくりして手をひいた。浄津の近江井関と云えば、いま天下に幾人と指に折られる面作《おもてつく》り師《し》であるが、それだけではなく、度量のひろい義侠心の強い人で、ずいぶんひとの世話をよくするし、またお留伊と云う美しい娘があるので、この近江路の人びとには有名だった。いかに鬼松があぶれ者でも、お留伊と聞いては乱暴はできない、ひょいと手を放して脇へとび退いた。
「さあ宇三郎さん早く」と、娘はこの隙にすばやく若者を援け起し、ふところから小銭袋を取出して、「これであとのことを頼みます」と茶店のあるじに渡し、若者のからだを抱えるように店の外へと出ていった。

[#8字下げ]二[#「二」は中見出し]

 小坂の駅《うまや》を出はずれて、道から少しはいった竹藪の中にひと棟のあばら家が建っている。藁葺きの屋根は朽ち、軒は傾き、壁は頽《くず》れて穴があいている。竹藪も荒れているし、居まわりは茫ぼうと草が生い繁って、とうてい人が住むとは思えないけしきだ、この荒涼たる家が若い面作り師宇三郎の住居であった。
「お酒なんかあがったことのない貴方が、どうしてこんなに召上ったのです、苦しゅうございましょう」「いや……」「少し横におなりなさいまし、いまお冷を持ってまいりますから」「大丈夫です、どうか構わないで下さい」
 すっかり悪酔いをしたらしい、顔は血のけを失って蒼白くなり、溺れる者のように烈しく喘《あえ》いでいた。お留伊は木屑の散らばっている床板の上へ、破れた敷き畳をおろして宇三郎を寝かし、厨《くりや》から金椀へ水を掬《く》んで持って来た。「さあ召あがれ、よろしかったらまたかえてまいりますから」
「済みません」半ば起きかえって、ひと息に水を呷《あお》った宇三郎は、苦しそうに充血した眼を振り向けながら云った、「どうしてまたあなたは、あんなところへおいでになったんです」
「お仕事のようすがどんなかと思いまして」
「…………」宇三郎は眉をしかめた。
「下検《したみ》の日限がもう三日さきに近づいていますから」
「ああ知っています」彼は苦しげに首を振り眼をそらした。
「宗親さんも外介さんも、もうお仕上げになったそうです、宇三郎さん、あなたも日限までにはお間にあいになりまして」
「そう思ってはいるんですが」
「彼処にあるのがそうでございますか」お留伊はそう云って部屋の向うの仕事場に殆ど彫りあがっている三面の面《おもて》へふり返った。だが宇三郎はみずから嘲《あざ》けるように首を振った。
「駄目です、あんなものはお笑いぐさです」
「それではまだ、なかなかなのでございますね」
「お留伊さん、いや、嬢《いと》さん」宇三郎は思いきったように眼をあげた。
「……宇三郎はこんどはだめかも知れません、もし間にあわないようだったら、どうか私のことは諦めて下さい」
「そんなことを留伊が承知するとお思いになって」
「しかし日限までに仕上らなかった場合には」
「いいえ厭《いや》です」娘は屹《きっ》とこちらを見た、「……あなたはこんどこそ、これまで人のしない活き面というものを打つと仰《おっ》しゃいました、必ず二人に勝ってみせると仰しゃったからこそ、わたくしは父《とと》さまのいうことを承知したんです、それを今になってそんな、そんなことはわたくし伺いたくございません」
「正直に申しますが嬢さん」宇三郎はつき詰めたようすでこう云った、「私は初めてほんとうの自分の値うちがわかりました、近江井関の門ちゅうわが右に出る者なしと他人をみくだし己れに慢じていた、きょうまでの自分を思うと恥かしくて死にたくなります、あなたにも、こんどは百世に遺る活き面を打って見せるなどと云いはしましたが、いざ仕事に掛かって見ると手も足も出ません、ひと鑿《のみ》も満足な彫りが出来ないのです」
 宇三郎は、近江井関と呼ばれる面作り師、かずさのすけ親信の門下で、高井の宗親、大沼の外介と共に井関家の三秀と称せられ、なかでもいちばん師の親信に望みをかけられている男だった。すでに老年の上総介は、数年まえから跡目をきめて隠退しようと考え、むすめの婿に三人のうち誰を選ぶか当惑していた。そこへよい機会が来た、それは京の三位侍従ふじわらの糺公《ただきみ》から、井関家へ羅刹《らせつ》の仮面の註文があった、その年(天正十年)の七月七日、糺公の近江井草河畔にある荘園において七夕会の催しがある、そのおり用いる猿楽の仮面で、糺公みずから着けて舞うためのものだという。親信はこれこそなによりの好機だと思い、三人を呼んでかれらのうち最も傑れたものを井関家の跡目に直し、また娘のお留伊をめあわせるという条件で、羅刹の面のくらべ[#「くらべ」に傍点]打ちを命じた。
 三人はもちろん承知した。宇三郎は特にきおい立った、これまでの仮面はたいてい伝習にとらわれていて、先人の遺した型式から脱けきれず、ようやく平板と無感覚に堕しつつある、彼はそれを打倒するために活き面という一つの作法を思いついた。それは在来の面型からはなれ、どんな仮面にもそれぞれの性格と内容をつかみ、たとえ架空のものでも現実に活けるが如く表現しようというのである。むろんそれには塗り方にもくふうを要するので、この数年は殆どそのために精根を傾けて来たのであった。……それゆえくらべ[#「くらべ」に傍点]打ちと聞いたときは、これこそ活き面のなんたるかを示して一世を驚かす絶好の折だと思い、大きな自信と勇気をもって起ったのだ。彼は必ず勝つと信じたし、勝たなければならなかった、なぜならば彼とお留伊とは、二年ほどまえからひそかにゆくすえを誓っていた、どんなことがあっても変るな、変るまいとかたく誓いを交わしていたのだ、そのことからいっても、ぜひ三作の第一にぬかれなければならなかったのである。

[#8字下げ]三[#「三」は中見出し]

「いつか話したように、活き面として初めて世に問う作です、どうかして羅刹の新しい形相をつかもうと、きょうまでずいぶん苦心してみたのですが、いかに苦しみもがいてもこれはと思うものが見えてこない、どうしても。日限がこのとおり迫っているのに、まだ相貌《そうぼう》さえつかめないのでは、もう投げるより他はないと思います」
「宇三郎さま」お留伊は身をすり寄せた、「……あなたはいま、他人をみくだし己れに慢じていたと仰しゃいました、それを思うと恥じて死にたくなる、と仰しゃいましたのね」
「私はばか者です、口ばかり巧者で才能もなにも無いのら者です」
「そうだと思います、もしこのまま鑿《のみ》を捨てておしまいになるようなら、あなたの仰しゃるとおりだと思います、けれど宇三郎さま、あなたには今こそほんとうのお仕事の出来るときが来たのです、慢心していた、才能もなにもないという、はだかになった謙虚なお気持こそ、りっぱなお仕事をなさる下地ではないでしょうか、留伊はそうお信じ致します、宇三郎さまわたくしの眼を見て下さいまし」
 娘は姿勢を正してこう云った、
「三日のちには下検《したみ》があります、そして留伊は、いちばん傑《すぐ》れた作を打った方の妻です、そしてそれはあなたを措《お》いて他にはございません」
「…………」宇三郎の頬にふと赤みがさした。
「留伊は三日のあいだお待ち致します、そしてもし日限までにあなたが浄津へおみえにならなかったときは、そのときは、わたくし自害を致します」
「……自害をする」
「留伊にはあなたの他に良人はございませんから」
 娘の眼には澄み徹《とお》るような色が湛えられていた。そしてそれだけ云い遺してお留伊は帰り去った。……宇三郎は憑《つ》かれたような眼をして、じっと空の一点を覓《みつ》めていた。お留伊の去ったのも知らなかった。頭のなかには光を放つ雲がむらむらと渦を巻き、からだじゅうの血が湯のように沸きたった。手に、足に、腹に、いつか力の湧きあがるのが感じられる。
「そうだ」やがて彼は喘ぐようにこう呟《つぶや》いた「……おれは選まれた男の筈だ、活き面という新しい仕事、これまで誰も試みたことのない仕事がそうたやすくできるわけはない、苦しむんだ、もっと根本的に苦しんで、必ず第一作を打ってみせるんだ、必ずだ」
 ちからが甦《よみが》えってきた。いちど絶望のどん底まで落ち込んだだけに、盛り返してきた情熱は充実したものだった。彼は仕事場に坐ると新しい木地をとり出して、わきめもふらず仕事にかかった。宇三郎のやりかたは二面の木地を交互に彫る、興の続くあいだは一つの面を彫り進め、或るところまでいって滑《なめ》らかに興が動かなくなると、別の面に鑿を移すのである。然しこれは二個の違ったものを彫るのではなく「羅刹」という一つの抽象を、二様の角度から現実的に追求する手法なのだ。一鑿、一彫、骨を削り肉を刻む苦心だった。あるときは絶望の呻《うめ》きをあげ、あるときは歓喜の叫びをあげながら、殆ど二昼夜あまりは食事もとらず、夜も眠らず、鑿と小槌にいのちの限りを打ち込んで仕事を続けた。
 仕上げの小刀《さすが》を終ったのは、すでに日限の当日も午《ひる》ちかいころのことであった。下検だから着彩はしなくともよい、「……出来た」と道具を置いたときには、二十四刻ぶっとおしの疲れが一時に出て、そのままそこへ倒れてしまいたい気持だった、けれどもお留伊が待っていること、刻限に遅れると、とり返しのつかぬことになるかも知れないということを思い、もうかなり饐《す》えのきた粟飯で飢を凌《しの》ぐと、彫りあげた仮面を筐《はこ》に納め、ふらつく足を踏みしめながら家を出ていった。四月下旬の強い日光が、乾いた道の上にぎらぎらと照り返して、精根の衰えた宇三郎の眼を針のように刺した。暫くもゆかぬうちにからだじゅうぐっしょりと膏汗《あぶらあせ》がながれ、ともすると烈しいめまい[#「めまい」に傍点]に襲われて、なんども休まなければならなかった。
 浄津まで半道、浜田郷へかかると間もなくだった。「まあ宇三郎さま」というこえに気づいて見ると、向うからお留伊が小ばしりに馳けて来た。「……おできになりまして、間にあいましたのね」
「眼をつぶって仕上げました」
「これで命を拾いました、ようこそ、宇三郎さま」お留伊は美しい額に、匂うばかり汗の玉を浮かせたまま、うわずったような眼で宇三郎をじっと見た、「……とても家におちついていられませんでしたから、お迎えにあがろうと思ってぬけてまいりました、わたくしお持ち致しましょう」
「いや大丈夫、自分で持ちます」
 それでもとお留伊が筐へ手をさしだしたときである。道の東から十七八騎の武者たちが、凄《すさ》まじい勢いで馬を駆って来た。大将とみえる先頭のひとりは、藍摺《あいずり》の狩衣に豹《ひょう》の皮の行縢《むかばき》を着け、連銭葦毛《れんせんあしげ》の逸物を煽《あお》りあおり、砂塵をあげながら疾風のように殺到して来た。……陽ざかりのことで人通りは少なかったが、子供たちが四五人その道の上で遊んでいた。
「ああ危ない、馬が」と、思わず宇三郎が叫んだ、それを聞いて大きい子供たちはすばやく逃げたが、三歳ばかりの幼児がひとり逃げ後れた。すると、町並の軒下から母親であろう、まだ若い一人の女が、「あれ坊や」と絶叫しながら、はだしのままとびだして来た、そと地を踏み鳴らして馬が襲いかかった。

[#8字下げ]四[#「四」は中見出し]

 子を思う捨て身の母は、夢中で幼児の上へ覆いかかった、それに驚いたのだろう、馬は烈しく首をふり上げながらぱっと跳ねあがった、すると馬上の武将は片手で手綱を絞りながら、「無礼者」と叫びざま腰の太刀を抜いて、さっとひと太刀その女を斬った。
「ああ」という恐怖の叫びが見ていた人びとの口を衝《つ》いて出た、「むざんな」「なんということを」そう云うまに女は、肩のあたりを血に染めながら、それでも子供を抱えたまま四五足走り、なにかに躓《つま》ずきでもしたようにどっと倒れた。すぐ眼のさきの出来事であった、茫然として宇三郎は馬上の武将をふり仰いでいたが、ふいに大きく眼をみひらきながら、
「ああ、あれだ」と呻き声をあげた、「……羅刹、羅刹、あれこそおれの求めていた羅刹の形相だ」
 女を斬った瞬間、その武将の顔に類のない残忍酷薄な相貌が表われた、然し宇三郎が眸子《ひとみ》をとめて見極めようとしたときには、すでに相手は狂奔する馬を駆って、供の騎馬たちと共に風の如く駈け去っていた。
「あの顔だ、あの顔だ」宇三郎はひっしと眼を閉じて、いま見た形相を空に描こうとした、けれども恐怖の一瞬に見た淡い印象は、霧のように漠として、もはや彼の眼には甦《よみが》えってはこなかった、「……ああ、あれほどの相貌を見ながら」身もだえをしたいような気持でそう呟《つぶや》いた。そこへ再び蹄《ひづめ》の音がして、前髪だちの美少年が一騎だけ戻って来た。倒れている女を介抱していた人びとは、「それまた来たぞ」と憎悪の叫びをあげながら左右へ散ったが、少年は大きく右手をあげ「騒ぐには及ばぬみんな鎮まれ」と制止して云った、「……右大臣家には中国征伐の事で御きげんを損じておられる、まことに気の毒なことをした、その女の身よりの者でもあれば、安土の城へ森蘭丸といって訪ねてまいれ、償いの代をとらせるであろう」
「――――」みんな黙っていた、黙ったまま敵意のこもった眼でじっと見あげていた。少年は重ねて、「……必ず城へまいるがよい、決して悪しゅうは計らわぬぞ、まことに気の毒であった」そう云い、馬をめぐらせて駈け去った。里びとたちは砂塵のあとを見送りながら、「それでは今のは右大臣さまか」「なるほど安土の殿のやりそうな事だ」口ぐちにそう囁《ささや》き交わした。お留伊はようやく恐怖から覚めたように、
「まあ怖いこと、宇三郎さま早くまいりましょう」と声をふるわせて云った。
「いやお留伊さんいきますまい」宇三郎は娘のほうへ屹《きっ》とふり返った、「……私はここから帰ります」
 思いがけない言葉に留伊は眼をみはった。
「うちあけて申しましょう、お聞き下さい」彼はお留伊を脇のほうへ誘って、なにかつきあげるような調子でこう云った、「……私がこれまで苦心してきたのは、これぞ羅刹という形相を掴《つか》むことができなかったからです、どんなに想を練ってもつきとめられなかったので、私は生きている人間からそれをみつけだそうとさえしました、覚えていますか、あの支度茶屋で鬼松に喧嘩をしかけたことを、実はあれもそのためでした、鬼松を怒らせたら、殊によると求める形相が見られはしまいか、そう思ってわざと喧嘩をしかけたのです」
「まあ」お留伊は大きく溜息をついた。
「ところで今、女を斬った右大臣のぶなが公の面に、私はまざまざと見たのです、私の求めていた羅刹の相貌を」宇三郎は苦しげに手を振った、「……それは眼叩《またた》く間のことで眼にも止めるひまがなかった、けれども暴悪可畏といわれる悪鬼、衆生を害迫して無厭足といわれる羅刹の形相が、たしかにありありと見えたのです」
「それで、どうなさろうと仰しゃいますの」
「お留伊さん、宇三郎を安土へゆかせて下さい、一面ここへ打っては来ましたが、あれだけの形相を見たうえはこんな面を出すことはできません」
「安土へいってどうなさいます」
「右大臣家をつけ覘《ねら》います、もういちどあの形相を見るまでは、どんな苦心をしてもつけ覘います、お留伊さん、あなたも近江井関家のお人なら、宇三郎のこの気持はわかって下さる筈《はず》です」
「――――」お留伊は深く額を伏せた。
「私にはもう井関家を継ごうなどという慾はありません、いのちを賭《と》しても羅刹の活き面が打ってみたいのです、ゆかせて下さい」
「おいでなさいまし」お留伊はおちついた声でそう答えた、「……父にはお打ちになったその面を頂いていって、留伊からよくお話し申します」
「ああゆかせて呉れますか」宇三郎は眼を輝かしながら、感動に堪えぬもののように空をふり仰
いだ。

[#8字下げ]五[#「五」は中見出し]

「三位侍従家へ納めるのは七夕会のまえです、それ迄《まで》にはまだ間があります、浄津のほうは留伊がおひきうけ致しますから、どうぞ心置きなくいらしって下さい」
「有難う、このお礼はきっとしますよ」
「それからこれを」お留伊はふところから銭袋をとり出した、「……実はきょうもしあなたが未だお出来にならなかったら、ごいっしょに他国をする積りで用意して来たものです、たくさんはありませんけれど、どうぞお遣いになって下さいまし」
「なにも云いません、この場合ですから遠慮なしに頂きます」宇三郎の眼にはふっと涙がうかんだ、「……ではこころ急ぎますからこれで」
「どうぞおからだに気をつけて」
「待っていて下さい、きっと、きっとめざすものをつかんで来てみせます」こう云って宇三郎は踵《きびす》を返した。
 家に帰って旅支度をすると、一刻の猶予もなく小坂を出立した。
 然し、彼が安土へ着いておちつく間もなく、信長は中国征討の軍を督するため、安土城を出て幕営を京へ移した。もちろんためらうことはない、宇三郎もすぐに後を追ってしゅったつしていった。
 京へはいった信長は三条堀川の本能寺に館し、宇三郎は五条高辻にある梅屋五兵衛という旅宿へ草鞋《わらじ》をぬいだ、そして浄津のお留伊のもとへあらましを書いて便りを出した。安土にいるときには、足軽になってでも近づく積りであったが、京へ移ってはもうそれもできない、来る日も来る日も、北野へ、清水へと見物に出るふりをして、本能寺の周囲を離れず見まわっていたが、信長は絶えて館を出ないので、その姿を見ることさえできなかった。こうして五月二十日が過ぎた、すでに真夏となった太陽は、旱《ひで》りつづきの京の街を、じりじりと灼《や》くように照りつけ、乾ききった道から土|埃《ぼこり》をあげるほどの風もない日が続いた。宇三郎は毎日その陽に曝されて歩きまわったが、やがて過労と、暑気に負けたのであろう、或る夜とつぜん高熱をだして、旅宿のひと間に倒れてしまった。
 ひじょうな高熱と吐瀉《としゃ》で四五日はまったく夢中だった。そのあいだに夢とも現《うつ》つともなく、「国許へ知らせなければなるまい」「処がよくわかっていない」「いやいつか国のほうへ便りを出したようすだから、あの飛脚宿へ訊《き》けばわかるだろう」そんなことを云う人のはなし声を聞いた。おれは大病にかかっているんだ、もしかすると此処で死ぬのかも知れない。宇三郎はうとうとしながらそんなことを考えたりした。
 命に賭けてもという、烈しい執着が命を救ったのかも知れない、いちどは宿の者たちも絶望した病状が、峠を越すとやがてめきめき恢復しはじめた。元もと過労と暑気に負けたのが原因なので、よくなりだすと治りも早く、食事も進むようになって日ましに元気をとりもどした。こうしている間に六月にはいった、天正十年六月一日の夜半を過ぎた頃であった。……なにやら唯ならぬ物のけはいに、ふと眼を覚ました宇三郎は、家の中のようすがあまり険しいので、起きあがって部屋から出てみた。上り框《かまち》のところに、宿の主人や、泊り客たちが集って、ざわざわと不安そうになにか話していた、「どうしたのですか」と、彼がこえをかけたとき、ちょうど表からこの家の下男があたふたと駈け込んで来た。
「たしかに夜討でございます、本能寺をとり囲んでいるらしく、まだ白川の方から軍勢がどしどし押し寄せてまいります」
「やっぱりそうか、どうも唯事ではないと思った」
「だがまたなんとした事だろう、いまだ大臣さまに敵対するような大将はいない筈だが」
「さきの公方《くぼう》さまの御謀反ではないか」
「表のほうではみんな叡山の荒法師が、先年の仕返しに攻め寄せたのじゃと申し合っております」
「ああ、あんなに鬨《とき》の声が聞える」
「本能寺へ夜討」宇三郎は愕然《がくぜん》とし、その下男の肩を鷲づかみにした、「……それは間違いのないことか、夜討というのはたしかなことか」
「間違いはございません、どなたの軍勢かわかりませんが、たしかに本能寺へとり詰めております、あの物音をお聞きなさいまし」
「しまった」呻きごえをあげて、そのまま外へ駈けだそうとした。そのとたんに、門口から走り込んで来た娘があった。危うくつき当ろうとして「ああ宇三郎さま」と呼びかけられ、びっくりして見ると浄津にいる筈のお留伊だった。
「おお嬢《いと》さん、どうしてこんなところへ」
「あなたがご病気だということを宿から知らせて来ましたので、すぐ浄津を立ってきょうの夕方、ようやく三条の茶久へ着いたばかりでした、明日はお訪ねしようと思っているところへ、思いがけない本能寺の夜討で、供の者とは離ればなれにやっと此処まで逃げて来たのです」
「それはたいへんな苦労をかけました、とにかく此処も危ないようですから、あなたはすぐこの宿の者とどこかへ立退いて下さい」
「立退けと仰しゃって、あなたはどうなさいますの」
「云うまでもない、これから本能寺へゆくのです、あの形相を見ないうち信長公にもしものことがあれば、私は死んでも死にきれません」
「ああいけません、危ない、宇三郎さん」
「放して下さい」
「いくさの中へ、あなたは殺されます」
 狂気のように縋《すが》りつくお留伊の手をふりちぎるようにして、宇三郎はいっさんに外へとびだしていった。

[#8字下げ]六[#「六」は中見出し]

 四条の辻は走《は》せちがう武者たちで揉《も》み返していた。闇をぼかして、乾いた道から硝煙のように土埃が舞い上っていた、白川のほうから馬を駆って来た一隊が、東ノ洞院を坊門のほうへ上りながら、「二条城へ、二条城へ」と鬨をつくった。そこでも此処でも、鎧《よろい》や太刀や、物具が戛《かっ》かっと鳴り、旗差物がはたはたと翻った徒士《かち》武者の一隊が、大辻を北上しようとしていると、鬼殿のほうから疾駆して来た伝令騎が、手旗を振り振り、「四番手、南へ」と喚《わめ》き喚きすれちがった、すると徒士武者たちはわっ[#「わっ」に傍点]と歓呼しながら、濛々《もうもう》たる土埃と共に西ノ院のほうへ押してゆく、こうして辻という辻が軍馬のどよめきで埋まっていた。
 宇三郎はその混乱の中をけんめいに駈けぬけていった。いちど三条の通りまで出たが、そこは寄手の人数で身動きもならなかった。すぐにひき返して六角堂の下の小路を西ノ洞院へぬけ、走せちがう武者たちのあいだにまぎれて、ようやく本能寺の濠へとたどり着いた。そのとき「堀川口が破れた」といううわずった叫喚があがり、雪崩《なだれ》をうって西へ廻る軍勢の中へ、宇三郎はどうしようもなく揉み込まれてしまった。むざんや堀川口はすでに踏み破られ、今しも先陣の武者たちがどっと攻め込むところだった。
 ……宇三郎は突きとばされてのめった、起きあがる頭上に、剣が、槍が、凄《すさ》まじく撃ち合った。築地《ついじ》の犬走《いぬばしり》に添って走ると、単衣に腹巻した者や、寝衣だけの宿直の侍たちが、到るところに斬り倒されて呻いていた、彼は血溜りに足を踏み滑らせたり、死躰に躓ずいたりしてなんども顛倒した。
 客殿の庭でも、すでに守護兵と寄手の者とが斬りむすんでいた。右大臣は、信長公はどこにいるか、気も狂うばかりに唯その事だけを念いながら、宇三郎は方丈の脇から高廊下の下を、客殿のほうへと廻っていった。……病気だけは治ったが、躰力はまだすっかり恢復してはいない、ともすれば息苦しくなり、足もよろめいた。然し執念ともいうべき一心が彼を支え、身の危険を考えるいとまもなく前へ前へと彼を駆りたてた。……すると雅殿の横手へ出たときである、彼はとつぜん「あっ」とこえをあげて立止まった、寐殿の正面高廊下の勾欄《こうらん》に片足をかけて、矢継ぎばやに弓を射ている武将があった。まわりには長巻を持った侍女たちが、守護するようにい並んでいる、まさしく右大臣信長に違いない、「ああ」と、宇三郎は身をふるわせながら高廊下の下へ走りよった。
 信長は生絹《すずし》の白の帷子《かたびら》に紫裾濃の指貫《さしぬき》をはき、忿怒《ふんぬ》の歯をくいしばりながら、弦音を絶やさず寄手の上へ矢を射かけていた。宇三郎は全神経を眼に集めて、くいいるようにその面を仰ぎ見た、けれどもこれほど異常なばあいにもかかわらず、かつて浜田の駅で見た形相は現われていなかった。だめか、宇三郎は拳《こぶし》で空を打った、あれは白昼に見た幻だったのか。否、いなそんな筈はない、たとえ万人は誤り見るとも、宇三郎の眼に狂いはない、きっと出る、あの形相は必ず現われるに相違ない。わなわなと身を震わせながら、眼叩きもせずに見あげていると、やがて信長の持った弓弦がふつと切れた。それと見て侍女の一人が捧げ持っていた十文字槍をさしだした。そのとき方丈のほうから、血がたなを持った小姓たちが二三人、髪をふり乱しながら走って来て、「お上お館へ火が掛りました」と喚いた、信長は愕然としたようだ、「なに火が掛った」と向直るところへ、水牛の角の前立うった兜に、黒糸|縅《おどし》の鎧を着たひとりの武者が、勾欄に手をかけて跳ね上るのがみえた、「ああ敵が」とみつけた小姓の一人が、駈けよりざま斬りつけたが、刃は鎧を打ってがっと鳴っただけだった、そのとき相手はすばやく勾欄をまたぎ、大きく喚きながら強《した》たかに小姓の脾腹《ひばら》を薙《な》ぎ払った。これを見た信長が手にした槍をとり直すと、それよりはやく、「そやつ蘭丸が承る。お上には奥へ」と叫びながら、もう一人の小姓が走せつけた。いつか浜田の駅で見かけたあの美少年である、大槍をとってまっしぐらに踏み込むと、いきなりその武者の高腿へ一槍つけた。武者は呻いて、太刀を振って槍を切ろうとした、小姓は巧みに槍を手繰り、石突をかえして相手の首輪を突き上げた。武者はだっと勾欄へよろめきかかったが、なにやらするどく叫ぶといっしょに、うしろざまに高廊下から庭へ転げ落ちた。
 このあいだに、宇三郎は殆ど夢中で勾欄をよじ登っていた。そして向うにもこっちにも、わらわらと踏み込んで来た寄手の兵が、「右大臣殿に見参」「二位公に見参つかまつる」と喚き交わす声を聞きながら、信長の後を追ってまっすぐに奥殿へと進んでいった。

[#8字下げ]七[#「七」は中見出し]

 奥殿は噎《む》せるような煙の渦だった。ひとりの鎧武者が、槍を持って襖《ふすま》を蹴放しながら、渡殿のほうへ走り去った。宇三郎は信長の姿を追ってさらに奥へはいると、控えの間とみえるところに四五人の侍女たちが、いま自害したばかりであろうまだ呻きごえをもらしながら紅に染って倒れていた。そこへ二人の鎧武者が宿直《とのい》の若侍たちと斬りむすびながら押入って来た、「しばしのあいだ防げ、腹をするぞ」という信長の叫びが聞えた。それに応じてあちらにもこちらにも「お上の御生害だぞ」「いずれも斬死だ」「一歩もひくな」「御先途をつかまつれ」そういう絶叫が起り、若侍たちは必死の刀をふるって、寄手の武者を次の間へ追い詰めた、……寝所の奥にはもうめらめらと火が這《は》っていた、眉を焦がすような熱気と、息苦しいほど密な煙の中に、信長は上段へどっかと坐して、「蘭丸、蘭丸はおらぬか」と叫んだ、返辞はなくて、敵味力の凄《すさ》まじいおたけびと打物の響きが、しだいにこちらへ近よって来る。「日向め」と、信長は眉をつり上げて叫んだ、「……光秀め、むねんだ」
 そのとき、倒れた襖の向うに宇三郎がつく這っていた。彼は今こそ見た、壁代も、御簾《みす》、襖も、火竜の舌のような火が舐《な》めている。業火《ごうか》とはこういうものをさすのだろう、地獄変相図そのままの※[#「陷のつくり+炎」、第3水準1-87-64]《ほのお》だ、そしてその火の中に坐って、肌を寛げる信長の顔に、あれほどの執着をもって彼の待ち望んでいた形相がありありと現われたのだ、「……」熱病にでも襲われたように、ふるふると全身を震わしながら、宇三郎は痛いほど眼をみはってじっと信長の顔を覓《もと》めた。
「……右大臣殿、見参つかまつる」
 とつぜんそう名乗りをかけながら、一人の鎧武者が、煙を背になびかせつつ踏み込んで来た。信長は幽鬼のような眼で振り返った、そのとき神速に走せよった鎧武者は、「天野げんざえもん候」と云いさまさっと一槍つけた、「……御免」
「すいさんなり下郎」高|腿《もも》を突き貫かれて信長ははげしくうしろへ腰をおとした、それと同時に、西側の壁がどうと火の粉を散らしながら崩壊し、天井の一部が燃え堕《お》ちて来た。
「あっ」宇三郎は危うくとび退いて、「見た、見た、見た」と狂気のように叫んだが、そのまま煙の中を、泉殿のほうへとしゃにむに走った。
 どこをどうして脱け出たかわからなかった、火に追われ煙に巻かれ、転げている死躰に躓《つま》ずきながら、まだそこ此処に斬合っている人びとのあいだをすり抜け、庭から木戸へ、そして堀川口から外へ出た、本能寺の炎上する火明りで、道も街並も昼のように明るかった。彼は走せちがう兵馬を避けながら、鬼殿のほうへ曲った、するとうしろから、「宇三郎さま」と呼んで追って来る者があった。ふり返るとお留伊だった、血ばしった眼をして、髪をふり乱して、裾《すそ》もあらわに追いついて来た。
「お留伊さん、いったいどうしたんだ」
「ああご無事で、宇三郎さん」お留伊は彼にとびついた、「よかった、よかった、わたくしもうだめかと思って」
「とにかく、ゆきましょう、ここはまだ危ない」
 彼はそう云いながら、娘のからだを抱えるように走りだした。まっすぐに四条の畷《なわて》みちを河原へぬけた、そこにはさすがに兵馬の姿はみえず、川の上には乳色の朝霧がながれていた。かれらはどちらも苦しげに肩で息をしていた、ある限りのちからで走り、危険からのがれたと感ずると、激しい呼吸が胸をひき裂くかと思え、どちらからともなく抱き合うようにして、露にしめった夏草の上へ倒れた。
「わたくし、すぐあとから追ってまいりました」お留伊は息苦しさと、つきあげてくる情熱にわれを忘れ、そう云いながら犇《ひし》と男をひき緊《し》めた、「……あなたはきっとお死になさる、それならごいっしょに死のう、そう思って追ってまいりました」「死ぬどころですか」宇三郎も娘の手をつよくひき寄せた、「……私は見たんだ、お留伊さん、私は誤まってはいなかった、いつか浜田で見たとおりのもの[#「もの」に傍点]を私は見たんだ、こんどこそまちがいはない、私は世に又とない面を打ってみせます」
「苦しんだ甲斐《かい》がありましたのね、宇三郎さん、うれしい」
 お留伊は男の胸の上に顔を伏せ、身もだえをしながら噎《むせ》びあげた。夜はすでに白じらと明けていた、そしてくっきりと暗く、濃い紺色に空を劃する東山の峰みねの上に、一夜の悲劇を弔うかの如く、茜《あかね》いろの横雲がたなびいていた。

[#8字下げ]八[#「八」は中見出し]

 宇三郎はけだるいからだを、古びた褥《しとね》の上に横たえていた。あげてある蔀戸《しとみど》をとおして、湖のほうから吹いて来る爽《さわ》やかな風に、この家を囲んでいる竹藪《たけやぶ》がさやさやと葉ずれの音を立てている、そのおちついた静かな音は、そのまま宇三郎の心を語るかのようだった。
「やったなあ」彼は吐息と共に呟いた。京からすぐに小坂へ帰った宇三郎は、まだ衰えのひどいからだに鞭打つような気持で、まる二十七日というもの仕事場に籠り、寝ることも食うことも忘れて羅刹の面を打ち上げた。着彩も思ったよりはうまくいった。そしてそれを浄津へ届けると、精も根も尽きはて、虚脱したような気持で、もう三日あまりもこうして寝ているのだった。心はいま水のように澄んでいた。彼は確信をもって羅刹の新しい形相をつかみ、いのちをこめて仕事をした。ちからいっぱいに彫り、彩色にはくふうの限度まで生かした、これこそ百世に遺る作だ。そういうかたい自信と大きな誇りが、胸いっぱいにふくれあがっていた。もはや近江井関の名跡を継ぐ継がぬなどは、問題ではない、彼にはもっと輝かしく高い将来がみえていたのである。
 表からしずかにお留伊がはいって来た。
「宇三郎さん、父《とと》さんがみえました」
「そうですか、お一人でいらっしゃいましたか」
「宗親さまも外介さまも御一緒でございます」
「それでは起きましょう」
 宇三郎は起き直って衣紋《えもん》を正した。きょうは藤原家の荘園で、三人の打った仮面の鑑査があった、選ばれた作に近江井関の跡目を譲り、お留伊を妻《めあ》わせるという、大事な決定のある日なのだ。然し宇三郎は鑑査の席へ出る気持はなかった、三位の侍従などになにがわかる、ただ親方さまだけに見て貰えばいい、そう思って家に残っていたのだ。
「どうなったでしょう」お留伊は不安そうに彼を見あげながら、低いこえで囁くようにそう云った、「……大丈夫でしょうか」
「それが心配になりますか」
「心配は致しませんけれど、もしかして」
「ああお待ちなさい、直ぐにわかりますよ」
 そこへ上総介親信が、二人の門弟といっしょにはいって来た。宗親も外介も、宇三郎には兄弟子に当り、共に親信の家で辛酸を嘗《な》めて来たあいだがらである。「宇三郎おめでとう」はいって来るなり、まだ坐りもしないうちに宗親がそう云った、
「おまえの作が選ばれたぞ、三作の随一はいうまでもない、古今に類のない名作だと折紙がついたよ」そして少し吃《ども》る癖のある外介も口せわしく付け加えた、「猿楽四座の者も立会ったが、一議なしにおまえの作と定まったのだ」「なにしろ見てびっくりした、塗といい相貌といいまったく凄まじいほどの出来ばえだ、侍従さまは余りに凄絶で肌が粟だつと仰せられた」「すぐ御宝物帳にお記し下さるそうだぞ」
「侍従家の宝物帳に載っているもので、近世では三光坊の一作があるだけだろう、これはおまえ一人ではない近江派のためにたいそうな名誉だよ」とめどもなく二人の口を衝《つ》いて出る賞讃の言葉を、お留伊は堪えきれぬ涙と共に夢ごこちに聞いていた。それにもかかわらず、宇三郎は唇のあたりに微かな笑を含んだまま、黙って冷やかに聞いているだけだった。
「さて宇三郎」やがて親信が静かに口を開いた、「いま聞くとおり、三作の内おまえの仮面が第一と定った、初めの約束どおり、お留伊はおまえの妻にやる、おまえと娘に異存さえ無ければだ」
 まさか今ここでそれを云われようとは思わなかったので、お留伊はからだじゅうの血が一時に顔へ上るような恥かしさに襲われ、はっと面を伏せながら脇へ向いた。
「それから」と、親信はつづけた、「……一作に選ばれた者には、井関家の跡を継がせるとも云ったが、少し考えることがあるのでこれは暫《しばら》く預かって置く」
「…………」意外な言葉を聞いて宇三郎はあっと思った、「それはどういうわけでございますか」
「今はなにも云えない」親信はきわめて冷淡にそう云いながら座を起った、「……七夕会には、わしとおまえと二人、侍従家の猿楽に招かれている、まだからだが本復していないようだが、ぜひ拝観にあがるがいい、必ず待っているから」そう念を押すと、帰るぞと云って土間へ下りた。
 宇三郎も意外だったが、宗親も外介も、お留伊にとっても思いがけない結果だった、みんなどうしたことかと呆れて、暫くは茫然と息をのむばかりだった、宇三郎の拳《こぶし》はわなわなと震えていた。

[#8字下げ]九[#「九」は中見出し]

 それからちょうど四日め、七月七日の午後のことだった。近江のくに山田、井草河畔にある三位侍従ふじわらの糺公の荘園は、七夕会の催しで賑わっていた。舞殿にはすでに猿楽のしたくが出来て、保生一座の鳴物も揃い、芝居の筵には拝観の人びとが刻《とき》のくるのを待ち兼ねていた。舞曲は「悪霊逐い」という糺公の自作だった、田畑を荒らす悪鬼、夜叉《やしゃ》のたぐいを、摂伏諸魔善神が現われて得度せしめると、無著羅刹が善性を顕現して、かえって大いに衆生を慈霑《じてん》する、そういう趣向で、羅刹は糺公がみずから舞うのであった。
 ようやくその刻が来た。宇三郎は師の親信同座で、舞台のま近にかしこまっていたが、鳴物が始まると静かに前へ身を乗り出した。「宇三郎」と、親信が囁くように云った、「……気を鎮めて見るのだ、初めて晴の舞台にのぼるおまえの仮面おちついてよく見るのだぞ」「はい」宇三郎はそう答え、眸《ひとみ》を凝《こ》らして舞台を見た。
 舞は厳かに始まった。まず保生進その他の扮《ふん》する悪鬼、夜叉のたぐいが現われ、疫癘《えきれい》を下し田畑を荒らす猛だけしい演技があった、これが暫く続くとやがて、調子の高ぃ鳴物が起り、間もなく糺公の扮した羅刹が、真剣を捧げて颯《さっ》さっと、橋掛りから舞台へ進み出て来た。そのときである、脇眼もふらずじっと羅刹の面を覓《みつ》めていた宇三郎が、ああとぶきみな呻きごえをあげた、親信はするどく彼をかえり見た。宇三郎の顔からみるみる血のけが失せ、額にはふつふつと膏汗《あぶらあせ》が吹きだしてきた、そしてまるで瘧《おこり》にでもかかったように、彼の五躰は見えるほど震慄《しんりつ》し始め、固くくいしばった歯のあいだから、抑えきれぬ呻吟をもらしたかと思うと、両手で顔を庇いながらそこへうち伏してしまった。親信は言葉をかけようともせず、ただ冷やかにそれを見ていた。それからやがて猿楽が終ったとき、はじめて宇三郎の肩へ手をかけながら、「宇三郎、終ったぞ」と云った、彼は殴られでもしたようにはね起きた。
「親方さま、お願いです、お願いです」
「云ってみるがいい、なんだ」
「どうぞ、すぐ侍従さまに会わせて下さいまし、すぐに、どうしても会いしなければならいのです」
「いいだろう」と親信は頷《うなず》いた、「……羅刹の面の打ちぬし、お願い申さなくとも侍従さまからお召しがある筈だ、案内してやるから来るがいい」そう云って立ちあがった。
 家司を通じて伺うと、すぐに許しが出た。二人はそのまま便殿へ導かれていった。……侍従糺公はちょうど衣装を脱いだところで、はいって来る親信師弟を見ると、「ああ近う近う」と機嫌よく身近へ招いた。それから親信が宇三郎を披露すると、悦ばしげになんども頷き、面の作の稀な出来ばえと、その苦心に対して言葉をきわめて褒めた。
「活き面とやら申すそうだが、まことに生あるもののようで珍重に思う、麿のいえの宝物帳にのぼせてながく伝える積りだ、いずれ沙汰《さた》はするが、なにか望みの物があれば申してみい」
「過分のお言葉を頂きまして恐れいりまする、仰せにあまえお願いがございます、私の打ちました羅刹の仮面、いまいちど検《あらた》めさせて頂けまするよう」
「ほう、これを検めるというのか」糺公はなにげなく面を取ってさしだした。宇三郎は少し退《さが》って、暫くのあいだじっとその面をみつめていたが、なにを思ったのだろう、とつぜんそれを膝の下へ入れてぐいと圧した、「なにをする」糺公がそう叫んだとき、羅刹の仮面は膝の下で音たかく二つに割れた。侍従は膝をはたと打ち、「親信、これはなんとしたことだ」と叫んだ。
「ああ暫く」親信は平伏しながら云った、「……不作法は親信いかようにもお詫びつかまつります、然しこれには宇三郎より申上ぐべきことがあると存じます、なにとぞお聞き下さいますよう」
「もちろん聞こう、聞こうぞ宇三郎」
「恐れいり奉ります」宇三郎はそこへ平伏したままこう云った、「……私ごとき未熟の腕で打ちました仮面、おめがねにかなって三作の一に推《お》されましたことは、一代の面目これに越すものはございません、私もこんにちまでは、おろかにも百世に遺る作と自負しておりました、然し、さきほど舞台に上るのを見ましたとき、私は初めて増上慢の眼が覚めました、これは名作どころか、悪作のなかの悪作、面作り師として愧死《きし》しなければならぬ、邪悪の作でございます」
「どうしてだ、なぜ、どこが邪悪なのだ」
「申上げまする」宇三郎は呻《うめ》くような調子で云った、「……このたびの作は、わけあって右大臣のぶなが公の御顔を面形にとりました、打つおりにはわれを忘れ、正邪の差別もつきませんでしたが、いま改めて見ますと、この仮面に現われているのは信長公の瞋恚《しんい》の形相でございました」
「………」侍従はひしと眉をひそめた。
「残忍酷薄な忿怒の相でございました」と、宇三郎は苦しげに言葉を継いだ、「いかなる悪鬼魔神を打ちましょうとも、仮面は仮面として象徴の芸術でなければなりません、それがこの羅刹の面は、ひとりの人間、信長公の瞋恚忿怒の相そのままでございます、仮面としてはまことに邪悪外道の作でございました」
「宇三郎、あっぱれだ」糺公の前を忘れたように、親信は思わずそう声をあげた、
「よくそこに気がついた、よくそれを悟って呉れた、わしはその言葉が聞きたかった。それを聞くために今日まで待っていたのだ、あっぱれだ宇三郎」
「……親方さま」彼は両手で顔を押えた。
「今こそ云おう、この仮面が第一に選まれたときには、おまえに井関家の跡目は許さなかった、けれども今こそ許す、今とそおまえは近江井関を継ぐのだ」
 宇三郎は泣きながらそこへ両手をついた。親信の眼にも涙が光っている、そして侍従糺公の老いの眼にも。……これ以上なにか語ることがあるだろうか、宇三郎はお留伊を娶《めと》り、河内|大掾《だいじょう》の名を許された、後の彩色は殊に傑れていたため「河内彩色」と称されたという。



底本:「修道小説集」実業之日本社
   1972(昭和47)年10月15日 初版発行
   1979(昭和54)年2月15日 新装第七刷発行(通算11版)
底本の親本:「富士」
   1937(昭和12)年9月号
初出:「富士」
   1937(昭和12)年9月号
入力:特定非営利活動法人はるかぜ

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山本周五郎
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