心臓の音が聴こえるのではないか――そう思えるほどに、幡田零の身体は悲鳴を上げ始めていた。誰かと戦い、外傷を負ったわけではない。それでも、枯れた瞳が写す世界は滲み始め、足取りも次第におぼつかなくなっていく。
これまで、二人の人と出会った。幸いにもそのどちらも、問答無用で襲いかかって来る相手では無かった。もしかしたらそっちの方が、罪悪感なく殺すこともできたかもしれないが、それは置いておくとしよう。重要なのは――そのどちらも最終的には優勝を狙っていたということ。その見解に、主にロックのスタンスについて推測が含まれているのは確かだ。それでも、これまで出会ってきた相手がことごとく自分やみらいを傷付けかねないという想像は、出会っていない他の参加者にまで拡大的に膨れ上がり、確実に零の心の平穏を脅かしていた。
さらには、まだヨミガエリに至っていないはずなのに殺し合いの名簿に名前が載っているみらいが幽鬼なのではないかというロックの指摘も零の心を乱した要因だ。それ自体信じたくもない仮説だ。しかし、確かに死んだ――否、自分が殺したみらいが、殺し合いに参加することができている状況。それだけを見ても、どうしてもそう考えざるを得ないのは確かだった。
例え幽鬼であったとしても、みらいが大切な妹であることに変わりはない。そのヨミガエリに理念ではなく生者の魂が求められるというのなら、自分の魂だって迷わず差し出せるだろう。或いは、いくつもの屍を彼女のために積み上げることもできるだろう。
零にとってみらいが幽鬼であるか否かは、感情の上ではともかくその意味の上では些末な問題だ。だが、自分以外にとってはそうではない。みらいが幽鬼と化したのであれば、唯一殺し合いに乗っていないと信じられる千さんだってみらいを害することが有り得るのだ。
そもそも、みらいと千さんは面識がなく、幽鬼であるというだけでみらいは千さんに狙われる対象となり得る。仮にみらいが自分の妹だと、何らかの出来事の末に千さんが分かったとしても――千さんの正義は身内と他人を区別しない。幽鬼と化し、人の魂を喰らう存在と化したのならば、千さんはきっとみらいを殺す。どこまでも公正な正義こそが、千さんが辺獄で剣を取って戦う理由だから。その信念を尊敬こそしているが――ここでは、ただただ邪魔なだけだ。
焼き切れそうなほどに廻り続ける脳が、焦燥に歪んだ結論を提示した。ここでは、仲間であったはずの千を含め、誰もがみらいの敵なのだと。すなわち、自分の敵なのだと。
そんな想像に囚われながら落ち着いていられるはずもなかった。誰も信用できない疑心暗鬼は、零の中で着実に膨らんでいく。
(もう、疲れました……だけど……)
不安から、いつしか始まっていた息切れ。しかしそれでもなお歩みを止めるわけにはいかない状況。酸欠に陥りながらも、焦燥に身を委ねて零は走り続けた。
(そんなこと……言ってられない……。)
ただでさえ、不摂生な食生活や生活習慣から運動を苦手とする零である。昂る気持ちに身体はついていかない。特に誰とも交戦することのないままに、その肉体は限界を迎えることとなった。それでも、前に進もうとする。未だ影さえつかめないみらいのことだけを、ただ一心に念じながら。
(あ……れ……? 待っ……私……息、できてな……い……?)
煩い事に意識を追いやっていた零は、自分の体調の自覚すら忘れていた。気付いた時には、その身体はすでに動かない。
――どさり。
そのまま、零の意識は闇へと沈んでいった。
■
夢を、みていた。
何かの間違いであってほしいと、何度も目を背け続けてきた記憶。しかしこうして、たまに現実を突き付けに夢に出てくる。
何の前触れもなく、鳴り響いた着信音。画面に映し出される、唯一の友達――水無乃有理の名。有理から電話がかかってくるなんて珍しいな、なんて思いながら通話を開始して。
『――ねぇ、どういうこと?』
初めて聞いた声だった。ただし知らない人、というわけではない。いつも陰気さを感じさせない明るい口調だった有理の、怒ったような低い声。常日頃から何かと萎縮しがちな私だったが、きっと私でなくても気圧されるだろう。
『――あいつ、言ってた。こうなったのは、全部あんたが理由だって……。なんで……なんで私が、こんな目に合わないといけないの!? あんたのせいなんでしょ!? 助けてよ、零! 私、こんなところで……。』
有理が語る内容は、まったく意味が分からなかった。だけど必死に、私を責めていることだけは痛いほどに伝わってきて。あまりの困惑に、何かを尋ねることも、言い返すことも、できない。
一言も発することができないままに、次に会った時に聞こうと、疑問の解決を保留して。そして、その”次”は二度と訪れなかった。翌日、あのバス事故の報道を見て、私は有理の死を知った。発表された事故のあった時刻から、あの電話が死に瀕した有理の最期のメッセージだったのだと、気づいた。
有理の真意は、今も分からない。あのバス事故と私に、何の因果関係があるというのか。
現実的に解釈するなら、きっと有理は死に瀕していて混乱していたのだとは思っている。だから、私を糾弾するあの不可解な電話が、私と有理の楽しかった思い出すべてを汚すものではないのだとも、理解している。だから、有理とは今も変わらず友達だ。そう、何の気がねもなく言える性分だったらよかったのだろうけど。有理を友達として語ろうとすると、どうしてもあの電話がよぎってしまう。あの電話が私の人生の中で、特別意味のあることだったから、アナムネシスに辺獄に引きずり込まれ、魂の欠損が起こった時に垣間見た記憶も、この電話だったのだろう。理性で何を理解していようとも、最後のあの瞬間に私と有理はもう『友達』じゃなくなったのだと。私はあの瞬間に真に独りになったのだと。感情がそう訴えてくるのだ。
■
複雑な心境を胸に、零の目に光が入ってくる。涙は、流れていない。
「ん……夢……ああ。私、倒れ……」
そんな零を待っていた光景は、眼前いっぱいに主張する青いものだった。見慣れない光景に、少しだけ視線を上に運んでみると――真っ黒な影の中から零をぎょろりと睨みつける二つの目玉。
「――ひゃあああああああっ!!!」
「おや。目が覚めたみたいよ。」
「まったく、こんな時に寝ていられてるなんてバカなのかしら。」
零の悲鳴を聞きつけて、一人の女性と、女の子が駆け寄ってきた――女の子……女の子? 否、よくよく見れば全身が四角形で構成された、人とは思えない異形の類。だが曲がりなりにも人の形を模したそれよりも、恐れるに足る存在が目の前にある。箱状の形をした化け物――パンドラボックスを前に、零は狼狽する。
「き……斬って! ヘラクレイトス!! で、出ない……どうして!?」
右手をぶんぶんと振り回すも、その手には思装もなければ、盾となる守護者もいない。
「いっ……いやぁぁぁぁ!」
「ちょっと、落ち着きなさいよ。」
「あはは、元気だねぇ。」
まもなく、この人たちに寝ているところを保護されたのだと冷えた頭で理解し、零は恥ずかしそうに縮こまった。
「あ、悪趣味です……。保護してくれていたのは感謝していますが……起きて早々こんなのを見せなくてもいいじゃないですか。」
「えー、カワイイじゃん。エルピスっていうの。」
「……可愛いというところには同意しかねます。」
不機嫌そうに、エルピスを差し向けた女性にじっとりとした視線を向けると、笑顔で返される。アウトドア系の軽装から推測できるおおよその性格から、苦手なタイプだと零は直感的に感じ取った。特に、初対面からぐいぐいと距離を詰めて来るその距離感からは、どうしても有理のことが思い出されてしまう。
「さて、まずは自己紹介かな。」
さっそくと言わんばかりに、その女性は切り出した。
「私は清棲あかり。博物館職員をやっているんだ。キヨスって呼んでいーよ。」
たぶん、呼ばない。そんなに神経は図太くない。
「次はアタシの番ね。アタシは伯爵さまに仕えるモノマネ師、マネーラよ。」
伯爵さま……? モノマネ師……? 浮かんだ疑問は、とりあえず追究しないでおいた。
「そして改めて、この子はエルピス。まだ大規模な調査に至れているわけじゃあないんだけど、箱に擬態して獲物を狩る習性がある生物かな。先の戦いを見るに、睡眠を促す気体を排出する可能性もあってね。図鑑が反応したってことはポケモンと呼ばれている生物だと思うんだけど、まだまだ謎に包まれているね。」
清棲さんの自己紹介より長い……というかまんま危険生物じゃないですか。頭に輪っかがないので幽鬼ではないようだが、だとすれば幽者だろうか。ただひとつ言えるのは、決して可愛くはないということ。
「……幡田零です。」
正直なところ、居心地が悪い。無防備な姿を晒した自分がまだ生きていることから、二人と一匹?が殺し合いに乗っていないのは確かなのだろう。それならば、わざわざ急いで排除する理由もない。
しかし、だからこそ優勝を狙っている自分と相容れない。助けられたことを理由に殺すのを躊躇し、馴れ合えば馴れ合うほど、彼女たちを殺す決心から遠ざかっていくだろう。ちょうど、みらいと天秤にかければどっちを取るのかは明らかであっても、この殺し合いに参加している千さんを殺したくないと思っているように。
ただ、さっきまで囚われていた、誰も彼もが自分やみらいを害するのではないかという幻想から解き放たれ、少しばかりは冷静になれたのも間違いない。
「お二人は、何をしてるんですか?」
「伯爵さまを探しているの! ノワールという方と出会わなかった?」
零の質問に率先して答えたのはマネーラ。元より悪の側に立つマネーラが、イケメンでもなければそもそも男ですらない零をわざわざ保護したのは倫理観ではない。あくまで、伯爵の情報を欲してのことだ。
「いえ、会っていませんね。」
「ぬい〜……それはザンネンなの……。」
ここで嘘をつく理由もなく、零は正直に告げる。時間のムダだったと、少し不機嫌そうに返すマネーラ。
「……すみません。」
「まあ仕方ないわよ。ちなみに、アンタの知り合いは呼ばれていたりしないワケ?」
「実は私も、妹のみらいを探しているんです。私と同じ髪の色をしたツインテールの女の子なのですが……」
「こんな感じ?」
ボンッ。
瞬く間に、マネーラの姿は等身大の少女のものに変わった。顔かたちは零を模しつつ、その髪型だけをツインテールに変えたものだ。衣服も零の代行者の衣装そのままであり、違和感が拭い切れない。自分の、代行者の派手な衣装を改めて目の当たりにした恥ずかしさも同時に襲ってきて、少しばかり俯きがちになりながら零は口を開く。
「……驚きました。そんなこともできるんですね……。」
「つまんない。思ったより反応が薄いのね。」
「……すみません。似たことのできる幽鬼が身近にいるので。」
「アラ、アタシの専売特許だと思っていたわ。」
人格が魂に宿るなら、肉体の方は変化させることも可能ということなのだろうか。何であれ、マネーラの変身能力も、紛れもなく驚愕に値するものだ。
しかし衝撃の度合いで言えば、自分たちの姿が777のものに変えられていた時の方がよほど大きかった。
何より、現状のマネーラはツインテールにした自分でしかなく、どこか鏡を見ているような気分だ。
「……とりあえず、もう少し目つきはやわらかく、口は緩ませて。あと服は普通のにしてください、絶対。そして赤いリボンを……」
「わぷっ! ちょ……何すんのよっ!」
「えーと、私たちもみらいっていう子には会っていないかなぁ。」
マネーラの輪郭を力づくで弄り始めた零を制止しつつ、キヨスは答える。マネーラも、キヨスと出会う前には誰とも出会っていなかったらしく、同じ答えだった。
「そう……ですか。ありがとうございました。」
それなら、この人たちに用はない。すぐにでも、みらいの捜索を再開しないと……。
一礼を終えると、零はくるりと踵を返した。
「ちょっと待って!」
そのまま立ち去ろうとした零を、キヨスは呼び止める。
「何ですか?」
用件はなんとなく想像がつく。少しだけ苛立たしさを覚えながら振り返った。
「ほら、大人数だと安全だしさ、零ちゃんもよかったら一緒に行動しようよ。」
「…………。」
面倒だと思う反面、そうなるだろうなという納得があった。先ほど同行を最後まで持ちかけてくることのなかったロックを殺し合いに乗っていると推測したが、その対偶の理屈だ。殺し合いに乗っていないのであれば、同行を提案するのは当然だろう。でも、そのスタンスを自分に期待されても、困る。
「……嫌です。」
せめて変に期待を持たせることのないように、ハッキリと断った。これまで物怖じ気味だった零が突然見せたその毅然とした態度に、キヨスもマネーラもただ事でない雰囲気を感じ取る。
「どうして?」
重苦しい雰囲気の中、口を開いたのはマネーラ。事情があるのを無理に踏み込もうとする性分ではないが、この世界でのワケアリは人死にに直結し得る。そのため、強く問い詰めるような口調だ。しかし零も、気丈な振る舞いを崩さない。
「……もし、貴方の探している伯爵さんと、私の妹が殺し合っていたとしたら。貴方はどちらを味方しますか?」
「それはもちろん、伯爵さまよ。」
マネーラは即答する。そこに建前は押し出さない。天秤にかけるのが零の妹でなくとも――何ならキヨスだったとしても。その忠誠心は、依然として変わらない。
「そうですよね。それでいいと思います。だけどそれが、一緒に行けない理由です。生き残れるのは一人だけなのだから、その時は間違いなく来るんです。」
小衣さんや千さん、そして777と組んでいたのは、その誰もが障害とならないからだ。アナムネシスへの復讐を誓う小衣さん。自分の正義を成したい千さん。私についてきたい777。その誰も、みらいを助けたい私の目的を邪魔しない。仮に千さんの正義が小衣さんの個人的な復讐を許さなかった場合。仮に777が何の役にも立たないどころかお荷物になる場合。寄せ集めの協力関係なんて、直ちに瓦解するだろう。
そして、ここは生き残れるのが一人だけの殺し合い。私が何を犠牲にしてでもみらいを助けたいと思っている以上は、協力関係なんて築けるはずもない。
「つまりアンタは、殺し合いに乗るの?」
「……必要なら。いつでも覚悟はできています。」
「……そ。助けるんじゃなかったわね。ま、アカリが勝手に助けていただろうケド。」
ここには零とマネーラの、最後の一人になるまで殺し合う必要性への認識の差が表れている。
主催者であるメフィスとフェレスという悪魔たちを、理念を集めるために裏で行っていた”演出”までは知らずとも、それでも他の者たちに比べ最低限を零は理解している。人間をおもちゃとしか――或いはおもちゃとさえ、見ていないこと。そして、勿体ぶったり曖昧な物言いで煙に巻いたりすることはあっても、明確な嘘で人をからかったりはしないこと。だから、この殺し合いは本当に、最後の一人になるまで終わらない。辺獄での行動は奴らに監視されているのだから、反抗することも非現実的だ。それが、零の認識である。
一方のマネーラ。主催者であるディメーンは、零にとってのメフィスとフェレスとは異なり、高位の存在でも何でもない。位を同じくする存在であり、素直に従うのは癪でしかない相手だ。また、『敵も含め』あらゆる者をパワーアップさせてしまうディメーン空間の一件など、存外抜けているところがあるということも知っている。伯爵に仕えていた本当の目的は知らないが――むしろ知らないからこそ、この殺し合い自体につけ入る余地すら見出している。
もしも、対話を重ねていれば。この認識の差が埋まることも、或いはありえるだろう。しかし、そもそもマネーラに、零を無理に連れていく道理などありはしないのだ。伯爵さまと共に元の世界に戻ること、それこそがマネーラの譲れない行動原理であり、殺し合いに乗らないことはその手段でしかない。マネーラの夢は、零を排除した上でも叶い得るのだ。
「――まあまあ、二人ともいったん落ち着こ?」
されど――キヨスの夢は、そうではない。皆の生きた証を、未来に届ける――その”皆”の中に、例外などあってはならない。
生物である限り、捕食・被食の関係にせよ共生・寄生の関係にせよ、他の生物といかなる関わりをも持たずに生きることは不可能だ。そして、その繋がりの把握に先行して、個の理解がある。個の理解を繰り返して、いずれ生態系の理解へと結びついていく。キヨスの専攻する学問に、研究対象とならない生物など存在しない。
キヨスの夢は、この殺し合いのありのままを風化させず、後世に伝えること。そのために、個である零と分かり合うことを諦める選択肢はキヨスにはない。
「私はね、この殺し合い、誰も死なずに終わるとは思わない。仮に、協力して殺し合いを脱出できるとしてもね。」
エルピスと出会った時に起こった戦闘は、文字通り"殺し合い"と呼んで差し支えないものだった。どこかで何かが噛み合わなかったら、誰かが死んでいてもおかしくなかった。ここ辺獄では、いち生物の攻撃本能でさえ何人もの命を危険に晒し得るのだ。そんな戦いが100人規模で行われているこの場で、誰も死なずにいられると思うほどキヨスは楽観主義ではない。
「……本気で、脱出できると思っているんですか?」
「さあね。」
具体的なアテはない。しかし、マネーラの変身能力といった、人知を超えた力はここにある。ギャブロという人語を話す蠅のような生き物もいた。まだ観測していない範囲に、ポケモンをはじめとし、どんな神秘が待ち受けているかもわからない。
だから、まったくもって脱出の希望がないとも思えないのがキヨスの現状。
「さあねって……無責任です、そういうの。」
「確証もないものをできるって言っちゃう方が無責任だと思うけどなぁ……。まあでも、これだけはハッキリしてるよ。」
零にとって、みらいが譲れないものであるように。キヨスにも譲れない一線がある。
「……生き残った人たちが死んだ人たちのことを忘れてしまえば、その人が生きた証はこの世界から消えてなくなってしまう。」
保存に失敗して廃棄することになった標本を、幾つも見てきた。
死してなお残るその姿が。100年後の未来に伝わるはずだった彼らの生きた証が。価値を失ったゴミと化して誰の目にも届かないところへ沈んでいく光景。仮にも命だったものを扱う者として、ただただ悲しいから。
だから、忘れない。喪失された命の証を胸にしまいこんで、代替なり得なくとも、次の標本の保存に努めるため。記憶というのは、寄る辺を失った命の、最後の拠り所だから。
「それが、清棲さんのやりたいことですか?」
「そう。だから、零ちゃんには独りになってほしくないって思うの。探してる人がいるなら、協力するから。」
「生きた証、ですか……。」
キヨス本人だって、後世に語り継がれたいと思うまでの英雄願望はないが、それでも誰かの記憶に残りたいと思うことはある。
博物館に展示されるのは、いつかを生きた標本だ。さまざまな動物たちの生きた証にスポットが当てられ、訪れる者にその存在は主張される。その一方で、その裏でスポットを当てている職員たちは、博物館という世界の中で意識の外に追いやられる。それがキヨスたち、博物館職員の仕事。決して表に出てはならない。主役であってはならない。その生き様は、やはり誇りに思いつつも――同時に、その虚しさも分かっている。
目立ちたいというタチでなくとも。功績を主張するタイプでなくとも。それでも、博物館の生き物の魅力に惹かれた子供たちに、知ってほしい時もある。博物館という舞台の、その裏側を。標本研究やその保存に、限られた人生の時間を尽くしている人たちがいることを。
「ねっ、お願い……!」
庇護欲を掻き立てるような上目遣いと、されど決意の籠もった真剣な目で、キヨスは念を押す。もしもこの殺し合いが開かれなければ、事あるごとに別の青年に向けられていたであろう、勢いで押し切るかの如き懇願の言葉――
「随分と、都合のいい解釈をするんですね。」
――相手が零でさえなかったならば。きっと、絆されていただろう。
「命だったものを奪って。死者の生きた証に涙を流して――それで、死者は報われるんですか?」
反論なんて、いらないはずだ。別に討論がしたいわけじゃない。話し合いも和解の余地も振り切って、すぐにでもみらいを探しに行けばいい。そうまでして去る者を、問答無用で追いかけるほどの執着ではないはずだ。
分かっている。ここで軋轢を生むことの無意味さは。
「私は知ってるんです。死者の、私たちを妬む声も、恨む声も。苦しみも、嘆きも。目を瞑っても、耳を塞いでも、ずっとずっと心の奥に溜まってる。」
だけど、言い返さずにはいられなかった。
みらいの、生きた証――どれほどの時間が経っても、あの子を突き刺した手にずっと、いつまでも、残り香のようにまとわりつき続ける感覚。私を蝕み、苦しめ続けているのは、その記憶に他ならないから。
その苦しみを持ってしても、足りない。あの子を殺した罰には、到底。それでも赤の他人に、まるでそれが美談であるかのごとく語られるのは、どうしても我慢ならないんだ。
「彼らの声を忘れないことは大事です。それが、生き残った側にできるただ一つの償いだから……。でも――」
零の右手が、支給されているデイバックに伸びる。その”意味”を即座に理解した者が、二人。
「――そんなあなたの『エゴ』に……私を巻き込まないでっ!」
デイパックの中から現れたのは、一本の剣。まるで涙のように蒼く透き通ったそれは、そのまま真っすぐにキヨスへと突き付けられる。
驚愕に目を見開くキヨス。そして、それとほぼ同時。
「――それ、引っ込めな。これ以上は、ジョーダンじゃすまないわよ。」
紅く煌めく宝石を掲げたマネーラと、体躯に似合わぬ砲台の照準を零に定めたエルピスが牽制に入っていた。
「……。」
「……。」
一触即発のその雰囲気は、硬直したまま数秒間流れ続ける。
「……もう、いいです。手を引きますから……これ以上、私に関わらないで。」
真っ先に武器を下げつつ沈黙を破ったのは、零。
怒りに呑み込まれながらも、理性がそれを抑え込んだ上での判断だった。
殺し合いの優勝は、確かに最終的に目指すところではある。だが、それはあくまでみらいを守る手段に過ぎない。相手の手札も見えず人数差もある内にみらいを害する可能性が低い相手との避けられる戦いを強行し、わざわざ死ぬリスクを負う必要などない。
それに、このまま感情の暴走のままにキヨスを殺してしまったならば、みらいを死なせてしまった時と何も変わらない。仮にマネーラとエルピスの制裁から逃れられたとしても、きっと更なるトラウマに苦しむこととなる。
「……アカリがかなしむから今は見逃してあげるわ。でも、覚えときな。伯爵さまにその刃を向けようものならその身体、八つ裂きにしてあげるから。」
「……あなたたちがこの殺し合いに反逆していること。それだけは、心の底から信頼しています。私と違ってみらいに罪はありませんから……どうか、出会った時はあの子をお願いしますね。」
大切な人がいる者たちの邂逅。ここで戦火を交えることが互いの想い人に与えるリスクを、共に承知している。戦いの意思がないことを確認すると、零はそのまま立ち去っていく。
これでよかったんだ、と。ずきりと痛む胸を押さえ込みながら。
――有理を、”二つの意味で”失ったあの日は、瞳が焼き切れるくらいに泣き通した。
狂いそうなくらいに押し寄せて来る悲しみを前にしても、何故かみらいに縋った記憶がない。喧嘩をしていた記憶もないけれど、あの時の心の支えは生まれた日からずっと共に生きてきたセレマだけだったはずだ。
でも、私はもう壊れているから。みらいをこの手で殺し、セレマも衰弱死するまで放置して――それだけの離別を前にしてなお。涙が、流れないから。悲しみを、孤独を、浄化できないから。
だから、怖いんだ。これ以上、誰かの手を取ろうとするのが。抱いた希望を砕かれるのが、怖いんだ。
ヒビが入って、壊れた器。涙の雫が、それを満たすことはない。まだ――心は眠ったまま。
【E-3/一日目/黎明】
【幡田零@CRYSTAR -クライスタ-】
[状態]:健康、涙は流れない、精神不安定(大)
[装備]:代行者の衣装と装備ㅤオチェアーノの剣@ドラゴンクエスト7ㅤエデンの戦士たち
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2
[思考]
基本:妹の優勝、或いは自身が優勝して妹のヨミガエリを果たす。
1:東でみらいを探す。みらいが私の知るみらいなのか不安。
2:千さんとはできれば会いたくない。
3:あの男(修平)とは、次にあった時は殺し合う事になる。
4:吹石琴美って、あの琴美さん?
5:立花特平のような参加者に化けた幽鬼に警戒。
[備考]
※参戦時期は第四章、小衣たちと別れた後です。
※武器は使用できますが、ヘラクレイトスは現在使用できません。
※参加者の一部は主催によって何か細工をされてると思っています。
ただし半信半疑なので、確信しているわけではありません。
[状態]:健康、涙は流れない、精神不安定(大)
[装備]:代行者の衣装と装備ㅤオチェアーノの剣@ドラゴンクエスト7ㅤエデンの戦士たち
[道具]:基本支給品一式、不明支給品×0〜2
[思考]
基本:妹の優勝、或いは自身が優勝して妹のヨミガエリを果たす。
1:東でみらいを探す。みらいが私の知るみらいなのか不安。
2:千さんとはできれば会いたくない。
3:あの男(修平)とは、次にあった時は殺し合う事になる。
4:吹石琴美って、あの琴美さん?
5:立花特平のような参加者に化けた幽鬼に警戒。
[備考]
※参戦時期は第四章、小衣たちと別れた後です。
※武器は使用できますが、ヘラクレイトスは現在使用できません。
※参加者の一部は主催によって何か細工をされてると思っています。
ただし半信半疑なので、確信しているわけではありません。
零の背中を、キヨスは黙って見つめていた。夢が破れた――というと少し大げさかもしれないが――それでも、己の決意をエゴと一蹴されるのは堪えるだろう。
「アカリ。あんなヤツのことはもう忘れていいわ。だから元気を……」
励ましなんて我ながららしくないと思いつつも、マネーラは黙ったままのキヨスに声をかける。
それを受け、ようやく顔をマネーラに向けるキヨス。そして、細々と口を開いた。
「……ねえ、マネーラ。」
「な、なによ。」
そして――たじろぐマネーラに、告げる。
「――ちょっとあの子のこと、こっそり追跡調査してきてくれない?」
「――はぁ?」
ケロっとした顔でとんでもないことを言い出した。っていうか、さっきの気にしてないワケ? アタシの気遣い返しなさいよ。
「いやいや、アタシたちすっごい険悪だったじゃない!?」
「そこはほら、バレないよう変身してさ。」
「そもそも何であの子にそんなこだわるわけ!?」
それを聞くと、キヨスの顔が少しだけ、曇って見えた気がした。
「剣を突きつけるあの子の手、震えてた。」
「え……?」
「たぶん、根は優しい子なんだと思うな。まあ、仕方ないよね。殺し合いの世界に独りだったら、私だって怖い。」
殺し合いが始まってすぐにマネーラを文字通り”捕まえた”キヨス。何かと他人を巻き込みがちな彼女は、そもそもの生き方が違う零の孤独には触れられない。
「でも今は、私にはエルピスもいる。だからマネーラは、あの放っておけない子を見守ってあげて……お願い。」
博物館職員として標本の保存やフィールドワークに生きる毎日。それだけでも、かなりの変わり者であるキヨスであるが――その前に、一人の大人である。ひと回り年下の零の言動に心を大きく乱されることもなければ、その非礼をことさら糾弾するつもりもない。
「はぁ……アカリ、人使いが荒いってよく言われるでしょ? まったく……仕方ないわね。」
マネーラはぱっと見で警戒されない人物――ピーチ姫の姿へと変貌する。嫌いな相手であるが、その外面の良さは素直に評価するところだ。
いつまでも零に付き添うわけにもいかないため、集合時間である昼には博物館に一旦戻ることを約束し――マネーラもまた、零の去った方向へと走って行った。
【E-3/一日目/黎明】
【清棲あかり@へんなものみっけ 】
[状態]:健康
[装備]:ポケモン図鑑@ポケットモンスター モンスターボール×8 ひかりのドレス@ドラクエ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 Eー3かねでの森博物館から持ってきたフィールドワークや解体用の道具(双眼鏡・ハイヒール(大型動物解体・調理用刃物)など)
[思考・状況]
基本方針:参加者たちの生きた証を記しこの殺し合いの出来事を風化させない
1:伯爵さまを探しつつマネーラと行動を共にする※ 南側EFGHを中心に
2:参加者の生きた証を集め、もしもの時は”託す”※作業の中心はポケモン図鑑に登録
3:ロックに注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、ギャブロ君達と合流して手にした情報を交換する
5:首輪の解除方法がないか、探しつつ考える
[備考]
※参戦時期は原作1話 事故死したカモシカを博物館に持って帰ったところ
※ロックの危険性について知りました。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※パンドラボックス(エルピス)に戦闘の指示を出すことが可能となった。
[状態]:健康
[装備]:ポケモン図鑑@ポケットモンスター モンスターボール×8 ひかりのドレス@ドラクエ7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜1 Eー3かねでの森博物館から持ってきたフィールドワークや解体用の道具(双眼鏡・ハイヒール(大型動物解体・調理用刃物)など)
[思考・状況]
基本方針:参加者たちの生きた証を記しこの殺し合いの出来事を風化させない
1:伯爵さまを探しつつマネーラと行動を共にする※ 南側EFGHを中心に
2:参加者の生きた証を集め、もしもの時は”託す”※作業の中心はポケモン図鑑に登録
3:ロックに注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、ギャブロ君達と合流して手にした情報を交換する
5:首輪の解除方法がないか、探しつつ考える
[備考]
※参戦時期は原作1話 事故死したカモシカを博物館に持って帰ったところ
※ロックの危険性について知りました。
※マネーラ・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
※パンドラボックス(エルピス)に戦闘の指示を出すことが可能となった。
【マネーラ@スーパーペーパーマリオ 】
[状態]:疲労(小) ピーチ姫の姿
[装備]:まじんのかなづち@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 789ゴールド
[思考・状況]
基本方針:ノワール伯爵と合流して生きて帰る
1: 伯爵さまを探しつつ、零を追う。
2:とりあえず、あかりの夢に協力する
3:ロックには注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、あかりやギャブロ達と合流して手にした情報を交換する
[備考]
※参戦時期は6-2ピーチ姫とバトルする前
※ロックの危険性について知りました。
※キヨス・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
[状態]:疲労(小) ピーチ姫の姿
[装備]:まじんのかなづち@ドラゴンクエストビルダーズ2 破壊神シドーとからっぽの島
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0〜2 789ゴールド
[思考・状況]
基本方針:ノワール伯爵と合流して生きて帰る
1: 伯爵さまを探しつつ、零を追う。
2:とりあえず、あかりの夢に協力する
3:ロックには注意する
4:二日目の昼にはE-3のかなでの森博物館へ戻り、あかりやギャブロ達と合流して手にした情報を交換する
[備考]
※参戦時期は6-2ピーチ姫とバトルする前
※ロックの危険性について知りました。
※キヨス・ギャブロ・藤丸立香の世界について簡単に知りました。
【パンドラボックス(エルピス)@ドラゴンクエスト7】
[状態]:モンスターマスター(キヨス)に懐いている 健康
[装備]:壊砲ティシア@ファンタシースターオンライン2
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(強力な武具やアイテムです。)
[思考・状況]基本行動方針:マスターを守る
1:マスター(キヨス)と行動を共にして守る
※参戦時期は宝箱(パンドラボックス)を調べられる前
※キヨスの命名により”エルピス”と名付けられました。なお、名簿の記載に変化は起きません。
使える呪文 ザラキ マホトラ あまい息
※ザラキは参加者が”精神的に不安定” ”体力・気力が果てるような状況”などでないと効果が効きません。
[状態]:モンスターマスター(キヨス)に懐いている 健康
[装備]:壊砲ティシア@ファンタシースターオンライン2
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2(強力な武具やアイテムです。)
[思考・状況]基本行動方針:マスターを守る
1:マスター(キヨス)と行動を共にして守る
※参戦時期は宝箱(パンドラボックス)を調べられる前
※キヨスの命名により”エルピス”と名付けられました。なお、名簿の記載に変化は起きません。
使える呪文 ザラキ マホトラ あまい息
※ザラキは参加者が”精神的に不安定” ”体力・気力が果てるような状況”などでないと効果が効きません。
040:魔神降臨───魔族顕現 | 投下順 | 042:嵐を呼ぶ辺獄平安大合戦 序 |
010:DevilMayCry | 幡田零 | 057:決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ |
013:この子はエルピス | 清棲あかり | 053:辺獄平安公演 朝の部 |
マネーラ | 057:決壊戦線─崩壊のカウントダウン─ | |
パンドラボックス | 053:辺獄平安公演 朝の部 |