変身超人大戦・最後の乱入者 ◆LuuKRM2PEg
◆
「行かないと……!」
ディバイン・バスターの余波によって地面に叩きつけられ、その痛みとこれまでのダメージで全身に痛みが走るが、キュアサンシャインはそれに耐えて立ち上がった。
池波流ノ介が犠牲になって悲しいはずなのに、仮面ライダー一号はそれを表に出さずに
ノーザやスバルと戦っている。だから自分だけがここで倒れたりすることは絶対に許されなかった。
ふと、キュアサンシャインは気を失って倒れているアインハルトとアスティオンに目を向ける。アスティオンの意思を蔑ろにするのは嫌だったが、このままでは一号が危なかった。
心の中で彼女達にごめんと謝ったキュアサンシャインは前を向こうとするが、その途端に足音が聞こえてくる。
「おや、何処に行かれようと言うのですかな? キュアサンシャイン」
そして声が聞こえてきたので、キュアサンシャインはそちらに振り向く。
すると彼女は、ここから数メートルほど離れた場所より
筋殻アクマロがゆっくりと近づいてくるのを見た。
「あなたは……アクマロ!」
「まだ我がいるのを忘れるとは、実に無礼ですな」
その手に握る剣が朝日に照らされて輝く中、アクマロは嘲笑の言葉を漏らす。予期せぬ三人目の敵が再び現れたことによって、キュアサンシャインは反射的に構えた。
しかしアクマロはそれをまるで気にしないかのように、前を踏み出してくる。
「これより、あんたさんがたには選ばせて差し上げましょう」
そして饒舌に語りながら、アクマロは更に一歩進んだ。
「あの小娘どものように全身をバラバラにされて血溜まりを生むか」
剣を見せつけるかのように構えながら、また一歩進む。
「全ての皮膚をゆっくり切り刻まれながら長らく地獄の時を楽しむか」
もう一歩進んだことで、アクマロの声から感じられる喜悦が更に強くなった。
「それとも、心臓を貫かれて苦しむ暇もなく一瞬で三途の川に落ちるか」
そう言いながらアクマロは剣の先端をキュアサンシャインに向けて、より一歩進んでくる。
「さあ、どれにいたしましょうか?」
もしもそれが人の顔だったら、ノーザのように悪意に満ちた笑みで染まっているはずだった。それくらいまでアクマロから放たれる雰囲気はあまりにも不気味で、昔話に出てくる物の怪よりもずっと恐ろしい。
あまりのプレッシャーを前にキュアサンシャインは額から汗を滲ませるが、それでも押し潰されたりはしなかった。アクマロの目的は自分達を倒して、一号をもっと悲しませて追い詰めること。
相手は体力を消耗していたとはいえ、一号とシンケンブルーを同時に相手にしても有利に戦えるほどに強い。一人でそんな奴と戦っても勝てる可能性は低すぎたが、逃げることはできなかった。
「私が望むのは……」
「望むのは?」
「あなた達から、みんなを守ることよ!」
地を蹴って走り出しながらアクマロとの距離を詰めながら右足を軸にして回転し、キュアサンシャインは鋭い回し蹴りを放つ。アクマロは右手の剣を振るうが、白いロングブーツはそれを瞬時に払いのけた。
武器同士が激突したような鋭い金属音が響き、衝突の影響で火花すらも飛び散っている。
煌びやかなリボンが飾られたことで華やかさを演出させるブーツだが、その外見からは想像できないくらいの強度を誇っていた。故に、アクマロの武器だけで斬れることは決してなく、それに守られたしなやかな足も守られている。
しかし鉄をも超えるブーツの耐久力だけで勝利に繋がるわけがなく、アクマロが後退した隙を突いて反対側の足でキックを放つが、直後に一閃された剣と衝突した。またしても鳴り響く衝突音と共に二人は背後に飛んで、数歩分の距離を取る。
視線がぶつかり合う中、キュアサンシャインの呼吸は荒くなっていた。それに対してアクマロはあまり戦っていないせいか、体調は万全に見える。
もっとも、これは当然の結果だった。キュアサンシャインはスバルとの戦いで体力を消耗したのに対して、アクマロはこれまで自身が不利になるような条件で一度も戦っていない。
「クックックック……カッカッカッカッカッカッカッ……!」
そして体調面での有利を悟ったのか、アクマロの喉から奇妙で乾いた笑い声が響いてくる。
「さぞかし辛いでしょう……さぞかし苦しいでしょう……我はそんなあんたさんの苦しみから解放させて差し上げようと思っているのに、何故そこまで拒みます?」
「例えどれだけ辛くて苦しくても、私はそれに逃げている場合じゃないの!」
「ほう、この催しに優勝してその褒美で皆を三途から蘇らせると……」
「違うわ!」
アクマロに反抗するかのように首を大きく振りながら、キュアサンシャインは腹の底から叫びながら再び疾走した。
「私はこの世界を照らす太陽となってみんなを助けなければいかないから、絶対に諦めたりはしない!」
目前にまで近づいたことでアクマロの剣が振り下ろされるが体制を少し右にずらすことで避けて、握り締めた拳を撃ち出す。だがアクマロは横に飛んでその一撃を軽く回避した。
その姿は視界から消えるが、別にいなくなったわけではない。瞬時に振り向きながら回し蹴りを繰り出して、アクマロの持つ剣を弾き飛ばす。
空中で数回転した後に音を立てて突き刺さるそれに目を向けず、素早く拳を叩き込もうとしたが、直後にアクマロの左手がキュアサンシャインの首を掴んだ。
「太陽風情が我ら外道を照らすなどとは、何と愚か極まりない思い上がり! 片腹痛いにも程がある!」
そのまま締め付けられると思ったが、アクマロの瞳からより強い殺意が放たれる。予想外の状況に目を見開いた矢先、キュアサンシャインの全身に稲妻が襲いかかった。
「うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
シンケンブルーを苦しめた技によって、今度はキュアサンシャインが凄まじい絶叫をあげる。
激痛によって視界がはっきりせず、意識が飛びそうになるが必死に耐えた。しかしそれが精一杯で、まともに抵抗することができない。
苦悶の表情を浮かべた後、その身体は投げ飛ばされて数秒ほど地面を転がる。それでも彼女は顔を上げて、アクマロを睨み付けた。
「実にいい、実に良いですね……輝きに満ちたその面持ち。それでこそ、踏みにじり甲斐があります」
しかし返ってくるのは舐め回すような吐き気を催す視線と、地の底から響くような冷たい声だけ。
「決めました。あんたさん達の希望とやらを我がじっくりと崩してあげましょう。このまま地獄に落とすのも悪くないですが、それでは些か趣に欠けます……どうか、長く保ってくださいね?」
◆
何度殴られても立ち上がり、何度蹴られても起きあがる。その度に反撃しようとするが、どれもまともに通らなかった。
アインハルトの奥義を受け止めるほどの力を持つノーザがいる上に、ディバイン・バスターの反動で動きにキレが欠けていてもまだ戦えるスバルも加わっていた。特にスバルは時間の経過と共に体力が元に戻っていくようにも見える。
一号は装甲に守られた胴体を蹴られて後退した途端、スバルの手から放たれた黒い魔力の球が胸部に激突した。
「があっ!」
仮面の下から漏れる悲鳴は爆発音に飲み込まれ、スーツに守られた肉体から大量の血が流れていく。いくらショッカーの技術を結集して生まれた改造人間とはいえ、この戦いで負ったダメージがあまりにも深すぎた。加えて、ノーザもスバルもアクマロも皆、並のBADANの怪人を凌駕する実力者だから、自然に追い込まれていくのは当然の結果。
それでも一号の闘志は微塵も揺らぐことはなく、痛む身体に鞭を打って蹌踉めきながらも立ち上がる。しかしいつ崩れてもおかしくない。
「一号……大丈夫ですか?」
そしてそんな彼の肩を支えたのは、キュアサンシャインだった。
彼女も一号と同じでボロボロになっていて、表情からは酷く疲れ果てた雰囲気が感じられる。多分、変身を維持するのがやっとでとても戦えない身体かもしれないがそれにも関わらずして、僅かに涙を滲ませる瞳からは未だに太陽のような輝きを放っていた。
「ああ、大丈夫だ……!」
だから一号も彼女に負けないように立ち上がる。
キュアサンシャインも本当は仲間を立て続けに失ったことで辛いはずなのに、それを表に出そうとしない。恐らく、自分やアインハルトを守るという願いがその身体を動かしているのだ。そんな彼女の思いに答えたいが、その為の方法がまるで思い浮かばない。
もう、自分達は負けていた。認めるのは絶対に嫌だったが、もう誰がどう見てもそう判断せざるを得ない状況だった。
「お遊びはもう終わりよ」
そして残酷な現実を突き付けるかのようにノーザは笑いながら近づいてくる。その左に立つアクマロの顔は全く動かないが嘲弄しているのは確実で、ノーザの右に立つスバルは無表情を貫いたまま。
「これ以上いたぶったところで、どうやら変わることはないようですな……まあ、余興にはなりましたな」
「余興だと……!?」
「ええ、あんたさんに残された役割は大人しく地獄に堕ちる……下手に悪あがきをせぬ方が、苦しみませぬぞ?」
殺された者達の死を嘲笑うアクマロに一号が怒りを覚えるが、憤怒の視線を向けるしかできない。それしかできずに何も変えられない自分自身が情けなかった。
ここで二人を守るために戦ってもすぐに負けて三人とも殺されるだけだし、逃げだそうにも逃げられるわけがない。今の自分は仮面ライダーなどではなく、ただ殺されるのを待つしかない弱者。
「例えどれだけ追い込まれようとも、俺達はキサマらのような悪には絶対に屈したりしない!」
しかしだからといって、一号が悪に屈する理由にはならなかった。
例えどれだけ絶望的な状況でも、それをしては散っていった者達に報いることはできないし、まだどこかにいるはずの仮面ライダーに合わせる顔がない。
だからこそ、一号は反逆の意志を言葉にして突き付けた。
「そうよ……私だって、例えどんなことがあろうとも絶望したりしない! 最後まで、戦ってみせる……! 仮面ライダーもプリキュアも、それは変わらないわ……!」
そしてキュアサンシャインもまた、息も絶え絶えになりながらも言葉を紡いでいる。ダメージによって揺れる身体を支え、必死に睨んでいた。
そんな力強い姿を見て、まさに世界全てを照らす太陽のようだと一号は思う。だからこそ彼女のような希望を潰さないためにも、最後まで戦わなければならなかった。
一号とキュアサンシャインは同時に構えるが、ノーザ達は特に何も答えずに足を進めている。まるで、お前達にはもう何の興味もないとでも言うかのように。
両者の間で距離が縮む中、一号はひたすら睨み続けている時だった。
突如、どこからともなくバイクのエンジン音が響いてくる。それは力強さと同時に、まるで強い風が吹きつけるかのような鋭さも感じられた。
そして一号はそのエンジン音をよく知っていた。
「何……?」
幻聴かと疑ったが、時間の経過と共にエンジン音はどんどん強くなっていく。ノーザ達もそれに気付いたのか、後ろを振り向いた。
一方で何者かが接近していると察した一号は改造人間の優れた視力で音源である西を凝視すると、一瞬で見つける。
ここから数キロメートルほど離れた先から、白とワインレッドの二色に彩られたバイクが近づいていた。それは
一文字隼人を助けるためにショッカーのアジトへ乗り込んだ際に見つけたバイク、サイクロン号。そしてそのマシンに乗っているのは一号もよく知る仮面ライダーの一人だった。
スズメバチのような仮面は銀色に輝き、瞳とマフラーは炎のように赤く燃え上がっている。人類が生きる未来のために誕生した惑星開発用改造人間の力を、ドグマ王国を打倒するために使った男が変身する仮面ライダーが近づいていた。
「沖……いや、仮面ライダースーパー1かっ!?」
一号の疑問に答えるのはサイクロン号のエンジン音だけ。
今、誰も予想しなかった史上最大のイレギュラーにして、最後の乱入者がこの戦場に現れた。
その男の名は
沖一也。またの名を、仮面ライダースーパー1。
◆
仮面ライダースーパー1に変身した沖一也はハンドルを握り締めると、機械仕掛けの竜巻は凄まじい唸り声をあげる。秘密結社ショッカーが生み出したエンジン音は、自然に発生するどんな風よりも凄まじくて、どんな頑丈な建築物でも吹き飛ばしかねなかった。
あの
加頭順が何故、仮面ライダー一号が利用していたマシンをわざわざ自分達の近くに配置したのかが気になるが、今はそれを気にしている場合ではない。例え何らかの罠だとしても、恐れていては何も始まらなかった。
一文字隼人と別れてからホテルを目指して走っていたら、目的地の近くでいきなり巨大な闇が生じる。これには流石のスーパー1も驚いたが、それからすぐに一号が二人の少女を守りながら戦っているのを見つけた。
敵は三人。敵は魔女が着るようなローブを纏った大柄の女。ドグマやドーパントのような剣を構える怪人。全身より植物の根っこのような触手が生えて、瞳が金色に染まっている青髪の少女。
皆、只者ではない雰囲気を放っていたが、それを真っ向から受けたスーパー1は怯むどころか闘志を漲らせていた。
「スーパー1……ですと? 今更一人増えたところで、何が変わるというのですかな!?」
怪人はこちらを侮蔑するような声と共に左手を突き出して、そこから大量の稲妻を発する。しかしスーパー1はサイクロン号のハンドルをより強く捻ってマシンを加速させながら、横に曲がって回避した。
それだけで終わらず雷は次々と襲いかかるが、彼は決して焦っていない。サイクロン号の凄まじいスペックとそれを巧みに操るスーパー1の運転技術さえあれば、例え自然現象が相手でも回避は充分に可能だった。
「チェ――ンジ! 冷熱ハンド! 超高温火炎!」
そしてハンドルを操る両腕に力を込めながら叫ぶ。すると、二本の腕が音を立てながら緑色に変わっていった。標準装備のスーパーハンドから、冷熱ハンドへと。
そのまま右腕の熱ハンドを怪人に向けると、轟音と共に灼熱が発せられた。冷たい空気を焼きながら怪人の肉体を飲み込んで、ほんの一瞬で火達磨にする。
「グアアアアアアアアアァァァァァァァァッ!?」
怪人の絶叫が耳を劈くのをお構いなしに火炎は徐々に広がるが、後の二人には避けられてしまった。しかしスーパー1にとっては丁度いい。
超高温火炎を振り払おうと足掻く怪人を余所にサイクロン号を走らせて、一号達の目前で止まる。そのままマシンから降りて、一号の元に駆け寄った。
「大丈夫ですか、先輩!?」
「沖……来てくれたのか」
隼人に続いてまた一人先輩と巡り会えたが、あの時と違ってとても喜ぶことはできない。一号の装甲は所々が砕け散っていて、スーツの下から血が滲み出ている。声からも疲労の色が濃く感じられて、満身創痍なのは明らかだった。
加えて、エリアの大半を吹き飛ばす程の暗闇が発せられたからには、この場で凄まじい惨劇があったのかもしれない。サイクロン号に乗りながら間に合わなかったのが、スーパー1は悔しかった。
「……申し訳ありません、俺が遅れたせいで」
「いや、お前が現れただけでも心強い。助かったぞ」
それでも一号はこちらを責めず、それどころか励ましてくれている。その優しさが重く感じるが、今はそれを受け止めなければならなかった。
「沖、状況を簡単に説明する。
スバル・ナカジマというあの青い髪の少女は今、ノーザという女とアクマロという怪人によって洗脳されている」
「洗脳ですって!?」
「ああ……本当は心優しい少女だったはずだが、奴らはその思いを踏みにじった。彼女だけは絶対に傷つけるな」
「わかりました」
一号に頷いたスーパー1は、そのまま金髪のツインテールが特徴的の少女に振り向く。その衣服はやけに派手な上に露出が多く、今時の女の子はこんなのも着るのかと思ってしまった。
しかしこんな状況で一号の隣に立っているし、その見た目からは想像できないほどに凄みも感じられる。恐らく、自分と同じで何らかの武術を嗜んでいるかもしれない。
自分が遅れたせいで名も知らぬ少女を傷つけることになってしまったのが、悔しかった。
「後は俺に任せて、君は先輩達と一緒に少しでもここから離れてくれないか」
「仮面ライダースーパー1……一人で戦うなんて危険すぎます!」
「ありがとう、その気持ちだけでも俺は嬉しいよ」
だからこれ以上、彼女が持つ太陽のような優しさと勇気を決して潰してはならない。その決意を胸にスーパー1は前を向いた。
怪人、アクマロに浴びせた超高温火炎は既に消えているが、その巨体に確かな焼け跡が残っている。一方でノーザはそれをまるで構いもせずに、憤怒の目線をこちらに向けていた。
「仮面ライダースーパー1……どこの誰かは知らないけど、勝手なことをしてくれるじゃない」
その口ぶりからは苦しんでいるアクマロを気遣う様子は微塵も感じられない。アクマロは同情の余地など欠片もない相手だが、それでもノーザにとっては仲間のはず。しかし実際はただの捨て駒にしか思ってないかもしれない。
やはりノーザはドグマ達と同じで、ここで倒さなければならない奴だった。
(優しい人間を操って、人殺しの片棒を担がせるだと……ふざけるな!)
そしてスーパー1の仮面を通じてスバル・ナカジマという少女を見て、怒りが更に燃え上がる。彼女がどんな人物なのかは知らないが、一号達は必死に助け出そうとしていた。
だからこそ、自分が彼らの思いを受け取って戦わなければならない。その決意を胸に固めたスーパー1は拳を握り締め、勢いよく走り出した。
「全ては……ノーザ様の為にっ!」
そしてスバルの背中から大量の触手が飛び出してきて、音を立ててしなりながらスーパー1に襲い掛かる。その数は十を軽く超えていて、まともに避けようとしても出来ることではない。
だからこそ迫りくる触手に、スーパー1は左腕を真っ直ぐに向けた。
「冷凍ガス!」
暗黒騎士キバの動きを止めた超低温の白いガスが勢いよく噴出される。しかしスーパー1は流れを上手く調整させて、触手と両足のブーツを凍らせて動きを止めるだけに留めた。
本当なら善人にこんなことをするなんて言語道断だが、これ以上誰かを傷つけさせたくもない。後で責められる覚悟ならもうできている。
金色の瞳が驚愕に染まらせるスバルは足掻くが、その程度で解放される代物ではない。そんな彼女を見て後ろめたさを感じてしまい、心の中でごめんと謝る。
それからノーザの方に振り向くと、冷酷な表情が更に怒りで歪んでいるのを見た。相当頭にきているのだろうが、それはスーパー1も同じ。
「おのれ……!」
「次はお前達だ」
スーパー1は静かだが、それでいて烈火のように怒りを滾らせていた。徐々に感情が抑えられなくなっているノーザとは対照的に。
恐らく、ノーザを叩きさえすればスバルも元に戻るかもしれない。そう考えたスーパー1は両腕をスーパーハンドに戻した頃、アクマロがゆっくりと進んでくるのを見た。
「スーパー1……我々を虚仮にするとはいい度胸ですな。その報い、受けていただきますよ!」
アクマロは声を震わせながらその手に持つ剣を振りかざして斬り掛かるが、スーパー1は左腕で刃を受け止める。乾いた金属音が響くのと同時に、黒く焦げた胸部を勢いよく蹴りつけた。衝撃によって嗚咽を漏らしながらアクマロが仰け反った隙を突いて、スーパー1は連続で拳を叩きつける。
アクマロが吹き飛ぶ姿を見届けることもせずに、スーパー1はノーザがいる横に振り向いた。彼女はアクマロと戦っている隙を突いて攻撃しようと考えていたのか、その細い腕を掲げている。
振り下ろされるそれを避けながら、スーパー1は腕に力を集中させて叫んだ。
「チェンジ! パワーハンド!」
彼の言葉に答えるかのようにスーパーハンドは銀から真紅へ染まり、パワーハンドに変化した。
そのまま腰を深く落としながら拳を握り締め、こちらに再度振り向いたノーザの胴体を仮面の下から凝視する。そしてスーパー1は渾身の力を振り絞り、赤い拳に込められた1万メガトンもの破壊力をノーザに叩きこんだ。
「メガトンパンチッ!」
ゴキリ、と何かが砕け散るような鈍い音がノーザの肉体より響く。
スーパー1の拳を受けたノーザは声にもならない絶叫をあげて、衝撃のあまりに両目を見開きながら吹き飛んだ。
多彩な能力を持つファイブハンドの中でも最大級の破壊力を誇るパワーハンドによるメガトンパンチを持ってしても、ノーザの肉体は貫けない。その事実にスーパー1は若干の戦慄を感じるが、それでも確実なダメージを与えられた。
後はこの手でトドメを刺すだけ。これ以上戦いを長引かせても、ノーザ達は何か善からぬことをするかもしれない。その可能性を危惧したスーパー1は前を踏み出そうとした、その直後だった。
「ガアアアアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァ!」
背後から突然、獰猛な恐竜のように凄まじい叫び声が鼓膜を刺激する。
スーパー1は思わず背後を振り向くと、先程冷凍ガスで動きを拘束させたはずのスバルの肉体からどす黒いオーラが発せられて、殺意の波動が更に強くなっていく。
そして両足と触手を凍らせていたはずのガスは溶けてなくなって、咆吼するスバルは突貫してきた。
「何ッ!?」
予想外の出来事にスーパー1は思わず両腕を交差させてスバルの拳を受け止めるが、その衝撃によって後退ってしまう。その僅かな隙を付いて複数の触手が飛び出してきて、そのままスーパー1に襲いかかった。
しかしスーパー1は決して焦らず、両腕をスーパーハンドに戻しながら両手で構えを取る。まるで、全てを優しく包み込む梅の花のように。
「赤心少林拳……梅花の型!」
かつてドグマの怪人ギョトスマに敗れた際に玄海老師から修行を受け、会得した拳法でスーパー1は触手を弾く。荒々しい闘いの中にあってなおも花の可憐さを愛おしむ心を持って、全ての攻撃を確実に防いでいた。
しかしそれでも両腕に痛みが走っていて、このままではいつ打ち破られてもおかしくない。触手の一本一本の重さが、あまりにも凄まじかった。
だがスーパー1はひたすら梅花の型を構えて触手を弾くが、そうしている間にもスバルはどんどん迫ってきていて、スーパー1の脇腹を殴りつける。
「うぐっ!」
触手の群れを弾くのに精一杯だったスーパー1は鋼の拳を避けることができずに、呻き声と共によろめいてしまった。そして梅花の型も崩れたところに触手が銀色の肉体を叩いてくる。
立て続けに痛みが走るものの、スーパー1は必死に耐えた。ここで少しでも崩れたりしたら、その瞬間にノーザ達の思い通りになってしまう。
スーパー1は攻撃の嵐を避けるために、一旦距離を取った。
(まずいな……まさかここまでの相手だったとは)
黄金色の視線を真っ向から受けながらスーパー1は考える。
簡単に止められるとは思っていなかったが、想像を遥かに超えていた。可能なら傷つけたくなかったが、本気を出して戦わなければ逆にこちらがやられてしまう。どちらを取っても、最悪の結果に繋がるだけだった。
しかし悩んでいる暇はない。今は一号達が逃げる時間を少しでも稼ぐためにも戦わなければならないと、スーパー1は悩みを振り払って拳を握り締めた時だった。
「うおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
視界の外からこれまで全く予想していなかった、一号の叫び声が発せられてくる。それに気づいたスーパー1が振り向く暇もなく、後ろから現れた一号は迫り来るスバルにしがみついた。
「本郷さん、何を――!?」
「ここは俺に任せて、沖は一刻も早く二人を連れてここから離れろ!」
スーパー1に振り向きながら叫んだ一号を、スバルはすぐに振り払って勢いよく殴りつける。一号の仮面から吐血したような濁った音が聞こえるが、当の本人はそれに構わず握り拳を振るった。
だがスバルはそれを呆気なく避けた後に、亀裂の走った装甲を蹴って砕いた。
すぐに助けなければと思いながらスーパー1は前を進もうとするが、その途端に一号は振り向きながら立ち上がった。
「沖、早くここから逃げろと言っているだろう! モタモタするな!」
「何を言ってるんですか!? あなたを見捨てるなんて……!」
「このまま戦いを長引かせては、お前が守ろうとした彼女達が殺されてしまう!」
「待ってください、一号!」
一号の怒鳴り声にスーパー1は反論しようとしたが、次に聞こえてきたのは後ろにいる金髪の少女の声だった。
「私はまだ戦えます……だからあなた一人で無茶をしないで!」
「いや、ここで君がこれ以上無理をしたら永遠にスバルを助けられなくなる! だからここは逃げるんだ!」
「でも……!」
「沖、今言ったようにあの二人はスバルを救う重要な鍵になる! だから、決して死なせるな!」
少女の言葉を無視しながら、一号はスバルの攻撃を必死に避け続けている。口元に血が溜まっているのか、その声は普段より酷く濁って聞こえた。
「早く行け、沖一也……これ以上、この殺し合いの犠牲者を増やすな! 俺達の、全ての命を守るという仮面ライダーの願いを叶えるためにも……お前は行ってくれ! 仮面ライダースーパー1!」
「……わかりました!」
苦しげな叫びに対する悲痛に満ちたスーパー1の答えは、それ以外に何もない。
彼はすぐさま後ろに振り向いて、瞬時に少女達の元に辿り着いた。一号の悲鳴やノーザやアクマロの怒声、更に殴打音が次々と聞こえてくるが、スーパー1は決して振り向かない。
「スーパー1、私よりも早く一号を……!」
「俺にしっかり掴まってくれ!」
金髪の少女がその続きを言う前に、その華奢な身体を腕で抱える。そのまま走りながら、横たわるもう一人の少女とトラのぬいぐるみ、更に彼女達の物と思われる二つのデイバッグもしっかりと持った。
サイクロン号を確保する暇はないので、両足に全力を込めて少しでもエリアから離れようと駆ける。途中、アクマロの雷が鳴り響くような音が聞こえるが、スーパー1はその脚力ですぐに範囲から離れた。
一号を見殺しにした。その事実はスーパー1に重く圧し掛かるが、彼はそれに決して潰れなかった。
ここで少しでも後悔して逃げるのが遅れては、一号の思いを侮辱することになる。彼から全てを託されたからには、この二人を命に代えても守らなければならなかった。それこそが仮面ライダーの存在意義で、一号が言うように戦いを長引かせては全滅する可能性もあったから、この選択は正しいのかもしれない。
だが、それが逃げ出していい理由にはならない。本当なら一号も助けなければならないのに、自分が無力だったせいで彼を切り捨てることになってしまった。
それでも、折れることは決して許されない。罪のない人々を救うための戦士である仮面ライダーが悩んだりしては、誰がこの殺し合いを打ち破るのか。
その為にもスーパー1は走る。これ以上、守れたはずの誰かが守れないなんてあってはならなかった。
◆
仮面ライダー一号はひたすらスバルの攻撃を捌き続けているが、傷ついた肉体では限界がある。もうまともに動くことすらできなかった。
傷口を抉るように叩き込まれた拳によって装甲が砕け散り、血の混ざった破片が地面に散らばっていく。そのまま、一号は力なく地面に倒れていった。
「行って、くれたか……」
それでも、彼は決して絶望していない。
キュアサンシャインとアインハルト、それにアスティオンを連れたスーパー1がこの場から見えなくなっていたので、仮面の下で
本郷猛は思わず安堵の言葉を漏らす。
沖一也には辛い決断を強いてしまったと、今更ながら後悔の思いが生まれる。もしも自分が一也の立場だったらと思うと、胸の奥が痛んだ。
しかしこの状況で未来ある少女達を救うためにはこれ以外に方法がない。重症を負った自分が生贄となって、優れた能力をたくさん持つ頼れる後輩に全てを託せば可能性があった。
それに一也が生きてさえいれば、悪意に囚われた目前の少女を救う希望も死なない。彼ならばこの狂った戦いを止めることもできるはずだった。
「よくも、好き放題やってくれたわね」
最後に希望を残せたことで心が軽くなった途端、ノーザが胴体を押さえながらよろよろと歩いてくる。
本当ならこの場でノーザを倒したかったが、それをやるだけの力すら残っていなかった。
「仮面ライダー一号……もうあんたはここで終わりよ。あんたの希望も、今ここで闇に変えてあげるわ」
「残念だが、それは不可能だ……」
「何ですって……?」
おぞましい雰囲気を放つ魔女の顔が怒りで歪むが、一号はそれに構わずに言葉を続ける。
「例え俺が死んでも、俺の理想を継ぐ彼らが生きている限り……時代はお前達のような悪を決して許しはしない。お前達や、加頭達の陰謀は何一つ成し遂げられん……それにスバルも、いつかきっと闇から抜け出せる。俺達が一人でもいる限り、この世界が絶望に染まることは決してありえない……!」
時代が望む限り、仮面ライダーは必ず蘇る。
この肉体がいくら滅びようとも、この意思を継ぐものが一人でもいる限り魂は不滅だった。BADANや加頭順、それにノーザ達のような悪魔が笑う時代など永遠に来ない。
全ての世界から正義の意思が消えることは決してなかった。
「どこまでも目障りな……ノーザさん、この男の始末は我が付けて宜しいでしょうか? 腸が煮えくり返って、仕方がありませんので」
「……好きにしなさい」
「お心遣い、感謝いたします……!」
そして筋殻アクマロがその手に持つ刀を構えながら進んでくるのを見て、一号は自分の最後を確信する。
しかしそれでも恐怖はなかった。代わりに心残りやまどか達を助けられなかった悔いは残っているものの、罵りはあの世で受ければいい。尤も、自分なんかが彼らと同じ場所に逝けるかどうかは疑問だが。
(一文字、結城……お前達は生きて、この殺し合いを打ち破ってみんなを助けてくれ。そして村雨、どうか復讐に身を任せずに生きるんだ……)
一号は……否、猛は相棒と後輩達の無事を願う。そして
村雨良が仮面ライダーとして生きて、この殺し合いを打破する者達の力になってくれると信じた。
良は復讐に身を任せていたが、心の奥底には優しさがある。だからこそ、BADANの怪人達から人々を守ったのだ。
アクマロの剣が頭上に掲げられるが、猛はそれに構わずに全てを託した九番目の後輩に激励を送った。
(すまない、沖一也……そして後は頼んだぞ、仮面ライダースーパー1。お前はこの殺し合いを打ち破る鍵を握っている男だからな……)
その男は絶体絶命の状況を打ち破ってくれた最後の希望。
彼が来てくれたからこそ、いつきとアインハルトを救うことができた。だから、多くの悲劇を生むこんな地獄を絶対に破壊してくれるはず。
そう考えただけでも、本郷猛は安心してこの世を去ることができた。
やがて砕け散った装甲に削身断頭笏が突き刺さり、男の肉体を簡単に貫く。
一瞬だけ全身に激痛を感じるが、それでも気が楽になれた。全ての人々を救うという消えない思いだけは、この世界に残せている。
それが男にとって唯一にして最後の救い。ショッカーによって仮面ライダー一号にされてから数え切れない地獄を見せられて、数多の嘆きと絶望を味わってしまった本郷猛の希望は、決して消えなかった。
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最終更新:2013年03月14日 22:47