Aが求めるもの/やがて怪物という名の雨 ◆7pf62HiyTE



『そういえば翔太郎さん、1つ気になった事があったんですけど……』
『ん、どうしたユーノ?』



 これは、約半日程度前、もっと詳しく言えば『彼』あるいは『彼女』が主と永久の別れを迎えるほんの数十分程前の出来事である。



『確か、フィリップさんは冴子さんの弟なんですよね?』
『ああ、そうだ』
『??? どういうことだ?』
『ああ、杏子……フェイト達が来る前に翔太郎さんから聞いた事だけど、参加者に園咲冴子さんがいるんだけど、その人の弟が翔太郎の相棒のフィリップさんなんだよ』
『……あれ、そういえば同じ名字で霧彦という名前もあった様な……』
『ああ、霧彦は冴子の旦那だ(まぁ冴子が何処まで想っていたかは……)……で、それがどうかしたのか?』
『こう言ったらおかしい気もするんだけど……流石に園咲フィリップというのは不自然な気が……』
『つまりユーノはこう言いたいわけだな、『フィリップの名前は実は本名じゃ無くて別に本名がある』と……』
『あ、でもちょっと気になった程度だし、差し障りがあるんだったら別に……』
『園咲来人』
『え?』
『来人、それがフィリップの本みょ……いや本来の名前で、もう一つの本名だ。別に構わねぇぜ、今更隠す事でもねぇしな……アイツにとってはどっちも大事な本名だからな……』
『翔太郎……さん』
『俺や亜樹子達はフィリップって呼んでいるが……アイツにとっては来人もかけがえの無い大事な名前だ……そう、アイツと家族を繋ぐ……
 俺達に取ってはフィリップこそがアイツの名前だが、来人も立派な名前だ……俺としてはどちらかというとフィリップって呼んで貰った方がしっくりくるが……出来れば『来人』って名前も忘れないでやってくれねぇか?』
『勿論ですよ翔太郎さん、でも……それならなおさら翔太郎さんの相方にこれ以上相応しい人はいないですよね?』
『? どういうことだよ?』
『確か翔太郎さんの名字は左でしたよね?』
『ああ、何を今更……ん、まさか……』
『『来人』……『ライト』……『Right』……『右』!?』
『そうだよフェイト、翔太郎さんが左でフィリップさんが右、これ以上無いぐらいにピッタリだと思わないかい?』
『なんかすげーこじつけな気もするけどなぁ……偶然にしちゃ出来すぎじゃねぇか?』



Scene01.それは何気ないある人の本名に関わる話題なの







 ――何故、涼村暁は強いのだろうか?


 いや、この言い方は正確では無い。言い直そう、


 ――何故、涼村暁は負けていないのだろうか?


 彼を知る殆どの者が見た場合、涼村暁は一般人の平均から見て下に位置するものと考えて良い。

 知識――小学校低学年並
 体力――一般成年男性の平均並み
 人格――正義感の欠片も無い堕落した自己中心的な性格

 これらのデータから見てもダークザイドの闇生物と戦うには限りなく不適格と言わざるを得ないだろう。
 が、現実はどうだろうか?

 涼村暁、超光戦士シャンゼリオンは多くのダークザイドと戦いそれに勝利、あるいは勝利と行かなくても生還し続けてきた。

 それはシャンゼリオンの持つクリスタルパワーが成した事なのか? 答えはNoだ。

 (これを黒岩省吾が把握しているわけではないが)かつて、速水克彦と生体エネルギーであるラームが入れ替わった事により、速水がシャンゼリオンとして戦う時があった。
 速水は本来ならばシャンゼリオンになるべき筈だった男、それ故にシャンゼリオンになる為に過酷な訓練に耐えており、人格面でも正義感が強く誠実でお人好しと言えるものだ、
 故に速水が変身したシャンゼリオンは本来のシャンゼリオンと言えるものだろう――だが、

 結論から言えばその人格故にダークザイドの闇生物を倒す事が出来なかった。そしてラームを取り戻し変身能力を取り戻した暁のシャンゼリオンによってその闇生物は撃破されたのだ。

 勿論これだけで総てを断じる事は出来ない、だがこれは性格がヒーローの是非を決める者では無いという1つの証明と言えよう。

 現実問題として前述の通り涼村暁という男が特別秀でているという事では無い。
 にも関わらずダークザイドの幹部や上級ダークザイドとの戦いにおいても勝利あるいは生還し続けている。
 単純なスペックだけで言うならば何時敗北し命を落としてもおかしくはないにも関わらずだ。

 勿論、シャンゼリオンのスペックあるいは可能性は未知数とも言える。
 だが、仮にそうだとしても暁の戦績はある意味異常だ、果たして他の者がシャンゼリオンとなった場合ここまで戦えるものだろうか?
 黒岩省吾が一目おける程の相手となり得るのだろうか?

 その異常性はここでも発揮されている。
 この地における涼村暁はシャンゼリオンになって日が浅いタイミングから連れてこられている。速水の事も殆ど知らず黒岩の存在はそもそも知らない状態だ。
 それ以前に頼れるお供とも言える超光騎士の存在すらも知らないのだ。
 そう、ここにいる暁はシャンゼリオンとしての経験が圧倒的に足りないのだ。
 ヒーローとしての戦闘経験、そして人間性の成長(そうは見えないが暁も後々それなりにヒーローとして戦う様にはなっては来ている……多分)すらないという事だ。

 つまり、ここにいる暁は黒岩や速水の知る暁よりも圧倒的に弱者とも言えるのだ。

 にも関わらず、暁は未だ健在、精神的にも肉体的にもそれほどダメージは見られず変わらぬ調子でバカな事をやっている。
 勿論、戦いに遭遇していないならばそれもあるだろうが、実際は参加者中でも最強最悪の戦闘力を持つ強敵ン・ダグバ・ゼバと遭遇したにもかかわらず殆どダメージを受けず生還したという話だ。
 それより一歩劣るゴ・ガドル・バに一方的に完全敗北した黒岩がいる一方でだ。

 加えて言えば、既に半数以上の参加者、その中には暁よりもずっと真っ当で強いヒーローも退場している現状だ。

 だからこそ今一度問おう――


 何故、涼村暁は変わらないのか――その名の如く光輝き続けているのか――?






 ――Nasca――


 H-5の池の外周を歩いていた黒岩省吾は唐突にその音声を耳にした。


「ガイアメモリ……新手のドーパントとかいう奴か……?」


 恐らくは戦いに敗れ流血しボロボロの状態である自身を発見し、仕留めるべくドーパントへの変身を行ったのだろう。
 しかし黒岩の耳に響いた音声はごくごく小さい、新たに得た力のお陰で強化されていなければ知覚出来なかった可能性は高い。
 つまり、敵との距離は大分離れているという事だ。だが、


「!! この気配……来るか!!」


 だが、強化された力あるいは長年の戦闘経験が教えてくれた。敵が超高速で迫っている事を――


 時間にしてみれば2,3秒、あまりにも短い時間――だが、


「×××××××」


 黒岩省吾が暗黒騎士ガウザーへと『暗転』するのに必要な時間に比べれば余りにも長い――十分過ぎる程に、
 そして、超高速故に視認出来ずとも――自身を刺し貫こうとする怪人の一撃をはじき返す事など――


「ふん!」


 造作も無い事だ――


「なるほど……青い鳥、ナスカの地上絵を模したドーパントか」


 そして、ガウザーの眼前に青い戦士の怪人、ナスカ・ドーパントが姿を見せた――



 ここで、少し時間を遡ろう。



 ショートカットの少女天道あかねは川、あるいはH-5の池へと向かっていた。そのまま川沿いを進みその先に待つであろう機械の怪人を破壊する為に――


 そして遠目で見つけたのだ、血塗れでボロボロのスーツな機械の男性を――


「見つけたわ……」


 相手はまだ此方を察知できていない。ならば先手を打てば良い。ボロボロの機械を壊す事など造作もないだろう――だが、


『That man machine really ? (あの男は本当に機械なのか?)』


 何処からともなく声が聞こえて来た。未だ迷っているというのか?
 五月蠅い黙っていろ。アレは人間じゃ無い、機械に決まっている。
 大体心臓を貫かれても平然としていた少女もいた。
 躰を中央から真っ二つに分けても平然としていた仮面ライダーもいた。
 瞬時に姿を変えるプリキュアやシンケンジャーもいたではないか。
 そういうのは人間では無い、機械に決まっている。
 仮に機械でないのならば外道衆やダグバの様な得体の知れない怪物だろう。
 そんな奴等は人間じゃ無い、人間じゃ無いならば破壊、あるいは退治してもなんの後悔もする必要も無い。

 声は既に聞こえない。恐らく空耳だったのだろう。ならば最早気にする必要は無い。

 それよりもあの機械に察知される前に仕掛けねばならない。距離にして100メートル以上あるものの察知できない距離では無い。
 普通に接近すればその前に察知され迎撃に出られてしまう。だが方法はある。
 察知される前に接近し一撃で終わらせれば良い。故に――


 ――Nasca――


 Nちゃん(ナスカのガイアメモリ)を挿入し自らの躰をナスカ・ドーパントへと変化させる。そしてそのレベル2による力、通称超加速で一気に間合いを詰め――ナスカブレードの一撃で破壊するという至極単純なものだ。
 相手は壊れかけの機械、察知さえされなければこれで終了だ。


「はぁぁ……!」


 徐々に間合いは詰まっていく――


 50――


 30――


 伝説の道着によって引き出される潜在能力ならば高速接近状態からでも確実に攻撃を入れられる。


 20――


 10――


 だが、次の瞬間、男が突如、漆黒の鎧を纏った怪人へと変貌した。察知されたのか?
 しかし構う事は無い。このまま一撃を――


 だがナスカブレードの一振りは怪人の振りによって弾かれ――


 いや、それどころかそのパワーで体勢を崩され横へと流されてしまったのだ。


「ぐっ……」


 かくして高速状態が解かれ、鎧怪人こと暗黒騎士ガウザーにその姿を晒す事となったのだ。


 初撃の失敗、これは今のあかねにとって非常に手痛いミスだ。出来うる事なら消耗は避けたい所ではある。
 とはいえそれを読んでいなかったわけではない。何しろこの地にいるのは倒れても倒れても何度でも起き上がる機械や怪人達なのだ。これぐらいの事は想定内だ。
 そう、弱点は判っているのだ。その弱点を突けばどんな機械も壊せない事は無い。


「丁度良い……我が力の実験台になってもらおうか」


 ガウザーがそう口にする。実験台――その言葉に憤りを感じずにはいられない。


「実験台……随分と嘗められたものね……」


 挑発に乗るな、相手は機械なのだ、何を言われても気にする事は無い。故に――


「来るか?」


 ガウザーへとナスカが接近する。超加速は使用していないとはいえそのスピードが速い事に違いは無い。


「なる程、相応の実力が持っている様だな」


 右肩、左手を狙って斬撃を繰り出していく。しかし、それらをガウザーは刀を振るい弾いていく。



「だが、そうでなくては実験台の意味が無い」


 続いて光弾を左大腿部、右足首、そして首へと次々と発射する。だがそれらの光弾も後方へと飛ぶことで確実に回避していく。


「甘いわね」


 が、それを読んでいないナスカではない。ナスカは一気に間合いを詰めブレードを構える。当然ガウザーも斬撃を警戒し構えるが、


「はあぁぁぁ!!」


 繰り出されたのは斬撃では無くハイキック。しかしてガウザーは上体を反らし回避――


「くっ……」


 出来なかった。いや、正確に言えばガウザーの本体に命中はしていない。


「(これで手持ち武器以外は封じたわ……)」


 空中をガウザーの持つデイパックが舞う。そう、ナスカの狙いはガウザーの持つデイパックだったのだ。口も僅かに開き中身の1つが零れ出る。
 思えば伝説の道着も他の参加者が所持していた。幸い手元に戻って来たが、それが他者によって悪用されないとは限らない。
 それを踏まえればデイパックに眠る道具を使われる事は警戒すべきだ。
 何にせよ、これによりガウザーは手持ち武器だけでの戦いを強いられる事になる。
 勿論、いつぞやのバカな探偵(暁の事では無く某ハーフボイルドの事です)の様に箸袋や妙に堅いベルトを仕込んでいないとは限らない。
 とはいえそれにより何度も遅れをとるつもりはない。状況は此方に傾いたといえよう。
 しかし、対するガウザーは一瞬驚愕したものの既に冷静さを取り戻している。


「どうした、デイパックを封じたぐらいでいい気になるな」


 すぐさまガウザーの突きがナスカの首元へと迫っていた。しかし寸前でマフラーを絡みつかせ迫り来る刀の動きを止める。


「むん!」


 だがすぐさまガウザーは刀を力尽くで振り回し絡みついているマフラーに引っ張られる様にナスカも放り投げられる。


「ぐっ……」


 それでも伝説の道着のお陰もあり、すぐさま体勢を立て直しガウザーへと向かっていく。


 ナスカが5回仕掛けるならばガウザーは3回防ぎ2回かわしていく。
 ガウザーが3回仕掛けるならばナスカは1回防ぎ2回かわしていく。
 ナスカが5回仕掛ける中、ガウザーもまた2回仕掛ける。


 その様な繰り返しが続いていく。
 勿論、双方共に攻撃を全て防ぐあるいは回避しているわけではない。
 当然双方が繰り出す攻撃の内、1割から3割は命中している。
 しかして双方共に受けるダメージは微々たるものだ。

 その繰り返しが数分続く――

 一般に格闘技の試合時間は大抵数分程度、その程度の戦いでも大きく疲労するのが常だ。
 それを踏まえて考えればその程度の時間であっても両名に蓄積される疲労は無視できないレベルとなっていく。
 故に、双方共に攻撃を受ける割合も徐々に増えていっている。
 決定打は未だ与えていないとはいえ、その瞬間が訪れるのも後1,2分と考えて良いだろう。

 ナスカの攻撃はパワーに劣るがスピードに秀でている。
 ガウザーの攻撃はパワーこそ秀でているがスピードに劣る。
 そういう観点で言うならば、戦闘の流れは一見すると互角の様に見える。
 しかしスタミナの違いからか徐々にだがナスカの動きが悪くなっている。
 パワーに劣っている状況で秀でているスピードまで悪くなったならば――

 ナスカの優位性は消えてしまう。伝説の道着のお陰で対応出来ているが何れは限界を迎えるだろう。


「ふん……どうやらこの俺を倒すには力不足だった様だな……」


 既にガウザーは自身の勝利を確信している様だった。


「きゃぁっ……」


 その言葉と共にナスカのバランスが崩れる。


「終わりだ……」



 その言葉と共に、ガウザーの刀がナスカの首を斬った――



 と思いきや、ナスカは突如として姿を消し――



 次の瞬間、天空から無数の――数十にも及ぶ光弾が雨の様にガウザーへと降り注ぐ――



 その刹那『赤き鳥』がガウザーへと迫り――



 数十撃の攻撃を全身へと浴びせ、それによりガウザーは刀を手放してしまい――



 そして、鋭利な刃がガウザーの腹部を貫――






 さて、勘の良い読者諸兄ならば何が起こったのかはおわかりだろう。
 ナスカ・ドーパントこと天道あかねが行った事はそう難しい事では無い。ふしぎな事は何も起こっていない。
 そう、先に対戦した仮面ライダー二号一文字隼人との戦いで使った手段と殆ど同じだ。

 ここでその時に使った手段を簡単に説明しておこう。
 ナスカの高速戦に対応する二号に対し、あえてスピードを落とす事でそのスピードに対応させる。そして遅いスピードになれきったタイミングで高速戦を仕掛けるという種明かしをすれば至極単純なものだ。そうすれば対応が遅れるという事だ。
 実際にこの手段により二号は弱点を突かれそれが元で敗北、最終的に命を落とす結果となった。勿論、他にも要因はあるがそれが切欠となった事に違いは無い。

 それと同じ事を行ったという事だ。
 奇襲の失敗とその立ち回りからガウザーの戦闘力は二号のそれに匹敵すると判断。だからこそ勝利の為には同じ手段を使うのが一番の近道だと判断したのだ。

 つまり、攻撃の仕掛け合いが続く中で徐々にスピードを落としていく。勿論、疲弊による低下もあるにはあるが半分は意図的に力を抑えての事だ。
 そして、ガウザーが此方が疲弊し隙を見せたと誤認しトドメとなる一撃を仕掛けたそのタイミングで――

 Nちゃんの真の力であるレベル3、赤いナスカ・ドーパント通称Rナスカ・ドーパントへと強化変身し――超高速でその一撃を回避し――
 上空へと舞い上がり無数の光弾を雨の様に降らせていき――
 更に一気に間合いを詰めて何十撃もの攻撃を浴びせ――
 最後にナスカブレードで腹部のベルトの様な部分を攻撃し破壊する事で変身能力を破壊する――

 ちなみにRナスカになった時は当然スピードは飛躍的に強化される上、パワーも従来のナスカと比較にならないぐらい強化されている。
 その力を知る仮面ライダーWが仲間達の生存を優先する為に撃破を断念させる程のものだ。それがどれだけのものかは想像に難くないだろう――





 そしてその結果――









 変身が解かれ地に伏せられている――



 天道あかねの姿があった――



 池近くの戦闘故に、攻撃の余波により池の水が溢れる様に大きく撥ねて行き雨の様に降り注ぐ――



 その雨に打たれながら未だ健在の暗黒騎士ガウザーは敗者を見下す様に元の黒岩省吾の姿へと戻る――



「う……そ……でしょ……」



 ゆっくりと手を伸ばし排出されたもののすぐ近くにあったNちゃんへと手を伸ばしそれを掴む。



 一体何が起こったと言うのだ? 此方の攻撃は決まっていた筈だ。
 いや、いくらかは防ぐか回避出来たとしてもその全てを防ぎきる事は不可能だ。
 そう、確実にRナスカの攻撃は決まっていた筈なのだ。耐えきれず刀を手放した事からもそれは証明されている
 だからこそ最後の一撃を――



 だがその瞬間、Rナスカのブレードが腹部に触れるよりも速く、
 ガウザーの拳がRナスカの胸部を捉えていた――

 仮面ライダー二号との戦いで胸骨を折られている。そこに一撃を叩き込まれたのだ。全身を奔る激痛は相当なもの――メモリを排出させるには十分過ぎる程の一撃だったのだ。

 だがわからない。何故ガウザーはこの一撃を決める事ができたのか?
 ここまで見事な攻撃は、此方の攻撃を読んでいないと出来ない筈だ。
 まるで『腹部に迫る一撃を最初から読んでいた』としか思え無いのだ。


「一体何時……何処で気付いたの……?」


 何故、自身の作戦が読まれ失敗したのだろうか?
 あかねの思考が追いつかないでいる。



 その理由――読者諸兄はおわかりだろうか?
 当然それは幾つか存在する。

 まず、根本的な状況の差異だ。
 あかねは二号戦の時と同じ作戦が使えると判断していたがそれがそもそもの間違いなのだ。
 勿論、二号とガウザーは別人だからという話をするわけではない。というよりこれはまず考慮には入れない。
 先に説明した通り、二号との戦いで胸骨を折られている。それからわかるとおり、コンディション自体二号戦よりも悪化しているのだ。
 それをそのまま流用した所で同様に上手くいくとは限らない。それがまず失敗の理由の1つだ。

 もう1つは状況というものは生ものであるということだ。
 そう、全く同じ状況を作り出しても同じ結果になるとは限らない。
 先の戦い、あかねの作戦は見事に嵌まり二号を仕留める事に成功した。
 だが、その戦いにおいて二号が数手速くあかねの作戦を読まないとは限らない。二号は歴戦の戦士その可能性もあって然るべきだ。
 読み切れずベルトにダメージを受けたのは紙一重とも言って良い。先にあかねの策を看破出来たならば違う結果もあっただろう。
 『たら』『れば』の話をしても仕方が無いとお思いだろうが、重要なのはその作戦自体絶対的なものではないという事だ。

 だがここまでの説明はあかねの作戦が失敗に終わる事もあるという説明に過ぎず、今回失敗した理由の説明にはなっていない。
 それではここから先は黒岩自身に説明して貰おうか。


「貴様が何か仕掛けてくる事は推測出来ていた……それが何かまでは判らなかったが伏兵の警戒ぐらいはしていた……」
「伏兵ですって……そんなものあるわけが……」
「貴様の事情など知った事では無い……ライバル同士を潰し合わせ漁夫の利を得ようとするバカなヒーローを知っているのでな。暗黒騎士を嘗めるな」
「ライバル同士を潰し合わせるヒーロー……そんなヒーローいるわけが……」


 そんなもんヒーローじゃねぇよ! そう言いたい気持ちはわかるが現実にそれをやった奴がいるのだ。


「ついでに言えばそいつはスキャンダルを起こさせ俺の東京都知事当選を阻止しようとした、もっともその目論見は外れたがな」
「スキャンダルを起こすヒーローなんてそれこそヒーローじゃないわよ! というか何気に都知事って何馬鹿な事言っているのよ!?」

 その言葉からまるで自分は東京都知事だと言っている様なものだが本気で頭がおかしくなっているとしか思えない。確かにその感情は理解出来るが現実に目の前の男はある世界における東京都知事だ。


「何にせよ、俺を仕留める一撃をずっと警戒していた……加えて言えば貴様自身が何か手を隠している可能性も読んでいた。
 高速戦による奇襲に失敗した後、不利になっていくにも関わらず一切撤退しようとしなかった。これでは何かあると宣伝している様なものだろう?」


 奇襲というのは結局の所、ハイリスクハイリターンの戦法だ。失敗に終われば一転不利に陥る。そのまま戦いを継続する場合、ある程度勝利の算段が立っていなければならない。
 そうでないならば早々に撤退に出るべきだ。ナスカの機動力ならばそれ自体は容易だ。にも関わらずそれをしなかったのはそれが出来なかったか、敢えてしなかったかだろう。
 そして後者であるならば勝利の算段、つまりは秘策があるという事に他ならない。
 ちなみに二号がしてやられた時も、二号はナスカの行動に違和感を覚えていた。結局、その正体を掴む前に作戦を決められたが状況次第で看破出来た可能性があったという事はおわかりだろう。


「へー……そこまでは見事ね……でも結局攻撃を受けたんじゃ同じ事じゃ無いの?」


 とはいえ、その秘策の一つであるRナスカによる猛攻はガウザー自身受けている。攻撃が来る事がわかっても受けてしまえば同じ事だろう。


「確かに最初の奇襲よりも速く力強い猛攻が来る事は読み切れなかった……だからこそ完全に無傷というわけにはいかなかった……その点だけは見事だ、褒めてやろう……」
「皮肉のつもり……?」


 そう睨み返すあかねだったが黒岩は不敵な表情を浮かべたままだ。


「だが……本命の攻撃が別にあった事は読んでいた……」
「そうよ、何故わかったの……?」


 そこだ、何故ガウザーは腹部を狙う攻撃を読んでいたのか? だが、冷静に考えて見ればそれは容易にわかる事だ。


「いいえ……わかっていたに決まっているわ……変身が解けたら困るもの……」


 変身能力を司る腹部のベルトにダメージを受ければ変身が解ける等の致命的なダメージを受ける。そう口にしたが、


「違うな……貴様は致命的な勘違いをしている……」
「どういうことよ……?」
「その説明をする前に何故俺が腹部に迫る攻撃を読んでいたか教えてやろう……貴様……意図的か無意識かは知らんが何故か腹部だけは狙わなかったな」
「!?」


 そう、あかねことナスカは最後の一撃を除いて腹部を狙った攻撃は一切仕掛けていない。
 これは最終的に腹部への攻撃を決める為に、そのタイミングで警戒および防御されるのを防ぐ為にあえて外していたという理由が存在する。


「だからこそ本命が腹部を狙う攻撃だと把握できた……後は貴様の殺気を読んだというだけの話だ。それさえ読み切れば……これほど容易いことはない」
「何が容易いよ……それさえ防げればそれ以外の攻撃はある程度受けても構わなかったって事じゃない……」
「勿論、直撃は避けさせてもらったがな」


 そう不敵な笑みを浮かべる黒岩だった。


「それで……勘違いってどういうこと? 説明してくれるの?」
「貴様の口ぶりでは俺の変身能力は腹部……そこにあるベルトが司っていると考えている様だったがそれがそもそもの間違いだ……この暗黒騎士ガウザーの力はベルトによるものではなく、俺自身のダークパワーによるものだ」
「ベルトは関係……無い……ですって……?」
「とはいえそう思い込むのも無理は無い。俺自身ベルトの力で変身する奴を何人も見ているからな……だがそれ以外の道具を使う、それ以前に道具を必要としない奴がいることを失念したのは完全に貴様の落ち度だったがな」


 そもそもの前提が間違っていたのだ。暗黒騎士ガウザーの力はベルトによって制御されているという前提が――
 この前提に至ったのはダグバや仮面ライダーW、そして仮面ライダー二号の力がベルトによるものだったからだ。
 それにくわえ自身の伝説の道着の弱点も腹部だったことから、大抵の変身機構は腹部あるいはベルトといった部分に集約されていると考えていた――というより思い込んでそう結論づけたのだ。
 それ故に、ガウザーも腹部が弱点だと思い込んでしまったのである。少しでもそれっぽい部分に見えるならば同じ事だと考えてしまったのだ。思い込みとはそれだけ恐ろしいものなのだ。
 ガウザーの言う通り、シンケンジャーやプリキュアはベルトでは無く手持ちの道具を使っているし、ドーパントに至ってはメモリ自体が要だ(というよりW自体本命はメモリである事をそれを一度は奪取したあかね自身知っている筈だったのだ)。
 それ以前にそれすら関係無い奴がいる事を失念したのは完全に悪手であったと言えよう。


「もっとも変身に関係あるかは別にしても腹部は弱点である事が多い、そこを狙おうとした事自体は悪手ではないがな」
「ぜんっぜんっ嬉しくないわね……」
「言っておくがこれでも評価しているつもりだ、そう貴様が万全な状態で力を得る前の俺が相手だったならば……五分五分……いや七分三分で貴様の方が勝てるだろう」
「皮肉のつもりかしら?」


 そう毒突くあかねに構う事無く黒岩は続ける。


「だが貴様はそれでもこの俺に勝てないだろう、何故だかわかるか?」
「何クイズやってるのよ! さっさと言いなさいよ……」
「そう……貴様には遊び心が足りないのだ……心の余裕が無いと言っても良い……張り詰めた糸は糸はすぐ切れる……そういう事だ」
「遊び心……こんな状況でフザケタ事なんて……」


 正直言って苛立ちは頂点に達している。


「確かに巫山戯ている。馬鹿げていると言ってもいいだろうな……だが俺は知っている……その遊び心の塊の様な男が……正直時に不健全としか言い様の無い時もあるがな……」
「さっきから何が言いたいのよ……」
「そいつが此処まで生き残っているのは恐らくそれが理由だ……というよりそれ以外に思い当たる理由が無い……」
「ぐっ……」


 正直な所、機械の戯言に付き合いたくは無い。だが激痛で躰が言う事を聞かない以上睨み付ける事しか出来ないでいる。


「何だその人を怨んでいるかの様な顔は? 大体、有無を言わさず襲ってきたのは貴様の方からだろう。
 真偽はどうあれ客観的に見れば俺は降りかかる火の粉を払った善良な人間でしかないわけだがな。もっとも過剰防衛で訴えられれば負ける可能性もあるだろう、良い弁護士でも探してみるか?」


 善良な『人間』? その言葉があかねの中で何かが切れた。
 だがあかねは気付かない。それが自らの首を絞める事になる事を――


「巫山戯ないで……機械のくせに……自分を人間みたいに言わないで……」


 そんな憎悪を込めたあかねの言葉にも黒岩は揺るがない。


「機械……貴様はバカか? 俺の知る最低最悪のバカでも俺を見て機械だとは言わないぞ。まさかそいつよりもバカだというのか? というか貴様の目にはこの俺の躰を染める赤い血が見えんのか?」


 黒岩の目は侮蔑に満ちたというよりも可哀想な人を見る様な目をしている。


「ぐっ……機械じゃなかったら怪物よ……どっちにしても人間じゃ無いわ……」


 正直言ってあかねの怒りはとっくの昔に限界を超えている。この身が動けるならば今すぐにでも一撃叩き込んでいる所だ。だが、


「確かに俺は人間では無い、ダークザイドの闇生物、暗黒騎士ガウザーだ。人間としては黒岩省吾と名乗っているがな……」
「やっぱりそうじゃない……」
「だが……それは俺自身がそう口にしたからだろう。しかし……貴様は俺が『俺は人間だ、人間でたくさんだ』と言った所で信じたか?」
「何言っているの、そんなの信じられるわけがないでしょ、大体実際人間じゃないんでしょ? 何が言いたいの?」
「つまり、貴様は俺が何を言おうと俺が人間ではないと言い張るという事だ」
「でも実際そうなんだから何の問題も……」
「俺が言いたいのはそういうことではない……そう、この際俺の言葉などどうだって良い。重要なのは……

 貴様は何故俺を見ただけで人間ではないと判断できたかという事だ」

「見ればって……そんなの一目見ただけで……」
「何故わかる? 俺の姿を見た所で機械と言ってしまう様なバカにそれがわかるわけないだろう?
 そもそも、俺の状態を思い返してみろ。負傷し血塗れでぼろぼろなスーツを着たみすぼらしい男……これで判る事は敵の襲撃によってダメージを受けた事ぐらいなものだ」
「それは……」
「例えばだ、その正体が超能力者の恋人がいたが、ある切欠でその恋人の弟の名前を名乗る事になった男だったのかもしれない」
「妙に具体的ね、というか何時思いついたのよその設定?」
「あるいは、怪人軍団を殲滅しようと目論む警察の上官という可能性もある」
「いないわよそんな人」
「はたまた、絵の才能をぶつけるに相応しいモデルと出逢えたのは良いが怪人と間違えられ負傷したことでその機会と共に絵の才能すら失い、22年かけてその切欠となったヒーローの属する組織に復讐を目論もうとする男なのかもしれない」
「正直、小説家か脚本家にでもなった方がいいんじゃない?」
「つまり、一目見ただけでは俺の正体を看破する事は不可能だという事だ。だが貴様は最初から俺を人間では無いと看破していた、何故だ?」
「それは……」
「誰かから俺の正体を聞いたという線は無い。だが貴様の言葉からそれはないのはわかる……」
「うっ……」


 闇生物はどう見ても機械とはいえない。つまり暁などから黒岩の情報を聞いたならば黒岩を機械呼ばわりする事はまずあり得ないというわけだ。


「となれば考えられる可能性はただ1つ……貴様は俺の正体の真偽など関係無く、『機械』か『怪物』と決めてかかっていたという事だ。そして俺が『怪物』だからこそ襲ったという事だ」
「だから実際そうだったんでしょ、何の問題もないわ!」
「そうかな? だが重要なのはそこではない。何故俺の正体を『怪物』と断ずる必要がある?」
「それは……」


 答えなど出ている。だが何故か声にならない――


「代わりに俺が答えてやろう。『人間の命を脅かす怪物ならば殺しても何の問題も無い』からだ、違うか?」
「うっ……どうしてそれが……」
「幸か不幸かそういうスタンスの奴に会っているからな」


 言うまでもなくそれは西条凪及び涼邑零の事だ。彼等はダークザイドという黒岩の正体を聞き、倒す事も視野に入れていた。勿論実際は黒岩が人々を襲わない限りは保留にしてはいる。


「そうよ、だから何の問題も……」
「だが貴様と奴等は似て非なるものだ。奴等が人外の怪物を殺すのはその根底に『人々を守る』という使命があるからだ。そしてその為ならば自らの手を汚す覚悟もあるという事だ」
「あたしは……」
「違うな、貴様の根底にあるのは自らの手を汚したくないという逃避だ……そう、貴様は欲しかっただけなのだ……

 自身が他者を殺しても何の罪にも問われない正当な理由がな!」


 その言葉を耳にした瞬間、あかねの中で何かがひび割れていくのが感じた。
 ダメだ、これ以上この男の言葉を聞いてはいけない。
 それでも黒岩の言葉は続く。


「それは……」
「要するに貴様は『殺人』を冒したくないだけだ。だから『怪物』あるいは『機械』ならば殺すあるいは壊しても何の問題も無いと……そう、害を及ぼすネズミや害虫を殺すのと同じ感覚だという事だ」
「何が違うのよ……アンタだってさっきそういうスタンスの人に会ったって」
「だから違うと言っている。奴等は恐らく人々を守る為なら怪物では無い凶悪な殺人鬼でも殺す覚悟があるだろう……そう、それが『殺人』だとわかっていてもだ……」
「うっ……」
「念の為言っておくが、あのバカもそういう覚悟とは違うだろうがそれに対し言い訳にならない言い訳などしない筈だ。もっともアイツの場合は深く考えていないだけだろうがな」
「言い訳にならない言い訳……何が言いたいの?」
「そもそも貴様の理論は最初から破綻している……貴様の言い分は『人間以外ならば殺しても問題無い』という事だ。だが冷静に考えて見ろ、その理論で言えば害にもならないむしろある種の家族と言えるペットは殺しても問題無いという事になるだろう」
「!!」
「ペットを飼った事はあるか? あるならそのペットの事を考えて見ろ、無いなら試しに想像してみろ。もしそのペットが惨殺され、『人間じゃ無いから問題ないでしょ』と言われて納得出来るか?」


 そう、黒い子豚のPちゃん(注.勿論、あかね視点ではそれ以上でもそれ以下でもない)が理不尽に殺されて黒岩の言葉通りに開き直られたらあかねはその相手に激しい憎悪を抱くだろう。
 だが、それを考えた瞬間、ひび割れているものが徐々に崩れ去っていくのを感じた。


「どうした? 当然納得しているのだろう。何しろ貴様がやろうとした事はそれと同じなのだからな」
「……がう……」
「ん、どうした?」
「違うわ……Pちゃんと貴方みたいな怪物と一緒にしないで……!!」
「なるほど、その違いは人に害を及ぼすか及ぼさないかという所だろう。確かにその通りだ……だが気付かないのか? 貴様、自分で自分の首を絞めている事に……」
「どういうことよ……」
「貴様の理屈で言えば人外であっても善良なペットであるPは殺してはダメで、害をなす俺は殺して良いという事になる。つまり貴様にとってPは『人間』と同等という事になるな」
「ええそうよ、Pちゃんは大事な家族よ……」
「そうなれば例え同じ人間であっても先程例に挙げた凶悪な殺人鬼は貴様の基準で言うならば『怪物』という事になるな」
「それは……」
「違うとは言わさん……何しろPと俺が『人間』か『怪物』かを分けたのは躰の構造では無くその行動なのだからな。それは貴様自身が口にしたことだ」
「ぐっ……」


 音を立てて崩れ去っていくのを感じた。正直もう止めてくれ、そう願ったが。


「少々長くなりすぎたな……そろそろ結論を言おう。相手の正体も解らず、一方的に『怪物』と決めつけて殺す……貴様のその行動は『怪物』そのものだという事だ」
「!?」
「俺の正体も知らずにそうやって仕掛けたのは誰だ? 貴様だ。恐らく貴様が目にしたのが桃園やあのバカ、あるいは仮面ライダーであっても同じ事をしただろう。そう言って無理矢理型に当てはめるのは『怪物』というより『機械』だな……」


 何てことを言っているのだろうか。この男は自分が『人間』ではないと言い始めたのだ。


「違う……私はアンタ達みたいな変な力なんてないし変身だって出来ない……只の人間よ……」
「今度は力や変身能力の有無を持ち出すか……なるほど確かにその理屈なら俺も桃園も涼邑零も皆人間では無い、『怪物』あるいは『機械』と言える……
 だが、その理屈で言えば貴様もまた『怪物』だ。ナスカ・ドーパントに変身した時の貴様は俺の様な『怪物』に匹敵する力を持っていたのを自分でも理解しているだろう?
 念の為に言っておくが、道具を使って変身するから違うという理屈は通用しないぞ。貴様の理屈ではプリキュアすらも『怪物』の範疇だろうが、プリキュアは道具を使って変身する奴等だ、それを『怪物』というならば貴様もまた怪物だ」
「それは……」


 完全に自身の正当性が崩れ去っていくのを感じた。


「そう……貴様の理屈で当てはめれば貴様自身が排除されるべき『怪物』あるいは『機械』だ……そんな破綻した理論を口にした理由はただ1つ……
 貴様は『殺人』という罪を背負うことを恐れ逃げているだけだという事だ……それを行えばもう元の様に暮らす事が出来ないから……」
「ぐぐっ……」


 余りにも悔しい、それ故に目から何かがこぼれそうな気がするした。その時、


「だがそれで良い」


 唐突に黒岩はそう言い始めたのだ。


「裏を返せば貴様は本来は殺伐とした世界とは無縁の世界の住人なのだろう。その貴様がそこまで破綻した思考をし……そして殺人まで冒しその罪を背負わず逃げようとした……
 そこまでの事をさせるとは貴様の心の闇は相当に深い様だな、ある意味では尊敬に値する」
「何を言っているの……」


 あかねは困惑していた。先程まで此方の心をえぐり続けてきたと思ったら唐突に尊敬しだしたのだ。
 何だ、何かが引っかかる、何か見落としているのか?
 どちらにしてもこのまま黙っているわけにはいかない、無駄とも思えるぐらいに長話を続けたお陰で僅かだが体力は回復できた。


 ――Nasca――


 Nちゃんを起動させる。今一度ナスカに変身し黒岩を撃破、いや逃走を図るべきだろう。

「知っているか? ナスカの地上絵と呼ばれる地面に描かれた巨大な模様、それが描かれた理由は諸説あり、その中の一つに雨乞いの為という説もある。つまりは神あるいは精霊の力を呼び起こそうというわけだ……」


 何故唐突に豆知識を語り出したのだろうか? というか探偵みたいな喋り方をする自称探偵な仮面ライダーといい、長い説明しないと気が済まない奴等ばかりなのか?


「そう……貴様は今、そのナスカの力を以て至高の闇を呼び起こしているというのだ……光栄に思え……貴様は俺が新たに得た力の最初の目撃者なのだからな……」


 その言葉と共に懐から取り出した『何か』を構える。その瞬間、不意に周囲に風が巻き起こっていくのを感じる。


「!!」


 そう、これだったのだずっと引っかかっていたのは――


『丁度良い……我が力の実験台になってもらおうか』
『貴様が万全な状態で力を得る前の俺が相手だったならば……』


 黒岩のその言葉は黒岩がつい先程新たな力を手にし、それを試す相手を捜していた事を意味している。
 そう、つまりあかねはずっと黒岩の力のテストをさせられていたのだ。
 つまり最初から黒岩は全力を出していない、むしろ遊んでいた様子すらあった。言ってしまえば最初から負けの決まっていた戦いだったのだ。
 そして今、奴はあかね自身の力……いや力では無くドス黒い感情を認め、それに応えるべく真の力を繰り出そうとしているのだ。


「マズイ……もう四の五の言っていられる状況じゃ……」


 黒岩の放つ雰囲気だけで理解した、それは相当にヤバイ相手だと――
 下手をすれば取り返しのつかない事になる――


 Nちゃんは既にあかねの体内に――青いナスカへと変身を完了していた。


 だが、視線の先に見知った黒岩の姿もガウザーの姿も無い――



「アレは……闇……」



 暗黒騎士よりもドス黒い闇が見えた気がした――



「フハハハハハハハ……」



 一方の黒岩は狂喜していた、暗黒騎士ガウザーとは比べものにならない力を感じるのだ。



「この力……最早騎士を超えている……王? いやそれを遙かに超越している……!!」



 闇の中から『巨人』が徐々に姿を見せる――大きさ自体は『巨人』とは言い難いがその存在感が『巨人』というわけだ――



「そう……皇帝だ……この力こそ俺に相応しい……我が名は……」



「我が名は……?」



「闇黒皇帝――メフィスト!!」



 メフィスト――そう名乗った闇の巨人が放つプレッシャーは絶大。



 最早、消耗とか四の五の言っていられる状態では無い――



「はぁぁぁぁぁ!!」



 故に、Nちゃんの力を限界を超えて引き出し赤きナスカと成り――


 稲妻の様に闇へと向かっていった――


 一方のメフィストもまたその力を放つ、強大なその力は――
















      Black Out
















Scene02.やがて怪物という名の雨

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最終更新:2014年03月21日 01:20