未来予報はいつも晴れ ◆gry038wOvE
(……急に襲ってきやがって……なんだ、こいつは……?)
二号はそう思いながら、ナスカ・ドーパントの攻撃を回避する。
ナスカのスピードは非常に速い。
その実力はショッカーの幹部は勿論、バダンの怪人さえも軽く超越するほどだ。
「……はぁぁぁっ!!」
ナスカの刃が突き出される。二号は、それを左肩で受けた。
避けようとしたはずであるにも関わらず、避けきれなかったのである。
──強すぎる。
それがよくわかる腕前だ。しかし、どうやら剣捌きはそこまで上手ではない。それは一般人に比べれば上手かもしれないが、剣の達人というほどでもない。
だが、その速度が速すぎた。
(くっ……何だコイツは……?)
まさか、仮面ライダー二号もこれが若干16歳の少女の変身した姿とは思うまい。
幼少期からの特訓による運動神経、更に伝説の胴着による身体機能向上、そこにメモリの力によってのパワーアップ。
もはや、歴戦の勇士たれども手におえないほどの16歳少女である。
「ライダァァァァパァァァンチ!!!」
左肩に深々と刺さったナスカブレードに痛みを感じつつも、右手は拳を作り、的確にRナスカ・ドーパントの顔面へとストレートに突き出される。
この拳速も並みではない。
仮面ライダー一号に比べれば、スピードでは勝利し得ないだろうが、少なくとも避けられる技ではないのである。
そして、その強力なパンチは確かにナスカの顔面へと命中し、ナスカも怯む。ナスカ自身が意地でもナスカブレードを握り続けたため、二号の肩から刃が抜ける。
「……くっ……」
左肩を押さえながら、二号はナスカを睨んだ。
闘牙を忘れてはならない。このままナスカがどう出てくるかをよく分析し、それに対応して戦うべきだ。
敵は俊足。ならば、向かってくる際の威力も相当なものである。
だとすれば、カウンターが有効だろうか? ……しかし、決まるかわからない。
神経をどれだけ集中させればそれができるだろうか。第一、ナスカは剣を持っている。剣を含めたうえでのヒットがナスカの武器だ。そこにカウンターパンチを打ち込むなど、至難の業ではないか?
(奴もそれを計算したうえで戦ってやがる……)
そう、ナスカ・ドーパントに変身する
天道あかねは二号と同じように、計算した戦闘をしていたのである。
カウンターを避け、切り込むような戦法は至近距離でしか行わない。
遠距離からスピードをかけて挑む際は、フェンシングのように突き立てて攻撃しているのである。ナスカブレードがそういう形に適さない形であるのにそういう風に使っているあたりからも、その戦略性を感じる。
──と、そう分析している最中にも、ナスカは再び二号の眼前に向けて羽ばたく。
羽ばたく……?
二号は知らなかったが、ナスカはこの瞬間、羽ばたいたのである。
ナスカの背中に羽が生え、二号を空中から狙おうとしているのだ。
そう、空中からの攻撃ではカウンターパンチなど使えまい。一度空高く羽ばたいたナスカは、そのまま二号に向けて斜め一直線に落ちていく。
「……空中か! 生憎、それなら、こっちにも勝機はあるぜ……」
二号はナスカが落ちてくると予測させる場所から避難するために、バックステップで下がった後、己の足をバネにして高く飛び上がった。
仮面ライダーは飛蝗の改造人間である。
そのジャンプ力は、人間スケールで飛蝗ほど高くジャンプするのと同じ事。その結果、仮面ライダー二号は三十五メートルのジャンプを可能とする。
そのジャンプから繰り出される技は勿論、一つである。
「ライダァァァァキィィィィィィック!!」
ナスカの着地点が自分が居た場所だとわかったために、そこに向かってライダーキックを放てばいいという簡単な計算式が出来上がっていた。
ナスカは予想通り、二号が先ほどまでいた場所に斬り込むポーズでたどり着こうとしている。ナスカもそこに斬り込んでも無駄だと理解しているのだが、自分が落ちるスピードを制御しきれなかった。
地面へと着地しようとするナスカの胸へと吸い寄せられるように、ライダーキックが放たれた。
「きゃああああっっ!!」
ナスカはそんな悲鳴とともに、数メートル吹き飛ばされ、転がり落ちる。彼女も、二号が空中戦が苦手だと誤解していたのだろう。
二号は今の声を聞いて、ナスカは若い女性であるという事に気づいた。
しかし、若い女性だからといって手加減はできない。
蜂女、女戦闘員、妖怪王女、魔女参謀……かつての悪の組織にも、女はいくらでもいた。
女だからといって、悪に手加減する事はできないのである。
むしろ、敵が女性だと知ってから違和感を持ったのは、その戦闘力の方である。いくら男女平等を説いても、性差による戦闘力の違いは大きいものだ。男性が筋肉がつきやすく、女性は丸まった身体になり、戦闘力は男性の方が格段に強くなる。
勿論、格闘家の女性と一般人の男性ならば格闘家の女性の方が断然に強いが、
一文字隼人はもともと、柔道五段、空手六段という優れた格闘能力に更に改造手術を加え、その後も特訓を続けているような男だ。滅多な事では、女性に一本取られることなどありえない。
強力な改造手術でもしているならともかく、敵の強さは強化改造によるものだけではないはずだ。並々ならぬ戦闘センスがある事にも、二号は気づいていた。
いや──
(女が弱いってわけでもねえんだな、実際……)
二号は後ろを見て、それを思う。
キュアピーチが、あんな巨体の敵と戦っているではないか。彼女は若干14歳の少女で、特に格闘経験もない。それゆえの稚拙さはあるものの、やはり見どころはある。
プリキュアの力がそうさせているのかはわからないが、戦闘ではあれだけの力をコントロールするほどである。
「……ったく、なんなんだ、一体。突然襲ってきやがって」
戦闘中に話しかける隙がなかったので、少し遅れてナスカにそう問う。
しかし、ナスカの返答はない。
言葉を使わず、ただ真っ直ぐに二号に向けて駆けていくナスカである。
「……問答無用ってわけか」
言葉を発する事はできるが、答えたくないと見えた。
少なくとも、相手はこの殺し合いにおいて「乗っている」というスタンスである可能性が高いと思える。
事情は不明だが、がんがんじいモドキとも、あそこにいるテッカマンランスとも違う。
かなり切羽詰ったような様子で攻撃をしかけてくるのがナスカである。かつて戦った彼らのような余裕を感じない。
仮にもし人間の姿があるとするなら、それは吠える獣のような面妖になっているだろう。おそらくは、一文字にも悟る事が出来ない深い事情を抱えているのだろう……。
だが、それでも戦わぬわけにはいかない。
「ならば来いっ!」
二号は、迎え来る二号に対し、力強く構えた。
ナスカは、再び加速を使って二号へと斬りこむ。今度は、確かに斬りこんだ。
戦闘方法をいろいろ試しているのだろうか?
「はぁっ!!」
「ふんっ!!」
ナスカの加速を読んだ二号である。
一回ごとに、ナスカの加速への対策は容易になる。相手の速さに慣れ始めているのだ。
ナスカブレードを避けると同時に、ナスカの顎めがけてアッパーを決め込んだ。
カウンターのアッパーである。
「ぐぁっ!!」
ナスカは、宙へと吹き飛ばされ、再びナスカウイングを発現した。
ナスカがまた上空から、滑空するようにして二号に斬り込んだ。これはまた二号にとって苦手な図式だ。
空中を自由に飛行する敵は厄介だ。カウンターをするにも、体積を小さくして飛んでこられては難しい。
ナスカブレードが空中から、二号の右腕を斬り込み、折り返して左肩を斬る。
金属と金属がぶつかるような音が耳触りだった。
ナスカは、彼の身体がまるで鉄のように硬い事を厄介に思いながら、突然翼を消して、地面に着地した。
(くっ……なかなか強えな……)
二号は、その攻撃への対策を難しく思った。
どうすれば、敵に勝てるか──。
しかし、策を生み出すよりも先に、ナスカは地面に降りる。
どうやら、空中での戦闘にも限界を感じたらしい。あるいは、自分の戦法を見せつけているのかもしれない。
(……これまで会った敵の中でも、特に強えんじゃねえか?)
ナスカは超加速を使わず、駆けて二号へと切り込む。
仮面ライダーの動体視力は、それをほとんど歩行と捉えていたといってもいいだろう。素早い動作とは言い難い。
急に彼女の動きが鈍感になったので、二号は余計に強く構える。
(遅い……? なぜあの加速を使わないんだ……?)
その戦法は先ほどとは正反対で違和感のあるものだったが、二号はそれを案外悠々と避けた。
剣は先も当たらない。
斜めに切り込むナスカの剣を避けながら、ナスカの脇腹にパンチを叩き込む。
「どうした、怪人!」
「……くっ」
「来られないならこっちから行くぜ!」
怯んだナスカの脇へと、突き上げるように蹴りを叩き込む。
足を高く上げ蹴りが叩き込まれると、ナスカの身体は宙に持ち上がる。
ナスカは、ナスカウイングを発動する事もなく、倒れるように地面に落ちた。
「はっ! やっ! とぅっ!」
立ち上がるナスカを相手に、二号は殴る、殴る、殴る。しかし、ナスカの戦法に警戒したうえでの攻撃であるため、どこか頼りなさげでもあった。
破壊には行き届かない、何らかの心配を抱えた一撃である。
強かった敵が急激に弱くなるというのは、やはり彼のように戦闘経験のある者にとっては、不気味以上の何物でもないのだろう。
「でゃぁっ!」
ナスカへと、二号の拳は何度も何度もぶち当たる。時にはそれは蹴りだったかもしれないし、平手かもしれない。とにかく、ありとあらゆる一撃がナスカの身体へと食い込んだ。
それを受けつつも、ナスカは二号の胸部に剣を当てた。
ようやくの一撃である。
剣速も鈍い。スピードでは遅れている。
第一に、スピードが載っていない攻撃は、改造人間の皮膚に掠っても、傷を残す事はできなかった。そのため、それが二号の身体を傷つけたとは言えない。
斬ったのではなく、当たった……と、その程度のものだろう。
(……まさか、あの力を発動するには何らかの制限があるのか……?)
二号は、急激に弱体化したナスカに対する疑問を戦闘の中で分析していた。
何か身体的な特徴などで弱体化のサインが出ていればわかりやすいのだが(ショッカーの怪人には結構そんなのがいた気がする)、今の所、戦力でしかそれがわからない。
一体、彼女は何故弱体化したのだ……?
その答えは、推測でしか出しえない。絶対の自信が湧き出る答えではなく、どうも腑に落ちない感じもあるが、二号は決心する。
(……とにかく、スピードが緩まったらしいな。今がチャンスだ。これなら、こちらの技も使える)
二号はそう思い、ナスカへと特別強力なパンチを浴びせ、彼女との距離を置く。先ほどまでのように警戒したパンチではなかった。
第一に、この威力での攻撃にすれば、彼女が次の一撃を放つ事はできないはずなのだ。
そして、再び高く舞い上がった彼は叫んだ。
「いくぞ……ライダァァァァ、卍キィィィック!!!」
かつて、アリガバリとの戦いの際に滝和也との特訓で生み出した技・ライダー卍キックであった。
卍のような形に身体を捻り、回転させて威力を上げる技である。
特に防御力に優れた相手ではないとはいえ、回転している二号に対して攻撃は加えにくい。これならば、ナスカがこちらに剣を突き立ててきてもライダーキックとは違い、そのカウンターを受けずに済むだろう。
そう、この攻撃はライダーキックをしている隙に敵が攻撃してくるような事ができないのである。鋭い刃を持ち、恐るべきスピードを持ち、更には飛行する羽を持つナスカに対して、選んだのがこの技である。
その小さな竜巻は、ナスカの首の付け根へと命中した。
「きゃああああああああああっ!!!」
堪えたか、ナスカの身体は悲鳴とともに大きく吹き飛んだ。仮にも女性の声をしているので、あまり聞きたくない悲鳴である。
吹き飛んだものの、ナスカはすぐに体勢を立て直した。剣を持っていない方の左手で首を押さえている。
伝説の胴着の力か、ナスカメモリの力か、ある程度の防御は可能であった。しかし、それでもライダー卍キックは岩をも砕く強力な技である。生半可な力では破れない。
「……あぐっ……あっ……!」
血反吐を吐くような声とともに、ナスカは二号を睨んでいた。
そのままナスカは、またも少しのんびりとしたスピード(とはいっても、常人よりは当然速い)で駆け出す。
どうやら、必殺とはいかなかったらしい。
回転が足りなかったか──などと考えつつも、二号は敵が自分のもとへとたどり着くのを待った。
待とうとした。
そこを迎え撃とうとした。
──しかし
「グッ……!」
──どういうわけか、
────敵の攻撃を待とうとした待機していたはずなのに、既に”真っ赤な”ナスカの身体は二号の手の届くところまで来ていたのである。
それは目視不可なスピードであった。
辛うじて、二号は直前で襲い掛かる気配に気づき、咄嗟に腕を組んで敵の攻撃を防御していた。
一瞬、何が起こったのか彼でさえわからなかった。
何故、こいつが真っ赤になったのか……それは一体?
(……そうか、今わかったぜ。どうしてこいつが急に弱くなったのか……)
二号は、全てを悟る。
「おまえ、わざと手を抜いてやがったな……?」
ナスカブレードが、変身ベルト・タイフーンの前でXに組まれた二本の腕のちょうど真ん中を串刺しており、金属の破片が地面に散らばっている。。
そして、ブレードの先端は、今にもタイフーンに触れそうなところまで来ていた。タイフーンに触れてしまえば、流石の二号といえど不味い。
咄嗟に動かなければ、二号も不味かったかもしれない。
「そうよ。あなたには私のスピードが早い段階で見切られていた。あのスピードのまま戦っても、全ての攻撃があなたに届かない……ゴフッ」
ナスカは、より強い力でナスカブレードを押し込もうとする。当のRナスカも弱りだしているようだった。
二号は初めて、ちゃんと彼女が言葉を口にするのを聞いた。意外にも綺麗な声でしゃべる。
しかし、その言葉はどこかきつい雰囲気を感じさせ、怒りや怨念のようなものに満ちていた。
「一度力を緩めれば、それに対応する程度の能力に俺の力も弱まる……。それを狙ったわけかい」
「そういう……事よ!」
ナスカは、二号が敵のスピードに適応している受け身な戦闘方法を使っていたのを利用したのである。
得体のしれない相手であるナスカに対し、二号は戦闘方法を迷っていた。加速能力や飛行能力など、様々な能力を持つナスカだが、ショッカーの怪人のように単純にはいかない。
まずは相手の能力を分析し、それに合わせる力で戦わなければと思ったのだ。
そして、当初はナスカの加速に対応するように神経を尖らせて戦っていた。
しかし、ナスカのスピードが時間をかけて弱まっていくと、そのスピードに適応するように、神経も現状のナスカのスピードに合わせるように弱まっていったのである。
そうして二号がナスカのスピードを上手く補足しきれなくなる瞬間を、彼女は狙ったのだ。
ねらい目は彼のベルトのタイフーンである。伝説の胴着をはじめ、この場ではあらゆる変身道具が同様の場所を弱点としていたので、あかねはそこを狙おうと最初から決めていたのだ。
「……やっぱり、そのベルトが弱点みたいね」
二号が咄嗟に、両腕を犠牲にしてまでベルトを守った事で、ナスカもそこが弱点であるという確信を持った。
やはり、変身機構にはある程度の共通性があるらしく、伝説の胴着も仮面ライダーも同様だったのである。仮面ライダーダブルの時もそうだったし、
ン・ダグバ・ゼバも同様だったとアインハルトから聞いている。
そう、ベルトに装飾がある敵──すなわち、仮面ライダーやダグバは、おそらくそこが弱点なのだろうと、あかねは睨んでいた。あるいは、「知っていた」という言い方が適切かもしれない。
そこを討つために、己の身体への負担を覚悟して、一時的に赤へと変身したのである。……いや、でなければやられるという確信もあったからだろうか。
「……さあ、悪いけど死んでもらうわよっ!!」
ナスカウイングが現れ、二号の腕を突き刺したまま、ナスカは飛行する。二号の身体は軽く持ち上がった。二号は空気の抵抗を背中で受け、身体が潰れそうな感覚を味わうとともに、マフラーがぱたぱたと耳元で音を立てるのを煩わしく感じた。
その強力な推進力に、二号の腕により深々とナスカブレードが食い込んでいき、やがてそれはタイフーンにまで到達していった。空気の壁を背中で掘り進めているような気分と、前方からの剣の切っ先が自分の命ともいえるベルトを侵攻する不快感に押しつぶされる。
直後────
────地面で謎の爆発が起きる。
空中からはその様が見やすかった。
何が爆発したのかはわからないが、そこはテッカマンランスとキュアピーチがいた場所だった。少なくとも、彼らの戦闘によるものであるのは間違いない。
全ては煙が飲み込んでしまって、よくは見えない。ライダーの視力をもってしても、この距離ではそこに何が在るのかわからなかった。
「ピーチッ……!!」
そこで戦っていたキュアピーチが心配になり、思わず二号はそう叫んだ。
だが、真に案ずるべきは自分の身の方だった。ナスカは軌道を変更し、そのまま地面に向けて落下を始めているのだ。
このまま地面へと落ちれば、間違いなく二号は地面に串刺しになってしまう。
身体ごと串刺しにされれば、流石の二号たりとも、その身体機能を停止するほどのダメージを受けるだろう。
「……はあああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!」
しかし、二号は何の抵抗もできなかった。二号の腕は微塵も動かない。二号とナスカの身体はそのまま、地面に向けて勢いをつけて落下する。
ナスカウイングで地面に向けてスピードを速めるナスカである。
地面は刻一刻と近づき、そして再び爆ぜるような音を鳴らした。二号はその頭蓋骨を地面へと激しく激突させた後、ナスカブレードが突き刺さる下半身を地面へと落とした。
二人が落下した地面にはクレーターができるほどで、轟音も鳴ったが、爆発の余韻で耳鳴りがしていたピーチには聞こえまい。
「……くっ……がはぁっ……!!」
二号はマスク越しに吐血をする。だが、口に通じる部位の痛みは大したものではなかった。全身で受けた衝撃が、もはやどこが痛むのかさえ隠した。
自分の腹部を見れば、やはりタイフーンに向けて真っ直ぐにナスカブレードが突き立っていた。タイフーンには巨大な割れ目ができている。
しかし、それを防御していたはずの両腕はそこにはない。
(……く……油断しちまったかな……くそ……だが……)
二号は、心の中で後悔しながらも、ほくそ笑んだ。
二号は己の力の限りを尽くし、己の両腕を引き裂いたのである。両腕はそれぞれ、真ん中から半分に切り裂かれ、手のひらの先端が真っ二つに裂けていた。
「へ……へへ……こっちも悪いが、お前にもついてきてもらうぜ……」
仮面ライダー二号の引き裂かれた両腕は、倒れたまま、変身ポーズと同じ型を決め込んだ。すると、タイフーンに突き刺さったナスカブレードを巻き込み、二号のタイフーンが回転を始める。
「ライダーパワー!!!」
おそらく、タイフーンの回転はこれが最後となるだろう。
最初は力なく回っていた変身ベルトも、これが最後の仕事だと気づいたのか、めまぐるしいスピードで回り始めた。
ナスカブレードはバリバリと音を立てて崩壊し始め、破片が二号やナスカの身体へと当たった。
それだけの振動がナスカの手にも伝わり、ナスカの身体を二号の上から強引に引きはがした。
「……すまねえ、ラブ。いくぞ……これが最後だ!!」
ボロボロの身体の二号は、何とか立ち上がる。
ふらふらとして、目の焦点が合わないまま立ち上がっているが、それでも何とか彼は立ち上がった。
行く……このまま。
どこへだって。
ただ、最後に、せめて少しでもやっておくべき仕事があった。
仮面ライダーとしての最後の仕事となりそうである。
「ライダァァァァァァッ!! …………キィィィィィィック!!!!」
高く飛び上がった二号は、空中で回転し、先ほどのタイフーンの回転で怯んだナスカの身体へと向かっていく。
高い。
本当に高い。
……人間、一文字隼人が生身でたどり着ける場所ではない。
この高さは、決してただの人が跳んで味わえるものではない。
タイフーンが今日まで回り続けたから、経験できる高さだ。
遂にタイフーンの力が完全になくなったのか、空中で二号の変身は解け、一文字隼人の姿へと変わる。目元には、深い傷があった──それは、一文字の改造手術の傷であり、怒りとともに現れる悲しいマークであった。
しかし────
たとえ、人間の姿へと変わったとしても、彼は仮面ライダーだった。
そのまま、一文字隼人は急降下し、Rナスカ・ドーパントの胸元へと、またも吸い寄せられるように蹴りを放った。一文字隼人──仮面ライダー二号の蹴りが炸裂する。
その威力は、仮面ライダー二号が放つライダーキックと大差ないほどに強力なものであった。
それを、一文字も感じていた。それだけの手ごたえを、一文字は全身で感じていた。
「ぐぁ…………っ…………が…………」
それを胸でまともに受けたナスカは、声をあげる事もできなかった。
声をあげる事もできず、辛うじて起立を維持していた。
仮面ライダー二号のライダーキックは、Rナスカ・ドーパントへと見事に行き届き、彼女に最後の一撃を浴びせる事ができたのである。
そう、これが一文字の最後の一撃だった。
「…………く……」
一文字隼人は、ふらふらのナスカがこちらを少し見て、逃げていくのを目で捉えた。
その瞬間、一文字は残念そうな顔をした。
……どうやら、完全に倒す事はできなかったらしい。それは心残りだったが、相手もそう暴れられる身体ではないだろう。
ばたり、と。
一文字の身体は力をなくして、あおむけに倒れた。
とにかく、勝てはしなかったが、一文字は敵を怯ませる事が出来たらしい。
それでいい、仮面ライダーの最大の目的は、勝つ事じゃない。
一人でも多くの人の命を救う事だ。その過程として、勝つ事が必要なだけだ。
「よぉ……元気か…………久し、ぶりだな…………」
……そんな彼を迎え入れるかのように、一人の男が彼の前に立った。
本郷猛、仮面ライダー一号である。
本来、既に死んだはずの英霊の本郷が、一文字の目の前で黙って立っていた。
「…………お前、言ったよな…………俺を助けなきゃ良かったって…………それはひどいまちがいだぜ。俺は満足だ、本郷…………お前のお蔭で、たくさんの人の命を救えた…………それに、お前と出会えた事は、良い思い出になった……お前がいたから、俺は生きられたんだ」
────そうか。
その英霊は、そう応えた。
それだけ聞けば、充分だった。本郷は口数が多いタイプではない。その言葉でも、ニュアンスでわかる。本郷は喜んでいる。
ずっと後悔していたであろう、彼の負い目だった。
それを、死ぬ直前に一文字は否定してやったのだ。
「ただ、一つだけ心残りだ……あの娘が生きてんだか、それがわからねえ……」
キュアピーチは……
桃園ラブは生きているだろうか。一文字にとっては、それが少し気がかりだった。先ほど、ラブが戦っていたあたりで爆発が起きたが、ラブは無事だっただろうか?
いくら、これまでの人生で幾つもの命を救えたからといって、最後に、この瞬間に、もし誰かが死んでしまったとすれば、それ以上の心残りはない。
────いくぞ、一文字。ここでの戦いは後の戦士に任せて、俺達には新しい戦いが舞っている。こちらにも、少し厄介な奴らがいてな。
本郷の答えは、だいたい、いつもこんなものだった。聞かれた事に答えず、自分の意見だけを言う事もあった。時にこれが冷たく見える。
……まあ、こればっかりは仕方がない。自分の目で確かめるしかない。
……しかし、あの世でも暴れている奴らがいるのだろうか。
だとしたら、やはり────それこそダブルライダーの出番ではないか。
再び本郷とコンビを組んで共に戦える。それは一文字にとって喜ばしい事だった。
仮面ライダーは、不滅だ。
永久に戦い続ける運命かもしれない。
だが、それは悲しい事か? 人間に戻れないのは悲しい事か?
いや、違う。
仮面ライダーは誰かの命を救う。救うために戦う。勝利は来ないかもしれない。勝利があっても、また悪が現れ、戦いを強いられる。
仮面ライダーは、そのたびに誰かを助ける。
たとえ冥界であっても、人類の自由と平和を守る仮面ライダーに、休みはいらない。
悪がある限り戦い続け、時代が求める限りそこに現れる事こそ、一文字たち仮面ライダーの誇りなのだ。
────じゃあ、俺は先に行ってるぞ。
本郷は一文字の前で頷くと、サイクロンに跨り、遠くへと消えていった。サイクロンのエンジン音が懐かしい。
サイクロンで走る本郷の後ろ姿は、仮面ライダーのそれだった。
一文字はその姿を見て、激励する。
走れ、仮面ライダー。これはかつてお前の名だった。そして、いつしか俺とお前の名になった。やがて、たくさんの仮面ライダーが現れた。
時代が求め続ける限り、お前は、俺は、あいつらは、いつでも現れる。
走れ……。走れ……。走りつづけろ……。
俺もすぐに追いつく。お前の後を、お前の隣を、俺も走る。
ただ、少しだけ待ってくれ。すぐに俺もそっちに行ってお前の力になる。
……そう、俺は最後に見たい。
もう少しだけ、見たい……。
この殺し合いに希望があるなら、そいつを見たい。
この殺し合いがどうなるか、その行先を知りたい。
せめて、見たかった。もう少し先の世の中を──この殺し合いの行く末を。
誰かがいれば確信できる。俺たちのような仮面ライダーや、このふざけた殺し合いをブチ破れる誰かが……。
そして、一文字は、その直後に確信する。
(そうか……)
一文字の顔から、改造手術の痕だった生々しい傷が引いて行った。
このまま死んだら、これが浮かんだまま死んでしまうところだっただろう。
しかし、幸いにもそんな死体になってしまう事だけは、運命が避けさせてくれた。
(未来は、いい世界になってるだろう。……そうだよな)
意識が朦朧としていく中、一文字は微笑んだ。キュアピーチがこちらに駆けてくるのがわかったのだ。
どうやら、彼女は無事だったらしい。
一文字隼人はそれだけで満足だった。
【一文字隼人@仮面ライダーSPIRITS 死亡】
残り29人
※一文字の支給品はI-5エリアのどこか(遺体の付近?)に放置されています。
内容:
モロトフ火炎手榴弾×3、支給品一式(食料一食分消費)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス
△
「そんな…………」
桃園ラブが、駆けつけた時、一文字隼人は既に亡骸であった。
腕は大きく避け、腹部は鋭い刃で突き刺されたように大きな穴が開いている。そこから血が溢れだしており、見るも無残な姿であった。
しかし、その傷一つない顔は、非常にやすらかであった。
まるで、マミの亡骸を思わせる────眠っているのではないかと錯覚する顔である。
「一文字さん!」
ラブは、一文字の肩を掴んで、大声で呼んだ。
返事など来ない。来るはずもない。
「……うわあああああああああああああああ!!!!」
ラブは、泣いた。
また一人になってしまったのである。
これまで、周りの人が死ぬ事なんてなかった。
東せつな、西隼人、南瞬……といった敵との別れはあったが、彼らは最終的に命を取り戻したはずだ。
今度はそうはいかない。
大事な友達が死んで、もう二度と生き返らない。
たくさんの人が死ぬ。
そして、そのたびにラブは泣いた。
これだけは、慣れるものではない。
まだ一日も経っていないのが衝撃だった。
一日も経っていない……。
マミの死も、せつなの死も、祈里の死も、モロトフの死も、一文字の死も……これまで過ごしてきた短い一日と同じペースで流れている時間とは思えなかった。
涙も、枯れそうになっていた。
……誰がこんな事にしてしまったのだろう。
ラブは、思う。
ラブが何をしたから、こんな悲惨な運命が来ると言うのだろうか。
幸せ────ラブが求めるその言葉が遠ざかっていく。
ハッピーエンド────これだけの犠牲者を出してそんな事があり得るのだろうか?
「……ごめんなさい、一文字さん……私……!」
ラブは、そのまま駆け出した。
その姿は見るに堪えなかったし、マミほど綺麗な遺体ではなかったから、普通の女子中学生にとっては、埋める事さえも抵抗があったのである。
一体、誰がこんなゲームを仕組んだ?
誰が、ラブたちを不幸にしている?
加頭、サラマンダー、
ニードル……様々な敵がいる中でも、その正体がはっきりと掴めない。
その正体を、いつか突き止めたい。
誰がこんなひどい事をするのか……それを、ラブは教えてほしかった。
△
「……くっ!」
あかねの身体はかなり痛んでいる。身体の節々が悲鳴をあげている。
仮面ライダーが最後に放ったライダーキックが相当に凶悪だった。辛うじて、あかねも生存してはいたが、胸骨が確実に折れている。それだけの痛みがしていた。
だが、痛みは意地で捻じ曲げる。
それよりも、あかねが気になっていたのは……
「何よあいつ……。人間じゃなかったわ……」
あかねに、人間を殺した罪悪感が襲う事はなかった。
何故なら、あかねが見た一文字の姿は──あれは人が変身したものではなく、元から完全に機械である者が変身した姿だったからだ。
腕の傷口からは、人の物とは思えない奇妙な配線が見えていた。
あれが人間の身体であるものか。
あれは、怪人だ。ドーパントですらない。
「……人間じゃないなんて、卑怯じゃない」
辛うじて勝ったものの、あかねはそう憤る。
人と人とが道具を駆使して変身して戦うから、まだあかねには勝機があるように思えたのだが、あんな怪物がいるとは聞いていない。
あるいは、乱馬を倒したアイツも……人間じゃないのかもしれない。
あかねがこれまで戦ってきた相手もすべて……もしかしたら。
ふと、あかねは以前所持していた乱馬の左腕を思い出した。
大丈夫、乱馬は人間だった。
でも、あかねにとって唯一、人間だと認識できるのは、今となっては乱馬だけだったのかもしれない。
他に、誰がいただろう。
腑破十臓は外道衆という特殊な存在だった。最初に出会った奇妙な女性は……わからないが、人間とは異なった性質の存在だったと思う。
人間が、いない。
もし、周囲の全ての人間が、あかねでは遠く及ばない機械化された人間だったらば、あかねはどうすればいい……?
そんなロボットを相手に、あかねは勝てるのか……?
そんな不安が頭を過る。
しかし、一方で、そのロボットである仮面ライダーを倒せた悦びがあかねの中で渦巻いていた。
あれだけの腕力を持つロボットを、あかねはとにかく倒せたのである。少なくとも、人間と機械との間には、絶対的な腕力の壁のようなものはないだろう。
(相手が機械なら、気に病むこともないわ……所詮、人じゃない、命がないモノだもの……)
一文字を殺したというのに、あかねには一切罪悪感がなかった。
ただ、高級な家電製品を壊したような、その程度の罪悪感だった。
あるいは、それはメモリの毒素が再び注入された事によるものかもしれない。
彼女の中の倫理観が崩壊を始めているのだ。
(……そうよ。私が戦ってるのは、きっとみんな機械なんだわ。でないと、姿を変えるなんてできない……それなら、私がもっと強くなって勝たなきゃならない……!)
……すぐに、罪悪感からの逃避として、結果的にあかねは、全ての参加者が機械であると思い込む事にした。
この場において、唯一の人間は乱馬だけだった。
考えてもみろ。乱馬を倒せる人間などいない……ダグバは、十臓は、
ダークプリキュアは、源太は、……すべて機械だ。
心のない機械人形。そいつらの集団に、乱馬とあかねだけが放り込まれたのだ。
良牙だってわからない。機械が化けているのかもしれない。
乱馬。あの腕には、ちゃんと骨も肉もあった。コードじゃない。あれはちゃんとした血管だった。
この場において、乱馬だけが唯一の人間だったのだ。
そうだ、そうに違いない。
あかねの身体は痛んだが、それでも彼女は必死に、川に向かって歩きだした。
彼女自身が歪み始めているのか、それはメモリのせいなのか……それさえわからない。
【1日目 午後】
【H-5/森】
【天道あかね@らんま1/2】
[状態]:肉体内部に吐血する程のダメージ、ダメージ(大)、疲労(大)、精神的疲労(大)、胸骨骨折、とても強い後悔、とても強い悲しみ、毒素は一時浄化?、伝説の道着装着中
[装備]:伝説の道着@らんま1/2、T2ナスカメモリ@仮面ライダーW、バルディッシュ(待機状態、破損中)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、女嫌香アップリケ@らんま1/2、斎田リコの絵(グシャグシャに丸められてます)@ウルトラマンネクサス
[思考]
基本:”乱馬たちを守る”ために”機械を破壊し”、ゲームに優勝する
0:川をめざし、その後は川沿いを進む。
1:ダグバと遭遇した時は倒す。
2:良牙君………………出来れば会いたくはない。
[備考]
※参戦時期は37巻で呪泉郷へ訪れるよりは前、少なくとも伝説の道着絡みの話終了後(32巻終了後)以降です。
※伝説の道着を着た上でドーパントに変身した場合、潜在能力を引き出された状態となっています。また、伝説の道着を解除した場合、全裸になります。
また同時にドーパント変身による肉体にかかる負担は最小限に抑える事が出来ます。但し、レベル3(Rナスカ)並のパワーによってかかる負荷は抑えきれません。
※Rナスカへの変身により肉体内部に致命的なダメージを受けています。伝説の道着無しでのドーパントへの変身、また道着ありであっても長時間のRナスカへの変身は命に関わります。
※ガイアメモリでの変身によって自我を失う事にも気づきました。
※
第二回放送を聞き逃しています。 但し、バルディッシュのお陰で禁止エリアは把握できました。
※バルディッシュが明確に機能している事に気付いていません。
※殺害した一文字が機械の身体であった事から、強い混乱とともに、周囲の人間が全て機械なのではないかと思い始めています。メモリの毒素によるものという可能性も高いです。
【バルディッシュについて】
※ガドルとの戦いで破壊されたのは刀身部分です。その為、武器としての使用は不可能です。具体的にはスタンバイフォーム(待機状態)以外はほぼ使用不可能という解釈で構いません。
※現段階で魔法のサポートがどれだけ出来るかは不明です。勿論、リンカーコア所持者でなければ使用はまず不可能です。但し対話によるサポートは可能です。
※周囲の状況をずっと把握しています。その為、放送の内容も把握しています。
※自己修復機能により自己修復は一応進行中ですが魔力によるブーストが無ければ使用出来るレベルまでへの回復はまず厳しいでしょう。
※バルディッシュはフェイトの最期の願いを叶える為、翔太郎及び杏子の力になる事を目的としています。
但し、マスターであるフェイトが死亡している為、現状このまま何も出来ずに破壊されても構わないと考えています。
※(殺し合いに乗っている可能性が高い、フェイトを襲撃した
パンスト太郎の知り合いである)あかねを信用しているわけではありません。その為、現状彼女とコミュニケーションを取るつもりはありません。
禁止エリアは自身の為に伝えただけでしかなく、現状それ以上の情報(パンスト太郎が既に死亡している事等)を提示するつもりはありません。
△
ラブは走る。
目指していた市街地とは正反対だった。
一文字と行くと約束した場所である。だから、一人で向かう事はできなかった。ラブは、一文字と共にあそこへ行きたいと思った。
だが、それはできない。
どうやって市街地に向かえばいいのだろう。一人で行く? ……やはりできない。ラブはそれをしたくなかった。
約束を破ってしまうみたいで厭だった。
(……ごめんなさい、ごめんなさい……)
と、心の中で詫びながらラブが走っていると、ごつん、と頭がぶつかった。
涙をぬぐえず、下を向いて走っていたラブには、それが何なのかわからなかったが、顔を上げてみてみると、そこには人がいた。
この人は、知っていた。
「どうしたんだ、ラブちゃん」
涼村暁という名前の、少しおちゃらけた男だった。
どうやら、また彼は一人になってしまったらしい。
黒岩省吾たちはどうしたのだろう。
しかし、そんな事に気を回せる余裕はラブにはなかった。
「一文字さんが……一文字さんが……」
一文字。
その名前を、暁は知っていた。暗黒騎士キバと戦っていたはずの男で、少なくとも暁の以前の認識では村エリアにいたはずである。
いまラブが走ってきたのは、村とは逆の方向だった。
どうやら、あの後は一緒に行動していたらしいと、暁にでもわかった。
「……わかった。落ち着いてからでいい。俺に話してくれ」
そこから、ラブは涙交じりに、事の経緯を語った。
キバとの戦いの顛末は聞かなかった。あの時からラブは一文字と一緒にいたはずだ。思い出させてはまずい。
彼女が語るのは、テッカマンランスに襲われてからである。
彼女が混乱した記憶の中で、はっきりと時系列順に話ができるのは、そこから先だけである。
テッカマンランスという敵の死、そこから帰還したキュアピーチを待っていた一文字の死体。……それはショックだっただろう。
「……なるほど、な」
暁は全てを聞いて、虚空を見上げた。ラブの泣き顔を見ていてはまずいと思ったのだろうか。そのあたりは、彼の女性への優しさだった。
ほむら。
マミ。
そろそろ死んでるんじゃないかと思う黒岩。
俺の為に死んでしまった人、犠牲になった黒岩……それを思えば、暁も流石に憂鬱な気分になる。涙を流すか、それとも憂鬱げに俯いた後で再び元気を取り戻せるか……そこが二人の意識の差だったが、暁も悲しい時はたくさんあったのだ。
暁はそんな時、悲しむ顔を見られたくなかったし、怒った顔さえ見られたくはなかった。
「……どうして、……どうして、殺し合いなんてさせるんでしょう!? ……こんな事したって、悲しいだけなのに……」
ラブは呟いた。
言われると、暁は何故、この殺し合いが起きたのか……その答えを出す事はできなかった。いや、見当もつかない。こんな事をして、何の得があるのだろうか。
優勝者の好きな願いを叶えるという事は、暁のような願いを持つ者が現れれば、主催陣営は大損をするに違いない。
暁は、少し返答に迷って、……結局答えない事にした。
答える事はできない。暁が考えたところで、答えなどでないのだから。
「……悲しい、か。まあ、そうだよな……」
ラブの言葉の端を拾って、それで誤魔化す事にした。
大人にはそれしかできないのかもしれない。誤魔化して、それで彼女の涙を止められるならそれはそれでいいかもしれないし、結局暁はべらべらと語り始める。
「俺にも、最初にちょっと、仲間がいて……ほむらって女の子なんだけどな。そいつが死んじまって、俺は正直言って、悲しかったよ……。……でもさ、今は笑えるんだ。悲しんだって、ほむらが帰ってくるわけじゃないし……なんていうか、ほむらに支えられてる感じが今でもするんだ」
ほむら──きっと、
暁美ほむらだ。ラブはそう思った。
マミが言っていた。放送でも名前が呼ばれていたので、死んだのは知っている。
でも、マミの死を悲しんでいたラブよりも、ずっと暁はその現状を強く受け止め、生きているように見えた。
「……なあ、ラブちゃん。俺が殺し合いに乗ってるとしたらさ、どうする?」
「え?」
「例えばだよ。俺が、もし殺し合いに乗っていたら。そんで、ほむらは俺に殺されてたっていうことがあったら……」
暁は、逆にラブに訊いた。
これだけ殺し合いに対して、一途に反逆の意思を持っているラブに、暁はどう接していいかわからなかった。
暁がこれまで出会ってきた人は、みんな、殺し合いを受け入れ、そのうえで反逆していたと思う。ほむらも、石堀も、凪も、黒岩も、零も、結城も、冷静に殺し合いの現実と戦っていた。
しかし、ラブのように……殺し合いの中で深い悲しみを抱えて、ただひたすらに殺し合いを止める事だけを考えて、誰かの死に涙を流す────そんな姿の少女と出会ったのは、初めてだったのだ。
彼女には、本心を言おう。
いっそ、自分のスタンスを……打ち明けてしまおう。そう、暁は一瞬だけ思ったのだ。そして、その一瞬が彼にそんな質問を口に出させた。
後悔する間もなく、暁は次々と話を進めてしまう。
「……それは、ありません」
ラブは、あっさりと答えた。
彼女は、暁を信じていた。そんなに長い時間、一緒にいたわけではないから、暁をよく知らない。暁が信頼されやすい性格だったのではなく、ラブがそういう性格だったんだろう。
少し抵抗があったが、暁は少し息を吸った後で、正直に言った。
「……ふー」
「……」
「あるんだなぁ……それが」
「え?」
ラブは目を丸くする。
「……俺もね、やっぱり生きたいのよ。俺の人生は、パラダイスじゃなきゃいけないの。この殺し合いを勝ち残って、願いを叶えてくれたら、一生遊んで暮らせるんだぜ?」
思いの丈を、暁は語る。
これは正直な思いだった。暁は生きたい。暁は楽しみたい。暁は人生の全てを楽しみたい。
金があって、女がいて、パフェがいっぱい食べられて、好きな職業に就いて悠々自適に楽しむ。
それがいいじゃないか。
何故、小学校と中学校と高校と大学を出て一流企業に就職して上司にこき使われて、少しの給料で休みもなくて、結婚なんかして妻や子供のために生きて……なんていう人生を生きなきゃいけない?
何故、こんなところで殺し合いに巻き込まれて、死ななきゃいけない?
誰が迷惑するとしても、そんなのは知った事ではない。「一生」──それは文字通り、一つしかないのだ。誰に迷惑をかけようと、自分の人生を精一杯に楽しめればそれでいいはずだ。
暁は探偵として生き、借金にまみれても知らんとばかりに遊びまくる。それでいい。
ここで誰が死のうが、暁が生きられれば……関係ない。
だから……。
「……さあ、逃げろよ。逃げないと……」
暁は、真顔で自分の両手を、ラブの首へと近づけた。ラブは茫然としていた。
ラブにもわかった。その手つきは、明らかにラブの首を絞めようと言う動作だった。
ラブは、逃げようともしていたが、やはり暁の行動がわからなかった。
暁が、どうしてこんな事を言うのか。彼は、殺し合いには乗ってないはずだと思った。
しかし、その手はラブの首へとかかり……
そして……
「…………頬をつねっちゃうぜ~♪」
と、暁は笑顔でラブの首元からスライドさせ、ラブの頬へと手を伸ばし、彼女の頬をつねった。
ラブは、その瞬間、茫然とした。そして、自分は安心していいんだ、暁を信じていいんだと気づき、胸をなでおろした。極度の緊張感から、急に解放されたため、思わず頬が緩んだ。
それを見て、暁は笑っていた。
「そうそう、それそれ。笑いなよ。人生は一度しかないんだ、楽しまなくてどうするの」
暁が言う。
しかし、それを言うと、ラブはまた顔を曇らせる。自分が一瞬でも笑ってしまった事を申し訳なく思ったのかもしれない。
要するに、不謹慎だと思ったのだ。
「……でも」
「あのな、ラブちゃん。この殺し合いで死んだ奴がいたって、それこそ……他人の人生だろ? 誰かが死んだらさ、そりゃあ悲しいけど……それでも」
暁はほむらの事を少しだけ思い出す。
ほむらが死んだ時、暁はすぐに元の暁に戻った。
それは、彼の理念……とでもいうべき何かのお蔭であった。
「それでも、そいつのぶんも楽しまないと♪ もったいないって♪」
人が死んでも、その悲しみはすぐに取り払う。彼は、すぐに立ち直って、そいつのぶんまで笑顔になろうとする。
そいつのために悲しんだって、そいつのためにもならないし、自分のためにもならない。
だから、彼は、笑う。人生を楽しむ。人の死を悲しむ感情がないわけじゃない。それでも、それを引っ張り続ける事こそ、人生にとって最大の邪魔だ。
それが、彼の理念──
「……ま、俺はそう思ってるわけだよ。俺だって、俺の葬式であんまり辛気臭くされたら敵わないっての。ふんわかいこうよ、ふんわか」
それが、涼村暁の生き方だった。
そして、彼は他人が辛気臭い顔をしているのを見るのも嫌っていた。
だから、彼なりに、ラブを励まそうとしていたのだ。
「ひどいですよ、さっきの冗談……」
ラブは、ようやく自分にも喋る隙ができたと思って、暁に少し頬を膨らせて言った。
笑っているのか笑っていないのかわからなかったが、それでもいい。
少しは彼女の気も緩んでいただろう。
「……ひどいだろ? 俺はひどいんだ。でもな、やっぱり人間ってのはこう、冗談なのか本気なのかわらかないギリギリのところで生きてるんだよ、ラブちゃん」
暁は、先ほどから考えていた事があった。
自分が殺し合いで優勝する事などできないと……暁は薄々わかっていたのだろう。
楽しく生きる──たとえ、そのためでも、目の前の少女を殺す事は出来ないという事が。
だから、暁は一つの案を考えていた。
「そうそう、冗談っていえばさ、今考え付いた。こんなのはどうだ? 俺達があの……えっと、加山? そう、加山たちをブッ潰す。そんで、あいつらがため込んでる金を全部いただいて、あとはパーッと楽しんで暮らす」
「加頭さんの事?」
「そうそう、加山じゃなくて加頭だな。あいつら、わざわざ金かけてこんな派手な事までやって……何をしてるんだかわからないけど、きっとものすごい金持ちだ。100兆円くらい溜めこんでいるに違いない。そいつを全部俺達がもらう」
「でも、それ強盗じゃ……」
「これだけの目に遭わされたんだ、慰謝料みたいなもんさ。……ここで死んだ奴の遺族とかにも、それを分けてやってさ。ま、俺にはその人たちにはそんくらいしかできないけど。……なあ、これ、本気だと思うか? それとも冗談だと思う?」
暁にも、それは無理かもしれないという思いが湧いていた。
これほどの規模で殺し合いなどを催せる相手。暁や、ここにいる数多の超人を攫い、監禁した集団。……まともに戦って勝てる確率はどれくらいあるだろう?
きっと、殺し合いに乗って勝ち残る方がずっと効率的に違いない。
無理。
そう、おそらく、99パーセント無理……もっと高い確率で無理かもしれない。100パーセント、無理かもしれない。
でも、暁の目的はこれでも果たされる。
人生を楽しむ────それだけなのだ。金が手に入れば、どちらでも良い。
そこにあるのは、ほむらの知り合いである杏子やラブ──この殺し合いに参戦している全ての参加者を殺すか殺さないのかの違いだけだ。
「……俺はな、本気だ」
そう、暁は────涼村暁は、もう、殺し合いに乗るのをやめていた。
彼は気づいたのだ。自分は、ラブを殺せない。この少女を殺す事ができない。それどころか、この娘に死んでほしくない。ここにいるたくさんの人たちに、死んでほしくないと思っていたのだ。きっと、あの人たちを殺すなんて、……無理だ。
ほむらが死んだ、あの時と同じ事が、目の前のラブにも起きるんじゃないか。そう思うと……やはり、暁は駄目だった。
実は先ほど、暁は自分を試していたのである。
ラブの首を絞める事ができるかできないか。
冗談で言ったつもりだったが、少しだけ、本気も入っていた。そして、やってみてすぐにわかった。
……どうせ触るなら、ほっぺたの方が柔らかいしふんわりしていてさわり心地がいいと、そう思ったのだ。
「この際だ、加頭もサルモンガーも……えっと、名前覚えてないけどあの汚いメガネも……、全員まとめてブッ潰す。どうする? ラブちゃん。俺と一緒にパラダイス♪」
「……ぱらだいす」
「そう、パラダイスだ。ここで死んだ人たちの分まで楽しむんだ♪」
暁の言い方は確かに不謹慎で、友達が死んだラブの気持ちを考えてないようだったが、暁自身も仲間の死をここで悲しんだ一人だ。
だから、その言葉の通りにする事が決して悪い事ではないと、ラブは思った。
ブッキーは、マミさんは、せっちゃんは、一文字さんは……どう答えるだろう。
楽しんでいい。
いつまでも泣いている必要はないのだ。
笑っていい。
笑っていいなら、ラブは……笑う。
「……そうそう、やっぱりね、それが一番いいよ」
結果、ラブは、笑った。
これは、暁らしくもあり、暁らしくない行為だったかもしれない。
誰かを励ます。それは暁らしくない。
それが女の子なら、それはとても暁らしい。
でも、下心も何もない。ただ、彼は少し彼女を放っておけなかっただけだ。
ただ、それが彼女を笑顔にした。
暁には、誰かを救う気とか、誰かの命が奪われて許せないとか、そんな気持ちは微弱で、ただただ自分勝手だった。
だから、それゆえに────責任感に押しつぶされそうな娘に、そんな暁の性格をちょっぴり分けてやるくらいで、丁度よかったのかもしれない。
「……じゃ、どこ行く? ラブちゃん」
「18時に、市街地で他の参加者と落ち合う約束を、一文字さんがしていたみたいです」
「ちょうど俺もそこへ行くところだったんだ。じゃあ、決まりだな!」
二人は行く。
途中には、一文字の亡骸や、モロトフの死地の跡がある。
そこに手を合わせるのも良い。でも、長居はしない。
(ほむら……俺もまた、面白いしスリルがある事考え付いただろ? 加頭たちを潰して、お前やまどかちゃんの仇も絶対に取る。────ここからの戦いを、本当の本当にお前を捧げちゃったりするぜ!)
その時、少しだけ空が笑ったような気がした。
「ところでラブちゃん、あんこちゃんっていうコなんだけどさ、知ってる?」
「あんこちゃん?」
「そう、桜餡子ちゃん」
「……美味しそうな名前ですね!」
「あ、食べちゃダメだよ」
まだ話していない事もあったので、二人は歩きながら情報交換を始めた。
【1日目 午後】
【I-4/平原】
【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(中)
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン
[道具]:支給品一式×2(暁(ペットボトル一本消費)、ミユキ)、首輪(ほむら)、八宝大華輪×4@らんま1/2、ランダム支給品0~2(ミユキ0~2)、
[思考]
基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪
0:市街地に向かう。
1:別れた人達(特に凪のような女性陣)が心配、出来れば合流したい。黒岩? 変な事してないよな?
2:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。
3:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。
※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。
※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。
※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。
※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。
※森林でのガドルの放送を聞きました。
【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、精神的疲労(小)、決意
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×2@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、
巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─
基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。
1:暁とともに市街地に向かう。
2:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。
3:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。
4:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。
5:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。
6:ダークプリキュアとと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。
7:どうして、
サラマンダー男爵が……?
8:石堀さん達、大丈夫かな……?
[備考]
※本編終了後からの参戦です。
※
花咲つぼみ、来海えりか、
明堂院いつき、
月影ゆりの存在を知っています。
※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。
※
加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。
※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。
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最終更新:2013年12月13日 20:37