◆ ◆ ◆
西暦1692年。
マサチューセッツ州はセイレム村。
清貧を信条とする清教徒達の開拓村に結び目が並んだ。
其は罪人なり。
其は魔女なり。
魔女は死なねばならぬ。
裁かれねばならぬ。
罪には裁きと贖罪を。
七つの縄の結び目を。
権威を振り翳す教会の弾圧が抗議者(プロテスタント)の逃げ込んだ新天地にまで辿り着きかけた時。
彼らの清貧と潔白は当然のように醜く歪んだ。
隣人を睨み。
目を光らせ。
清らかな心には影が落ちた。
心に狂気を。
他人に罪を。
生活に逃避を。
この苦境は穢れた悪魔憑きの。
魔女の仕業なりと。
彼らはそう願い、そしてその通りたれと求めた。
彼女はドミノ倒しの最初の一枚。
最初の魔女の出現をきっかけに、清貧の村にて死と告発の無間地獄が幕を開けた。
時間は動き所は変わり。
鳥子達は文京区のホテルへ入った。
吉良は二人の隣室に居る。
従って今は鳥子とアビゲイルの二人きりだ。
とはいえ壁越しに会話を盗み聞きされる可能性もある。
二人の会話は声ではなく念話によってしめやかに始まった。
『私は…マスターが思っているよりもずっといけない子なの』
始まりはさる異才の男の空想であり虚構だった。
しかしそこには常識を侵食する狂気としての条件が備わっていた。
空想から人類史に這い寄った偽りの神。
神降ろしの為には鍵穴が必要だ。
全にして一、一にして全なる者。
スト・テュホンあるいは■■=■■■■。
神の鍵穴となるに相応しい狂瀾がセイレムには渦巻いていた。
そして始まりの娘は鍵となる。
人々の欲望をその身に映し取り。
清廉の呪いに憑かれた娘は、"外なる神"の巫女となった。
『そうなってしまったら、私はいつまで私でいられるかわかりません』
『それは…』
唾を飲み込んで。
言葉を選ぶ。
せめてこの少女の心をこれ以上傷つけないようにと、鳥子は最善を尽くす気でいた。
『あのアルターエゴが言ってたみたいなことが、できるようになっちゃう……ってこと?』
『そう。そして私も…どんどん悪い子になってしまうの。
そういう悪いものが私の中にはずっとあったから。
たぶん……サーヴァントになる前から、ずっと』
今のアビゲイルは正確には巫女として覚醒していない。
彼女が真に覚醒を遂げ、巫女――降臨者(フォーリナー)となった時。
清らかな幼さの中には虚ろが降りる。
そしてそれに留まらず段階が進めば。
その果てに待つのは完全な形での人外化。
身も心も人間のそれから乖離した巫女となる。
『此処でなら大丈夫だと思っていたのは本当。
でも…マスターに知られるのが怖かったのも…、……本当』
『アビーちゃん…』
『私は罪人なの。私が招いたことが…あの村の人達を壊してしまった』
アビゲイルは人の善性を信じ、たとえそれが罪人であろうと皆救われるべきだと願っている。
純真無垢な信仰の祈りは類稀なる清廉さを体現し。
そしてそこにはある種の傲慢も入り混じっていた。
無邪気故の幼さ故の傲慢。
幼児的全能感とでも呼ぶべきそれの存在を、アビゲイル自身自覚しており。
もしも自分が人ならざるものになってしまった時にその"悪"がどうなってしまうか。
どう変わってしまうか。
そんなイフの輪郭も、アビゲイルには想像がついた。
『そして私はきっと。
それが正しいと信じて、また罪を冒してしまう』
そうなったアビゲイルをリンボが制御できるかどうかは定かでない。
ただリンボが彼女を遣ったとしても、彼女がリンボの手を離れて暴走したとしても。
確実に
アビゲイル・ウィリアムズは大いなる厄災となる。
仁科鳥子が妹のように可愛がっていた、一ヶ月の時間を共に過ごした清らかな少女ではなくなってしまう。
鳥子とてアビゲイルが振り撒く災禍の例外でいられるかどうかは分からない。
『だからお願いマスター。もしも私がそうなりかけたら、その前に令呪で私を――』
『大丈夫だよ。その時は私が…マスターとして全力でアビーちゃんを止めるから』
『…でも』
『信用できない?』
『…っ。ずるいわ。ずるいわ、マスター! そんな言い方……』
しかしこうまで言われても、鳥子はアビゲイルを見捨てる気にはなれなかった。
此処までずっと一緒に暮らしてきた時間。
それは鳥子の中に、生き延びるための打算を超えた感情を生じさせていた。
鳥子には家族が居ない。
まして姉妹などもってのほかだ。
そんな彼女にとってアビゲイルと過ごす時間は…友人や相棒と過ごすそれともまた違う尊いものだった。
『この先どうなるかはわからないけどさ。
どうなるにしても私は、最後までアビーちゃんと戦いたいと思ってる』
『…マスター…』
『それにね、さっき考えたんだ。
もしかしたら…聖杯戦争に勝たなくても元の世界に帰る方法が見つけられるかもしれないって。
だからそのためにも知っておきたいの。だってアビーちゃん、すっごい力を持ってるんでしょ?』
そうならないに越したことはない。
アビゲイルはそうなることを望んでいないし、であれば鳥子も彼女の心に寄り添うつもりだ。
彼女を道具として使うような真似はしたくないから。
だけどもしも…自分が先に死んでしまう以外の形で、アビゲイルが"先"に進んでしまったなら。
その時はもう取り返しがつかないと嘆くのではなく、封の解かれた彼女の力を受け入れてあげたい。
鳥子はそう思っていた。
『空魚はね、異界のものを目で視ることができるんだ。
だから…空魚がこの世界のおかしな所を見つけて、そこをアビーちゃんがこじ開けてくれれば。
もしかしたらこの世界の外に出て、元の世界に帰れるかも……って思ったんだよね』
そしてそんな鳥子に――アビゲイルは。
目を見開いて驚いていた。
その上で言う。
『――もしかしたら、できるかもしれない』
『え』
鳥子の口から聞いた脱出への微かな糸口。
それを受けたアビゲイルがこぼした言葉に、今度は鳥子が驚かされる。
少女の手を思わず握っていた。
宝石のように綺麗な碧眼を見つめて問い質す。
『その話……詳しく聞かせてもらってもいい?』
仁科鳥子とフォーリナーの少女が心を交わし音なく語らうその隣室で。
アサシン、
吉良吉影は爪を噛んでいた。
指先からは血が一筋滴り落ちている。
平々凡々とした社会人に擬態した平時の彼とは似ても似つかない異様な雰囲気。
そこには漲る殺意と、微かな鬼気があった。
吉影の脳内に響く声はない。
マスターからのそれは今や途絶えて久しいが。
吉影の宝具であり、彼がこの世に生まれ産声をあげた瞬間からずっと傍に居た父親の声もまた――聞こえなくなっていた。
「………」
父、吉廣が死んだ。
自分の命令ではなく自らの意思で命を擲った。
そうしなければ止められない愚行があったからだ。
吉影は父がそう行動するに至るまでの一部始終を把握している。
最期の最期まで吉廣から届いていた念話。
それが彼の身に何があったのかと。
自分が今どのような状況に置かれているのかを教えてくれた。
「………」
吉廣は死に。
愚かなマスターは自ら進んで敵の手中に堕ちた。
吉影にとって誤算だったのは、田中が吉廣の言葉に靡かなかったことだった。
吉影自身高を括っていたのだ。
田中のような凡人はサーヴァントを失うリスクを背負えない。
令呪を使って自害させるなどまず実行に移すのは不可能で、軽く言葉をかけて劣等感と根底の卑屈さを刺激してやれば叛意など簡単に折れると。
あの男はその程度の凡愚でしかないと。
しかしその予想は完膚なきまでに外れた。
田中の不安定な心を、一度は古巣の方を向いた心を。
あろうことか引き戻して立て直してのける者が現れた。
結果。
田中は吉影を完全に切り捨てる決意を固めてしまった。
吉廣の命がけの行動によって多少の猶予はできたものの。
早ければあと数十分…下手をすればそれ以下の時間で、田中は目を覚ますかもしれない。
田中が目を覚ませば
吉良吉影は終わりだ。
令呪による自害で英霊の座という牢獄へ送り返されることになる。
もはや猶予はない。
そして他の選択肢もない。
吉良吉影は敗北した。
今から田中の元に行って奴の身柄を確保するのも現実的ではない。
打てる手は、たった一つだけ。
吉影は壁を見た。
壁の向こうには心を通わせ語らう二人が居る。
吉影はベッドから立ち上がった。
歩みの跡には指から滴る血が転々と残っている。
部屋の扉に手を掛け廊下へと出る。
一連の動きは驚く程淀みなく滑らかで。
そして彼の瞳には、暗くどろりとした深い殺意が渦を巻いていた。
“…さて”
吉良吉影が生き延びるためのすべ。
それは、彼もまた片翼を捨てること。
田中一が
吉良吉影を切り捨てようとしたように。
吉影もまた田中のことを切り捨てればいい。
それが叶いさえすれば…吉影はこの逆境を脱することができる。
“やるか”
できればこの手を取るのはもっと先にしたかった。
だがこうなった以上はもはや足踏みしてはいられない。
仁科鳥子を自分の新たなマスターに据えるために。
窮極の地獄界曼荼羅なる狂人の妄想を完全否定するために。
殺人鬼は、隣室のドアをノックした。
【文京区(豊島区の区境付近)・ホテル/二日目・未明】
【
仁科鳥子@裏世界ピクニック】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:護身用のナイフ程度。
[所持金]:数万円
[思考・状況]基本方針:生きて元の世界に帰る。
0:アビゲイルの“真の力”について知る。
1:アサシンのことは信用しきれないが、アルターエゴ・リンボの打倒を優先。
2:ただし彼への不信が強まったら切る。令呪を使ってでも彼の側から離れる。
3:私のサーヴァントはアビーちゃんだけ。だから…これからもよろしくね?
4:この先信用できる主従が限られるかもしれないし、空魚が居るなら合流したい。その上で、万一のことがあれば……。
5:できるだけ他人を蹴落とすことはしたくないけど――
6:もしも可能なら、この世界を『調査』したい。できれば空魚もいてほしい。
7:アビーちゃんがこの先どうなったとしても、見捨てることだけはしたくない。
[備考]※鳥子の透明な手はサ―ヴァントの神秘に対しても原作と同様の効果を発揮できます。
式神ではなく真正のサ―ヴァントの霊核などに対して触れた場合どうなるかは後の話に準拠するものとします。
※荒川区・日暮里駅周辺に自宅のマンションがあります。
※透明な手がサーヴァントにも有効だったことから、“聖杯戦争の神秘”と“裏世界の怪異”は近しいものではないかと推測しました。
【フォ―リナ―(
アビゲイル・ウィリアムズ)@Fate/Grand Order】
[状態]:健康、決意
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:マスタ―を守り、元の世界に帰す
0:鳥子に自身のことを話す。
1:アサシンのことは信用しきれないが、アルターエゴ・リンボの打倒を優先。
2:マスタ―にあまり無茶はさせたくない。
3:あなたが何を目指そうと。私は、あなたのサーヴァント。
【アサシン(
吉良吉影)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康、殺人衝動、ストレス(極大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円(一般的なサラリ―マン程度)
[思考・状況]基本方針:完全なる『平穏』への到達と、英霊の座からの脱却。
0:さて。やるか。
1:フォーリナー(
アビゲイル・ウィリアムズ)を排除し、
仁科鳥子と契約を結ぶ。
2:
田中一は必ず殺す。
[備考]
※スキル「追跡者」の効果により『
仁科鳥子』『
田中一』の座標や気配を探知しやすくなっています。
リンボは式神しか正確に捕捉できていないため、スキルの効果が幾らか落ちています。
※
仁科鳥子の住所を把握しました。
※フォーリナー(アビゲイル)は「悪意や混乱を誘発する能力」あるいは「敵意を誘導する能力」などを持っていると推測しています。
ただしアルターエゴのような外的要因がなければ能力は小規模に留まるのではないかとも考えています。
※田中の裏切りを悟りました。
※宝具『血が絆を分かつとも(アトム・ハート・ファーザー)』は自壊しました。
◆ ◆ ◆
吉良吉廣の爆散。
その意図は
田中一の令呪使用の阻止だった。
殺してはいけなかった。
確実に田中の意識だけを奪って時間を稼ぐ必要があった。
結果から言うならば、彼は見事に目的を遂げた。
「…生きてはいますね。ただこりゃしばらく起きないっスよ」
田中は顔から胴体の半分程度にかけて火傷を負っていた。
火傷の深さは然程でもないが、意識は完全に飛んでいる。
下手すると脳震盪を起こしているかもしれない。
「爆発の寸前、彼の懐で何かが光るのが見えた。
リンボ君から護符でも受け取っていたのかもしれんな」
「成程ォ~。それで寸前(ギリ)令呪は守れたってことですか」
「例の薬物を服用させたとして、意識はどのくらいで戻ると思う?」
「傷の回復は瞬時に済むでしょうけど…それでも二十分くらいはかかるでしょうねェ。
英霊(サーヴァント)なんてけったいなもんになった影響か、人間への効き目もオレが知ってるのとは少し変わってるみたいで。
一応こっちの魔力はまだまだ余裕ですが。やりますか?」
「すまないが頼む。彼のアサシンは早い内に消しておきたいのでね」
しかし連合には"地獄への回数券"がある。
気絶しているとはいえ田中の口にそれを押し込めば、覚醒までの時間は格段に短くできるだろう。
とはいえ服用から覚醒までの間にある程度のタイムラグが生じてしまうことは避けられないらしい。
地面に倒れ伏した黒焦げの田中。
その口に何処かから生み出した麻薬を押し込む殺島。
それを横目に見守りながら。
伏黒甚爾は彼方の、顔も知らない
仁科鳥子へと思いを馳せた。
“お膳立てはしてやった。後はお前がアイツに応えろよ”
十中八九、田中のアサシンはフォーリナーを抹殺し鳥子を後釜に据えようと動くだろう。
となればこれから先の事態をカバーできるのは彼女自身を除いて他にいない。
吉良吉影を退け自分のサーヴァントを守れるか。
それとも殺人鬼の魔の手にかかり、彼を延命させるための道具に成り下がるかのどちらかだ。
こればかりは
仁科鳥子とそのサーヴァントであるフォーリナーの手腕に掛かっている。
精々上手くやれ。
お前が無駄死にした時の後始末は、まぁこっちでしてやる。
そう考えている甚爾であったが。
見合わせたようなタイミングで彼のスマートフォンが着信音を鳴らした。
「…おう。お前な、ちゃんと電話は出ろよ。こっちも色々――あ?」
電話を取った甚爾は怪訝な顔をした。
個人で動くとは聞いていたがこうも劇的に動くのは流石の甚爾も予想外だった。
どうしたものだ、これは。
どうするべきか――これは。
否が応にも状況の流動を実感させられながら、甚爾はとりあえずその視線を連合の王ならぬ脳(ブレイン)へと移すのだった。
◆ ◆ ◆
「ふむ。裏世界…人間の恐怖に這い寄る未知の世界か」
東京タワーを背景にした鉄火場は一旦の決着を迎え。
舞台をタワーの内に移して、
紙越空魚から聞いた身の上を反芻し
峰津院大和は笑みを浮かべた。
そういう概念に覚えがなかったわけではない。
だがそれを踏まえても、空魚の語る内容は興味深かった。
人類の普遍的無意識の領域に恐怖という名の悪意を織り交ぜたような青の世界。
私も足を踏み入れてみたかったものだ。
眼前の女が聞いたなら即座に気分を悪くすること請け合いの言葉を大和は内心溢す。
「君はかの地で正気と狂気の境目を曖昧にする眼を得た。
そしてフォーリナーのマスターは狂気から成るものに触れる手を得た、と」
「…随分順応が早いね。あんた一体どんな世界で生きてたの?」
「君の世界よりも数段は厳しい環境だったとだけ。
とはいえ君のような人間ならば適応するのに苦労はなかったろう。ひとえにその程度の世界だよ」
絶対言い過ぎだろ、それ。
苛つく薄笑いで語る大和に空魚は不快感を隠そうともせず舌打ちした。
あわよくば本当に主導権を握ってやるつもりで挑んだのだが、結果はあの通り。
紙越空魚の講じた一手は
峰津院大和に後出しで破られる程度のものでしかなかった。
やっぱり世の中そう上手くはいかないなと思ったが。
しかしその一方で、強力な同盟者を勝ち取るという空魚の目的自体は確かに達成されていた。
“コイツと心中する気はないけど、いざって時までの寄生先としてはやっぱり最高なんだよな…ムカつくことに”
大和自身の戦力もそうだが、やはり峰津院財閥の権力や財力を間借りできるのは大きい。
勿論依存しすぎれば此方が逆に利用され食い尽くされることになるだろうからそこだけは注意だが。
実際に対面してみて分かった。
峰津院大和は超人だ。ある種フィクションめいてすらいる。
リアリティラインだとかそういう概念を真顔で踏み越えて、その上で尚歩みを止めることのない王道の覇者。
正面戦闘でだけ強い脳筋ならどれほど楽だったか分からない。
空魚が限界まで頭を捻って彼を欺く策を編み出したところで、彼はそれをいけ好かない薄笑いを浮かべながらあっさり手玉に取ってしまうだろう。
“何にせよしばらくは余計なこと考えないで…素直に同盟しておくか。
鳥子と合流して、フォーリナーを抱え込んで、そんでアイツといろいろ相談して……何か動くならその後だ”
脱出でも超越でも何でもいい。
先刻大和に向かって放った言葉に嘘はない。
空魚にとっての至上命題は鳥子と一緒にこの世界を後にすることだ。
それ以外の結末は認めないし、逆に言えばそれさえ確約されるなら極論後のことはどうでもいい。
鳥子と合流できたら二人で相談してこれからのことを決めよう。
ひょっとすると一人では思いつけないような妙案も出てくるかもしれない。
「…あんたはこれからどうする気なの? 思ったより静かだけど、此処」
「当分は留まる。静けさに安堵して持ち場を離れた結果空き巣に入られた、では笑い話にもならないのでね」
「ま…それもそっか」
確かに正論だ。
霊地の情報がああも拡散された以上、何処の誰も動かないなんて事はあるまい。
大和の霊地防衛に付き合うつもりはそこまで無いが、自分も自分で今後どう動くかは一度考えなければならないか。
などと考えながら空魚は片手で端末を操作し通話を始める。
通話の相手は言うまでもなく自身のサーヴァント、
伏黒甚爾だ。
甚爾とは彼の体質上念話で連絡を取ることができないため、互いの状況の報告が多少遅れてしまうのがもどかしかった。
「サーヴァントとの連絡に携帯電話を使うのか」
「色々事情があるの。…ていうか当たり前みたいに人の連絡相手を見抜かないでほしいんだけど」
「では悟られないように努力するといい。後ろ盾のない君が突然電話を掛け始めるという時点で、必然その相手は限られ――」
「あーはいはい。私が悪うございました」
適当に会話を切り上げてあしらいながら空魚は通話に意識を集中させる。
電話の向こうからは聞き慣れた男の声。
先刻大和と(物理的に)揉めている間に彼から電話が来ていたらしく、それに出なかったことを甚爾は咎めようとしていたが。
その言葉を遮って空魚は自分の獲得した"成果"を彼に伝えた。
「
峰津院大和と同盟を組みました」
『…マジか。どんな手使ったんだお前』
「少しばかり肉体言語で語り合っただけですよ」
語り合ったなんて言える程良い戦いができたわけではなかったが…別に細かく説明する程大した経緯でもない。
重要なのは峰津院を一時とはいえ味方に付けられたこと。
これは鳥子を助ける上でもリンボの野望を阻止する上でも大きな前進だ。
「で、アサシンさんは今何してるんですか?」
『お前が大立ち回りやってる間にこっちも色々ゴタついてな。ようやくそれが一段落した所なんだが…』
「…とりあえず、簡潔に説明してもらえると」
『
仁科鳥子の身柄をネタに脅しを掛けてきた奴が居た。
でそいつを今しがた潰した所だ。後は野郎のマスターが意識を取り戻しさえすれば、件のサーヴァントは脱落する』
「……は?」
何を言われたのか一瞬分からなかった。
停止した思考に張り手を打って無理やり叩き起こす。
「鳥子は大丈夫なんですか。まさかそのまま…!」
『落ち着けよ。アイツにはフォーリナーが居るんだろ』
「それは…そうですけど! でも!」
『落ち着けって言ったろ。こっちもちゃんと手は打つ。野郎の使い魔の残穢を追ってこれから現地に向かうつもりだ』
甚爾は有能な男だ。
その彼が最善を尽くさなかったとは思えない。
それでもすぐには飲み込めなかった。
自分の預かり知らない所で、鳥子が死線に立たされているなんて。
『お前がどう動くかは引き続き任せる。お前は多分、俺があれこれ指示しない方が動きやすいだろ』
鳥子は強い。
弱いわけがない、むしろ非日常を生きることにかけては彼女の方が先輩だ。
フォーリナーも居る。
この世界での彼女がどう生きてきたのか。
これからをどう生きていくつもりなのか、自分は何も知らない。
そんな当たり前を今更になって空魚は痛感していた。
通話の向こうの甚爾は数秒沈黙していたが。
やがてこんなことを言った。
『それとだ。
峰津院大和に代われるか』
「…へ。アイツと話すんですか?」
『あぁ。話すのは俺じゃないけどな』
「…、……。後で説明してくださいね。とりあえず聞いてみますけど」
端末を離して大和に目をやる。
端正な容貌の眉が動いた。
「何だ。私に用向きか?」
「…何の用かは知らないけどね。どうせ暇でしょ、さっさと出て」
「…、……言いたいことは多少あるが良いだろう。貸してみろ」
端末を受け取る。
そして耳を近付ければ、大和の耳に声が響いた。
『こうして直接話すのは初めてだネ、峰津院の若き王者よ』
「…ほう」
響いた声は男のものだった。
しかし若年のそれではない。
中年でもなく、更にその先。
初老に踏み入った者の声色であった。
「迂遠な言い回しだな。まるで私と――"峰津院"と関わるのは初めてではないかのような言い草だ」
『いかにも。君とて気付いているのではないかな、私が誰か』
「当然だ。私は今気分が良いよ。気配と痕跡しか掴めなかった害虫をようやく視界に収めることができた」
空魚のサーヴァントではないと確信するまでの時間は一瞬で事足りた。
先刻SNS上に開設してあったアカウントに届いたメッセージのことを考えると実に絶妙なタイミングだ。
そこまで察知して手を打ってきたとは流石に考え難いが、さて。
「――初めまして悪の大蜘蛛殿。この東京で犯罪界のナポレオンを気取る貴様が、私に何の用かな」
【港区・東京タワー/二日目・未明】
【
峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:頭痛(中、暫く持続します)
[令呪]:残り三画
[装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器(現在判明している武器はフェイトレス(長剣)と、ロンゴミニアド(槍)です)
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
0:霊地に留まり防衛を行う。
1:
ベルゼバブを動かせる状況が整ったら自分は霊地へ偵察に向かう。
2:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員
NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
3:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
4:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
5:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
6:白瀨咲耶、
神戸あさひと不審者(プリミホッシー)については後回し。炎上の裏に隠れている人物を優先する。
7:所有する霊地の一つ、新宿御苑の霊地としての機能を破却させました。また、当該霊地内で戦った為か、魔力消費がありません。
8:
リップ&アーチャー(
シュヴィ・ドーラ)に同盟を持ちかけました。返答の期限は、今日の0:00までです。
9:
光月おでんは次に見えれば必ず殺す。
10:逃がさんぞ、皮下
【備考】
※皮下医院地下の鬼ヶ島の存在を認識しました。
【
紙越空魚@裏世界ピクニック】
[状態]:疲労(小)、動揺、背中と腹部にダメージ(いずれも小)。憤慨、衝撃、自罰、呪い、そして覚悟
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:マカロフ@現実
[所持金]:一般的な大学生程度。裏世界絡みの収入が無いせいでややひもじい。
[思考・状況]基本方針:鳥子を助ける。
0:鳥子を助けに行く。何が何でも。何を利用しようとも。
1:鳥子…死ぬんじゃないぞ。
2:峰津院と組む。奴らの強さを利用する。このことはアサシンにも知らせないと。
3:アイ達とは当分協力……したかったけど、どう転ぶか分からない。
4:アビゲイルとか、地獄界曼荼羅とか……正直いっぱいいっぱいだ。
【中野区/デトネラット関係会社ビル/二日目・未明】
【
死柄木弔@僕のヒーローアカデミア】
[状態]:健康、覚醒、『地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)』服用
[令呪]:残り二画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円程度
[思考・状況]基本方針:界聖杯を手に入れ、全てをブッ壊す力を得る。
0:さぁ――行こうか。
1:勝つのは連合(俺達)だ。
2:四皇を殺す。
3:便利だな、麻薬(これ)。
[備考]
※個性の出力が大きく上昇しました。
【アーチャー(
ジェームズ・モリアーティ)@Fate/Grand Order】
[状態]:腰痛(中)、令呪『本戦三日目に入るまで、
星野アイ及びそのライダーを尊重しろ』
[装備]:超過剰武装多目的棺桶『ライヘンバッハ』@Fate/Grand Order
[道具]:なし?
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:
死柄木弔の"完成"を見届ける
0:?????
1:蜘蛛は卵を産み育てるもの。連合の戦力充実に注力。
2:連合員への周知を図り、課題『グラス・チルドレン殲滅作戦』を実行。各陣営で反対されなければWの陣営と同盟
3:禪院君とアイ君達の折衝を取り計らう。あわよくば彼も連合に加えたいところだがあくまでも慎重に。
4:しお君とライダー(
デンジ)は面白い。マスターの良い競争相手になるかもしれない。
5:
田中一を連合に勧誘。松坂女史のバーサーカーと対面させてマスター鞍替えの興味を示すか確かめる
6:…もう一度彼(
ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ)に連絡しておいた方がいいね、これは。
[備考]※デトネラット社代表取締役社長、四ツ橋力也はモリアーティの傘下です。
デトネラットの他にも心求党、Feel Good Inc.、集瑛社(いずれも、@僕のヒーローアカデミア)などの団体が彼に掌握されています。
※禪院(
伏黒甚爾)と協調した四ツ橋力也を通じて283プロダクションの動きをある程度把握していました。
※アルターエゴ・リンボ(
蘆屋道満)から"窮極の地獄界曼荼羅"の概要を聞きました。また彼の真名も知りました。
アラフィフ「これ先に知れて本当によかったなァ~…(クソデカ溜め息)」
※
田中一からアサシン(
吉良吉影)と
仁科鳥子によるリンボ奇襲の作戦を聞きました。(詳細は田中が知らないので不明)。
アサシン(
吉良吉影)の能力の一部も知りました(真名は田中が知らないので不明)。
※
星野アイおよびそのライダーから、ガムテ&ビッグ・マムの情報および一日目・夕方までの動向を聞きました
【ライダー(
殺島飛露鬼)@忍者と極道】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)
[装備]:大型の回転式拳銃(二丁)&予備拳銃
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:アイを帰るべき家へと送迎(おく)るため、聖杯戦争に勝ち残る。
1:アイの方針に従う。
2:M達との協力関係を重視。だが油断はしない。厄(ヤバ)くなれば殺す。
3:ガムテたちとは絶対に組めない。アイツは玄人(プロ)だしそれに――啖呵も切っちまった。
4:アヴェンジャー(
デッドプール)についてはアサシンに一任。
[備考]
※アサシン(
伏黒甚爾)から、彼がマスターの可能性があると踏んだ芸能関係者達の顔写真を受け取っています。
現在判明しているのは
櫻木真乃のみですが、他にマスターが居るかどうかについては後続の書き手さんにお任せいたします。
※スキルで生成した『地獄への招待券』は譲渡が可能です。サーヴァントへ譲渡した場合も効き目があるかどうかは後の話の裁定に従います。
【
田中一@オッドタクシー】
[状態]:気絶、半身に火傷(回復中)、地獄への渇望、高揚感
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン(私用)、ナイフ、拳銃(6発、予備弾薬なし)、
蘆屋道満の護符×3
[所持金]:数千円程度
[思考・状況]基本方針:『田中革命』。
0:――――。
1:リンボの意向に従う。アサシンは切った。
2:敵は皆殺し。どんな手段も厭わない。
3:SNSは随時チェック。地道だけど、気の遠くなるような作業には慣れてる。
4:リンボに“鞍替え”して地獄界曼荼羅を実現させたい。ただ、具体的な方策は未だ無い。
5:
峰津院大和のことは、保留。その危険度は理解した。
6:
星野アイ、めちゃくちゃかわいいな……
7:おやじがない。どっかに落としたか……?
[備考]
※界聖杯東京の境界を認識しました。景色は変わらずに続いているものの、どれだけ進もうと永遠に「23区外へと辿り着けない」ようになっています。
※アルターエゴ(
蘆屋道満)から護符を受け取りました。使い捨てですが身を守るのに使えます。
【アサシン(
伏黒甚爾)@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:武器庫呪霊(体内に格納)
[道具]:拳銃等
[所持金]:数十万円
[思考・状況]基本方針:サーヴァントとしての仕事をする
0:Mと
峰津院大和の通話が終了次第、写真のおやじ(吉良吉廣)の残穢を辿って
仁科鳥子の元へ向かう。
1:マスターであってもそうでなくとも
幽谷霧子を誘拐し、Mの元へ引き渡す。それによってMの陣容確認を行う。
2:↑と並行し283プロ及び関わってる可能性のある陣営(グラスチルドレン、皮下医院)の調査。
3:都内の大学について、(M以外の)情報筋経由で
仁科鳥子の在籍の有無を探っていきたい。
4:ライダー(
殺島飛露鬼)やグラス・チルドレンは283プロおよび
櫻木真乃の『偽のゴール』として活用する。漁夫の利が見込めるようであれば調査を中断し介入する。
5:ライダー(
殺島飛露鬼)への若干の不信。
6:
神戸あさひは混乱が広がるまで様子見。
7:鳥子とリンボ周りで起こる騒動に乗じてMに接近する。
8:あの『チェンソーの悪魔』は、本物の“呪い”だ。
[備考]※
櫻木真乃がマスターであることを把握しました。
※甚爾の協力者はデトネラット社長"四ツ橋力也@僕のヒーローアカデミア"です。彼にはモリアーティの息がかかっています。
※
櫻木真乃、
幽谷霧子を始めとするアイドル周辺の情報はデトネラットからの情報提供と自前の調査によって掴んでいました。
※モリアーティ経由で
仁科鳥子の存在、および周辺の事態の概要を聞きました。
※吉良吉廣と連絡先を交換しました。
【
星野アイ@推しの子】
[状態]:疲労(中)
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]基本方針:子どもたちが待っている家に帰る。
1:ガムテ君たちについては殺島の判断を信用。
櫻木真乃についてはいったんMに任せる。
2:敵連合の一員として行動。ただし信用はしない。
3:あさひくん達は捨て置く。もう利用するには厄介なことになりすぎている。
[備考]
※
櫻木真乃、
紙越空魚、M(
ジェームズ・モリアーティ)との連絡先を交換しています。
※グラス・チルドレンの情報をM側に伝えました。
【
神戸しお@ハッピーシュガーライフ】
[状態]:疲労(小)
[令呪]:残り二画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数千円程度
[思考・状況]
基本方針:さとちゃんとの、永遠のハッピーシュガーライフを目指す。
1:なんだかたいへんなことになってるね?
2:アイさんとらいだーさん(殺島)とは仲良くしたい。でも呼び方がまぎらわしいかも。どうしようねえ。
3:とむらくんとえむさん(モリアーティ)についてはとりあえず信用。えむさんといっしょにいれば賢くなれそう。
4:最後に戦うのは。とむらくんたちがいいな。
5:“お兄ちゃん”が、この先も生き延びたら―――。
6:れーじゅなくなっちゃった。だれかからわけてもらえないかなぁ。
【ライダー(
デンジ)@チェンソーマン】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:数万円(しおよりも多い)
[思考・状況]
基本方針:サーヴァントとしての仕事をする。聖杯が手に入ったら女と美味い食い物に囲まれて幸せになりたい。
1:死柄木とジジイ(モリアーティ)は現状信用していない。特に後者。とはいえ前者もいけ好かない。
2:
星野アイめちゃくちゃ可愛いじゃん……でも怖い……(割とよくある)
3:あの怪物ババア(シャーロット・リンリン)には二度と会いたくない。マジで思い出したくもない。
[備考]
※令呪一画で命令することで霊基を変質させ、チェンソーマンに代わることが可能です。
※元の
デンジに戻るタイミングはしおの一存ですが、一度の令呪で一時間程の変身が可能なようです。
時系列順
投下順
最終更新:2023年03月19日 20:42