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【船上にて1】

日差しがヒリヒリと肌を焦がし、それを潮風が優しく撫でる。
ここは中海、新天地オルニトマセ・バズーク、スラヴィア、ミズハミシマといった国家に囲まれた海で、この世界での重要な貿易航路の真っ只中である。

僕達は、新天地の西部、西回り航路の港であるバッドランドポートで交易馬車ごと船に乗り、2ヶ月ほど前(バッドランドポートに着くまで四ヶ月ほどかかっているけど…)にマセ・バズークのゲート近くのウルル港に向けて出港した。
そして十数日前にウルル港に到着し、金属加工品や陶磁器、建築・塗装資材や爆発物と引き換えに、彼らの土地で取れる宝石類や石炭、彼らの脱皮した皮や糸・体液・蜂蜜などをバーターし、ミズハミシマに向けて出港したところだ。

「マセ・バズークは面白い国だったな…」
交易船の縁で揺られながら、たくさんの蟲人達が暮らす非常に特徴的な建築物にあふれた国を思い出す。
彼らの合理的で精密な思考や行動は、人間のそれと比べ感情による熱は無いが見ていて非常にためになるものだったし(真似ができるかは分からないが)、こちらに来てから一番異世界に来たと実感できる国だった。

「そういえば、あのネコ人の子は故郷に着いただろうか?」
港に向かう道中で一緒になり、バッドランドポートで奴隷の密貿易組織相手に一緒に大暴れした後、別れたネコ族の少年のことを思い出す。
年頃の少年らしく、まだ自分の将来に悩んでいるようだったが、真っ直ぐな性格で末恐ろしほど腕っ節も強く、道を間違えなければきっと将来は一角の人物になるだろう。
最後の大暴れで少し自分の将来の道が見えたようだったが、いきなりどこかで見たことのある感じがする奇妙なお嬢さんに連れられて消えてしまった。
「まあ、大丈夫だろう。あの変な性格だけど強い守護霊もいるし…」
ぼんやりと視線を前方少し先に移すと、霧が出てきたようで前方の海上一面が真っ白になっていた。

「ホント、霧って湿っぽくってやぁね!」
リオ姐さんが湿気で毛羽立った羽にブラシをかけながらぶつぶつと呟く。
「霧見酒って言うのもオツなもんだ…」
「応!新人も座って飲め飲め!マズ・バスークじゃ結構儲かったからな」
「ちょっと旦那方!次のミズハミシマで売る予定の黄金蜂蜜酒まで手を付けないで下さいよ!」
バートンさんとうちの社長であるゴンザレスさんが商品の金色の酒に手を出して、商品管理なども受け持っているザクさんがそれをたしなめる。
霧で服が濡れそうだったので客室に戻ってくると、うちの交易馬車の仲間達は霧の船室でもなかなかに姦しくやっていた。

「しかし、こんな霧の中だとあの噂を思い出すな…」
「あの噂ですか?」
聞いた僕にゴンザレスさんはもったいぶって答える
「幽霊船だよ新人」
「え?」
ちょと驚いた声を出した僕に気を良くしたのか、ゴンザレスさんが僕にその話の詳細を語りだした。
「こいつは俺のダチのかみさんの友達のまたいとこが教えてくれた話なんだが…」
失敗した。なんだか長くなりそうだ…

ゴゴン!!

「なんだ!?」
いきなり大きく揺れる交易船。
皆で一目散に甲板に出るとそこには…

「ほんとに幽霊船だ…」
ボロボロの巨大な船体には鬼火が舞い、帆は朽ちかけ船首には髑髏の女神像が付けられており、メインマストにには骸骨がぶら下がり甲板の操舵輪には長い髪に船長のような服と帽子をつけたモノが…

「いや、ありゃスラヴィアの私掠船だろ」
驚く僕にゴンザレスさんがサラっと素で否定した……
まあ、確かに海域としては近いしこの世界だと本当にお化けやらがいるわけだから、実際にそうなんだろうけどさ…

『航行中のそこな貿易船!武装解除して止まりなさい!!』
辺りに女の甲高い声が聞こえる。魔法で声を拡散してるんだろう。
『貴船は我がクリストファー領を無断で航行しました。
よって通行料として船荷を、また懲罰金として乗組員全員の身を奴隷として支払ってもらいます。
抵抗は無意味ですので、諦めて痛くないように投降しなさい!!』
むちゃくちゃなことを言っている。
「ふざけんな!ここは天下の公海だ。スラヴィアのお貴族サマだって勝手は許さねえぞ!!」
「あのアマ!簀巻きにして沈めてやれ!!」「そうだそうだ!!!」
案の定、ドニードニー出身の元・海賊船員で気の強いオーガゴブリンの船員たちはブチギレ、全員が手早く戦闘態勢に移っている。

「クリストファーって言や、曲がりなりにも古参貴族の傍流だな!あーあ…これはこっちにも飛び火するな!」
酒をラッパ飲みしながら嬉しそうに手甲をつけるゴンザレスさん、他の面々も既にそれぞれの得物を準備し終わっている。
「脚線美を維持するにはちょうどいいわ」
「まあ、ヒマだったしな…」
「お貴族様の船って言えばそこそこ良いもの積んでるんじゃないかね?」
それぞれの私欲むき出しでニヤニヤしている。
「みなさん、流石ですね…」
と呆れた風に返した僕に
「アンタも同じでしょ?ライフルやショットガンだけじゃなく新しく仕入れたコートにブーツまで履いてるじゃない」
返す言葉もない。暇で暇で少し…いやだいぶ浮かれていたみたいだ。

幽霊船との海戦はすぐに始まった。
相手方の主力は最初に撃ってきた丸太を削って尻にロープを付けた矢を発射する大型のバリスタ数基と骸骨兵のようで、先ほど撃ったバリスタの再装填時間を稼ぐためか魚人や竜人系の骸骨兵は泳ぎで、
その他の獣人・蟲人系の骸骨兵は簡易の屋根付きのボートでこちらに襲いかかってきている。

「野郎ども!トチ狂って生者にたかる薄汚い蛆虫どもを薄暗いスラヴィアの巣穴に帰してやれ!!」
「「「「アイアイ、キャプテン!!!!」」」」
船長の号令一下の元、船員たちは取り付こうとした骸骨兵たちに弓矢や鉄球、投げ棍棒、粘度の高いタールなどを振らせて叩き落とす。
また、船体の横から竹とんぼののような回転刃が飛び出し船体を登る敵を切り飛ばし、カタパルトで火炎壺を相手の船に射出して攻撃するなど非常に多彩な攻撃を行っている。

しかし、それでも甲板まで上がってくる猛者はいるもので
「歯ごたえが無いぞ!スラヴィアの海賊共!」
ゴンザレスさんが掴んだトロルらしい骸骨兵を振り回して敵に当てながらそう叫び
「スラヴィアのボクちゃん達はドニー・ドニーの荒くれと違ってひ弱ねー♪」
リオさんが敵の頭蓋骨から股下まで一撃で粉々にしながらそう挑発する。
ザクさんは義経よろしく八艘飛びで敵の小舟を沈めながら飛び回り、バートンさんは泳げるものと一緒に、敵の小舟を弾丸のような体当たりで潰しつつ敵船を直接攻撃しに行っている。

そして僕はというと…
「お嬢様!わが兵の損耗率が2割を超えました…金属で補強してあるはずの船体にも複数の穴が…」
「キャプテンとお呼びなさい!
な・ん・な・の!?アイツら…下等生物の分際で!早くバリスタの装填を急ぎなさい!!」
骸骨兵の報告を聞いて歯噛みする船長ルックのスラヴィア貴族アニー・デルタ・クリストファー
「お嬢様、再装填完了しました。今度は眠りや痺れの魔法矢も混ぜていますので、あの野蛮人どもの船も沈黙させられると存じます。」
「だからキャプテンと…まあいいわ!ゴホッ…バリスタ照準!目標・敵船体!!撃撃ち方用意…‥撃てーーーーー!!!」
……
かっこ良くカトラスを振り下ろして命令したが矢が発射された様子はない。中空に止まったままの腕をどうしようか思案しだしたところで骸骨兵からの報告が入った。
「キャプテン!バリスタが発射できません」
「だからお嬢さm……いえ、どういうことかしら?それは」
「わかりません。何故か全ての弓の弦が切れてっ!?」
いきなり報告をしていた骸骨兵の頭が粉砕される。

「ほー…上手いもんだな異人さん」
メインマスト上の見張り台でゴブリンの船員に褒められる。
「いやぁ、船員の皆さんに比べたらまだまだですよ」
ライフル弾でバリスタの弦を全て絶ち切った後、敵船上への狙撃に切り替えた僕は軽く返す。
「もうそろそろ敵さんの方は弾切れですかね?」
「死人はなかなかしつこいからあまり甘く見んほうがいいぞ」
僕は狙撃しながら、船員は魔法で飛びながらマストを狙う鳥人系の骸骨を投げナイフで落としながら軽く雑談をする。
一体二体三体のスケルトン♪敵の頭を調子よく潰していると、敵船が崩れていくのが見えた。
「一体撃ち漏らしたけど…勝ったのかな?」
「おい異人さん、そういうセリフいうと…」

『損耗率三割超えてます。船の浸水も広がっています。これ以上の戦闘は無理かと…』
頭のない骸骨兵から報告を受けてプルプルと震えるアニー…
「グッ…せ、船長として全軍に撤退を…」
その時、殺気を感じたアニーがとっさに伏せると被っていた帽子と何かが吹き飛ばされた。
「な、名乗りも挙げずに貴族を攻撃するなど、なんという野蛮人!!」
アニーが恐る恐る立ち上がると、何か違和感を感じた。
頭のない骸骨兵が震えながらアニーが落としたものを捧げ持つ
「お嬢様……お帽子と…その、カツラです…」
「……」
帽子や長い髪で隠していた彼女の素顔がさらされている。
彼女の顔は14・5の年頃の美しい少女の顔が右側に張り付いており、他の部分は全て百合の彫刻がなされた真っ白な髑髏になっている。彼女は、この美しくもおぞましい見目を非常に気にしているのだ。
「…」
彼女はソレを受け取ると甲板にブーツの踵を思いっきり打ち付けた。
「起きなさいブランコ…食事の時間よ」
すると、震え上がる骸骨たちをよそにいきなり激震が起こり船体が崩れ始めた。

「おい、相棒。ちょっと手伝え…」
敵船の直接攻撃からいきなり戻ってきたバートンさんが少し焦り気味にゴンザレスさんに言う。
「どうした?相棒!船の下に屍姫の棺桶でもあったのかい」
「そんな可愛いもんじゃない。船底貫いた時に気づいたんだがアレは…」
「…おい、アレなんだ?」
船員たちが騒ぎ出す。


蛇足
【ワイルドランドへ】【市場にて】の続きです。
少し長くなったので二編に分けています。
キャラクターを使わせて頂いた未来王の作者様に感謝を
もし、内容等がまずかったらお教え頂けると幸いです。
修正か削除をいたしますので…


  • スラヴィアの船舶は幽霊船チックなのが普通になっているのかなとも思いましたが所有者の趣味によるところが大きいんでしょうね。しかしいきなり現れて通行料とは立派な幽霊船海賊ですね。冒頭の触り程度の他SSとの邂逅も思わずにやりとしてしまいました -- (名無しさん) 2013-03-31 18:37:20
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最終更新:2013年03月31日 18:35