「すみません。ここで、地球製の武具を見てもらえると聞いたんですが…」
街外れのボロボロの小屋の戸を開けながら声をかける。
中は薄暗く、そこらかしこに奇妙な機械類が積み上がってさながら、鉄のジャングルのようだ。
「…ああ、久しぶりの客だね。取り敢えず入んな」
鉄のジャングルをかき分けて奥から顔を出した小屋の主らしい
ドワーフの女性が、入り口で佇んでいる僕においでおいでをする。
取り敢えず、ギシギシ音をさせながら部屋の中に進んでいくと、ジャングルが開け、作業場らしい様々な工具が置かれた机などが鎮座している所に着いた。
「まあ、適当に座ってよ。お客人」
僕は言われた通りに、ジャングルの中で座りやすそうな部分を見つけ出して、恐る恐るそこに座った。
「さて、うちに来るってことは、この辺じゃご禁制だけどクルスベルグじゃないと直せないって品だろ?情報機器かい?それとも重火器?」
「話が早くて助かりますミーミルさん。今回お願いしたいのはこのリボルバー、ライフル、ショットガンの三丁なんですが…」
僕は、
ミズハミシマでゴンザレス一行から離れてから、一人ラムールに渡ったここ数ヶ月で使い込んでボロボロにしてしまった愛用の銃を三丁、彼女の前に差し出した。
それを受け取った彼女は、小さなハンマーで叩いたり単眼鏡でバレルの中を覗いたりしながら銃を手際よく分解して部品の調子を確かめていく。
「こいつはダメだね。バレルもそうだがフレームがへたってきてる。
ライフルとショットガンの方は今のところ大丈夫だけど、これ以上使うのなら大規模な部品の取替をしないといけなくなるだろうね…」
愛用のリボルバーを指で弾きながら女鍛冶師が言う。
「手に馴染んだ物なんですが、直せないですか?」
「直せないことはないけどさ…正直、これを直すのなら買い換えた方がいいだろうね。
クルスベルグは技術の国だが
新天地と違って地球側の輸入品に厳しい。
特に、アンタのガンや電子機器なんかは議会が目の敵にしてる品だ。
ここまで大きな直しだと、直してる間に議会のアホ共に見つかってハンマーでガンを叩き潰される可能性だってある。」
バカバカしそうにミーミルが言う。
「さっき、ご禁制って言われてましたけど、新品の銃はないのですか?」
「こういった昔気質のリボルバーやボルトアクションはないけどさ。グロックやAKなんかはそれなりにあるよ?」
そう言いながら彼女が、近くの瓦礫を蹴り飛ばすとアサルトライフルやオートマチック、がどっさり詰まった箱が中から現れる。
「一丁買ってくかい?」
「…いえ、結構です。今のタイプの物が気に入っているので…」
そう言ってやんわりと断る。
「えー…じゃあ、取り敢えず応急処置だけしとこうか…」
かなり残念そうな顔だったが、分解した部品の中でへたっている部分を金属の精霊に補強させたり、削ったり叩いたりと手早く応急処置を進めていく。
30分ほど瓦礫の上に座って尻に型がついただろう頃に、ようやく処置が終わり作業をしていた彼女から三丁の銃を受け取る。
「取り敢えず、処置はしたけど無理はさせないほうがいいね…
早めに輸入規制のゆるい新天地辺り経由で新しいガンを手に入れた方がいいよ」
ガンオイルで汚れた指を前掛けで拭きながらドワーフの女鍛冶師はそうのたまう。
「十分ですよ。」
シリンダーを回転させたり、ライフルのボルトを確認しながらそう返す。
「しかし、一体何十年使ったんだい?二年やそこらのヘタリ方じゃないよ?」
「本格的に使い始めたのは二年ちょっと前です。損耗が激しいのは最近、少しお祭り騒ぎをしすぎたからだと思いますよ。」
その言葉を聞いて、こいつは恐れ入るとおどけて返すミーミル。
「おいおい、大剣派や戦斧派のバトルジャンキー共でもエモノがこんなになるまでドンパチしないよ。一体何の仕事をしてるんだい?」
「古き良き時代のヒーローを少々」
僕が返した言葉がツボに入ったのか笑い転げる女鍛冶師殿。そこまで笑うことも無いだろうに…
「アンタ面白いね。整備料はちょっとまけてやるよ」
「いえ、それよりもう一つお願いしたいことが…」
「ん、なんだい?」
僕は皮袋から分厚い布に包まった『ソレ』らを取り出して彼女に見せる。
「これらを加工したいのですが、どこでも断られてしまって…」
そこには2つの品が乗っていた。
一つはグニャグニャと波打つ灰色の延べ棒の様なもの、もう一つは美しく彫刻がなされ、その名にふさわしく多色に輝くヘリオライト(日長石)。
どちらも依頼の報酬であり、ヘリオライトは新天地で猫人の少年と行動を共にした時に従者の守護霊?の方に、彼が寝ている間の警護や戦闘での補助を内密に頼まれた時の物で、彼自身が非常に優秀であったために大変割の良い仕事だった。
もう一つの奇妙なモノは、獅子王の墓標から一度ミズハミシマに帰った時にあの老紳士から貰ったものだ。
『もし君が、これ以降も我らやこの世界に関わるのならば、これを持って鍛冶神殿の所領に行きなさい…きっと君の望む力になるだろう』
彼らの言葉を信じ、僕は新天地に戻るゴンザレスさん達と別れ、一人
ラ・ムール経由でここクルスベルグを目指したのだ。
「…お客人、悪いけどそれらをしまってちょうだい」
青ざめた顔をしたミーミルが力なく言う。
「アタシもこの稼業継いで長いけど、そこまで神性の強いモノは初めて見たわ。
特にその灰色のソレは神性を持ったモノどころか…
…そんなモノを加工できる本物の職人は冠王がいた頃ならともかく、今のクルスベルグにはもういないよ」
疲れたように、恐れるように僕の手に乗った2つのモノから視線を逸らしながらそうつぶやくミーミル。
「ただ…」
「ただ?」
ミーミルは少し迷ったように首を振ってから唾を飲み込み、窓の外に見える小高い山を指し口を開いた。
「あの鍛冶神
セダル・ヌダの炉ならソレらをアンタの好きな形にできるだろう」
「…鍛冶神セダル・ヌダが創ったタイタンに繋がるモノの一つに帝政時代に鍛冶神の炉で実際に作られた鉄巨人というモノがある」
ミーミルの工房を辞して街を歩いていると奇妙な三人組が、聞いたことのある単語を交えて議論をしながら歩いているのに出くわした。
「こちらはタイタンと違って、現在も各地に残骸が残っている兵器で、タイタンを模して作られたモノだって言われている」
「だからってそれで逆説的にタイタンがいることにはならんだろ」
「あの…議論もいいですけど、そろそろお昼にした方がいいのでは?」
議論を交わす東洋系の顔立ちをした二人と、可愛らしい魚人の少女が姦しく道を歩いている。
楽しそうに向こうへ歩いて行く三人組をぼんやりと見つめながら考える。
今、彼らに付いて行けば、彼らの仲間に混ぜてもらえるだろうか?
そしてずっと追い続けていた夢を諦めて、ただのバックパッカーとしてこの世界を歩き、異世界の人々との交流を楽しめるのだろうか?
グルグルと詮無いことを考え出してしまい、首を振ってその考えを追い出す。
そもそも、この世界に来た理由が理由だ。
このままただ観光をして帰れば、新天地での諜報・工作活動という軍の命令を何一つ実行しなかった僕は、軍に拘束されて一生日の光に当たることはなくなるだろう。
それ以前にここで諦めれば、自分が今まで歩いた道や自分を信じてくれた人まで否定してしまうことになってしまう。
「…僕は、僕が選んだ道を行くしか無いんだ」
長く付き合ってくれた愛用のリボルバーの銃把を少し触り、ミーミルが教えてくれた炉に向かって一人歩き出した。
最後のその日まで自分の夢を貫き通すために…
- クルスベルグアンダーグラウンドという様相がたまらない。 一級の職人にもなると神の息がかかった素材の凄さが分かるのだろうか。 鍛冶職人達の順応力と神の炉、国の上層部など想像が膨らむ繋がる -- (名無しさん) 2013-06-07 22:50:00
- 裏世界に通じる鍛冶屋でもさじを投げる神の素材がどれほど凄いものなのかと実感します。自分と同じ人間の自分と違う道を行く人間を見て少し迷いを見せましたが諦めの様な言葉と現在を吐露する反面で銃に対する熱意はすでに彼の中で道が決まっているようにも思いました -- (名無しさん) 2013-08-04 19:43:48
最終更新:2013年06月07日 22:44