※投稿者は作者とは別人です
315 :外伝:2008/11/24(月) 14:56:19 ID:sjtC5X1.0
「ね~逃げちゃおうよ~誰にもわかりゃしないって~、馬鹿正直に命令守って
死ぬなんてつまんないじゃんか~。ね~ね~」
「うるさいよ!」
ひたすら敗北主義者的な発言を繰り返すラトラップ上等兵を沈黙させたのは
双眼鏡を覗いた姿勢のまま繰り出されたイボンコ中尉の裏拳だった
だが内心逃げ出したいと思っているのはイボンコも同じ
味方の撤退を援護するため目の前を進撃するアメリカの大戦車群を阻止する任務を
与えられたのはイボンコ中尉の指揮する砲戦型ゴーレム一体だけ
どう見ても捨て駒です本当に有り難うございました
不運なイボンコ達に与えられたゴーレムが最新型だったのがせめてもの慰めだろうか
暫定的にキリラルブス改と呼ばれているこの新型は
射距離700ロレグでシャーマン戦車の前面装甲を貫通出来る
50口径3ネルリ砲を搭載している
全シホールアンル兵が待ち望んでいた兵器だがその配備数は極めて少ない
砲以外は既存のキリラルブスとほとんど変らないのだが
肝心の3ネルリ砲が思い切り生産に手間が掛かる代物なのだ
軽くて堅牢で発射速度が高く
なおかつコンパクトで信頼性の高い大口径の高初速砲は
成熟した工業基盤を持つ近代国家でもそう易々と量産出来るものではない
現実世界でも主砲の生産が間に合わず
砲塔数を減らしたり代替砲を積んで就役した英国のダイドー級防空巡洋艦の例がある
そんな訳で現時点で師団に配備されているキリラルブス改はたった六体
ノルマンディー戦時のシャーマン・ファイアフライ以上に貴重な
文字通りの虎の子である
「あいつをやるぞ」
イボンコは背筋を這い上がる怖気を意思の力でねじ伏せると
なおも呪いの言葉を呟きながら照準器に顔を押し付けたラトラップに目標を指示する
「十一時方向、距離350…撃て!」
米軍戦車の車体側面に紫色の火花が散り
一瞬遅れて目も眩む閃光とともに砲塔がタテ回転しながら飛び上がる
38ミリの装甲を貫通した徹甲榴弾が弾薬庫を直撃したのだ
米軍戦車は一斉に停止すると
斜め正面-イボンコ達から見ると二時の方向-の雑木林に砲弾を撃ち込み始める
アメリカ軍お得意の“とりあえず敵の居そうな所にブチ込め”戦法だ
入念な偽装の甲斐あってキリラルブス改が身を潜める掩蔽壕からの第一撃は
敵の発見を免れていた
316 :外伝:2008/11/24(月) 14:57:22 ID:sjtC5X1.0
「次、一時方向距離400」
またも炎に包まれるシャーマン戦車
口を開けば皮肉と不平が飛び出すラトラップだが
神懸かった砲術の腕は欠点を補って余りある
三両目を血祭りにあげたところで遂に位置を悟られた
シャーマン戦車のお碗型の砲塔が一斉に旋回する
「後退しろ!」
操縦士のライノー軍曹がキリラルブス改を壕から出すと同時に
辺り一面に75ミリ砲弾が降り注ぐ
その中の一弾がキリラルブス改が盾にする農家の便所を粉砕し
半乾きの人糞のシャワーがイボンコ達を襲う
一応天井はあるとはいえ背中はガラ空きの砲戦型ゴーレム
悪臭は容赦なく戦闘室に侵入する
「糞、あまり香しい任務とは言えんな」
精一杯洒落を利かせたつもりのイボンコだったが誰も笑わなかった
間一髪袋叩きを免れたキリラルブス改はアメリカ戦車からの視界を遮る生垣にそって
予備の射撃陣地に移動する
南大陸戦線でたっぷりと苦戦した経験を持つイボンコは寝る間を惜しんで地形を調べ
幾つもの射撃陣地と退避ルートを選び出していた
敵が見当違いの場所を撃ちまくっている間に移動し
発砲炎で位置を知られるとまた移動
この繰り返しでさらに五両のシャーマン戦車を葬るとアメリカ軍は煙幕を張って
後退していった
「来た!見た!勝った!俺ってばスゴイ?凄過ぎるよ!!」
鬼の首を取ったかのようなラトラップ
戦闘が始まる前の負け犬発言は何だったのかと言いたい
「いや、安心するのは早いぞ」
空を見上げるイボンコ
その視線の先には轟々と爆音を響かせて飛来するB-25十数機
「いや~アメリカさんは贅沢な戦争するんダナ!ゴーレム一体に飛行挺一編隊の
お出ましとは。」
驚きを通り越して心底呆れたといった口調のライノー
「感心してる場合かー!」
ラトラップがキレる
箱型編隊を組んで時速250マイルで飛行する双発爆撃機から投下された
500ポンド爆弾は慣性の法則に従い広範囲に拡がって落下する
不運にもキリラルブス改は楕円形をした投射網の真ん中に捕えられていた
「後退だぁ――――――――――ツ!!!」
流石のイボンコも顔を引き攣らせて叫ぶ
全速で走るゴーレムの周りで次々と爆発が起こり
大地を揺るがす震動に脚を取られたキリラルブス改は爆撃跡のクレーターに転げ落ち
続く爆発で空中に舞い上がった土砂が爆弾穴を埋めていく
生きたまま土葬されたイボンコ達が必死の思いで地上に這い出すと
待っていたのはGI達の構えたライフルの銃口だった
この戦闘の後第175戦車大隊のゲインズ中佐は戦闘報告にこう記している
“敵は遂に我々の戦車を通常の交戦距離で撃破し得る兵器を投入してきた、この事実は
戦車兵達に大きな衝撃を与えた。これまでほぼ無敵の存在だったM4中戦車が紙のように
撃ち抜かれる光景を目の当たりにして、クリスマスには帰国出来るという兵士たちの
楽観論は跡形もなく吹き飛ばされてしまった。“
315 :外伝:2008/11/24(月) 14:56:19 ID:sjtC5X1.0
「ね~逃げちゃおうよ~誰にもわかりゃしないって~、馬鹿正直に命令守って
死ぬなんてつまんないじゃんか~。ね~ね~」
「うるさいよ!」
ひたすら敗北主義者的な発言を繰り返すラトラップ上等兵を沈黙させたのは
双眼鏡を覗いた姿勢のまま繰り出されたイボンコ中尉の裏拳だった
だが内心逃げ出したいと思っているのはイボンコも同じ
味方の撤退を援護するため目の前を進撃するアメリカの大戦車群を阻止する任務を
与えられたのはイボンコ中尉の指揮する砲戦型ゴーレム一体だけ
どう見ても捨て駒です本当に有り難うございました
不運なイボンコ達に与えられたゴーレムが最新型だったのがせめてもの慰めだろうか
暫定的にキリラルブス改と呼ばれているこの新型は
射距離700ロレグでシャーマン戦車の前面装甲を貫通出来る
50口径3ネルリ砲を搭載している
全シホールアンル兵が待ち望んでいた兵器だがその配備数は極めて少ない
砲以外は既存のキリラルブスとほとんど変らないのだが
肝心の3ネルリ砲が思い切り生産に手間が掛かる代物なのだ
軽くて堅牢で発射速度が高く
なおかつコンパクトで信頼性の高い大口径の高初速砲は
成熟した工業基盤を持つ近代国家でもそう易々と量産出来るものではない
現実世界でも主砲の生産が間に合わず
砲塔数を減らしたり代替砲を積んで就役した英国のダイドー級防空巡洋艦の例がある
そんな訳で現時点で師団に配備されているキリラルブス改はたった六体
ノルマンディー戦時のシャーマン・ファイアフライ以上に貴重な
文字通りの虎の子である
「あいつをやるぞ」
イボンコは背筋を這い上がる怖気を意思の力でねじ伏せると
なおも呪いの言葉を呟きながら照準器に顔を押し付けたラトラップに目標を指示する
「十一時方向、距離350…撃て!」
米軍戦車の車体側面に紫色の火花が散り
一瞬遅れて目も眩む閃光とともに砲塔がタテ回転しながら飛び上がる
38ミリの装甲を貫通した徹甲榴弾が弾薬庫を直撃したのだ
米軍戦車は一斉に停止すると
斜め正面-イボンコ達から見ると二時の方向-の雑木林に砲弾を撃ち込み始める
アメリカ軍お得意の“とりあえず敵の居そうな所にブチ込め”戦法だ
入念な偽装の甲斐あってキリラルブス改が身を潜める掩蔽壕からの第一撃は
敵の発見を免れていた
316 :外伝:2008/11/24(月) 14:57:22 ID:sjtC5X1.0
「次、一時方向距離400」
またも炎に包まれるシャーマン戦車
口を開けば皮肉と不平が飛び出すラトラップだが
神懸かった砲術の腕は欠点を補って余りある
三両目を血祭りにあげたところで遂に位置を悟られた
シャーマン戦車のお碗型の砲塔が一斉に旋回する
「後退しろ!」
操縦士のライノー軍曹がキリラルブス改を壕から出すと同時に
辺り一面に75ミリ砲弾が降り注ぐ
その中の一弾がキリラルブス改が盾にする農家の便所を粉砕し
半乾きの人糞のシャワーがイボンコ達を襲う
一応天井はあるとはいえ背中はガラ空きの砲戦型ゴーレム
悪臭は容赦なく戦闘室に侵入する
「糞、あまり香しい任務とは言えんな」
精一杯洒落を利かせたつもりのイボンコだったが誰も笑わなかった
間一髪袋叩きを免れたキリラルブス改はアメリカ戦車からの視界を遮る生垣にそって
予備の射撃陣地に移動する
南大陸戦線でたっぷりと苦戦した経験を持つイボンコは寝る間を惜しんで地形を調べ
幾つもの射撃陣地と退避ルートを選び出していた
敵が見当違いの場所を撃ちまくっている間に移動し
発砲炎で位置を知られるとまた移動
この繰り返しでさらに五両のシャーマン戦車を葬るとアメリカ軍は煙幕を張って
後退していった
「来た!見た!勝った!俺ってばスゴイ?凄過ぎるよ!!」
鬼の首を取ったかのようなラトラップ
戦闘が始まる前の負け犬発言は何だったのかと言いたい
「いや、安心するのは早いぞ」
空を見上げるイボンコ
その視線の先には轟々と爆音を響かせて飛来するB-25十数機
「いや~アメリカさんは贅沢な戦争するんダナ!ゴーレム一体に飛行挺一編隊の
お出ましとは。」
驚きを通り越して心底呆れたといった口調のライノー
「感心してる場合かー!」
ラトラップがキレる
箱型編隊を組んで時速250マイルで飛行する双発爆撃機から投下された
500ポンド爆弾は慣性の法則に従い広範囲に拡がって落下する
不運にもキリラルブス改は楕円形をした投射網の真ん中に捕えられていた
「後退だぁ――――――――――ツ!!!」
流石のイボンコも顔を引き攣らせて叫ぶ
全速で走るゴーレムの周りで次々と爆発が起こり
大地を揺るがす震動に脚を取られたキリラルブス改は爆撃跡のクレーターに転げ落ち
続く爆発で空中に舞い上がった土砂が爆弾穴を埋めていく
生きたまま土葬されたイボンコ達が必死の思いで地上に這い出すと
待っていたのはGI達の構えたライフルの銃口だった
この戦闘の後第175戦車大隊のゲインズ中佐は戦闘報告にこう記している
“敵は遂に我々の戦車を通常の交戦距離で撃破し得る兵器を投入してきた、この事実は
戦車兵達に大きな衝撃を与えた。これまでほぼ無敵の存在だったM4中戦車が紙のように
撃ち抜かれる光景を目の当たりにして、クリスマスには帰国出来るという兵士たちの
楽観論は跡形もなく吹き飛ばされてしまった。“