※投稿者は作者とは別人です
938 :外伝:2009/03/28(土) 17:47:51 ID:xBb3.8PA0
タイトル「勝つためには手段を選ばない」
投下させていただきます
939 :外伝:2009/03/28(土) 17:49:40 ID:xBb3.8PA0
カレアント第一機械化騎兵旅団は南大陸で最初に発足した機甲部隊である。
新し物好きで行動力に富んだカンレアク女王の熱烈なラブコールによって他国に先駆けてM6装甲車
(英連邦軍向け輸出品のデッドストックだが)の供与を受けたカレアント軍は、早速供与車輌全車(レ
ミナ様が乗り潰した三両を除く)を持って第一機械化騎兵旅団を編成した。
最初は従来の騎兵隊の馬を装甲車に変えただけの部隊だったが、その後待望の戦車をはじめとする供与
兵器の種類と数が増えるに従ってアメリカ軍に追いつけ追い越せを合言葉に新兵器と新戦術の習得及び
それらに合わせた組織改編を繰り返し、最終的には名称に「騎兵」と付いてはいるもののその実態は
ミニ機甲師団と呼ぶにふさわしいバランスの取れた諸兵科連合部隊となった。
その最大の特徴は、第一機械化騎兵旅団が南大陸では数少ない100%機械化が達成された部隊だとい
うことである。
すなわち歩兵は全小隊がハーフトラックに搭乗し、砲兵隊と対空・対戦車部隊の装備も完全に自走化さ
れていたのだ。
そんな第一機械化騎兵旅団の初代旅団長として部隊作りに辣腕を振るったのが1481年10月のポ
ロボロッカ包囲戦で重症を負い、療養を兼ねたアメリカ留学から帰国したファメル・ヴォルベルク准将
である。
当時第161師団の中佐だったファメルは、シホールアンル軍の攻囲の中にあったポロボロッカの街か
ら包囲網をこじ開けて非戦闘員六千五百名を含む一万二千名を脱出させるという離れ業を演じてみせ
たのだが、戦闘で全身に榴散弾の破片を浴び、右目と右腕の手首から先を失った。
「行き遅れのうえこの体ではもう嫁にはいけんな」
というのは本人の談だが現在でもカレアント軍美人コンテストを実施すれば十分上位入賞を狙える美
貌の持ち主である。
(というか眼帯を着けてからコアなファンが増えた)
そしてM6スタッグハウンドに続く供与兵器の第二弾としてアメリカから届けられたのは、またしても
デッドストックになっていた英軍仕様のM3中戦車「グラント」だった。
すでにアメリカ軍はより進歩した設計のM4中戦車を使用しており、同盟国に不平等感を与えるのは良
くないとの見地からカレアントにもM4を供与する予定だったのだが、運悪く同時期に海軍が建艦計画
を大幅に拡大したため、煽りを喰って鉄鋼の陸軍向け生産割り当ては削減され(ルーズベルトは海軍贔
屓だった)、陸軍の戦車増産計画も下方修正を強いられることになったのである。
在庫一掃セールじみた援助内容に流石に気が咎めたのか、カレアント向けのグラント戦車は車体右側の
スポンソンに装備された75ミリ砲を37.5口径砲に換装するなどM4中戦車に準じたアップデート
がなされていたのだが、当局の気配りを他所にM3中戦車を供与されたことに対してカレアント軍から
不満の声はまったく出なかった。
実際のところカレアント人にとって戦闘機は翼の生えた鉄砲、戦車は車輪の付いた大砲という認識であり、
主砲に加え副砲まで備えるグラントはカレアント的にはシャーマンよりよい戦車だったのである。
そのうえあるべき戦車の姿について試行錯誤していた時期に設計されたM3は、砲塔装備の37ミリ砲
で対空射撃も出来るよう最大仰角を60度まで取れるという無駄としか思えないギミックを持ってい
たのだが、地上攻撃のため低空を低速で飛行するワイバーンに対してちょうど散弾銃で鴨を撃つような
感じで対人用のキャニスター弾を用いると意外と有効だったという冗談のような戦訓が導き出されて
しまっていたりする。
そんな訳で第一機械化騎兵旅団の将兵のグラントに対する愛着は尋常ではなく、北大陸上陸後のとある
小隊では75ミリ砲を損傷したアメリカ軍のシャーマンから取り外した52口径76ミリ砲に換装す
るとともに、不時着したP-39から回収した37ミリ機関砲と50口径機関銃を砲塔に積んだ魔改造
車輌を製作している。
かくして精鋭中の精鋭と言われるまでに成長した第一機械化騎兵旅団は北大陸進攻を間近に控えたあ
る日、アメリカ第4機甲師団と模擬戦を行うことになった。
相手はジェンセン中佐指揮のB機甲戦闘団である。
模擬戦はカレアレク郊外の広大な丘陵地帯を演習場とし、両部隊が機動戦によって相手の行動を妨害し
つつ演習区域の中央にある高地の奪取を競うという形で行われた。
940 :外伝:2009/03/28(土) 17:50:33 ID:xBb3.8PA0
「イカサマだ!」
演習終了後の総評で声を張り上げるジェンセン中佐。
演習終了時に高地を確保していたのはB機甲戦闘団だったが戦車戦でのキルレシオは3:1で第一機械
化騎兵旅団に凱歌があがり、アメリカ軍としては先輩の面目丸潰れであった。
更にジェンセン中佐を激怒させたのは第8戦車大隊の二個中隊が進撃途中で地図に無い湿地帯に入り
込み、身動き取れなくなったところで待ち伏せていたグラント戦車とM10戦車駆逐車の攻撃を受け
全車撃破の判定を受けたことである。
ジェンセンの追求に対し、ファメルは演習用に作製した地図から湿地帯の記載を意図的に削除したと実
にあっさりと認めたうえで平然と言った。
「こちらの用意した地図を頭から信用するほうが悪い」
「黙れビッチ(雌犬)!」
逆上したジェンセンの口からファメルを侮辱する言葉が洪水のように迸る。
どう考えても同盟国の上級将官に対する言葉使いではないが、ジェンセンはこのスレのアメリカ軍では
少数派の白人至上主義者でおまけに一度キレると歯止めが効かない性格だった。
「この、梅毒で淫売のコミュニスト野郎が!図々しいにも程が――」
ガコッ!
テーブルに振り下ろされた義手が厚い木製の天板に窪みを穿つのを見て、ジェンセンの舌が凍りつく。
ファメルの右手には武器係の軍曹が作った直径4インチ、重さ160オンスのトゲ付き鉄球(通称「地
獄の鉄拳」)が装着されていた。
「汚い言葉を吐いて部屋の空気を汚すのはよくない、言いたいことがあるならいくらでも聞いてやるか
ら二人でその辺を散歩しよう」
唄うように言うファメルだったがその響きは聞くもの全てに葬送曲を連想させた。
「そこまでにしたまえ」
二人の間に割って入った西竹一中佐がジェンセンの肩に手を置いた。
「地図が当てにならないなんてことは実戦ではよくある話だ、それに戦車を進める前に進路の偵察を怠
ったのは明らかに君のミスだ」
ジェンセンは内心ホッとしながらも傍目には渋々といった感じで引き下がる。
模擬戦は死者一名を出すこと無く無事解散となった。
「何かとびきりの悪戯を考え付いたといった顔をしているぞ」
西中佐がハンドルを握り、カレアレクへと向うジープの助手席でエイブラムズ中佐は言った。
「実はファメル准将に特製の義手をプレゼントしようかと思いましてね」
「ほう、どんな義手かね?」
ニヤリと笑うバロン・ニシ
「ドリルとか素敵だと思いませんか?」
そう語った西中佐の瞳は、少年のように輝いていたとエイブラムズは回想している。
938 :外伝:2009/03/28(土) 17:47:51 ID:xBb3.8PA0
タイトル「勝つためには手段を選ばない」
投下させていただきます
939 :外伝:2009/03/28(土) 17:49:40 ID:xBb3.8PA0
カレアント第一機械化騎兵旅団は南大陸で最初に発足した機甲部隊である。
新し物好きで行動力に富んだカンレアク女王の熱烈なラブコールによって他国に先駆けてM6装甲車
(英連邦軍向け輸出品のデッドストックだが)の供与を受けたカレアント軍は、早速供与車輌全車(レ
ミナ様が乗り潰した三両を除く)を持って第一機械化騎兵旅団を編成した。
最初は従来の騎兵隊の馬を装甲車に変えただけの部隊だったが、その後待望の戦車をはじめとする供与
兵器の種類と数が増えるに従ってアメリカ軍に追いつけ追い越せを合言葉に新兵器と新戦術の習得及び
それらに合わせた組織改編を繰り返し、最終的には名称に「騎兵」と付いてはいるもののその実態は
ミニ機甲師団と呼ぶにふさわしいバランスの取れた諸兵科連合部隊となった。
その最大の特徴は、第一機械化騎兵旅団が南大陸では数少ない100%機械化が達成された部隊だとい
うことである。
すなわち歩兵は全小隊がハーフトラックに搭乗し、砲兵隊と対空・対戦車部隊の装備も完全に自走化さ
れていたのだ。
そんな第一機械化騎兵旅団の初代旅団長として部隊作りに辣腕を振るったのが1481年10月のポ
ロボロッカ包囲戦で重症を負い、療養を兼ねたアメリカ留学から帰国したファメル・ヴォルベルク准将
である。
当時第161師団の中佐だったファメルは、シホールアンル軍の攻囲の中にあったポロボロッカの街か
ら包囲網をこじ開けて非戦闘員六千五百名を含む一万二千名を脱出させるという離れ業を演じてみせ
たのだが、戦闘で全身に榴散弾の破片を浴び、右目と右腕の手首から先を失った。
「行き遅れのうえこの体ではもう嫁にはいけんな」
というのは本人の談だが現在でもカレアント軍美人コンテストを実施すれば十分上位入賞を狙える美
貌の持ち主である。
(というか眼帯を着けてからコアなファンが増えた)
そしてM6スタッグハウンドに続く供与兵器の第二弾としてアメリカから届けられたのは、またしても
デッドストックになっていた英軍仕様のM3中戦車「グラント」だった。
すでにアメリカ軍はより進歩した設計のM4中戦車を使用しており、同盟国に不平等感を与えるのは良
くないとの見地からカレアントにもM4を供与する予定だったのだが、運悪く同時期に海軍が建艦計画
を大幅に拡大したため、煽りを喰って鉄鋼の陸軍向け生産割り当ては削減され(ルーズベルトは海軍贔
屓だった)、陸軍の戦車増産計画も下方修正を強いられることになったのである。
在庫一掃セールじみた援助内容に流石に気が咎めたのか、カレアント向けのグラント戦車は車体右側の
スポンソンに装備された75ミリ砲を37.5口径砲に換装するなどM4中戦車に準じたアップデート
がなされていたのだが、当局の気配りを他所にM3中戦車を供与されたことに対してカレアント軍から
不満の声はまったく出なかった。
実際のところカレアント人にとって戦闘機は翼の生えた鉄砲、戦車は車輪の付いた大砲という認識であり、
主砲に加え副砲まで備えるグラントはカレアント的にはシャーマンよりよい戦車だったのである。
そのうえあるべき戦車の姿について試行錯誤していた時期に設計されたM3は、砲塔装備の37ミリ砲
で対空射撃も出来るよう最大仰角を60度まで取れるという無駄としか思えないギミックを持ってい
たのだが、地上攻撃のため低空を低速で飛行するワイバーンに対してちょうど散弾銃で鴨を撃つような
感じで対人用のキャニスター弾を用いると意外と有効だったという冗談のような戦訓が導き出されて
しまっていたりする。
そんな訳で第一機械化騎兵旅団の将兵のグラントに対する愛着は尋常ではなく、北大陸上陸後のとある
小隊では75ミリ砲を損傷したアメリカ軍のシャーマンから取り外した52口径76ミリ砲に換装す
るとともに、不時着したP-39から回収した37ミリ機関砲と50口径機関銃を砲塔に積んだ魔改造
車輌を製作している。
かくして精鋭中の精鋭と言われるまでに成長した第一機械化騎兵旅団は北大陸進攻を間近に控えたあ
る日、アメリカ第4機甲師団と模擬戦を行うことになった。
相手はジェンセン中佐指揮のB機甲戦闘団である。
模擬戦はカレアレク郊外の広大な丘陵地帯を演習場とし、両部隊が機動戦によって相手の行動を妨害し
つつ演習区域の中央にある高地の奪取を競うという形で行われた。
940 :外伝:2009/03/28(土) 17:50:33 ID:xBb3.8PA0
「イカサマだ!」
演習終了後の総評で声を張り上げるジェンセン中佐。
演習終了時に高地を確保していたのはB機甲戦闘団だったが戦車戦でのキルレシオは3:1で第一機械
化騎兵旅団に凱歌があがり、アメリカ軍としては先輩の面目丸潰れであった。
更にジェンセン中佐を激怒させたのは第8戦車大隊の二個中隊が進撃途中で地図に無い湿地帯に入り
込み、身動き取れなくなったところで待ち伏せていたグラント戦車とM10戦車駆逐車の攻撃を受け
全車撃破の判定を受けたことである。
ジェンセンの追求に対し、ファメルは演習用に作製した地図から湿地帯の記載を意図的に削除したと実
にあっさりと認めたうえで平然と言った。
「こちらの用意した地図を頭から信用するほうが悪い」
「黙れビッチ(雌犬)!」
逆上したジェンセンの口からファメルを侮辱する言葉が洪水のように迸る。
どう考えても同盟国の上級将官に対する言葉使いではないが、ジェンセンはこのスレのアメリカ軍では
少数派の白人至上主義者でおまけに一度キレると歯止めが効かない性格だった。
「この、梅毒で淫売のコミュニスト野郎が!図々しいにも程が――」
ガコッ!
テーブルに振り下ろされた義手が厚い木製の天板に窪みを穿つのを見て、ジェンセンの舌が凍りつく。
ファメルの右手には武器係の軍曹が作った直径4インチ、重さ160オンスのトゲ付き鉄球(通称「地
獄の鉄拳」)が装着されていた。
「汚い言葉を吐いて部屋の空気を汚すのはよくない、言いたいことがあるならいくらでも聞いてやるか
ら二人でその辺を散歩しよう」
唄うように言うファメルだったがその響きは聞くもの全てに葬送曲を連想させた。
「そこまでにしたまえ」
二人の間に割って入った西竹一中佐がジェンセンの肩に手を置いた。
「地図が当てにならないなんてことは実戦ではよくある話だ、それに戦車を進める前に進路の偵察を怠
ったのは明らかに君のミスだ」
ジェンセンは内心ホッとしながらも傍目には渋々といった感じで引き下がる。
模擬戦は死者一名を出すこと無く無事解散となった。
「何かとびきりの悪戯を考え付いたといった顔をしているぞ」
西中佐がハンドルを握り、カレアレクへと向うジープの助手席でエイブラムズ中佐は言った。
「実はファメル准将に特製の義手をプレゼントしようかと思いましてね」
「ほう、どんな義手かね?」
ニヤリと笑うバロン・ニシ
「ドリルとか素敵だと思いませんか?」
そう語った西中佐の瞳は、少年のように輝いていたとエイブラムズは回想している。