自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

078 外伝2

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戦車は決定的な兵器であるが投入される地形を選ぶ
第一機甲師団-栄光のオールドアイアン-は地形と天候にそっぽを向かれたまま、泥沼の消耗戦を戦っていた
天候不良のため航空支援は不十分
長雨で平原は泥沼と化し、路上しか走行出来ない戦車は厳重に偽装され、道路に照準を合わせた敵砲火に袋叩きにされていた
人的、物的な損耗率はまだ許容範囲内ではあるものの、じりじりと上昇していた
その日、第321戦車大隊B戦車中隊と第51機甲歩兵大隊C中隊からなる戦車とハーフトラックの一団-指揮官の名をとってガフィー戦闘団と名付けられた-はグリンゲンの敵兵力を掃討せよとの命令を受け、グリンゲン-マホールト間の主要幹線道路であり、土地の人間からタータム街道と呼ばれている道路-未舗装ではあるがこの世界では珍しく片側二車線はある-を進撃していた
「気に入らんな…」
先頭を走るM4中戦車の砲塔から上半身を覗かせ、周囲を見回しながらガフィー少佐は唸った
曲がりくねった道路の両側は起伏に富んだ丘が連なり、中央ヨーロッパに似た常緑樹の森林が点在している
待ち伏せにはうってつけだった
見上げれば今にも泣き出しそうな曇り空
航空支援も微妙なところだ
もっともガフィーをはじめ多くの前線指揮官は、航空支援に対して好悪相半ばする感情を抱いている
特に中高度から爆撃するB-17やB-25はしばしば味方地上部隊への誤爆事件を引き起こしており、口さがない連中は「アメリカ製シホールアンス空軍」と呼んでいた

シホールアンル軍の待ち伏せを警戒しながら慎重に前進を続けるガフィー戦闘団が、左右に広がる林の中から砲撃を受けたのはグリンゲンまで3マイルの地点だった
ガフィーのM4を直撃した榴弾が、車体側面のラックに載せられた土嚢を吹き飛ばす
「全周防御!」
十二両のM4-最近は定数割れのまま戦い続けている戦車中隊は珍しくない-は一斉に道路を外れ、ぬかるんだ大地に履帯をとられながらもハーフトラックを囲んだ円陣を作った
この陣形なら敵がどの方向から来ても前面装甲を向けた状態で対応出来る
「敵、出ます。十時方向二、訂正四。二時方向にも四」
「出やがったか!」
表れたのは米軍戦車の疫病神
正式名称ATB-02“チャヴィー”
アメリカ兵からは「一つ目」と呼ばれているシホールアンル軍のAT(装甲騎兵)だった
西部開拓時代の幌馬車隊を彷彿とさせる防御体勢をとった米軍部隊に、ニックネームの由来となった単眼を光らせ、足底のグライディングホイールを唸らせながら、八機のATは猛毒のスズメバチのように襲い掛かった
「引きつけんでいい、撃て!」
ガフィの命令を受け、砲手のコーデンがフットペダルを踏み込む
秒速619メートルで放たれた徹甲弾が地面に食い込んだ時には、狙ったATはそこにはいない
「反則だろうがよ!」
いくらスープ缶並みの装甲とはいえ4メートルもあるロボットが、M4なら塹壕を掘ってしまうような泥濘の上を高速でジグザグ走行する姿は、たとえ目の前の現実であっても理性が否定したくなる
「畜生、魔女の婆さんに呪われたのか!」
「これだからファンタジーは嫌いなんだ!」
「俺もうすぐパパになるのに!」
激戦で鍛えられた戦車兵達はある者は不条理な現実を呪い、またある者は死亡フラグじみたセリフを口走りながらも砲撃の手を緩めない
脳内麻薬の異常分泌による火事場のクソ力か、はたまたアメリカ様補正か
このときB戦車中隊の射撃速度は75ミリ戦車砲の理論上の限界である毎分二十発を越え、毎分三十発に達しようかという勢いだった

濃密に張り巡らされた弾幕が遂に一機のATを捉える
胴体部を貫通されたチャヴィーは全身からオレンジ色の炎を吹き上げて爆散する
「ビンゴ!」
喜びの声があがるが残る七機のATはひるむこと無く肉薄を続ける
交戦距離が二百ヤードを切ったところでシホールアンル軍のATも射撃を開始した
チャヴィーの手持ち火器である1.5ネルリライフル(装弾数六発)は海軍が開発していた対空用速射砲を改修したもので重量軽減のため砲身を切り詰め、反動を抑えるため装薬量を減らした結果、初速はかなり低下したものの、戦車以外の装甲車輌やソフトスキンには充分な威力を持っている
M4の前面装甲(厚さ51ミリ)に対してはドアノッカーでしかないが、チャヴィーの武器はライフルだけではない
「駄目です、砲塔追随しきれません!」
油圧駆動により1940年代の戦車としてはトップレベルの砲塔旋回速度を持つM4だがチャヴィーは更に敏捷だった
「戦車、前へ!」
敵が目と鼻の先まで迫ったところでガフィーが怒鳴る
懐に飛び込まれた以上じっとしていては座り込んだアヒルのように料理されてしまう
足場は悪いが敵に取り付かれないためにはスタックする危険を冒してでも動き回るしかなかった
四百馬力のエンジンを唸らせ、30トンの車体を振るわせながら前進を始めたガフィーの戦車の前に、唐突に一機のATが飛び出してきた
チャヴィーのライフルが火を吹くが防盾に当って跳ね返る
「突っ込め!」
チャヴィーはライフルを投げ捨てると両手で突進するM4の砲身を掴み、前方銃手区画の出っ張りに左足を掛けるとあれよあれよという間に戦車によじ登ってしまった
砲塔をまたいでエンジンデッキに両足をおろしたチャヴィーは胴体背面のラックからヒートホークを引き抜く
ATの右手を接点として魔力を伝達されたヒートホークの魔道術式が起動し、バーミナン鋼の刃が赤熱する
車長用ハッチに振り下ろされたヒートホークは第一撃でハッチの止め具を破壊し、二撃目でハッチを台座ごと斬り飛ばした
砲塔上面にぽっかりと空いた穴から唖然とした表情のガフィーめがけ鋼鉄のパンチを見舞おうとするチャヴィー
そのときガフィーのピンチを見て取った機甲歩兵の一人がM4の機関室に手榴弾を転がし、足元で起こった爆発でバランスを崩したATは戦車から転げ落ちた
我に返ったガフィーが砲塔から顔を出すと、シホールアンルのAT部隊は煙幕を展開して後退していくところだった

この戦闘でガフィー戦闘団は敵AT三機を破壊したものの、戦車二両全損、七両行動不能。ハーフトラック八両全損、六両行動不能。戦死者二十一名、負傷者五十七名の損害を出しグリンゲンへの攻撃は中止せざるを得なかった
回収した敵ATの残骸は後方に送られ技術将校による調査が行われたが、どれも内部はすっかり燃え尽きており、分かったことはエンジンは無く筋肉に相当する物質を魔力で駆動していると思われること。被弾すると100%爆発炎上していることから極めて可燃性の高い燃料(のようなもの)を積んでいることくらいであった
一万二千年前かけて地下水が石灰岩を穿った末に出来たアルパケラ大洞窟
その迷宮のようなトンネルの一つにシホールアンス陸軍第十三実験中隊の基地はあった
急造のハンガーに固定されたATのハッチがこじ開けられ、操縦槽から全裸の女性が引っ張り出される
白衣を纏ったチャペル少佐は息も絶え絶えといった表情であられもない姿を晒して横たわる女性達の肢体を機械的に弄りまわし、身体データを記録していく
「作戦時間の延長にはまだ一工夫いりそうだな?」
チャペルに声をかけたのは実験中隊の責任者コルポック中佐だった
もともとチャペルは医療畑の人間であり、自身の開発した魔力で動く人工筋肉を義手や義足に応用する研究をしていた
人工筋肉の小型化の過程で壁にぶつかったチャペルの研究はコルポックの登場で大きく方向転換する
「逆に考えるんだ、小型化が無理なら大きくても問題ない用途を見つければいい」
こうして実用化された装甲騎兵は人工筋肉に魔力を伝達する反応液との適合率から、十代後半から二十代前半の女性が搭乗員として選ばれ、アメリカ軍を相手にキメラやゴーレムを上回る戦果を上げていた
問題は長時間の作戦では搭乗員の体が反応液に蝕まれ、ある種の禁断症状が起きることだがこれは“ある行為”によって解消することが出来る
「あ…は……」
「ふぁ…ひぁあ……」
扇情的な声をあげ、虚ろな表情で一糸纏わぬ裸身をくねらせるAT搭乗員を、好色な笑みを浮かべた基地要員が取り囲む
「補充のATと搭乗員が来るのは三日後だ、それまで彼女達の世話を頼むぞ」
コルポックとチャペルは背後の狂乱を無視し、肩を並べて宿舎へと向った
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