自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

063 第54話 皇帝と戦乙女

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第54話 皇帝と戦乙女

1483年(1943年)1月2日 午後6時 シホールアンル帝国アルブランパ

シホールアンル帝国で第5位の軍港都市であるアルブランパは、北大陸の南西部に位置している。
季節は冬に入っており、ここアルブランパも所々雪が積もって、道行く人達が肩を震わせながら、早歩きでそれぞれの目的地に向かいって行く。
その町の病院に、シホールアンル帝国皇帝、オールフェス・リリスレイは僅かな護衛を引き連れて、極秘裏にやってきた。

「院長、モルクンレル提督の部屋はここの階にあるんだな?」

オールフェスはぶっきらぼうな口調で院長に尋ねた。

「そうでございます。もうそろそろ提督の部屋がお見えになりますよ。」
「モルクンレル提督の体調は今どうなっている?」
「搬送された当初は、予断を許さない状態が続きましたが、今では外を散歩されるまでに回復されております。
あっ、ここでございます。」

院長が恭しく頭を下げながら、個室のドアを開いた。
中には、病院から支給された淡い緑色の衣服に身を包んで、ベッドに座っているリリスティ・モルクンレル中将がいた。
彼女はその時まで、数枚の紙とにらめっこしていた。
ドアが開かれると、院長と、その奥にいる人物、オールフェスの姿を見るや、彼女は顔に笑みを浮かべた。

「これは皇帝陛下。あけましておめでとうございます。」
「やあ、あけましておめでとう。元気そうだね。」

2人は互いに握手を交わした。握手を交わしたあと、オールフェスは院長と護衛を個室の外に出した。

「ふぅ、アルブランパは遠いなあ。鉄道を使っても丸2日かかったぜ。」
「それぐらいどうってこと無いわよ。あたしなんか、洋上勤務で2ヶ月以上も船に居た事もあるよ」

リリスティは苦笑しながら、ベッドの左側に置かれていたイスをオールフェスの側に置いた。

「これ、退院の前祝いに持ってきたよ。リリスティ姉の好きな首都の菓子屋のお菓子だ。」
「あっ、ありがとう。実を言うと、前々から食べたいなーと思ってたの。あんた、気が利くじゃない!」

リリスティは爽やかな笑みを浮かべながら、オールフェスの肩をバンッと叩いた。

「うわ、いてえよ。」
「何よ。あんたは男なんだから、これぐらいなんとも無いでしょ。」
「だからといって、思いっきり叩かなくてもなぁ。」

オールフェスは、叩かれた左肩をさすりながら抗議するが、リリスティは全く気にしない。

「なあに、いつもの挨拶よ~。」
「全く・・・・それはともかく、リリスティ姉が元気でよかったよ。この調子なら、早いうちに復帰できそうだな。」
「あたしもビックリよ。一時は心臓が止まっちまってね、変な夢も見たことがあったけど、人間の体って以外に頑丈なんだね。」

リリスティは、体の左脇腹に右手を添え、左手で何かの大きさを示す。

「後で調べてみたら、子供の拳ぐらいの大きさの破片が、ここから入ってここ、右肺にまで入ってたみたい。
当然、あたしの体の中身は所々壊れていたわ。医者からは、あの傷で生き残れたのは奇跡に等しいと言われたよ。」
「右肺にまで達してたのか。普通の人間なら即死物だぜ。」
「同感。むしろ、あの状態で指揮を取り続けようとした自分に怖くなるわね。」

そう言って、リリスティは苦笑した。

「なあ、リリスティ姉。あの海戦で、姉貴の艦隊はかなりの被害を被っているけど、姉貴からしてアメリカ軍はどう思う?」
「一言で言って、強い。」

リリスティはさりげないながらも、力を込めた口調で明言した。

「強い、か。」
「ええ。でもね、オールフェス。ただ単純な力の差で強いと言っている訳ではないわ。確かにアメリカ軍艦載機は強かった。
でも、こっちも犠牲を出しながら、前半戦の時点で敵空母を4隻に損傷を与えていた。うち1隻は沈み、1隻は火達磨になった。
残った2隻も、確かに飛行甲板を叩いて発着不能に陥れた。あたしは、気絶する瞬間まで、戦いを有利に進められると思っていた。」

リリスティはふぅっと一息ついてから言葉を続ける。顔からは笑みが消えていた。

「あの時点で、アメリカ軍の稼動空母は、ワスプ級が1隻のみ。1隻のみの筈だった。でも、ヘルクレンスの艦隊に襲い掛かった
アメリカ軍機は100機以上いた。そして、バゼット海海戦の後には、多くても3隻から4隻のアメリカ空母が半島の近海に張り付いて、
友軍部隊を苦しめ続けた。」
「もしかして・・・・・アメリカ軍は、傷ついた空母をその場で修理して、また使えるようにしたのか・・・・!」
「ええ。それも、彼我の航空部隊が飛び交う合間を縫って。あたし達の竜母が甲板に爆弾を受ければ、ドックに持っていって
修理しなければならない。そうしなければ竜母は使えない。でも、複数の爆弾を受けたアメリカ空母は、甲板を修理して飛空挺の
離着艦を可能にした。そうでもしなければ、ヘルクレンスの艦隊に100機以上も差し向けられない。」

実を言うと、リリスティのこの言葉を聞く前に、海軍の他の高官から似たようなことを聞かされていた。
その時は半信半疑(その高官は後方勤務の事務屋であった)であったが、リリスティは実戦経験豊富な竜母使いだ。
その彼女の言葉から聞かされた、アメリカ空母の再生能力にオールフェスは内心ショックを受けていた。

「発着能力は、ワイバーンを使う俺達が勝っている。だが、母艦の修理能力ではアメリカ空母に劣っている。
リリスティ姉はそう・・・・そう言いたいんだね?」

オールフェスは、やや悔しげな表情で、リリスティに言った。

「うん。悔しいけど、認めるしかないね。」

リリスティは、首を振りながら膝元に置いた紙を眺める。オールフェスの視線も紙に向けられた。

「それは、確かアトランタ級巡洋艦の絵だね。」
「そう。どうせ暇だから、あたし達を苦しめ続けるアメリカ艦艇のイラストを無理言って持ってきてもらったの。
いつ見ても、このアトランタ級の絵にはため息をつかされるわ。」
「武装は速射性の高い高射砲が16門。連装式砲塔8基に分かれている対空艦だな。」
「こいつが放つ対空砲火はアメリカ艦艇の中でも最強の部類に入るわね。出現はガルクレルフ沖海戦から確認されているわ。
以来、アメリカ機動部隊には最低でも1隻か2隻のアトランタ級が編成に加えられているわ。次に問題なのがコイツよ。」

リリスティは別の艦の絵をオールフェスに見せた。

「確かクリーブランド級巡洋艦だね。ブルックリン級より主砲を減らした分、対空火力が増強されている巡洋艦、と聞いているが。」
「対空戦闘のみならず、対艦戦闘にも充分対応できる艦よ。そいつはこの間の海戦で初陣を飾っている。他にも、サウスダコタ級戦艦や
ノースカロライナ級戦艦の絵もある。いつもながら思うけど、スパイ達は良くやってくれてるわ。」
「俺もそう思うが、正確に分かっているのは船の名前だけだよ。この軍艦の詳しい性能等は、敵も警戒を厳重にしているから
肝心な弱点とかはどうしても掴めない。」

オールフェスはお手上げと言わんばかりに肩を大きく竦める。

「これからは、アメリカは他の新鋭艦も投入してくるだろう。俺達のスパイ網がすぐに情報を持ってくると思うが、今は戦力が
少ない分、こっちから手出しできねえからなぁ。」
「今年は新鋭戦艦や新鋭竜母も続々と就役するから、前の海戦も損失分は充分埋まるわ。最も、残った4隻の竜母を1隻も
失わなければ、の話だけど。」

第2次バゼット海海戦で大きな損失を出したシホールアンル海軍は、今現在、戦力の回復に努めている。
リリスティが指揮していた機動部隊は、今は第2部隊司令官であったムク少将が臨時に指揮を取っている。
生き残りの正規竜母であるモルクドとギルガメルはドックで修理中であり、1月末には修理を終える予定だ。
そのため、第24竜母機動艦隊には小型竜母のリテレと、修理を終えたライル・エグが残るのみだが、今はこの2隻を中心に竜騎士の練成を行っている。
この4隻に加えて、4月までには正規竜母第4世代にあたるホロウレイグ級竜母の1番艦、5月には2番艦が前線に配備される。
それにライル・エグ級の3番艦が艦隊に配備される。
半年ほど経てば、シホールアンル側の母艦部隊は元通り回復する手筈になっているのだ。
ちなみに、ホロウレイグ級は今年中には計画通り、6隻全てが完成し、うち4隻が配備され、残り2隻も来年の初めに配備予定だ。
それでもまだ不足であると考えたシホールアンル側は、81年度計画時に採用され、82年に起工された高速戦艦3隻を、
ホロウレイグ級と同様な竜母に改装する事を決定し、84年7月就役を予定に工事が急ピッチで進んでいる。
彼らはまだ知らないが、アメリカ側もこの6月までにはエセックス級空母3隻にインディペンデンス級軽空母2隻を太平洋艦隊に
配備する予定であるが、新鋭艦の配備速度はアメリカに迫る勢いである。
母艦の数こそ、米側は9隻になるが、その頃にはシホールアンル側も7隻の竜母を揃える為、アメリカ側にとって脅威になる事は確実である。

「問題は、アメリカが来年中にどれだけ、戦力を増やすか、だな。既に敵は新鋭戦艦を揃え始めている。戦艦が揃い始めるとなると、
空母も新しい奴が出てくる可能性がある。今、敵は表立って動いていないが、従来の空母や、新しい空母を混ぜてこっち側の前線や
後方に現れるかもしれない。」
「あたし達シホールアンルは、来年中にはホロウレイグを始めとする正規竜母が4隻、小型竜母が3隻ほど増える。竜母だけじゃない。
戦艦も15.4ネルリ砲搭載の新しい艦が3隻増える。新型の巡洋艦や駆逐艦等も同様。だけど、アメリカがどれぐらいの数の艦を
増やすかがまだ分からない。オールフェス、そこのところは何か知らないかな?」
「俺達の情報網で、調べてはいるんだが・・・・・・」

オールフェスは腕を組んだまま、しばらく黙り込んだ。
シホールアンルは、南大陸に8万人のスパイや工作員を配備しており、その半分以上が、シホールアンルの思想に共鳴する現地人である。
残りは、戦争勃発前に難民を装って侵入したシホールアンル軍所属の情報員だ。
これらのスパイ達は、南大陸全土に派遣されており、日々大量の情報をシホールアンル帝国本土に送っている。
その大半の情報はあまり重要なものでは無いが、一部は重要な情報が混じっている事もある。

対南大陸戦当初に見られたシホールアンル軍の破竹の進撃は、このスパイ達によって実現したものだ。
そのスパイ達の一部は、躍起になって南大陸のアメリカ軍、特に、アメリカの南大陸作戦の要となっているヴィルフレイング周辺の
情報を掴もうとしている。
しかし、ヴィルフレイング周辺の警備は、アメリカ軍が進駐して以来厳しいものとなっており、ここ最近ではベレイスが率いていた
特別諜報部の一部の隊員や、バルランドの秘密戦部隊までもが、アメリカ軍と共にスパイ狩りに励んでいるため、アメリカ側に関係する
情報が送れにくくなってきている。
送れたとしても、新鋭艦の艦名や大雑把な性能の説明など、軍関係者から見ればあるだけマシ。
厳しい物が言うには、全く足しにならない情報のみだ。
そのため、敵の兵が流す大雑把ながらも、的を射たような情報を掴むことが出来なくなっている。

「曖昧な憶測ばかりさ。情報部の分析では、83年中に敵は正規空母3隻、小型空母4隻、戦艦4隻を新たに前線に投入するだろう
と言ってきている。はっきり言って、これも信用できない情報なんだが。」
「あんたはアメリカがどのぐらい戦力を強化すると思う?」
リリスティがさりげない口調で聞いてくる。
「俺としては、正規空母は5隻程度、小型空母は3、4隻ほど前線に投入されると思う。戦艦は新鋭艦が1、2隻出て来ているから、
あと2隻か3隻は増えるな。これでも、情報部の連中からは過大評価してるって指摘されたよ。」
「過大評価ねぇ・・・・・・・果たしてそうかな?」

リリスティは、最後の言葉だけはオールフェスに聞こえぬ小声で呟く。
なぜか、頭の中に浮かんだ正規空母5隻という数字が、10隻という数字に増えていたが、彼女は頭を振ってそんな馬鹿げた数字を打ち消した。
(そんなの無理ね。全く、体のみならず、頭もなまってしまったかな)
彼女は内心苦笑しつつも、宙を見ていた視線をオールフェスに戻す。

「確かに過大評価は良くないけど、敵を過少に見積もって、もっと痛い目に逢うよりはマシよ。」
「なるほどね。去年はそれをやって散々な目に逢ったからな。」
「それよりも、例の艦種の開発はどうなっているの?」

「ああ、潜水艦の事だな?11月に、エンデルド沖で捕まえた奴を徹底的に調べてる。捕虜にした艦長を自白用の魔法で調べたら、
アメリカ海軍でも新しい部類の潜水艦らしい。10年前まで潜水艇を研究していた奴らが中心となって、研究と同時に開発を進めてる。
早ければ、今年の末には試作艦が完成するみたいだ。それだけじゃない、来月には俺達が作り直した飛空挺が試験飛行する。
開発者の話によれば、スピードは300レリンク以上出せるみたいだ。連中は以前大失敗を取り返せると意気揚々だったよ。」
「そう。潜水艦の開発・・・・か。運が良ければ、ゼルアレの悲劇をアメリカの奴らに味合わせることが出来るわね。」

一瞬、リリスティの双眸が朱に染まった。
第2次バゼット海海戦の時、100機以上の艦載機に襲われたヘルクレンス部隊は、2隻の竜母のうち、リギルガレスを
航空攻撃で撃沈され、旗艦ゼルアレも大破した。
不利を悟ったヘルクレンスは、撤退を決意し、全部隊が退避を始めた直後、米潜水艦ノーチラスの魚雷2本を受けて止めを刺された。
それ以来、シホールアンル海軍は、アメリカ潜水艦に対する憎悪に満ち溢れていた。
シホールアンル軍も潜水艦を開発すれば、いつの日か、ゼルアレが受けた屈辱を叩き返す日が来るかもしれない。

「その前には、魚雷の開発を行う必要があるな。魚雷も、不発した奴を回収して研究に当たらせているが、こいつがどうも
厄介な代物で、研究員達は毎日頭を抱えながら魚雷と睨み合っているみたいだ。」

オールフェスが苦笑しながらそう言った。

「とにかく、今は竜母の修理と、新戦力の登場を待つのみだね。」
「そうねぇ。ハァ・・・・早く復帰したいなぁ。アメリカ人達が驚きそうな手をいくつか考えているから、それを早めに実行したいわ。」
「おっ、リリスティ姉得意の思いつきだな。」

オールフェスが笑いながら言った後、改まった表情になってから、別の言葉を言った。

「ちょっと話を変えるけどね。リリスティ姉って、昔から狩をやってる時、よく罠を好んで使ってたよな?
ちょっと、知恵を貸してほしいんだけど。」

1483年(1943年)1月8日 午前11時 ノーフォーク沖30マイル地点

第26任務部隊に所属する軽空母ハーミズは、1年以上に亘る改装を終えて、TF26所属の戦艦、巡洋艦と共に外洋で
訓練を行っていた。
TF26旗艦である戦艦プリンス・オブ・ウェールズの艦橋から、司令官のジェイムス・サマービル中将は
ハーミズの勇姿を双眼鏡越しに眺めていた。

「ほほう、ハーミズも所々変わったようだな。」
「昨年の11月から4日前まで改装工事を行っておりましたからな。傍目では元のままですが、性能は
大幅に向上しましたからな。」

サマービル中将の傍らで、参謀長が調子の良い口調で話した。

「ドック入りしていたのは本艦もだったな。アメリカ人はいい仕事をしてくれたものだ。」

サマービル中将が眺めるハーミズは、改装工事によって搭載機数、速力、対空火力を大幅に向上している。
元々、ハーミズは25ノットのスピードに搭載機数はたったの15機。
対空火力は高角砲4門に機銃6丁という貧弱振りであった。
それが、改装のおかげでスピードは29ノット。搭載機数は32機。
対空火力は38口径5インチ砲6門に40ミリ連装機銃4基8丁、20ミリ機銃24丁と大幅に向上した。
これから就役するインディペンデンス級軽空母に比べると、搭載機数、速力においては負けているものの、その他の性能では
ほぼ同格であり、こらからの活躍を期待されている。
TF26の唯一の正規空母であるイラストリアスは、現在改装工事中であり、工事が終了した後には72機の航空機を積む、
より高性能な正規空母として生まれ変わる予定だ。
そして、旗艦であるプリンス・オブ・ウェールズも本格的な改装を施されていた。
プリンス・オブ・ウェールズは、主に対空火器の装備を更新されており、従来は5.5インチ連装砲8基、
28ミリ4連装機銃6基、ポンポン砲を6基、20ミリ機銃24丁を搭載していた。

改装中は予備弾薬や部品の確保できない5.5インチ砲やポンポン砲をすべて取り外し、代わりに米艦の
標準装備を取り付けていった。
この結果、プリンス・オブ・ウェールズは38口径5インチ連装両用砲8基、40ミリ4連装機銃12基、
20ミリ機銃40丁を装備し、以前とは全く違うハリネズミさながらの対空火力を手に入れた。
その他にも、破損したイギリス製レーダーに代わって水上用のSGレーダー、対空用のSKレーダー、そして
射撃指揮装置とそれに取り付けられるMk4射撃レーダーを装備し、以前よりも強力な戦艦に生まれ変わった。
プリンス・オブ・ウェールズの他に、巡用戦艦のレナウンは主砲をアラスカ級巡洋戦艦が搭載する同じ物である
55口径14インチ連装砲に換装する予定で、4月の中旬にはドックから出てくる予定だ。

「ポンポン砲は威力のある対空火器ではありましたが、故障を頻発して兵からの不満がかなりありましたな。
ですが、ボフォース40ミリなら故障も少なく、兵も扱いやすいようです。」
「性能は良くても、実戦で役立たずなら何の意味も無いからな。アメリカは、性能はまだしも、常に戦える
武器を作ってくれるから素晴らしいものだ。イギリスでは凝った武器ばかりを作ろうとして、実際は役立たずの
物が多かった。特に、バンジャンドラムなどというふざけた自走式爆弾がその最たるものだ。」

サマービル中将はフンと鼻を鳴らした。

「司令官、自分も似たような事をアメリカ陸軍にいる友人に話してみたら、その友人はなんと言ったと思います?
こいつはたまげた。やっぱり俺達は、父祖の血を受け継いでるのかも知れんと言っとりましたよ。」
「何?それはどういう意味かね?」

リーチ艦長に向けて、サマービルは怪訝な表情を浮かべて質問した。

「その友人は、陸軍省の兵器開発局にいる陸軍中佐なのですが、アメリカ陸軍は去年の夏辺りに、空から
投下する自走式爆弾を開発していたようです。名称はローリングボムで、直径6メートル程度の爆薬を
中に仕込んだトゲトゲの鉄球を空からパラシュートで敵陣内に投下させ、爆弾を転がせて敵兵を踏み潰したり、
敵の装甲車両を爆破するのが目的である、と言ってました。」

サマービルは思わず大笑いをしてしまった。

「ハッハッハッ!ヤンキーもなかなかいい考えを持っているようじゃないか!」

サマービルはひとしきり笑った後、気になる事をリーチから聞き出す。

「それで、そのローリングボムとやらはどうなったのかね?」
「開発責任者が局長に自信満々で計画案を提出した所、一発で不採用になったようです。
ちなみに、責任者は1週間後にアリューシャン列島に配属換えにされそうで。」
「いやはや、即配置換えになるとは。まあ、実用性が無さ過ぎる兵器を自信満々で提出されれば、
アリューシャンで頭を冷やして来いと言われても仕方あるまいな。」
「アメリカンジョークも時によりけりですな。」

リーチ艦長は含み笑い浮かべながら、時計を見つめた。
時刻は11時10分を過ぎている。間も無く、ハーミズ所属のアベンジャー8機が発艦を開始する頃だ。
その時、見張り員の声が艦橋に聞こえて来た。
「ハーミズより、艦載機が発艦を開始しました!」
その声を聞いたサマービルと司令部幕僚、それにリーチ艦長はハーミズを見つめた。
飛行甲板前部に取り付けられた油圧式カタパルトからアベンジャーが大空に向けて放たれていく。
2機、3機と、アベンジャーは次々とハーミズから発艦していき、8機全てが事故を起こさずに発艦を無事終えた。
これから、TF26はアベンジャーを敵のワイバーンに見立てた、対空戦闘訓練を行う。
それと同時に、アベンジャー隊はハーミズを敵空母に見立てた、対艦戦闘訓練を行う手筈になっている。
サマービルは、編隊を組みながら、一旦艦隊から離れていくアベンジャー見ながら思った。
(既に、チャーチル閣下から不沈戦艦と謳われたプリンス・オブ・ウェールズも、海戦の脇役となり、
今ではハーミズや、イラストアスといった空母が海戦の主役となったか・・・一昔前までは戦艦が
海戦の中心と考えていた俺が、今では練達の機動部隊指揮官になるとはなぁ。時代の移り変わりとは
なんとも不思議なものだろうか。)

内心そう呟きながら、彼はハーミズのいる海面に視線を移した。
今、輪形陣の中心にはハーミズしかいないが、近いうちには改装の成ったイラストリアスも現場に復帰する。
TF26の母艦兵力は、ずっとイラストリアス、ハーミズの2隻のみではない。
昨年12月下旬に竣工したエセックス級正規空母や、1月に竣工したインディペンデンス級軽空母もTF26
の傘下に組み込もうという話が持ち上がっている。
今年から、アメリカ海軍所属の空母部隊は、最低でも空母3隻ずつの編成を基本条件にするようであり、
当然TF26にも新顔が増えてくる可能性がある。
ちなみに、機動部隊の新しい顔となるエセックスは、43年中には10隻が前線に配備される予定で、
大半は太平洋戦線に引っ張られるが、大西洋艦隊にも3隻ほどが配備される予定だ。

「エセックス級とイラストリアス、ハーミズの組み合わせか・・・・・なかなか頼もしそうな編成じゃないか。」

サマービル中将は、新鋭艦の配備を早くも心待ちにしていた。
その時、一旦距離を置いたアベンジャー隊が艦隊との距離を詰め始めてきた。

「対空戦闘用意!今までたっぷり休養してきたんだ。今日は遅れている分を取り返すぞ!」

艦橋内に、リーチ艦長の叱咤が響き、艦内に戦闘用意のブザーが鳴り始めた。
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