自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

081 第71話 尋問者と艦載機

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第71話 尋問者と艦載機

1483年(1943年)6月27日 午前9時 ウェンステル領ルテクリッピ

その日、レガル・チェイングとセルエレ・チェイングは、軍の輸送隊に便乗してウェンステル領のルテクリッピに来ていた。

「着きましたぜ。ここがルテクリッピです。」

馬車の御者台にいるラッヘル・リンヴ大尉は、空の荷台に座っている2人に声をかけた。

「・・・・ん?ああ、着いたのか。」

男が寝ぼけた声で返事してきた。どうやら眠っていたらしい。

「セルエレ。着いたぞ。」

男は隣に座っている女に声をかけている。苗字が一緒であるから、兄妹のようだ。
この2人は国内省から出向してきた役人で、2日前に道端を歩いていた2人が彼の輸送隊を見つけるや、輸送隊を
止めて、ルテクリッピまで乗せてくれと頼み込んできた。
この時、輸送隊もルテクリッピに向かう途中であったので、リンヴ大尉は二つ返事でこの2人を乗せた。

「う・・・ん。結構長かったね。」
「そりゃあ長いよ。一旦本国に戻って、またここまで来たんだから。」

後ろの2人は、傍目から見たら兄妹なのだが、どういう訳か、この2人は寄り合って何かをする時がある。
この時も、互いに寄り合って何かをしていた。
(おいおい、本当に兄妹なのか?)
リンヴ大尉は、この2人の行動を見てとある文字が頭の中に浮かんでいたが、彼はすぐに打ち消した。

「ルテクリッピはどのような街かな。」

荷台から顔を出したレガルが、前方に見える街を見つめた。
街は、周囲が小高い壁に囲まれており、街の外からは見えないようになっている。

「あと10分ほどで町の中に入ります。」

リンヴ大尉は、顔を出しているレガルに言う。
ルテクリッピは、ウェンステル公国の北部にある町で、元々はウェンステル公国が保有する港で、一番大きな港町であった。
シホールアンルの占領後は、輸送物資の集積拠点として広く使われてきた。
今の所、アメリカ機動部隊による空襲は一度も受けていないが、ここ最近はひどく緊張した空気に包まれていた。
輸送隊が門を抜けて、街に入ったとき、リンヴ大尉は思わず呻いた。

「・・・・随分対空砲が増えているなあ。」

ルテクリッピの町の建物には、所々に高射砲や対空魔道銃が設置されていた。
リンヴ大尉は知らなかったが、ルテクリッピは、4月から米機動部隊の襲撃を予期して対空砲、ワイバーンの増強を行って来た。
今日までに、ルテクリッピにはワイバーン137騎が集められ、高射砲32門、魔道銃132丁が配備された。
輸送隊は町に入った後、10分後に港の倉庫街に到着した。

「到着です。」

馬車が止まると、リンヴ大尉と隣の部下、そして2人の役人は馬車から降りた。

「無理言ってすまないね。これは気持ちだ、取ってくれ。」

男は淡白な笑みを浮かべると、袋から貨幣を取り出してリンヴに渡した。

「いや、これは受け取れませんよ。」

リンヴは断るが、いきなりセルエレが詰め寄ってきた。

「取っときなよ。兄さんの好意を踏みにじる気?兄さんが優しさを見せる時は滅多に無いんだから。」

セルエレが尖った口調で突っかかるが、男がたしなめた。

「おい、人を脅すような事を言うな。」

レガルはセルエレを後ろに退かせたあと、再びリンヴに向き直った。

「妹がいらん事を言って申し訳ない。」
「い、いえ。こちらこそ!」
「まあそう恐縮しないでいい。とにかく貰ってくれ。」

レガルは、リンヴの手に、半ば強引に貨幣を握らせた。

「それではこれで。自分達は少し急いでいる物でね。」

彼はそう言うと、妹と共に立ち去ろうとした。
その瞬間、ウウゥー!という不快な警報音が町中に木霊し始めた。
それまで、黙々と作業をこなしていた兵士や労働者達が、慌てて持ち場から逃げ始めた。

「空襲警報発令!空襲警報発令!作業中の労働者は直ちに避難せよ!対空要員、消火班は直ちに配備に着け!」

何人かの男が、周囲にそう喚きながら走り去っていく。

「空襲警報だって!こんな所にまでか!?」

仰天したレガルは、半ば信じられなかった。
ルテクリッピは、北大陸の入り口とも言うべきマルヒナス運河から、北に160ゼルドも離れた所にある。
ウェンステル領は、今まで空襲を受けた事が何度かあるが、それらは全て南部に集中していた。

北部にまで空襲が及ぶのは、まだ先であろうと考えられていたのだが、今日は勝手が違ったようだ。

「空襲警報が発令されました!急いで避難してください!」

先ほどまで周囲を闊歩していた警備兵が、大慌てで逃げ惑う船員や労働者を防空壕に案内する。
リンヴ大尉の輸送隊や、チェイング兄妹も例外なく、200メートルほど離れた空き地の防空壕に避難させられた。
避難中に、郊外の基地から飛び立ったワイバーン群が海に向かって飛んでいった。
彼らが防空壕に入った時、中は既に満杯状態であり、輸送隊員やチェイング兄妹は入り口から前の所で立たされた。

「なんでアメリカの飛空挺がこんな所に?」
「決まってるだろう。俺達をあの世に昇天させるためだ。」
「今までは南部辺りを爆撃していたのに、いきなり北部に来やがるとはね。」
「南部の港町が全て吹っ飛ばされたから、こっちに来たんだろうよ。」

防空壕の中で、それぞれが勝手に話し合っている時、港の上空ではアメリカ軍機と、ワイバーンの激しい空中戦が繰り広げられた。
空中戦が開始されて15分ほど経つと、アメリカ軍機の編隊がルテクリッピに接近し始めた。
リンヴ大尉とチェイング兄妹は、羽虫の群れのような大編隊に目を奪われていた。
大編隊の周囲には、早くも高射砲弾が炸裂し始めているが、早々に撃ち落される飛空挺はいない。

「凄い数だ・・・・・100機は下らないだろうな。」

大尉がぼそりと呟いた時、港の上空に達した編隊の一部が、いきなり高空から高度を下げ始めた。
その小さい飛空挺は、墜落しているのかと思うほどの急角度で、桟橋上の輸送船に突っ込んでいく。
不意に、心臓を締め付けるような甲高い音が周囲に木霊し始めた。

「う・・・・気持ち悪い・・・・」

セルエレが不快な表情を浮かべて、耳を押さえた。
アメリカ軍機が低高度まで急降下し、その次に水平飛行に移行した後、いきなり輸送船が火柱を上げた。

これを皮切りに、アメリカ軍機の猛攻撃が始まった。
真っ先に被弾した輸送船に新たな火炎が上がったと見るや、外れた爆弾が海水を点を衝かんばかりの高さに吹き上げた。
とある1発が木造の三角型倉庫に命中し、真ん中から叩き割られて、倉庫であった名残が周囲にばら撒かれた。
別の1発は、魔道士が急いで運ばせている研究材料の入った馬車を直撃し、あっという間に砕け散った。

「わしの!わしの研究材料が!これから現地民を使って試そうと思っておったのに!!」

外見からして悪魔のような老魔道士が、奇跡的に無傷で住んだにも拘らず、発狂したようにわめき散らした。
その老魔道士の至近でドーントレスが放った1000ポンド爆弾が命中し、3分ほど延長させられた魔道士の人生に幕を下ろさせた。
シホールアンル側もただ見ているだけではなく、高射砲と魔道銃をドーントレスや、高空から侵入してくるアベンジャーに向けて撃っている。
時折、ドーントレスかアベンジャーが煙を引いて墜落していくが、大多数のアメリカ軍機は、高射砲弾や魔道銃の餌食になる事もなく、
割り当てられた目標を次々と攻撃して行った。


午前11時30分 ルテクリッピ

リンヴ大尉は、ようやく防空壕の中から這い出て来た。

「うわぁ・・・・・なんて事だ。」

彼は周囲を見渡した後、思わず目を覆いたくなった。
アメリカ軍機の空襲は、これまでに加えられた物より遥かに激しい物であった。
午前9時頃に始まった空襲は、30分に渡って続けられ、9時40分には終息したが、その20分後に第2波、
11時には敵の第3波攻撃隊が来襲した。
300機は下らぬ米艦載機に襲われたルテクリッピの惨状は、悲惨の一語に尽きた。
広い入り江を取り囲むようにして作られた倉庫群は、半数以上が破壊され、一部が今でも炎上している。
入り江に停泊したり、桟橋に繋留されていた輸送船は、19隻全てが片っ端から叩かれ、使用不能の船は1隻も
残っておらず、陸揚げされた物資は大半が焼き討ちされた。
被害は軍港のみならず、市街地にあるシホールアンル軍憲兵隊の詰め所や、領地の館にも及んだ。

空襲前は、ピリピリとしながらも、暢気な港町のような感があったルテクリッピは、もはや完全に戦場と化していた。

「これは酷い。」

不意に、傍から声がかかった。レガルの声だが、その声音はどこか震えていた。

「たった2時間程度の空襲で、ここまでやりたい放題とは。」
「見た所、港は完全に破壊されましたね。防空壕の中じゃ分かりませんでしたが、港は勿論、市街地のほうにも
被害が出ているみたいです。」
「そうか・・・・」

レガルは陰鬱そうな表情で言うと、僅かながら体を震わせた。

「しかし、あなたは思いのほか慣れているようだね。防空壕のすぐ近くに爆弾が落ちるような激しい空襲が終わった後
なのに、不思議と落ち着いている。」

この役人の口ぶりからして、恐らく空襲は初体験だな。リンヴ大尉はそう確信した。

「落ち着いている、と言われればそうではありませんね。私だってかなり怖かったですよ。そちらの妹さんの
ように、大声で叫びそうになりましたし。」

その言葉を聞いたセルエレが、リンヴ大尉を睨み付けた。

「余計な事言わないでよ。」
「いや、別に悪気が合ったわけじゃないんですが・・・・とりあえず、失礼しました。」
「セルエレ。不用意に人を脅すな。それはともかく、こんな自分達に比べれば、耐えただけでも大したものだ。
ひょっとして、どこかで似たような事に遭ったのかな?」
「ええ。去年の9月に、カレアントでミッチェル爆撃機の空襲を受けて以来、2度ほど体験していますが、
今日ほど激しく、執拗な物は初めてです。」

「なるほど。慣れている者は羨ましいなぁ。」

レガルはそう言った後、急にはっとなった。

「しばらくは空襲も無いだろうし、ひとまずはお別れだ。改めて礼を言うよ。」
「はい。では今後もご無事で。」

彼らは最後の別れを言うと、その場から離れていった。

空襲後の混乱でごった返す大通りを抜けて、裏の小道に入ったチェイング兄妹は目的地までの地図を確認しながら道を歩いていた。

「それで、そのスパイというのにあと少しで会える訳ね。」
「ああ、そう言う事さ。」

セルエレの言葉に、レガルは嬉しそうな表情で答えた。

「これで、あの実験動物に出会えるチャンスが掴めたんだ。早く会って、詳しい話を聞きたいなあ。」

2人は、普段は無愛想でありながら、冷酷な性格を持っているのだが、この時は珍しく胸を躍らせていた。
2人が小躍りする理由は、6日前に送られた魔法通信にあった。
6日前。シホールアンル本国の国内省で捕虜の尋問を終えた後、1通の魔法通信が2人の頭の中に飛び込んできた。
それは、北部で鍵らしき物の手がかりを見つけたという情報で、手がかりは袋に詰めて持参していると言う。
ほんの僅かながらの証拠であるが、ついに鍵の尻尾を掴みかけたのだ。

「早く連れ帰って、鍵についている魔道式でアメリカごときを滅ぼしたいわね。」
「そうだなあ。セルエレはどんな滅ぼし方がいい?」
「あたし?あたしとしては、治癒不能の悪性の呪いをかけてじわじわと眠らせてあげたいわね。」
「相変わらずえぐい奴だなあ。ちなみに俺は、強力な攻勢魔法を作って邪魔な国ごと吹っ飛ばしてやりたいな。」
「豪快だ事。何にしろ楽しみね。あの魔道式は何でも出来るからねぇ。」

2人は明るい笑顔でそう言いながら、右の角を曲がった。
地図には、手がかりを見つけたスパイが、地図に印を付けた場所で待ち合わせをしているはずだった。
待ち合わせ場所は木造1階建ての空き家であった。
レガルとセルエレはその場で立ち止まり、地図を見て自分達が目的地に到達した事を確認した後、

「・・・・・土台しか残っていないぜ。」

口を合わせてそう言い放った。
待ち合わせの空き家は、真ん中から叩き割られた土台部分を残して跡形も無く破壊されていた。
その空き家のすぐ後ろには、激しく炎上する領主の館があった。
2人はこの時知ったのだが、領主の館を狙ったアメリカ軍機の爆弾は、全てが命中弾となった訳ではなく、6発が外れてしまった。
そのうちの1発が、偶然にもこの空き家を直撃したのである。

「「証拠は!?」」

瞬時に顔を見合わせて叫びあった2人は、燻る残骸の中に分け入って必死に探し回ったが、証拠品はスパイ共々、無に返していた。


6月27日 午後2時 ルテクリッピ西南200マイル沖

「ふ~む・・・・やはり完全には食い止められなかったか。」

第3艦隊旗艦である空母エンタープライズの艦橋上で、司令長官であるウィリアム・ハルゼー中将は司令官席で渋い表情を浮かべていた。

「今の所、航行には支障は無いようですが、エレベーターがやられてしまっては、今後の作戦行動は困難かと・・・・」

参謀長のダニエル・キャラガン少将(4月末からブローニング大佐と交代している)が恐る恐る言ってくる。

「困難だと?馬鹿野朗!シホット共の目を引き付ける俺達が、開始早々に怪我してどうするんだ!」

ハルゼーの怒鳴り声が、エンタープライズの艦橋に木霊した。
この日、第38任務部隊、第36任務部隊で編成された陽動隊は、ウェンステル領北部にあるルテクリッピを攻撃した。
ハルゼーは、今までのような7~80機か、多くて100機の申し訳程度の攻撃で済ますつもりは最初から無く、
最初の第1次攻撃隊からいきなり170機の艦載機を差し向け、第2次攻撃隊は120機、第3次攻撃隊は118機、
計408機の艦載機を差し向けた。
大量の艦載機に襲われたルテクリッピは、港湾施設を完全に破壊され、市街地のシホールアンル側行政事務所、
郊外の駐屯地にも無視できない被害を被った。
迎撃に出たワイバーンも、性能差に勝るF6F相手では苦戦を強いられ、合計で48騎が撃墜された。
それに対して、攻撃隊の被害は3波合わせてF6F13機、SBD8機、TBF6機に留まった。
この猛攻で、陽動隊はルテクリッピを壊滅させたが、午後1時にシホールアンル側の偵察ワイバーンがTF36の上空に現れ、
その20分後には120騎以上のワイバーンが押し寄せてきた。
このワイバーン部隊は、ルテクリッピの南20マイルにある沿岸都市、ブレクマヤから発進した部隊で、攻撃隊の出撃前に
3騎の偵察ワイバーンを発進させていた。
攻撃隊は索敵爆撃という形式で出撃し、進撃しながら偵察ワイバーンの報告を待った。
そして、突然入ってきた米機動部隊発見の報告を聞いた攻撃隊は、知らされた位置に向かって猛進した。
アメリカ機動部隊を発見したのは午後1時20分である。
このワイバーン隊に、直掩のF6F68機が迎え撃った。
ワイバーン隊は戦闘機隊に切り崩されつつも、TF36の輪形陣に突入を敢行した。
その結果、正規空母イントレピッドが、中央部や後部甲板に計4発の爆弾を浴び、そのうちの2発は後部エレベーターを
叩き割り、イントレピッドを発着艦不能にしてしまった。
この他に、軽巡洋艦サンアントニオが後部に爆弾3発を受けて後部第3、第4砲塔が破壊された。
このように、両艦はドック入りをせざるを得ないほどの損傷を受けたが、被害レベルは中破であり、航行にはなんら支障が無かった。
他に、直掩のF6Fは19機が撃墜、または不時着水したが、シホールアンル側はF6Fとの空中戦や、対空砲火によってワイバーン62騎を失った。
このように、シホールアンル側は撃退されたのだが、アメリカ側もイントレピッドが母艦機能を喪失しているため、完勝とまではいかなかった。
ともあれ、結果的にはアメリカ側の勝ちといっていい。
だが、ハルゼーが気に入らないのは勝ち負けではない。
作戦がまだ始まったばかりだと言うのに、早々に空母1隻(しかも正規空母)を使用不能にされた事が気に入らなかった。

「これから別の敵に対して攻撃を加えようと言うのに、早々にイントレピッドが使えなくなるとは・・・・」

ハルゼーは苛立ったような口調でそう呟いた。そこにキャラガン参謀長が言って来た。

「確かに、イントレピッドがやられたのは痛い事です。ですが、被害は致命的ではありません。敵のワイバーンは、
イントレピッドのみならず、フランクリンにも襲い掛かったとの事です。ですが、フランクリンの艦長は巧みな操艦で、
7発の爆弾を全て回避しています。それに、艦隊の対空火力が向上した事もワイバーンの攻撃力を減殺する事に繋がっています。
報告では、進入した60騎のうち、50騎を撃墜したと言われています。話半分としても、30機近い攻撃ワイバーンが
対空砲火によって撃墜されたものと思われます。」
「要するに、100騎以上のワイバーンに襲われたにしては、被害が小さくて済んだ。そう言いたいのだな?」

ハルゼーはキャラガン参謀長に鋭い視線を向ける。

「その通りであります。」

キャラガンは、躊躇する事無くそう言い切った。
(ふむ・・・・・・考えてみればそうだな・・・・)
ハルゼーはふと思った。
今でも記憶に新しい第2次バゼット海海戦で、ハルゼーの機動部隊は敵機動部隊と真っ向から対決した。
その時、ハルゼーの直率するTF16には、最終的に70騎以上のワイバーンに攻撃され、ホーネットが大破炎上し、
自らの旗艦エンタープライズも被弾して一時発着不能に陥れられた。
今回も、数は少し少ないが、それでも60騎の攻撃ワイバーンがおり、TF36の3空母に爆弾を浴びせる事は可能であった。
だが、激しくなった対空砲火や敵艦の巧みな操艦によって、効果的な爆撃は容易に出来なくなり、ついにはイントレピッドと
サンアントニオのみが爆弾を受けただけに留まった。
半年前にはこの数で、正規空母2隻を戦闘不能に陥れた物の、今では空母1隻に爆弾を当てるだけで精一杯である。
フランクリンとプリンストンは依然無傷であり、TF36はまだまだ使える。
つまり、陽動隊の被害は少なく無い物の、作戦続行には影響が無いのだ。

「持てる国の素晴らしさ、と言う事か。」

ハルゼーは、誰にも聞こえぬ声で、そう呟いた。

「参謀長。お前の判断は、確かに正しい。イントレピッドが使えんのは痛手だが、手持ち空母はまだ5隻ある。
これなら、確かに傷は深くないな。」

彼はニヤリと笑みを浮かべた。

「第4次攻撃隊の編成を急がせろ!今度はこっちがお返しをする番だ!」


6月27日 午後7時20分 ウェンステル領南部

フェイレは、とある山の洞窟でしばしの休息を取っていた。

「ふぅ、酷い雨。」

彼女は、げんなりした表情で、外を見つめていた。彼女の全身はびしょ濡れである。
今日1日、この地域はずっと雨であった。
時折雨が小降りになる時もあったが、それはほんの少しの時間であり、すぐに本降りに戻ってしまう。
道中雨風をしのげる場所が無いため、フェイレは無理して山の中を歩いてきた。
そして、ようやくこの洞窟を見つけたのである。

「とにかく、今日はここで過ごせる。」

そう言うと、彼女は濡れた服を体から剥ぎ取り、拾った木を何本か立てて服が干せるような
作りにし、完成すると(所要時間5分)そこに服を差して乾かした。
フェイレは適当な下着を身に着けたまま、持っていた薄い布を体にかけて眠りに入った。

「・・・・明日は、ルベンゲーブか・・・・・町に入るのは危ないけど、これも情報収集のため。」

フェイレはそう呟くと、すぐに眠ってしまった。
明日行く町がとんでもない事件に巻き込まれるなどとは、この時は夢にも思わなかった。

6月27日 午後7時30分 ウェンステル領ルベンゲーブ

ルベンゲーブは、この一日雨であった。

「一向に雨が止まないな。」

ルベンゲーブ防空軍団司令官のラルムガブト中将は、小さく呟きながら窓から外の風景を眺めていた。
晴れた日には、ここから精錬工場が一望できるのだが、今日は降りしきる雨に遮られて、姿が見えない。

「全く、俺の心の中のようだ。」

ラルムガブト中将は苦笑すると、窓に背を向け、そして自らの椅子に腰を下ろした。
机には、数枚の報告書が置かれていた。
彼はそのうちの1枚を手に取る。片手で香茶を飲みながらその報告書を読み、読み終わったら次の紙を取って黙読する。
全て見終わった時、ラルムガブト中将はカップを机に置いた。

「どうも急過ぎるな。」

彼は渋い表情を浮かべて、腕を組んだ。
この日の午前9時、北部のルテクリッピが空襲されたという情報がラルムガブトの下に届いた。
それから続々と情報が飛び込んできた。
報告によると、ルテクリッピは突如、アメリカ機動部隊から発艦した艦載機によって空襲を受け、実に3波、300機以上
による執拗な攻撃を受けた末に港湾施設を壊滅させられた。
午後1時30分には、ワイバーン隊がアメリカ機動部隊を発見し、エセックス級と思しき正規空母1隻を大破させたものの、
2時間後に米艦載機200機以上の空襲を受けてブレクマヤのワイバーン基地も壊滅させられた。
その後、アメリカ軍はどこかに消えてしまったが、ウェンステル領で最大の港であるルテクリッピが攻撃を受けた事は、
他の地方部隊に大きな衝撃を与えた。
ラルムガブト中将も、最初は衝撃を受けたが、時間が経つにつれてこの一連の事件に対して不信感を持つようになった。

「いきなりルテクリッピを攻撃し、壊滅させたのは大した物だが、どうも引っかかる。」

彼は、先ほどからアメリカ機動部隊の突然の襲撃に考えを巡らせていた。
このルベンゲーブには、既に何度もアメリカ軍偵察機が飛来している。ラルムガブトは、近いうちにアメリカ軍の攻撃が
あるものと見て厳重な警戒を敷いていた。
なのに、敵はルベンゲーブより更に北のルテクリッピを襲った。

「どうしてルテクリッピを襲ったのか・・・・・ルベンゲーブは、ルテクリッピよりも重要度が高い。それでいて、
位置はルテクリッピより近い。なのに、なぜ敵は、わざわざ反撃を受ける事を承知でルテクリッピを攻撃したのか。」

彼は様々な考えを巡らせていた。
アメリカ機動部隊が北部を空襲した理由は、南大陸での反攻作戦が近いからか?
いや、違う。南大陸戦線は相変わらず膠着状態のまま。アメリカ地上軍が動く気配はまだ見られない。
それでは、補給線の寸断を狙ったのか?
それはありえる。確かに輸送船が叩かれれば、海路で送る分の物資が前線にいかなくる。
しかし、補給線は完全には寸断できない。
理由は、南大陸と北大陸は、マルヒナス運河を渡れば海路を使わずに済むからだ。
だが、そのような事はアメリカ側でも分かっているはずだ。
では、何故ルテクリッピを攻撃したのか?

「・・・・・クソ、また振り出しに戻った。」

ラルムガブト中将は腹立たしげな口調で呻いた。

「先から考えが振り出しに戻ってしまう・・・・・」

ため息を吐いた彼は、気分直しに残った香茶を飲み干した。
静かな執務室の中に、降りしきる雨音が響いてくる。その音は、彼自身の心の曇りが発しているようにも聞こえる。

「そういえば、明日からは天気が回復するんだったな・・・・・」

彼はそう呟くと、椅子から立ち上がって、再び窓から外の様子を眺めた。
外は、相変わらず土砂降りの雨である。

「ずっと、降ってもらいたい物だな。」

心なしか、彼はずっと雨である事を望んでいた。
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