115 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:30 [ qUq6iUEM ]
初対面の時、何故こんな任務を自分が受けたのか分からなかった。
部下兼護衛。
「青島海尉の身に危険が迫った時は、左官よりも優先してその安全を確保しろ」
噂には聞いたことがある。
「世界各国の首脳、官僚と渡り合えるだけの幹部を養成する計画。」
青島は本人には秘密で行われるらしいこの計画の被験者らしかった。
将来の幹部。どんな若者か楽しみにしていたが、
目の前に居たのはふざけた軟派な男、佐藤―――実際はそうでもなかったが、と
それに舐められた口を聞かれてもへらへらと笑っているどこか陰のある男、青島だった。
「こんな人間のために命を賭けろと?」
俺はそう思った。
しかし俺は自衛官、下された命令はなんであろうが必ず遂行する。
116 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:31 [ qUq6iUEM ]
「我々に交戦の意思はなーーーい!」
「漂流者を一人保護しているぞーーーお!!」
すさまじい音量で放送が流されていた。
「な、なんだこれは?」
天野は耳を押さえながらうめいた。
ビリビリとあたりが音によって震える。
「な、なんでも――――これから接触する船に――呼びかけているらしいです―――」
佐藤の声も半分近くかき消されてしまう。
「なら――無線を使えばいいんじゃ――ないのか―――」
「それが――通じないら――しいんです――」
「こーしょーをもちたーい!」
放送も半ばやけくそに近くなっているようだった。
「それにしてもうちの隊長上によばれてったけどどうしたんだろうなぁ?」
隊員の一人がこれ又耳を塞ぎながら呟いた。
117 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:32 [ qUq6iUEM ]
「あの・・・」
セフェティナがおずおずと狩野に話しかける。
この放送が始まった時はずいぶんと、まるで子供の様に驚いていたがだいぶ落ち着いたようだ。
「なんですかセフェティナさん、すいません。少し騒がしくて。」
「いえ、けれどこれは向こうの船に呼びかけるためにしているのですよね。」
「はい。」
「なら、私に通信手段があるのですが・・・。」
艦橋に死にすらも似た沈黙が流れた。
放送がとめられたのはそれから30秒と経たなかった。
118 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:32 [ qUq6iUEM ]
ジファンは一人でほくそ笑んでいた。
うるさかったエルフの女も始末した。
後は奴隷達を収穫して持っていくのみ。多少の横領も許されている。
「クク・・・。」
ニヤニヤしながらジファンは自分の右手に付けられた篭手を見た。
制御石が組み込まれた篭手。魔法国家アジェント隆盛の象徴。
「そういえばこれを作ったのがセフェティナだったな。戻ったら新しいのを作らせるか。」
ジファンの足元にはセフェティナが安否を気にしていた女性奴隷の冷たくなった身体が倒れていた。
それを無造作に蹴飛ばしジファンはすくりと立ち上がった時、一人の船員が部屋に慌てて飛び込んできた。
「た、大変です!ジファン様!」
「どうした?」
「そ、それが・・・、前方に鳴き声を上げる船のようなものが。」
「鳴き声・・・?鳴き声をあげる船があるわけないだろう。」
・・・
あった。
甲板に出て、望遠鏡で見ると、紛れも無く船の形をしたものが、ここからでは聞き取りにくいが鳴き声をあげていた。しかし、マストも無い、あんなにも巨大。船とは言いがたい。
「な、なんだ。あれは・・・?海竜の一種か?とりあえず総員戦闘配置。特に魔術師隊は巨大生物相手の海戦の用意をしろ。」
ジファンはそれから呆然と目の前のモノを見た。
119 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:34 [ qUq6iUEM ]
セフェティナは右手を自分の顔の前に持ってきて、篭手を見た。
「(あの篭手・・・、救助隊員からどんなことをしても外れなかった、と聞くが。)セフェティナさん、我々はこの国のことには疎いのですがその篭手が何か通信に関係が?」
「あ、・・・はい。」
そうだ、そういえばこの人たちは魔法のことを知らないのだった。
ジファンの持っている篭手は自分が作ったもの。篭手の制御石の波長、というか特徴を知っておけば、普通は微弱なマナの振動を強めて意思を伝えることが可能なのだ。
魔術師はこれを共振通信と読んでいる。
といってもごくごく近い距離でしか出来ないが、相手の船が視認可能なこの距離なら十分だろう。
・・・アルヴァール魔術大臣だけは圧倒的な魔力でマナを振動させ、城から国中の魔術師に命令を伝えることが出来る。と聞いたことがあるが、どうせ眉唾物の話だろう。
だいたいいつも彼はエスフィリーナ様に仕事を押し付けてあっちへふらふらこっちへふらふら・・・。
「どうしました?」
「あ、すみません!・・・は、はい。詳細は省きますがこの篭手でわずかですが意思の疎通が出来るのです。」
キィン!!
「!?」
ジファンは突然頭の中が震えるような感覚に陥って、慌てて辺りを見回した。
誰も居ない。
・・・キコエ……マス・・・カ・・・
「声?・・・共振かっ!?馬鹿なっ!」
もう、自分に共振通信を繋げられる人物はこの周辺には居ない。
奴はもう今頃海の藻屑のはず。
・・・オウトウ・・・オネガ・・・イシマス
といってもここで通信をしないわけにはいかない、奴を生かしてアジェントに返せば、
良くて追放刑、最悪「破門」奴が生きている可能性がある以上、必ず見つけ出して消さねばならない。
120 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:34 [ qUq6iUEM ]
―――聞こえている、無事だったようだなセフェティナ。お前が海から落ちたと聞いて、エスフィリーナ様になんと報告すればいいか、不幸な事故だったな。―――
―――事故っ!?―――
向こうの気持ちが手に取るように分かる。共振通信は精神に依存する魔力でマナを動かす物だから具体的な言葉よりも相手の精神状態のほうがよりクリアーに伝わるのだ。
―――それより・・・今、船が見えますか?―――
―――船のようなものなら見えないことも無いが・・・。―――
―――私は今、その船に保護されているんです。―――
―――本当にそれは船なのか?―――
―――はい、現在私が乗っていることが何よりの証拠です。―――
どこの船かは知らないが余計なことをしてくれる。
そう、アレが船なら相手は何者なのか。あんな船アジェントには存在しない。
―――相手は何者だ?もし、帝国ならば今頃お前は八つ裂きにされているはずだが―――
―――はい、それが良く分からないのですが・・・、おそらく召還された人々かと―――
―――なに?―――
・・・そういえば、今日は召喚の儀式の次の日だったか?
しかし奴隷を召喚するとは王家やアシェナの連中もえぐい事を考える。
特にアシェナの連中は「アシェナの神の庇護を受けられない哀れな異世界人達を救い出す」
などという綺麗ごとを言って自己正当化しているが、自分達の奴隷欲しさというのは火を見るより明らかだ。
121 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:35 [ qUq6iUEM ]
―――しかし、そのドブネズミ共があんな船を持っているのか?―――
―――ドブネズミ、なんて・・・。―――
―――そうだろう、奴隷になるしか道の無い奴ら―――
―――彼らの持っている力は侮れないものがあります。くれぐれも刺激するようなことは―――
―――魔法も無い奴らが我々に傷を付けると?それで、身柄を引き取ってやる、どうせ交渉しろというのだろう?大体の異世界人はそうだ。井の中の蛙だからか?―――
―――有難うございます。交渉場所は―――
―――こちらの船でだ。それ以外は認めん。―――
―――はい。―――・・・ブツッ。
通信は切られたようだった。
ジファンは篭手をはめなおした。
「もう一度、これにお世話になる必要があるようだな?セフェティナ。」
初対面の時、何故こんな任務を自分が受けたのか分からなかった。
部下兼護衛。
「青島海尉の身に危険が迫った時は、左官よりも優先してその安全を確保しろ」
噂には聞いたことがある。
「世界各国の首脳、官僚と渡り合えるだけの幹部を養成する計画。」
青島は本人には秘密で行われるらしいこの計画の被験者らしかった。
将来の幹部。どんな若者か楽しみにしていたが、
目の前に居たのはふざけた軟派な男、佐藤―――実際はそうでもなかったが、と
それに舐められた口を聞かれてもへらへらと笑っているどこか陰のある男、青島だった。
「こんな人間のために命を賭けろと?」
俺はそう思った。
しかし俺は自衛官、下された命令はなんであろうが必ず遂行する。
116 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:31 [ qUq6iUEM ]
「我々に交戦の意思はなーーーい!」
「漂流者を一人保護しているぞーーーお!!」
すさまじい音量で放送が流されていた。
「な、なんだこれは?」
天野は耳を押さえながらうめいた。
ビリビリとあたりが音によって震える。
「な、なんでも――――これから接触する船に――呼びかけているらしいです―――」
佐藤の声も半分近くかき消されてしまう。
「なら――無線を使えばいいんじゃ――ないのか―――」
「それが――通じないら――しいんです――」
「こーしょーをもちたーい!」
放送も半ばやけくそに近くなっているようだった。
「それにしてもうちの隊長上によばれてったけどどうしたんだろうなぁ?」
隊員の一人がこれ又耳を塞ぎながら呟いた。
117 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:32 [ qUq6iUEM ]
「あの・・・」
セフェティナがおずおずと狩野に話しかける。
この放送が始まった時はずいぶんと、まるで子供の様に驚いていたがだいぶ落ち着いたようだ。
「なんですかセフェティナさん、すいません。少し騒がしくて。」
「いえ、けれどこれは向こうの船に呼びかけるためにしているのですよね。」
「はい。」
「なら、私に通信手段があるのですが・・・。」
艦橋に死にすらも似た沈黙が流れた。
放送がとめられたのはそれから30秒と経たなかった。
118 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:32 [ qUq6iUEM ]
ジファンは一人でほくそ笑んでいた。
うるさかったエルフの女も始末した。
後は奴隷達を収穫して持っていくのみ。多少の横領も許されている。
「クク・・・。」
ニヤニヤしながらジファンは自分の右手に付けられた篭手を見た。
制御石が組み込まれた篭手。魔法国家アジェント隆盛の象徴。
「そういえばこれを作ったのがセフェティナだったな。戻ったら新しいのを作らせるか。」
ジファンの足元にはセフェティナが安否を気にしていた女性奴隷の冷たくなった身体が倒れていた。
それを無造作に蹴飛ばしジファンはすくりと立ち上がった時、一人の船員が部屋に慌てて飛び込んできた。
「た、大変です!ジファン様!」
「どうした?」
「そ、それが・・・、前方に鳴き声を上げる船のようなものが。」
「鳴き声・・・?鳴き声をあげる船があるわけないだろう。」
・・・
あった。
甲板に出て、望遠鏡で見ると、紛れも無く船の形をしたものが、ここからでは聞き取りにくいが鳴き声をあげていた。しかし、マストも無い、あんなにも巨大。船とは言いがたい。
「な、なんだ。あれは・・・?海竜の一種か?とりあえず総員戦闘配置。特に魔術師隊は巨大生物相手の海戦の用意をしろ。」
ジファンはそれから呆然と目の前のモノを見た。
119 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:34 [ qUq6iUEM ]
セフェティナは右手を自分の顔の前に持ってきて、篭手を見た。
「(あの篭手・・・、救助隊員からどんなことをしても外れなかった、と聞くが。)セフェティナさん、我々はこの国のことには疎いのですがその篭手が何か通信に関係が?」
「あ、・・・はい。」
そうだ、そういえばこの人たちは魔法のことを知らないのだった。
ジファンの持っている篭手は自分が作ったもの。篭手の制御石の波長、というか特徴を知っておけば、普通は微弱なマナの振動を強めて意思を伝えることが可能なのだ。
魔術師はこれを共振通信と読んでいる。
といってもごくごく近い距離でしか出来ないが、相手の船が視認可能なこの距離なら十分だろう。
・・・アルヴァール魔術大臣だけは圧倒的な魔力でマナを振動させ、城から国中の魔術師に命令を伝えることが出来る。と聞いたことがあるが、どうせ眉唾物の話だろう。
だいたいいつも彼はエスフィリーナ様に仕事を押し付けてあっちへふらふらこっちへふらふら・・・。
「どうしました?」
「あ、すみません!・・・は、はい。詳細は省きますがこの篭手でわずかですが意思の疎通が出来るのです。」
キィン!!
「!?」
ジファンは突然頭の中が震えるような感覚に陥って、慌てて辺りを見回した。
誰も居ない。
・・・キコエ……マス・・・カ・・・
「声?・・・共振かっ!?馬鹿なっ!」
もう、自分に共振通信を繋げられる人物はこの周辺には居ない。
奴はもう今頃海の藻屑のはず。
・・・オウトウ・・・オネガ・・・イシマス
といってもここで通信をしないわけにはいかない、奴を生かしてアジェントに返せば、
良くて追放刑、最悪「破門」奴が生きている可能性がある以上、必ず見つけ出して消さねばならない。
120 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:34 [ qUq6iUEM ]
―――聞こえている、無事だったようだなセフェティナ。お前が海から落ちたと聞いて、エスフィリーナ様になんと報告すればいいか、不幸な事故だったな。―――
―――事故っ!?―――
向こうの気持ちが手に取るように分かる。共振通信は精神に依存する魔力でマナを動かす物だから具体的な言葉よりも相手の精神状態のほうがよりクリアーに伝わるのだ。
―――それより・・・今、船が見えますか?―――
―――船のようなものなら見えないことも無いが・・・。―――
―――私は今、その船に保護されているんです。―――
―――本当にそれは船なのか?―――
―――はい、現在私が乗っていることが何よりの証拠です。―――
どこの船かは知らないが余計なことをしてくれる。
そう、アレが船なら相手は何者なのか。あんな船アジェントには存在しない。
―――相手は何者だ?もし、帝国ならば今頃お前は八つ裂きにされているはずだが―――
―――はい、それが良く分からないのですが・・・、おそらく召還された人々かと―――
―――なに?―――
・・・そういえば、今日は召喚の儀式の次の日だったか?
しかし奴隷を召喚するとは王家やアシェナの連中もえぐい事を考える。
特にアシェナの連中は「アシェナの神の庇護を受けられない哀れな異世界人達を救い出す」
などという綺麗ごとを言って自己正当化しているが、自分達の奴隷欲しさというのは火を見るより明らかだ。
121 名前:F猿 投稿日: 2004/07/11(日) 14:35 [ qUq6iUEM ]
―――しかし、そのドブネズミ共があんな船を持っているのか?―――
―――ドブネズミ、なんて・・・。―――
―――そうだろう、奴隷になるしか道の無い奴ら―――
―――彼らの持っている力は侮れないものがあります。くれぐれも刺激するようなことは―――
―――魔法も無い奴らが我々に傷を付けると?それで、身柄を引き取ってやる、どうせ交渉しろというのだろう?大体の異世界人はそうだ。井の中の蛙だからか?―――
―――有難うございます。交渉場所は―――
―――こちらの船でだ。それ以外は認めん。―――
―――はい。―――・・・ブツッ。
通信は切られたようだった。
ジファンは篭手をはめなおした。
「もう一度、これにお世話になる必要があるようだな?セフェティナ。」