728 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:48 [ kHqoVL5Q ]
「それは、本当ですか?」
「ああ、ほぼ間違いない。」
三介島鉱山山麓、カリヴァン候運営の拠点。
そこの長を務める男、アーガスはうなずいた。
純白の鎧を身に着けるカリヴァン騎士の多いなか、彼は何故か好んで灰色などの暗い色の鎧を付けていた。
曰く、「奴隷の管理などと言う仕事において清廉を保つことは不可能。」
その一見白が基調のカリヴァン候への反抗にも見える鎧また、彼なりの忠誠心の現れであった。
アーガスは有能な男であった。そして更に「妥協」と言う言葉を知っている男であった。
それ故に彼は清廉潔白を旨とするカリヴァン騎士団からこんな僻地へととばされたのだが、
しかし、彼はいじけることなくその能力を発揮していた。
「レジスタンスグループの一人を捕らえた。どうも彼らは新たに召還された島と手を組んだらしい。」
「新しく召還?そんな魔法技術も無い島国…たいしたことは…。」
「本国がそんなたいしたことの無い島のために帝国と手を組むと思うか?」
「い、いえ、失礼しました。」
まだ若い騎士が慌てて頭を下げた。
「いや…、ともかく、それほど強大な勢力だと言うことだ。それが今まで召還されてきた奴隷島へ向かってくる…。」
「勝算は…ありますかな?」
彼の傍に控えていた魔道士が言った。
729 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:48 [ kHqoVL5Q ]
彼の名はロン。
彼もまた騎士団からつまはじきにされ、冷や飯を食わされている男であった。
「いや…ないな。」
アーガスの言葉に若い騎士がハッと顔を上げる。その様子も気にせず魔道士は微笑んだ。
「ま、そうでしょう。…そういえばその捕らえたレジスタンスというのは何処にいますか?」
「ああ、客室にいる。…人間と言うのは醜いな。軽い拷問の後地位を保証すると言ったらすぐに飛びついた。
いや、そういう方法をとった我々のほうが余程醜いか…。それに…我々には保障する地位も無い。」
自嘲的に笑うアーガスに対しロンはニヤリと笑った。
「だから我々はこの島にいるのでしょう。」
「ハハ、それもそうか。」
アーガスもまたロンに答えにやりと笑った。
「で、どうなさるのです?今ならこの島を放棄して逃げることも出来ますが。」
「いや、迎撃する。勝てないのならば後の候達が少しでも有利に戦えるようにするべきだからな。
すこしでも戦力を削り、情報を得ておく必要があるだろう?」
「ご立派。」
「ついてきてくれるか?」
「愚問を。」
「すまないな。」
「いえいえ。」
二人は軽く笑った。
ひざまずく若い騎士は自分の未来を考えただ呆然としていた。
730 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:49 [ kHqoVL5Q ]
日本。佐世保基地。
セフェティナは数日前に返って来た魔法用の篭手をはめなおしていた。
研究用に政府側に一時的に渡していたものだったが、
アルヴァールからの通信が入る前にセフェティナに帰ってきたのは幸運であった。
ちなみにこの篭手を研究して分かったことは魔導の石アルジェクトがある程度ケイ素を含む、それだけであったらしい。
セフェティナは緊張していた。人生二度目の戦場。
しかも混乱していて何がなんだか分からなかった前回に対し、
今回はきちんと準備もなされたものだけに、プレッシャーも大きい。
ガチガチに固まっている彼女を見かね、佐藤は声をかけた。
「あ、ティナちゃん。どうしたの強張った顔しちゃって、それじゃ現場に着く前に疲れちゃうよ。」
「…。」
「てぃなちゃん?」
「あっ、青島さん!?…あ、佐藤さんですか。どうしたんですか?」
「うーん。ちょっとショックかも。」
「す、すみません…。」
「いやいや。あんまり緊張しすぎは良くないよ?ティナちゃんの安全を守るために俺達がいるんだから。」
佐藤はそう言ってニカリと笑った。
「は、はい。ありがとうございます。」
セフェティナがつられて笑うと佐藤は再び満足そうに笑った。
731 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:49 [ kHqoVL5Q ]
一方青島は村田達と一緒に居た。
青島の小隊にとってこの作戦は天野がいない初めての任務であった。
小隊の実質的な中心であった天野の穴を埋められるのはベテランの村田だけだったのである。
「おう、どうした色男。」
村田は青島が視界に入ると同時にニヤリと笑った。
「…村田さん、その呼び方は止めてください…。」
「ははは、もうこの基地中の噂になっているぞ?」
「勘弁してくださいよ…それで話があるんですが…。」
「ああ、大丈夫だ聞かなくても分かる、まかせておけ。」
青島が話をしにきた時点で彼はすでにそれを了解しているようであった。
青島はそんな彼を頼もしく思った。
「この噂をもっと広めてくれって言うんだろ?」
しかしそれは彼の気のせいのようであった。
732 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:50 [ kHqoVL5Q ]
一方
「青島二尉。」
青島が話を終え一人で歩いていると声をかけてくる人物が居た。
青島が振り向くとそこにいたのは見慣れた顔であった。
「…結衣三尉?」
「……。」
しかし加藤は青島が話しかけても一向に喋ろうとせず、俯いていた。
「…どうしたんだ?」
「あ、あの噂っ、……いや…なんでもないわ…。」
「え?え?」
「なんでもないって言ってるでしょ!」
加藤はそう言うと顔を真っ赤にして青島に背を向け早足で歩いていってしまった。
「???」
青島は何故怒鳴られたのかも分からずただ頭に?マークを浮かべていた。
733 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:50 [ kHqoVL5Q ]
その次の日、佐世保基地は作戦に参加する隊員で一杯となった。
そしてその前に赤羽は作戦司令として立った。
「…この作戦は、非道極まる奴隷支配を受ける人々を解放するための作戦である。」
一方、三介島でもアーガスによる演説が行われようとしていた。
形式にこだわるアジェントでは異例中の異例である一兵士まで集めた、合計2014人に及ぶ大集会であった。
「まずは、集まってくれた皆に感謝の意を表したい。」
アーガスがそう切り出すと場は静寂に包まれた。
「知っての事とは思うが、この島に東の島の国、ニホン国が攻め込んでくる。
そして我々にはこれに抗するための戦力が無い。
よってこれから行う作戦は、我々の死を前提とした物となっている。」
この言葉に場は動揺が走った。急に騒がしくなった。
しかしアーガスは何も言わずに場が静まるまで待った。
「そこで、だ。」
また再び話し出すアーガスの言葉に兵士達はゴクリと唾を飲んだ。
「30分待つ。私とともに死んでくれる者だけここに残ってもらいたい。
当然出て行くものには船などを用意する。
ただし出て行ったものに関して言及することも詮索することも禁ずる。
ここで出て行ったとしてもアシェナの神の祝福を受けられることは私が保証しよう。」
再び場に動揺が走った。兵士達は皆まじまじとアーガスの顔を見る。
しかし彼はそれ以上何も言わずに部屋から出て行った。
そして30分後彼が部屋に戻った時、そこにいた兵は1420人であった。
「有難う。そしてすまない。」
相手は皆自分よりも遥かに身分の低い相手である、だがアーガスは深々と頭を下げた。
「それは、本当ですか?」
「ああ、ほぼ間違いない。」
三介島鉱山山麓、カリヴァン候運営の拠点。
そこの長を務める男、アーガスはうなずいた。
純白の鎧を身に着けるカリヴァン騎士の多いなか、彼は何故か好んで灰色などの暗い色の鎧を付けていた。
曰く、「奴隷の管理などと言う仕事において清廉を保つことは不可能。」
その一見白が基調のカリヴァン候への反抗にも見える鎧また、彼なりの忠誠心の現れであった。
アーガスは有能な男であった。そして更に「妥協」と言う言葉を知っている男であった。
それ故に彼は清廉潔白を旨とするカリヴァン騎士団からこんな僻地へととばされたのだが、
しかし、彼はいじけることなくその能力を発揮していた。
「レジスタンスグループの一人を捕らえた。どうも彼らは新たに召還された島と手を組んだらしい。」
「新しく召還?そんな魔法技術も無い島国…たいしたことは…。」
「本国がそんなたいしたことの無い島のために帝国と手を組むと思うか?」
「い、いえ、失礼しました。」
まだ若い騎士が慌てて頭を下げた。
「いや…、ともかく、それほど強大な勢力だと言うことだ。それが今まで召還されてきた奴隷島へ向かってくる…。」
「勝算は…ありますかな?」
彼の傍に控えていた魔道士が言った。
729 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:48 [ kHqoVL5Q ]
彼の名はロン。
彼もまた騎士団からつまはじきにされ、冷や飯を食わされている男であった。
「いや…ないな。」
アーガスの言葉に若い騎士がハッと顔を上げる。その様子も気にせず魔道士は微笑んだ。
「ま、そうでしょう。…そういえばその捕らえたレジスタンスというのは何処にいますか?」
「ああ、客室にいる。…人間と言うのは醜いな。軽い拷問の後地位を保証すると言ったらすぐに飛びついた。
いや、そういう方法をとった我々のほうが余程醜いか…。それに…我々には保障する地位も無い。」
自嘲的に笑うアーガスに対しロンはニヤリと笑った。
「だから我々はこの島にいるのでしょう。」
「ハハ、それもそうか。」
アーガスもまたロンに答えにやりと笑った。
「で、どうなさるのです?今ならこの島を放棄して逃げることも出来ますが。」
「いや、迎撃する。勝てないのならば後の候達が少しでも有利に戦えるようにするべきだからな。
すこしでも戦力を削り、情報を得ておく必要があるだろう?」
「ご立派。」
「ついてきてくれるか?」
「愚問を。」
「すまないな。」
「いえいえ。」
二人は軽く笑った。
ひざまずく若い騎士は自分の未来を考えただ呆然としていた。
730 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:49 [ kHqoVL5Q ]
日本。佐世保基地。
セフェティナは数日前に返って来た魔法用の篭手をはめなおしていた。
研究用に政府側に一時的に渡していたものだったが、
アルヴァールからの通信が入る前にセフェティナに帰ってきたのは幸運であった。
ちなみにこの篭手を研究して分かったことは魔導の石アルジェクトがある程度ケイ素を含む、それだけであったらしい。
セフェティナは緊張していた。人生二度目の戦場。
しかも混乱していて何がなんだか分からなかった前回に対し、
今回はきちんと準備もなされたものだけに、プレッシャーも大きい。
ガチガチに固まっている彼女を見かね、佐藤は声をかけた。
「あ、ティナちゃん。どうしたの強張った顔しちゃって、それじゃ現場に着く前に疲れちゃうよ。」
「…。」
「てぃなちゃん?」
「あっ、青島さん!?…あ、佐藤さんですか。どうしたんですか?」
「うーん。ちょっとショックかも。」
「す、すみません…。」
「いやいや。あんまり緊張しすぎは良くないよ?ティナちゃんの安全を守るために俺達がいるんだから。」
佐藤はそう言ってニカリと笑った。
「は、はい。ありがとうございます。」
セフェティナがつられて笑うと佐藤は再び満足そうに笑った。
731 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:49 [ kHqoVL5Q ]
一方青島は村田達と一緒に居た。
青島の小隊にとってこの作戦は天野がいない初めての任務であった。
小隊の実質的な中心であった天野の穴を埋められるのはベテランの村田だけだったのである。
「おう、どうした色男。」
村田は青島が視界に入ると同時にニヤリと笑った。
「…村田さん、その呼び方は止めてください…。」
「ははは、もうこの基地中の噂になっているぞ?」
「勘弁してくださいよ…それで話があるんですが…。」
「ああ、大丈夫だ聞かなくても分かる、まかせておけ。」
青島が話をしにきた時点で彼はすでにそれを了解しているようであった。
青島はそんな彼を頼もしく思った。
「この噂をもっと広めてくれって言うんだろ?」
しかしそれは彼の気のせいのようであった。
732 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:50 [ kHqoVL5Q ]
一方
「青島二尉。」
青島が話を終え一人で歩いていると声をかけてくる人物が居た。
青島が振り向くとそこにいたのは見慣れた顔であった。
「…結衣三尉?」
「……。」
しかし加藤は青島が話しかけても一向に喋ろうとせず、俯いていた。
「…どうしたんだ?」
「あ、あの噂っ、……いや…なんでもないわ…。」
「え?え?」
「なんでもないって言ってるでしょ!」
加藤はそう言うと顔を真っ赤にして青島に背を向け早足で歩いていってしまった。
「???」
青島は何故怒鳴られたのかも分からずただ頭に?マークを浮かべていた。
733 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/31(日) 17:50 [ kHqoVL5Q ]
その次の日、佐世保基地は作戦に参加する隊員で一杯となった。
そしてその前に赤羽は作戦司令として立った。
「…この作戦は、非道極まる奴隷支配を受ける人々を解放するための作戦である。」
一方、三介島でもアーガスによる演説が行われようとしていた。
形式にこだわるアジェントでは異例中の異例である一兵士まで集めた、合計2014人に及ぶ大集会であった。
「まずは、集まってくれた皆に感謝の意を表したい。」
アーガスがそう切り出すと場は静寂に包まれた。
「知っての事とは思うが、この島に東の島の国、ニホン国が攻め込んでくる。
そして我々にはこれに抗するための戦力が無い。
よってこれから行う作戦は、我々の死を前提とした物となっている。」
この言葉に場は動揺が走った。急に騒がしくなった。
しかしアーガスは何も言わずに場が静まるまで待った。
「そこで、だ。」
また再び話し出すアーガスの言葉に兵士達はゴクリと唾を飲んだ。
「30分待つ。私とともに死んでくれる者だけここに残ってもらいたい。
当然出て行くものには船などを用意する。
ただし出て行ったものに関して言及することも詮索することも禁ずる。
ここで出て行ったとしてもアシェナの神の祝福を受けられることは私が保証しよう。」
再び場に動揺が走った。兵士達は皆まじまじとアーガスの顔を見る。
しかし彼はそれ以上何も言わずに部屋から出て行った。
そして30分後彼が部屋に戻った時、そこにいた兵は1420人であった。
「有難う。そしてすまない。」
相手は皆自分よりも遥かに身分の低い相手である、だがアーガスは深々と頭を下げた。