558 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:24 [ kHqoVL5Q ]
アルヴァール魔術大臣。
城下一番の老人が生まれた時からこの魔術大臣を勤め、
更にその祖父が生まれた時にも魔術大臣を勤めている男。
王家に絶対の忠誠を誓い、代々王位継承者の養育係を勤めてきた。
彼の長寿、魔力の秘密は王位継承のときに引き継がれる物の一つであり、
この人物に関する逸話は事欠かなかった。
「アジェント建国に関わった」「十万の軍隊を殲滅した」「実はアシェナの天使である」
そしてそれのどれもが真実味を帯びるような風格を彼は持っていた。
「全ては王家のため。」
彼の目的はただひとつ王権の維持。
そのためには気が進まぬ召還などという行為も行った。
そんな彼に傀儡政権を企もうとしていただろうイルマヤ候やアルクアイは許せる物ではなかった。
そして今彼の懸念は西のバルト、そして東に現れた謎の国であった。
召還された東の国。もはや国中でその噂が流れていた。
生き血をすする悪魔の国、見たことも無いような魔法(ありえないが)を使う国、
バルトの魔道兵器が玩具に見えるような機械を使い、町一つを容易く滅ぼす国。
どれも信憑性の無いものだが、火の無いところに煙は立たない。厄介であることは間違いなかった。
559 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:25 [ kHqoVL5Q ]
その夜。
アシェリーナ姫の元へアルヴァールは急いだ。
当然急使で知っているだろうが、娘同然のこの姫の喜ぶ顔を見たいという感情もあった。
「あ・・・アルっ!帰ってきたのね!」
そして扉を開けた途端、このもう二十歳になろうかという少女に彼は飛びつかれ、よろめいた。
とりあえず、一度引き離して礼をする。
「どうも、ただ今帰還致しました。」
「もお、そんな堅苦しいことを言わないで、アル。」
「一応規則だからなアシェル。」
そうアルヴァールが言うと二人は同時に吹きだし、部屋は笑いに満ちた。
そのまだ美しいと言うより可愛らしい笑顔を見てアルヴァールは思った。
何をしてもこの笑顔に傷はつけさせない、と。
そのためには彼はどんな姑息な手でも使うつもりであった。
560 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:27 [ kHqoVL5Q ]
次の日の会議は病を押したアルジェン13世、さらにアシェナ教皇までが参加した大会議となった。
論題は一つ。これからの対外政策であった。
西のバルト、そして東の謎の国、これら両方を相手にする力はアジェントには無かった。
さらには最近反発的な小国群が南には存在する。
アジェントが避けねばならないのは西と東を同時に相手取ることであった。
これだけは何とか避けねばならない。
ならばそれ避けるのためにはどうしなければならないか、外交である。
会議が熾烈を極めるのは明白であった。
「それでは私の方に、東の国との接触経験がございますので、報告いたします。」
その会議の口火を切ったのはアルクアイであった。
昨日の主役とも言える彼、昨日の出来事は誰もが知っている。自然と注目が集まった。
「我々はしばらく前、東の国・・・ニホン、というらしいですが、の船団と接触しました。
彼らは魔法が使えないことは皆さんご承知でしょう。
しかし、彼らは巨大な鉄の船に乗り、魔法でしか出来ないような攻撃を繰り出しました。
ちなみにこれにより元竜騎士団でその時の船団の司令であるジファンが死亡、
魔術仕官のセフェティナ殿が行方不明になっています。」
元々報告が行っている王家の官僚以外の貴族、特に教会関係者は息を呑んだ。
魔法でもないのに鉄が浮ぶ、魔法のような攻撃を繰り出す。
これは機械を使っているに他ならないからである。
アシェナ聖教に反する機械を。
561 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:27 [ kHqoVL5Q ]
「これは私の私見ですが。」
アルクアイは続けた。
「彼らはおそらくバルト以上の戦力を持っていると思われます。」
これには王家の面々も含め、誰もが絶句した。
バルトは急激にその勢力範囲を広げてきた帝国であり、誰もがその軍事力はしるところである。
しかしアルクアイが続けていったことはその既成概念を破壊しようとする言葉であった。
「逆にバルトの勢力は、神帝エグベルト七世の死などの理由により弱まっていると思われます。
東、東へと強硬に取っていた進路が急にオズイン手前で我が国の国境を通るような南への進路へと変わったことからもこのことが見て取れます。」
アルクアイが呪文を詠唱すると、その場の参加者全員の前に地図の幻影が映し出される。
マナで光の屈折を操る蜃気楼のような物だが、アルクアイの説明を理解させるには十分な物であった。
「しかし、」
貴族の一人が声を上げた。
「しかし、バルトが南に進路を変えたことは事実だ、だが何故そんなことを?」
「恐らく、オズイン、我が国と連戦することを避けたかったのでしょう。
彼らの狙いは恐らく、例の空白地だと思われます。」
562 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:28 [ kHqoVL5Q ]
「なんと!」
イルマヤ候領の南に位置し、イルマヤ候とも仲の良い、ハルバ候が声を上げた。
彼の領の南にはエルフの大森林を隔て空白地があった。
だからこそ空白地に一番執着を持っていたのも彼であった。
そして空白地に攻め入ってくるともなればまず戦わなければならないのは自分だろう。
そういう考えも入った、半ば恐怖の叫びだった。
「なんということをおっしゃる・・・。」
ハルバ候はイルマヤ候を見た。何とかならないのか、と言った目つきである。
元々ハルバ候、彼は臆病な男であり、イルマヤ候と仲が良いと言っても、
それは親分と舎弟のような関係であった。
しかし、頼れる親分のはずのイルマヤ候もさすがに無茶を言うなという目で見返した。
「逆に。」
アルクアイは続けた。
「東の国は今すぐにでも攻め入ってくる可能性があると思われます。
彼らの軍事力は船から見ても高く、噂程度ですが非常に好戦的である、という噂も流れています。」
アルクアイの言葉に貴族達は一斉に頷いた。
彼らの領土でも王都でもニホンの恐ろしい噂は鳴り響いている。
といってもその噂は目の前で演説している男の流した物なのだが、そんなことは知る由も無い。
563 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:30 [ kHqoVL5Q ]
「もし。」
先程まで王となにやらボソボソと話しをしていたアルヴァールが声を出した。
「なんでしょうか。」
アルクアイは答えた。
この二人の因縁は誰もが知るところなっている。その場に居る全員が固唾を呑んで二人を見た。
「もし、その通りだとするのなら、我々はどうすれば良いと思う?
残念だが我々にはその二国を同時に相手する力は無い。」
アルヴァールはアルクアイに問うた。
その目ははっきりと貴様の知恵を利用してやると言っている。
アルクアイは自分の腸が煮えくり返るのを感じた。
自分の野望を完膚なきまでに叩き潰したこの男は自分の言うことを大体見抜いた上で、
その危険な意見を強制的に言わせようとしているのだ。
しかし、これはアルクアイにとって意見を押し通す絶好のチャンスでもあった。
アルクアイは賭けに出た。
「はい、そのことについては私に一つ、考えがあります。」
「何かね。」
アルクアイは参加者全員を見回した。
貴族達はしんと静まりかえり自分を見つめている。しかしその中に見慣れた少女の顔は無い。
ファンナは王家への人質として部屋においてきてしまっていたのである。
半泣きになりながら一緒に行くとダダをこねた彼女の顔が思い出され、アルクアイは一瞬後悔した。
自分がこの場でこの意見を言ったら、彼女にまで危害が及ぶかもしれない。
しかし、ここでこの意見を通さねば自分は凡夫として一生を終えることになるだろう。
それだけは命を賭しても避けなければならないことであった。
そしてアルクアイは意を決し、言った。
「我が国は、バルト帝国と同盟を結ぶべきだと考えています。」
アルヴァール魔術大臣。
城下一番の老人が生まれた時からこの魔術大臣を勤め、
更にその祖父が生まれた時にも魔術大臣を勤めている男。
王家に絶対の忠誠を誓い、代々王位継承者の養育係を勤めてきた。
彼の長寿、魔力の秘密は王位継承のときに引き継がれる物の一つであり、
この人物に関する逸話は事欠かなかった。
「アジェント建国に関わった」「十万の軍隊を殲滅した」「実はアシェナの天使である」
そしてそれのどれもが真実味を帯びるような風格を彼は持っていた。
「全ては王家のため。」
彼の目的はただひとつ王権の維持。
そのためには気が進まぬ召還などという行為も行った。
そんな彼に傀儡政権を企もうとしていただろうイルマヤ候やアルクアイは許せる物ではなかった。
そして今彼の懸念は西のバルト、そして東に現れた謎の国であった。
召還された東の国。もはや国中でその噂が流れていた。
生き血をすする悪魔の国、見たことも無いような魔法(ありえないが)を使う国、
バルトの魔道兵器が玩具に見えるような機械を使い、町一つを容易く滅ぼす国。
どれも信憑性の無いものだが、火の無いところに煙は立たない。厄介であることは間違いなかった。
559 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:25 [ kHqoVL5Q ]
その夜。
アシェリーナ姫の元へアルヴァールは急いだ。
当然急使で知っているだろうが、娘同然のこの姫の喜ぶ顔を見たいという感情もあった。
「あ・・・アルっ!帰ってきたのね!」
そして扉を開けた途端、このもう二十歳になろうかという少女に彼は飛びつかれ、よろめいた。
とりあえず、一度引き離して礼をする。
「どうも、ただ今帰還致しました。」
「もお、そんな堅苦しいことを言わないで、アル。」
「一応規則だからなアシェル。」
そうアルヴァールが言うと二人は同時に吹きだし、部屋は笑いに満ちた。
そのまだ美しいと言うより可愛らしい笑顔を見てアルヴァールは思った。
何をしてもこの笑顔に傷はつけさせない、と。
そのためには彼はどんな姑息な手でも使うつもりであった。
560 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:27 [ kHqoVL5Q ]
次の日の会議は病を押したアルジェン13世、さらにアシェナ教皇までが参加した大会議となった。
論題は一つ。これからの対外政策であった。
西のバルト、そして東の謎の国、これら両方を相手にする力はアジェントには無かった。
さらには最近反発的な小国群が南には存在する。
アジェントが避けねばならないのは西と東を同時に相手取ることであった。
これだけは何とか避けねばならない。
ならばそれ避けるのためにはどうしなければならないか、外交である。
会議が熾烈を極めるのは明白であった。
「それでは私の方に、東の国との接触経験がございますので、報告いたします。」
その会議の口火を切ったのはアルクアイであった。
昨日の主役とも言える彼、昨日の出来事は誰もが知っている。自然と注目が集まった。
「我々はしばらく前、東の国・・・ニホン、というらしいですが、の船団と接触しました。
彼らは魔法が使えないことは皆さんご承知でしょう。
しかし、彼らは巨大な鉄の船に乗り、魔法でしか出来ないような攻撃を繰り出しました。
ちなみにこれにより元竜騎士団でその時の船団の司令であるジファンが死亡、
魔術仕官のセフェティナ殿が行方不明になっています。」
元々報告が行っている王家の官僚以外の貴族、特に教会関係者は息を呑んだ。
魔法でもないのに鉄が浮ぶ、魔法のような攻撃を繰り出す。
これは機械を使っているに他ならないからである。
アシェナ聖教に反する機械を。
561 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:27 [ kHqoVL5Q ]
「これは私の私見ですが。」
アルクアイは続けた。
「彼らはおそらくバルト以上の戦力を持っていると思われます。」
これには王家の面々も含め、誰もが絶句した。
バルトは急激にその勢力範囲を広げてきた帝国であり、誰もがその軍事力はしるところである。
しかしアルクアイが続けていったことはその既成概念を破壊しようとする言葉であった。
「逆にバルトの勢力は、神帝エグベルト七世の死などの理由により弱まっていると思われます。
東、東へと強硬に取っていた進路が急にオズイン手前で我が国の国境を通るような南への進路へと変わったことからもこのことが見て取れます。」
アルクアイが呪文を詠唱すると、その場の参加者全員の前に地図の幻影が映し出される。
マナで光の屈折を操る蜃気楼のような物だが、アルクアイの説明を理解させるには十分な物であった。
「しかし、」
貴族の一人が声を上げた。
「しかし、バルトが南に進路を変えたことは事実だ、だが何故そんなことを?」
「恐らく、オズイン、我が国と連戦することを避けたかったのでしょう。
彼らの狙いは恐らく、例の空白地だと思われます。」
562 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:28 [ kHqoVL5Q ]
「なんと!」
イルマヤ候領の南に位置し、イルマヤ候とも仲の良い、ハルバ候が声を上げた。
彼の領の南にはエルフの大森林を隔て空白地があった。
だからこそ空白地に一番執着を持っていたのも彼であった。
そして空白地に攻め入ってくるともなればまず戦わなければならないのは自分だろう。
そういう考えも入った、半ば恐怖の叫びだった。
「なんということをおっしゃる・・・。」
ハルバ候はイルマヤ候を見た。何とかならないのか、と言った目つきである。
元々ハルバ候、彼は臆病な男であり、イルマヤ候と仲が良いと言っても、
それは親分と舎弟のような関係であった。
しかし、頼れる親分のはずのイルマヤ候もさすがに無茶を言うなという目で見返した。
「逆に。」
アルクアイは続けた。
「東の国は今すぐにでも攻め入ってくる可能性があると思われます。
彼らの軍事力は船から見ても高く、噂程度ですが非常に好戦的である、という噂も流れています。」
アルクアイの言葉に貴族達は一斉に頷いた。
彼らの領土でも王都でもニホンの恐ろしい噂は鳴り響いている。
といってもその噂は目の前で演説している男の流した物なのだが、そんなことは知る由も無い。
563 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/10/06(水) 21:30 [ kHqoVL5Q ]
「もし。」
先程まで王となにやらボソボソと話しをしていたアルヴァールが声を出した。
「なんでしょうか。」
アルクアイは答えた。
この二人の因縁は誰もが知るところなっている。その場に居る全員が固唾を呑んで二人を見た。
「もし、その通りだとするのなら、我々はどうすれば良いと思う?
残念だが我々にはその二国を同時に相手する力は無い。」
アルヴァールはアルクアイに問うた。
その目ははっきりと貴様の知恵を利用してやると言っている。
アルクアイは自分の腸が煮えくり返るのを感じた。
自分の野望を完膚なきまでに叩き潰したこの男は自分の言うことを大体見抜いた上で、
その危険な意見を強制的に言わせようとしているのだ。
しかし、これはアルクアイにとって意見を押し通す絶好のチャンスでもあった。
アルクアイは賭けに出た。
「はい、そのことについては私に一つ、考えがあります。」
「何かね。」
アルクアイは参加者全員を見回した。
貴族達はしんと静まりかえり自分を見つめている。しかしその中に見慣れた少女の顔は無い。
ファンナは王家への人質として部屋においてきてしまっていたのである。
半泣きになりながら一緒に行くとダダをこねた彼女の顔が思い出され、アルクアイは一瞬後悔した。
自分がこの場でこの意見を言ったら、彼女にまで危害が及ぶかもしれない。
しかし、ここでこの意見を通さねば自分は凡夫として一生を終えることになるだろう。
それだけは命を賭しても避けなければならないことであった。
そしてアルクアイは意を決し、言った。
「我が国は、バルト帝国と同盟を結ぶべきだと考えています。」