アルタート太陽王国領ナジフ海に面した港町『ゴライアス』。
古くから貿易で賑うこの都市も今は食糧や嗜好品では無く、兵糧や武具が同盟諸国から運ばれ侵攻する同盟軍の補給拠点となっていた。
「なあ、聞いたか?」
波止場の警備に当たっている兵士が相棒に尋ねた。
「ああ、ストームゲート守備隊が全滅したんだって?」
「それも碌に抵抗できずにやられたんだと…。」
「まだ信じられんよ、数は俺達の方が上だってのにさ…。」
「今再編しているらしいから、あと少し耐えればまた援軍が来て汚らわしい亜人共も終わりさ。この街を確保してりゃあ海路から来れるからきっと大勢来るぞ。」
「そしたら、俺らの飯の量が減るな。」
「そいつは勘弁して欲しいな!ハハハ!」
談笑しあう二人は、後ろから一人の人物が灯台に入って行くのに気づきもしなかった。
「随分と杜撰な警備だが…、仕事がやり易い。」
灯台へと侵入したダークエルフの工作員は最上階へと目指し階段を登りながら嘲笑った。
「この戦さえ終われば漸く我らにも帰る場所が出来るのだ…。ここで躓く訳にはいかん。」
そういうと掌から小さな火球を出すと、油が溢れる大皿へと落とした。
時を同じくして街の各所から灯りが灯っていく。
主に食糧を保管してあった倉庫や、武器を集めていた元教会。兵士達の寄宿舎。
同盟軍の重要拠点が明るく照らされていく。
「燃えろ燃えろ…。そうすればもっとやり易くなる。」
ダークエルフの言葉に答えるかのように火はゴウゴウと燃え上がり、その勢いを強める。
「さあ、後は帝國軍の仕事だ。上手くやってくれよ。」
そう呟くとダークエルフは階段を下り始めた。
「合図だ。攻撃開始!」
空母『大鷹』から飛び立った攻撃隊の先頭を飛ぶ零戦から指示が出る。
その指示を受け10機の九九式艦上爆撃機が灯りに照らされる。
五機ずつに分かれ、一方は寄宿舎へ。
もう一方は教会へと飛んでいく。
「ここには竜はいないそうだが、何が起こるか分からん。警戒しろ。」
他の零戦へ命令を出し、零戦隊は街の上空を旋回し始めた。
やがて街から煙が上がり始めた。
同盟軍の悪夢が幕をあけたのだ。
「おい、何故灯りがついてるんだ?」
「分かりません。ただいま確認中です。」
「早くさせろ!こんな夜中に一体どこの馬鹿がこんなことをやらかしたんだ!」
でっぷりと太った司令官が不機嫌さを隠そうともせずに怒鳴り散らす。
怒鳴り声がする度に二重顎がぷるんと波打つ。
その姿はまるで茹で上がった豚のようである。
「まったく!犯人を見つけ出したら鞭百叩きだ!副官!あとはやっておけ!」
「承知いたしました。」
司令官が寝室へ戻ろうとしたその時、轟音が響いた。
「な、何事か!!」
「司令官、指令所へ避難を。私は確認に行って参ります。」
「う、うむ!任せたぞ!」
どすどすと音を立てながら司令官は護衛の兵士数人と共に去って行った。
「…状況の詳細を集めろ!それと全員に武装するように通達!市民にも気を配れ!これを機に反乱を起こすやもしれん!」
伝令に指示を伝えると自身も剣を取り、被害の確認の為走った。
「教会、宿舎共に着弾確認。」
重巡『足柄』では攻撃隊の報告が届いた。
その報告を陸軍の制服を着た参謀が笑みを浮かべて聞いていた。
「これで奴らの戦力はもうほとんど消失したはず、これで制圧する事が出来ますな。」
『足柄』の艦長はその参謀へと話しかけた。
「支援に感謝します、では後は我々の出番という事ですな。」
上陸の為に数隻の艀が港へとむかって行く。
「この妙な世界に来て出番が無いかと思ったが、こんな形で終わってたまるものか…。」
ぼそり、と誰にも聞こえ無いように参謀―辻政信―は独りごちた。
「何だこの光景は…」
目の前に広がる光景は地獄その物であった。
爆弾の投下によって建物は焼け落ちており、中にいた兵士達は焼け死んでいるだろう。
なんとか逃げ出した者も、大火傷を負って悶えているか呆けたように空を見つめていた。
「おい、貴様!一体何が起こった!おい!」
ぺしぺしと頬を叩き、生き残りに尋ねる。
「あぅ…、ああ…。」
だが目の焦点はあっておらず、ただ唸り声を上げるだけだった。
「他に生きてる者は何処か!」
「大尉殿…、ここです…。」
副官からすぐ傍の残骸にもたれかかっていた兵士が答えた。
「一体何が起きたのだ!ただの火事でもこんなに早くは焼けぬぞ!」
「悪魔の鳥です…。奴らがいきなり飛んできたのです…、そしてこの地獄を…。」
「悪魔だと!?そんな馬鹿な話が―」
「ですが、事実なのです…。何かを腹から落としたと思ったらこのような…。」
「信じられん…、本当なのか…。」
まわりを見渡す。相も変わらず燃え盛る宿舎、数多くの死体。
―本当にこんな事が出来るのか?出来るとしたらこれはもう…。
「戦争じゃない…。ただの虐殺だ…。」
「…」
「おい、しっかりしろ!おい!」
兵士はがっくりと項垂れた。が、胸が動いている所を見ると気絶したのだろう。
「ええい!仕方無い!」
気絶した兵士を背負うと副官は司令所へと向かう。
途中何人か無事だった兵と合流し、30人程の集団となった。
「司令官!宿舎は崩壊、中に居た者も駄目です!」
怪我を負った者は治療士に任せ、報告をしようと司令所へと入った。
だが、そこに司令官の姿は無くオロオロと戸惑う兵士が数名居るだけだった。
「おい、司令はどちらに居られるのだ!」
「た、大尉殿!我々も分からないのです!あの轟音が何度か響いて、教会から火の手が上がっていると報告が届いてすぐに何処かへ…。」
「…ッ!」
―逃げたか。
あの司令官の副官を務める時間はほんの少しの間であったが、その短い時間で十分に理解していた。
あの男はどうしようも無いクズだと。
碌に仕事もせず、酒や女に溺れ、弱い者を徹底的に叩く性格。
典型的な家柄だけの貴族軍人であった。
「た、大尉殿。これからどうすれば…?」
「…まず一つの場所に固まろう。相手が誰であれ、バラバラに居るのは危険だ。ついてこい。」
「了解しました!」
兵士達を連れ、他の者達の元へと向かう。
―武器も無く、戦える者も少ない。これはもう…。
「降伏か…。」
後ろに付いてくる兵士達に聞こえない様に小さく呟く。
自分はともかく、故郷にそれぞれ家族や恋人を残してきた者は多い。
いつも彼らの故郷への思いを聞いてきた副官にとって十字軍としての義務と大勢の部下の命。
その天秤は大きく一方へと傾き始めていた。
「もっとだ!もっと速度を上げんか!」
港から出航した戦艦(といっても木造で船首に突撃用の杭があるだけの物である)『カンドロス号』から司令官の濁声が響く。
「ですがこれ以上の速度は出ません!これが限界です!」
「黙れ!とにかく街から離れるんだ!早く外海に出ろ!」
怒鳴り声を上げるだけの司令官を尻目に水夫達は己の仕事をこなしていく。
だが上空から急に聞いたことも無い様な音が近づいてくる。
「おい、なんだこの音?」
「さあ?何だろうな?」
「おい!貴様ら何をコソコソ喋っとるか―」
司令官の叱責が響き渡るよりも先に三機の九九艦爆のから落とされた250キロ爆弾一つと60キロ爆弾四つがカンドロス号に命中、司令官と乗組員らと共に暗い夜の海に沈んだ。
「聞きましたか?中佐。」
「何がだ?」
アルタート太陽王国王都ソルブランに設けられた指揮所兼仮大使館で朝食を取っていた山崎中佐に少尉が尋ねた。
「例の港街ですよ。陸軍の部隊が上陸したら敵はすぐに降伏したそうですよ。海軍さんの支援攻撃でほとんど全滅だったそうです。」
「ほーう、で敵の指揮官はどうした?」
「船で逃げようとした所を九九艦爆に沈められたそうです。」
「部下をほったらかして自分だけトンズラかい。まぁ、そうなっても仕方無いな。」
ずずっと、お茶を啜ると山崎中佐は腕を伸ばした。
「それじゃ、これで油田地帯は帝國の物か。」
「そうなりますね。本国から大使が派遣されて条約を結ぶでしょう。」
「ああ、それで俺達はしばらくここで軍事指導かい。帰って米をたらふく食いたいんだがな。」
そういうと山崎中佐は先ほど胃に収めたパンを思いだす。
「我慢してください。そう思っているのは皆同じです。」
ため息をつきそうになるのを堪えた少尉は敬礼をした後部屋を出ようとする。
「ああ、そういえば少尉。」
その直前、山崎中佐が少尉を呼び止めた。
「なんでありましょうか?」
「お前の家確か、けっこう良い所だったよな?」
「ええ、まあ確かに士族ですが…。」
「なら良いんだ。すまんな、行ってくれ。」
頭に?を浮かべながら、少尉は退室した。
その姿を見送りながら山崎中佐は心の中で、少尉に謝罪と憐憫の情を送っていた。
「すまんなぁ、少尉。これもお国の為だ…。所帯は持ってて辛い事もあるだろうが何、すぐに馴れるさ…。」
中佐の頭の中には先日少尉に来た『縁談』がグルグルと回っているのだった。
「まぁ、あんだけの別嬪さんを嫁に貰えるんだ。文句もなかろう。」
そう締めくくると、中佐も部屋を出た。後日届く小銃の受け渡しと射撃訓練の打ち合わせの為、カイゼル将軍と会うために。
古くから貿易で賑うこの都市も今は食糧や嗜好品では無く、兵糧や武具が同盟諸国から運ばれ侵攻する同盟軍の補給拠点となっていた。
「なあ、聞いたか?」
波止場の警備に当たっている兵士が相棒に尋ねた。
「ああ、ストームゲート守備隊が全滅したんだって?」
「それも碌に抵抗できずにやられたんだと…。」
「まだ信じられんよ、数は俺達の方が上だってのにさ…。」
「今再編しているらしいから、あと少し耐えればまた援軍が来て汚らわしい亜人共も終わりさ。この街を確保してりゃあ海路から来れるからきっと大勢来るぞ。」
「そしたら、俺らの飯の量が減るな。」
「そいつは勘弁して欲しいな!ハハハ!」
談笑しあう二人は、後ろから一人の人物が灯台に入って行くのに気づきもしなかった。
「随分と杜撰な警備だが…、仕事がやり易い。」
灯台へと侵入したダークエルフの工作員は最上階へと目指し階段を登りながら嘲笑った。
「この戦さえ終われば漸く我らにも帰る場所が出来るのだ…。ここで躓く訳にはいかん。」
そういうと掌から小さな火球を出すと、油が溢れる大皿へと落とした。
時を同じくして街の各所から灯りが灯っていく。
主に食糧を保管してあった倉庫や、武器を集めていた元教会。兵士達の寄宿舎。
同盟軍の重要拠点が明るく照らされていく。
「燃えろ燃えろ…。そうすればもっとやり易くなる。」
ダークエルフの言葉に答えるかのように火はゴウゴウと燃え上がり、その勢いを強める。
「さあ、後は帝國軍の仕事だ。上手くやってくれよ。」
そう呟くとダークエルフは階段を下り始めた。
「合図だ。攻撃開始!」
空母『大鷹』から飛び立った攻撃隊の先頭を飛ぶ零戦から指示が出る。
その指示を受け10機の九九式艦上爆撃機が灯りに照らされる。
五機ずつに分かれ、一方は寄宿舎へ。
もう一方は教会へと飛んでいく。
「ここには竜はいないそうだが、何が起こるか分からん。警戒しろ。」
他の零戦へ命令を出し、零戦隊は街の上空を旋回し始めた。
やがて街から煙が上がり始めた。
同盟軍の悪夢が幕をあけたのだ。
「おい、何故灯りがついてるんだ?」
「分かりません。ただいま確認中です。」
「早くさせろ!こんな夜中に一体どこの馬鹿がこんなことをやらかしたんだ!」
でっぷりと太った司令官が不機嫌さを隠そうともせずに怒鳴り散らす。
怒鳴り声がする度に二重顎がぷるんと波打つ。
その姿はまるで茹で上がった豚のようである。
「まったく!犯人を見つけ出したら鞭百叩きだ!副官!あとはやっておけ!」
「承知いたしました。」
司令官が寝室へ戻ろうとしたその時、轟音が響いた。
「な、何事か!!」
「司令官、指令所へ避難を。私は確認に行って参ります。」
「う、うむ!任せたぞ!」
どすどすと音を立てながら司令官は護衛の兵士数人と共に去って行った。
「…状況の詳細を集めろ!それと全員に武装するように通達!市民にも気を配れ!これを機に反乱を起こすやもしれん!」
伝令に指示を伝えると自身も剣を取り、被害の確認の為走った。
「教会、宿舎共に着弾確認。」
重巡『足柄』では攻撃隊の報告が届いた。
その報告を陸軍の制服を着た参謀が笑みを浮かべて聞いていた。
「これで奴らの戦力はもうほとんど消失したはず、これで制圧する事が出来ますな。」
『足柄』の艦長はその参謀へと話しかけた。
「支援に感謝します、では後は我々の出番という事ですな。」
上陸の為に数隻の艀が港へとむかって行く。
「この妙な世界に来て出番が無いかと思ったが、こんな形で終わってたまるものか…。」
ぼそり、と誰にも聞こえ無いように参謀―辻政信―は独りごちた。
「何だこの光景は…」
目の前に広がる光景は地獄その物であった。
爆弾の投下によって建物は焼け落ちており、中にいた兵士達は焼け死んでいるだろう。
なんとか逃げ出した者も、大火傷を負って悶えているか呆けたように空を見つめていた。
「おい、貴様!一体何が起こった!おい!」
ぺしぺしと頬を叩き、生き残りに尋ねる。
「あぅ…、ああ…。」
だが目の焦点はあっておらず、ただ唸り声を上げるだけだった。
「他に生きてる者は何処か!」
「大尉殿…、ここです…。」
副官からすぐ傍の残骸にもたれかかっていた兵士が答えた。
「一体何が起きたのだ!ただの火事でもこんなに早くは焼けぬぞ!」
「悪魔の鳥です…。奴らがいきなり飛んできたのです…、そしてこの地獄を…。」
「悪魔だと!?そんな馬鹿な話が―」
「ですが、事実なのです…。何かを腹から落としたと思ったらこのような…。」
「信じられん…、本当なのか…。」
まわりを見渡す。相も変わらず燃え盛る宿舎、数多くの死体。
―本当にこんな事が出来るのか?出来るとしたらこれはもう…。
「戦争じゃない…。ただの虐殺だ…。」
「…」
「おい、しっかりしろ!おい!」
兵士はがっくりと項垂れた。が、胸が動いている所を見ると気絶したのだろう。
「ええい!仕方無い!」
気絶した兵士を背負うと副官は司令所へと向かう。
途中何人か無事だった兵と合流し、30人程の集団となった。
「司令官!宿舎は崩壊、中に居た者も駄目です!」
怪我を負った者は治療士に任せ、報告をしようと司令所へと入った。
だが、そこに司令官の姿は無くオロオロと戸惑う兵士が数名居るだけだった。
「おい、司令はどちらに居られるのだ!」
「た、大尉殿!我々も分からないのです!あの轟音が何度か響いて、教会から火の手が上がっていると報告が届いてすぐに何処かへ…。」
「…ッ!」
―逃げたか。
あの司令官の副官を務める時間はほんの少しの間であったが、その短い時間で十分に理解していた。
あの男はどうしようも無いクズだと。
碌に仕事もせず、酒や女に溺れ、弱い者を徹底的に叩く性格。
典型的な家柄だけの貴族軍人であった。
「た、大尉殿。これからどうすれば…?」
「…まず一つの場所に固まろう。相手が誰であれ、バラバラに居るのは危険だ。ついてこい。」
「了解しました!」
兵士達を連れ、他の者達の元へと向かう。
―武器も無く、戦える者も少ない。これはもう…。
「降伏か…。」
後ろに付いてくる兵士達に聞こえない様に小さく呟く。
自分はともかく、故郷にそれぞれ家族や恋人を残してきた者は多い。
いつも彼らの故郷への思いを聞いてきた副官にとって十字軍としての義務と大勢の部下の命。
その天秤は大きく一方へと傾き始めていた。
「もっとだ!もっと速度を上げんか!」
港から出航した戦艦(といっても木造で船首に突撃用の杭があるだけの物である)『カンドロス号』から司令官の濁声が響く。
「ですがこれ以上の速度は出ません!これが限界です!」
「黙れ!とにかく街から離れるんだ!早く外海に出ろ!」
怒鳴り声を上げるだけの司令官を尻目に水夫達は己の仕事をこなしていく。
だが上空から急に聞いたことも無い様な音が近づいてくる。
「おい、なんだこの音?」
「さあ?何だろうな?」
「おい!貴様ら何をコソコソ喋っとるか―」
司令官の叱責が響き渡るよりも先に三機の九九艦爆のから落とされた250キロ爆弾一つと60キロ爆弾四つがカンドロス号に命中、司令官と乗組員らと共に暗い夜の海に沈んだ。
「聞きましたか?中佐。」
「何がだ?」
アルタート太陽王国王都ソルブランに設けられた指揮所兼仮大使館で朝食を取っていた山崎中佐に少尉が尋ねた。
「例の港街ですよ。陸軍の部隊が上陸したら敵はすぐに降伏したそうですよ。海軍さんの支援攻撃でほとんど全滅だったそうです。」
「ほーう、で敵の指揮官はどうした?」
「船で逃げようとした所を九九艦爆に沈められたそうです。」
「部下をほったらかして自分だけトンズラかい。まぁ、そうなっても仕方無いな。」
ずずっと、お茶を啜ると山崎中佐は腕を伸ばした。
「それじゃ、これで油田地帯は帝國の物か。」
「そうなりますね。本国から大使が派遣されて条約を結ぶでしょう。」
「ああ、それで俺達はしばらくここで軍事指導かい。帰って米をたらふく食いたいんだがな。」
そういうと山崎中佐は先ほど胃に収めたパンを思いだす。
「我慢してください。そう思っているのは皆同じです。」
ため息をつきそうになるのを堪えた少尉は敬礼をした後部屋を出ようとする。
「ああ、そういえば少尉。」
その直前、山崎中佐が少尉を呼び止めた。
「なんでありましょうか?」
「お前の家確か、けっこう良い所だったよな?」
「ええ、まあ確かに士族ですが…。」
「なら良いんだ。すまんな、行ってくれ。」
頭に?を浮かべながら、少尉は退室した。
その姿を見送りながら山崎中佐は心の中で、少尉に謝罪と憐憫の情を送っていた。
「すまんなぁ、少尉。これもお国の為だ…。所帯は持ってて辛い事もあるだろうが何、すぐに馴れるさ…。」
中佐の頭の中には先日少尉に来た『縁談』がグルグルと回っているのだった。
「まぁ、あんだけの別嬪さんを嫁に貰えるんだ。文句もなかろう。」
そう締めくくると、中佐も部屋を出た。後日届く小銃の受け渡しと射撃訓練の打ち合わせの為、カイゼル将軍と会うために。