自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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大陸暦1098年 7月19日 午後10時30分 サイフェルバン
海戦中、戦闘海域より南200マイルの地点で遊弋していた第58任務部隊は、迎撃部隊
とバーマント第3艦隊との決戦を艦内のスピーカーで聞いていた。
第58任務部隊旗艦レキシントンの艦橋にも、無線通信から送られてくる生々しい戦闘状況
が伝えられた。
オブザーバーであるリリア・フレイド魔道師も、艦長にすすめられて、艦橋でラジオに聞き
入っていた。
海戦が始まる前に、リリアは機動部隊の幕僚達にバーマント第3艦隊の大体の編成を聞かせた。
「フレイド君、バーマント第3艦隊は、ヴァルレキュア戦の開戦時期から派手に暴れまわって
いたようだな。」
ミッチャー中将が聞いてきた。
「はい。第3艦隊はバーマントでも最も優秀かつ、戦力の大きい部隊で、従来艦でも20隻以上、
新型艦も含まれているとすれば30隻ほどになりますね。」
「そうか・・・・・迎撃部隊にはアイオワとサウスダコタ、ワシントンの3戦艦も含まれている
から何とかなると思うが、同数で戦った前回の海戦でもモービルとデンヴァーが大破させられたからな。
リー中将は少々苦しい戦いを強いられるかも知れんな。」
ミッチャーは不安げな表情を浮かべて心配する。
リリアの脳裏に、学者肌の風貌を持つウイリス・リー中将が思い浮かんだ。
「でも、リー中将はこの艦隊の中でも最も戦艦の扱いに長けた提督でしょうから、大丈夫だと思いますよ。
それに数は22隻しかいないにしても、この時代とは別次元の軍艦ばかりですし、きっと大丈夫ですよ。」

彼女はミッチャーにそう言って勇気付けようとした。その言葉を受けたミッチャーは、彼女に
微笑んだ。
「艦隊決戦ですか。ある意味、私としては羨ましい限りですな。」
参謀長のアーレイ・バーク大佐が腕を撫しながらそう言ってきた。彼自身、元は水雷出身である。
駆逐艦を率いて、精鋭日本海軍水雷戦隊と戦った時期を思い出すのだろう。
「ハハハハ。31ノットバークらしい言葉だな。」
ミッチャーは笑いながらそう言った。

それから次々と無線の内容が入り始めた。戦況は意外なことに激戦の模様を呈していた。
敵艦を撃沈、撃破した時は歓声が上がったが、味方艦が沈没、大破した時は沈んだ気持ちになった。
そして戦いの結果は、
「撃沈、戦艦(重武装戦列艦)3隻、巡洋艦6隻、駆逐艦18隻。撃破、戦艦2隻、巡洋艦2隻」
この報告を聞いた艦隊の将兵は喜んだ。だが、味方の被害を聞くと、その被害の多さに息を呑んだ。
それも当然である。
敵艦隊をほぼ全滅させたはいいが、米海軍の被害も、軽巡1隻、駆逐艦3隻沈没。
戦艦1、重巡、軽巡、駆逐艦各1大破、戦艦、重巡、軽巡、駆逐艦格1中破、戦艦1、重巡1小破と、
この世界に来て最大級の被害を受けた。
この海戦がいかに激戦であったか。それを物語るのが、この損害報告であった。
「フレイド君、やはり精鋭艦隊の名はウソではなかったようだな。」
ミッチャー中将は、無表情でリリアにそう言った。
「だが、劣勢の艦隊で、30隻以上の大艦隊を食い止め、逆に撃滅したことはめったに無いことだ。
沈没した艦の乗員には悪いが、むしろ被害はこれだけに抑えられて正解だったと私は思う。」
バークは怪訝な表情を浮かべた。
「正解ですか・・・・・私には少々納得できませんが。私的には分散行動を取ったのは、いけないと
思うのですが。」
「後方にいた我々があれこれ言ったって仕方がないよ。多くの損傷艦が出たのは痛いが、
虎の子の敵艦隊を撃滅したんだ。そこの部分は、両手を上げて喜んでいいのではないかな。」
ミッチャーは苦笑しながら、バークに言った。

7月19日、午前7時 サイフェルバン沖
作戦室に入ってきたスプルーアンスは、幕僚達に朝の挨拶を行った。
「さて、昨日の海戦の詳細は?」
まず、彼は昨日の海戦の続報を幕僚達から聞きだした。昨日の海戦の終了宣言が、
旗艦インディアナポリスに報告されたのは9時40分の頃だった。
スプルーアンスは暫定的な結果報告を聞くと、後は幕僚達に任せて睡眠を取っていた。
「味方艦の被害、戦死傷者の報告から教えてくれ。」
情報参謀のアームストロング中佐が、紙を見ながら説明し始めた。
「味方艦の被害ですが、沈没艦は軽巡ホノルル、駆逐艦モンセイ、ベネット、セルフブリッジ、
大破は戦艦アイオワ、重巡ウィチタ、軽巡オークランド、駆逐艦ゲスト、中破は戦艦サウスダコタ、
重巡キャンベラ、軽巡モントピーリア、駆逐艦ヤーノール、小破は戦艦ワシントン、重巡ニューオーリンズであります。」
「多いな。」
スプルーアンスが思わず呟く。昨日も一度伝えられているが、改めて伝えられると、ショックが大きい。
軽巡や、駆逐艦の損失は覚悟していた。
だが、戦艦のアイオワが傷ついた事は少々胸が痛んだ。だが、沈まないだけましだと思った。
「A部隊の損害が特に多いな。」
「敵艦隊が全力でA部隊に突入したため、結果的にA部隊に損害が集中することになりました。」
「だが、もし分散していなければ、敵艦隊を逃していた可能性もあった。リー中将の選択は正しいよ。」
スプルーアンスはリー中将の選択を評価した。
「死傷者は?」
「死傷者ですが、沈没艦のホノルルが戦死84、負傷127。モンセイが戦死50、負傷58。
ベネットが戦死78、負傷130。セルフブリッジが戦死43、負傷120。他、
大破した戦艦アイオワを始めとする損傷艦は、合計で戦死480、負傷1500です。
合計すると、戦死735、負傷1935人となっております。」

スプルーアンスは顔をしかめた。
「約2800人以上の死傷者を出したわけか・・・・・・・・これはまずいな。」
「今回の海戦では、戦力が少なかったことが大損害を出す原因です。」
作戦参謀のフォレステル大佐が言い始めた。
「今後はあらゆる手段をもって、敵の水上部隊侵攻に備えるべきです。」
「確かにそうだ。それにしても、旧式戦艦部隊があればなあ。」
スプルーアンスはそう呟いて天井を見つめた。
第5艦隊には、リー中将指揮下の機動部隊随伴戦艦7隻の他に、6隻の旧式戦艦主体の艦隊があった。
だが、その旧式戦艦部隊は、現世界のマッカーサー率いる南西太平洋軍の支援をしていた最中で、
メジュロ環礁にはいなかった。
(せめて、旧式戦艦部隊がいる時に、この世界にタイムスリップしていたらなあ)
スプルーアンスはそう思った。だがその思いをすぐに打ち消した。
(無いものねだりしても始まらんな。いや、旧式戦艦部隊はいなくても、高速空母部隊がある。
夜間は使えんが、昼間の攻撃には絶大な威力を発揮する。この高速空母部隊も、ホーランジアに
出港する予定だったから、タイミング的にまだ良かったのかもしれん)
彼はそう思い直し、視線を戻した。
「まあ、大損害は出たとはいえ、敵の重武装戦列艦などのバーマント海軍の主力を、一気に壊滅できたことは賞賛に値する。
さて、敵の損害はどれぐらいだね?」
「捕虜にした戦列艦の情報によると、重武装戦列艦には1600人、中型戦列艦には800人、
駆逐艦クラスの小型艦には250人が乗っていたと言っております。このうち、我がほうが救助した敵兵は3800人です。」
「合計すると、戦死者、行方不明者は16000人以上か・・・・・・・敵ながら悲惨なものだな。」
実に米側の8倍ほどの被害である。スプルーアンスは内心でぞっとした。
「今度からは警戒部隊の対策も、もっと練らねばならんな。」
スプルーアンスは、この後、損傷艦にウルシーの帰還を命じた。

会議が終わった後、インディアナポリスの甲板上でスプルーアンスは散歩を行った。
今回は参謀長のデイビス少将を誘った。
散歩が開始されてから10分ほどたった頃、デヴィソン少将が話し始めた。
「司令長官。」
「どうした、デイビス。」
「実は以前から気になっていた事があるのですが。」
「気になっていることか。もしや、将兵のことかね?」
「はい。この異世界にマーシャル諸島ごと連れて来られ、もう2ヶ月以上経ちます。その間、
わが第5艦隊は軽空母をはじめ、少なからぬ艦と人員を失い、傷つけられました。上陸軍にも
少ないながら、犠牲者は出ています。」
「君が言いたいのは、将兵の士気低下のことだな?」
「はい。その通りです。我々は帰る故郷を失ったもの達です。今は第5艦隊の各将兵達は懸命に
バーマントと戦っております。しかし、これも長続きはしないのではないのでしょうか?」
「ふむ。私は時折インディアナポリスの乗員連中と話をするのだが、よく聞かれることがあるのだ。
いつ帰れるのですか?とな。その度に、私は答えに困ったものだよ。」
「そうなのですか・・・・・・・その時、長官はなんと言っておられるのですか?それとも、
答えてはいないのですか?」
「必ず答えているよ。気が付くと、どれも同じような答えだったな。私はこういっているのだ。
「「いつかは分からない。だが、あのような大国には必ず政策に反しようとするものがいる。
特に国家が悪逆な政策を実施するときは、それを心良しとしない人もかなりいるはずだ。
我々はヴァルレキュアも救うと同時に、バーマントの国民に、自分達の軍隊が行ってきた愚かさ
を知らしめる必要がある。そして、我々が、バーマントの国家体制を転覆させる原材料となれば、
その時は必ずもとの世界にも帰ることができる。希望は無いと言うわけではない。必ずあるのだ。」」
とな。まあ、どこぞの神様が訓示しているような文体みたいだが、兵は熱心に聞いていた。」

そう言いながらスプルーアンスはやや顔を赤らめた。彼は考えながら言っていただけであったが、
バーマント国内には、少しずつとだが、革命の準備が進められていた。
「どうも、私はこういう、人を納得させるのが昔から苦手でな。相変わらず、自分がまだまだ未熟
だと言うことが分かるよ。」
彼は苦笑しながらそう言った。
「いや、別に下手糞ではありません。むしろ長官の判断能力はうまいです。」
「買い被りすぎさ。私など、ただの平凡な軍人だよ。むしろハルゼーのほうが合衆国海軍には必要
かもしれんよ。」
そんなことはない、あなたはかのキング提督に認められている人ですから。デイビス少将は内心で
そう言った。
米海軍の実質的ナンバー2であるアーネスト・キング提督はスプルーアンスの事を高く評価している。
キングの評価はもともと厳しいことで有名で、現世界の太平洋艦隊司令長官ニミッツ大将をあまり
信用してはおらず、米海軍で最も有名なハルゼー提督などは、ただの猪突猛進が取り柄の馬鹿者
としており、噂ではハルゼーを首にするタイミングを図っているという。
そんな中で、自分は平凡と言っているスプルーアンスを、キングは将来合衆国海軍を担う提督に
なると予想していた。そして実際に、第5艦隊という史上最強の艦隊を任されているのである。
(あなたは平凡な軍人などではありません。むしろ智将ですよ。)
デイビス少将は、ここ2ヶ月間のスプルーアンスの仕事振りを思い出しながらそう思った。
「とりあえず、今後は上陸部隊の将兵の事も、これまで以上に考える必要があるな。
近いうちにサイフェルバンに上陸して、将兵の意見を聞きたいな。」
スプルーアンスは、いつもと変わらぬ表情でそう呟いた。
その後、2人は40分ほど、甲板上の散歩に興じた。

7月20日 午前8時 バーマント公国首都ファルグリン
「一体、なんだこの数字は!!」
皇帝は、渡された紙を握りつぶしながら、海軍最高司令官のグラッツマン元帥をなじった。
「たかが10隻そこらの艦隊に、第3艦隊がやられるとは!海軍の将兵は居眠りでもしておるのか!?」
「いいえ。敵艦隊は20隻おりました。」
「20隻だと?敵主力艦はどれも中型戦列艦ぐらいの大きさではなかったのかね?」
「違います。実を言うと、敵艦も巨大な軍艦を投入してきたのであります。」
グラッツマン元帥は副官に向かって顎をしゃくった。副官が1枚の紙製の封筒を差し出した。
乱雑な方法でひったくると、中から何枚もの写真が出てきた。
「高速戦列艦リューリングから捉えた敵艦の写真です。距離は1万メートルほど離れています。」
写真は合計で8枚ある。そのうちの4枚は敵の巨大艦を写したものだ。この写真は、艦橋にいた映写機を
持った兵が、決死の覚悟で撮影したものである。
写真は白黒だが、ハッキリとわかる。4枚の写真には、尖塔のような艦橋を持ち、中央部にはコンパクトに
纏められた2本のほっそりとした煙突、それでいて巨大な3つの砲塔が、左舷側に向かって閃光を放っている。
イメージからしてほっそりとしており、優美な感じがある。
「美しい・・・・・」
皇帝は思わずそう呟いた。
そして同時に、皇帝はその大きさに息を呑んだ。写真からして、この巨大艦の全長は、バーマントにあるどの
重武装戦列艦よりもでかい。

現在就役間近のゲルオール級よりも巨大だろう。
「生き残りの情報によれば、巨大艦は1隻で5隻の重武装戦列艦を相手に5分に戦っていたようです。
その後、この写真に写っている艦は撃破されます。」
「撃破したのか。ならなぜ負けたのだね?」
「巨大艦はこれだけではありませんでした。これよりは少々小さめではありましたが、さらなる巨大艦が
2隻も現れました。性能的には、いずれもこちらの33・8センチ砲を上回ります。口径は、恐らく
40センチ以上はあり、スピードは1隻目が30ノット以上、他が28ノットは出ていたと、生き残りは
そう話しています。」
「40センチ以上!?」
皇帝は思わず唖然とした。ゲルオール級でさえ、35・7センチ砲なのである。これでさえ、
起工当初はこのゲルオールこそ世界最強だと考えていた。
だが、異世界軍の巨大艦の主砲は40センチ!
当然それに対応した装甲になるから、艦自体も極めて頑丈である。1隻相手に5隻が束になってかかっても、
なかなか打ち倒せない理由もわかる。
皇帝はそう納得した。
「だが、現有戦力がこれだけしかない以上はいたし方あるまい。それに、頑丈な敵艦とはいえ、無敵ではない。
現にこの写真の巨大艦は数に負けたのだからな。」
皇帝はそう言うと、やや気が楽になった。所詮船は腐っても船。沈まないものは無いのだ。
「壊滅した第3艦隊ですが、他にも敵艦を多数撃沈し、また多数に被害を与えました。現時点では、
戦術的には引き分けであります。」
「引き分けか・・・・・・・・敵輸送船団を討ち取らなかったことは気に入らんがな。」
皇帝は玉座にふんぞり返ってそう言った。

「だが、数さえ揃えれば、敵艦も撃沈できることが分かった。この事が分かっただけでも、
今回の海戦の得るものは大きかったな。」
(高い授業料を払わされましたがね)
グラッツマンは内心で毒づく。現在、バーマント海軍にはザイリン級が2隻しかいない。
ゲルオール級が3隻、1ヶ月単位に就役するから戦力差は埋まると思うものの、敵艦に対しては
あまりにも役不足である。
(だが、ありったけの艦艇をアメリカ艦隊にぶつければ、敵に望外な被害を与えることもできるな。
だが、やはり第3艦隊壊滅は痛すぎるな)
内心でそう思った。その時、若い士官が血相を変えた表情でグラッツマンに耳打ちをした。
それを聞いた瞬間、グラッツマンは卒倒しそうになった。

7月20日 午後4時 グランバール沖南東200マイル
艦載機が空母に着艦したあと、エレベーターによって格納庫に入れられていった。
「司令官。最終報告です。」
艦橋から作業を見つめていたミッチャー中将は、バーク参謀長から報告を聞く。
「第4次攻撃隊、敵鉄道施設および軍港施設をおよび。敵施設の壊滅に成功。以上であります。」
「4次合計600機の攻撃は成功か。これで敵の軍港はしばらく使えないだろう。」
第58任務部隊は、グランバール沖まで北上した後、7月20日の午前7時に第1時攻撃隊160機を
第1、第2群から発艦させた。
午前9時には第3、第4群から第2次攻撃隊200機、午後1次に第1、第2群から第3次攻撃隊160機、
午後2時に第4群から第4次攻撃隊80機を発艦させた。
この攻撃で、敵軍港にいた中型戦列艦3隻、小型戦列艦7隻を大破着低させ、軍港から脱出した3隻の小型戦列艦も、
ヨークタウン隊のヘルダイバーが急降下爆撃で撃沈した。
それに軍港施設、鉄道施設、軍事施設は残らず爆弾や機銃弾を受け、ここにしてバーマントでも有数な軍港、
グランバールは潰滅した。

その日以来、バーマント公国は、ついに海軍も増援部隊を送らないことを決定し、包囲されたサイフェルバンは、
事実上、陸の孤島と化した。

7月30日 午後4時 サイフェルバン
ここはサイフェルバン方面軍の司令部地下壕。
ここの作戦室で、ヴァルレキュア殲滅軍総司令官であるバリッチ・ローグレル騎士元帥は、幕僚達と
共に今後の作戦について話し合っていた。
「さて、今日おきなわれた第3回目の突破作戦も中止に終わったわけだが、今後はどのような方針で
行きたいと思うかね?」
ローグレル騎士元帥はしわがれた声でそう言った。
元々、健康な顔つきであったが、今では顔はげっそりと痩せこけ、目にくまができている。
それでいて目だけはぎらついている。
他の幕僚たちもみな似たようなものであり、傍目から見ると、まるで幽鬼の集団である。
「今後の作戦ですと?」
バーマント第1航空軍司令官クローン・アイク中将がひきつった笑みを浮かべた。
「もはや飛空挺部隊も、地上部隊もすっかり壊滅した今、作戦などまともにできやしませんよ。」
「私もアイク中将に同感です。」
参謀長のジュレイ中将も言う。
「残った兵員は半数以上がまともに動けぬ負傷兵ばかりです。こんな状態でもはや装備優秀なアメリカ軍に、
さらに戦いを挑むなど、部下に死ねというものです。」
米軍の包囲されたサイフェルバン方面軍は、3度の突破作戦を敢行した。2度目は夜で、3度目は昼間に行った。

だが、いずれも米軍の猛烈な反撃に会って撃退された。特に今日行われた3回目の突破作戦では、
これまで以上の兵力を投入しながら、陸空一体作戦を取る米軍の前に全滅に等しい損害を受けてしまった。
この3回目の突破が失敗した時点で、18万いたサイフェルバンのバーマント軍は、まともに動ける
ものだけで2万。
負傷者も含めると7万と、身の毛のよだつような損耗振りである。
あとの兵は死ぬか、敵の捕虜となっている。
「ファルグリンの総司令部からは、全滅を賭してでも敵中突破をせよと、念を押すように言って
きている。これで6度目だ。」
ローグレル元帥は、力の無い口調でそう呟いた。
「いや、司令官!兵員は少なくなったとはいえ、まだ戦力はあるのです!!」
バーマント第9軍司令官であるレリルグ中将が肩を怒らせてそう言ってきた。
「わが第9軍の兵力はまだ8000ほどが健在です!残りの兵も総動員すれば、今度こそ突破できます!」
「敵に与えた損害を知っているのかね?」
ローグレル元帥は冷たいまなざしで彼を見つめた。
「ここ3度の総攻撃で、敵に与えた損害は、推定でわずか2500だ。
こっちは何万もの犠牲を出しているのに、たったの2500だ。損害甚大戦果僅少。
レリルグ君、もはやこれは戦争ではない。」

ローグレル元帥は、頭を抱えながら言った。
「これは・・・・・虐殺だよ。」
彼の言葉に、一同はしーんと静まり返った。
「私は、今まで祖国に尽くしてきた。どんな命令にも従ってきた。
だが、この戦いで我々がヴァルレキュアにしてきた事がよく分かったという気がするのだ。」
かつて、ローグレル元帥の部隊もヴァルレキュアに侵攻して、わずかながらの敵を何度も
包囲殲滅してきたことがあった。
その包囲されてきたヴァルレキュア軍の将兵の気持ちなど、全く分からなかった。
だが、こうして米軍に包囲されると、いかに恐ろしい結末になるか、今身をもって知ったのである。
「私は・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ローグレルは次の言葉を言おうとして口を塞いだ。だが、彼は考えた。
(味方の死も、全く気に留めず、無茶苦茶な命令ばかりを出す祖国に一体何の後悔がある?
疑心暗鬼だけで敵国に攻め込むことを決意した国にこれ以上尽くす必要はあるのか?
そして、俺たちをあっさり見捨てた祖国に、あれこれする必要があるのか?)


そんなものは・・・・・・・・・・










ない!!

内心、決意した彼は、顔を上げて自分の今の心境を打ち明けた。

大陸暦1098年 8月1日 サイフェルバン
アメリカ第5艦隊司令長官、レイモンド・スプルーアンス大将は、破壊を免れた
サイフェルバン軍政庁舎に幕僚を連れて入っていった。
3階建てのこの建物の天辺には、悠然と翻るアメリカ合衆国の国旗があった。
「それにしても、敵さんがいきなり降伏してくるとは予想外だったな。私が思うには、あと3週間
は包囲状態が続くかと思っていたのだが。」
スプルーアンスは歩きながら後ろのマイント・ターナー魔道師に問いかけた。
「捕虜から聞いた話では、総司令官のローグレル元帥は、部下思いの将軍として知られていたようです。」
「という事は、これ以上部下が死んでいくのは耐えられなかったということのなのか?なんて無責任な。
自分達だって多くの無実のヴァルレキュア人を殺めたくせに。」
参謀長のデイビス少将がはき捨てるような口調で言う。
「しかし、今回のサイフェルバン戦では、意外に味方の損害が少なかったですな。武器などはある程度節約
しながら使用していたので、犠牲は多くなるだろうと思っていたのですが。」
第5水陸両用軍団司令官であるホーランド・スミス中将が、拍子抜けしたような表情で言った。
上層部が推定した数字では、上陸軍のサイフェルバン戦での戦死者は1780人、負傷者は5800人と出ている。
本来はこの2倍の死傷者が出ると予想されていた。
なにしろ相手は10万以上の大軍である。それに対し、こちらの攻略部隊は6万ほどしかいない。
しかし、装備の優秀さ、そして将兵の闘魂が、明暗を分けたのである。

2階の真ん中にある大きな部屋の入り口に来た。
入り口の両脇には、武装した海兵隊員が直立不動の体制で彼らを出迎えた。
「どうぞ、こちらです。」
先導していた大尉の階級章をつけた若い将校がドアを開ける。
キイッという音がして2枚のドアが、左右に開いた。
そこには長いテーブルにいくつかのイスがかけられている。そこには6人ほどの人がいた。
その真ん中に総司令官らしき人物が座っている。
スプルーアンスらが入ると、彼らは一斉に立ち上がった。
彼らは、スプルーアンスを見て少々驚いているようだが、すぐに元の無表情に戻った。
スプルーアンスが彼らの反対側に来ると、バーマント側から自己紹介を始めた。
「私が、サイフェルバン方面の最高司令官である、バリッチ・ローグレルです。」
それから次々と、バーマント側は自己紹介行った。
「私は第5艦隊司令長官のレイモンド・スプルーアンス大将です。あなた方の奮闘振りは、
敵ながら見事なものでした。」
スプルーアンスの言葉に、ローグレル元帥は目を丸くした。
まさか敵将から褒めの言葉があるとは思っても見なかった。
それから米軍側も自己紹介を終え、席に座った。
「それでは、最終確認に移ります。あなた方バーマント軍サイフェルバン方面軍は、降伏するのですね?」
「はい。」
「分かりました。では、この文書にサイン願いたい。ここの欄に、あなたの名前を書いてもらいたい。」
スプルーアンスは降伏文書の紙を渡した。
ローグレルはしばらく見つめた後、参謀長から書き物を渡され、バーマント後の自分の名前を書いた。
「どうぞ。」

ローグレルは感情のない口調で文書をスプルーアンスに渡した。
スプルーアンスは渡された文書の欄に、自分の名前を書いた。
(敗軍の将というものは、こうもみじめなものなのか。)
スプルーアンスは、名前を書きながらそう思った。
内心、彼はバーマント軍側代表の姿を見て仰天していた。
その姿は、まるで生ける屍のような感じであった。
もはや何もかも絶望した。そう言わんばかりの姿だった。
書き終えたスプルーアンスは、傍らの士官に文書を渡した。
「これで正式に降伏を受け入れました。あなた方は名誉ある捕虜として、我が軍とヴァルレキュア軍
の管理下に置かれます。」
「はい。」
「それから、余計な事かもしれませんが、おひとつ質問してもよろしいでしょうか。」
「なんなりと。」
ローグレルは、表情を少し変えながら頷いた。
「あなた方はどうして降伏を決意したのですか?」
彼の問いに、ローグレルは腕を組んで考え込んだ。2分、4分と時間は流れていく。
ヴァルレキュア側随員として参加していたマイントは、このまま何も語らないのではと思った。
6分ほど経ってローグレルは口を開いた。

「降伏を決意した理由は、本国に愛想を尽かしたからです。元々、我が祖国バーマントは、皇帝も
国民も穏やかで、いまのような過激な事をする国ではありませんでした。しかし、現皇帝が即位し
たとたん、私たちの国は隣の国、グレンドールという国に侵略を受けました。この国からは前々から
緊張関係にあったのですが、それがついに爆発したのです。それは30年前のことです。その時は
敵軍を完膚なきまでに叩き潰し、国境まで押し返しました。わが国がおかしくなったのはそれからです。
以来、バーマントは対外政策を積極的に取るようになり、ついには大陸統一を旗印に各国に侵攻したのです。
そして大陸もほぼ統一し、しばらく平和であった3年前、ヴァルレキュアがわが国を狙っているという噂が起こりました。」
「噂ですか?」
スプルーアンスが怪訝な表情で聞いてきた。
「はい。最初はちょっとした噂だったのです。ですが、近年、技術力が格段に向上してきた
ヴァルレキュアを潰そうと言う一派が、この噂を勝手に広げ、ついには技術力の充実しつつある
ヴァルレキュアが、わが国を根絶やしにしようと準備していると言うとんでもない噂に発展しました。
そして2年前、ついにわが国はヴァルレキュアに進軍したのです。
当時、進軍する2ヶ月前までは、統一派と反対派がおりました。反対派が活動している間は、
ヴァルレキュア進軍は行われませんでした。ですが統一派の一部が反対派を嵌め、それがきっかけで
反対派はほとんどが粛清されました。」

「あなたはどちらの位置にいたのだ?」
横からホーランド・スミス中将が入ってきた。
「私はどちらかというと、統一派の位置にいました。昔は私も、大陸統一こそが、この国を救うと
考えていました。ですが・・・・・・」
ローグレルはスプルーアンスたちを見回した。
「あなた方のお陰で、私は祖国の政策の間違いに気づきました。」
「先ほど、あなたは祖国に愛想が付いたといったが、どうしてなのだね?」
「実を言うと・・・・・・我々は見捨てられたのです。包囲された後、首都の司令部からは、全滅を賭して
でもサイフェルバンで時間を稼げと言ってきたのです。しかし、もはや、食料も付き、戦う気力も失い、
戦える状態にはありませんでした。わが国では、現皇帝に変わってからは部隊の撤退などが
認められなくなりました。その結果、全滅した軍も少なからずあります。その方法でも、まだ敵が我々より
劣っている場合は良かった。ですが、その方法もあなた方には通用しない。それが分かったから、私は降伏を決意しました。」
ローグレルの話しを聞いていたスプルーアンスは頷いた。
「あなたの判断は正しい。その英断によって、多数の将兵の命が救われました。ローグレルさん。
私としても、若い将兵の命を失わずに済んだことは本当にいいことだと思います。」
「そうですか。」
最初は無表情だったローグレルも、今では微笑を浮かべていた。

「私は、武人として貴方のような素晴らしい軍人と、そして軍隊を相手に戦った事を本当によかったと思う。
そして、私は貴方の軍に負けたことに悔いはない。」
最初、スプルーアンスが現れる前までは、ローグレルは米軍の代表に罵詈雑言を言われると思っていた。
実際、バーマント軍では勇戦するヴァルレキュア軍に対して、聞くに堪えないような言葉を浴びせたり、
降伏してきた司令官を罵ったりするなどは日常茶飯事だった。
(きっと俺も、色々言われるのだろうな。だが、それも仕方が無い。)
彼はそう思い、これから起こるであろう聞くに堪えない言葉に耐えようとしていた。
だが、実際に現れた敵の総大将は、一見どこぞの教師を思わせるような風貌で、彼のイメージとは
全く違っていた。
それに言葉遣いも丁寧で、覚悟していた罵詈雑言も全く聞かれなかった。ローグレルは拍子抜けした。
むしろ、彼らの待遇ぶりには好感を覚えた。
(ヴァルレキュアの軍も確か、こういう感じだったな。)
ローグレルは、とある将軍の体験談を思い出して、内心で呟いた。
「今後、あなた方はウルシーの捕虜収容所に送られます。不遇な事もあるとは思いますが、
我慢をお願いします。」
「分かりました。」
こうして、米側とバーマント側の降伏確認は終わった。
サイフェルバン戦では、米軍は上陸軍が1780人、海軍が1509人の戦死者、負傷者が
上陸軍5800人、海軍3000人となっている。負傷者で再起不能者は2000人に上る。
バーマント側は戦死者67500、負傷者80000、捕虜40000を出した。

ここにして、バーマントでも優良な港を持つサイフェルバンは陥落したのである。

8月3日、午前8時 サイフェルバン米占領軍司令部
スプルーアンスは、魔道師であるリリア・フレイドとマイント・ターナーと話をしていたとき、
直属副官のチャック・バーバー大尉がスプルーアンスの肩を叩いた。
「司令長官。」
「なんだね、チャック。」
スプルーアンスは振り向いて答えた。
「実は、バーマント軍の捕虜の高官が、司令長官に会いたいと。」
「どうしてだね?」
「なんでも、司令長官に是非話したい事があると言っておりました。」
「そうか。で、本人は?」
「個室で待っています。」
バーバー大尉は、とある部屋を指差した。
「そうか。では会ってみよう。」
スプルーアンスは、リリアとマイントの話を一旦中断し、バーバー大尉と共に捕虜の高官が待つ部屋へと急いだ。
バーバー大尉がドアを開けると、そこには、サイフェルバン方面軍参謀長であったジュレイ中将が畏まった姿勢で座っていた。
スプルーアンスはやや距離を置きつつも、用意されたイスに座った。
「あなたはジュレイ中将だね?始めてあったときから思っていたが、中将にしては少々若いね。年はいくつだね?」
「38になります。」
「なるほど。で、早速本題に入ろう。私に話したいこととは何だね?」
スプルーアンスは腕を組みながらそう言った。
「はい。実は、司令部の要因には黙っていたことなのですが、わがバーマン公国内では、
革命の準備がゆっくりとですが、着々と進行しつつあります。」
スプルーアンスは、一瞬電撃が走るような感じがした。革命?まさか、
「嘘ではないだろうね?」
「いいえ、本当です。実は、私もその革命グループのメンバーなのです。これが証拠です。」
ジュレイ中将は左腕をまくった。そこには、微かだが何かの紋章があった。
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