自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

130 第100話 超空の要塞

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第100話 超空の要塞

1484年(1944年)1月4日 午前7時 ミスリアル王国フラナ・リレナ

この日、フラナ・リレナは久方ぶりに晴れていた。
年末から年明けにかけては、天気が悪く、年が明けて2日ほどはずっと雪が降っていた。
その雪も、天候が回復するに従って降り止んでいる。
とはいえ、フラナ・リレナの各所には未だに雪が積もっており、気温も低い。
町は今、ようやく夜の静まりから、ゆっくりと抜け出しつつある。
その静まりが急速に抜けたのは、太陽が見え始めた午前7時ごろであった。

「ふぅ~、久しぶりの猟だ。今日こそはでかい獲物を取りたい物だ。」

家から出て来たエルフの少年は、軽い体の体操をしていた。

「兄さん、起きるの早いよぉ。もうちょっと遅くてもいいんじゃない?」

家の中から、少年の妹が眠たそうな表情を浮かべながら言って来た。

「ばか。今がちょうどいい時間なんだ。ホラ、早く道具をよこせ。」

少年は妹に仕事道具である弓矢を持って来るように言った。ちなみに、少年の年齢は18歳、妹は17歳である。
妹は既に彼の道具を持っており、彼女ははいはいと、だらけた口調で言いながら道具を渡した。
飛行機の爆音が聞こえ始めたのは、その時であった。

「あれ?飛空挺の音だわ。」
「そうだな・・・・アメリカ軍の飛行機かもな。」

妹の言葉に、少年は何気ない口調で答えた。
フラナ・リレナには、昨年から同盟国であるアメリカ軍の航空部隊が駐留している。

この町の近郊にあるレイドネイブとルイシ・リアンと呼ばれる地区に、アメリカ軍はそれぞれ1つずつ飛行場を置いている。
少年の家は、ルイシ・リアンにあるため、アメリカ軍の飛行場はすぐ近くにある。
飛行機の爆音が聞こえ始めて1分が過ぎた時、いきなり家の奥から誰かがどたどたと音を立てて走って来る音が聞こえた。

「お姉ちゃん!もしかして、アメリカ軍の飛空挺!?」

異様に目を輝かせた弟が、妹に聞いて来た。
今年で12歳になる弟だが、この弟の趣味はアメリカ軍の飛空挺を見、その見た光景を絵に書いていくことである。
その絵は、まだ10代前半の少年とは思えぬほど綺麗で、しっかりと描かれている。
知り合いとなった(いつの間にか知り合いを作っていた)アメリカ軍の兵士からもかなりの評価を頂いている。
ちなみに、この弟が一番好きな飛空挺は、B-17フライングフォートレスだ。

「起きて来たわね!この飛空挺オタク!」
「答えてよ!アメリカ軍の飛空挺がすぐ近くに来てるんでしょ?」
「ええ。恐らくそうね。ていうか、ここら辺を通るのは大体アメリカ軍の飛空挺ばっかよ。皆同じよ。」
「同じなんかじゃないよ!サンダーボルトやマスタングみたいな戦闘機と、フライングフォートレスみたいな爆撃機は
まるっきり違うんだから!」
「はいはい。講義はそこまでよ。」

苦笑した妹が弟の口をふさいだ。
爆音は、徐々に大きくなってきた。

「音が大きいな。こりゃ結構な大型機かもしれないな。」

少年は、音のする方向。南東の方角を見ながらそう呟いた。

「フライングフォートレスかリベレーターも。いや・・・・それにしては、何か違うなぁ。」

弟が怪訝な表情を浮かべる。

弟は、アメリカ軍機のエンジン音を聞いていくうちに、その正体が戦闘機か、爆撃機かを聞き分けられるようになった。
(彼はそれを、友達に自慢している)
しかし、今聞いている爆音は、これまでに聞いた物とは違いがあった。
空はオレンジ色に染まり、朝焼けの光線が差し込んできている。
その光線が、見えなかった音の正体を彼らの目に曝け出した。

「・・・・・凄い・・・・・」

弟は、はじめて見るその飛空挺に、ただ一言呟いた。
朝焼けに照らし出された、鏡のような銀色の機体。フライングフォートレスや、リベレーターとは違い、突起が余り無い。
辛うじて、機銃座みたいな物が、ぽつっと何箇所かに出ているだけだ。
全体的にスマートだが、その大きさは、彼らが見て来た今までのアメリカ軍機よりも一回り以上もでかい。
エンジンは左右に2つずつ、合計4つだが、回っているプロペラは4枚であり、ある種の力強さを感じる。
特に、誇らしげに聳え立った大きな垂直尾翼は、この大型爆撃機の強さを如実に表しているかのように見える。
(綺麗だ・・・・それに、頼もしそうだ)
少年は、初めて目にした大型機。B-29スーパーフォートレスに、そのような印象を持った。

機体が滑走路に触れた瞬間、ガクンと強い振動が伝わる。
巨体は減速しながら、しばらく滑走路を走り続けた。

「こちら管制塔。ビッグガンリーダーへ。見事な着陸だ。そのまま駐機場に向ってくれ。」
「こちらビッグガンリーダー。了解。」

この機体の機長を務めるダン・ブロンクス少佐は、管制官にそう答えた。
機体を充分に減速させた後、ブロンクス少佐は機体を誘導路に乗せて、駐機場に入った。

「ふぅ~、目標に無事到着っと。」
「これで、一息つけますね。」

ブロンクス少佐の隣にいる、コ・パイのジョイ・ブライアン中尉が安堵した表情で語りかけてきた。

「ああ。これで飛行後の一服を楽しめるな。」

ブロンクス少佐の操縦するB-29は、第5航空軍第145爆撃航空師団所属の第69航空団第693爆撃航空群に属している。
第693爆撃航空群は、4個飛行隊48機のB-29で編成されており、第689爆撃航空群の交代として、今日着任した。
B-29は、B-17の後継機として開発された、最新鋭の長距離重爆撃機である。
全長43.1メートル、全幅30.2メートルという大きさは、先輩格であるB-17爆撃機の大きさをかなり上回る。
速度は最大で570キロ出せ、航続距離は5300キロ、爆弾搭載量は9トンと、これまたB-17やB-24を大きく凌駕している。
何よりも特筆すべき事は、高度1万メートル以上で充分な長距離飛行を行える事である。
これまでの爆撃機は、機内に与圧キャビンが無いため、高度8000メートル以上の高高度飛行は搭乗員に相当な負担を強いた。
だが、B-29は世界で始めて与圧キャビンを採用しており、搭乗員は高高度でもあまり肉体的負担を感じずに勤務できるようになった。
それに加え、B-29は初めて遠隔装置で操縦する機銃座を搭載しており、これによって、襲い掛かるワイバーンや飛空挺を迎撃する事になっている。
最新の装備をふんだんに盛り込まれたこのB-29は、まさにアメリカ航空技術の結晶とも言えた。
残りのB-29が、フラナ・リレラの静けさを、ライトR-3350空冷18気筒2200馬力エンジンの爆音で吹き飛ばしながら、
1機、また1機と飛行場に降りていく。
魔法技術を極めたエルフの国に、航空技術を極めたアメリカの最新鋭戦略爆撃機が着陸して行く光景は、この国の住人達に新時代の到来を実感させた。
やがて、48機のB-29は全て着陸し、フラナ・リレナに静寂が戻った。
ブロンクス少佐は、基地司令や航空師団、群司令の訓辞を受けた後に、これからの寝床となる宿舎に移動した。

それから2時間後。

「ふぅ~。」

ブロンクス少佐は、基地内にある休憩室で、タバコを吸っていた。

「機長。なかなか壮観な光景ですねぇ。」

彼の右隣に座っているブライアン中尉が自慢気な口ぶりで言って来た。

「まあ、確かにな。」

それに対して、ブロンクス少佐は素直に答えたが、あまり自慢気には思っていないような冷めた口ぶりである。
彼は以前、第5航空軍でB-17の機長としてカレアント公国爆撃に従事していた。
彼の乗機であったイリス・ブリジット号は幸運の機体だった。
だが、その幸運も、23回目の出撃となった1943年1月18日の空襲で潰えた。
イリス・ブリジット号は、シホールアンル軍の後方陣地爆撃に出撃した際、投弾前に右主翼のエンジンを高射砲弾によって傷付けられた。
当時、大尉であったブロンクスは、投弾を諦めて途中で引き返したが、帰路に3機のワイバーンに襲われた。
必死の防戦の末に、ワイバーン1機を撃墜したが、イリス・ブリジット号は機体を光弾によって穴だらけにされ、胴体下部銃座と尾部銃座の
機銃員が戦死した。
その後も、イリス・ブリジットは飛び続けたが、基地からあと10マイルの地点で機体が力尽き、止む無く機外に脱出した。
イリス・ブリジット号は草原に墜落し、しばらくは残骸を野に晒していた。
元々いた10人のクルーのうち、2人が戦死、無線手と機関手2人が重傷を負って本国に送還された。
この一件以来、ブロンクスの中で何かが変わった。
窓の外に見える駐機場。その列線に並ぶB-29の姿は、まさに超空の要塞の名に相応しい陣容と言える。
これなら、どのような敵と対決しても絶対に打ち勝てると言う自信が沸き起こるであろう。
だが、ブロンクス少佐は他の将兵とは違った事を思っている。
(超空の要塞・・・・か。必ず落ちる存在である航空機には、要塞という名前はなるべく付けるべきではない、と思うんだがな)
ブロンクス少佐は、醒めた気持ちで、内心そう呟いていた。
その時、休憩室のドアが開かれ、若い士官が2人ほど中に入って来た。

「あれが噂の新鋭重爆か。やっぱアメリカは凄いぜ。それにしても、やっぱ中は暖かいねぇ。」
「ああ、こんな寒い中を警備する歩哨の連中には、ちょっとばかし同情しちまうな。」

2人の若い士官はそう言うと、互いに笑い合った。彼らはブロンクス少佐の近くの席に座った。
(第133戦闘航空群・・・・戦闘機隊か。)
ブロンクス少佐は、同僚に爽やかな笑顔を振り撒く士官のワッペンを見て思い立った。
彼の乗機がルイシ・リアン飛行場に着陸する時、戦闘機の列線が見えた。恐らく、P-51かP-47のパイロットなのだろう。
彼がぼーっとしていると、その士官と目が合った。

「ん?」
「どうしたハンス?」
「いや、ちょっとな。あの、すいません。」
「俺かね?」
「はい。なんか、見ない顔だなと思ったので。もしかして、つい最近ここに配属されたばかりですか?」
「ああそうさ。」

ブロンクス少佐は微笑みながら説明した。

「それも、つい2時間前にな。」
「もしかして、B-29のパイロットですか!?」
「当たりだ。俺は第533飛行隊の飛行隊長をやっているダン・ブロンクス少佐だ。」
「初めまして。自分は第133戦闘航空群に属しています、ハンス・マルセイユ中尉であります。こちらは同僚のブラッドウォード中尉です。」
「おっ、もしかして君が今噂になっているミスリアルの星かね?」
「え、ええ。」

ブロンクス少佐の問いに、マルセイユはやや照れながらも答えた。

「こいつは驚きだ。おい、聞いたか?」
「ええ、聞きましたぜ。陸軍航空隊にドイツ人のトップエースがいたって聞きましたが、まさか目の前に居るとは。」
「確か、43機撃墜だったかな?」
「いえ、45機です。年末の出撃でまた少し稼ぎました。」
「また増えたのか!かぁ~、大したもんだぜ。」

ブロンクス少佐は、目の前に居る撃墜王に惜しみない賛辞を送った。

「いえ、そんな大した事ではありません。自分としては、敵のワイバーンや飛空挺を撃墜する事よりも、味方爆撃機や地上軍の支援に
専念しているだけです。」
「しかし、それでも43機、じゃなくて、45機撃墜は凄いよ。」

「ありがとうございます。ですが、自分としてはブロンクス少佐も大したもんだと思いますよ。」
「ほう、どうしてだい?」
「少佐も、最新鋭の重爆を操り、それも1個中隊を率いています。あんな凄い性能の重爆を1個中隊も動かすんですから、自分に劣らず大した物ですよ。」
「ハハ、どうも。」

ブロンクス少佐は苦笑しながら、片手を挙げて答えた。

「しかし、俺達が君らと同じ航空基地に配属されたとなると、その護衛に君らが当たる事もありそうだな。」
「はい。いずれは少佐の重爆隊を自分達が援護するかもしれませんね。最新鋭の重爆を護衛できるのならば、自分らにとっても名誉ですよ。」
「俺達も同感だ。何せ、陸軍航空隊きっての撃墜王が護衛してくれるんだからな。安心して爆撃に専念できるぜ。」

ブロンクス少佐はそう言った後、右手を差し出した。

「もし俺達の飛行隊を護衛する事になったら、よろしく頼むよ。君達の腕前を見て見たい。」
「自分らも、B-29の威力をこの目で見たいですね。もし護衛の機会が来たら、そん時は任してください。」

マルセイユは自信ありげに言うと、ブロンクスの手を握った。

「まぁ、シホット共が北大陸に引っ込んだ今、近いうちの出撃は無いだろう。出撃の機会が来るまでは、長い休日を送りそうだ。」
「なあに、そん時はウチらと遊びましょうよ。自分らも暇しとるもんですから。」

ブラッドウォードの言葉を聞いた一同は、思わず失笑してしまった。

1484年(1944年)1月6日 午前8時 ミスリアル王国フラナ・リレナ

「結構短い休日でしたな。」

ブライアン中尉は、左隣のブロンクス少佐に語りかけた。

「ああ。すっかり拍子抜けさ。」

ブロンクス少佐は、やや腑抜けた口調で答えた。
彼らは今、ルイシ・リアン飛行場内にある搭乗員待機室にいる。
搭乗員待機室には、第693爆撃航空群の飛行隊長、機長、副機長全員が集まっている。

「諸君、傾注!」

航空群司令であるヘイウッド・ハンセル大佐が、集まった士官達の正面に立っている。
ハンセル大佐は、一言発してからざわめきを収めた。

「昨日の着任から1日しか立たんが、疲れは取れたかね?」

彼の問いに、一番前に居た機長が答えた。

「まあ、ぼちぼちですな。」

彼の言葉に、集まった一同から笑い声が上がった。

「リーネの奴、まだ遊び足りねえな。」

ブロンクス少佐は苦笑しながら呟いた。今、ハンセル大佐に答えたのは、以前イリス・ブリジットでブロンクスと組んでいたリーネ・カースル大尉である。
イリス・ブリジット号亡き後、クルーのほとんどは彼の機に移ったが、カースル大尉と側方機銃手の1人は、他のB-29に移っている。

カースル大尉は今、ブロンクスの率いる飛行隊の2番機を率いている。
話によると、カースル大尉は昨晩、早速エルフの美女達と楽しい一日を過ごしたようだ。
そのような暇も無かったパイロット達からすれば、それだけでも羨ましい限りだが、本人としてはもうちょっと休日が欲しかったようだ。

「ぼちぼちか。まあ休養は取れたようだな。」

ハンセル大佐も笑みを浮かべながら言う。

「さて、早速だが我が航空群に仕事が舞い込んできた。」

ハンセル大佐は表情を引き締めながら、後ろに合図を送る。部屋の電気が消され、室内が真っ暗になった。
映写機にスイッチが入れられ、正面のスクリーンに明かりが灯った。

「今回、我々はこの写真に写っている施設の爆撃を命じられた。諸君らの中に知っている者はいるだろう?」

ハンセル大佐は一度だけ、椅子に座っているパイロット達の顔を見つめた。
集まっているパイロットのうち、何人かは見覚えがあるのだろう、首を頷かせている。
B-29のパイロットには、B-24から転向してきた者も少なくない。この航空群でも同様であり、何人かはあの暗黒の月曜日を体験していた。

「知っている物が居るようだな。そう、ここはルベンゲーブだ。」
「ルベンゲーブ・・・・去年の6月にB-24で爆撃した、あの魔法石精錬工場か。」
「そうだ、ミスターブロンクス。」

ブロンクス少佐の声は、ハンセル大佐に聞こえていた。

「ここに写っているのは、南ウェンステルから発進したF-5(P-38の偵察型)が撮影した写真だ。ルベンゲーブの魔法石精錬工場は、
去年の6月に、我々が所属している同じ師団の爆撃隊が攻撃し、壊滅状態に陥れている。だが、シホールアンル側は爆撃で残った施設を
再稼動させて魔法石の生産を続けている。情報部の調べでは、ルベンゲーブの魔法石生産量は、爆撃前と比べて4割程度しかないようだ。
明らかに戦略的価値は下がっているが、同地に展開している敵航空部隊は依然として相当数が配置についている。
我々第693爆撃航空群は、稼動全機を持って、この残存施設を爆撃し、殲滅する。爆撃進路は、魔法石精錬工場の南側から北側にかけて
設定する。爆撃方法は、高度1万メートルからの精密照準爆撃だ。使用爆弾は500ポンドとし、各機7トン(31発)まで搭載する。
我々の護衛には、第133と第132戦闘航空群から60機のマスタングが同行する事になっている。作戦実施は明日の午前10時だ。
ここまでの説明で、何か質問は無いか?」

ハンセル大佐は一通り説明した後、パイロット達に聞いた。

「司令。もし、ルベンゲーブ上空の天候が思わしくなければ、その時は高度を下げて爆撃を行うのでしょうか?」
「天候が曇りの場合は、高度を5000程度までに落として爆撃する。雨の場合は作戦中止だ。まあ予報では快晴と言っているから、
それほど心配する必要は無い。」

ハンセル大佐はすらすらと答えた。
(心配する必要は無いって?大ありじゃねえか。)
ブロンクス少佐は、ハンセルと違って楽観できなかった。
B-29の長所は、高度1万メートル以上の高みから爆撃できる事である。だが、長所は同時に短所でもある。
高高度爆撃が出来るのは、目標地点が晴れていた場合だ。目標上空が雲に覆われていれば、高高度爆撃は不可能になり、自然と高度を下げなければならない。
その際、ワイバーンや、最近急速に増えつつある敵戦闘機が大挙して襲って来るのはほぼ確実である。
これらに襲われれば、大抵の爆撃機では、いや、いくら頑丈になったB-29でもたまらないだろう。
本来、B-29にはレーダー照準機が装備される予定であったが、それが本格的に搭載されるのは今年の月からであり、693BG(爆撃航空群)
のB-29には1機も搭載されていない。
この状況でのハンセル大佐の判断は、一応妥当といえる。
(確かにそれが妥当だろうな。しかし、群司令はB-29の防御能力を高く買っている様だが、あまり買い被りすぎるのは良くないぜ)
ブロンクス少佐は不安げな気持ちでそう思った。
彼がそう思っている間にも、他の機長や飛行隊長はハンセル大佐に質問をしていく。

「司令。爆撃目標は複数あるようですが、我々はどの目標を叩くのでしょうか?」
「爆撃目標は4つあるが、この4つのうち、2つずつは隣接している。大雑把に言えば目標は2つに分けられるという訳だ。我々も、敵施設の
殲滅を徹底化するために、編隊を2つに分ける。まず、南東側の工場群には、ブロンクス少佐の第533飛行隊とカーネギー少佐の第585飛行隊。
北西側の工場群にはザムシン少佐の第544飛行隊とライト少佐の第545飛行隊に爆撃してもらう。爆撃目標の割り当ては、こんなものだな。」

「司令、私からも質問があります。」

ブロンクス少佐は手を上げて、ハンセル大佐に聞いてきた。

「ルベンゲーブ周辺には、大体どのぐらいの航空部隊が配備されているのですか?」
「ルベンゲーブには、ワイバーン160騎と飛空挺120機の配備が確認されている。うち、対空戦闘用にワイバーン80騎、飛空挺80機を
確保しているようだ。確かにこいつらは脅威だ。しかし、我々は高度1万メートルの高みから爆撃する。それに、低高度に降りてもマスタング60機の
他に、第3航空軍も支援すると言って来ている。最低でも100機以上の戦闘機が付いているから、奴らの思う通りの迎撃はさせないだろう。」
「なるほど。よく分かりました。」

ブロンクス少佐はそう言って納得した。
ハンセル大佐の説明は、その後も続いた。

10分後、ブロンクス少佐は少し疲れた表情を浮かべながら搭乗員待機室から出て来た。

「機長、出撃の機会が意外と早く来ましたな。」
「ああ、早すぎて拍子抜けしたよ。」

ブロンクス少佐は苦笑を浮かべながら答えた。

「確か、昨日の今頃に、俺達は近いうちに出撃はねえってタカをくくってたな。どうやら、神様は俺達の態度を見てさっさと出撃しろ、と思ったようだ。」
「ハハハ、参ったもんです。」

ブライアン中尉はそう言った時、ふとある事を思い出した。

「そういえば機長。近々北大陸の反攻作戦が開始されるっていう話、聞いてますか?」
「ああ。一応耳にして入るよ。早くても今月中には始まるらしいな。1月のいつ頃に始まるかはわからないが、恐らく今月の下旬ぐらいに
始まるんじゃないかな。」
「今月の下旬・・・・・機長。本来、自分達は1月の20日にこのミスリアルに配備される予定でしたよね。それがいきなり早まって昨日、
この飛行場に配備されています。何かおかしくないですか?まるで、急いで何かをやりたがっているみたいですよ。」
「・・・・ひょっとして、俺達は敵に対する脅し役として呼ばれたのかも知れんぞ。」
「脅し役、ですか。」
「ああ。シホールアンルのワイバーンは、高度1万以上の成層圏を飛べない。その高みから、俺達が悠々と飛んできて爆弾を落とす。その事は、
シホット共に、貴様らの対抗手段ではこの爆撃機を落とせないという事を植えつけられる。上陸前に、少しでも敵の戦意をそぎ落とそうと言う考えなのさ。」
「なるほど。だから、自分達が呼ばれた訳ですか。」
「そうだな。まあいずれにせよ、こいつ等もいよいよ、実戦で使われると言う事だ。」

ブロンクス少佐は、目の前に居るB-29を見つめた。
白銀の外板に覆われたこの重爆は、見る者を引き付ける魔力がある。
B-17と比べて洗練された感のあるこの機体が、明日、ルベンゲーブ爆撃へと飛び立つ。
ワイバーンが届かない高度1万メートルという高みを飛行するB-29を、シホールアンルの将兵が目の当たりにした時。
果たして、彼らの心境はいかほどの物であろうか。
(俺がその場にいたら、まずは参ったと思うな)
ブロンクス少佐は漠然と、そう思った。

この爆撃作戦が、後にフェイレ捜索に大きく有利に働いた事になるとは、この時は誰も知らなかった。
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