既に6人も同じ顔の人間がいるのに更に同じ顔が加わるのか、と主催の一部に困惑が見られる人選である。
松野トド松は他の兄弟同様に、ゲームがはじまって第一放送も迎えるより先にピンチを迎えていた。
松野トド松は他の兄弟同様に、ゲームがはじまって第一放送も迎えるより先にピンチを迎えていた。
「だ・か・ら! こんなドッキリあるわけないでしょ! 絶対魔法とかそういうのだわ!」
「魔法なんて信じちゃってるの? こんなのドッキリに決まってるじゃん!」
(ようやく人と会えたと思ったらこれ? マトモそうな人参加してないの?)
「魔法なんて信じちゃってるの? こんなのドッキリに決まってるじゃん!」
(ようやく人と会えたと思ったらこれ? マトモそうな人参加してないの?)
突然巻き込まれた殺し合いの場で、言い争う2人の接近に驚き、息を潜める。2人の手には拳銃が握られ、いつ銃撃戦に発展してもおかしくない。とトド松は、女子小学生2人の口喧嘩にビビりちらして、机の下で丸まっていた。
もとよりこの男、六つ子の他の5人同様高校卒業後はろくに働かず、親のすねをかじり生きるニートである。更に末っ子というのもあって、兄たちに便乗することも多い。主体的に動くのはもっぱら兄たちを出し抜くときぐらいで、自分が得することはイコール兄弟が損することとでも考えているような、譲り合いの精神などない、はっきり言って人間としては屑の部類に入る男である。だからといって悪人というわけではなく、むしろ出し抜くのに失敗してしっぺ返しを受けたり、あるいは弟だからとやり込められることも多々あるのだが、まあダメ人間であることには違いはない。
そんなトド松のダメさがわかりやすい形で出ているのが、今の子供にビビって隠れ潜む姿であった。
なにかあれば兄たちの後ろに隠れ盾にし、夜中に一人でトイレに行けない程度にはビビリなトド松。そんな彼は殺し合いと言われてそれはもうビビりまくっていた。他の参加者の多く──彼らは往々にして小中学生だった──が殺し合いに懐疑的だったり、なんなら対主催となっていたりもするのに、この男、ゲーム開始から1時間経っても、初期位置の中学校の教員室から一歩も出ていないとなれば、どれほどのものかわかるだろう。それはこういう体験にリアリティを感じるほどに突飛な人生を歩んできたからなのだが、「「「「「そんなにビビりなのはトド松だけだよ」」」」」と兄たち5人がツッコむぐらい、個人の資質として怯えまくっていた。
そんなトド松のダメさがわかりやすい形で出ているのが、今の子供にビビって隠れ潜む姿であった。
なにかあれば兄たちの後ろに隠れ盾にし、夜中に一人でトイレに行けない程度にはビビリなトド松。そんな彼は殺し合いと言われてそれはもうビビりまくっていた。他の参加者の多く──彼らは往々にして小中学生だった──が殺し合いに懐疑的だったり、なんなら対主催となっていたりもするのに、この男、ゲーム開始から1時間経っても、初期位置の中学校の教員室から一歩も出ていないとなれば、どれほどのものかわかるだろう。それはこういう体験にリアリティを感じるほどに突飛な人生を歩んできたからなのだが、「「「「「そんなにビビりなのはトド松だけだよ」」」」」と兄たち5人がツッコむぐらい、個人の資質として怯えまくっていた。
(動かなきゃってのはわかってるよ? うんわかってる。でもね、相手銃持ってるじゃん? 銃ってあれだよ、大人でも子供でも関係ないから、撃って当たれば人殺せるから! 銃さえなかったら、頼れるお兄さんで行ってたよボク!)
誰に説明してるかわからないことを言いながら、トド松は相変わらず丸まり続ける。たしかに銃は持っているが、それを当てられるかは大人と子供では大きな差があるのだが、トド松は意図的に無視していた。なお、彼の手にはサブマシンガンが握られている。その気になればいつでもJS2人をパララララできる状況だ。そうしないのはビビリであると同時にある程度の善良さがあるからなのだが、その結果がこれではいかんともしがたい。
しかし、六つ子で一番小心者であると同時に、コミュニケーション力が高いのもトド松だ。他の5人が平均以下であるからだが、少なくとも殺し合いの場で出会った初対面の相手と会話に持ち込み、互いの支給品や名簿に知り合いの名前があるかを確認する程度は人並みにできる。もっともこの殺し合いには支給品や名簿といった気の利いたものはないが。それはともかく、平常心さえ取り戻せればなんとかなるのだ。そしてそのきっかけは、幸運にも丸まり続けることでやってきた。
(うん? なんか足音聞こえない? 聞こえるな。絶対これ足音だよ。)
床につける形になっていた耳が、かすかな足音を聞き取っていた。殺し合いに乗った人間か、あるいは少女たちのように話しかけにくそうなタイプか。嫌な想像をして不安になるが、ふと思い直す。どんな人間だろうと、隠れている自分に気づくよりも、口論している少女たちに先に気づくだろう。なら少女たちへの対応を見て自分もどう動くかを決めればいい。少女たちを殺そうとするならその隙に逃げ出すし、仲間にしようとするなら便乗しよう。トド松はそう決めると新たなる訪問者の動きを待つことにした。
なお、トド松は少女たちの身の安全については一切考慮していない。武器を持って言い争う見ず知らずの子供のことなど、心配する理由はかけらもなかった。赤の他人が死のうが殺そうがぶっちゃけどうでもいい。兄たちからあまりの腹黒さに引かれるそのドライさが、追い詰められたメンタルでも理性的な動きを可能としていた。まあその腹黒いのを失言するせいでろくなことになってこなかったのもトド松なのだが。
なお、トド松は少女たちの身の安全については一切考慮していない。武器を持って言い争う見ず知らずの子供のことなど、心配する理由はかけらもなかった。赤の他人が死のうが殺そうがぶっちゃけどうでもいい。兄たちからあまりの腹黒さに引かれるそのドライさが、追い詰められたメンタルでも理性的な動きを可能としていた。まあその腹黒いのを失言するせいでろくなことになってこなかったのもトド松なのだが。
(どうか殺し合いに乗ってなくて、首輪とか外せて、銃を撃ちまくれる脱出に向けて仲間を集めようとしてる人でありますように……!)
そんなやついないだろうとは自分で思いながらも、とりあえず祈っておく。はたして現れたのは。
「ちょっと待って、マリモちゃん。今足音しなかった? だれ? だれかいるの?」
「2人とも動くな。銃を置け。」
「その声、光矢!? 生きてたの? 自力で脱出を……」
「動くな! 銃を置け!」
「なによ人を心配させておいて! ていうか、これも赤い鳥軍団の仕業でしょ! なんか知ってるなら話しなさいよ。」
「なっ……なぜ赤い鳥軍団を……」
(え、知り合い? 何この会話、話見えないんですけど。)
「2人とも動くな。銃を置け。」
「その声、光矢!? 生きてたの? 自力で脱出を……」
「動くな! 銃を置け!」
「なによ人を心配させておいて! ていうか、これも赤い鳥軍団の仕業でしょ! なんか知ってるなら話しなさいよ。」
「なっ……なぜ赤い鳥軍団を……」
(え、知り合い? 何この会話、話見えないんですけど。)
現れたのは、少女の片方の知り合いらしき少年だった。正直ハズレである。あのうるさい少女と知り合い?とかこれ絶対めんどくさいやつだよ、とトド松は苦い顔になる。しかも知り合いのはずなのに2人の話が噛み合っていない。
「!? だ、だれ! 今そこにだれかいた!」
(やっばバレた!?)
(やっばバレた!?)
これは逃げたほうがいいかと思いはじめた矢先に、もう一人の少女が叫んだ。思わずまた丸くなるトド松。言い訳を考えていると、光矢と呼ばれた少年の声。
「さっき出会ったゲームの参加者だ。ソウタ出てきてくれ。」
(もう一人いたのか……)
「もう一人いたの。で、コイツだれ?」
「コ、コイツ……阿部ソウタだ。殺し合いには乗っていない。お前たちはどうなんだっ?」
「乗ってるわけないじゃない。それよりなんでアンタ隠れてたのよ。」
「そうだよ。怪しいよね。」
(おいおい女子が結託しだしたよ。さっきまで喧嘩してたのに。)
「ソウタには隠れているように言った。お前たちが襲ってくるようなら、逃げられるようにな。」
「ほんと〜? 2人ではさみうちにしようとしてたんじゃないの〜?」
「光矢ならやるわね。で、結局アンタ火の国から逃げ出せたわけ?」
「……先からなんの話だ。火の国?」
「とぼけなくていいじゃない、こんな時なんだし。ラ・メール星のこと話しちゃってもどうってことないでしょ。」
「なぜ、なぜお前がそこまで……!」
(なんかヤバい空気になってきたよ……)
(もう一人いたのか……)
「もう一人いたの。で、コイツだれ?」
「コ、コイツ……阿部ソウタだ。殺し合いには乗っていない。お前たちはどうなんだっ?」
「乗ってるわけないじゃない。それよりなんでアンタ隠れてたのよ。」
「そうだよ。怪しいよね。」
(おいおい女子が結託しだしたよ。さっきまで喧嘩してたのに。)
「ソウタには隠れているように言った。お前たちが襲ってくるようなら、逃げられるようにな。」
「ほんと〜? 2人ではさみうちにしようとしてたんじゃないの〜?」
「光矢ならやるわね。で、結局アンタ火の国から逃げ出せたわけ?」
「……先からなんの話だ。火の国?」
「とぼけなくていいじゃない、こんな時なんだし。ラ・メール星のこと話しちゃってもどうってことないでしょ。」
「なぜ、なぜお前がそこまで……!」
(なんかヤバい空気になってきたよ……)
コミュ力が高くなくてもわかるほどに、場の空気がこじれはじめている。人間はストーブの灯油が切れただけでも誰が灯油を変えるかで心理戦をする生き物だが、この場の雰囲気は心理戦ではすまないものになるとトド松は感じていた。もちろん、そんな場所で火中の栗を拾うようなことをしたいとは思わない。やっぱりとっとと逃げようと思ったところで、しかし考え直す。ここは教員室。出口は前と後ろの2つ。そして話を聞くに、挟み撃ちできるように光矢という少年とソウタという少年がいるようだ。
(これどっちの出口も塞がれてるじゃん!? あっぶねえぇぇ!!)
ギリギリで自分が置かれた状況に気づいて踏みとどまる。もう冷や汗はダラダラだ。
(に、逃げられないよコレ! どうする、こ、このまま隠れとくしかないよね。)
「光矢さん、この女子たち知り合いなんですか?」
「手前の方は妹の同級生だ。だが……様子がおかしい。」
「様子がおかしいのはアンタよ! レンゲみたいに洗脳されてんの?」
「ねえなんでずっと百合にも銃向けてるの? あたし関係ないじゃん。」
「銃を下ろせ。いいか2人とも、銃を、下ろせ。」
「さっきも聞いたわよそれ。下ろしてほしいならアンタから下ろしなさいよ。」
「そうだよ。そっちの地味な男子も!」
「阿部ソウタだ。光矢さん、どうします?」
(いやいやいやいやダメだ。これこのあと撃ち合う。そしたらたぶんボクにも気づく。あーこれどうしよう! 勝手に撃ち合えよもう!)
(……あ、でも撃ち合いそうならボクに銃向かないんじゃないかな?)
「あー、君たち少しは落ち着きなよ。」
「光矢さん、この女子たち知り合いなんですか?」
「手前の方は妹の同級生だ。だが……様子がおかしい。」
「様子がおかしいのはアンタよ! レンゲみたいに洗脳されてんの?」
「ねえなんでずっと百合にも銃向けてるの? あたし関係ないじゃん。」
「銃を下ろせ。いいか2人とも、銃を、下ろせ。」
「さっきも聞いたわよそれ。下ろしてほしいならアンタから下ろしなさいよ。」
「そうだよ。そっちの地味な男子も!」
「阿部ソウタだ。光矢さん、どうします?」
(いやいやいやいやダメだ。これこのあと撃ち合う。そしたらたぶんボクにも気づく。あーこれどうしよう! 勝手に撃ち合えよもう!)
(……あ、でも撃ち合いそうならボクに銃向かないんじゃないかな?)
「あー、君たち少しは落ち着きなよ。」
トド松はビビリだ。だが同時に腹黒く、失言癖がある。
猫を被っていない時は、自分に被害が及ばなさそうなら、思いついたことは割とすぐに言ってしまう。
猫を被っていない時は、自分に被害が及ばなさそうなら、思いついたことは割とすぐに言ってしまう。
「なっ! 誰だ!」
「ひっ、だ、誰!?」
「ちょっと、アンタ私を盾にしないでよ!」
「動くな! 動くなよ!」
「ひっ、だ、誰!?」
「ちょっと、アンタ私を盾にしないでよ!」
「動くな! 動くなよ!」
しかし、今回はそれが幸運にも上手くいった。突然の乱入者に、少年たちと少女たちは動揺し、トド松を加えた三つ巴の状況となる。トド松の手にサブマシンガンが持たれているのを見ても、互いへと銃を突きつけ合うことをやめない。トド松がゆっくり銃をテーブルに置き、降参のポーズをしても、それは変わらなかった。
それを見てトド松はグッと心の中でガッツポーズする。
この状況で撃たれないどころか銃すら向けられないのなら、自分に弾が飛んでくる心配なんてない。そう思うと自然と口も軽くなる。
それを見てトド松はグッと心の中でガッツポーズする。
この状況で撃たれないどころか銃すら向けられないのなら、自分に弾が飛んでくる心配なんてない。そう思うと自然と口も軽くなる。
「落ちついて、ほら、銃は置いたよ。ボクは松野トド松、君たちと話がしたいんだ。」
「ならそのポケットに入れているものを出せ。」
「え、なんでわかんの!?」
「ならそのポケットに入れているものを出せ。」
「え、なんでわかんの!?」
いつもの女子向けの調子で語りかけたところに、光矢からの鋭いツッコミが入り取り乱すトド松。とたんに冷や汗が流れる。たしかにズボンのポケットに拳銃を入れているが、まさかそんなにあっさり見抜かれるとは思わなかった。
(コイツだけ他の子供より年上っぽいし、なんか雰囲気違うんだけど! 人を殺したことのある目をしてるよ。)
「出せないのか? なら……」
「待った! 出す出す!」
「出せないのか? なら……」
「待った! 出す出す!」
すっかり調子を崩して拳銃を取り出すその姿に、声をかけた時の得体のしれなさはもはやない。そのおかげで撃たれずに済んだことには気づかず、子供たちからの生温かい目だけをトド松は感じていた。
それから時計の長針が半分ほど回った頃。
阿部ソウタ
「だから! ラストサバイバルだよ、ラストサバイバル!」
「だから! ラストサバイバルだよ、ラストサバイバル!」
加山毬藻
「知らないわよそんなテレビ番組!」
「知らないわよそんなテレビ番組!」
阿部ソウタ
「テレビ番組じゃなくて……」
「テレビ番組じゃなくて……」
加山毬藻
「それより光矢、なんでフラムやミモザのことも何も言わないわけ? やっぱり洗脳されてんの?」
「それより光矢、なんでフラムやミモザのことも何も言わないわけ? やっぱり洗脳されてんの?」
水沢光矢
「……」
「……」
春野百合
「ねぇ、やっぱりこれドッキリ? はやくネタバラシしてよ〜。あたしねむ〜い!」
「ねぇ、やっぱりこれドッキリ? はやくネタバラシしてよ〜。あたしねむ〜い!」
話は全く進んでいなかった。
このバトル・ロワイヤルで親の顔よりみた情報交換のうち、トップクラスの無意味な時間の長さ。今のところわかったことと言えば、上の会話にあるように互いのフルネームと、お互いの会話が噛み合っていないということのみである。
どだい殺し合いの場でたまたま集まった人間たちがマトモに会話できる事自体が少ないのだが、会話できているはずなのにできていないパターンはなかなかない。
余談だが、トド松は名前を聞いたとき、「百合はわかるけど毬藻ってどんな名前だよ。あとソウタも入れると草っぽい名前多いよね」とクソどうでもいいことを言おうとしたが、光矢の目がマジだったのでギリギリで黙っておいた。賢明である。
どだい殺し合いの場でたまたま集まった人間たちがマトモに会話できる事自体が少ないのだが、会話できているはずなのにできていないパターンはなかなかない。
余談だが、トド松は名前を聞いたとき、「百合はわかるけど毬藻ってどんな名前だよ。あとソウタも入れると草っぽい名前多いよね」とクソどうでもいいことを言おうとしたが、光矢の目がマジだったのでギリギリで黙っておいた。賢明である。
「いや、だから、テレビじゃなくて、ラストサバイバル、いや、ラストサバイバルでもなくて。」
「アンタはっきりしなさいよ。まあいいわ、それより、今はこれからどうするかでしょ。こんな首輪付けられてるなら、外せるのはパセリぐらいだろうし。」
「先からパセリについて話しすぎだ。誰から聞いた?」
「今までさんざん冒険してきたんだからわかるに決まってるでしょ。やっぱり洗脳されてんの? それとも記憶喪失?」
「パセリってなに? あの茎の長い果物?」
「いやそれはセロリだ、パセリは野菜で……」
「セロリも野菜よ、じゃなくて、パセリは私の友達で。」
「それよりも、この殺し合いの主催者に心当たりがあるんだ……それは……!」
「いや、一度落ち着くべきだな……」
(コイツら全然話進まねぇ!)
「アンタはっきりしなさいよ。まあいいわ、それより、今はこれからどうするかでしょ。こんな首輪付けられてるなら、外せるのはパセリぐらいだろうし。」
「先からパセリについて話しすぎだ。誰から聞いた?」
「今までさんざん冒険してきたんだからわかるに決まってるでしょ。やっぱり洗脳されてんの? それとも記憶喪失?」
「パセリってなに? あの茎の長い果物?」
「いやそれはセロリだ、パセリは野菜で……」
「セロリも野菜よ、じゃなくて、パセリは私の友達で。」
「それよりも、この殺し合いの主催者に心当たりがあるんだ……それは……!」
「いや、一度落ち着くべきだな……」
(コイツら全然話進まねぇ!)
トド松は別の意味で冷や汗を流し始めていた。
本当に、本当に何も話が進まない。基本的に会話のドッジボールが続くだけで、しかもときどき会話がループしている。
特に誰かが誰かに対して話を被せるパターンが多い。話し合いに足る互いへの信頼や尊敬というものが皆無。まさしく会議は踊るされど進まず。
それもこれも、全員が拳銃という、指先一つで人を殺せる武器を隠し持てる状況が主な原因なのだが、それにしてもここまで話し合いが成立しないのは、第一印象の悪さによるところが大きい。
さっき調子を崩してからずっと聞きに徹しているトド松も、ついにポロッと思っていたことを言ってしまう。
本当に、本当に何も話が進まない。基本的に会話のドッジボールが続くだけで、しかもときどき会話がループしている。
特に誰かが誰かに対して話を被せるパターンが多い。話し合いに足る互いへの信頼や尊敬というものが皆無。まさしく会議は踊るされど進まず。
それもこれも、全員が拳銃という、指先一つで人を殺せる武器を隠し持てる状況が主な原因なのだが、それにしてもここまで話し合いが成立しないのは、第一印象の悪さによるところが大きい。
さっき調子を崩してからずっと聞きに徹しているトド松も、ついにポロッと思っていたことを言ってしまう。
「もうさ、こんなに話が噛み合わないならさ、みんな並行世界とかから誘拐されたとかでさ、終わりでいいんじゃない?」
「ふざけてるのか?」「ふざけてるの?」「ふざけてんの?」「ふざけてるんですか?」
「え!? ここだけ息合う!?」
「ふざけてるのか?」「ふざけてるの?」「ふざけてんの?」「ふざけてるんですか?」
「え!? ここだけ息合う!?」
言ったトド松もリアリティがない意見だとは思うが、それでもああも話が合わない4人にこうも口を揃えられるとさすがにへこむ。
また口を閉じたトド松をほうって、進まない話が再開された。
また口を閉じたトド松をほうって、進まない話が再開された。
実のところ、トド松が場の空気を変えたくて言った一言は的を得ている。
『集英社みらい文庫』の『おそ松さん』と『小学館ジュニア文庫』の『おそ松さん』のように、同じ世界だが全く異なる並行世界。
『映画ノベライズ』の『かぐや様は告らせたい』と『まんが』の『かぐや様は告らせたい』のように、近似した人生を歩みながらもどこか異なる並行世界。
『フォア文庫』の『妖界ナビ・ルナ』と『講談社青い鳥文庫』の『妖界ナビ・ルナ』のように、ほぼ同一の時間軸にありながらもかすかな差異がある並行世界。
様々な並行世界から様々な人間が、このバトル・ロワイヤルに巻き込まれている。
そしてこれら並行世界から同じ人間が参加させられることもあれば、異世界から参加させられることもある。
『若おかみは小学生!』と『黒魔女さんが通る!!』は互いが互いの異世界の関係にあるし、その関係を様々な世界でも実現することで、時間と空間を擬似的に自在に操ることが可能にすることを目論む主催者もいる。
『集英社みらい文庫』の『おそ松さん』と『小学館ジュニア文庫』の『おそ松さん』のように、同じ世界だが全く異なる並行世界。
『映画ノベライズ』の『かぐや様は告らせたい』と『まんが』の『かぐや様は告らせたい』のように、近似した人生を歩みながらもどこか異なる並行世界。
『フォア文庫』の『妖界ナビ・ルナ』と『講談社青い鳥文庫』の『妖界ナビ・ルナ』のように、ほぼ同一の時間軸にありながらもかすかな差異がある並行世界。
様々な並行世界から様々な人間が、このバトル・ロワイヤルに巻き込まれている。
そしてこれら並行世界から同じ人間が参加させられることもあれば、異世界から参加させられることもある。
『若おかみは小学生!』と『黒魔女さんが通る!!』は互いが互いの異世界の関係にあるし、その関係を様々な世界でも実現することで、時間と空間を擬似的に自在に操ることが可能にすることを目論む主催者もいる。
よってトド松の発言を首輪で盗聴しながら「おお」と歓声を上げた主催者もいるのだが、そのあたりの事情は当然参加者たちは知らないので、「何言ってんだこのトーヘンボクは」という扱いになるのも無理はない。
「あの……お茶、入れてくるね。」
そして更に長針が半分ほど回りそうになり、トド松は沈黙に耐えられなくなって席を立った。出会って小一時間ろくに会話が成立していない上に、見ず知らずの拳銃持った子供から白い目で見られるというのは、オシャレなコーヒーチェーンでバイトしていたらクソみたいな兄たちが来たときほどではないが逃げ出したいものだ。
教員室にあるティーセットなどを無視して部屋を出ると、トド松は校長室へと向かった。少しでも長く離れられるように、遠くでお茶菓子がありそうな場所を選ぶ。そしてゆっくりと吟味。どうせどれだけ長くしても話は進まないのだからと、思いっきり時間をかける。
教員室にあるティーセットなどを無視して部屋を出ると、トド松は校長室へと向かった。少しでも長く離れられるように、遠くでお茶菓子がありそうな場所を選ぶ。そしてゆっくりと吟味。どうせどれだけ長くしても話は進まないのだからと、思いっきり時間をかける。
パァン。
パァン、パァンパァン。
トド松が破裂音を耳にしたのは、そうして何分も饅頭を両手に持って、視線を往復させていた時だ。
「え、まさかヤッちゃった?」と想像するのは銃声。室内にあった日本刀をとりあえず手に取り、しばらくワタワタとしていると、窓の外を人影が通り過ぎた。
「え、まさかヤッちゃった?」と想像するのは銃声。室内にあった日本刀をとりあえず手に取り、しばらくワタワタとしていると、窓の外を人影が通り過ぎた。
「あの子は、マリモちゃん、だっけ?」
教員室の方から走ってきたよね、とつぶやきつつ後ろ姿を見送るトド松。破裂音が続く中、霧に消えていったのを認めて、トド松はそっと部屋を出た。すると、教員室との間にある男子トイレから、血痕が続いているのが見えた。
「まさか」とか「そんな」とか、文章にならない言葉を発しながら、トド松は近づいてしまう。頭ではヤバイとわかっているのに足を止められなかった。
1歩、また1歩と近づいていく。トイレまでの10mほどの距離が異様に長く感じられる。
響いた破裂音、教員室にいたはずなのに校舎の外を走り去って行ったマリモ、そして男子トイレから教員室への血痕。
一つ一つが恐怖をかきたて、トド松は壁伝いに歩く。消火栓のような体が隠れないようなものにまで隠れて、自分でも逃げたほうがいいとわかっているのに進む。逃げてしまうよりも、あんな同行者であっても失いたくないのか、それとも別の理由か、とにかく前へと歩く。
「まさか」とか「そんな」とか、文章にならない言葉を発しながら、トド松は近づいてしまう。頭ではヤバイとわかっているのに足を止められなかった。
1歩、また1歩と近づいていく。トイレまでの10mほどの距離が異様に長く感じられる。
響いた破裂音、教員室にいたはずなのに校舎の外を走り去って行ったマリモ、そして男子トイレから教員室への血痕。
一つ一つが恐怖をかきたて、トド松は壁伝いに歩く。消火栓のような体が隠れないようなものにまで隠れて、自分でも逃げたほうがいいとわかっているのに進む。逃げてしまうよりも、あんな同行者であっても失いたくないのか、それとも別の理由か、とにかく前へと歩く。
トド松は幸運だったのだろう。
無駄な行動だと思われるような、過剰なまでに隠れて進む行動は、むくわれたのだから。
無駄な行動だと思われるような、過剰なまでに隠れて進む行動は、むくわれたのだから。
(あれ……誰? ていうか、どれ?)
また響いた破裂音に驚いて、消火栓の影へとへばりつく。その格好のまま教員室の方を伺っていると出てきた人間の人相に、トド松は見覚えがあった。というか自分と同じ顔だ。つまり、六つ子のうちの誰か、ということだ。
(え、誰だあれ。サングラスで目元見えなかったし。ていうかなんでここにいんの? 兄さんたちも巻き込まれて。まあそれはいいけど、なんで学校のなかにいんの? それに、銃持ってたよね。まさか、ヤったのって……いやいやいやいや! そんな度胸あるヤツいないし、ありえない、うん、ありえないよ!)
トド松の胸からは恐怖心が消えていた。代わりに生まれたのは、『なぜ』と『どうして』だった。
トド松は知っている。自分の兄たちクソニートはたしかに社会不適合者だが、それでも殺人を犯しそうな人間ではない。やるんなら軽犯罪の類で、凶悪犯罪などやろうとしても自分以外は皆失敗すると思っている。実際はトド松だって失敗するだろうから、松野家の六つ子に殺人なんて、それも拳銃で撃ち殺すなんてできるはずがない。
では、なぜ。なぜ、兄たちの姿をした誰かが校舎にいたのか。自分のように隠れていて、音に驚いて覗きに来たのだろうか? それとも、なにかまた間の悪さで間抜けにも殺人現場に遭遇してしまったのだろうか?
考えても考えても答えなど出るわけがなく、そうこうしている間に兄の姿をした誰かは行ってしまった。追おうかと考えたが、迷っている間に消えてしまった。
残されたのはトド松一人。不気味なほどに音もしなくなり、深夜の校舎にはトド松だけが取り残されたような感覚になる。もはや廊下で丸まっているだけでも怖い状況に、トド松の足が動いた。血は怖いが、それより怖いのは一人取り残されること。カチカチとなる歯を噛み締めて押さえつけ、トド松はついに男子トイレに辿り着いた。
トド松は知っている。自分の兄たちクソニートはたしかに社会不適合者だが、それでも殺人を犯しそうな人間ではない。やるんなら軽犯罪の類で、凶悪犯罪などやろうとしても自分以外は皆失敗すると思っている。実際はトド松だって失敗するだろうから、松野家の六つ子に殺人なんて、それも拳銃で撃ち殺すなんてできるはずがない。
では、なぜ。なぜ、兄たちの姿をした誰かが校舎にいたのか。自分のように隠れていて、音に驚いて覗きに来たのだろうか? それとも、なにかまた間の悪さで間抜けにも殺人現場に遭遇してしまったのだろうか?
考えても考えても答えなど出るわけがなく、そうこうしている間に兄の姿をした誰かは行ってしまった。追おうかと考えたが、迷っている間に消えてしまった。
残されたのはトド松一人。不気味なほどに音もしなくなり、深夜の校舎にはトド松だけが取り残されたような感覚になる。もはや廊下で丸まっているだけでも怖い状況に、トド松の足が動いた。血は怖いが、それより怖いのは一人取り残されること。カチカチとなる歯を噛み締めて押さえつけ、トド松はついに男子トイレに辿り着いた。
「っ……!」
声にならない声を上げ、目を剥く。
人だ、人が倒れている。
明らかに銃で撃たれた姿で、血を流している。
トド松は走り出した。
それは目の前の光景からの逃避なのか、あるいはまだいるかもしれない知り合いを求めての行動か。
人だ、人が倒れている。
明らかに銃で撃たれた姿で、血を流している。
トド松は走り出した。
それは目の前の光景からの逃避なのか、あるいはまだいるかもしれない知り合いを求めての行動か。
「だ、誰?」
そしてトド松は、教員室で黒づくめの人物と相対した。
「……あ! そうだ! あの、光矢さん! トイレ行きたいんだけど、行かない?」
「……ああ、わかった。」
「……ああ、わかった。」
トド松が教員室を離れてすぐ、阿部ソウタはそう切り出して水沢光矢を連れ出した。いい加減気まずいからだ。
ソウタはラストサバイバルという、小学生が願いのために最後の一人になるまで戦うゲームのリピーターだ。何回も参戦する割には、一番最初に脱落したり、気がついたらひっそりと脱落していたりと、なかなか結果は振るわないが、それでも何度も優勝しているプレイヤーと共闘したりして時々は上位に食い込んだりもしている。
そんな彼からすると、今回の殺し合いはかなりまずいものだという意識が、他の参加者より圧倒的に強かった。ソウタが知るライバルたちは、みなソウタよりも賢かったり、運動ができたり、覚悟が決まっていたりする。そして最悪なのは、こんな異常なイベントでも、積極的に人を殺して回りそうな人間が何人かいることだ。
ラストサバイバルの参加者は、基本的に命がけで叶えたい願いがある。死にそうな家族を助けたいなんて願いを持つ参加者も、そう珍しくはない。そしてそのためならば、人を殺しかねないような覚悟を持った参加者も。この殺し合いにそういった参加者がいれば、しかも銃や刀がどこにでも落ちているのならば、絶対に殺し合いに乗ると思った。
そして最初に出会ったのが、明らかに『あちら』側の気配のある光矢だった。後ろからすごい力で押さえつけられて拳銃を頭に突きつけられたときは泣きそうになった。というか泣いた。ラストサバイバルに出た経験がなければそのまま泣きわめいていたぐらい怖かったが、涙目になりながらもコミュニケーションできたので同行に成功している。お互いこんなところで絶対に死ねない事情があって、パニックを起こさないぐらいには経験があったことが幸運だったのだろう。
そして二人は仲間を集めることを方針として行動を始めることになる。お互い危険人物に心当たりはあるが、逆にこういう場所で能力は信頼できる人間などにも心当たりがある。そして、しかしながら。
そんな彼からすると、今回の殺し合いはかなりまずいものだという意識が、他の参加者より圧倒的に強かった。ソウタが知るライバルたちは、みなソウタよりも賢かったり、運動ができたり、覚悟が決まっていたりする。そして最悪なのは、こんな異常なイベントでも、積極的に人を殺して回りそうな人間が何人かいることだ。
ラストサバイバルの参加者は、基本的に命がけで叶えたい願いがある。死にそうな家族を助けたいなんて願いを持つ参加者も、そう珍しくはない。そしてそのためならば、人を殺しかねないような覚悟を持った参加者も。この殺し合いにそういった参加者がいれば、しかも銃や刀がどこにでも落ちているのならば、絶対に殺し合いに乗ると思った。
そして最初に出会ったのが、明らかに『あちら』側の気配のある光矢だった。後ろからすごい力で押さえつけられて拳銃を頭に突きつけられたときは泣きそうになった。というか泣いた。ラストサバイバルに出た経験がなければそのまま泣きわめいていたぐらい怖かったが、涙目になりながらもコミュニケーションできたので同行に成功している。お互いこんなところで絶対に死ねない事情があって、パニックを起こさないぐらいには経験があったことが幸運だったのだろう。
そして二人は仲間を集めることを方針として行動を始めることになる。お互い危険人物に心当たりはあるが、逆にこういう場所で能力は信頼できる人間などにも心当たりがある。そして、しかしながら。
「光矢さん、マリモって人は知り合いじゃなかったんですか?」
「ああ。妹のクラスメイトだ。だが、知るはずのないことを知りすぎてる。」
「火の鳥軍団とかですか? なんなんですか、それ?」
「……」
「ああ。妹のクラスメイトだ。だが、知るはずのないことを知りすぎてる。」
「火の鳥軍団とかですか? なんなんですか、それ?」
「……」
一応立ちションするフリをしながら聞くソウタに、沈黙で答える光矢。事情があるんだろうなとそれ以上は聞かないが、頭はクエスチョンマークでいっぱいのままだ。
光矢から聞いていた話では、加山毬藻ことマリモは、妹であるパセリのクラスメイトであるということだった。そこに違いはないようなのだが、なぜか二人の話が噛み合っていない。そもそもさっきの話がぜんぜん進まなかったのも、光矢とマリモがことごとく揉めるからだ。なぜ元々の知り合いでああも話がこじれるのかとソウタは不思議に思うのだが、あからさまに人間関係がギスギスしていて聞くに聞ききれない。
光矢から聞いていた話では、加山毬藻ことマリモは、妹であるパセリのクラスメイトであるということだった。そこに違いはないようなのだが、なぜか二人の話が噛み合っていない。そもそもさっきの話がぜんぜん進まなかったのも、光矢とマリモがことごとく揉めるからだ。なぜ元々の知り合いでああも話がこじれるのかとソウタは不思議に思うのだが、あからさまに人間関係がギスギスしていて聞くに聞ききれない。
実は光矢の参戦時期はマリモの参戦時期から大きく離れているからこじれているのだが、そのことに本人たちが気づくことはなく。むしろ、トド松にツッコミを入れたことでより気づきから遠のいていた。それでも二人の仲が良ければ話は違ったのだが、基本的に二人はそこまで仲が良くない。パセリという共通の重要人物がいる、『友達の友達』のような関係。それでもマリモからすれば、様々な冒険を共にした仲間という扱いなのだが、光矢からするとその関係になる前なので、話が噛み合うはずもなかったのだ。
そんな事情はとうぜんわからず、ソウタはどうしたものかとトイレに落ちていた手榴弾を調べる光矢の背中を見る。怖いけれど頼りになりそうな人だと思ったら、よくわからないトラブルが起きた。今までラストサバイバルを通じて、ひたすら歩いたり目の前で女子が橋を爆破したりと、非日常的な経験はしてきたほうだが、こういう気まずい場面をなんとかしてきたことなんてなかった。
なんとかならないかな……という視線が、突然上から降りてきた紫色の壁に遮られる。壁と思ったそれは色を変えて、サングラスをかけて、なぜかバスローブを着たトド松の姿になった。
驚きと困惑とツッコミで「うわっ!」と言おうとした声が、独特のヌメリとした感触をした何かに口を塞がれることで封じられる。それがトド松の手だとわかった時には、拳銃を胸へと突きつけられていた。そして。
なんとかならないかな……という視線が、突然上から降りてきた紫色の壁に遮られる。壁と思ったそれは色を変えて、サングラスをかけて、なぜかバスローブを着たトド松の姿になった。
驚きと困惑とツッコミで「うわっ!」と言おうとした声が、独特のヌメリとした感触をした何かに口を塞がれることで封じられる。それがトド松の手だとわかった時には、拳銃を胸へと突きつけられていた。そして。
パァン。
「ソウタ!」
ソウタが音と熱を感じたのと、光矢の呼びかける声を聞きながらトド松の後頭部が殴り飛ばされるのを見たのは、ほぼ同時だった。光矢は空手の足払いの要領でバランスを崩させ、三角跳びからの回し蹴りでトド松を蹴り飛ばしながらソウタとの間に割り込む。その一連の動きを見ている間に、ソウタの胸に強烈な痛みと寒気が襲ってきた。
「光矢さっ、あがっ! がああっ、はああっ!」
呼びかけようとした途端に、意識が飛びそうなほどの激痛へと変わり、痛みに喘ぐ度に更なる痛みが襲ってくる。息を吸うたびに頭の中に火花が散り、吐くたびに体から温度が抜けていくような感覚が、ソウタをさいなむ。膝か足裏か、とにかく力が解けるように消えていき、背後の壁へと背中を預けるようにもたれこんだ。
あまりに痛くて何が起こったのかがわからない。視界が明るくなり、暗くなり、色と輪郭がおかしくなる。なにより、息苦しい。突然の体の異常に何も考えられなくなる。ただただ、苦痛。それでも意識を気合で失わずにいるのはラストサバイバルの経験だったが、それが恨めしくなるような、味わいたくない痛みを味わう。
光矢が自分になにか話しかけているが、なんと言っているのかが聞き取れない。あるいは文章を理解できるほどに頭が働いていないのかもしれないが、すでにソウタはそんなことを考えていられる状況ではなかった。
それでもただ一つ、ソウタは力を振り絞って、光矢の背後を指差す。そこでは、先ほど殴り飛ばされたトド松が、ゆっくりと立ち上がっていた。そしてその姿に異様な変化が発生する。体が紫のゲルのようになり、顔のサングラスやバスローブごと、光矢の姿へと変わっていった。
あまりに痛くて何が起こったのかがわからない。視界が明るくなり、暗くなり、色と輪郭がおかしくなる。なにより、息苦しい。突然の体の異常に何も考えられなくなる。ただただ、苦痛。それでも意識を気合で失わずにいるのはラストサバイバルの経験だったが、それが恨めしくなるような、味わいたくない痛みを味わう。
光矢が自分になにか話しかけているが、なんと言っているのかが聞き取れない。あるいは文章を理解できるほどに頭が働いていないのかもしれないが、すでにソウタはそんなことを考えていられる状況ではなかった。
それでもただ一つ、ソウタは力を振り絞って、光矢の背後を指差す。そこでは、先ほど殴り飛ばされたトド松が、ゆっくりと立ち上がっていた。そしてその姿に異様な変化が発生する。体が紫のゲルのようになり、顔のサングラスやバスローブごと、光矢の姿へと変わっていった。
「光矢、さんっ、うし、うっ、ろ!」
「しゃべるな! 肺に穴が……なにっ!?」
「しゃべるな! 肺に穴が……なにっ!?」
光矢の姿になったトド松が、光矢へとステップで距離を詰める。寸前で気づいた光矢が慌てて構えたところに、上段回し蹴りを放った。光矢がギリギリで内払いで立ちガードに成功したところに、正中線に向けて上・中・下の3連撃が続く。ガードを諦め体を固める光矢が、突きを受けて後退する。そこへと追撃で放たれる前蹴りを下段払いで前に出ながら防ぎ、返しの横蹴りをスウェーで空かされて、光矢の顔色が変わった。
「こいつ、同じ動きを!」
光矢ともう一人の光矢が激しい応酬を繰り広げる。その中で光矢は確信した。目の前の相手は、どういうわけか自分と戦い方が似ている。それだけでなく、体のキレなどもおそらく同レベルだ。姿だけでなく能力も真似されているとしか思えない。先ほどトド松を蹴り飛ばしたところを庇うような動きをしていることから、相手はコピー能力のようなものを持っている。そう、それはまるで、ポケモンのメタモンのような。
「まさか、メタモンか!」
「!!」
「!!」
メタモン、という言葉を聞いた途端、偽光矢の動きが変化する。距離を取ると、ちょうどそこは先ほどトド松が蹴り飛ばされた位置。
そしてそこには、一丁の拳銃があった。
ヤバい。そう思うより早く距離を詰める。ほとんど反射で、突きを放つ。光矢の目の前で、銃が宙を舞う。光矢が払い飛ばした、わけでは、ない。
そしてそこには、一丁の拳銃があった。
ヤバい。そう思うより早く距離を詰める。ほとんど反射で、突きを放つ。光矢の目の前で、銃が宙を舞う。光矢が払い飛ばした、わけでは、ない。
(なぜ? なぜ拳銃が? 投げた? ジブンデ?)
目が、顔が、拳銃を追ってしまう。それが首ごと、逆方向に向けられた。殴られた、銃を囮に使われた、と理解した時には。
(──パセリ。)
目の前で空中の銃を手に取った自分と同じ顔の存在が、自分に向けて発砲していた。
これで3人目かと、メタモンは男子トイレで2つの死体を前に感情の読めない顔をしていた。
公園での失敗から位置を変えて学校を選んだが成功だった。建物は浸透し隠れ潜むための隙間が多く、武器も豊富だ。現地調達で銃を手に入れられる環境はメタモンを大きく有利にさせる。
光矢と呼ばれた少年がまさかあんなに格闘技に精通しているとは思わなかったが、それも嬉しい副産物だ。無視できないダメージは負ったが、光矢は人間とは思えぬ身体能力と強力なかくとうわざを有している。しかも撃ってみた感じ、銃を使うのも多少はできるようだ。これでサングラスなどの目元を隠せる姿をしていればなお良かったのだが、流石にそこまで贅沢は言っていられない。
一方で困ったこともある。どうやらターゲットである参加者はかなりの人数のようだ。公園で取り逃した4人に、まだ校内にいる3人。殺した3人とメタモン自身を入れて11人。これで全員ということはないだろうから、まだまだ殺し合いは終わりそうにない。それは困る。一刻も早く戻らなければならないのに、あと何十人殺せばいいのか、何百人殺せばいいのか。
公園での失敗から位置を変えて学校を選んだが成功だった。建物は浸透し隠れ潜むための隙間が多く、武器も豊富だ。現地調達で銃を手に入れられる環境はメタモンを大きく有利にさせる。
光矢と呼ばれた少年がまさかあんなに格闘技に精通しているとは思わなかったが、それも嬉しい副産物だ。無視できないダメージは負ったが、光矢は人間とは思えぬ身体能力と強力なかくとうわざを有している。しかも撃ってみた感じ、銃を使うのも多少はできるようだ。これでサングラスなどの目元を隠せる姿をしていればなお良かったのだが、流石にそこまで贅沢は言っていられない。
一方で困ったこともある。どうやらターゲットである参加者はかなりの人数のようだ。公園で取り逃した4人に、まだ校内にいる3人。殺した3人とメタモン自身を入れて11人。これで全員ということはないだろうから、まだまだ殺し合いは終わりそうにない。それは困る。一刻も早く戻らなければならないのに、あと何十人殺せばいいのか、何百人殺せばいいのか。
「あ、光矢く──」
光矢の姿でパァン、パァンと心臓と頭に1発ずつ撃ち込み、百合を殺す。これで4人目。5人目のマリモをと思い教員室を見渡すも、いない。
おかしい。さっき教員室の上から通風口を通して見たときには、5人いたはず。そのうち最初に殺したのと同じ顔をした1人は校長室へと向かったようだが、男子は男子トイレに行き、女子は校長室に留まっていたはず。メタモンは教員室を出るとカラ松の姿に戻り、2階から校長室へ回り込むべく動き始めた。
おかしい。さっき教員室の上から通風口を通して見たときには、5人いたはず。そのうち最初に殺したのと同じ顔をした1人は校長室へと向かったようだが、男子は男子トイレに行き、女子は校長室に留まっていたはず。メタモンは教員室を出るとカラ松の姿に戻り、2階から校長室へ回り込むべく動き始めた。
「光矢……! やっぱり洗脳されてんじゃない!!」
校舎の外壁に沿って進む加山毬藻ことマリモは、ちょうど光矢の姿に『へんしん』して本物の光矢たちにトドメをさしていたメタモンを見て、小さくそう言った。
最初の破裂音が聞こえたとき、マリモはすぐに教員室からの脱出を図った。男性陣3人のうち、誰かが発砲したか、またはされたかはわからないが、どちらの場合でも教員室から動かなければ、敵に襲われると思った。
このあたり、だてに何度も赤い鳥軍団の魔の手から逃れてはいない。彼女が直接戦うようなことはなかったが、だからこそか、逃げるタイミングというものへの勘は鍛えられていた。それがなければ、今ごろ後ろから聞こえてきた銃声で死んだ百合のように、マリモも物言わぬ死体の仲間入りをしていただろう。
断っておくが、もちろん百合を見捨てる形になったことは残念には思っている。一応同行者のよしみで声をかけたが、すぐに着いてくると言わなかったので、放置して校庭に面したドアから外に出た。百合を説得している時間が無かったことは、先の男子トイレの様子を外から伺って出くわした場面を見れば議論は無いだろう。
最初の破裂音が聞こえたとき、マリモはすぐに教員室からの脱出を図った。男性陣3人のうち、誰かが発砲したか、またはされたかはわからないが、どちらの場合でも教員室から動かなければ、敵に襲われると思った。
このあたり、だてに何度も赤い鳥軍団の魔の手から逃れてはいない。彼女が直接戦うようなことはなかったが、だからこそか、逃げるタイミングというものへの勘は鍛えられていた。それがなければ、今ごろ後ろから聞こえてきた銃声で死んだ百合のように、マリモも物言わぬ死体の仲間入りをしていただろう。
断っておくが、もちろん百合を見捨てる形になったことは残念には思っている。一応同行者のよしみで声をかけたが、すぐに着いてくると言わなかったので、放置して校庭に面したドアから外に出た。百合を説得している時間が無かったことは、先の男子トイレの様子を外から伺って出くわした場面を見れば議論は無いだろう。
「なんなのよ、あの目。あれが人間なの?」
小走りしながらつぶやく声は、珍しく震えている。それが怒りからではなく恐怖からだと本人が認めるとことは、決してない。
メタモンが唯一『へんしん』できない眼球、目は、明らかに人間とは異なるものだ。なまじ他の部分は服を含めて完全に見知った姿だったため、余計にそれが際立つ。非人間的な顔が、マリモに逃走を選ばせた。ふだんの勝ち気な彼女ならば、勝ち目がないとわかっていても奇襲をしかけ、なんとか拘束しようとしただろう。
メタモンが唯一『へんしん』できない眼球、目は、明らかに人間とは異なるものだ。なまじ他の部分は服を含めて完全に見知った姿だったため、余計にそれが際立つ。非人間的な顔が、マリモに逃走を選ばせた。ふだんの勝ち気な彼女ならば、勝ち目がないとわかっていても奇襲をしかけ、なんとか拘束しようとしただろう。
「とにかくパセリと会わないと……ミラクル・オーなら、洗脳も解けるはず。アンタのお兄ちゃんなんだから、責任とりなさい。」
当の光矢本人は既に死んでいるとも知らずに早足で駆ける。自分の仲間が操られて人を殺したと信じて。
そしてマリモは失念している。光矢を気にかけるあまり、あの場にいた5人の中で、一番存在感の無かった男を。
そしてマリモは失念している。光矢を気にかけるあまり、あの場にいた5人の中で、一番存在感の無かった男を。
「待ってええええええぇ!! 置いてかないでええええええぇぇ!!!!」
ギョッして振り返ると、そこには。
(*◞≼⓪≽◟⋌⋚⋛⋋◞≼⓪≽◟*)
「ヒィッ!?」
人間ってそんな表情できるのか。
傍から見るとそう言いたくなるような顔で、トド松が泣き叫びながら猛然とマリモの方へとダッシュしていた。
コソコソと逃げるマリモの努力を無に帰す成人男性の全力疾走は、運動神経がいいとはいえ女子小学生のマリモとの距離をあっという間に縮めた。
傍から見るとそう言いたくなるような顔で、トド松が泣き叫びながら猛然とマリモの方へとダッシュしていた。
コソコソと逃げるマリモの努力を無に帰す成人男性の全力疾走は、運動神経がいいとはいえ女子小学生のマリモとの距離をあっという間に縮めた。
「ち、近づくなあ!」
コソコソ逃げてきた意味ないじゃんとか、そういえばアンタいたわねとか、単純にキモいとか、色々な感情を叫び声にのせると、マリモも全力ダッシュをはじめた。
「おいおいおい殺したわアイツ……」
メタモンが教員室を離れて少しして、ギュービッドは春野百合の死体の幻影を消滅させると、1時間以上に渡って隠れていたロッカーからのそのそ出ながら言った。
トド松たちが見ていた春野百合は、黒魔女であるギュービッドが幻プロジェクター魔法で見せたものである。対象者の思い出から幻覚を見せるこの魔法の発動中は、ギュービッドでは他の黒魔法を使うことはできない。それでも彼女がこの黒魔法を使ったのは、弟子のチョコと同年代らしきマリモを見つけたとき、チョコのクラスメイトから適当な人間を選んで幻影として見せて、「子供どうしならソッコーうちとけられるんじゃね?」と情報を集められると踏んだからだ。しかし、とぼしいチョコの友人から選んだためか、結果は先の通り。なんど話を軌道修正しようとしても、幻影のキャラを維持したままやろうとしたらあの有様である。しかも、新たに招き入れた光矢はマリモの知り合いらしいのに話をややこしくするし、ならもう一人と招き入れたソウタは光矢を焚き付ける感じになるし、黒魔法使う前からトド松がいたらしいし、散々である。
そう、ギュービッドは微妙にポンコツなのだ。
トド松たちが見ていた春野百合は、黒魔女であるギュービッドが幻プロジェクター魔法で見せたものである。対象者の思い出から幻覚を見せるこの魔法の発動中は、ギュービッドでは他の黒魔法を使うことはできない。それでも彼女がこの黒魔法を使ったのは、弟子のチョコと同年代らしきマリモを見つけたとき、チョコのクラスメイトから適当な人間を選んで幻影として見せて、「子供どうしならソッコーうちとけられるんじゃね?」と情報を集められると踏んだからだ。しかし、とぼしいチョコの友人から選んだためか、結果は先の通り。なんど話を軌道修正しようとしても、幻影のキャラを維持したままやろうとしたらあの有様である。しかも、新たに招き入れた光矢はマリモの知り合いらしいのに話をややこしくするし、ならもう一人と招き入れたソウタは光矢を焚き付ける感じになるし、黒魔法使う前からトド松がいたらしいし、散々である。
そう、ギュービッドは微妙にポンコツなのだ。
「クッソー、こんだけ時間つかってムダ話ばっかりしやがって。」
悪態をつきながらギュービッドはそわそわと教員室内を歩き回り考える。
ギュービッドが見た光矢の目は、明らかに人間のものとは違っていた。魔力などの気配は感じなかったが、あの瞳を見れば、何かが光矢を操ったり取り憑いたりというよりかは、なり変わられているような感じがする。が、それを考えるよりもまずは光矢たちが無事かを考えなくてはならないし、止めれなかったマリモを保護しないといけない。
ギュービッドは黒魔女ゆえに人間とは倫理観が違うところがあり、チョコからは人間の屑のように言われることもあるが、それでも正義感や曲がったことが嫌いなのは変わりない。また黒魔女としての地位も初段と高くはないが、それは日頃の言動と本人がステータスに執着が無いからで、能力自体はかなり優秀なのである。おまけに美人だ。品と注意力が小学生レベルなので侮られることもあるが、基本的には才色兼備な銀髪美女なのである。
よってギュービッドはメタモンの『へんしん』にもしっかり違和感を感じていたし、そもそもこのバトル・ロワイヤルの主催者に大形京がいることも考察していた。ずっとロッカーの中で静かにしていなくてはいけなかったので、暇つぶしがてら色々と考えた結果、アイツならやる理由も実力もあるな、という結論だ。その直感力は紛れもなく本物である。
しかし、惜しむらくは。
ギュービッドが見た光矢の目は、明らかに人間のものとは違っていた。魔力などの気配は感じなかったが、あの瞳を見れば、何かが光矢を操ったり取り憑いたりというよりかは、なり変わられているような感じがする。が、それを考えるよりもまずは光矢たちが無事かを考えなくてはならないし、止めれなかったマリモを保護しないといけない。
ギュービッドは黒魔女ゆえに人間とは倫理観が違うところがあり、チョコからは人間の屑のように言われることもあるが、それでも正義感や曲がったことが嫌いなのは変わりない。また黒魔女としての地位も初段と高くはないが、それは日頃の言動と本人がステータスに執着が無いからで、能力自体はかなり優秀なのである。おまけに美人だ。品と注意力が小学生レベルなので侮られることもあるが、基本的には才色兼備な銀髪美女なのである。
よってギュービッドはメタモンの『へんしん』にもしっかり違和感を感じていたし、そもそもこのバトル・ロワイヤルの主催者に大形京がいることも考察していた。ずっとロッカーの中で静かにしていなくてはいけなかったので、暇つぶしがてら色々と考えた結果、アイツならやる理由も実力もあるな、という結論だ。その直感力は紛れもなく本物である。
しかし、惜しむらくは。
「だ、誰?」
「あ、やっべ。」
「あ、やっべ。」
トド松の存在をちょっと忘れていて、うっかり黒魔法を解いてしまった。
「ゆ、百合ちゃん! マリモちゃん! 置いてかないでええ!」
「バカ! 叫ぶな! あ、こら、待て!」
「バカ! 叫ぶな! あ、こら、待て!」
そうしたらなぜかトド松がわざわざ戻ってきやがってしかも叫んであげく窓をぶち破って逃げやがった、とはギュービッドの談である。
「あー行っちまっう! トド松追うか? いや、マリモが先か? あの変な光矢もなんとかしないと。ダーッ! やることが、やることが多い!」
そして、時間は2時間ほど前のあるマンションに遡る。
見知らぬ家の中をずかずかと歩き、冷蔵庫を開けると保存が効きそうな食料をクーラーボックスへと詰めていく。足早にキッチンから刃物を取ると、学生服のズボンのベルトへと抜身で差し込む。
次に行くぞ、と二階堂大河は宇美原タツキと水沢光矢に声をかけると、マンションの玄関を開けた。
次に行くぞ、と二階堂大河は宇美原タツキと水沢光矢に声をかけると、マンションの玄関を開けた。
「ネットつながってねえのかよ。スタミナあふれるじゃねえか、クソっ。」
大河と光矢たちが出会ったのは、今から数分前のこと。
目覚めて大河がまず行ったのは、寝起きのルーティンであるソシャゲであった。
目覚めて大河がまず行ったのは、寝起きのルーティンであるソシャゲであった。
「スマホの問題じゃなさそうだ、Bluetoothは使える。てことは、さっきのは単なる夢じゃないってことか……?」
スマホに表示されている時間とベッド脇の目覚まし時計の時間のズレを見て、次に窓の外の赤い景色を見てそう結論づける。超常的な現象に巻き込まれた身だが、その順応は早かった。
大河は死神だ。中学生の傍らバイトでライフルをぶっ放したりして暮らしている。いわゆる、クラスのみんなにはないしょだよ、系のアレだ。
そうであるがゆえに、これが普段の非日常と違うと理解していた。彼が討伐している悪霊の起こす異変とは毛色が異なる。言葉にするのは難しいが、何か似ている部分はあるものの別物に思えた。なにより、バトロワという段階でジャンルが違う。
大河は死神だ。中学生の傍らバイトでライフルをぶっ放したりして暮らしている。いわゆる、クラスのみんなにはないしょだよ、系のアレだ。
そうであるがゆえに、これが普段の非日常と違うと理解していた。彼が討伐している悪霊の起こす異変とは毛色が異なる。言葉にするのは難しいが、何か似ている部分はあるものの別物に思えた。なにより、バトロワという段階でジャンルが違う。
「毒入りの首輪に、赤い霧、落ちてる武器、バトロワゲーなのは間違いねえ。問題は、タイムリミットだ。10分か、1時間か、それより長いか。」
ひとまず容量の大きいリュックサックを探す。そして冷蔵庫からエナジードリンクを調達し、薬箱から痛み止めを手に入れて、台所にあったフライパンを腰に提げた。ヘルメットは手に入らなかったが、ライフルとピストルもあるし立ち上がりとしては上々だろう。だがこれではドン勝にはまだ遠い。
懸念事項は3つ。戦力アベレージと制限時間、そしてチーターだ。
大河たち死神が戦う悪霊は普通の人間には見ることも触れることもできない。それでいて悪霊は人間からエネルギーを一方的に吸い取れる。そこを大河たち人間の死神は幽体化という状態になることで悪霊と同じく霊的存在となり戦うのだが、ここに一つ問題がある。悪霊も死神も人間相手に圧倒的に有利な存在なのだ。一方、バトロワはソシャゲにありがちなPayToWinではなく、キャラの強弱は格ゲーなどのキャラランクに近い。ゲームとして成り立たせるために宇宙最強の戦闘民族とただの赤ん坊を同じ土俵に上げたりはしないのだ。ということは、自分と同じぐらい人間に有利な存在がプレイヤーである、と考えるのが筋だろう。問題はそれがどんなタイプか、だ。死神のような幽体化で戦うタイプだけならわかりやすいが、オープニングステージで見た不良や侍のような少年漫画みたいな連中が相手となるとまずい。特に幽体化には元の身体は気絶した状態で残るという弱点がある。自分は下から数えたほうが早いキャラランクと考えるのがベターだろう。
そして制限時間、これもネックだ。10分か、1時間か、それとも丸一日か。タイムアップまでの余裕で取るべき戦略は全く変わってくる。数十分で最後の一人にならなければ皆殺しというのならば今すぐにでも動き出さなくてはならないが、数日かけて一人になればいいのならばあまり期待はできないものの外部からの救出を待つのも悪くはない。それにタイムアップ時にどうやって殺すかも関わってくる。首輪で殺す気なら時間があれば解除の可能性にかけてノウハウを持つプレイヤーを探すのも手だろうし、この怪しすぎる赤い霧が毒かなにかでそれで殺す気だというのならなるべく触れないように立ち回るのがスマートだ。他のプレイヤーが消耗で死のうが一発の銃弾も撃たなかろうが生き残っていれば勝ちなのだから。
最後にチーター。ズルしている参加者がいる可能性について。ここまでのことをできる主催者ならばそんなふうに出し抜かれているとは考えにくいが、あのオープニングの様子を見るにありえなくはない。それに首輪の解除を目指す場合はそういう裏をかける存在がキーだ。最悪なのは主催者側のチーター、すなわちジョーカーだ。最初からコイツを勝たせる為にバトロワを開いた、となればほぼどうしようもない。詰みだ。
懸念事項は3つ。戦力アベレージと制限時間、そしてチーターだ。
大河たち死神が戦う悪霊は普通の人間には見ることも触れることもできない。それでいて悪霊は人間からエネルギーを一方的に吸い取れる。そこを大河たち人間の死神は幽体化という状態になることで悪霊と同じく霊的存在となり戦うのだが、ここに一つ問題がある。悪霊も死神も人間相手に圧倒的に有利な存在なのだ。一方、バトロワはソシャゲにありがちなPayToWinではなく、キャラの強弱は格ゲーなどのキャラランクに近い。ゲームとして成り立たせるために宇宙最強の戦闘民族とただの赤ん坊を同じ土俵に上げたりはしないのだ。ということは、自分と同じぐらい人間に有利な存在がプレイヤーである、と考えるのが筋だろう。問題はそれがどんなタイプか、だ。死神のような幽体化で戦うタイプだけならわかりやすいが、オープニングステージで見た不良や侍のような少年漫画みたいな連中が相手となるとまずい。特に幽体化には元の身体は気絶した状態で残るという弱点がある。自分は下から数えたほうが早いキャラランクと考えるのがベターだろう。
そして制限時間、これもネックだ。10分か、1時間か、それとも丸一日か。タイムアップまでの余裕で取るべき戦略は全く変わってくる。数十分で最後の一人にならなければ皆殺しというのならば今すぐにでも動き出さなくてはならないが、数日かけて一人になればいいのならばあまり期待はできないものの外部からの救出を待つのも悪くはない。それにタイムアップ時にどうやって殺すかも関わってくる。首輪で殺す気なら時間があれば解除の可能性にかけてノウハウを持つプレイヤーを探すのも手だろうし、この怪しすぎる赤い霧が毒かなにかでそれで殺す気だというのならなるべく触れないように立ち回るのがスマートだ。他のプレイヤーが消耗で死のうが一発の銃弾も撃たなかろうが生き残っていれば勝ちなのだから。
最後にチーター。ズルしている参加者がいる可能性について。ここまでのことをできる主催者ならばそんなふうに出し抜かれているとは考えにくいが、あのオープニングの様子を見るにありえなくはない。それに首輪の解除を目指す場合はそういう裏をかける存在がキーだ。最悪なのは主催者側のチーター、すなわちジョーカーだ。最初からコイツを勝たせる為にバトロワを開いた、となればほぼどうしようもない。詰みだ。
「考えなくちゃなんねえことが多すぎんな。バトロワゲーやんねえし立ち回りがわからねえ。このままじゃ初心者狩りされて――」
カツ、カツ、とかすかな音を耳にして大河は独り言をやめてライフルの安全装置を外した。持ちなれない実銃、その重さに眉間にシワを寄せながら玄関へと足音を忍ばせて急ぐ。扉に耳をつけるとハッキリと足音が聞こえた。
(一人……ちがう、二人か? チームを組んでるってことは知り合い同士で巻き込まれたか、それともこのステージで知り合ってすぐ一緒に動いているのか……)
ドアスコープからマンションの廊下を覗く。足音の感じから無警戒さがわかる。トリガーガードに指をかけて姿が見えるのを待つ。見えた。男が一人。おそらく同い年。手には大河と同じくライフル、もう片方には懐中電灯。
次の瞬間、眩しい光が大河の片目を焼いた。
次の瞬間、眩しい光が大河の片目を焼いた。
「ぐあっ!」
(眩しっ!? しまった、声を――!!)
(眩しっ!? しまった、声を――!!)
続いてズガンという発砲音と共に金属片が目を抑えた手を掠めた。合計四発撃った、耳で確認すると残る片目に映った光景にギョッとする。鍵とチェーンで施錠されていた玄関扉が開いていく。それも、鍵の側を軸にして。
(ドアのちょうつがいを撃ち抜いたな!)
さっきの発砲は鍵を撃ち抜いたのではなく、ちょうつがいを破壊したもの。分厚い金属の閂ではなく薄い金属部品を吹き飛ばすことで単発の銃でも速やかに金属製のドアをこじ開ける。その技術はわからなくても現に開いていく扉が侵入者の狙いを大河に理解させた。
ライフルをなんとか向ける。だが扉が盾となり銃口を動かす。扉の真後ろにいたのが仇になった。そう思うより早くハンドガンを抜く。と、その銃身を扉の隙間から伸びた手が握りしめた。反射的に引鉄を弾く。弾は、出ない。
ライフルをなんとか向ける。だが扉が盾となり銃口を動かす。扉の真後ろにいたのが仇になった。そう思うより早くハンドガンを抜く。と、その銃身を扉の隙間から伸びた手が握りしめた。反射的に引鉄を弾く。弾は、出ない。
(スライドが引けねえ――ぐあっ!」
「動くな。」
「動くな。」
ハンドガンはその構造上、銃身上部のスライドが後退しない場合発砲できない。ゆえに、引鉄を引くより強い握力でスライドを銃身から動かぬように握ってしまえば無力化できる。だがそれは理論上の話だ。今にも弾丸が出る銃に手を伸ばすのも、正確にスライドを握って相手の握力を上回る力で握り込むのも並大抵のことではない。ましてやそれを、同年代の相手にやられるなど、大河には信じられないことだった。だが今にも肩を外さんと関節を極められる現状が、その不条理を受け止めさせられる。痛みから引鉄から指を離したところをすかさず掴まれ、スライドを握っていた手が一転して扱く。装填されていた弾丸が地面に落ちる音が数度響き、それが終わると床に組み伏せられた。
「殺すな、光矢。」
女っぽい声がそう言うのと、大河の首に腕が回るのは同時だった。同時に、大河も身体の下敷きになった方の手にかけていた手榴弾のピンを抜くのを止める。そして二人揃って顔を声をかけた少女へと向けた。
二階堂大河と水沢光矢・宇美原タツキの出会いはそんな剣呑なものであった。
二階堂大河と水沢光矢・宇美原タツキの出会いはそんな剣呑なものであった。
各自が重さ10キロほどの荷物を持つと部屋を出る。物資集めと並行して行った自己紹介は最低限のものだ。互いの名前と、方針だけ。それぞれ知り合いがいるという光矢とタツキは捜索の体制を整えるために近くのホームセンターに行くと言い、大河もそれに同行することにした。
互いの事情に深入りはしない。明らかに軍隊やそれに類する組織の訓練を受け恐ろしい膂力の持ち主である光矢も、何らかの制服に身を包み腰には刀を差しこの異常な状況に顔色一つ変えないタツキも、殺す相手としては強敵だが幸いにして対主催であると言った以上は大河にはそれで良かった。見たところこの二人はこのステージで知り合ったようであり、ならば対主催のスタンスはそうそう崩さないだろう。それなら弾除けにはなるし自分の死神について語る必要が生まれるようなことは避けたい。
大河のひとまずの方針は、ホームセンターに引きこもることであった。二人は外に捜索に行くと言うがその間の留守役に名乗りを上げた。もちろん、二人の方針に共感したわけではない。赤い霧が毒などのダメージを与えるかの確認をするためだ。もとより大河は赤い霧を警戒してなるべく動き回らないことを考えていたが、対称的な行動をとるサンプルが現れたおかげで自分の仮説を試す機会が訪れた。彼のひとまずの方針としては、このバトロワを長期戦と想定しホームセンターで装備を整え、会場全域が禁止エリア化した場合は冷凍室に立てこもるというものにした。霧である以上低温ならば空気中から霜として床に落ち、何もしないよりは触れずに済む。そうでなくとも情報収集の為に割く時間を考えたい。
互いの事情に深入りはしない。明らかに軍隊やそれに類する組織の訓練を受け恐ろしい膂力の持ち主である光矢も、何らかの制服に身を包み腰には刀を差しこの異常な状況に顔色一つ変えないタツキも、殺す相手としては強敵だが幸いにして対主催であると言った以上は大河にはそれで良かった。見たところこの二人はこのステージで知り合ったようであり、ならば対主催のスタンスはそうそう崩さないだろう。それなら弾除けにはなるし自分の死神について語る必要が生まれるようなことは避けたい。
大河のひとまずの方針は、ホームセンターに引きこもることであった。二人は外に捜索に行くと言うがその間の留守役に名乗りを上げた。もちろん、二人の方針に共感したわけではない。赤い霧が毒などのダメージを与えるかの確認をするためだ。もとより大河は赤い霧を警戒してなるべく動き回らないことを考えていたが、対称的な行動をとるサンプルが現れたおかげで自分の仮説を試す機会が訪れた。彼のひとまずの方針としては、このバトロワを長期戦と想定しホームセンターで装備を整え、会場全域が禁止エリア化した場合は冷凍室に立てこもるというものにした。霧である以上低温ならば空気中から霜として床に落ち、何もしないよりは触れずに済む。そうでなくとも情報収集の為に割く時間を考えたい。
(で、これかよ。ゲームならやってるけどリアルでやるやついねえよ。)
そして今タイガは、高架の上の線路を中腰で移動していた。腰に膝に10キロの荷物と5キロの武器、合わせて15キロの重さがのしかかる。正直しんどい。
土地勘の無い場所を奇襲を警戒して歩くよりは線路を歩いて近くまで行ったほうがいい、そう提案したのは家にあった地図でホームセンターまでの道順を調べた大河自身である。なので文句は言えない。それに、この高架は住宅街に架かっているからか防音壁がある。もちろん銃弾を防げはしないだろうが、その陰に隠れて移動すれば濃霧と合わせて安全に移動できるだろう。問題はその壁が1メートル程の高さしかないということだが。
土地勘の無い場所を奇襲を警戒して歩くよりは線路を歩いて近くまで行ったほうがいい、そう提案したのは家にあった地図でホームセンターまでの道順を調べた大河自身である。なので文句は言えない。それに、この高架は住宅街に架かっているからか防音壁がある。もちろん銃弾を防げはしないだろうが、その陰に隠れて移動すれば濃霧と合わせて安全に移動できるだろう。問題はその壁が1メートル程の高さしかないということだが。
(光矢もヤバいがタツキもヤバイな。)
同じように中腰で歩く光矢とタツキを見て大河は思う。一番身長が高い光矢はうっすらと汗をかいている。そのすぐ後ろのタツキは、やはり顔色一つ変えないどころか汗の一つもかかずに歩いている。いくら光矢や大河に比べれば小柄とはいえ、尋常なことではない。なにせ運動神経抜群の大河でさえ顔を汗が伝い荒い息を歯を食いしばって漏らさぬようにしているのだから。
(そういえばオープニングに黒づくめの剣士いたな。そのタイプか?)
タツキやツノウサギに斬りかかった剣士たちのようにパワーにすぐれるプレイヤーに、大河やツノウサギに殺されかけた剣士を治した不良のように特別な能力が使えるプレイヤー、光矢のように専門的な訓練を受けたプレイヤー、大まかに3タイプ。別に根拠も何もないが、そういうふうに属性みたいなものが分けられているのなら、死神の能力を持つ自分を参加させたのも納得はできる。
「みんな止まれ。」
先頭の光矢がそう言って手を横に伸ばした。大河は壁に身を寄せると振動に気づいた。
「電車が来るぞ。」
「二人は後ろを見てくれ。来ない方の線路に退避する。」
「二人は後ろを見てくれ。来ない方の線路に退避する。」
光矢の言葉に従う形になるのはシャクではあるが、言うとおりにする。ほどなく、電車が後ろから来て通り過ぎていった。
「運転手が乗ってなかったな。モノレールでもないのに。」
「ゆっくりと走っていたから、駅が近いかもな。先を急ごう。」
「ゆっくりと走っていたから、駅が近いかもな。先を急ごう。」
言葉どおり、1分もしないうちに駅が見えた。防音壁とカーブする線路で視界が悪かったが、都市部の線路の駅の間隔だったらしい。3人はホームに上がると、とりあえず駅員室に入り込んだ。
「で、ここからどうする?」
ポットからお湯を注ぎインスタントコーヒーを入れつつ、大河は尋ねる。
「予定通りこの駅から近くのホームセンターに行くか、次にくる電車に乗ろうと思う。」
「電車でどこに行く気だ?」
「別に決めてない。電車と線路、それと沿線の様子を把握しておきたい。」
「ホームセンターより優先すべきか……? まあ、わかんなくはないけど。」
「電車でどこに行く気だ?」
「別に決めてない。電車と線路、それと沿線の様子を把握しておきたい。」
「ホームセンターより優先すべきか……? まあ、わかんなくはないけど。」
そう言うとコーヒーに口をつけた。
まだゲームが始まってから間もない時にアイテムを手に入れられるのは大きな強みになるが、電車という存在が見過ごせないのもわかる。
この殺し合い、徒歩でやるには歩くだけでキツ過ぎる。ゲームならスタミナの概念が無くてずっと走り続けられるが、リアルでは歩き続けることすら難しい。
マップも少なくとも一駅分、中学校の学区程度はあると考えると、そもそも他のプレイヤーを見つけることも難しい。
となると当然、時間経過なりでマップが狭まることも考えられるが、その時に電車という存在がどんな影響を出すのかは未知数だ。
まだゲームが始まってから間もない時にアイテムを手に入れられるのは大きな強みになるが、電車という存在が見過ごせないのもわかる。
この殺し合い、徒歩でやるには歩くだけでキツ過ぎる。ゲームならスタミナの概念が無くてずっと走り続けられるが、リアルでは歩き続けることすら難しい。
マップも少なくとも一駅分、中学校の学区程度はあると考えると、そもそも他のプレイヤーを見つけることも難しい。
となると当然、時間経過なりでマップが狭まることも考えられるが、その時に電車という存在がどんな影響を出すのかは未知数だ。
「かまわない。」
「……話はわかった。こっちもそれでいい。」
「……話はわかった。こっちもそれでいい。」
先に一言発したタツキに釣られるように、大河も決断した。
当初の方針を変えることになるので軽々しく賛成はできないが、それを曲げてもいいと思えるほどの情報アドを取りに行く。未知数なら他のプレイヤーに先んじる価値は大きい。たとえそれが空振りであったとしても、その情報だけでもカードになる。無論、体力と時間とトレードオフではあるが。
大河たちは駅員室のモニターで電車の運行状況を見ながら、しばし休憩を取った。
詳しくはわからないが、自動運転が実用化しているのだから先進的なのだろう、どこにどの列車が走っているかは一目でわかるため、乗り損ねるような心配は無い。気になることといえば、どうやら乗ろうとしている電車が終電らしきことか。壁にかけられた時計を見るに、今は深夜なのだろう。文字が読めないのでわかんないけどな、と大河は思った。
当初の方針を変えることになるので軽々しく賛成はできないが、それを曲げてもいいと思えるほどの情報アドを取りに行く。未知数なら他のプレイヤーに先んじる価値は大きい。たとえそれが空振りであったとしても、その情報だけでもカードになる。無論、体力と時間とトレードオフではあるが。
大河たちは駅員室のモニターで電車の運行状況を見ながら、しばし休憩を取った。
詳しくはわからないが、自動運転が実用化しているのだから先進的なのだろう、どこにどの列車が走っているかは一目でわかるため、乗り損ねるような心配は無い。気になることといえば、どうやら乗ろうとしている電車が終電らしきことか。壁にかけられた時計を見るに、今は深夜なのだろう。文字が読めないのでわかんないけどな、と大河は思った。
「いちおう聞いてくけどさ、お前らあの字読めるか?」
「読めない。」
「無理だ。日本語か?」
「ま、だよな……」
「読めない。」
「無理だ。日本語か?」
「ま、だよな……」
文字化けしたような文字に見えているのは自分の幻覚ではなかったようだと、心の中で大河はホッとする。
それからほどなく、目当ての電車がやってきた。
それからほどなく、目当ての電車がやってきた。
「クリア。意外となんもないな。プレイヤーが少ないのか? それともデカ過ぎるマップなのか……」
拍子抜けした表情で大河は銃を下げ、その後ろでドアが閉まる。3人で別の号車に乗り周囲を警戒すると、少しぶりに一人になれる時間ができて、警戒の意味も込めて流れる景色に目が行った。
「どう見てもふつうの街だよな。でも看板の文字だけ違う。どこかの街を乗っ取って文字だけ差し替えたか? いくらかかんだそれ。死神みたいなオカルトでもないとムリだなやっぱ。」
誰もいないのをいいことに独り言も調子が出る。
2駅ほど停まると、防音壁もなくなり、見えた視界は、まさしく日本のもの。空も霧も流れる川も赤く、黒い雲が浮かび、漢字のような異様な文字の看板以外に、異常は見られない。まあそれが異常だよなと思いながら眺めていると、次第に町の景色に畑が目立つようになった。終点につく頃には、すっかり田舎の町だ。近郊農業をやっているベッドタウンの町なら割とありふれた景色だが、大河としては充分僻地だ。
2駅ほど停まると、防音壁もなくなり、見えた視界は、まさしく日本のもの。空も霧も流れる川も赤く、黒い雲が浮かび、漢字のような異様な文字の看板以外に、異常は見られない。まあそれが異常だよなと思いながら眺めていると、次第に町の景色に畑が目立つようになった。終点につく頃には、すっかり田舎の町だ。近郊農業をやっているベッドタウンの町なら割とありふれた景色だが、大河としては充分僻地だ。
「都会に近いから畑があっても建物が多いのか? とにかく気をつけたほうがい。狙撃される可能性がある。」
(お前マジかよ。)
(お前マジかよ。)
なお、そんなことを考えていたら北海道の田舎に暮らす光矢の発言に引くことになったが、大河は黙っていた。
「建物っていっても、良い拠点になりそうな場所がないぞ。終電だったから戻れないし。」
「学校があった。400mぐらい線路沿いに戻って川まで行けば見えるはず。」
「……良く見えたな。後部車両に乗ってたのに。」
「学校があった。400mぐらい線路沿いに戻って川まで行けば見えるはず。」
「……良く見えたな。後部車両に乗ってたのに。」
驚きの混じった声で言う光矢と同じく、大河もマジかよお前と思う。こちらのは光矢へ向けたものとはだいぶ意味が違ったが。
そしてあらためて、大河はこのデスゲームが厄介だと思った。自分よりフィジカルに優れ、注意力もあるプレイヤーは、味方にすれば頼もしいが敵にすれば厄介なことこの上ない。これはこいつらが死ぬようなことあったらこっちの命も無いなと判断して、基本は対主催で行くことにする。
危険対主催が対主催に方針転換する頃に、目的地の学校が見えてきた。
あの感じは中学校だなと当たりをつけると、ライフルのスコープで校門を見る。これでサバイバルする分のアイテムは粗方手に入る。そうほくそ笑みながらスコープから目を離して、同じようにスコープを覗きながら険しい顔をする光矢に気づいた。
そしてあらためて、大河はこのデスゲームが厄介だと思った。自分よりフィジカルに優れ、注意力もあるプレイヤーは、味方にすれば頼もしいが敵にすれば厄介なことこの上ない。これはこいつらが死ぬようなことあったらこっちの命も無いなと判断して、基本は対主催で行くことにする。
危険対主催が対主催に方針転換する頃に、目的地の学校が見えてきた。
あの感じは中学校だなと当たりをつけると、ライフルのスコープで校門を見る。これでサバイバルする分のアイテムは粗方手に入る。そうほくそ笑みながらスコープから目を離して、同じようにスコープを覗きながら険しい顔をする光矢に気づいた。
「どうする、光矢。」
「中に人がいる。1階の左の部屋に、小学生ぐらいの女の子が2人だ。」
「中に人がいる。1階の左の部屋に、小学生ぐらいの女の子が2人だ。」
ムダに眉間に皺寄せてんなと思った。光矢の口調がやけに固く思えたのだ。
もう一度スコープを覗く。
もう一度スコープを覗く。
「見えた。フリフリした服の女子。誰か知り合いはいるか? 光矢?」
「……妹のクラスメイトだ。」
「保護しよう。」「だな、異議無し。」
「……一人で行く。扱いが難しいんだ。何かあるまで待っててくれ。」
「……妹のクラスメイトだ。」
「保護しよう。」「だな、異議無し。」
「……一人で行く。扱いが難しいんだ。何かあるまで待っててくれ。」
そう言うと返事も待たずに光矢は前進を始めた。
それが2人が見た、最期の水沢光矢の姿になった。
それが2人が見た、最期の水沢光矢の姿になった。
(*◞≼⓪≽◟⋌⋚⋛⋋◞≼⓪≽◟*)
「なんだあの顔っ!? 人間かっ!?」
そして時間は現在に戻る。
タツキと2人で交代で光矢を見守っていた大河は、銃声を聞いて周囲のアイテム回収を中断して戻ってくると、トド松がマリモを猛ダッシュで追いかけている場面に出くわした。
スコープで覗かなくてもわかる異形の顔に思わずうろたえる。
タツキと2人で交代で光矢を見守っていた大河は、銃声を聞いて周囲のアイテム回収を中断して戻ってくると、トド松がマリモを猛ダッシュで追いかけている場面に出くわした。
スコープで覗かなくてもわかる異形の顔に思わずうろたえる。
「大河、ここからだと誤射の危険性がある。接近する。」
「了解って、返事ぐらい聞いてから走り出せよ。」
「了解って、返事ぐらい聞いてから走り出せよ。」
状況は飲み込めないが、それでもやるべきことはある。大河は荷物を全て捨てると、ライフルを背中に回してタツキと別方向へ駆け出した。
「ち、近づくなあ!」
「一人にしないでええええええ!!」
「これ撃っていいやつだよな?」
「一人にしないでええええええ!!」
「これ撃っていいやつだよな?」
意外と2人とも速いのか、あっという間に距離が縮まる。それでもトド松がマリモにあと少しで触れるというところで、タツキがすらりと抜刀した。
「誰っ!?」「だれ──ひいっ!?」
「「動くな。」」
「「動くな。」」
トド松の指先を、一振りの黒刀が掠める。たたらを踏んで手を引っ込めたトド松のその手を、大河は背中へと捻りあげると頭に銃口を押し当てた。
よくわからないがこれにて一件落着。あとは学校で何があったか、光矢は無事か──そう今後について考えた大河は次の瞬間、二人の言葉に耳を疑った。
よくわからないがこれにて一件落着。あとは学校で何があったか、光矢は無事か──そう今後について考えた大河は次の瞬間、二人の言葉に耳を疑った。
「ま、待ってください! こんなことしてる場合じゃないんです! ボクの兄たちが殺し合いに乗ってるかもしれないんです!」
「あ、ちが、ちがうの! その人いちおう敵じゃないの! 光矢、えっと、仲間が操られて襲ってきて……」
「は? えっ……なんだそれ? 光矢?」
「光矢は死んだよ! 殺されたんだ! だから! 早く逃げないと! 黒づくめの怪しいやつもいたし、すぐ逃げないと! ボクたちも殺されちゃうよ!」
「光矢っていう仲間がいるんだけど、操られたのか突然銃を撃ったみたいなの! 早く逃げないと! 今の光矢は危ない!」
「あ、ちが、ちがうの! その人いちおう敵じゃないの! 光矢、えっと、仲間が操られて襲ってきて……」
「は? えっ……なんだそれ? 光矢?」
「光矢は死んだよ! 殺されたんだ! だから! 早く逃げないと! 黒づくめの怪しいやつもいたし、すぐ逃げないと! ボクたちも殺されちゃうよ!」
「光矢っていう仲間がいるんだけど、操られたのか突然銃を撃ったみたいなの! 早く逃げないと! 今の光矢は危ない!」
わけがわからない。大河の頭はフリーズした。
光矢は学校に潜入した。光矢は死んだ。光矢が操られた。光矢が銃を撃った。
集まった情報がバラバラすぎて、整理ができない。
光矢は学校に潜入した。光矢は死んだ。光矢が操られた。光矢が銃を撃った。
集まった情報がバラバラすぎて、整理ができない。
「つまり、あなたとあなたは敵じゃない?」
「はい! ボクたち仲間です!」
「まあ一応……」
「なら2人とも着いてきて。避難させる……大河。」
「あ? あ、あぁ……」
「はい! ボクたち仲間です!」
「まあ一応……」
「なら2人とも着いてきて。避難させる……大河。」
「あ? あ、あぁ……」
タツキの言葉に、我を取り戻す。何が起こっているのかはわからないが、とにかくここを離れたほうがいい。結局、光矢が生きているのかも死んでいるのかもわからないが、難しいことは後回しだ。
情報の錯綜を抱えて、大河たちは走り出した。
【0256 『南部』中学校並びにその近く】
【松野トド松@小説おそ松さん 6つ子とエジプトとセミ@小学館ジュニア文庫】
【目標】
●大目標
死にたくない
●中目標
殺し合いに乗った兄弟を止めたい
●小目標
中学校から離れる
【目標】
●大目標
死にたくない
●中目標
殺し合いに乗った兄弟を止めたい
●小目標
中学校から離れる
【加山毬藻@パセリ伝説 水の国の少女 memory(9)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
殺し合いを打倒する
●中目標
操られた光矢を助ける
●小目標
中学校から離れる
【目標】
●大目標
殺し合いを打倒する
●中目標
操られた光矢を助ける
●小目標
中学校から離れる
【メタモン@名探偵ピカチュウ(小学館ジュニア文庫)】
【目標】
●大目標
優勝を目指す
●中目標
強い参加者にへんしんする
●小目標
マリモとトド松を殺す
【目標】
●大目標
優勝を目指す
●中目標
強い参加者にへんしんする
●小目標
マリモとトド松を殺す
【ギュービッド@黒魔女さんのクリスマス 黒魔女さんが通る!! PART 10(黒魔女さんが通る!!シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【目標】
●大目標
大形を止め、今回の事件を解決する
●中目標
チョコや桃花ど合流する
●小目標
???
【目標】
●大目標
大形を止め、今回の事件を解決する
●中目標
チョコや桃花ど合流する
●小目標
???
【二階堂大河@死神デッドライン(2) うしなわれた家族(死神デッドラインシリーズ)@角川つばさ文庫】
【目標】
●大目標
生き残る
●中目標
光矢の情報を得る
●小目標
中学校から離れる
【目標】
●大目標
生き残る
●中目標
光矢の情報を得る
●小目標
中学校から離れる
【宇美原タツキ@絶滅世界 ブラックイートモンスターズ 喰いちぎられる世界で生き残るために@集英社みらい文庫】
【目標】
●大目標
EDFとして主催者を打倒して生き残る
●中目標
EDFの隊員や光矢と合流する
●小目標
中学校から離れる
【目標】
●大目標
EDFとして主催者を打倒して生き残る
●中目標
EDFの隊員や光矢と合流する
●小目標
中学校から離れる
【脱落】
【水沢光矢@パセリ伝説 水の国の少女 memory(4)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【阿部ソウタ@生き残りゲーム ラストサバイバル 宝をさがせ!サバイバルトレジャー(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】
【水沢光矢@パセリ伝説 水の国の少女 memory(4)(パセリ伝説シリーズ)@講談社青い鳥文庫】
【阿部ソウタ@生き残りゲーム ラストサバイバル 宝をさがせ!サバイバルトレジャー(ラストサバイバルシリーズ)@集英社みらい文庫】