雨音だけが彼らの耳に響く。
しかしながら風を切り、足を進め体を動かし続ける彼ら二人には雨音だけが聞こえているわけでは無いだろう。
ブラックモアには自らのスタンドを出現させる際の奇妙な音、そしてビチャと水溜りの中に飛び込むような音。
ウェザー・リポートには急かすように動く自らの心臓の音、そして体全体を覆うような暴風が耳音を駆け抜けていく音。
二人が同時に駆け出すきっかけになったのは一人の少年の叫び声だった。
「うわああああああああああああ」
雨音を破るように響いたそれは話を切り上げ、駅へ向かおうとしていた二人にもしっかりと聞こえていた。
「今の声は………」
「早人さんの、ですねェ」
その会話が徒競走のスタートの合図であるピストルの号砲かのように二人は全力で駅へと走り出した。
そして今に至るわけだ。
心なしか雨足が強くなったかのように感じたブラックモアは飛び跳ねながら下にいる人物に目を向ける。先の会話でどの程度彼の信頼を得たのかはわからない。向こうがこっちを掴みづらい男と思ってるのと同様に、ブラックモア、彼自身もウェザー・リポートという人物の全体像は掴めなかった。
(どちらにしても私にとって彼は大切な武器……)
雨粒を固定するという彼のスタンド能力は応用が効き、様々な状況にも対応できる力を持っている。反面、天候に左右されてしまうという大きな弱点があるのは仕方のないことだろう。
そんな彼にとってこの不確定要素である天気を操るウェザー・リポートを手の届く所に置いておくのはこの殺し合いという舞台において最優先事項なのだ。
(ここは彼に信用と借りを築くために早人さんの危機を救っておく必要がありますねェ……)
そういった思案にふけっていたせいであろう、ブラックモアはウェザー・リポートが足を止めたことに気づくことができなかった。慌てて前進をやめ、訝しげにするブラックモアの目に人影が映った。
よろよろと足をもたつかせ、奇妙なバランスで近づいてくるその人物の姿に二人は凍りついた。
「ヤバいッス…駅が、二人が危ないんッスよ……。早くしないと二人が、二人に取り返しのつかないような……!」
右腕を失い、息も絶え絶えになりながら近づいてくる男、
東方仗助がそこにいた。
◆
「何があったんだ?!その右腕はどうした?説明しろ、仗助!」
おいおい、こんな大怪我だぜ?普通は最初に手当てをしようとか思うもんじゃねぇのか?まったく…
案外こいつらって淡白なんだな。まあこの俺のような外道ってわけじゃなさそ-だがな、ヒヒヒヒヒヒ!
それにしても案外善人ぶるってのは疲れるもんだな…今すぐこの肩においてある手からブヂュヂュル磨り潰してジャムにしてやってもいいんだぜェ~?
「落ち着いてください、仗助さんの声が聞き取れませェん。それで何があったんですか?早人さんは…?」
「早人は…どうなったかわかんないッス…。もう、それどころじゃなんくて大慌てでここまで来たんですから。
ただ、ありのままに駅で起こったことを話しますよ…。『駅の時刻表を眺めていたと思ったらいつのまにか右腕がなくなっていた』」
「………」
「何を言っているのかわかんないかもしれないッスけど俺も何が起きたかわからなかった…。痛みや混乱で頭がどうにかなりそうでしたよ…。
たぶんスタンド能力なんでしょうけど、そんな素振りが一切無かった。近距離パワー型スタンドだとか、圧倒的なスピードだとかそんなチャチなもんじゃありませんでしたよ…。
もっと恐ろしいスタンドの片鱗を味わされたんッスよ…俺にできることと言ったら助けを呼びに必死こいてここまで走ることぐらいでしたから…」
チラッと目をあげると…ヒヒヒ、混乱してるぜ、この二人。
ヒヒヒ…嘘はついてないぜ?嘘は…。
早くこの二人を駅にやんねーともしかしたら後ろからあれが追っかけてくるかもしれないしな…。あんな得体のしれない何かが襲ってくるかと思うとゾッとするね、気が気じゃねーぜ…。
うまくいけばこの二人があれと相打ち、その上俺はノーダメージ…。ヒヒヒヒヒヒ…俺の頭脳勝ちってか?
「それでは今あそこには二人とその謎の襲撃者しかいない、と?」
「ええ、俺じゃもうどうしようもないと思って。助けだけでも呼びにここまで………」
「……ブラックモア」
ん…?こいつ、なんか知ってるみてーだな?もしや、あれと因縁もちか?
「はい?」
「仗助の手当てを頼んだ。急がないと駅が危ない。それにもし仗助が言ったやつが俺の知っているやつだったら…」
「…その様子じゃなにかあるんでしょうね。わかりました、気をつけてください。彼の手当てが終わったら私もすぐに行きます」
大丈夫だ、って呟いたはいいけど本当にこいつ一人で大丈夫か?まぁ、そんなことは俺の知ったこっちゃ無い。
それにもう止めようとしたって姿も見えないぐらいだ、声をかけたって間にあわねぇしな。
「………」
「………」
さてと、そんなことより問題は今のこの状況だ。確かこいつは『雨粒を固定するスタンド能力者』だよな?
手当てが終わったらすぐに駆けつけるとかいったくせに…こいつはさっきからじっと俺のことを見てやがる。
もしや…変装が見破られたか?いやいや、この俺の『イエローテンパランス』の無敵さはこの俺自身が一番に理解してる…絶対見抜けるはずが無いはずだ。
でもよ、だとしたらこれはいったいどういうことだ?
こいつは今確かに一歩、俺から『離れ』やがった…まるでこの東方仗助が危険人物であるかのように!
「………」
「その、早いとこ止血だけでもしてもらえないッスか?このままじゃ出血でやばいことになるんッスけど…」
「多量出血による出血死、ねェ…。ふむ…すいませェんが私にはどうもそうなるとは思えないんですけどね…。失礼かもしれませんェんけど、聞きますよ?貴方は本当に東方仗助さんですか…?」
…こいつ、やっぱり疑ってやがる!この俺の正体を…!
「…何言ってるんですか、この通り俺自身のスタンドだってある…」
「まぁ、スタンドについてはどうこう言えませんよ。でも変じゃないですか?血がだんだん『薄く』なってるんですよ、貴方…ほら、振り返って見てみてくださいよ…」
ドドドドドドドドドドドドドド………
「それにその怪我だったらそんなこといってられるほど余裕はないはずですよ?エンポリオさんなんて血の池でしたから、貴方だってそうなるはずですよ…」
ドドドドドドドドドドドドドド………
「服も変ですよ。本来ならこんなに雨が降ってるんですもの、水分を吸って色が変わるのが普通…よっぽどお高いお召し物なんでしょうねェ…」
ドドドドドドドドドドドドドド………
「ですけど何より決定的だったのは…貴方はさぞかし間抜けな方なんで気つかなかったんでしょうが…」
「それこそ私の知り合いにいますよ?…東方仗助のような、頼りにされるような男が…。そんな人はねェ、腕をもぎ取られようが足が千切れようが一旦繰りついたらスタンド能力を決して解除しないんですよ…。なによりスタンドなんかに頼ることなく、自らの手で運命を切り開いていく覚悟、それを持っているんですよ…『彼ら』って奴は…」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド……!!!
「……ヒヒヒヒ、結構結構……。てめーの頭がいいことは理解したぜ…俺にも色々とミスはあったな、それは反省しねぇーとな…」
ちぇ、ばれちまったもんは仕方ねぇ。偽の傷口に入れといたさっきの男のかすはまぁ、俺のスタンドが栄養にでもするだろ…。
「……」
「でもよ、てめー頭脳が間抜けか?ここで俺の正体を見破るってことはよぉ、俺としちゃお前をただでおいとくわけにはいかんわけよ!
ドゥーユーアンダスタァ~~~~ンンンド?お前はここで俺に殺されるってわけだ、この田ご作がァーーーーー!」
既に俺のスタンドは地面に張り巡らされてるのだッ!奴からしたら俺はただ顔が変えることが出来るスタンド使い。
その盲点に俺は付け込むッ!まさか自分の足元がすべて俺のスタンドで触れた瞬間、飲み込まれるなんて思っても無いだろうな、ヒヒヒ!
さぁ、来い!こんだけ挑発したんだ、奴は絶対乗ってくる!
「いいえ、私は貴方と戦ったりはしません」
………は?
「なぜなら貴方は私の仲間になるんですからねェ…」
…おいおい、一体どういうことだ、これは?
「私は参加者88人を皆殺ししてこのゲームを優勝しようとしています」
「なにィ~~~~~!?」
「毒を制するのは毒、ここはひとつ殺人者同士で手を組みませんかねェ?」
ちょっと、待てよ…オイ………ただでさえ、この目の前のこいつの言葉で混乱してるってのに。
なんだ、こりゃ?水蒸気か?…俺とこいつの間に
ぷかぷかと浮かんだ水滴が急にスタンドになって喋りやがったッ!
「その話…面白そうじゃねぇか…」
またまた突然聞こえた言葉に首を右に向けてみると、水蒸気の次は水溜り、包帯巻きのスタンドが写ってやがる。
「ククク…まったくだ…俺にも詳しく聞かせてくれないか?」
勘弁してくれよな、まったく………。まぁ戦わないにこしたことはねぇな、ヒヒヒ!話だけでも聞いてみるか…
◆
「うわあああああああああああああああああああああああーーーーーー…ッ?!」
目の前が霞むほど、それこそまるで滝のような、本来ならば亜熱帯地方でしか発生しないような豪雨。
(え…?)
一瞬で狭まった視界と雨粒の冷たさに早人の頭は比例するように、冷静さを取り戻した。否、無理矢理現実に引き戻された。
依然涙は流れ続けているが寧ろそれが感情の捌け口となり早人は目の前に迫った命の選択に集中することができた。
(雨…天気?これはウェザーさんからの伝言…?)
先ほどの、時間にしてほんの一・二時間前の戦いが彼の脳裏をよぎる。ウェザー
あの時はアヌビス神がいた、ウェザーが駆けつけてくれた。
(…そうだ、僕は独りだ………認めるんだ早人!逃げちゃ駄目だ、今ここで『僕が』こいつを倒すんだッ!)
アヌビス神、ヨーヨーマッ、そしてエンポリオ。
三人の死は彼を絶望に叩き落とすには充分であったろう。それでも早人は立ち上がった。
ウェザーがやって来る、その希望ひとつを胸に、彼の精神は輝きを取り戻すのだ。
友を失いながらも立ち上がるその姿は確かに『黄金に輝く精神』、かつて
吉良吉影の前で運命を打ち破った
川尻早人が、そこにはいた。
足元に散らばった道具を抱え込み、まずは距離を取ろうと早人は辺りを見回しその存在を確認しようとする。
(いた…!)
ゾッと背筋が凍るような思いがした。わずか三メートル足らずの所、後方に早人の頭の高さほどを透明の球がゆっくりと浮遊している。
すでに二人(?)の命をとったにも関わらずその動作に慎重さに満ちているのは先ほどの敗戦が堪えたのであろう。
(僕の作戦は、やっぱりこれしかない…。このライターを使った作戦でいく………。だけど、ここじゃ不味い。雨で姿が見えてもこの場所には障害物がない…!
奴を倒すことが出来ても、僕が逃げる場所が無い!奴のスタンド能力が先か、あのライターのスタンドが先かなんていう分の悪い賭けはごめんだ!)
拳の中でグッとライターを握り締める。じっとりと汗が湧き出るのがわかった。
決意を胸に早人が駅に向かおうとした瞬間、透明の球が円を描くように動きを変えた。今度はレコード盤のように、ゆっくりと。
(僕の場所を大まかに把握して、逃げ道を塞ぐつもりだ…。あとは時間と供に円を狭めていけば…)
じっくりと観察する。球を観る。軌道を知る。
時計の秒針のように迫る死へのカウントダウンの恐怖に自然と息が荒くなったのを知りながら早人は脳をフル回転させた。
(高さだ……。きっと、僕の頭を狙っているんだ、一撃で仕留めるために…)
奴は自分が見えない。それから搾り出された結論はあまりに馬鹿馬鹿しい。それでいて単純で、これしか道が無いように彼には思えた。
狂気の沙汰、そう人は言うかもしれない。
(飛び越える…僕に出来るんだろうか?この怪我した足で…。いや、やるしかないんだ…ッ!運命を乗り越えろ、早人!やってみせるんだ!)
心臓の鼓動が聞こえる、膝が笑い汗が伝う。自分の命を懸けた戦い、ジャンプを決意する。
目の前を通り過ぎた直後、即座にハードルを越えるように削り取る球を跳躍する。大地をけり、空を舞う。
早人は死神から逃れたのだ。空中にいるため、わからない。しかし足が大丈夫な以上、無事にすんだのであろう、そう早人は安堵した。
ガ オ ン !!
…はずだった、早人の足が万全で負傷によりバランスを崩していなければ。
現実は非常である。
「ぐあああああああああああァあああああああああああああァアーーーッ!!」
今度は先だけではない。かかとと足首、それらを含んで自らの体を支えていた右足が棒切れのような形になった。
二度と体験したく無い、そう思った痛みを再び、しかも一日にも立たずに感じることとなってしまった。
脳は本能が命じるままに痛みという危険信号を発し、その殺人的なまでに強力な電撃に早人の口より悲鳴とも呻き声とも取れないような声が意図せず出てきた。
赤い断面図を両手で抱え込み、体を何度か痙攣させる。痛みが命じるままに、もがき苦しんだ。
転げ周り、泣き叫ぶその姿は惨めなもの。段ボール箱に撃ち捨てられた傷だらけの子猫のような。
そんな状態だったからだろう、早人には気づく余裕が無かった。
駅から漏れている光に照らされ、できた人間の影が。透明化を解除して、塵で見るかのように冷徹な目をした
ヴァニラ・アイスがそこにいることに。
瞬間、天地がひっくり返りジェットコースターに生身で乗っているかのような奇妙な浮遊感を感じた。
駅の壁に叩きつけられ、逆流した胃液をぶちまけながら彼はようやく自分がゴムマリのように蹴飛ばされたと理解する。
咳き込み、胃液を吐き、血を吐く。背中と腹部に受けた衝撃で痛みが拡散するわけもなく、相も変わらず痛む右足が恨めしく思える。
壁伝いに体を包む雨粒の冷たさが急に身に滲み、その中で恐怖を感じる余裕も無かった。
それどころかこの痛みから解放されるなら…そんな思考さえ彼の脳裏を横切った。
降り止まない雨音に紛れて一歩一歩近づいてくる死神の足音。自分があの空間に消されるという感じたこともない虚脱感。
目を閉じてその時を待つだけだった。そして早人はそうした。
―ヒーローは遅れてやってくるとはよく言ったものだ。
死神の鎌は振り下ろされることなく新たな獲物に向けて構えられた。その獲物は先に自分が苦汁を舐めさせられた相手。
「貴様…」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「 早人…ギリギリ間に合ったか…」
「二度も貴様を取り逃がすような失敗を犯すわけには行かない…」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「その出血は早く治療しないと不味いな…。待ってろ、早人」
「我が主、DIO様のためにも!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「すぐに終わらせる」
「今、ここで貴様を殺すッ!!」 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ… 「今、ここで貴様を殺すッ!!」
「ククク…盛り上がってるところ申し訳ないが…」
「?!」
「J・ガイルッ!!」
「ヴァニラ・アイスよ、その男に手を出すな…。おっとウェザー・リポート、お前も動くなよ?動いた瞬間、ククク、この小僧がどうなってもいいならばだが…」
◆
「いや、見物だったぜ、あの唖然とした顔!ヒヒヒ!三人揃って開いた口が塞がらないって間抜け面揃えてよぉ~、あの時ほど俺のスタンド能力が素ん晴らしいィーと思ったことはないぜ?」
「けっ、下らねぇ!
ラバーソール、おめーそうやっていい気になってっといつか破滅するぜ……」
「ククク…なら俺の話はどうだ?」
ウェザー・リポートは善人だ。しかし囚人である。
日頃刑務所で衣食住を行い、生活してる彼からしたら他の囚人たちのその犯罪自慢も耳慣れたものだ。そんな下らないことに注意を払わないし、なによりそんな連中とつるむのは極力避けていた。
しかし、今の状況ではそうもいかない。場所が狭い駅の待合室であり、嫌がおうでも話は聞こえてしまうし、なによりもウェザー自身が聞き流しても自分の隣に座る少年にはいささか刺激が強すぎるものであった。
下品な笑い声を響かせる三人の男たちを見ている早人は不安げで、小刻みに震えていた。
「怖いか、早人?」
「大丈夫…。それより足が……」
そんな彼を安心させるようにポン、と頭に手を置いてやる。子供とあまり接したことがないウェザーにしてみればこれが精一杯の励ましであった。
早人はそれでもそんな不器用な優しさに安心感を覚えた。それだけで笑い転げる三人の声、そして自分の足を削り取った男の姿により作られた恐怖が薄れていく。
しかし乱雑に布で巻かれただけの早人への手当てを改めて施そうとしたウェザーの行動は一人の男の場を沈める手拍子にかき消された。
「スィませェん、盛り上がってるところ申し訳ありませんが私の話を聞いてください…」
三人のうち誰かがうるせぇ、と喚くのが聞こえた。その言葉に残りの二人の笑い声が重なり待合室に響いた。
再び静寂が訪れるのを男、ブラックモアは待ち、それから口を開いた。その悠々としたしゃべり方はまるで安っぽい結婚式に出てくる神父かのような暢気さをもっていた。
あたかも明日の天気を気にしてるだけだ、とでも言いたげな口調で。
「ここにいる皆様は揃いも揃って飛びッ切りの犯罪者ばかり、殺戮者ばかり!それが何の因縁か、一時的にとはいえ同盟を組むのです。それに関しての約束事を今決めておきたいと思います…」
三人からからかいのような野次が飛ぶ。無視して話を続ける。
「まずこの場で一番の実力者であるヴァニラ・アイスさん…。貴方に聞きたいんです、なぜ貴方は同盟を組む気になさったのですか?貴方ほどの実力があればここにいる六人ぐらい平気で殺せるでしょう…正直な話、ここは貴方が一番に主張しないといけないでしょう…」
今の今までずっと動かなかったヴァニラ・アイスがその言葉に目をゆっくりと開け、深い声を轟かせた。その声には確かな自信と有無を言わせぬ迫力、両方が確かに込められていた。
「この殺し合いで優勝するのはわが主であるDIO様。しかしながら帝王であるあのお方の手を煩わせるわけには行かない。中にはあの方が手をかけるには相応しく無いものもいるだろう。
ならば自分は下僕としていち早くその手助けをしなければならない。たかが間引きにあの方の手を煩わせるわけにはいかない、つまり貴様らが生きていられるのはあのお方のおかげ。
感謝するがいいぞ、わが主に…」
その言葉で部屋の空気が明らかに冷える。
アンジェロは胡散臭げにヴァニラを睨み、ピクピクとその手を震わせている。その動きはさながら首を絞め殺す予行練習を行ってるようで。
ウェザーの眼光は鋭くヴァニラに注がれた。真っ向から視線を絡め合う二人が何を感じたかは当事者のみぞ知るだろう。
「まぁまぁ、皆様落ち着きくださィ」
「それと、ブラックモアと言ったな…私はここの駅に残る。貴様らだけで既に6人、これからもこの駅は参加者が多く来るだろう…」
「訪れてくる参加者は貴方自身の手で処理する、と…。その忠誠心、見上げたものです。それではヴァニラさん……そうですね、ここからC-4にあるそのDIO様の館までどのぐらいかかりますか?」
「主が必要としているならば一刻の時もかからず」
「ふうむ、そうですか…」
顎に手をあて考え込むブラックモア。考えをまとめるためだろう、呟きを小さく漏らすこと数分間、彼は顔を上げた。
「では、これからこの七人の同盟の規約を発表します」
その七人、という部分がさりげなく強調されたように思えたのはウェザーの気のせいなのだろうか?ただ他の5人は気がつかなかったようだ。
ヴァニラ・アイスは再び目を閉じ、壁にもたれかかれ備え付けの椅子に身を沈めた。
三人は三人で、小言や悪態をつきながらも目をぎらぎらと輝かせ耳を傾けていた。
「ひとつ、この同盟は今日の24時までとする。ただしその後個人的に手を組むなりするのは構わない。七人の同盟は24時に解除。
ひとつ、今夜20時に必ずC-4にあるDIOの館に集合する。その際、それまでに得た情報は共有すること。ただし嘘をついても構わない。しかしそれが嘘だと判明した場合、他の同盟者はその嘘をついた本人を徹底的に攻撃する。死んでも文句は言わない。
ひとつ、七人は四組に分かれる。私とウェザー・リポート、J・ガイルさんとアンジェロさん、ヴァニラ・アイスさんと早人さん、ラバーソールさんは単独行動をしてもらいます。
これについてはまた後で詳しく理由も話します。
ひとつ、DIO様及び、ウェザー・リポートの仲間、早人さんの仲間については『可能な限り』殺さない。
まぁ、これについては深くは言いません。どうせ貴方達のことです、殺す気満々なんでしょうから…。けれども出来る限り、避けてください。これは所謂規約ではなくお願い、と言ったところでしょうか。
そして、最後にもうひとつ。この同盟は裏切りが前提であること。いつ裏切っても自由、造反結構、手回し結構。ただしそれが表立った場合、他の六人はその一名を徹底的に攻撃する。殺されても文句は言わない。
以上5点が主な規約です。何かご質問はありませんか?」
各々は今ブラックモアが語った言葉を噛み砕いている様子だった。その中でもウェザーの反応は早かった。
「組み分けについて不満がある。別の組で行動することを希望する」
その言葉には確かに怒りが溢れていた。その瞳は憤怒に染まっていた。そのスタンドから時折発せられる、バチバチと雷がはじける音は彼の内に秘める感情の高ぶりだろう。
胸倉を掴みにかからんぐらいに近づき、説明を求めたウェザーの怒りをいなすようにブラックモアは説明をした。
「組み分けについての説明ですね、わかりました。他の方々も聞いてください。
まず最初に私とウェザー・リポート。恥ずかしながら私のスタンドは雨が降っていない限り効力を発揮できません。ほかの組み合わせでいくと自分は足を引っ張るだけなのでウェザー・リポートと組ませていただきました。
続いて、アンジェロさんとJ・ガイルさん。二人とも水溜り、及び水、それに順ずるものに関係するスタンドなので同じくウェザー・リポートと組みたいと思われるかもしれませんが、先に言った通り自分が一番非力となってしまいます。その点お二人ならば大丈夫かなと思いまして。それにお二人で気が合われてるようですし。
ラバーソールさんについてはその変身能力を最大限生かすためにも単独で行動されるほうがいいと思います。どうしても私達のようなものと組んでると警戒されますしね…。
早人さんとヴァニラさんについては、早人さんの足の負傷、そしてウェザー・リポートに対する保険としてのペアです」
納得がいかないウェザー。規約の発表がされてから震えっぱなしの早人をその恐怖の張本人と組ませるわけにはいけない。
胸倉をつかみ、グッとブラックモアを近寄せる。脅してでもこの組み合わせだけは変えるつもりだった。
「早人さんは必ず二人で助けに行きましょう。
第二回放送時にここを襲撃します。手伝ってくれますよね?」
できるだけ小声で、しかも唇を動かさないように発せられたその作戦を聞くまでは。
あたかも説得が出来ない相手と諦めたかのように、ウェザーは盛大に舌打ちをするときびすを返し再び早人の元に戻った。
「付け加えていいますと、私の組とJ・ガイルさんの組は同じ方向に向かいます。私たちが雨を降らせて水溜りができ、有利な状況で殺しができるのは貴方達にとっても好都合なんでしょうけど…どうですか?」
「ククク…俺は問題ないぜ。アンジェロ、お前は?」
「俺もだ…。だがな、ブラックモア…てめぇーのその私が言ったことはなんでも実現する、みてーな態度はやめな…。そうやっていつまでもいい気になってると俺が殺すぞ?」
「気をつけます…。他にご質問はありませェんか?」
「では、これにて同盟成立!皆様のご健闘をお祈りします!」
◆
(さて、彼からの信頼は得れたのか、どうか…。まぁ、そんなことはこの際構いませんねェ…。なんとかこの危険地帯を乗り切っただけでも良しとしますか…)
(早人を助けるためにもブラックモアを信頼すべきなのか…?いや、しかし………。だが今回ばかりこいつに助けられたのは事実だ…。)
(あの偽仗助さんのデイバッグ…動いてる!あれは…きっと僕が送った鳩だッ!こうなったらなんとかして承太郎さんに直接手紙を送るしかない…
それと………ヴァニラ・アイスはこのライターを知らない…。僕に出来るのか?この僕に…人殺しが、できるのだろうか?!)
(アンジェロ、か…ククク、ホルホースよ…どうやらてめーより有能なナンバー2がここにいるようだぜ?まぁ、本人はそんなこと思っても無いんだろうがな)
(J・ガイル…直接の戦闘はこいつに任せるとするか。俺としちゃ、早く人殺しが楽しめりゃいいんでな…精精がんばってくれよ、J・ガイルのだんな…)
(ヒヒヒ…楽しくなってきたじゃねーか…。ま、最終的に勝ち残るのは俺なんだけどな!それより早人から情報を聞きだしたいところだが…簡単にはいかなそーだな、こりゃ)
(DIO様…)
其々の思惑は複雑に絡み合い、旋律を奏でた。その序曲、サンタ・ルチア狂想曲、これにて終了。
一人の男の指揮が流れ、舞台は第二部へと動き出す。これから訪れるであろう其々のソロパート、ドュエットをご期待ください。
【H-3サンタ・ルチア駅/1日目 早朝(放送直前)】
【J・ガイル】
[時間軸]:ジョースター一行を
ホル・ホースと一緒に襲撃する直前
[能力]:『吊られた男』
[状態]:左耳欠損、左側の右手の小指欠損、右二の腕・右肩・左手首骨折、
カーズに対して怒りと恐怖、 軽く情緒不安定
[装備]:なし
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
1.アンジェロを可能な限り利用し、参加者を減らす。
2.自分だけが助かるための場所の確保もしておきたい。
3.カーズには必ず自らの手で借りを返す…のか?
4.3のために力をつける。結局はこのゲームでは力がないと死んでしまう…
5.20時にDIOの館に向かう
[備考]
※デイパックと支給品一式をカーズに奪われました。
※『吊られた男』の射程距離などの制限の度合いは不明です。
※
ワムウによる蹴りのダメージは右二の腕・右肩・左手首骨折でした。それぞれに対して添え木がしてあります。
※支給品一式をブラックモアから譲り受けました。
【
片桐安十郎(アンジェロ)】
[スタンド]:アクア・ネックレス
[時間軸]:アンジェロ岩になりかけ、ゴム手袋ごと子供の体内に入ろうとした瞬間
[状態]:健康、テンション高
[装備]:ディオのナイフ ライフルの実弾四発、ベアリング三十発
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:安全に趣味を実行したい
1.J・ガイルを可能な限り利用し、参加者を減らす。
2.
空条承太郎を殺す。
3.コロッセオに向かう…?
4.荒木は良い気になってるから嫌い
5.20時にDIOの館に向かう
[備考]
※アクア・ネックレスの射程距離は約200mですが制限があるかもしれません(アンジェロは制限に気付いていません)
※名簿に目を通しました。
【ウェザー・リポート】
[時間軸]: 12巻、脱獄直後
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~3(本人は確認済み)、黒い糸数本
[思考・状況]
基本行動方針: とりあえず殺し合いには乗らない。襲ってきた相手には容赦なく反撃する。
1.早人の安全を確保したい。
2.『雨』を降らせ、仲間に自分の存在を伝え合流する
3.ブラックモアを警戒。
4. 男(
ロメオ)を殺したやつを探す。相手次第で始末する
5.20時にDIOの館に向かう…?
6.早人救出作戦を考える。場合によってはブラックモアと相談する。
7.七人の同盟をまもるかどうか、場合によってはブラックモアと相談する。
8.
エンリコ・プッチ、ラング・ラングラーの二名に警戒
[備考]
※雨はウェザー・リポートが降らせています。
雨が降っている領域は【H-3】の周囲一マス程度です。
※名簿はチェック済みです。一通り目を通しました。早人と情報交換しました。
※ブラックモアとは情報交換を完全にしていません。交換されたのは下の情報だけです。
①ブラックモアが、気絶しかけていたエンポリオを止血して助けた。
※黒い糸はブラックモアの服からちぎりとったものです。
※先程よりブラックモアに対する信頼感が増しました。一方でその狡猾さに不安も覚えています。
【ブラックモア】
[時間軸]:ジャイロの鉄球が当たって吹っ飛んだ瞬間
[状態]:左腕にかすり傷
[装備]: 一八七四年製コルト
[道具]:支給品一式、予備弾薬(12/18)不明支給品1~3(本人は確認済み)
[思考・状況]
基本行動方針:優勝する。
1.ウェザーの信頼を得ることを第一に考え行動する。その際に生ずる損得を含めて。
2.可能ならば第二回放送時にサンタ・ルチア駅を襲撃する。ただし無理はしない。
3.早人救出作戦を考える。場合によってはウェザ-と相談する。
4.七人の同盟をまもるかどうか、場合によってはウェザーと相談する。
5.20時にDIOの館に向かう…?
6.早人が用済み(ウェザーの信頼得た後ならば)になったら始末する。
7.名簿にある“ツェペリ”“ジョースター”“ヴァレンタイン”の名前に注目
8.遺体を捜す
9.傘が欲しい…。
[備考]
※名簿はチェック済みです。一通り目を通しました。"ツェペリ""ジョースター""ヴァレンタイン"の名に警戒と疑問を抱いてます。
※ブラックモアがほかの七部の参加者をどのぐらい知っているかは不明です。
※エンポリオからは情報を聞き出せませんでした。
※支給品一式をJ・ガイルに譲りました。ウェザーリポートにはばれてません。(二つ持ってたことも渡したことも)
※J・ガイル、アンジェロのスタンドについては理解し切れていません。水、及びそれに順ずるものを媒介とするとだけ把握しています。
【ラバーソール】
[時間軸]:承太郎と戦闘中、ザリガニ食べてパワーアップした辺り。
[状態]:健康。仗助、重ちーを食べてパワーアップ!?
[装備]:サブマシンガン(消費 小)、巨大なアイアンボールボーガン(弦は張ってある。鉄球は2個)、ヨーロッパ・エクスプレス
[道具]:支給品一式 ×3、内一食分食料消費、ギャンブルチップ20枚、ランダム支給品×1
[思考・状況]
基本行動方針:勝ち残り、優勝。溺れるほどの金を手に入れる。
1.早人から承太郎についての情報を聞きだしたい。
2.参加者をできるだけ減らす。
3.状況によっては承太郎、仗助、花京院に化ける。
4.20時にDIOの館に向かう
5.この鳩、いったいどうしようかねぇ…?
[備考]
※ラバーソールは承太郎、仗助、花京院に化けれます。偽のスタンド像も出せますが性能はイエローテンパランスです。
多分ウェザーとブラックモアにも変装可能でしょう。(エンポリオと早人は身長の問題をクリアできるのかは不明)
※ラバーソールは仗助が自分自身の怪我も治せると勘違いしています。
※本物の早人を知りました。
※鳩は早人が同封した返事分、一回分の便箋を持っています。
※ラバーソールは重ちーの残りのランダム支給品の中身をまだ確認してません。
※ラバーソールは仗助の顔のままです。素顔をこの6人には見せていません。
※J・ガイル、アンジェロのスタンドについては理解し切れていません。水、及びそれに順ずるものを媒介とするとだけ把握しています。
【川尻早人】
[時間軸]:吉良吉影撃破後
[状態]:右足欠損(足首より下全部)、精神疲労(大)身体疲労(大) 腹部と背中にダメージ大
[装備]:なし
[道具]:支給品一式 ジャイロの鉄球、鳩のレターセット、メサイアのDISC、ポルポのライター
[思考・状況]
基本行動方針:荒木を倒したい。殺し合いにはのらないけど、乗ってる参加者は仕方ない。
1.なんとかして鳩を取り戻し、承太郎に手紙を送る。
2.ライターを使ってヴァニラを倒す…?
3.荒木の能力を解明したい
4.死んだ人達にはどう接すればいいんだろうか?
5.他の知り合いにも会いたい…。
[備考]
※仗助に危機が迫っていることを感づきました。
※吉良吉影を最大限警戒、またエンポリオの情報によりディオ、プッチ神父も警戒しています。
※削り取られた右足の処置は出来ています。歩行は困難でしょうが無理をすればできます。
【ヴァニラ・アイス】
[時間軸]:回転しながらポルナレフに接近する途中
[状態]:鼻骨、左胸骨、左肩甲骨 骨折 全身に打撲(随時吸血鬼の能力で回復中)、吸血鬼化 、ウェザーに対して静かな怒り
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、不明支給品1~2(本人は確認済み)ゾンビ馬(怪我ひとつを縫える程度)
[思考・状況]
基本行動方針:ディオ(DIO)様以外の全員を殺害し、優勝させる
1.朝日を避けるためサンタ・ルチア駅を拠点にする。
2.駅に来る参加者を皆殺しにする。
3.夜になり次第、DIOの館に向かう
4.頃合を見て早人を殺害する
5.先ほど自分を倒したウェザー・リポートを必ず殺す (保留)
6.夜になり、自分で行動できるようになったら同盟を破棄。皆殺し。
[備考]
※ヴァニラ・アイスは、自らの肉体の『吸血鬼化』に気付きました。
※『吸血鬼化』はまだ完全ではありません。
※リサリサの絞りかすがI-6にわずかに残されています。
※同盟を守る気はさらさらありません。昼間の間だけは、間引きが期待できる5人については生かしてもいいと思ってます。
[備考]
※七人はほとんど情報交換を行っていません。お互いの名前と姿ぐらいしか正確には把握していません。
※それぞれが何処に向かうかは次の書き手さんにお任せします。
※馬はラバーソールが所持しています。
※駅には電車が到着しているか、どうかは次の書き手さんにお任せします。誰がそれに気づいているのか、電車が何処に向かっていくのか、誰が利用するのかも次の書き手さんにお任せします。
※ラバーソールは仗助の顔のままです。素顔をこの6人には見せていません。また、イエローテンパランスの能力を「顔を変える」と誤解している可能性があります。
※予定ではブラックモアとウェザーの組とアンジェロとJ・ガイルは同じ方向に向かうようです。
【七人の同盟:悪魔の虹】
【七人の同盟について】
- この同盟は今日の24時までとする。ただしその後個人的に手を組むなりするのは構わない。七人の同盟は24時に解除。
- 今夜20時に必ずC-4にあるDIOの館に集合する。その際、それまでに得た情報は共有すること。ただし嘘をついても構わない。しかしそれが嘘だと判明した場合、他の同盟者はその嘘をついた本人を徹底的に攻撃する。死んでも文句は言わない。
- 七人は四組に分かれる。ブラックモアとウェザー・リポート、J・ガイルとアンジェロ、ヴァニラ・アイスと早人の二人三組、ラバーソールは単独行動。
- DIO及び、ウェザー・リポートの仲間、早人の仲間については『可能な限り』殺さない。
- この同盟は裏切りが前提であること。いつ裏切っても自由、造反結構、手回し結構。ただしそれが表立った場合、他の六人はその一名を徹底的に攻撃する。殺されても文句は言わない。
投下順で読む
時系列順で読む
キャラを追って読む
最終更新:2009年05月25日 00:58