良くも悪くも、烈しい怒りが未来を創る。
ラッセル・バンクス『この世を離れて』
第1回放送を聞き、大した感慨もなく必要事項の確認をし終えると、DIOとJ・ガイル以外にさして興味もないエンヤは、民家を出た。
彼女はスタンドの消耗を避けるため、最小限のエネルギーで女の遺体を動かし、自分の前を歩かせ行動することとした。
そして老体に鞭打ち、食料・武器調達に人が集いそうな繁華街方面へ南下する。
リスクも高まるが、背に腹は代えられない。
あの忌々しい少女に課せられたノルマを果たすためだ。(放送で名が呼ばれることを期待したが、叶わなかった)
2人殺して待ち合わせ場所に行かなくては、あの美しい髪の毛が、彼女の身を容赦なく食らうだろう…。
しばらく歩くと、一軒の建物が見えてきた。人がいるかもしれないと、警戒しつつ近寄って様子を確かめる。
壁に耳をあて、中の様子を探ると、途切れ途切れながらも焦がれに焦がれた名前を聞き取ることができた。
「…ポルナレフさん…ろよ…それ…」
「ポ・ル・ナ・レ・フ・サ・ン~!!??」
老女は身を掴み上げるような憎悪と、同じくらい激しい喜びに一切を忘れた。
彼女はえもいわれぬその感覚に落ち窪んだ眼窩のなかで瞳を爛々と輝かせながら、即座に行動を起こす。
「『正義』…!!」
霧はみるみる立ち昇り、辺り一帯を包んだ。
恐ろしい霧は老女の手によって舞い踊り、今日もまたかわいそうな犠牲者をその薄ら暗い腹の中に飲み込んでしまうのだろうか?
※
「だからぁ~ポルナレフさんやめろよ!それ俺の分だろうが!あんたもう自分の食べ終わったんだろぉ~後片付けでもしなよっ!」
「けっばれたか。ケチくさいぜ、まったくよぉ」
「人のもん食おうとしといて何言ってんだ!頭おかしいんじゃねえの?!」
「んだとォ!」
「やめてくだサイ!もう!」
場所はレストラン『トラサルディ』店内。
彼らは『フランス風クリームスターターとパールジャムのミルフィーユ仕立て季節のソースを添えて(ただしパールジャム抜き)』に舌鼓を打ちながら、殺伐としたゲームの中、おいしい料理で英気を養っていた。
軽口をたたき合いながら食事も終盤に差し掛かっっていた…
が、その時、異様な気配が店内を満たした。
日の高い時間だというのにゆっくりと暗くなり、不吉な霧状の粒子が彼らを取り巻いた。
「これは!?」
「何事でスか…不気味な…!」
「この霧…まさか!まさか…あのばばあか!?」
この言葉と同時に、店の入り口横にあるガラス戸が破られ、黒い塊が2つ、中に飛び込んできた。
姿を現した侵入者の一人は間髪入れずに、叩き割ったガラスのかけらを拾い上げるとポルナレフに向かって鋭く投げつけた。
「うおっ!くそ!」
不意の攻撃を避け切れず、ポルナレフの右手の甲にガラス片が深々と刺さる。
次の瞬間には、『ボゴン!』という音と共に、きれいな丸い穴が彼の手の甲を貫通していた。
その穴にさらさらと素早く霧が潜り込んでゆく。
乱入者は『正義』のスタンド使い、エンヤ・ガイル。
そして彼女に操られる『
空条承太郎の妻の遺体』。
これでポルナレフの右手は完全に『正義』の支配下に入った。
彼はピクリとも動かなくなった右手に焦りながら叫ぶ。
「やっぱりかよ!こんのばばあ~!なんでまだ生きてやがる!?」
自らの眼で確実に死を見届けたはずの敵の登場に、心底驚愕しながらポルナレフは叫ぶ。
ここで少しだけ考えていただきたい。
エンヤが痛む心を抑え、復讐の直情に駆られる前に、もっとも今何を優先するべきか、冷静に考えられていたら…
お互いがお互いの恨みを沈め、もっと冷静に考え行動出来たら…
あるいは違う結果を生んだかもしれない。
しかしそんなことは事実上不可能だった。エンヤにとってポルナレフは息子の仇で、ポルナレフにとってエンヤは憎い憎いDIOの配下にして、妹の仇の母親なのだから。
彼らに共通して言えるのは、"お互いがお互いを前にすれば、とても冷静でいることなど不可能"という事だ。
要するにここバトルロワイヤルとはそういう世界、不条理と後悔と皮肉に満ちた殺戮の大パノラマなのだ。
こうして、小粋なイタリアンレストランを舞台にスタンド『正義』がその血なまぐさい悲劇を開幕した。
※
紅蓮の炎をその眼に宿しながら、ポルナレフの言葉など耳に入らないかのようにエンヤは叫ぶ。
「ここで会ったがなんとやらッ!!…アラキというもののスタンド能力の為か、息子は生き返っておる様子!それについては非常に良い事じゃ!
だがお前らが我が息子に対し犯した悪意ある仕打ちの数々!
あんな善良な子に良くも…!わしの可愛い息子に良くも…ううう。
そしてさらにDIO様にまでたてつくとはっ!許し難いわその所業!
ポルナレフ…そしてホルホース、あいつもよ…お前らを地獄の業火の中にたたき落とすその時まで、この体は…!天にも地にも寄る辺なき魂の頭陀袋よ!
わしは絶対に、ぜぇぇええったいにこの恨みを晴らす!あの世で腐り果てろぉぉぉッ!」
老婆は、溜まりに溜まった恨み言をぶちまけ、まず動けないポルナレフに攻撃を仕掛けるつもりか、霧で操った不気味な挙動の女をポルナレフに近づける…
ポルナレフはチャリオッツを発現させつつも、おそらくこんなゲームとはなんの関係もなかったであろう見知らぬ女性に危害を加えることをためらい、
自分も恨み言を返そうと叫び出す。
「てめえー!この逆恨みばばあ!てめえの息子が…」
「だぁまぁれぇええポルナレフぅぅ!最後の言葉なぞ許可しないぃぃぃい!!!!
その女の手ですこぅしずつ、すこぅしずつ腹の肉をちぎり取ってやる!ハラワタぶちまけやがれエー!」
悩ましい動きの女の青白い手が、ポルナレフの腹を裂こうと素早く伸ばされた瞬間、女とポルナレフの間に、影が一つ飛び出した。
その影は自らの身をポルナレフと向かって来る女ゾンビとの間に滑りこませ…
「トニオさんッ!」
ポルナレフが叫んだ瞬間、女の冷たい手が踊り出たトニオ・トラサルディの腹部に、
「ギャアアア!!!!!!」
抉り込もうとした瞬間、しゃがれた声の絶叫と共に、女ゾンビの動きが止まった。
見れば、先ほどまで勝利と報復の結実に沸いていたエンヤ・ガイルが手首から血を流し、突然の痛みにわななきながら床を転げまわっていた。
女ゾンビはそのままの状態で停止している。
床に滴った自らの血液を体に塗りたくる様にゴロゴロと転がる年老いた女を、トニオ・トラサルディとJ・P・ポルナレフは茫然と見つめた。
一体何が起きたのか?
その疑問に対する答えはこの部屋の隅、彼らのデイパックが転がっている場所へ目を向けていただくことで明白となる。
そこには、支給品「LUCK&PLUCK」の剣で自らの手首を深く切りつけているマックイイーンが座り込んでいる。
そしてもう一度、復讐に沸き、その成就を目前としながらも転げまわって悲鳴をあげているかわいそうな老婆の方を見ていただきたい。
彼女の手首付近に発現しているスタンドが見えるはずだ。名は「ハイウェイ・トゥ・ヘル」。本体と同じ方法で、相手を死に追いやるスタンド。心中を強制するスタンド。
「まだ、動けるのかその婆さん…!くそ!いてえなあ!これ以上自分で切れねえんだよ!
手がブルっちまって…心臓刺したら即死だったんだよなあ~失敗したかなあ~…今さらやり直すのもな~…
この痛みが無駄になっちまうしよお~…トニオさん!その婆さんを抑えててくれよぉ!」
がくがく痙攣する腕で、マックイイーンはさらに切りつけようと剣を腕へあてがう。
「縦に切ろう今度は…そのほうが血管を切った面積が広くなるもんな…うん。
いや違うな…動脈を切らないとだめなんだっけ…動脈ってどこにあんだ?首かな?」
腕を切りかけたマックイイーンはぶつぶつと虚ろに呟き、剣を持ち直すとためらい無く首筋に刃を入れた。
ぽたぽたと断片的に流れ出した血液が、やがてものすごい勢いで彼の体から流れ出していく。
それを見て驚愕し、駆け寄ろうと身を浮かせるトニオに、叱責が飛んだ。
「ごっ、…こっちに来るなっ!!その婆さんを抑えてろ!頼むから!!このままじゃ全員殺されちまうんだよッ」
トニオ・トラサルディは突然の事態に思考が追いつかないのか、茫然としたような表情で、エンヤを押さえ込もうと動く。
一方エンヤの体にもマックイイーンのスタンドが全く同じダメージを与えていた。
ただでさえ混乱していた彼女は更なる攻撃に右も左もわからない、といった様子で転げまわっていたが、その時やっと出血している部分を手で押さえようと身を捩る。
とにかくトニオはバタつく彼女の動きを止める為、飛びかかって上から抑えつけるが、エンヤはものすごい力で暴れまわり、大の男の力を振り切ってしまいそうなほどだ。
「おおぉぉぉおお!はなせぇぇ!!詫びろっ!血反吐ぶちまけながらあぁぁ!!!詫びろぉっ…わしの、息子とォ…DIO様にぃぃい!!!!」
「こっ、この方も!助けっ、なければなりま、セン!落ち着いて、話し合えば分ってください、マスッ!」
トニオ・トラサルディは暴れるエンヤを押さえ付けながら、他の二人に向かって途切れ途切れに叫ぶ。
ポルナレフは『正義』の拘束から逃れようと足掻きつつも敵わず、もどかしそうに叫ぶ。
「このばばあ!その出血でなんでそんなに動けるんだ!…くそ!この霧を何とか…!!スタンドを解除しやがれ!くそッ!
トニオさんよ!甘すぎるぜ!『わかる』とか『わかってくれる』とかは違うんだよ!こいつらはそういうのとは違う…
こんなゲームにぶち込まれる前は、そのばばあに同情のようなものを感じたことも確かにあったが!
根本が、頭の大事なところがイッちまってるんだよ!俺達とは思考の拠り所が違うんだよ!」
「そんな、はず、はずはありまセン!理解して、い、いただけないのは、説明が、足りない、足りないだけ、デス!私が、説得し、しマス!
シニョーラッ(奥さん)!暴れるのをやめて、やめて下サイ!そうすれば手を、放し、マス!」
意外にも、その言葉を受けてエンヤは糸の切れた人形のように、地面に伏し、一切の動きを止めた。
まさに観念した、話を聞く気がある、とでもいうかのように。
今までその暴虐をほしいままにしていた『正義』も、ゆっくりと引いてゆき、なりを潜めた。
すぐそばで直立状態のまま静止していたもう一人の侵入者である女性の体が、ぐらりと床に崩れ落ち、そのまま動かなくなった。
トニオはうれしそうな顔をし、すぐに拘束を緩めようと身を起しかけた…
しかし。…残念ながら『しかし』だ。
トニオが抑える手を緩めた瞬間、エンヤは狂ったようにトニオに覆いかぶさり、彼の負傷したばかりで治りきっていない左肩に傲然と掴みかかった!
「……ッ!!!」激痛のために声もあげられず、圧し掛かられるままに地面に倒れかけた彼の瞳の端に移っていたのは、焦り顔でチャリオッツと共に駆け寄ろうとするポルナレフ…
そしてもう一つ。
のけぞりながら空中を見上げたトニオ・トラサルディには、目の前の出来事が嫌にゆっくりに見えた。その時彼の瞳が捉えたものは…
(割れた窓から何かが…投げ込まれた…あれは…石…?何か、文字が…『ビュンッ!』…?…??)
親指ほどの石がエンヤの頭部にゆっくりコン、と当たった次の瞬間、彼女の小さな体は
壁際まで吹き飛んでいた。
(!!?これは、まさかコーイチさんの…?イエ、ともかく今は先にマックイイーンさんを!)
トニオは倒れかかった身を即座に起こすと、痛みも気にせずにマックイイーンの安否を確かめるため動く。
「いっ今のはなんだ!また敵かよッ!?くそが!ともかく霧が消えたぜッ。ばばあはくたばったのか?ああいやっ!その前にマックイイーンを!トニオさん!」
立て続けに起こる異常事態に錯乱しつつ、ポルナレフは同じく錯雑とした表情のトニオと共にすでに壁にもたれかかり動かないマックイイーンのもとへ駆け寄った。
二人とも混乱が収まらないまま、目の前の出来事に対応しようと右往左往した。
「マックイイーンさんッ!まだ息はありマスねッ!ああ…でもひどい顔色デス…血液が足りないッ。ああ、どうすれば…
ハッ!さっきの!パール・ジャム入りの料理を食べれば、助かるかもじれまセン!持って来ます、飲み込んでくだサイ!」
「……いや…無理だ。飲み込めないよ…ありがたいが、俺はもういい。…なんか、すげえ眠いんだよ。こういう死に方は最後眠いって…聞いてたとおりだ、ハハ…」
「ッ!水を持ってきマス!そこに私のスタンドを込めれば助かるかもしれま「聞いてくれ、トニオさん。」
「!?放しなサイっ!本当にあなた死んでしまいマすよ!」
マックイイーンはトニオの腕をつかみ、引きとめていた。
「…ッ、俺が取ってくるぜッ!」
ポルナレフはそれを見てつらそうな顔をし、すぐに駆け出す。
それを見送ったトニオは振り返ってマックイイーンを見、戦慄した。
マックイイーンの眼を見た彼には分ってしまた。
この眼は、今からこことは違う場所に行ってしまう人間の眼だという事が痛いほどよくわかってしまったのだ。
「…心臓を刺して即死をしないでおいたのは、最後に言いたいことがあったからなんだ…
俺が…もっと早くにあんたと出会えていたら、あんなに何回も死のうとしたりしないでも済んでいたんじゃないかって気がちょっとするよ。
だが、そう簡単にはいかなかったかもな…俺は27年かけて、こういう人間になったんだ。一瞬で黒から白に戻ろうったって、そうはいかないよ…
……しかし不思議だね、トニオさん…あんたみたいな人がどうして俺なんかを好いて、あんなに良くしてくれたのか…
俺自身ですら、こんなにも俺を嫌ってるっていうのに。でもあんたのおかげで、幸福ってやつをちょっと味わえた気がするんだ…
レストランでちゃんと働けなくてごめん…料理楽しかったよ。うまかった。また食いたい。また……」
朴訥な彼の言葉を聞きながら必死に腕を引き離し、諦め切れずに厨房へ向かおうとしていた誇り高い料理人である、
「マックイイーンさん!わかりまシたから、腕を、……!?」
トニオ・トラサルディは、
「離、して…」
「下…さい……お願い…しマす……」
マックイイーンの腕は既に床に崩れ落ちていた。
これは『ハイウェイ・トゥ・ヘル』の標的となっていたエンヤ・ガイルの死を、同時に意味するものである。
戦闘は去った。
誰も得をしない、無意味で悲しい戦闘だった。
それは、生き残った者たちに何を残したのだろう?
「あ、あの…支給品…『クリーム・スターター』を残しておけば傷が、塞げたかもしれないのに私は…」
目の前の人間の死を今だに現実として受け入れられないかの様子で、トニオ・トラサルディは誰にともなくつぶやいた。
そのつぶやきに、マックイイーンの死体を見下ろしながら水の入ったコップを片手に、二人の傍らに戻っていたJ・P・ポルナレフは答えて言う。
「…トニオさん、厳しいようだが、あえて俺は言うぜ。その『クリーム・スターター』で傷は直せても、出血した血液まで回復出来たかどうかは疑問だと…
そしてあんたのスタンドを使った場合も同様だ…致死量近くまで流れ出た血液はヘヴィ過ぎるぜ…貧血どころの騒ぎじゃないからな。
気にするなとは流石の俺にも言えねえが、ひとつこいつの目線で考えてみてくれ…こいつは料理を楽しんでた。
『自分自身が嫌い』ってのはたぶんすげえつらいことだったと思うぜ…なにも楽しくなんて思えねえよ、たぶん。
そんな奴が楽しかったって言ったんだ、あんたは間違ってない。こいつを救ったのはあんただよ。」
「……」
トニオはうなだれ、言葉を無くしていた。
ポルナレフはつたないながらも言葉を続け、崩壊しそうな様子のトニオ・トラサルディの心をつなぎとめる。
「…わかるよな?いや、あんたはもう理解できてるはずだ。俺だってあの婆さんとは色々あって複雑だが、今は不思議と憎くないぜ…
死んじまったからって同情なのかもしれないが…、この婆さんには息子が大事で…まあ、その息子は俺にとっちゃ許すことなんて永久にありえないクソ野郎だが…
この婆さんに対しては、とにかくもうちょっと複雑なんだ。おれの気持ちは。なんか、うまく言えねえし…今となっちゃあもう遅い話だが…」
トニオ・トラサルディはその言葉を受け、顔をあげた。彼の眼は涙で濡れていたが、その眼はビー玉のように純粋に、しっかりとポルナレフを見据えた。
「…ハイ。お二人とも安らかに…。そしてあのもう一人の女性も…どうやら手遅れ…あの最初の広間ですでに…せめて今は土に埋葬して差し上げましょう…
マックイイーンさん…あなたの『幸福の味』が…どんなものかお聞きしたかったデス…」
「ああ、俺もだ…三人とも、いい夢見な。」
物言わぬ死骸に声をかけ、召された魂に祈る。
君を傷つけるものはもう何もない。安らかに、ただ安らかにと。
そしてすぐにポルナレフは伏せた眼をキッと上に向けると、あたりを見回しつつ、どこにいるともわからぬ乱入者に向かって叫ぶ。
「さて…、今!!婆さんを攻撃したやつッ!出てきやがれ!近くにいるなッ?!」
といっても相手が出てくる保証はない(そんな馬鹿正直な奴いるのか?)。
すぐに追加攻撃が無いことを見ると、敵意は無いのか…それも現時点では明白では無い。
ずっと警戒のため発現させていたチャリオッツにさらに意識を集中させ、戦闘態勢で待つこと数秒…
ギィ…という少々気味の悪い音と共に店の入り口から一人の青年が姿を現した。
ポルナレフはまず相手が自分の言葉通りに素直に出てきたことに驚いた。
さらにそれが彼の時代では到底見慣れない、インディアンの恰好をした青年であるということに少々面食らいつつも、思考の整理がつかぬまま興奮気味にまくしたてた。
「…よ、よしっ!まずてめえはなにもんか話してもらう!何しにきた?いや、その前にゲームに乗ったか乗ってないか言えッ!」
少々の狼狽ぶりを示しつつも、ポルナレフは相手に大量の質問を投げた。
インディアン姿の青年は少々考えるような素振りの後、ゆっくり口を開いた。
「…確かにここでは侵入者は俺の方…説明する義理はあるというところか。
質問に一つずつ答えよう。
まず、俺の名はサウンドマン…意味は『音を奏でるもの』。
次に俺はこのゲームには乗らない。
乗っていたらわざわざ姿を現さない。
元居たところに戻りたいだけだ…正直に出てきたことで証明になるだろう。
不意打ちなんていくらでもできたんだからな。
そして、ここに近付き、侵入しようとしたのは食料を頂くつもりだったからだ。
北に向かい途中にこの建物の近くまで来たとき、風向きもあったのだろうが付近には何かの料理の香りが充満していた。
初めは罠かと思った…この状況で音・光・食料の匂いはそこに人がいるということを他人に知られる要素…人を集めるからな。
主にゲームに乗ったやつを。
故に中には余程の間抜けがいるか、ゲームに乗ったやつが張った罠が待ち受けているはず…そう考えた。
しかし俺にとって食料は重要だ。量は多目に確保したい。
それに我がスタンドはとても使える…少し中の様子を探ってみても損にはならないと判断した。
そこでお前たちがその老婆相手に大立ち回りを演じていたと言うわけだ。
しばらく観察させてもらったところ、その老婆を静かにさせれば事が簡単に運ぶと思い、スタンドを使ったのだが…事切れているのか?
殺すつもりではなかったが。それともスタンドを発現させながら死んだそっちの男の能力か?…とにかく以上だ。
争うつもりはないが、食料は分けてくれ。」
"食べ物の匂い"
…彼らは考えていなかったのだろうか?しかしそれは彼らが間抜けというよりも、善意で動く人間だったからだ。
トニオ・トラサルディが、『傷ついた参加者を救う』この一念に全てをささげる一途な料理人であったために。
これは『甘さ』だろうか?しかし同時にこんな事実も含んではいないだろうか?
『こんな殺伐とした状況の中でも自らの信念を保ったまま、それに則した行動ができる人間もいる』
この事実、それはここに佇む3人に限って定義するならば、こんな殺伐としたゲームの中でも、気高く咲き出でる花のような美しさに溢れている、と言えないだろうか?
しかしこのインディアンの青年は今だに得体の知れない突然の侵入者…J・P・ポルナレフは彼の申し出に、苛つきを隠すこともなく立て続けにまくしたてる。
「ゲームに乗ってねえことは信じてやるとして…突然来て食いもんよこせだぁ~?!食いたきゃ金払いなっ!図々しいぞてめぇ!」
サウンドマンと名乗った男は、ポルナレフの挑発的な言葉にもさして感情を表すわけでもなく、淡々と答える。
「…常々思っているが、白人にとっては金が全てなのか?
そういう時代だというならべつに俺は何も言わないが…この状況で金なんか持っていない…あんたは持ってるのか?
まあなんでもいいが、この老婆を止めたことに免じてわけてくれ。」
なおも食い下がる
サンドマンに、ポルナレフは噛みつくように怒鳴る。
「てめ!この、いけしゃあしゃあと…!!」
「…食料、料理を差し上げることは構いまセン…助けて頂いたわけでスし、たとえそのような事実が無くとも差し上げマス。」
まだ悲しみの冷めない様子ではあるが、トニオ・トラサルディは前へ進み出てそう言葉を投げた。
「トニオさんっ!だから、もうちょっと…その、探りを入れてから、だな…」
ポルナレフはトニオの率直すぎる返答に、さらに混乱しながらもささやかな反抗の意思を示しかけるが、
次の言葉にかき消されてしまう。
「感謝しよう。うまそうな匂いだと思っていたんだ。異文化の料理、俺は食べてみたい…」
「そうデスか、おいしいでスよ。…もちろん差し上げまスが、その前にお願いがあります。…この三人を埋葬したいのデス。
この店の隣には立派な霊園がありましたが、今はただの草むらになっているようです…そこに埋めようと思っていマす……手伝って下さいマスね?
それと申し訳ありませんが、もうひとつ…我々は止むを得えぬ事情で
第一回放送を聞き逃してしまったのデス。内容を教えていただきたいのデスが…」
サウンドマンと名乗った男はその申し出にそれまでの無表情を少し砕けさせ、肩を竦めつつもこう答えた。
「…やれやれ…労働と報酬という奴か?白人の社会に染まってしまうようで気分が良くないが、うまそうな料理に免じて協力しよう。」
「ありがとうございマス…!ポルナレフさんもいいデスね?」
ようやく思考の整理が付き出したのか、ポルナレフも幾分落ち着いた様子で答えた。
「…フゥ~。まあ、いいぜ!あんたの料理がうまそうだって言う人間に悪い奴はいないような気がするからなあ!」
「それは光栄でスね…では悲しい作業ですが…、それでは彼らが浮かばれまセん…!
我々は、このような残酷なゲームには乗らないという決意を彼らへの手向けとして、一緒に埋葬しまス!
私たちはあなた方を忘れないと、誓いながら…。」
「死者を尊ぶというのは、我が部族の風習にもあった…面識の無い人間でも、敬意を払おう。」
「いいぜぇ~!シメッぽいのは柄じゃねえしな。……ところでサウンドマンよ、お前なんていう部族なのぉ~?俺でも知ってるような有名なやつか?アボリジニとか?」
「?違う。」
立て続けに起こる悲劇の中でも、彼らの心は砕けない。
彼らは心の中に悲しみを乗り越える覚悟を秘め、また荒木に対する怒りを渦巻かせ、それらを行動へと昇華させる事が出来る戦士たちだ。
しかしこの後も彼らを襲うであろう悲劇にはどうだろうか?
親しい人間の死を聞かされても、決然とした意思で立ち向かえるのか?
しかもその悲劇は、これから確実かつより大きな残酷さを伴って、増えていくであろうというのに。
吐き気を催す邪悪は、良きにつけ悪しきにつけ、人の心に強く訴えかける。
強力な『悪』は、それ自体がすでにカリスマなのだ。主催者荒木はカリスマなのだ。
彼らは一方的に試されるだろう。その心の本領を。
【サンダーマックイイーン 死亡】
【エンヤ・ガイル 死亡】
【残り 54名】
【E-5(レストラン・トラサルディー)・1日目 午前】
【
トニオ・トラサルディー】
[スタンド]:『パール・ジャム』
[時間軸]:4部終了後
[状態]:右腕・左肩・右足太股・脇腹に一ヵ所、右肩に二ヵ所の刺し傷(いずれも割りと深い。料理で一応は処置済み)
[装備]:フランス風クリームスターターとパール・ジャムのミルフィーユ仕立て季節のソースを添えて
[道具]:無し
[思考・状況]
0.三体の亡骸を店の横に埋葬する。サウンドマンに第一回放送内容の提供を受ける。
1.色々ありすぎて悲しいけど、料理で人を癒すことはやめない。
2.マックイイーンと
エンヤ婆と見知らぬ女性(承太郎の妻)の悲しい死に誓って、ゲームには乗らない。
3.対主催の皆さんに料理を振舞う
4.荒木に対してはっきりと怒りを感じ始めている
[備考]
※レストランにある食材のうちいくつかが血液でダメになった可能性があります
※服は着ました
※服にはエンヤ婆とマックイイーンの血液が大量に付着しています。
【
J・P・ポルナレフ】
[スタンド]:『シルバー・チャリオッツ』
[時間軸]:3部終了後
[状態]:右手にガラス片による負傷(物を持ったりするのには難儀かも)その他は健康。
[装備]:無し
[道具]:不明(戦闘や人探しには役に立たない)
[思考・状況]後悔(トニオの言葉で緩和されています)、マックイイーンとエンヤと見知らぬ女性(承太郎の妻)に対しては追悼の気持ち。でも湿っぽい気分にはならない。
[基本思考] 、承太郎達と合流したい、
J・ガイルを殺す 、殺し合いに乗ってない奴は守りたいと考えている
0.三体の亡骸を店の横に埋葬する。サウンドマンに第一回放送内容の提供を受ける。
1.トニオと共に仲間を集める
2.死んだはずの仲間達に疑問
3.J・ガイルを殺す
4.サウンドマンは多分いい奴
5.荒木に対してはっきりと怒りを感じ始めている
[備考]
※マックイイーンとエンヤの死に対しては、ショックですが2人の死に敬意を表し、湿っぽくならないように振る舞う、と決めています。
※自分の勘違いでトニオを攻撃してしまった事を後悔しています。
※すぐにでも承太郎達と合流したいが、トニオとサウンドマンも気になる。
【サンドマン】
[スタンド]:『イン・ア・サイレント・ウェイ』
【時間軸】:ジョニィの鉄球が直撃した瞬間
【状態】:健康・ちょっと空腹
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、不明支給品1~3(本人確認済み) 、紫外線照射装置 、音を張り付けた小石や葉っぱ
【思考・状況】 基本行動方針:元の世界に帰る
0.三体の亡骸を店の横に埋葬し、第1回放送の情報を2人に提供する。その対価として食料をもらう。
1.北(DIOの館)へ向かう(他人との接触等により元の世界に帰る情報を得るため)
2.ツェペリの『荒木は死者を復活させて命を弄ぶ』論に少し興味。荒木の言葉の信憑性に疑問。
3.名簿にあるツェペリ、ジョースター、ブランドーの名前に僅かながら興味
4.遺言は伝えた。その他に彼らを知る人間とも一応会ってみたい(優先はしない)
5.もう一度会ったなら億泰と行動を共にする。
【備考】
※7部のレース参加者の顔は把握しています。
※スカーレットが大統領夫人だと知っています。
※
ンドゥールに奇妙な友情を感じています。 康一、ツェペリにも近い感情を持っています。
※億泰と情報交換をしました。
内容は「康一と億泰の関係」「康一たちとサンドマンの関係」「ツェペリの(≒康一の、と億泰は解釈した)遺言」「お互いのスタンド能力」「放送の内容」です。
※チーム・ザ・ウェーブの遺志は億泰に託しました。
※情報提供が決定しているのは第1回放送の内容のみで、今まで出会った人物や自分のスタンド能力等について伝えるかどうかは分かりません。次の書き手さんにお任せします。
※エンヤ婆を攻撃した石は、I-7 中央部(果樹園跡)での大規模な戦闘中に集めて小石や葉っぱに張り付けて置いた音の残りです。まだ余りがあるようです。
何の音を保存しているかは、次の書き手さんにお任せします。
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最終更新:2009年08月05日 20:38