意識は明滅する淡いネオン。

 瞼は重く、身じろぎをすれば頬骨の上に銀色の髪がかかる。
 目の下のうすい皮膚をその刺激に震わせ、リゾット・ネエロは床に伏している自分を漠然と認識した。

 ともすれば掻き消えそうな意識の中、閉じた上下の瞼を強引に引き剥がし。
 鈍痛が消えない頭を冷えたリノリウムの床から起こすと、普段決して脱がない帽子が滑り落ちる。
 彼は額に這わせた片手を髪の中に突き入れ、地肌に爪を立てて呻き声を上げた。

 辺りは静かだった。
 日は暮れて久しいらしく、室内を満たしているのは湿り気を帯びた藍色だ。
 時刻は夕方と夜の狭間だろうか。

「あっ。えっと……だ、大丈夫か?」

 暗闇に目が慣れるよりも早く、少し離れた場所から女の声が聞こえる。
 一瞬身構えるが、かけられた言葉と気遣わしげな声色は、相手を今のところ敵では無いと判断するのに十分だった。
 衣擦れの音がして、女が自分に近寄るために体を動かしたのだとわかる。
 無言でうつむく彼の心情を図りかねているのか、女は顔を覗き込んできた。
 リゾットが目元に当てた指の隙間から見たのは、下まぶたに点状の墨を彫った特徴的な顔。

「あのさ、えーと……あ! あたしの名前はグェスよ。ホルマジオから伝言があるんだ。あー……『ブチャラティチームをつぶす。ぺッシが死んだ。目が覚めたら来てほしい』だってよ」

 リゾットは記憶を手繰る。
 まずは目の前の女――グェスが信頼に足る人物か見極めるべく。
 鈍る思考を奮い起こし、吟味する。

 驚きと怒りに目を見開き、自分に駆け寄るホルマジオ。
 首輪の動力源を伝えようと腐心する自分。
 薄くなる意識の中、それが完全に消え去る寸前。ホルマジオの背後のドアから駆け込んで来た女。
 その女の顔にも、同じタトゥーが施されていた。

 ほんの一秒にも満たない間だったが、リゾットの観察眼は常に獣のそれ。
 ホルマジオの『背後』から駆け寄ったところを考えても、彼が信頼した人間なのだろう。
 そしてこのグェスの挙動……慌てふためいた様子、こめかみを伝う汗、落着きの無さ、すべて演技では無い。

「あ! あ! 疑うなよ? あたしはあんたに危害を加えるつもりは無ぇし、証明しろって言われても困るけど、あー……つまりだな……」

 小心そうな女だと思った。
 あたふたと手を動かし、必死に訴えてくる。
 リゾットは手を額から離し、そばに落ちた帽子を拾い上げると被り直した。
 初めて女の目を見ると、話の先を促している意図に気付いたらしい。いくらか控えめな手振りで、拙く説明を続ける。

「伝言は、別れ際にあいつが『そいつが目ぇ覚ましたら伝えろ!』って怒鳴ったから……あたしとあいつはあんたに会うために当てずっぽうでここに来て、と思ったら人が死んでて、やったのかやってないのかはよくわかんないけど、ホルマジオがブチャラティとかいう犯人っぽいやつらに食って掛かって、なんかヤバそうで」

 あたしはあんたをここまで運んだんだ、と消え入るように言い終わる。
 束の間の沈黙の間、女は不安そうに目をあちこちへと動かし、忙しなく姿勢を変える。

 見回せば、今いるのは乱雑な置き方をされた計器やそれらをつなぐコード類で満たされた、何かの実験室のようだった。
 役に立ちそうな薬品や器具があるかもしれないが、荒木の手が加わっているかもしれないことを考えると迂闊には使えない。

 ここまで考え、ようやくリゾットの思考は整いだした。
 仲間からの伝言、その内容。

 ――今、何と言った。

 『ペッシが死んだ』

 ――……

 別れ際に見た、彼の丸めた背中の残像が見える。

 途端に、臓腑が熱くうずいてたまらなくなった。
 黒い目を一瞬見開き、眉間に皺を寄せる。
 その様子を見てグェスは何を思っているのか、驚愕した表情でじりじりと後ずさった。

 腹の内で爆発した感情は、どこへ向うでもなくリゾットを苛む。
 この高ぶりを今までどれほどこらえてきたのだろうと、考えるのもむなしい。

 本懐を遂げさせてやりたかった。

 栄光を掴むのならばチームの全員でと思っていた。
 そう、あの『2人』の死に対する復讐を。
 そして金と栄誉によってのみ、自分たちは報われるのだ。
 我々の力を、ボスに思い知らせなくてはならないのだ。
 2年かけて、やっとボスの娘の情報を手に入れた。
 ここまで来るのにどれほどの辛酸をなめたか。

 死ぬのは問題ではない、全員がそう理解していたとリゾットはわかっている。

 これは悲しみではない。ただ――

「そうか」 

 返答し、思考を切る。立ち上がる。
 表情は鉄面皮を貫きたい。それがあいつらにとっての『リーダー』だと、理解している。

 どういう状況で、誰によってペッシは死に至ったのか。わからないことが多すぎる。
 そう、何もかも、わからないことが多すぎる。人生はいつだって不完全で、先へ先へと流れてしまう。

 首輪の動力源が分かったところで、この様はどうだ。

 ――俺たちは、終わりか?

 疲労を感じていた。久しく感じたことのない種類の疲労だった。
 これでチームとしての機能を、完全に失った。
 全滅と引き換えにボスを殺した後で、何を得られるのだろう。いつも目を逸らして来た懸念が、再び頭をもたげる。

 しかし真におぞましいのは、手足に充満した疲労感をも凌駕する激情。
 憎悪すら情熱の糧とし、どこへ向かうのか。リゾットは答えが欲しいと思う。

「……ホルマジオはどこにいる」

 リゾットの表情が戻ったことに、グェスは胸をなでおろしため息をついていた。
 立ち上がったリゾットを追うように腰を上げ、ショートパンツについたほこりを払う。

「こ、この部屋の下だよ。地下は危ねえからさ、死体とかあるし……二階まで運んだのよ」

 グェスは階下を示す。
 危険だから、というのはわかる。だが、どうやって女の腕力で自分をここまで運んだのか訝しい。
 リゾットは腕を組み、三たび黙り込んだ。
 しかし、方法など大凡の見当がつく。この女はスタンド使いなのだろう。
 問題は、相手が自ら申告してくるか否か。

「ああ……スタンドだぜ。能力は何の因果か、ホルマジオとほとんど同じ……って言やあ大体わかる?」 

 グェスは、なぜ相手がまた口をつぐんだのか一瞬わかりかねた様子だったが、すぐさまその意図を察していた。
 リゾットは頷いた。今のところ、この女を疑う理由はない。
 もたらされた情報は正しいものなのだろう。

「では、下の状況を知る限り教えろ」 

「あー、ブチャラティっていうやつと、黒い服にテントウムシのブローチを付けた金髪のガキがいる。あとロン毛の、チンピラっぽいやつは窓から出ていくのを見た」

「日本人の少女がいたはずだが」

「さあ……見てないな」

 音石と由花子は逃げたらしい。
 さながら嵐の海から滑り出る船のように、命からがら立ち去ったのだろう。
 情報を持って行かれたが、彼らに対して失ったものはさほど多くない。
 思考を次へと展開させる。

 ポルポ配下のブチャラティとその部下の新入り。
 おそらく脱出を目指し、機材と情報目当てにここへ来たのだ。
 奴らがペッシを仕留めたのか。
 少なくともホルマジオはそう判断しているようだ。

 ボスの娘を護衛するという任務を与えられながらも、組織を裏切ったやつら。
 同じ事をしていながら、決して交わらない自分たちの理念。

 まとまらない思考を千切るように踵を返し、背後のドアへと向かう。
 グェスの慌てた足音が後を追ってくる。
 歩み出た廊下に漂う、うつろな濃紺はすでに夜の香りを含んで。

 足音を全く立てずに進みながら、リゾットはホル・ホースとサウンドマンとの会話を思い出していた。

『いいや、前だ。活路はいつだって、前に見出すのよ』

 ――活路を得た果てに何があるのか、お前は知っていたのか。

『その者達に対するお前の執着、まるで尖り過ぎた針のようだ。折れるまでそのままでいるつもりか?』

 ――暗殺者である我々に、他に何ができるという。


※   ※   ※


「その『気絶している男』……今なんと言った? 首輪の動力と言わなかったか!?」

「話を逸らしてんじゃあねぇぇえーッ! グェス! どっかにリーダーを運べ!」

「お、おうッ」

「んで、そいつが目ぇ覚ましたら伝えろ!」

ホルマジオは力無く倒れ伏すリゾットの体をグェスへと渡す。
そして敵二人を睨みつけながら、メッセージを口走った。
小さくなったリゾットを人形の様に抱きかかえ、グーグー・ドールズを肩に乗せたグェスは出口へと向かいつつ頷く。

「わかったよ! け、けど」

「無駄口は後だ! しっかりやれよォ、リトル・フィートッ!」

 言いよどむグェスを制し、ホルマジオはがなる。

 同時に長く尖らせた一本の針がブチャラティの鼻先をかすめた。
 回避したタイミングの際どさ、その危機感は流れる冷や汗となって彼の額ににじむ。
 後ろにのけぞるように避けた体の流れをそのままに身を翻し、地面に片手をついて態勢を低くとった。
 『スティッキィ・フィンガーズ』を発現、応戦するため間合いを読もうと試みるが。

 男は、視線を投げかけた時にはすでに消えていた。

「くっ」

 後ろに控えていたはずのジョルノが小さく声をあげる。
 振り向けば、彼の左のくるぶしは鋭く横真っ二つに切られていた。
 一瞬の間をおいて血液が滴り、破れた学生服へと染み込んでいく。

「そして次はてめぇだ」

 どこからともなくそう聞こえた瞬間、ブチャラティは手をついていた床板をめくり上げた。
 軌を一にして、そこに走る亀裂。左右と上辺にジッパーがついた床板を盾に、初撃は回避できた。

 小さく舌打ちが聞こえる。
 それでも、猛攻はとどまるところを知らない。
 壁際に追い詰めようとしているのか。正面から押すように何度も、長い爪が目前の空を切る。
 スタンドの素早さはスティッキィ・フィンガーズが上。
 しかしブチャラティは攻勢に出ない。
 現状が把握できないから。

 彼は思考する。
 ジョルノから聞いていた容貌と、先ほどの『リーダー』と呼ばれていた男が口走った名から、彼が暗殺チームの『ホルマジオ』であることはわかっている。
 その彼が『リーダー』と呼んだ人間――そこで倒れ伏していた黒ずくめの男が、暗殺チームのリーダーか。
 加えて、相手は自分とジョルノが『リーダー』に危害を加えたと勘違いしている。
 ペッシに関しても『次は』という表現から考えるに、自分たちはいわれのない誤解を受けているようだ。

 つい今しがたこの建物の地下で無残な死を遂げ、しかし自分たちにエシディシについての情報を確かに伝えてくれたペッシ。 
 彼のためにも誤解を解きたい。しかし。

(さすがは『暗殺者』……)

 付け入る隙も、説得の機会も与えずに殺意をぶつけてくる。

 ジョルノに視線を向ける。何か言いたそうにしている。
 しかし、この状態では言葉を交わせない。
 彼もそれをわかっているのだろう、足から血を流しながらこちらへ駆け寄る。

 だが右脇から突如ホルマジオが現れ、腹に蹴りを食らわせた。
 転がったジョルノを二度三度と踏みつけ、蹴り尽くす。

「てめえは後でゆっくり踏み潰してやるから待ってろ。すでに俺の能力は発動してるからよ」

 壁際に吹き飛んだジョルノを見たブチャラティは、彼の体のサイズに違和感を抱く。

(『小さい』……?)

 こめかみを汗が伝う。

 この男のスタンドは『小さくする能力』。ただし徐々に効果が現れるようだ。
 突然消えたり現れたりするのは自分だけ素早くサイズを調節できるからだろう。
 撹乱しながら攻撃の機会を伺うのには便利な能力だ。

 状況は悪い。
 思考が途切れる事なく頭の中を飛び交う。
 誤解を解いて説得にかかるか、止むを得ないなら、殺害する事も視野に入れるべきかもしれない。
 焦りは確実にブチャラティの思考を蝕んでいる。
 痛みに体を震わせながら起き上がったジョルノに、機を待てとアイコンタクトを取るのが精いっぱいだった。

 一瞬でも気を逸らせば、やられる。

「どこだ……ッ?!」

 突くような一撃をいなした後、スタンドヴィジョンの脇をすり抜けて背後に立ったと思った。しかし、敵はまたしても消えている。 
 舌打ちをしつつ、ジョルノに話しかけようと口を開くが。

「よそ見してていいのか?」

 耳元から薄笑いを含んだ声が聞こえ。

 ブチャラティはすぐに身を引き距離を取ろうと後ずさったが、遅かった。
 リトルフィートの爪が彼の右腕を貫通する。
 その衝撃と痛みからか、腕を貫かれたまま床へ膝をつく。

 ホルマジオは勝ち誇った。
 この場を終わらせるべく、彼はブチャラティの背後に現れた。
 手にはメス。
 リゾットに駆け寄った時、コートの中に仕込まれていた物を一本拝借してきたもの。

 座り込んで荒い呼吸を繰り返すブチャラティの首筋にそれを当てた。
 復讐の過程を楽しむように、力を込めながら笑う。
 幕の引き時がやって来たと笑う。

「ちょろいな」

 ――しかし、ブチャラティも笑った。

「そうか? で、その手に抱いてるのはなんだ?」

 今更何をと、彼はブチャラティの目線の先、自分の手元を見た――


 彼は、メスを持っていたはずの手に小さな子猫を掴んでいた。


 驚愕と沈黙。
 その様をよそに、手の中で居心地が悪そうに身をよじる猫。
 緩やかな動作で手から抜け出すと、優雅に床に着地した。

「……あなたに蹴られた時、ポケットのメスに触っておきました。まあ、スリの経験がある事は否定しません」

 元のサイズからずいぶん縮んでいても、不遜な態度はそのままに。
 ジョルノが服のほこりを払いながら立ち上がっていた。
 蹴られ続けるジョルノをブチャラティがただ傍観していたのは、手の動きからその目的に気づいたから。

「ついでに、靴を植物にしておきました。そろそろ根が張り終る頃です」

 促されるままに見れば、うごめく蔦状の草花がタイルの隙間を縫って伸び、ホルマジオの足を固定していた。
 彼は全てを理解し、額に青筋を浮かべながら怒鳴る。

「コソ泥の真似して勝ち誇ってんじゃねえ……まだこいつの腕にはリトルフィートの爪が刺さってんだぜ?このまま小さくなる前に腕ごと抉り取り、拷問してやるッ!」

「いや、そんなことは出来ない」

 ブチャラティも立ち上がる。
 リトルフィートに貫かれたはずの腕を見れば、そこには。

「『スティッキー・フィンガーズ』。お前の攻撃は完成していない。ジッパーの間を通り抜けただけだ」

 腕に穿たれたジッパーからリトルフィートの爪を引き抜き、悠然とした態度で佇む。

「さあ……覚悟してもらおう」

 まずホルマジオの動きを封じ、説得にかかるつもりだ。
 しかし、彼は完全に死ぬつもりでいた。
 舌でもなんでも噛み切って、せめてリゾットに迷惑をかけないように。

「へっ……ちくしょう」

 スティッキー・フィンガーズとゴールド・エクスペリエンスが、ホルマジオに迫る。
 パロラッチャで罵りながら、彼が双眸を閉じた時。
 わずかに、空気を切り裂く音。

 ブチャラティとジョルノに向かって無数のメスが飛来した。
 同時に響く、めくるめくような激しさを含んだ静かな声。

「死ね」

 その残響はあまりにも重く。
 同時に、更に密度の高いメスの弾幕がブチャラティたちを襲う。

 虚を突かれた彼等に、逃げる事はかなわない。
 飛び交う凶器に、二人は肩や頬を切り付けられつつも致命傷を負う事はない。
 スタンドで弾き、あるいは掴んでメスの攻撃を受け切った。

 にも関わらず。
 ジョルノとブチャラティは無言のままに崩れ落ちる。
 二人が床へと身を投げ出した音に混じって、軽く高い金属音が響いた。

 静まり返った室内で、漆黒の彼は自身と同じ闇から現れ出でる。

 寝転がって呻吟する二人の口からは、赤黒く彩られた剃刀がばら撒かれ。
 自らが吐き出した刃物の血貯まりに身を沈めた彼等を、リゾットが無表情で見下ろす。

 ――後ろ向きでいるから、俺は前を恐れずにいられた。

「俺たちとお前たちで一体何が違った? 思想か? 職務か? ……運命か?」

 ――折れる前に刺す。

「これで決着としよう」

 ――それが暗殺者だ。

 リゾットは笑う。優しさすら含んだ殺意をにじませて。

 2本のメスが、失血にあえぐ二人の頭部へ向けてまっすぐに飛んだ。


※   ※   ※


 ペッシは今わの際、言葉を残していた。

『怪物を倒せ』

 筆談に用いていたペンと紙で書かれた、血の混じったインク。
 意識も絶え絶えの中、震えた腕で書かれたのだろう、ひどく判読しづらい文字だった。
 その紙をリゾットに突き付けられ、ホルマジオは頭を掻く。

 ペッシはプロシュートのように生きられなくても、彼の言葉を忠実に守り、食らいついたら離さない執念を貫いた。

「わざわざこんなことを書き残す以上、犯人はブチャラティ達ではない」

 自分を殺した存在、リゾット達の知らない『怪物』という存在を知らせるために、ペッシが書き残したのだ。

 リゾットはグェスとともにいた部屋を出るとすぐに、ホルマジオ達のいる一階を通過し地下へと向かった。
 そこで目の当たりにしたのは伝言の通り事切れたペッシと、血と臓物のにおい。
 遺言となったメモは、ペッシの真横に置き去りにされたデイバックの下から発見された。
 ペッシが隠したのだろう、リゾットがここに来て荷物を調べることを予想して。

 全ての状況を把握するために取った行動だった。

 ホルマジオの判断が信頼に値しなかったわけではない。
 しかし、彼が逆上していたであろうことは容易に想像できた。
 グェスに聞けば、地下鉄からやってきた彼女たちは、まずペッシの死体を目の当たりにし、驚いて階上に駆け込んだという。

「どうぞ、動かしてみてください。傷は塞がったはずです」

 リゾットが左肩に負った傷口を治療していたのは、ジョルノだった。
 ブチャラティは少し離れたところに座り込み、リゾットたちのメモの内容を自分のメモに写している。
 グェスも全員のメモの書き写しを手伝っていた。

 すぐ傍らは先程まで二人が倒れこんでいた場所。生々しい血だまりが残っている。
 彼らの頭部があったところから少し位置をずらして、二本のメスがそれぞれ刺さっていた。

 リゾットは、彼らを殺さなかったのだ。

 あの時。
 床にメスが突き刺さり、何が起こったのかわからず絶句するジョルノとブチャラティを見下ろして、最早心は決まっていた。

「今日、俺はお前たちを殺せた。しかし殺さなかった。この意味が分かるか」

「……いいえ」

 彼と目を合わせ、放心したようにつぶやいたジョルノは息が上手くできなかった。
 驚きのためや、命が助かったからという安堵感からなどではない。

 宵闇の中で光る彼の瞳が、あまりにも峻烈だったから。
 感情を殺した声とは裏腹に、その眼は何か――たぎるような、感情を渦巻かせていたから。

 床に腰をつく音が聞こえた。グェスが、腰を抜かしたようにへたり込んだのだった。 
 リゾットは抗議のために駆け寄ってきたホルマジオを片手で制し、言う。

「折れる前に刺した。これで俺は、『暗殺者』のまま、『活路を前に見出せる』。このバトルロワイアルが終わるまで」

 殺せたという事実だけを、手に入れた。
 高ぶった感情をごまかすための一瞬だけのガス抜きにすぎないと、笑われるだろう。
 リゾット個人は本気で死ねとつぶやき、本気で攻撃を仕掛けた。
 しかし、チームのリーダーとして。

「俺たちはお前たちとは未だ戦火を交えない。だが覚えておくがいい。全てが終われば……」

 ゲームを脱出すること。
 ボスを倒すこと。
 ブチャラティチームに対する因縁を、今はここで捨て去ること。
 チームの人間には罵られるだろうか。しかし、リゾットの心はこれで結構清らかだった。

「俺たちは将来、お前たちを仕留めるだろう。その時まで恐怖するがいい、安堵するがいい。俺たちが荒木に向けて仕組む『暗殺』の手腕を見て」

 怪物と荒木を始末し、ネアポリスへ戻る。
 そこでもう一度、パッショーネのアサシンとしてボスに反逆し、ブチャラティたちを仕留めよう。

 付いてくるかと、後ろに佇むホルマジオに低く問う。
 背中からは、しょうがねぇなと気怠そうな答え。しかし声が笑っていた。

 床に寝ころんだままの二人も、目を合わせてお互いの無事を確認し、小さく嘆息した。

※   ※   ※

 これが、事の顛末。
 そして徒党を組む以上、情報の共有を行うのが最も重要であると場の意見がまとめられた。

 会話は筆談を交え、主にリゾットとブチャラティが行う。
 ジョルノは全員の傷を治療しつつ、会話を聞いていた。
 グェスは胡坐をかいて座り込み、メモを取りながら聞きに徹している。
 抜かりなく、細部まで行われる情報交換。

 同時に、四人はホルマジオを待っていた。
 彼はジョルノに頼まれ、ジョージ・ジョースターを迎えに行っている。
 襲撃を受けにくいその能力がまさに適任だったのだ。

 しばらくたったころ、予め決めておいた特殊なノック音がし、四人のいる部屋のドアが開かれたが。
 ジョルノは、一人で入ってきたホルマジオを見て目を見開く。
 いやな汗が、彼の首筋を伝う。

 それを見たホルマジオは少し困った顔をし、言った。

「ジョージとかいうオッサン、いなかったぜ」



【F-2 ナチス研究所 研究室/1日目 夜】

【新生・暗殺護衛チーム(現在メンバー募集中)】

ブローノ・ブチャラティ
[時間軸]:護衛指令と共にトリッシュを受け取った直後
[状態]:リッシュの死に後悔と自責、アバッキオとミスタの死を悼む気持ち、リゾットの覚悟に敬意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、シャーロットちゃん、スージーの指輪、スージーの首輪、ワンチェンの首輪、包帯、冬のナマズみたいにおとなしくさせる注射器
[思考・状況]
基本行動方針:打倒主催、ゲーム脱出
0.何……だと……
1.ジョージを探す。
2.いずれジョナサンを倒す。(殺害か、無力化かは後の書き手さんにお任せします)
3.フーゴと合流する。極力多くの人物と接触して、情報を集めたい。
4.ダービー(F・F)はいずれ倒す。
5.ダービー(F・F)はなぜ自分の名前を知っているのか?
6.スージーの敵であるディオ・ブランドーを倒す
[備考]
※パッショーネのボスに対して、複雑な心境を抱いています。
※波紋と吸血鬼、屍生人についての知識を得ました
※ダービー(F・F)の能力の一部(『F・F弾』と『分身』の生成)を把握しました。
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました
※エシディシの頭部に『何か』があると知りました。
※ブチャラティが持っている紙には以下のことが書いてあります。
①荒木飛呂彦について
 ・ナランチャのエアロスミスの射程距離内にいる可能性あり
  →西端【B-1】外から見てそれらしき施設無し。東端の海の先にある?(単純に地下施設という可能性も) →G-10の地下と判明
 ・荒木に協力者はいない?(いるなら、最初に見せつけた方が殺し合いは円滑に進む) →協力者あり。ダービー以外にもいる可能性があるかもしれない。
②首輪について
 ・繋ぎ目がない→分解を恐れている?=分解できる技術をもった人物がこの参加者の中にいる?
 ・首輪に生死を区別するなんらかのものがある→荒木のスタンド能力?
  →可能性は薄い(監視など、別の手段を用いているかもしれないが首輪そのものに常に作用させるのは難しい)
 ・スティッキィ・フィンガーズの発動は保留 だか時期を見計らって必ず行う。
③参加者について
 ・知り合いが固められている→ある程度関係のある人間を集めている。なぜなら敵対・裏切りなどが発生しやすいから
 ・荒木は“ジョースター”“空条”“ツェペリ”家に恨みを持った人物?→要確認
 ・なんらかの法則で並べられた名前→国別?“なんらか”の法則があるのは間違いない
 ・未知の能力がある→スタンド能力を過信してはならない
 ・参加者はスタンド使いまたは、未知の能力者たち?
 ・空間自体にスタンド能力?→一般人もスタンドが見えることから

【以下はリゾットのメモの写し】

[主催者:荒木飛呂彦について]
荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
         → 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 
※荒木に協力者がいる可能性有り


ジョルノ・ジョバァーナ
[スタンド]:『ゴールド・エクスペリエンス』
[時間軸]:メローネ戦直後
[状態]:背中にダメージ(小)、精神疲労(中)、トリッシュの死に対し自責の念 、リゾットの覚悟に敬意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、不明支給品0~3、ジョージの服の一部
[思考・状況]
0.何……だと……
1.ジョージを探す。
2.『DIO』は吐き気を催す邪悪なのでは?今のディオをその事で責めるのは間違いだとは思うが…
3.トリッシュ……アバッキオ…ミスタ…!
4.ディオが自分の父親、か…→未来のDIOには不信感。
5.エシディシと吉良と山岸由花子をかなり警戒
[備考]
ギアッチョ以降の暗殺チーム、トリッシュがスタンド使いであること、ボスの正体、レクイエム等は知りません。
※ジョナサンを警戒する必要がある人間と認識しました。
※参加者が時を越えて集められたという説を聞きました
 (他の可能性が考えられない以上、断定してよいと思っています。ただし、ディオが未来の父親であるという実感はありません)
※ラバーソウルの記憶DISCを見、全ての情報を把握しました。
※ダービーズアイランドに荒木がいることを知りました。
※ディオがスタンド使いになった事を知りました(能力は分かっていません)
※エシディシの頭部に『何か』があると知りました。



【リゾット・ネエロ】
[スタンド]:メタリカ
[時間軸]:サルディニア上陸前
[状態]:頭巾の玉の一つに傷
[装備]:フーゴのフォーク、首輪の設計図(ジョセフが念写したもの)、ダービーズ・チケット、妨害電波発信装置
[道具]:支給品一式
[思考・状況] 基本行動方針:荒木を殺害し自由を手にする  
0.殺し屋として、前を向いて歩く
1.探しに行くのは構わないが、ナチス研究所を無人にする気はない
2.首輪を外すor首輪解除に役立ちそうな人物を味方に引き込む。
  カタギ(首輪解除に有益な人材)には素性を伏せてでも接触してみる(バレた後はケースバイケース)。
3.暗殺チームの合流と拡大。人数が多くなったら拠点待機、資材確保、参加者討伐と別れて行動する。
4.荒木に関する情報を集める。他の施設で使えるもの(者・物)がないか、興味。
[備考]
※盗聴の可能性に気が付いています。
※フーゴの辞書(重量4kg)、ウェッジウッドのティーセット一式が【F-2 ナチス研究所】に放置。
※リゾットの情報把握
承太郎、ジョセフ、花京院、ポルナレフ、イギー、F・Fの知るホワイトスネイク、ケンゾー(ここまでは能力も把握)
F・F(能力は磁力操作と勘違いしている)、徐倫(名前のみ)、サウンドマン、山岸由花子(名前のみ)


※リゾットのメモには以下のことが書かれています。
[主催者:荒木飛呂彦について]
荒木のスタンド → 人間ワープ…見せしめの女の空中浮遊、参加者の時間軸の違い(並行世界まで干渉可能)
         → 精密機動性・射程距離 ともに計り知れない
開催目的 → 不明:『参加者の死』が目的ならば首輪は外れない
           『その他』(娯楽?)が目的ならば首輪は外れるかもしれない 
※荒木に協力者がいる可能性有り

【以下ブチャラティのメモの写し】

①荒木飛呂彦について
 ・ナランチャのエアロスミスの射程距離内にいる可能性あり
  →西端【B-1】外から見てそれらしき施設無し。東端の海の先にある?(単純に地下施設という可能性も) →G-10の地下と判明
 ・荒木に協力者はいない?(いるなら、最初に見せつけた方が殺し合いは円滑に進む) →協力者あり。ダービー以外にもいる可能性があるかもしれない。
②首輪について
 ・繋ぎ目がない→分解を恐れている?=分解できる技術をもった人物がこの参加者の中にいる?
 ・首輪に生死を区別するなんらかのものがある→荒木のスタンド能力?
  →可能性は薄い(監視など、別の手段を用いているかもしれないが首輪そのものに常に作用させるのは難しい)
 ・スティッキィ・フィンガーズの発動は保留 だか時期を見計らって必ず行う。
③参加者について
 ・知り合いが固められている→ある程度関係のある人間を集めている。なぜなら敵対・裏切りなどが発生しやすいから
 ・荒木は“ジョースター”“空条”“ツェペリ”家に恨みを持った人物?→要確認
 ・なんらかの法則で並べられた名前→国別?“なんらか”の法則があるのは間違いない
 ・未知の能力がある→スタンド能力を過信してはならない
 ・参加者はスタンド使いまたは、未知の能力者たち?
 ・空間自体にスタンド能力?→一般人もスタンドが見えることから


【グェス】
【時間軸】:脱獄に失敗し徐倫にボコられた後
【状態】:精神消耗(中程度まで回復)、頬の腫れ(引いてきた
【装備】:なし
【道具】:なし
【思考・状況】基本行動方針:ゲームに乗った? → 生きたい、生きていたい
0.いない?あらら……どうすんの?
1.なんでこの男はアタシの事を怒ってくれたんだろう……?
【備考】
※フーゴが花京院に話した話を一部始終を聞きました。
※ダービーズアイランドを見ましたが、そこに何かがあるとは思ってません。→ダービーズアイランドが遠巻きに見た島だとは分かっていません。
※悲しみによる錯乱が随分と落ち着き、今のところ『ゲームに乗る』と言う発想は消えています。が……今後どうなるかは不明です。
※ホルマジオの持っている情報(チームの存在、行動の目的など)を聞きました。


【ホルマジオ】
[時間軸]:ナランチャ追跡の為車に潜んでいた時。
[状態]:カビに食われた傷(応急処置済)、精神的疲労(小)
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、万年筆、ローストビーフサンドイッチ、不明支給品×3(未確認)
[思考・状況]
基本行動方針:荒木を『ぶっ殺す』!
0:どーすんだ?
1:踊ってやるぜ、荒木。てめえの用意した舞台でな。だが最後は必ず俺らが勝つ。
2:リーダーが決めたんなら、ブチャラテイたちとの決着は荒木を殺した後でいい。ペッシのことも勘違いだったし。
3:ボスの正体を突き止め、殺す。自由になってみせる。
4:ディアボロはボスの親衛隊の可能性アリ。チャンスがあれば『拷問』してみせる。
5:もしも仲間を攻撃するやつがいれば容赦はしない。
[備考]
※首輪も小さくなっています。首輪だけ大きくすることは…可能かもしれないけど、ねぇ?
サーレーは名前だけは知っていますが顔は知りません。
※死者とか時代とかほざくジョセフは頭が少しおかしいと思っています。
チョコラータの能力をかなり細かい部分まで把握しました。
※グェスの持っている情報(ロワイアルに巻き込まれてから現在までの行動、首輪に関する情報など)を聞き出しました。


【F-2 ???/1日目 夜】

音石明
[時間軸]:チリ・ペッパーが海に落ちた直後
[スタンド]:レッド・ホット・チリペッパー(黄色)
[状態]:体中に打撲の跡(中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品×3、不明支給品×1、ノートパソコンの幽霊、スピットファイヤー(プロペラに欠損あり)、
    スピットファイヤーのコントローラ、バッテリー充電器
[思考・状況]基本行動方針:優勝狙い
0.逃げてますが何か
1.ヤバいことが重なりすぎだ!
2.首輪解除なんて出来んのか? リゾットは失敗したし……
3.サンタナ怖いよサンタナ、でもエシディシはもっと怖い
4.電線が所々繋がっていないのに電気が流れているこの町は何なんだッ!? あやしすぎて怖えー!
[備考]
※バトルロワイアルの会場には電気は通っているようです。
 しかし様々な時代の土地が無理やり合体しているために、電線がつながっていなかったりと不思議な状態になっているようです。
 スタンドが電線に潜ったら、どうなるかわかりません。(音石は電線から放電された電気を吸収しただけです)
※音石の情報把握
 ブチャラティチーム、ホル・ホース、ミューミュー(ここまでは能力も把握)、ミセス・ロビンスン(スタンド使いと勘違い)、ホルマジオ(容姿のみ)
※早人とジョセフとディアボロが駅を出た理由を知りません。
※盗聴の可能性に気がつきました
※サウンドマンとリゾットの情報交換はすべて聞きました。
※スピットファイヤーはプロペラの欠損により動作に安定感がありません。

※どこに向かっているかは次の書き手さんにお任せします。


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187:Resolution(前編) ジョルノ・ジョバァーナ 196:一条の光、一条の闇
187:Resolution(前編) ブローノ・ブチャラティ 196:一条の光、一条の闇
187:Resolution(前編) リゾット・ネェロ 196:一条の光、一条の闇
187:Resolution(前編) 音石明 195:生きることって、闘うことでしょう?
187:Resolution(前編) グェス 196:一条の光、一条の闇
187:Resolution(前編) ホルマジオ 196:一条の光、一条の闇

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最終更新:2011年02月08日 21:30