赤玉の落下地点へとヴァルキリーを走らせる。
上空にいるはずの触手はいない。全て明後日の方向へと殺到しているから。
それは矢の如き速度で、そちらへと向かい、次々と大地に突き刺さっていく。
そして、本当に悩んでいたのがバカらしくなるほど、あっさりと、呆気なく、赤玉を回収できた。
「………」
そのまま2枚のエニグマの紙を開いて、エイジャの赤玉を取り出す。
残り少ない左手全てを使い切るように、赤玉を回転させつつ動かしていく。
身体の組織が溶け合ったモノが、地面へと滴るが、そんな些末ごと彼は意に介さない。
やがて一対の赤玉は完全な『黄金の回転』へ移行する。
「…………」
それだけだ。
それだけで準備は終わった。
「……」
2つの赤玉が浮き上がるように、ヒョイと左腕を動かす。
代わりに左手だったモノは、そんな勢いにすら耐えられず、地面に落ちた。
回転した赤玉は右手の指の間に鮮やかに収めると、次の瞬間には、そこになかった。
2つの赤玉は宙を舞った。
ジャイロがその時目にしたのは、世界が明滅し移り変わる様と、彗星の如き速さでそれに群がるとするノトーリアス・B・I・G。
視界を遮ってもその存在を誇示する、明る過ぎる世界に包まれたかと思えば、それが幻だったかのように、即座にこの世界へと引きずり降ろされた。
「GGGGGGGYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!」
一つでダメなら二つ同時にブチ噛ますしかねえだろうが…!
より強力なレーザーを照射するために、振り絞った結果生まれたのは、これだった。
彼自身も安易過ぎると思ったし、半ば破れかぶれだったのだが、これがどうしてか功を奏している。
ここからは見ることはできないが、もし一方の赤玉から放たれたレーザーを取り込み、もう一方もそのレーザーを取り込んでしまっていたら、
全方位から放たれ続ける赤玉のレーザーは回転すればするほど、加速的にその威力を増すだろう。
砂漠かと錯覚するほどの暑さ。
遮るモノがあっても明る過ぎる視界。
いずれも、先ほどまでのエイジャの赤玉では成し得なかった現象が広がっていた。
後は『黄金の回転』が続く数十秒を待つのみであった。
だが、ジャイロはここで、さらに思わぬ行動に出た。
ヴァルキリーを走らせたのだ。
これがここから離れるための行動ならば、まだ分かる。
だが違った。
上空に移ったノトーリアス・B・I・Gの元へと駆け出していたのだ。
ここで確実にてめえを始末する、しなきゃあいけない。もう一歩踏み込んで『一手』先を行く…!
身を焼かれるほどの熱気、烈日が生んだ劣悪すぎる視界、激しさを増した耳を劈くような化物の絶叫。
異常すぎるこの空間にいるにも関わらず、ヴァルキリーの動きは一切精細を欠けることのない、淀みない走りを生んでいた。
馬は非常に賢く、乗り手の言動も態度も察することのできる生き物。故にジャイロの意志に呼応し、それに近づこうと走りを加速させる。
この赤玉のレーザーでくたばらなかったら、俺の負け。だったら、俺は赤玉の回転にロスタイムを与える…!
手綱を持つ右手の隙間に、張り付くようにして回転する鉄球。
そう、ジャイロは考えていた。この敵はこの程度ではくたばらない、もう一押しする必要がある相手だと。
『黄金の回転』を纏った鉄球を2つの赤玉に叩き込む…! もう一度赤玉を回転させるためにな。
ビリヤードで球同士が衝突し、回転を加えるように鉄球で赤玉を弾こうというのだ。
そのためにヴァルキリーで接近していた。最短距離まで詰めるために。
しかし、思うは易いが行うは難し、という奴で決して容易に成功するとはジャイロも思っていない。だが、
「『できるわけがない』とあえて言っておくか。その言葉の先に広がる『道』に『光』があると信じて。一つしかない『道』を祈って…!」
この方法一つしかないのだ。
言い換えれば他の手段は選べない、ということ。
そして、その唯一の術も不確か極まるものになる。
四方八方を断崖絶壁で囲まれ、絶体絶命の四面楚歌。
それでもジャイロは征く。征かねばならない。
捨てた者に許されるのは前に進むことのみ。
鉄球を地面へと接触させ、振動音からノトーリアス・B・I・Gは既に地面にいないことはわかっていた。
か細い触手をいくら寄越しても、瞬く間に消え去ってしまうので、いよいよ重い腰を上げたのだろう。
今、ノトーリアスはスライム状の体躯を活かして、2つの赤玉を球状に取り囲んでいるはずだとジャイロは理解していた。
そして、彼は最後に見た記憶と肌で感じる光の強弱を頼りに、おおよその位置を割り出した。
それほどまでに暑い日差しを受けつつ、ノトーリアスが上空にいるであろう位置を円を描くように走り続けていた。
―――『黄金の回転』の回転時間は残り半分―――
今が回転のピーク。ここからは僅かだが減速を始める。だったら―――
ゆっくりと、慎重に、眼を見開き、そして閉じた。
しばらく眼を閉じていたので、流石に眩しかったが、それでも何度も目を瞬かせることで眼を開くことができた。
―――よし、眼を開けていられる。心置きなく、奴を狙い撃ちできるな。
一分にも満たない間に世界は一変していた。と言うと大げさだが、それほどの変化があった。
ジャイロの視界に移るモノ全てが白一色に染まっているからだ。
目の前のヴァルキリーの頭やたてがみ、手綱を握る右腕、地面に至るまで、ジャイロの眼に光を訴えてくる。
雪化粧した大地から反射される光と違った美しさを感じさせるものの、どこか高圧的で彼自身、不気味の一言に尽きる光景だった。
そうでなくとも、ジャイロにとって迷惑そのものであった。
「……ちっ…! 黄金スケールが見えない……か…」
『黄金の回転』に必要な、およそ9:16の黄金律、大自然が生み出した息吹を眼で確認することができなかった。
赤玉から放たれる光が本来の姿をブレさせてしまっているためであった。
………こいつを、また使うことになるとはな…
一輪の太陽の花を取り出す。そう、神子に託した代物であり、手向けとなった向日葵。
あの時も視界を遮られた状況を覆し、黄金スケールを触覚を通して読み取らせてくれた。
早苗を救出する際に、引っ張り出したつもりだったが、未だエニグマの紙に紛れていたようだった。
使わせてもらうぜ、神子。
別にヴァルキリーのたてがみでも構わなかったが、見つけてしまったのなら使え、ということなのだろう。
ジャイロはなんとなく、そう思うことにした。
まあ、あの赤玉の光も太陽みてえなモンだしな、安い願掛けみたいなもんだ。
安い、などと言うと誰かさんにドヤされるだろうかなどと、どーでもいい考えが過ったが、口にしなければバレないだろう。
いやいや、思った時点でバレるのだろうな、と思い返す。
ほんの一瞬、眩し過ぎるこの空間においても、翳り冴えていたジャイロの表情に光が差した。
それだけだ。でもきっと十分だろう。
―――『黄金の回転』の回転時間は残り四半分―――
ジャイロは上空を見上げる。
眼を細めれば何とか見ることのできる程度だが、敵の姿をその眼に収めることができた。
巨大な黒の太陽。ジャイロは敵を見てそう思った。
だが、当然それは八咫烏がINした地獄烏の掲げる黒点ではなく、燦然と降り注ぐ光を一身に受け止める貪欲な死骸であった。
彼の予想通り、ノトーリアスは全身を使って2つの赤玉を取り込もうともがいていた。
身体は原型を留めておらず球状を成しており、今なお聞こえる絶叫が一体どこから発せられるのか窺い知ることはできない。
その代わりに一つの吉報を掴むことができた。
ダメージはある…………!! まだ、エネルギーの取り込む余裕がないからな……!
敵の体躯が以前のそれよりも、すっかりスケールダウンしてしまっていた。
球状となっているにも関わらず、その違いが明確に分かるほど。
むしろ、あれだけのレーザーを浴び続けて尚、活動を続けていることの方が異常なのかもしれないが。
ジャイロは一旦緩めていたヴァルキリーの速度を上げると、敵の周囲を旋回させていた軌道を修正する。
目標は当然、ノトーリアス・B・I・G。
右手には手綱と鉄球を、手を失った左腕は、花を決して崩さぬように、優しくそっと胸に抱きかかえる。
腕の触感を通して、脳裏には絶対的な美しさの基本が宿る黄金スケールが写った。
「行くぞ、ヴァルキリー。俺たちにだって太陽の『光』がある。『道』は間違いなく照らされている。」
彼らの眼が見据える先に写っているのは、きっとノトーリアス・B・I・Gでも、その奥にあるエイジャの赤玉でもない。
遥か遠くから煌めいている『光』であり『世界』。
それをコイツが遮っていると言うのなら、無論、蹴散らしていくだけだった。
―――『黄金の回転』の回転時間は残り八半分―――
ヴァルキリーが駆けた。
明る過ぎる光が見せる変わり映えの無い景色が、あっという間に移り変わっていく。
化物の絶叫より蹄の音を耳が捉え、何か物足りないような、そんなナイーブな気持ちが一瞬湧いた。
前方から吹き付ける風は、暑苦しいこの世界できっと自分は一番涼めているのを感じさせてくれた。
ジャイロはここに来て、どこまでも落ち着いた、かと言ってメランコリックに陥っていない、自然体となっていた。
そこに大きすぎる気負いはなく、かと言って全てが上手くいくと楽観視しているわけでもない。
ジャイロ自身なぜこんな白黒はっきりしない心持ちなのかわからなかった。
だが、別段彼は疑問視しなかった。あるいは今この状態こそが、いつも通りの自分であり、それは自身らの最高の力が発揮できる状態なのだと思えば。
そのまま淀みない動きで、右手の甲に乗せ回していた鉄球を手中に収める。
脚の裏は鐙をしっかりと踏みしめ、両脚を内側に寄せてヴァルキリーとジャイロ自身をピタリと固定する。
間合いを見切る。投球のモーションと到達点を確かな観察眼を以て、即座に割り出した。
上体は風に煽れらているように大きく反らせ、飛投距離の拡大を狙う。
右腕を引き絞り、右手は投石器のようにカクンと傾けた瞬間。
ゴォッと鈍い風切り音を奏で鉄球は疾駆した。
―――『黄金の回転』の回転時間は残り十六半分―――
きっと、これがこの戦いの最後の一投。
―――赤玉を360度取り囲む化物の表面は、ボコリと音を立て再生したり、クレーターのように一部がへこんでいたりと歪な球状を保ちながら蠢いていた。
―――だが、鉄球は突入を果たす。どこかの居眠り門番よろしく、拍子抜けするほどあっさりと、だ。
レーザーを構っている間は、鉄球は無視する。防御もザル。『黄金の回転』ならば問題なく突き破れるはずだ。
―――化物の肉体を一筋の直線を描いて破壊する。
問題は次だ。全方位からのレーザーを避けれるわけがない。だったら、必要なのはタイミング。
―――『黄金の回転』の回転時間は残り三十二半分―――
ここは赤玉が回転する本当にわずかな空間。
その周りには当然ノトーリアスの肉体がびっしりと敷き詰められており、何としてでも奪わんとしていた。
そして、それを後押しするように、今この瞬間から、レーザーの嵐は目に見えて弱まっていた。
触手の動きもそれに応じて鈍るが、それ以上に数が物を言う、あっという間にそれらは迫った。
『黄金の回転』の限界が迫っているのだ。
回転がほとんど止まった今ならば、僅かなレーザーしかない瞬間なら、俺の鉄球も突っ切れるはずだ…!
―――『黄金の回転』の回転時間は残り六十四半分―――
―――『黄金の回転』の回転時間は残り一二八半分―――
―――『黄金の回転』の回転時間は残り二五六半分―――
―――『黄金の回転』の回転時間は残り五一二半分―――
――――『黄金の回転』の回転時間は残り一〇二四半分―――
白に染まっていた世界が、元の景色へと戻っていく。
黄金のスケールも今なら容易に読み取れるだろう。
化物の絶叫も静まり、静謐が辺りを包む。
暑苦しかった気温もガクッと下がり、涼しい風が吹いた気がした。
それが怖気だと理解するのに時間はかからなかった。
「はぁッはぁ……はっはぁっ、どうして何も起きない…! くっそぉ……どうして…だぁ……!!」
ジャイロは言葉尻を枯らしながらも呻く。そこには悔しさがありありと染み出ていた。
鉄球は赤玉へと接触することはなかった。
レーザーで焼き払われたというわけではなく、それ以前の問題。
鉄球は赤玉がいるわずかな空間に到達できず、第一の関門、ノトーリアス・B・I・Gの肉の壁を超えることができなかった。
―――今も、鉄球はそこに埋まっている。
それは単純にノトーリアスが鉄球の動きを捕捉したからに他ならない。
レーザーを構っている間は平気だろう、というジャイロの前提そのものが、既に間違いだったのだ。
いや、間違いと言うのは正しくない。彼がもっと早く投擲していれば、ノトーリアスは反応を示さなかったのだから。
そう、レーザーの勢いが強い間に鉄球を投じていれば、ノトーリアスの肉の壁を突き破れていたのだ。
既にレーザーが弱まったタイミングで鉄球を投げたばかりに、ノトーリアスも他の物体に反応する余裕があった。
要はモタモタせずにさっさと投げていれば良かった、ということになる。
だったらあの時、仮にもっと早く鉄球を投げていたとしよう。
ノトーリアスの肉体を問題なく通過できるのだ。早めに投げていたのなら、赤玉に『黄金の回転』を纏わせることができたはず。
だが、そうは問屋が卸さない。ノトーリアスの身体を突き破ったとしても、その先にあるのはレーザーの嵐。
『黄金の回転』で回っていようが、いまいが、ちっぽけな鉄球は即刻溶解あるのみ。赤玉にカスりもしない、論外であった。
せめて、レーザーが弱まったタイミングで突入しなければ、とても赤玉へとたどり着けない。
要は急ぎ過ぎず程よく待ってから投げればよい、ということになる。
ここまで話せば、もう分かるかもしれない。
この作戦に大きな矛盾が存在することを。
遅く投げれば肉の壁に阻まれてしまう、かと言って、早めに投げればレーザーの餌食になる。
ジャイロはこの相容れない2つを両立しなければならなかった。
そのために彼は、すべてを承知の上であのタイミングで鉄球を放ったのだ。
肉の壁を突破し、レーザーに焼き尽くされない瞬間を狙って。
だがしかし、そんな絶妙なモノが果たして存在したのだろうか。
鉄球の回転を知り尽くした彼が、絶好の状態で挑んだにも関わらず見出せない瞬間など。
最初っからそんなモノ有りはしなかったのではなかったのだろうか。
だとしたら、ジャイロに何の選択肢が残っていたのだろうか。
反撃のアイデア閃いたジャイロはそれを捨てて、仲間が来て助けてくれるのを願うのだろうか、現実は非情だと諦めるのか。
自らの力量次第で勝てるかもしれない策を閃いておいて。もはや動けるのは阿求のみという状況で。ポルナレフによって切り開いた道だというのに。
あるいはそれらすべてをひっくるめて、彼は『すでに』『追いつめられてしまった』のだろう。
自ら退路なき『道』へと。
影が降りてくる。もはや、目的のブツはその身に取り込んだ。重力に従い、大地へと舞い戻る。
ジャイロは自分の周囲が一気に暗くなるのを感じ、見上げた。
『正しい道』を進んできた、はずだってのにな……… 俺は………これでも…
避けられない、そう判断せざるを得なかった。
自分を中心に影は100mを優に超えているのが分かった。
仮に今からヴァルキリーを走らせたところで、抜け切るのは不可能。
そうでなくても、そんな速度で移動してしまえば追跡されるのは明白。
何もしないことが、今できる精一杯の策に帰結するのは却って笑いが出てくる。
見事なまでの袋小路。
鉄球も赤玉もない、あるのは一頭の愛馬と道を示すペンデュラム。
まだ身体は十分に動けるというのに、愛馬も絶好調で走れるというのに。
後、ほんの数瞬で死ぬのだ。
あまりにも、あっけねえ。我ながら、本当に、な……
走馬灯の代わりに、ふとある言葉を思い出す。
――― もしも、照らしていた光が見えなくなったら! 追いつめられて、道が閉ざされてしまったら! 貴方は、どうするつもりなんですか…… ―――
ああ、阿求。お前の言う通りになっちまったようだ…
――― おいおい、そういうことは言いっこなしだぜ? 俺は勝ちに行くんだからよ。―――
――― お願いです!―――
……その答えなら、俺は知っているんだぜ、阿求? だが言っちゃあいけねえ。そいつは自分で体験してナンボのものだと思うしな。
『何かの力』によって引き起こされる偶然の連続の賜物、それは―――
お前自身で掴んで見せろ、阿求。『選ばれた』『奇跡』って奴を、な……
醜悪な肉体がすぐそこまで迫る。
俺には、その資格がなかったみたいだぜ…… ちくしょぉ……
まだ死ねない、ここで終わりたくはない、そんな悔恨だけが彼の胸中を包んでいた。
―――赤玉はどことも知れぬ犇めく肉の中で、わずかながら光を灯していた。
だがそれは、赤玉の中を無数に反射し続けるだけしかできない、まさに風前の灯であった。
そして、それさえも間もなく消滅する。全ての光は等しく、この化物に飲み込まれるしかないのだ―――
―――もし、こいつを焼き払える光があるとずれば、それはもっと未知なるエネルギーが必要だろう。
誰も知り得ぬ正体不明のエネルギー。ノトーリアス・B・I・Gでさえ、捉える事の出来ない超越した『ナニカ』が―――
―――ギャルギャル……ギャル…ギャルギャルギャルギャル…ギャル―――
―――往生際の悪い鉄球が在った。負けを認められないそいつは未だに回転を止めないでいた。肉の壁に密閉されながらも。
渾身の一投だが生んだ賜物。だがそれは今や化物が気に留めることもない程度の旋回でしかない。一体その回転にどれほどの意味があるのだろう―――
―――ギャル……ギャ……ギャリ…ギルギャ…………ギャリ…ギャ…ギャ、ギギギィ……ィ―――
―――止まった。きっと
彼が潰えた、その瞬間と一緒に―――
ス ゙ ス ゙ ス ゙ ス ゙ ス ゙ ズッ ス ゙ ス ゙ ス ゙ ズ ズ ス ゙ ズ ズ ス ゙ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズ ズズ ズ ズゾ ゾ ゾ ゾ ゾ ゾ ゾゾズゾズズゾ … … …
―――ソイツは立っていた。そして突然現れた。
―――肉の中にいた。そうするのが当たり前のように、突っ立っていた。
―――鉄球の隣に立っていた人型のビジョン。まるでそこから染み出たように。
―――ソイツは幽霊のように肉の壁をすり抜け、いずこかへと消えていった。
―――それだけだった。
暑い……… 眩しい……… 何よりも……………
ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル! ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!ギャル!
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」
「うるっっせぇえええぞォォッ!!! ってえええェェエエエおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!??」
ジャイロ・ツェペリは眼を覚ます。非常に劣悪な中での覚醒であった。
「何だ…!!?? 何が、どうなっていやがる!!!???」
ノトーリアス・B・I・Gに潰され、そして死んだ。少なくとも、彼はそのつもりでいた。だが違った。
この暑さを、この眩しさを、俺は知っている…… だが、なぜ今起きて………いや、それよりもだ…!
右手で手綱を握るよりも先に、帽子を目深に被り、その上に取り付けているゴーグルを愛馬に無理やりつけさせる。
「ヴァルキリー!!! 走れッ!!!! こっから抜け出すぞォッ!!!!」
いやがるヴァルキリーを命令で誤魔化させる。尻跳ねするのかと思いきや、主人のかけ声に応じ大地を蹴り、駆け出した。
この場にいるのは危険のだと、動物の本能が理解しているからだ。
今までのよりもヤバい…!!!突っ立てたら、こっちまで丸焦げになっちまうぞ…!!!
ジャイロは上を見て確認しようとしたが、止めた。危険すぎる。下手をしなくても目が潰れる。
それに見らずとも、途轍もない圧迫感を上から感じ取ることができる。
今、俺らは奴の真下、しかもかなりのゼロ距離ッ!!
ヴァルキリーは疾駆する。
感じる風はどこまでも迸る熱風。
愛馬の速度と共にジャイロの焦燥も加速する。
尻に火が付いているかのように、下痢したニワトリみてーに、ただただ必死に走る。
だが火が付いたのは尻ではない。
「くっそォッ!! アチイッ!! マジで焼け焦げちまうッ!!!」
ジャイロの上着がブスブスと煙が立ち上り始めていたのだ。
さらには、愛馬のたてがみも同様に燻り出すのを彼の嗅覚が察知する。
「ヴァルキリー!! 頼む、もっともっと急いでくれぇッ!!!!」
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」
ジャイロの声は果たして、ヴァルキリーに届いたのだろうか。
ノトーリアスのバカでかい音声によって塗りつぶされたはずである。
化物は更に悲痛なものへと変わっていく。
凄まじい勢いで破壊と再生を繰り返している。
ジャイロは呼吸を止めていた。吸い込む空気が熱せられていて、肺が焼かれると判断したからだ。
肌を刺す白い閃耀は、そこから全身から火が噴き出るかと思うほど熱い。
「GGGGGGGGGGGGYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!」
けたたましい叫び声が相変わらず、耳を劈く。
だが、その声量は先ほどのそれよりも劣っていた。
遠ざかった、のか……!?
上から押し潰されそうな圧迫感も消え失せ、身を焼くほどの光もわずかに和らいだ気がした。
いいぞ、ヴァルキリーッ!!! そのまま突っ切っちまえええええええええええッ!!!
ヴァルキリーはトップスピードを迎え、さらに加速する。
白い景色が少しずつ元の色のそれへと変化していく。
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」
またもバカでかい咆哮が鼓膜に優しくない刺激を届ける。
くっそおッ!! 声が近い!? まさか…………俺らを追跡していやがるのかッ!?
ジャイロは決して背後を振り向いたりはしなかった。態勢を崩し減速してしまえば、それこそ捕まってしまいかねない。
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」
「GO! ヴァルキリーッ!! GOッ!!! GOッ!!!! グゥゥゥオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォオォオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!」
「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH
HHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!!!!!」
人と化物の騒々しいデュエット。
それは偶然にも同じタイミングでピタリと静止して、いや呑み込まれた。
内包していた光が膨れ上がるように、世界を白へと染め上げた瞬間に。
太陽は麗らかな光を届ける。
荒れに荒れた大地であろうと、地に伏した男であろうと、跨られている馬であろうと、それに跨っている男であろうと。
日差しは先の見えぬこの地であっても等しくその身体を暖め、見果てぬ者たちの道を指し示してくれる。
そこには身を焼かれるほどの白熱も、眼を閉ざさなければ進めないほどの光芒もない。
安寧の地へと早変わりしていた。
「はぁ、はぁはぁ……はぁーッ………くっそ、はぁっ……奴はいった―――
穏やかな空間に生まれ変わったこの地の住人の第一声。
―――い、アチィッ!? やべぇッ!! うぉッ!?おい、暴れんなぁッやめろッ!!! ヴァルキリー!!」
お互い、所々ブスブスと煙を燻らせながら、ジャイロはヴァルキリーを宥める。
だが、黒いたてがみに火の気が移っているのに待っていられるわけがなく、後ろ足でジャイロを尻っ跳ねようと必死だ。
「どわあぁああああッ!! 落ちぃるッ!! バァカヤロッ!!! ちったあ、待ちやが……れぇぇえええ!?」
愛馬が身体を揺らすごとにジャイロの声色もブレにブレる。
何とか内側に両足をがっちりと押さえ込むことで、振り落とされないようにするも時間の問題だ。
それでも踏ん張った甲斐あって、デイパックからペットボトルを取り出すことに成功。
それを自身の頭から被るようにして振り撒く。
もう一つ取り出して、愛馬にもかけてやり、ようやくその場を収めることができた。
そして気付いた。こんなことをしている場合ではないことに。
「ノトーリアス・B・I・Gは、くたばったのか…?」
走ってきた方向の後ろを振り向くものの、いなかった。
グルっと全ての方角を視界に入れるものの、やはりいなかった。
いないものはいない。ないものはないのであった。いや、あるというわけではなくってないという意味でだ。
あの時、確かに回転音が聞こえていた。レーザーが放たれていたわけだ…… どういうわけか、再び赤玉は回転を始めたってことになる………
ジャイロはつらつらと、あの逃走劇の瞬間を振り返る。
俺の鉄球が赤玉のトコまで届いたのか…? いや、しかし……それは幾らなんでも遅すぎるんじゃあないか?
完全に赤玉が回転を停止してしまうかどうかの境目を彼は狙っていた。
ジャイロが押し潰されかけた瞬間は、どう考えても遅いの一言。
だが、あの暑さと眩しさは間違いなく、赤玉のそれだ。しかも、俺は都合よく巻き込まれなかった。まるで、俺の意志が働いていたかのように……
思えば、ノトーリアス・B・I・Gもジャイロを追跡していたのではなく、あの巨大な叫び声は単なる断末魔の叫びだったのではないか。
あれほどのレーザーが放たれているあの状況でこちらを追ってくるなど在り得ないのだから。
『ナニカ』が赤玉に作用したって言うのか? あの状況で? 一体どんな手段なら赤玉を回転させられるって言うんだ……よぉ……?
そもそも、ジャイロは鉄球と赤玉しか使っておらず、他の要素が作用するとは考えられない。
そこで、ジャイロの脳裏に一つの答えが湧き出る。
待てよ……もし、俺の鉄球が『防御を突き破るための回転』になっていたら……? 中世騎士の甲冑をブチ破る回転を、俺の鉄球が纏っていたなら……!?
ノトーリアス・B・I・Gの肉体も赤玉のレーザーの嵐も突き破れていたのではないか、ジャイロは今更閃いていた。
いやいやジャイロ、そうじゃあねえだろ。もし、その回転が生まれていたら、それこそ、もっと早く赤玉に到達できていたはずじゃあねえのか?
生憎と、ジャイロはノトーリアス・B・I・Gの体内を覗いていたわけではないので、そこで何が起こっていたのか知る由もない。
スタンドへと昇華した『黄金の回転』のエネルギーが全てを突き破り、赤玉へと未知なる『回転エネルギー』を与えたことなど。
それはノトーリアス・B・I・Gでさえ、取り込むことはできない『次元』をも抉じ開ける力の存在などとは。
そもそも、回転しないことにはレーザーは放てない。だったら、俺の鉄球が干渉したのはまず間違いねえ……
だが、その片鱗を掴み、勝機を引き寄せたことには違いないのだった。
俺はまたも『選ばれた』のか……? だが、今度のは犠牲を払いつつ、だけどな……
ジャイロは首にぶら下げていた
ナズーリンのペンデュラムを掴み取る。
じっくり探したいのはやまやまだが、あちこちに大小様々なクレーターがあり、それらを全て探すのはあまりにも手間だった。
「人様の忠告を無視しやがったバカヤローを探さねえとな………」
2つの赤玉を手にするために身を挺した男を忘れてはいなかった。
「反応あり、か……」
彼の名前を、容姿を、性格を、想起しペンデュラムに念じ、あっさりと一つの方向を指し示した。
漏れたレーザーが生んだ穴よりも一際大きいクレーター、あの化物が突っ込んだと思われる場所。
いるんなら、やっぱりそこだろうよ。アイツは…
我ながら少々女々しい行動だったのかもしれない。
ペンデュラムで探してから、自ら逃げ場を断ってからご対面しようなど。
ジャイロはヴァルキリーを走らせクレーターに近寄る。
ノトーリアスに両脚を喰らわれた早苗のことを彷彿とするようなシチュエーション。
無事でいるんだろうな!? ポルナレフ!
だが、今回は手元に鉄球がない。致命傷を負っているとしたらまともに治療することは叶わないだろう。
だから祈るしかなかった。彼の無事を。
巨大な半円状の穴の端から、覗き込むようにジャイロは見る。
横たわった姿の彼を発見した―――
満足気なツラ、しやがって………
―――はずだった。
「いねぇ……!?」
確かに今、ジャイロはポルナレフの顔が見えたはずだった。
それが忽然と消えてしまっていた。
「おい、ポルナレフ!? てめえ、どこに―――!!??」
顔を上げると、いた。
寝たままの姿勢で空を飛んでいた。
何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何だ何なんだ!!??
放物線を描くようにクレーターから抜け出ると、そのままの勢いでジャイロをも飛び越し背後にて、着地。
ジャイロはと言うと、その珍妙な軌跡に合わせて眺めていた。
「パンパカパーン!!! 探し者は俺のことだろう!? ペリペリく~ん??」
「ずいぶん…てめえ…暇そうじゃあねえか…ポルナレフよぉ!!」
五体満足でニヤニヤしながら、ポルナレフは立っていた。
ジャイロは強張っていた表情を破顔してしまった。
それが目の前の男の意図だとするのなら、素直に喜ぶのはやぶさかではなかった。
「しかし、まあよく無事だったな。もうダメだと俺は思っていたんだが。」
「けっ! 俺が無策で突っ込んでいったと本気で思ってんのかよ? 一回キリ、俺は確かにそう言ったんだぜ?」
チャリオッツを隣に出し、レイピアをジャイロより少しずらして構える。
「こういうこった!!」
細く鋭い風切り音がジャイロのすぐ横を、瞬きを許さないほどの速度で過ぎ去って行く。
チャリオッツの剣先の中ごろまでが、消失してしまっており何が起きたのか容易に想像できた。
「なるほどね。そいつを飛ばして、狙いを逸らしたと。その間に移動して奴から逃れた、そういうことか…」
「奥の手って奴はここぞと言う時にこそ使うってもんだからな!」
ポルナレフは鼻高々と自慢げに語るのを見て、ジャイロはふと疑問に思ったことを口にする。
「ん? つーことはだな…… お前は今まで何していたんだ?」
「………何にもしてねえ。お前の戦いぶりを眺めていただけだ。」
両者しばしの沈黙。
――――――――――――――――――――――――――
おいおいポルナレフ、お前はあれだけカッコよく登場しておいて、自分は死んだふりして決着を付けるのは俺任せかよ。
ジャイロがいっそそのように笑い飛ばしてしまった方が良かったのかもしれない。
ポルナレフはきっとそれに合わせて、程よく怒りの体を示し、お互いの空気は和らぐだろう。
だが、ポルナレフがあまりにもあっけなく自分の醜態を晒すことに、ジャイロは違和感を覚えた。
やたら潔すぎるというか、何というか。
だから待つことにした。彼の言葉を。その先に続く彼の在り様を。
やがてジャイロが言葉の続きを待っていることを察したポルナレフは、溜息を漏らして続けた。根負けした、と言わんばかりに。
「……俺の剣は弱き者たちを護る為にある。幽々子さんはそう仰っただろう? だから、何もしなかった。認めたくはねえが、俺じゃあアイツには勝ち目がないからな……
俺にはまだ護るべき相手と仲間、そして幽々子さんがいる。」
苦々しく吐き出し始めた。
「情けねえ話だとは思う。だが、あの人から与えられた『生命』を! 何も成し遂げずに投げ出すわけにはいかなかった!
ついでに言っちまうと、本当はここに来るつもりもなかったぐらいだ……」
「だが、阿求ちゃんがお前が企みそうなことを悶々と考えているのを見て、俺がそいつを代わりにやれると分かった以上、来ないわけにはいかなかった!」
「尤も、それでも俺の命が危ぶまれない範囲でしか、協力しちゃあいねえがな…… 悪かった、ジャイロ。それが今の俺の―――「『在り方』何だろ?」―――!」
ジャイロがポルナレフの台詞の続きを察して、言葉をおっ被せる。口を吊り上げ、ニョホホ、とみょんな笑いを見せる。
「ポルナレフ、今横たわっている『結果』を見てみろ。」
頭を下げたポルナレフは、その言葉を境に顔を上げる。
「俺たちは今、出来うる限りの力を尽くして最上の『結果』を得ることができたんじゃあねえのか? 少なくとも俺はそう思うし、けっこー『納得』してるんだぜ?」
「お前の話を聞いて、勝手ながら『納得』できた。さっきのアレは俺の行動が生んだ『選ばれた』『奇跡』じゃあない。
『偶然』の連続の代物じゃあない、俺とお前、阿求がそれぞれに動いた『結果』が生んだ賜物だってことをな。」
「確かに『過程』は大事だ。だが『結果』が残らねえと、何をほざいてもそいつは認められない。だが、アレは俺たちの『結果』を集まりだ。
ポルナレフ、お前がその『過程』で何を思っていようが、俺がそれを咎める権利はねえぜ。」
「それに『在り方』は人それぞれ。結局、俺も誰かさんの真似ができたようで、できちゃあいない。『道』ってのはどうも、千差万別らしい。」
「おい、ジャイロ。俺にはお前の言ってることが半分ぐらいしかわかんねえぞ。日本語を話せ。ここは幻想郷だ。」
「うっせえ、全部独り言だ。バカヤロー。」
自称、長々とした独白を終えたジャイロは、少々バツの悪そうに語り出す。
「それに阿求にも言ったが、今回の俺の行動は、己の身勝手さから生んだもの。お前と阿求もそれに振り回されただけで、毛ほども気にすることはねえよ。」
「ああ、まったくだな。もし、お前が死んでいたら、俺たちは『全員生き残った』って胸を張ることもできなくなる。
その精神状態はか・な・ら・ず!脚を引っ張る。そうだよな、ジャイロ?」
しっかりと話を聞いていたのか、意地の悪い返され方をされたジャイロであった。
「へっ! 裏を返せばそういうことになるな。まったく……すまなかったな。」
「結局のところ、お互い様ってわけだ。まあ、つくづく運のある奴だぜ……」
ポルナレフは半ば呆れ気味にぼやく。それほどのミラクルだと言いたいのだろう。
「それと、謝罪は俺だけじゃあねえだろ―――「つーかよぉ、お前のおかげで俺は生きていられているんだ。文句言えるわけねえだろうが! このスカタンがよぉ!」―――
乱雑。
ポルナレフの言葉の意味を感じ取り面倒くさがった彼の対処法がだ。
強引過ぎる話の腰の折り方。どこのポルナレフの台詞からなら、この台詞が当てはまるのか、そんな国語の問題が作れそうだった。
ついでに調子良くポルナレフの背中をバシンと一発引っ叩く。
「てめえ! 文句言わねえって言ったそばから何言ってやがる!!」
話の流れを無視し挙句理不尽な悪口のダブルパンチをぶつけられると、ポルナレフとて火が付くと言うもの。
「そういえばだな~、俺を驚かせたのも、あの後ワザと突っ込まれそうな態度を取ったのも、意図があったワケなんだよなぁ……??」
「~~!? て、てめえ!!」
隠しておいたものが今になって暴かれて、ギクリという擬音語が聞こえてきそうなほどポルナレフは良い反応を見せた。
「自分から道化に走るなんて、よほど気にしていたんだねえ~?? いや~実に堅物で献身的な姿勢だねえ~~?? なぁ~そうだろぉ……ポルポルく~ん?」
「てんめえええええええええええええ!!! 余計なことを次から次へと、のたまってくれるじゃあねえか!! てめえはもうおしまいだ~~!! 」
痛いところをモロに突きまくられ、ポルナレフはついに顔を真っ赤にしてジャイロに飛びかかる。
一方ジャイロは回れ右して走り出し、そのまま素早く愛馬に跨り激を飛ばす。
「行くぞ、ヴァルキリー!! 阿求たちのところまで駆け抜けるぜえッ!!!」
「くっそ!! 逃がすかよぉッ!! 待ちやがれぇえ、ジャイロ!!!!」
ポルナレフの奮闘空しく、ジャイロは一足先に素っ飛んで行く。
まあ、感謝の言葉は後でアイツと一緒にまとめてしてやるぜ!
相手をからかった後に妙な優しさを見せる。
『在り方』は人それぞれと問いた癖して、そんな飴と鞭を使い分けるその様は、ほんの少しだけ、誰かさんの臭いを嗅ぐわせた。
尤も、今のはただ単に逃げ出したかっただけなのかもしれないのだが。
とは言っても、それがジャイロ・ツェペリの生き方
『受け継いだ者』の『在り方』―――なのかもしれない。
【ノトーリアス・B・I・G@第五部 黄金の風】 完全消滅
【E-6 太陽の畑/午前】
【
花京院典明@ジョジョの奇妙な冒険 第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:睡眠、体力消費(大)、精神疲労(大)、右脇腹に大きな負傷(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:
空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部、不明支給品0~1(現実のもの、本人確認済み)、基本支給品×2(本人の物と
プロシュートの物)
[思考・状況]
基本行動方針:承太郎らと合流し、荒木・太田に反抗する
1:東風谷さんに協力し、
八坂神奈子を止める。
2:承太郎、ジョセフたちと合流したい。
3:このDISCの記憶は真実?嘘だとは思えないが……
4:3に確信を持ちたいため、できればDISCの記憶にある人物たちとも会ってみたい(ただし危険人物には要注意)
5:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期はDIOの館に乗り込む直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。
これにより第6部でホワイトスネイクに記憶を奪われるまでの承太郎の記憶を読み取りました。が、DISCの内容すべてが真実かどうかについて確信は持っていません。
※荒木、もしくは太田に「時間に干渉する能力」があるかもしれないと推測していますが、あくまで推測止まりです。
※「ハイエロファントグリーン」の射程距離は半径100メートル程です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。
【
東風谷早苗@東方風神録】
[状態]:気絶、体力消費(大)、霊力消費(大)、精神疲労(極大)、出血(極大)、両脚欠損(ネジで固定)、重度の心的外傷
[装備]:スタンドDISC「ナット・キング・コール」@ジョジョ第8部
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:異変解決。この殺し合いを、そして花京院君と一緒に神奈子様を止める。
1:『愛する家族』として、神奈子様を絶対に止める。…私がやらなければ、殺してでも。
2:殺し合いを打破する為の手段を捜す。仲間を集める。
3:諏訪子様に会って神奈子様の事を伝えたい。
4:2の為に異変解決を生業とする霊夢さんや魔理沙さんに共闘を持ちかける?
5:自分の弱さを乗り越える…こんな私に、出来るだろうか。
6:青娥、蓮子らを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船の後です。
※ポルナレフらと軽く情報交換をしました。
※痛覚に対してのトラウマを植え付けられました。フラッシュバックを起こす可能性があります。
【
稗田阿求@東方求聞史紀】
[状態]:疲労(中)、自身の在り方への不安
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン@現実、生命探知機@現実、エイジャの残りカス@ジョジョ第2部、稗田阿求の手記@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いはしたくない。自身の在り方を模索する。
1:私なりの生き方を見つける。
2:二人の帰りを待つ。
3:メリーと幽々子さんを追わなきゃ…!
4:主催に抗えるかは解らないが、それでも自分が出来る限りやれることを頑張りたい。
5:荒木飛呂彦、太田順也は一体何者?
6:手記に名前を付けたい。
[備考]
※参戦時期は『東方求聞口授』の三者会談以降です。
※はたての新聞を読みました。
【
ジャン・ピエール・ポルナレフ@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:疲労(大)、身体数箇所に切り傷、胸部へのダメージ(止血済み)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 、???(※)
[思考・状況]
基本行動方針:メリーや幽々子らを護り通し、協力していく。
1:阿求らの元へと戻る。
2:メリー及び幽々子の救出。
3:仲間を護る。
4:DIOやその一派は必ずブッ潰す!
5:八坂神奈子は警戒。
[備考]
※参戦時期は香港でジョースター一行と遭遇し、アヴドゥルと決闘する直前です。
※空条承太郎の記憶DISC@ジョジョ第6部を使用しました。3部ラストの承太郎の記憶まで読み取りました。
※はたての新聞を読みました。
※ノトーリアス・B・I・Gが取り込んでいた支給品のいずれかを拾ったかもしれません。次の書き手の方にお任せします。
【ジャイロ・ツェペリ@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:騎乗中、疲労(大)、身体の数箇所に酸による火傷、右手人差し指と中指の欠損、左手欠損
[装備]:ナズーリンのペンデュラム@東方星蓮船、ヴァルキリー@ジョジョ第7部
[道具]:太陽の花@現地調達、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ジョニィと合流し、主催者を倒す
1:阿求らの元へと戻る。
2:メリー及び幽々子の救出。
3:青娥をブッ飛ばし神子の仇はとる。バックにDioか大統領?
4:ジョニィや博麗の巫女らを探し出す。
5:リンゴォ、ディエゴ、ヴァレンタイン、八坂神奈子は警戒。
6:あれが……の回転?
7:遺体を使うことになる、か………
[備考]
※参戦時期はSBR19巻、ジョニィと秘密を共有した直後です。
※
豊聡耳神子と
博麗霊夢、八坂神奈子、
聖白蓮、
霍青娥の情報を共有しました。
※はたての新聞を読みました。
※未完成ながら『騎兵の回転』に成功しました。
※以下の支給品が消滅しました。
- エイジャの赤石@ジョジョ第2部
- エイジャの赤玉(2/2)@ジョジョ第2部
- ジャイロの鉄球@ジョジョ第7部
※以下の支給品をポルナレフが入手した可能性があります。使い物にならないかも。
- 十六夜咲夜のナイフセット@東方紅魔郷
- 御柱@東方風神録
- 止血剤@現実
- 基本支給品×2
【支給品紹介】
【エイジャの残りカス@ジョジョ第2部】
エイジャの赤石だった物。
二つの穴が開いてしまっており、もはやレーザーを放つことも石仮面の骨針の押しにも使えない、まさに残りカスとなってしまった。
柱の男が見たら、卒倒間違いなしである。不意打ちには使えるかも。
しかし、エイジャの赤石がなければ、『柱の男を倒せなくなる』という言い伝えがあるのだが、果たして……
【エイジャの赤玉@ジョジョ第2部】
ジャン・ピエール・ポルナレフ制作の球状にカッティングされたエイジャの赤石。二つあった。
ジャイロが奇策のために用意してもらった代物で、『黄金の回転』の『無限に続く力』を与えるために鉄球の形を模している。
大きさは指の第一関節程度しかない、非常に小さな仕上がりとなっている。
日光と回転を加えるだけで全方位にレーザーをブっぱなすトンデモ兵器だが、防御の手段を講じないと自滅必死である。
【太陽の花@現地調達】
某妖怪の根城『太陽の畑』に咲く向日葵の一輪。もはやこの会場においては絶滅危惧種となってしまった憐れなお花。
何の変哲もないただの向日葵だが、ジャイロの確かな鑑定眼によって選ばれた『黄金スケール』の宿る向日葵である。
触覚による『黄金スケール』の把握に成功できる程度の美しさを誇る。
ジャイロの扱いが良かったおかげか、あれほどの戦いの中でも痛めたりしていない。なお、花言葉の意味は……
最終更新:2016年05月22日 03:58