MONSTER HOUSE DA!

サンタナ
【昼】D-3 廃洋館 エントランスホール


カーズ様。……折り入ってお話が」


サンタナの発したその言葉に、この場に立つ三人――カーズ、エシディシワムウが世にも珍しい物でも見たかのように、意外そうな表情で声の主を見やった。
館の探索も終え、柱の男四人ともがここエントランスホールに会した時、ワムウの後方にて鎮座していたサンタナが突如口を開いたのだ。

サンタナといえば、無口を通り越して個の意思すら持ち得ているのかも怪しい男。
同胞とはいえ、他の三人もこの男を歯牙にも掛けていない。それほどまでにサンタナは三人の輪から極端に離れていたはぐれ者。
そんな彼が、見計らったかのように口を挟んできたというのだ。
今後の動向を決める重要な談合の最中、頭領であるカーズの話を遮ってまで。


「……サンタナ? どういうつもりだ?」

「先の話にあった、DIO……という吸血鬼について、このサンタナが意見を申し上げる無礼をお許しください」


カーズは思わず横のエシディシと顔を見合わせた。
エシディシの方も内心驚いているようで「ほお……」と声を漏らしている。
ワムウも同じだ。目を傷付けているので詳細な表情は読み取れないが、柱の末端が放つ思わぬ提案を興味深そうに聞き入れようとしている。
何せ彼――サンタナが自ら意見を申し出そうなど、彼らの歴史においてはとんと記憶がない。

サンタナの静かなる瞳は、それを掲げた頭ごと垂らされ、ゆっくりと床に跪いて。
そして言い放たれる。



「紅魔館に居付くというDIO……その者の打倒を、このサンタナに任されてくれませんか」



視線を下に向けたままのサンタナの表情、その真意は掴めない。
もとより彼ら三人が半ば見捨ててきた男の言葉だ。それが如何なる経緯を以て導いた考えなのか……見当など付きようもなかった。


「サンタナ」


だが、この男――カーズにとってそんな事はどうでもよい些末に過ぎない。


「今の発言、あの吸血鬼の若造はお前が始末しに向かう……その是非を問うているのか?」

「…………はっ」


肯定の意思。
サンタナはおよそ生まれて初めて、主たちに意見した。
その魂胆に根付く決意は固い。彼はDIOが穿つ死線を潜り抜けたかった。
あのカーズをして脅威と知らしめた吸血鬼……その男を討てばサンタナが目指すステージに数段階近づける。
空っぽの心を携えたサンタナが充足できる人生を生きるには、闘争が不可欠なのだ。

ワムウの生き方に近いかもしれない。
しかし彼は武人。日々、己の闘技を極め尽くし、見据える明日に限界を求めない。
対してサンタナが血を求める理由は曖昧だ。虚ろなる心が故、当然といえばそうなのかもしれない。
だがその虚ろこそが一番の理由であり、サンタナは自らの虚ろなる存在意義から脱する為にも、闘うことで『証』を手に入れようとしている。

ワムウのように遠くは見ない。
腕を伸ばせばきっと『失ってしまった何か』に触れる。もう一度手にすることが出来る。
だからまず、彼は一つ一つを手繰り寄せるように大切な手段を掴もうとしている。
確固たる『己』を確立させる為に、脆き崖を這い上がるつもりでいる。
気の遠くなるほど永い年月を閉じ篭っていた殻から、抜け出したかった。

その為にも、主の『許可』は絶対不可欠であった。



「いい気になって酔うんじゃあないぞ、番犬の存在が」



しかし、彼に立ち塞がる崖は果てなく遠大。


「たかだか数度の戦いで成長したつもりにでもなったか? だからお前は番犬だと言うのだ」

「……」

「聞けば吸血鬼のメス餓鬼如きにすら三度もの苦渋を舐めさせられたらしいではないか」

「……」

「ならばせめて別種の吸血鬼を殺すことで、この煮え立った溜飲を下げることにしよう……よもやそんな下らぬ感情で動こうというのではあるまいな」

「……」

「確かに……DIOには適当な当て馬をぶつけでもしてそのスタンド能力を解明しようとも考えた」

「……」

「だがキサマが赴くのでは話が変わってくる! 曲がりなりにもお前は我々と同じ能力を有しているのだ」

「……」

「もしもキサマが敗北することがあれば、それは我らの能力が敵に知れることも同義!」

「……」

「ならぬ! そんな負け犬が抱くような情けない感情はとっとと捨てろ」

「……」

「それとも魔が差したのか? たかだか一人や二人の参加者を始末しただけで調子にでも乗っているのか?」

「……」

「このカーズの言葉を遮り、不明瞭にしてリスクの高い進言をさも妙案の如く……呆れ果てたぞ」

「……」

「酔うなよ。キサマはただ我らの命に首を下げていればよい」

「……」


そう言ってカーズはサンタナから視線を外して翻る。


終始、黙考。
サンタナはただ、主の指摘を黙って聞き入れるのみに徹していた。
尤もであるのだ。カーズの反論は、慎重を期した紛うことなき正論である。
此度のゲームはもはや彼らがこれまで体験してきたような波紋戦士との戦いとは、種から異なっている。
集団戦。戦争のそれと近い要素が徐々に現れてきているのだ。
事実、あの恐竜男が従える翼竜は斥候として、既に会場各地にバラ撒かれていた。
情報戦という分野において、この柱の集団が後れを取っているのは瞭然であった。
ただでさえ自陣の情報が敵に漏れているかも分からぬ状況。迂闊な行動は首を絞めることにしかならない。



「―――上等、ではないでしょうか」



ピタリ、とカーズの足が止まる。
離れてゆくその背に向けて、サンタナの反論が射抜かれた。


「敵に我らの情報が伝わってしまう……それの何が、問題であらせられますか」


サンタナの瞳は――じっと主の背を見つめている。
自らの欲が生んだ言の葉をどうしても聞き入れて欲しい。そんな必死さが、どことなく浮かんでいるようであった。
ワムウもエシディシも、放ったサンタナ自身でさえその言葉に驚く。
誰に向かって意見を垂れているのか。それが自覚できぬほど彼は愚かではない。
だが口から溢れる言葉は止まってくれない。


「お言葉ですが……わたしは下らぬ感情の為なぞに動こうとは考えておりませぬ。
 敵に――全ての生物に我らが恐怖を知らしめる為、初陣を切りたい……そう、思った末に偉そうなことを述べました」

知らしめる為。
自らの存在を、恐怖を、世に知らしめる為に。

「我々は闇より生まれし生物……それゆえに現状、この社会にも我らの存在を知る者は少ない。
 いずれは主たちが赤石により究極生物となり、この地上を支配する。所詮それまでの間に過ぎませぬが」

かつてはその戦いに置いていかれた自分だ。
歴史の闇に身が埋もれていく。今更になってそんな未来を想像し、たまらなく嫌悪を示す。

「たかが能力の片鱗です。いっそ知らしめてみるのも我らが存在意義かと。
 『奴らは本物の超生物だ』『とても敵わない』……と言わしめたい。そうは……思いませんか」

少し以前までの自分なら想像することすらなかったであろう意見。
欲とも言い換えられるその言葉は、サンタナの口から止め処ない飛沫のように溢れ続ける。
酔っている―――そうなのかもしれない。主から突きつけられた言葉は、胸の奥に違和感なくスゥッと入り込んできた。


「わたしはDIOの一味に……我らが恐怖を知らしめてやりたい。カーズ様……どうか、奴を討つ許可を」


二度目の申し入れ。
身分を省みない、身の程知らずな進言。
次の瞬間に首を刎ねられてもおかしくない、傲慢な態度とも言えた。

それでも、今日この日生まれた『サンタナ』は確かに己を突き通した。
ハッキリした目的を抱えて、初めて主に意見した。
これでダメなら、道は絶たれるだろう。
その時は……殉じるしかない。この身に燻る、最後の忠義心に。


「“サンタァナ”……『メキシコに吹く熱風』、という意味だったか」


僕の物珍しい口上に、カーズは背を向けたまま言葉を傾ける。
その口ぶりから感情を読み取ることは、サンタナには出来ない。
立腹か、驚嘆か、奇異か。もし最前者であるならサンタナの命はここで摘まれるだろう。
野に咲いた苺の花のように、いとも簡単に命を散らされる。


感情の希薄なサンタナの額から、一粒の汗がタラリと伝った。


「名の通り、随分と……熱くなっているみたいじゃあないか、外面とは裏腹に。
 それに言葉も流暢だ。このゲームでどれだけ学べたかは知らんが……別人のようだぞ」

振り向かれたカーズの長髪が、蝋燭の光を反射して輝いたように見えた。
その面に張り付いた表情は如何なる種であるか。サンタナには、やはり掴み取れない。

「キサマの言うことにも一理、ある。我々闇の一族の本質は、地上の人間共を恐怖させ、蹂躙することにあるのだからな。
 だがキサマの吐くそれは、やはり感情論でしかない。結局の所キサマは、己が欲の為に暴れたいという我侭を根源にしているに過ぎん」

我侭。それは……その通りでしかない。
極少であるとはいえ、闇の一族は同胞四人からなる歴とした組織だ。
組織の中で我を通すには、それなりの力を誇示しなければならない。
例えばワムウのように、僕であるにもかかわらずある程度の発言力があるのは、彼が圧倒的な武力を有しているからだ。
主からも一目置かれた彼と違い、サンタナには実績がほとんど無い。そんな男が、どうして組織内で融通を利かせられるだろうか。

「その提案、ワムウからの発言ならば一考に価していた。だがサンタナ……自分でも痛感しているだろう。
 お前では“力不足”。一体どんな根拠でお前はあの吸血鬼に恐怖を叩きつけられるつもりでいるのだ?」

反論が出来ない。DIOなる男のスタンド能力に、実際全く対処のイメージが湧かないのだ。
無論、相手はあくまで格下の吸血鬼。本来はハエでも叩き落すように軽く一蹴すべき雑魚。
だが悲しきかな。此度の殺し合いでサンタナの持つプライドや自信のような物は、既に塵となって崩れ落ちている。
この申し出は、全く新しい自信を手にする為の巨大な儀式の門出でもあるのだ。
例え相手が不明確なまやかしの使い手であろうとも、今のサンタナなら退かずに立ち向かおうとするだろう。
それが主から見てどんなに愚かで、滑稽であろうとも。

「カーズ。何なら俺が行ってこようか? その舐め腐った吸血鬼の若造を潰しに」

「ふむ……確かにエシディシ、お前なら場を冷静に見極めることも可能か。どちらにせよ負傷を完全に癒してからになるだろうが」

横から入ってきたエシディシが口を挟んできた。
彼ら二人は最も長い付き合い。カーズはエシディシを情や贔屓でなく、客観的な目で分析に掛けた。
もし自分ら四人の中でDIOの能力を探り当てる可能性が一番高いのは、エシディシであるだろうと。
彼ならきっと、どんなに予測不能な事態が訪れようと、最適策を構築して敵を手玉に取れる。


「……よし、ならばエシディシよ。正午の放送後、傷が癒えたならば紅魔館に向かい―――」

「――――――お待ちくださいカーズ様。……どうか、」


三度目の要求。
サンタナにとって、ここは退くか退かぬか最後の一線。
そして同時に、彼の処遇を決定付ける最後の一線(デッドライン)。
意地とも言える気持ちが、サンタナにその線を割らせてしまった。

カーズの機嫌を損なうのであれば、ここで南無三か――――――



「サンタナ……キサマ―――」


「――――――カーズ様」



冷やりとした風がサンタナを撫でた、その瞬間。
またも割って入った声の主は――ワムウ。



「侵入者の気配です。それも、少し多いようです」



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

ホル・ホース
【昼】D-3 廃洋館 リビングルーム


かの空条承太郎に会うため、ジョースター邸に足を進めていた射命丸文火焔猫燐、ホル・ホース一行。
互いに腹に一物抱えた不安定なチームであったが、此処に至るまでは特に危なげもなく進むことが出来た。
途中、雨が降ってきたというので雨宿りも兼ねてこの廃れた洋風の館に侵入したはいい。
用心深いホル・ホースの一案で裏手に回り、勝手口からこのリビングルームに入った一行が目撃した“モノ”は……



「こい、し……さま…………?」



壁際に寝かされるように置かれた、変わり果てた“主”の姿だった。


「い、いやァァアうぷっ―――!?」

「シッ! ……気持ちは分かるが、騒ぎ立てるな」


古明地こいしの痛ましい亡骸を目撃し、悲鳴を上げかけたお燐の口元をホル・ホースが咄嗟に塞いだ。
目尻に涙を浮かせ、動揺と悲壮を一気に吐き出し喚くお燐を手元で押さえながら、彼は冷静に物事の判断を行う。
この部屋に侵入する前、窓外からの屋内確認・警戒は当然終えていたが、死体が窓際の死角に隠れていたのに気付けなかったのは迂闊だった。

だが、現時点でこいしの遺体を発見できたのは、ある意味では幸運だったのかもしれない。
一行の目的、その一つが『古明地こいしの救出』であるからだ。
ここで彼女の遺体をスルーしたままジョースター邸まで赴いていれば、冷たい言い方ではあるが多大なる時間のムダになっていただろう。

「大きな声は出すんじゃねえぞ。……この娘が『古明地こいし』かい?」

「こいし様……! こいし、さまぁ……っ! 何で……一体誰が……っ!」

お燐の狼狽を横目で見ながらホル・ホースは半ば確信する。
ここで倒れているこいしは、魔法の森で文を襲った後、この館まで辿り着いた。
その後、館に潜む何者か、または後からここを訪れた何者かに彼女は無残にも命を奪われた。
こいしの辿った筋書きとしては、このような悲劇の末路であるだろう。

(ひでえ様相だ……身体中を殴られたように、いや靴跡からして蹴られたのか。尚更だぜ……)

おまけに右目に深々と突き刺さったナイフ。下手人は容赦もなく、この娘に過度な暴行を繰り返したようである。
見ればこいしは、ホル・ホースが思っていた以上に幼い容姿であった。

(可哀想に……年齢からしてまだ『アイツ』と同じぐれーのガキじゃねえか)

脳裏に浮かぶは、己を逃がした犬耳娘の背中と叫び。
今はもう居ない彼女の幻影をブンブンと振り払い、男は合理的に現状を見据えた。

「お燐。泣くなとは言わねえ……が、ここじゃちとマズイ。この娘の遺体持って、すぐにここから出よう。……少し、ヤベェ空気がするぜ」

「……ひっく……こいし、さまぁ……」

鼻をすすりながらお燐は、床にへたり込んだまま動こうとしない。
気持ちは分かるのだ。ホル・ホースは悪党ではあるが、女性の、ましてや子供に手を上げたりは決してしない。ボロボロに痛めつけるなど論外だ。
心の内側が針に突かれたような痛みに襲われた。ドス黒い気分にもなる。

しかし、このこいしの死に顔はどうだろうか。
どこか穏やかで、まるで心地良い夢の中をフワフワ漂っているようでもある。
これが無残にも全身を痛めつけられた少女の、最期の死に顔なのか? それにしては笑っているようにも見える。

(……もしかしたらコイツを看取った奴がいるかもしんねえな。……誰だかはさっぱりわかんねーが)

使い古したカウボーイハットを深く被り直し、ホル・ホースはせめて心の中だけでも少女の死を弔った。
幻想に想いを馳せるように……彼女の末路に、せめて少しの幸せが訪れたことを願って。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

(始末する手間が省けたわね。丁度良かった)

その光景を後ろから見下ろす鴉天狗、ひとり。
射命丸文は、二人のやり取り――正確には古明地こいしの成れの果てを眺めながら、思う。

(残念……残念だったわね、お燐さん。でもこれが現実なのよ)

こいしの死に、心など全く動かされないのが現実だった。どころか、喜んでさえいる。
頬の緩みを決して悟られないよう、誤魔化すように前髪を整えて気持ちを落ち着かせる。

さて、偶然立ち寄った館でこいしが骸を晒していたのは、紛うことなき幸運だ。
死んで当たり前だとすら思う。この娘が我々――文とジョニィに仕出かしたことは忘れるわけもない。
DIOの肉の芽の洗脳を受けていたかもしれない? 関係あるものか。
殺した。直接的ではないにしろ、この少女はジョニィの命を奪いに来たのだ。その罪が、巡り廻って己に跳ね返ってきただけだ。

少女だとか洗脳だとか、そもそもこのゲームにおいては何の意味も持たないひ弱な立場でしかない。
いつ、何処で、誰に死の弾丸が放たれるのか。それは知りようもない。
ゲームに臨む意志・立ち回り・運のみが、参加者全員の命運を握っているのだ。
今日この時、古明地こいしに弾丸が貫通した。事実はただのそれだけであり、そして次に撃たれるのは文自身かもしれない。
だから自分はあの時、ゲームに乗ってやろうと決意したのだ。他の誰よりも死を恐れ、その結末を回避する為に。


これにて文の懸念のひとつは去った。こいしが死んだ以上、承太郎に会う必要も無くなった。
予定は大幅に狂ってしまった。……彼女にとっては多少、良い方向にであるが。

「お燐さん。ホル・ホースさんの仰る通りです。お気持ちは察しますが、早くここから出た方がいいですよ。
 この廃洋館に入ってから、鳥肌が立つほどの妖気を感じます……鴉天狗だけに」

「妖気ィ!? おい射命丸! そんな物騒な気配がこの場所に漂ってるっていうのか!? まさかDIOじゃあねーだろうな!」

「いえ気のせいかもしれませんが。でも、こいしさんを殺した犯人がその辺にまだいる可能性は高いでしょう」

彼女らがこの地に立ち寄ったのはあくまで雨宿り。危険人物が潜んでいるというのならこれ以上この場に留まる必要もない。
古明地こいしの死亡。この情報という一点のみで収穫ものだ。
後は彼女のペットであるお燐がどう行動するか。暴走してこちらに襲い掛かってくれれば後腐れもなく事態は収まる。
正当防衛という免罪符を振りかざし、彼女の持つ遺体を奪って殺せるのだから。


「おい、聞いたかい嬢ちゃん。弔うのは後にしようぜ。今はとにかく……」

「―――き、なぃ……」


ホル・ホースの急かしに一切動こうとしないお燐の口から虚ろげな、言葉とも取れないような何かが漏れる。
こいしに寄り添って項垂れる彼女の様子は、傍から窺えば茫然自失となった者のそれ。
文はそんなお燐を見下ろしながら戦闘態勢を構え、ホル・ホースは状況の悪化を予知し、強引にお燐の首根っこを掴もうとする。


「……出来、ない。こいし様と……会話できないよ……どう、して? こいし様……何処に居るんですか?」


茫然自失を越えて、もはや気狂いだ。
ホル・ホースは何処をも映せないお燐の灰黒い瞳を眺め、彼女にそんな評価を下した。
気の毒にも思うが、彼女に必要なのは時間だ。時間がお燐の容態を解決してくれると信じ、ホル・ホースはひとまずお燐を気絶させ、どこかに運び込もうと拳を握り締めた。


「おかしいよ……“いつも”なら出来るのに……死体なら、あたいの能力で会話できる筈なんだ……」


成り行きを見守っていた文は「おや?」と思う。
お燐の様子は至極普通とは違っていたが、心が壊れたというほど正気を失っているわけでもなさそうだ。
ピンと来た。情報通である文は地獄の火車・火焔猫燐の能力も聞きに及んでいる。

「待ってくださいホル・ホースさん。お燐さん、会話が出来ないというのは?」

不幸な勘違いが起こってしまうより先に、文はすぐさま口を挟んでホル・ホースの行動を制御した。

「…………あたいの能力は『死体を持ち去る程度の能力』だけど、それとは別に霊や死体と会話も出来るんだ。
 今、こいし様の遺体に話し掛けてみた。……でも、駄目なんだよ。どうしてか、うんともすんとも言わない」

俯き、力無い声色で話すお燐は絶望に満ちていたが、自分を見失っているわけではない。
彼女曰く、死体と話すことが出来ない。それは単純に、文のように主催からの制限を受けていると考えるのが普通だ。
尤も、文からすれば好都合。こいしの死体とやらが口など開き、語るに落ちたりなどすれば、彼女と交戦した文にはいかにも都合が良くない。

「死体と会話ぁ~~~? おいお燐、するってえとお前さん、つまりはその……死んだ奴とお話出来るってえのかい? 魂とかと?」

「魂、とも出来るんだけど、何ていうのかな……死体に残ったその相手の『意識の残り香』みたいな感じ、だね。残留思念的な」

「でしたらお燐さん。こいしさんの『魂』とかは今どうなってます? 残り香とやらも含めて全然嗅ぎ取れないんですか?」

文の問いかけにお燐は辛そうに顔を歪めながらも、こいしの死体と向き合い凝視する。

「…………だめ。まるでもぬけの殻だよ。完全に……『空っぽ』みたいだ……」

結果は同じだった。空っぽ……つまりハッキリ『見た』ということだろう。お燐は空洞と化した骸を、確かに『見れた』のか。

「ちょっと聞きたいんですけどお燐さん、それはただ自分の能力に『制限』が掛けられているのとは違うんですか?」

「う~~~~ん…………制限、制限かあ。そう言われればそんな気もするし、でも違うような気もするし……」

お燐の返答は何とも曖昧で、文の疑問に答えてくれる内容ではなかった。
ただ制限であるのならばこの話はここでおしまいだが、もし本当に死者の肉体が完全空っぽだというのならば……

(脳だけでなく、あの主催者は参加者の精神性・霊体にまでネジを打ち込む能力を持っている。
 そもそも参加者ひとりひとりが有す能力の微細な部分まで制限出来るというのは、あまりにも……)

何でもアリだ。
果たしてそんな細かな調整が可能なのか? いっそ完全に能力を制限させる方がまだ現実味がある。
とはいえ文も死者や霊魂に関しては門外漢。その分野の専門家といえば、後は精々白玉楼の西行寺幽々子
キョンシー愛好家の霍青娥も色々知ってそうではあるが、彼女は岸辺露伴が追っている。もしかしたら既にお縄についているのかもしれない。

早々に思考に見切りをつけ、文は現状に意識を向き直す。

「多分、『紙』になら死体でも入るのではないでしょうか? 貴方の猫車はこの会場だと少々露骨過ぎます」

「……そう、だね」

幾分か様子の落ち着いたお燐は、言われるがままにエニグマの紙を取り出し、亡き主の遺体をそっと収めた。
まだまだ割り切れないが、お燐のその性分からしてせめて遺体を横に置いておくことで、彼女の支えにもなるだろう。


「あたいは、大丈夫だからさ。とにかくこの館を出よう――――――」








「――――――闘技『神砂嵐』――――――」








声帯の奥底を震わせながら這い出てきたような、重く神々しくも聞こえる呟き。

その声が鼓膜に届くよりも早く、まず異常を察したのは文。
閉め切った扉のスキマの向こうから感じた、阿修羅が纏う風のオーラが千年天狗の全身を震撼させた。
壁に亀裂が走り、崩壊と同時に瓦礫ごと宙に舞い、互いが互いに喰い合って巨大化していく熾烈なる風の大津波。
集合し、放たれる風に上乗せられた殺気は、この一行では最も力を持つ文をして、何としても『回避』を最優先させる直感を刻み付ける。


「伏せ――――――!」


て下さい、などの警告は全く無意味。
一瞬でそう思わせるほどの夥しい、つむじ風と呼ぶにもあまりに重すぎる『風の砲撃』が、壁を貫通しながらこの部屋を蹂躙した。

「うおォォ!?」
「きゃ……っ!?」

幻想郷最速の鴉天狗は、不意に起こった災害をも置いていくほどに疾い。もとより『風』の探知は、他の誰よりも得手であると自負している。
反射的にホル・ホース、お燐の襟首を掴んで行動に移せたのは、文からすれば余計な無駄時間でしかない。
何よりも御身が大事であった文だが、いつの間にか体が動いていたのは、未だ彼女の心に巣食う『善』が最善の行動を選べたからなのか。

ともあれ文たち三人は、この巨人の一薙ぎを模した空爆という初撃を、奇跡的に無傷で回避することに成功した。


(下手人たちが戻ってきた……くそ! ウカウカしすぎた……とにかく、ここから逃げ―――)


―――られない。巨大な風の大砲はこの場に居る存在の生命を奪うだけでなく、迅速なる逃走をも不可能とさせる意味をも兼ねていた。
窓が備え付けられた壁際……つまりは、唯一外へと抜けられる壁の一面が天井ごと崩壊させられ、少なくともこの部屋から屋外へ脱出することは出来なくなってしまった。

瓦礫の土煙に塗れ、文たちはなす術なく襲撃者と対面する。厄介なことに相手は一人ではなかった。


「申し訳ありませぬエシディシ様。少々すばしっこいネズミ三匹のようです」

「はっはァ~~~お前の神砂嵐を避けたか! なるほど少しは楽しめそうだ! 数も……こちらと同じ『三匹』だしなァ」

「……」


柱だ。
巨大な三本の柱が立ちふさがっていた。
どの男もいでたちは似通っており、異様な雰囲気を醸しだしている。
思わず文の全身に身震いが走る。彼ら三人とも、人間ではない。天狗社会を上から支配する『鬼』の威圧にも酷似したそれ。
妖怪の持つ直感とも言うべきか、瞬間的に力量の差を感じ取る。相手が鬼であるならば、天狗の文に勝機はない。三人相手なら尚更だ。

「な、な、な、何だァ~~テメーらは!」

「その角……まさか鬼!? もしやアンタたちがこいし様を……ッ!」

ホル・ホースが皇帝を構え、お燐は震えながらも猫爪を尖らせる。
文を含む三人ともが戦闘態勢に入るも、その背に氷柱でも突き刺されたかのような底冷えた恐怖が戦慄となり、襲う。

まず勝てるとは思わない。見れば相手には、先程の恐ろしい竜巻を射出できそうな武装が一切見られない。
支給品の類でないならばスタンドか。だがそのヴィジョンも今のところ確認できない。
文はスタンドには詳しくないが、スタンドにしては単純な火力のケタが段違いにも思える。
まさか本当に『鬼』なのか。しかし幻想郷にこんな鬼がいるなど、それこそ聞いたこともない。

(逃げましょう皆さん。これ、ちょっと洒落にならないです)

(たりめーだぜッ! お燐、変に刺激するなよ!)

(フー! フー!)

生命の防衛反応か、仇を前にした興奮か、お燐は生来の化け猫の血を騒ぎ立てて毛を逆立たせる。
その姿を見てなお、現れた大男たちは余裕を崩さない。


「ワムウ。サンタナ。お前たちは『誰』をやる?」

「最初に飛び退いたあの者。疾風のように素早いスピードを持つようです。……このワムウにお任せを」

「…………どこからか拳銃を発現させたあの男。スタンド使い、みたいです。……興味、ございます」

「じゃあ~俺はあの震える子猫ちゃんだなァ! 体は万全じゃねえが、丁度良いハンデだ」


裂かれた目を向けてジッと構える男。
顎に手を当てニヤニヤと余裕ぶる男。
黙し、ただ不気味にこちらを睨む男。

三者三様の、それでいてそのどれもが卓越した圧威を携える優美なる強者。
一人一殺を謳う彼ら三人と、碌な信頼も築けていないこちらの三人では勝負にもならない。
否。これから行われるのは勝負などではない。血肉をしゃぶり尽くされるかのような凄惨なる一方的な虐殺だ。


「ハア!!」


機先を制するべく第一に動いたのは、やはり素早さ最高値の文だ。
風を操り、部屋中を覆うほどに飛び舞う土煙によっての撹乱。こんな目潰しがどこまで通用するかも分からないが、取れるコマンドなど逃げの一手でしかない。

「お、お? おぉ?? 迷いなく逃げに入るか。いいぜ、鬼ごっこだ」

最も余裕ぶっていた首領格の大男が嘲る。
舐めきっている。それは間違いなく自信の裏返しでもあるが、文たちからしたらありがたい限りだ。


射命丸文――もとい鴉天狗という種族は、根本的に縦社会という枠組みの中層に根を張るしかない生き物。
有り体に言うなら、下を見下し、上に媚びへつらって集団の歯車を形成してきた者たちが彼女である。
種の特性とでもいう、そういった環境で永きを生きてきた文は、その経験の為か初見相手の分析・観察に長けていた。
長年、上司の鬼たちの顔色を窺ってきた文である。その彼女が一目にて『格上』を判じる程、敵の肉体一個一個に蓄積されたキャパシティが並ではないのだ。

一言で言えば『シラフの鬼』。
酔った方が強い鬼も多いが、つまりは我らを殺す気満々でいる鬼が三体も雁首そろえて襲い掛かってきているのだ。
天狗でなくとも目を背けたくなるような絶望感。弾幕ごっこならともかく、これでは間違っても勝とうなんて思わない。

「俺も勝手にやらせてもらうからワムウよ。お前たちも好きなようにやっていいぜ。カーズも今頃『向こうのヤツ』と遊んでるだろう」

土煙の中から、聞きたくもない単語を聞いてしまった。どうやら同クラスらしき敵が他にもまだ居るときた。
崩落した天井からリビングの上階に逃げ込めば、そこから外へと脱出できる。
屋内では捕まってしまう。大空を自由に飛び交う鴉天狗は、屋外でこそ『最速』と云われるその力が発揮できる。

もうホル・ホースもお燐も知ったことではない。少なくとも一度は彼らを救ってやったのだ。後は自分の身で何とかして欲しい。
そして出来れば、お燐の身体に隠された遺体だけは何とか回収したいものだ。
文はあくまで自己願望の為だけに、お燐の無事を心で祈りながら、その黒翼を羽ばたかせようと地面を踏み込む。


(…………『向こうのヤツ』?)


エシディシと呼ばれた男の一言が、心の隅で引っかかりつつも。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

『ホル・ホース』
【昼】D-3 廃洋館 廊下


(ヤバい! ヤバい!! ヤバい!!! アイツらは“超ヤバい”ッ!! クソッタレがコンチクショー!!)


何かに引き摺り込まれた感覚と共に一瞬視界が暗転した後、気付けば己の身体は粉塵塗れ。何が起こったかを把握するのに数秒を費やした。
ホル・ホースが今まで感じたことのない悪寒がただちに生命の危険として脳に伝わり、この館からの逃亡を目指す。
崩壊した壁際の窓からはもう逃げられない。襲撃者たちが現れたリビングの入り口とは別の脱出口、隣室の客間に備えられた扉から出るしかなかった。
煙の中ゆえに何度も物や壁にぶつかりかけたが、構わずに一目散と足を駆ける。
客室から出ればそこは館の廊下。身を隠すスペースなど当然無く、無駄に長いこの一本道を抜け出るのに果たして掛かる時間は何秒か。


(クッソ! お燐や天狗のねーちゃんと剥がされちまった!)


向こうに見える扉へと辿り着くまでのたった数秒。ホル・ホースの脳裏にはまたあの光景が蘇る。
女を置き去りにし、一人必死に逃げ出して命に喰らい付こうとする姿。決別したつもりだった、情けない過去の残像だ。
だが事実、とても連れを気にする暇などありはしなかった。固まって逃げるよりかは、単独でバラけた方が逃走成功率も上がるという判断もあった。

空の飛べる文はまだいい。主を殺されて正常な判断を失っていたお燐を置いてきてしまったことが、ホル・ホースをまたも苦しめている。
彼女は逃げ切れているだろうか。不幸中の幸いか、あの三人が一人ずつこちらを捕まえようとしていたのはホル・ホース達にとっても逃げやすい。


―――扉まで十五メートル。


響子の時から全く進歩していないではないか。
奴ら三人は怪物だ。とても人間とは思えない。DIOと同じ吸血鬼か何か。ホル・ホースの直感がそう告げる。
だとしたら置いてきたお燐が無事に逃げ切れる確率は限りなくゼロだろう。もう直にか、既にか、彼女は死ぬ。
そうなれば奇跡的にホル・ホースがここから逃げ切れたとしても、彼はもう一度あの後悔の念に襲われるだろう。
もう二度と後悔だけはやらないと、そう決めた己の指針を捻じ曲げることになってしまう。


―――扉まで十メートル。


戻るなら今しかない。
心の地図に従え。今ここで後ろを振り返ること、それは前進であるはずだ。
誓った決意を嘘にしない為にも、ここで来た道を戻る事こそが男にとって前を向くことであるのだ。
障害があるなら、吹き飛ばせ。蹴り落とせ。撃ち殺せ。


―――扉まで五メートル。


この狭い廊下を戻るというのなら、それは戦いの合図だ。
確か自分に興味があるとか言っていた大男の名は、サンタナと呼ばれていた。
後ろを振り向くのが恐ろしい。あの化け物は、きっとすぐ背中にまで飛び掛ってきている。
もし戦うのなら振り向きざまか。この廊下で放たれた銃を避け切ることは普通では至難だ。
己のスタンド『皇帝』。暗殺特化の、決して正面からのタイマンには向かない能力。


―――扉まで、ゼロ。


ノブに手を掛けたと同時、スイッチが入ったようにホル・ホースの頭は急速に冷えていく。
腕には自信がある。初撃で仕留められなければ、恐らく次の弾丸を撃つ間もなく殺されるだろう。
ただの一発だ。曲がりくねる弾道を脳天にブチかまし、瞬殺してみせる。自分にはそれが出来る。
冴えゆく脳とは裏腹に、心は昂揚していく。今や汗の一滴もかいていない。

ホル・ホースがドアノブに手を掛け、逡巡を開始してからコンマ二秒ほど。
その間、彼の中に凄まじい勢いで恐怖と、冷静と、過去と、自信と、仮想と、決意とが順に流れ。

そして、翻ったと同時に『皇帝』を構えた。
いつもやってきたように、しかしその瞬間の銃を構え終えるまでの技巧は、これまでのどの実践よりも卓越して抜き放たれた。


目を覆ったのは、まず闇。
違う。それは影だった。
すぐ背後まで迫っていた化け物の、跳躍した影がホル・ホースの顔を覆った。

逆光であり、シルエットにもなっていたその巨躯から生み出された影は。
引き金を引くホル・ホースの指を。

ほんの……僅かだけ、止めてしまった。



「――――――う、」



美しい。


それは、大空を舞い翔ける、大鷲の羽ばたきか。
はたまた、獲物へと跳んだ、獅子のたてがみか。
あるいは、海面から現れた、白鯨の潮吹きか。


眼前に迫り来るそのシルエットを一目見て。

愚かにも、ホル・ホースはそんな場違いな感想を抱いてしまった。

男の、一世一代の早撃ちショーは。


華麗で、鮮やかなる極技は。


何処にも撃ち鳴らされることなく。


誰にも披露されることもなく。




「――――――サンタナ。それがお前を殺した、“恐怖”の名だ」




代わりに、化け物の口からポツリと漏れた声の響きと。


ホル・ホースの頭蓋が捻り潰された、ぐしゃりという音だけが。


余韻として、後に残った。




【ホル・ホース@ジョジョの奇妙な冒険 第3部】 死亡
【残り 57/90】
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『火焔猫燐』
【昼】D-3 廃洋館 リビングルーム


射命丸文が、風を操って部屋中に土煙を舞わせた。
それはこの死の館から『逃げろ』という合図。しかし彼女――お燐は、未だ脚を動かすことが出来ずにいる。
巨大な殺気を突きつけられた恐怖からか、こいしを殺された怒りからか、あるいは両方だろう。
何かに引き摺り込まれた感覚があった気がしたが、この灰被りの視界では何が何やらわからない。
しばらくその場で毛を逆立てていると、次第に彼女の周りを漂う煙幕も晴れてきた。


「どうしたァ? 小娘、お前は逃げないのか。せっかく十秒くらいは待っててやろうと思ったが」


一面の崩壊した部屋に残されたのはお燐と、相手の首領格の大男のみ。
気配からしてホル・ホースと文はお燐を置き去り、それぞれ別方向に逃亡したらしい。だがそれを冷酷だとは思わない。

逃げ出す好機を自ら捨てたのは自分自身だ。
それにある意味では、望んだ結果ともいえた。


「アンタが、こいし様を殺したの」

「クックック……! そうだと言ったら……どうするね? なァ小娘」


巨木の如き腕を組ませ、男はこちらを下に見て嘲笑う。
毛筋がピンと張る。大妖を前にしたような、それほどの妖気。
たとえば『鬼』。酒瓶片手に旧地獄街をたむろする彼らをお燐はよく目撃するし、世間話も日常的に行う。
鬼とは案外気さくだ。常時酒に酔っているせいかもしれないし、強者の風格がその余裕を生み出しているせいかもしれない。
そういう意味では、目の前に佇む不気味な大男もまた『鬼』とはそう変わらない。

だが違う。
鬼は卑怯を好まない。嘘を毛嫌う。策を弄さず、正々堂々を求む。
相手の大男はそのどれとも一致しない、鬼とは対極の性格をしているとお燐には思えた。

こいし様はきっと、卑怯にも、惨く、嬲られるように、いたぶられながら、何度も何度も苦痛を味わされて、殺された。
あたいの家族ともいえる、人を。
許せない。こんな外道が、のうのうと笑っていることが許せない。


「なァ、お前も妖怪なのだろう? 教えてくれよ。一体何の妖怪なんだ? それに気のせいか、耳が四つ付いてないか? ン?」

「……火車ってのは死体を持ち去る妖怪さ。だけど生きてる相手を自分から死体に変えてまで運ぶなんてことは普通やらないし、あたいの趣味じゃない。
 でも、そのポリシーもどうやら今日までさね……!」


そこからは、全てが加速的に動いた。
お燐の激情を体現するかのように、周囲に浮き出た青白い炎が彼女を取り巻き、そして。


「アンタの死体を持ち帰って、地獄の大釜に投げ入れてやるッ! ―――妖怪『火焔の車輪』!!」


怨霊の炎がひとつ、ふたつ、よっつ、やっつ。
見る見るうちに倍、二倍、四倍、八倍と増していき、それらはお燐の周りを高速回転する大車輪と化した。
飛び散る無数の火の粉が部屋の温度を爆速に上昇させ、妖怪車の燃料となって相手に牙を剥く。


「お! 何だ何だお前も炎使いかァ~~!? 多いなこの幻想郷には!」


ただの人間ならば見るだけで慄き、慌てて道を譲るであろう炎の大車輪。
この男はそれを見てもなお笑う。妖怪車の突撃に真正面からぶつかって来ようというのだ。

凡そ全ての生物は生まれながらにして、火を恐怖の対象として認識している。それは紛うことなき生者の本能なのだ。
目を瞑りたくもなるだろうその火焔の回転に、男はまばたきひとつせず突っ込んできた。
人の、いや生物の本来が持つ拒絶という防衛本能が、この男には概念からすっぽりと抜け落ちているようであった。


「だがッ! この俺にィィィ!! 『炎』で戦うとは身の程知らずもいい所よのォォ~~~~~ッ!!」


高らかに叫び、男の皮膚をウネウネと蠢きながら針鼠の様に突き破ってきたのは『血管』。
数にして十数にもなるその気味の悪いホースから溢れるは、男の『血液』。
500度まで上昇した男の沸騰血液が周囲を飛び散りながら、お燐の目前まで迫る。


「な、なにコイツ……っ!?」

「俺は『熱』を操る流法の使い手、炎のエシディシ! 炎熱車輪対決といくかァァーーーーーッ!!」


お燐の放った妖怪『火焔の車輪』を物ともせずに、エシディシは地を蹴り、宙を舞った。
その華麗な体技から成る男の妙技『怪焔王大車獄の流法』が、お燐の火焔車輪のスキマを潜り抜けて放たれる。
火の輪潜りなどという生易しい曲芸ではない。体の骨格を変えながら器用に宙を回るエシディシに、お燐の弾幕はひと掠りもしない。
やがて地獄の火輪を完全に掻い潜ったエシディシは、更に体を縦回転させながら血管を伸ばしてゆき、そしてとうとう。


「あァアッ!? な、にこれ……あ、熱い……ッ!」

「ほォ~~ら捕らえたァーーーーー!!」


ミミズのようにグネグネと曲がりくねるエシディシの血管が、お燐の身体を縛る。
化け物の駆使する大車輪芸が、本場の火焔車輪を突き破ったのだ。


「あ―――ああああぁぁああァァアアアアああぁぁアアァァァあああああああぁあ!?!?!!?」


ジュウジュウと皮膚の溶ける怪音が、皮膚の焦げる悪臭が、悶え狂うような熱さに苦しむ絶叫が。

お燐の生命を瞬く間に溶かし尽くしていった。


「ククク……! 同じ500度でも気体と液体の熱伝導は天地の差よ。
 俺の血液はお前のチンケな宴会芸とはワケが違う。死体になるのはお前の方だったな、小娘」


惚れ惚れする体技を魅せつけ地に着地したエシディシは、自身の背から伸びる血管に縛られたお燐を見上げた。
ポタリポタリと雫のように地面に伝うのは、エシディシのマグマのように煮え滾る血液と……お燐の溶けゆく皮膚。

想像を絶する苦痛と恐怖だった。
永く生き、妖怪化し、火車としてさとりに仕え続ける彼女も、これほどまでに苦しい炎は初めて味わう。
自分を笑いながら見上げる化け物の姿は、鬼などより遥かに恐ろしかった。
もはや後悔のみが残留し、彼女はここで果てるのだ。

家族の為に戦う決意も、何一つ達成されず。
主の命を奪った怨敵に、仇討ちすら出来ず。

妖怪・火焔猫燐は、化け物の餌とされる。



「――――――あ、ギ、ァ……かは…………ふぅー……ふぅー…………っ――――――」



悔しさの涙も、蒸発して霧消する。
喉も焼かれ、声も上げられない。
一矢報いることなど、夢のまた夢でしかなかった。


こうして少女は骸となることも許されず、その柔らかな肌の全面を煮立たされ、ぐずぐずの肉塊へと変えられて、



無残にも殺された。



【火焔猫燐@東方地霊殿】 死亡
【残り 57/90】
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『射命丸文』
【昼】D-3 廃洋館 外庭


初速を繰り出す前に、下手を打った。
飛び立つ直前、周囲眩ませる土煙の中で何かに足を躓かせて思わず転げてしまったのだ。
転げると同時に何かに引き摺り込まれる感覚があった気がしないでもないが、今は何を置いても逃げが第一。
俊足の翼をはためかせ、文は弾丸かと見紛う速度で土煙を脱出し、崩壊したリビングの上階に駆け込んだ。
二階からなら容易く窓を破り、屋外へと出れる。そうなれば制空権を支配できる文に速度の軍配が上がるだろう。

「ハァ!」

無骨に窓を蹴破り、紫外線を浴びる。外では未だ雨が降り続くも、この程度の雨天で飛行に影響が出るほどやわな翼はしていない。
タンッと軽く床を蹴り、上階から館の外へと飛び出す。脱出は何事もなく成功した。

だが、油断など出来ない。
自分を追うなどと宣いた、あの風を切り裂く大男。もし奴が来るのであれば、とんでもない範囲と火力を内包した遠隔狙撃を撃たれかねない。
背後の警戒の為、飛翔しながら後方を振り返る。あの大男の姿は―――


(…………居ない?)


少なくとも目視できる範囲に、あの目立つ巨体は確認できない。崩壊した瓦礫の山が、館の壁を形作っているだけだ。
速度の違いを悟り、諦めてただちに別のターゲットを仕留めに向かったか。
そうであればホル・ホースらには気の毒だが、このまま館から悠々自適に遠ざからせてもらう。
恐らくもう二度と近付こうとも思わないだろう、こんな悪鬼羅刹が住まう怪物の巣窟などに。



――――――ふわっ



視点を前方に戻しかけた文の黒髪に、ほんのばかし僅かな―――
風を操る文だからこそ気付けた、僅かな『乱れ』が。


(……気流が――――――?)


乱れている。気流が、空気が、風が、大気を乱している。
つい先程も味わった、風が起こした違和感。



「――――――闘技『神砂嵐』」



ゾクリ―――!



届いた風の乱れは強烈な殺気に化け、文を再び戦慄の渦へと巻き込んだ。
冷や汗を振り撒きながらバッと振り返った文は、今度こそ目撃する。
何も無い空間に集束する、暴力のみを凝縮させた風の火薬が。
ライフリングから回転炸裂した弾丸のように―――いや、此れは大砲である。

風の大砲が無慈悲な轟音を振り撒き、“誰も居ない場所”から爆裂した。


(ど、何処から―――!? しまっ デカっ―― 速っ―― 避っ―――)


周囲の大気を巻き込みながら、次第に次第に密度を高めた風大砲が、飛翔する文目掛けて一直線に放たれる。
完全に不意を打たれた文は行動を遅らせるも、自身の行動を死ぬ気で回避一点のみに注いだ。

だが、アレは大き過ぎる。
あの圧倒的な破壊空間に呑まれたら最後、内臓をミキサーに掛けられた様にグチャグチャにすり潰されるだろう。
一瞬、死を予期した文は全身全霊で飛翔方向を真下に転向。アレは絶対に喰らってはマズイ。


(逃げ――――――!)


耳を劈く風切り音は、死神が鎌を振るう不吉な音のようだ。
間もなく頭上を通り過ぎる大嵐は、間一髪で―――文の片翼を殺いだ。


「あッ――――――!」


直撃は免れるも、体勢の崩壊は免れようもない。
その余波のみでザクザクと千切り取られる我が身の翼を憂う暇などない。
生まれて初めて空中から叩き落された屈辱に身を震わせる余裕などない。

クルクルと回転しながら地面に落ちる文の耳に、豪快な勢いで草を踏みしめ駆け抜ける音が届いた。
その方向の先に、“何か”がいる。あの化け物が追撃してくる気配だ。
だが音の先には、先と同じで何も見えない。何も見えないが―――何か来るッ!


「か、ぜ…………風を纏って、プロテクターに…………」


墜落してゆく文は全てを察した。
よく見れば何か居ると思われる空間が、雨によって少しだけ表面が歪んでいるのだ。
その歪みの正体が、体から吹き荒れる空気のスーツ――『光の屈折現象』を利用した、透明な風の鎧なのだと気付いた瞬間。

空気の歪みは、既に落下途中の文の眼前にまで達していた。


「う―――ああああああああああああああッ!!!!」


咆哮と共に、文は最後の攻撃に賭けた。
回転落下の反動を利用した、風を纏った本場の旋風脚―――『天狗のダウンバースト』。
鴉天狗の強靭な体と風を味方につけた、大木をも薙ぎ倒す本気の蹴りだ。
最大風速90m/sを優に超えるその急降下キックが、人型を形成する『歪み』の脳天を一点集中で狙う。


刹那の交差。
歪む風の鎧のスキマに、一瞬だけ人の顔を映し見た。


「おれは『風』の流法を操るワムウ! 娘、そいつがお前の操る『風のプロテクター』か!
 悪くはないが、おれからすれば蚊トンボの羽ばたきが如き! そのまま落ちるがいいッ!」



バキリ!



嫌な音が、文の鼓膜を揺らす。
意識が飛びそうな痛みに声を漏らす暇も無く。
文とワムウの交差した蹴りが、一陣の旋風までを生み。

そして、砕かれた文の右足から先が消失した。
風の鎧を身に着けただけの文では、『肉の鎧』である闇の一族の特異体質を貫くことが出来なかった。

ぶつかり合った体技の果てに、文の右足の骨は粉砕され、一瞬にて『喰われた』。
ワムウの皮膚に取り込まれるように飲まれた右足は、そのまま男の栄養分となり。

文は頭から地面に激しく突撃し、意識を失った。



「……古明地こいしの件で、許しを請うつもりなどない。あの娘は最期に小さくも気高い『強さ』を見せた。
 ―――おれがお前に見たのは、保身に脳を焼かれ、一目散に逃げ惑う情けない背中だけだったな」



もっとも今のおれに不要な視界など映らないがな……と、横たわる文を見下ろし、つまらなそうに息を吐くワムウ。
雨天とはいえ、その体質のせいで屋外へと迂闊に出られない彼は、迷わず『風のプロテクター』を纏い文を追った。
戦おうともせず空へ逃げた相手だ。透明化からの神砂嵐の連撃を、卑怯などとは一切思わない。
本来は逃げる女を追撃するなど戦士である彼の望む所業ではないが、主からの命でもあり、逃がせば後々面倒な事態にもなりかねない。


そして嘆息したワムウは彼女の全身を、千切った片翼を残して自らの身体に取り込み『消化』し―――その場を後に館へと戻っていったのだった。



【射命丸文@東方風神録】 死亡
【残り 57/90】
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パチュリー・ノーレッジ
【昼】D-3 廃洋館 ミュージックホール


「あ……くっ! ―――つ、月符『サイレントセレナ』!」


五行思想に加えて日と月の二種類、計七つの属性魔法を使役するパチュリー・ノーレッジという魔法使いが攻撃に選んだのは月符だ。
太陰、月、陰陽の陰の象徴。『受動と防御』を示す月の魔法陣が彼女の足元に展開される。
そこから形成されし魔法は、輝く青白い光の矢。静寂なる月の女神が射抜くその矢は、一寸の光陰とも云うべき僅かな時間で、放たれた相手の長髪の大男に射し迫って流された。
しかしその狙いは攻撃に非ず。弾幕が放つ月の光が如く輝かしい月光が、相手の目を眩ませる副次的効果こそパチュリーの狙い所だ。


「―――フン。目くらましか、くだらん」


技を放たれた長髪の男は一言に吐き出し、隆々なるその腕で防御するかのように交差し、目の前に構えた。
その腕から突き出たサーベルの刀身が、サイレントセレナの放つ強力な月光を反射し、更に猛然と光を放ってパチュリーの目を襲う。


「きゃ……っ!? な、なによ……それ……!」

「オレは『光』の流法を操るカーズ! 貴様ら虫ケラの放つ光なぞ、まさにホタル以下よ! 転がってろッ!」


光の矢を悠々と避わしながら、カーズは目も眩む極光を倍増しでパチュリーに反射させた。
瞼の裏にまで焼き付くような強烈な光線を浴び、思わず膝を突いてしまう。


男――カーズはまさに人外の化け物ともいうべき妖艶な威光を輝かせていた。


事の始まりは、こんな廃洋館に立ち寄ったことが全ての悪運である。
藤原妹紅からの逃亡を終え、待ち構えるように見えてきたのがこの古い館だ。
進行ルート上、ここに立ち寄ることも予定の上であったし、何より調査するべき理由があったのだ。

館の周りにいくつか燃え尽きた『お札』が散らばっていた。それを博麗の巫女が使用する霊撃の札とみたパチュリーたち一行は、館への侵入を行わざるを得なかったのだ。
かつては霊夢が咲夜や承太郎相手に大暴れした痕跡。彼女の探索および拉致を目論むパチュリーらが、これを見逃すわけにもいかない。
ダメージを負った吉良とぬえは外に置いてきた。あの二人を残すのは不安ではあったが、現状パチュリーだけが比較的万全に動き回れるという理由からだ。

が、結果的にその判断は失敗であった。理由など、この現状を見れば明白だろう。


(圧倒的な『妖気』……まさかこんな鬼みたいな奴が潜んでたなんて……!)


窓から忍ぶように御身ひとつで侵入したパチュリーが遭遇したのは、柱の男が首領『カーズ』。
出会い頭で「支給品を見せてみろ」などとふざけた態度を見せるので、すぐさま逃亡を図った途端に襲われたのだ。
勿論話など通じる筈もなく、こうしてなす術なくあしらわれた。こうなれば多少騒がしくとも吉良たちを連れるべきだったか。


「天下の魔法使いを……舐めないで欲しいわね……! 日符『ロイヤル―――」

「パ~チュリィ~~~~~。無駄な抵抗などやめとけやめとけ! 私は貴様を害するつもりなどないのだ。“今のところは”、な」


目をやられながらも反撃の手段として日符『ロイヤルフレア』を撃とうとした判断は、あるいは正解かもしれない。
ロイヤルフレアはパチュリーの大技だ。しかしそれを除いても、彼ら闇の一族に対抗する術に『太陽』を象徴するこの魔法を選んだのは、考えられる限りでは最適解でもある。

しかしその詠唱も中断させられては意味がない。
この男がたった今呼んだ自分の名前。自己紹介を交わした覚えのないパチュリーの脳内に疑問が湧く。

「ん~~~? フ・シ・ギ・かァ? “何故この男、私の名前を知っているの”と、そう言いたげな顔だなパチュリー?」

ほくそ笑むカーズ。彼は以前に一度、パチュリーと夢美に近付き会話を盗み聞きしていたが、当の本人はその事実を知る由もない。
困惑するパチュリーを無視し、カーズは放り出された彼女のディパックを我が物顔で漁り始めた。

「ちょっと……! 人の物、勝手に漁らな―――」

「黙れ下等生物が。次ナメた口をきいてみろ。その柔らかな肌をベリベリ引き剥がして絨毯にでも仕立ててやる」

首元に突きつけられる、男の腕から伸びた異様に鋭利な刃。
この窮地を脱する詠唱のひとつでも唱えようと試みれば、その瞬間に自分の首は床に転がるだろう。

万事休す。
心から、それを痛感した。
ひょろひょろもやしの自分にしてはかなり良くやった方だと、観念もした。


「勘違いをするんじゃあない。余計な気を起こさなければ、私も別に何もしやしない。……有用な支給品は頂くがな」

「…………何が狙い?」

「情報だ。パチュリーよ、キサマ“どこまで考察を進めている”? いや、聞くまい。確かメモがあった筈だからな」


見えてきた。この男、何故か自分たちの動向を幾らか掴んでいる。どこかで情報が漏れていたのだ。
確かにパチュリーメモには現時点での実験過程を記述しているが、ハッキリ言ってまだまだ分からない事だらけだ。
この男はどうやらこれまで考察してきた全情報の開示を求めるようだが、大した結果が得られないと知るや、最悪殺されるかもしれない。

「ん、あったぞメモが。………………ふむ。魔力、か。……………スタンドも用いての実験」

真剣に実験メモを眺めるカーズの姿は、研究者らしい本質を窺えるそれではあったが、パチュリーからすればたまったものではない。
厳めしい有名教授に論文を評してもらう出来の悪い生徒……その100倍は気が気でない心境だ。冷や汗どころではない。

「なるほどな……興味深くはあるが、そういえば紙の中に…………そう、こいつか」

次にカーズがパチュリーの荷物から取り出したのは、墓から暴き出した広瀬康一の生首。
ゴロンと放り投げられた彼の頭部が、まるで恨めしい目で見るかのようにパチュリーを睨んだ。

「ククク……! 研究気質の考える事はどこも同じだなァ? コイツをこれから解剖しようと言うのだろう?」

整わない顔色でカーズを精一杯に睨みつけ、パチュリーは出方を窺う。
生殺与奪を握られた現状では、全ての決定権がこの男の掌にあるのだ。屈辱だが、何も出来ない。



「―――だが遅い。こんなチンタラ考察してるようじゃあ『不合格』だぞ、パチュリー・ノーレッジよ」



ズブり。



「――――――え」



気付けば、男の腕が魔法使いの少女の胸を―――貫いていた。


「…………あ、……え…、っ…………?」


内臓がまとめて侵食され、気持ちの悪い感覚が全身の血管を高速で巡る。

声が、でない。






「――――――どうした? 痛むか? だとしたらそれは……『思い込み』だ。よく見るがいい」






…………ハッ!?

貫かれたと思った己の胸には、異常など何処にも見て取れない。……穴が開けたお気に入りの服以外。


「ぁ……けほっゲホっ! い、一体、何を……っ!?」

「今、お前の心臓のすぐ隣に毒薬入りリング……名付けて『死の結婚指輪』を仕掛けた。外部から外そうとすれば直ちに毒が漏れ、お前は即死するだろう」

「毒、薬……!」

「リミットはこれより『十二時間後』! すなわち『第四回放送』を超えた時間にリングが溶解し始める設定を施した!
 その時までに脳内爆弾解除に至る全ての不安を排除し、実験を完全成功させて再びこの私の元に来いッ! さもなければ……」


―――死ぬぞ。


下卑た笑みで耳元にそう囁くこの悪魔は、とんでもない時限爆弾をパチュリーに仕掛けてしまった。
ことごとく『爆弾』に縁のある彼女の不幸の元凶は、もしやあの吉良が発端なのではないか。そう思いたくもなってくる。
しかしまさか自らが爆弾そのものになるとは。これではまるであのキラークイーンに触れられたような―――

(いや、そうよ。私達にはキラークイーンがある……! 吉影の力を借りてこのリングを破壊すれば……)

「吉良という男のスタンドで内部からリングを破壊しようと考えているな? パチュリィ~~?
 始めに言っておく……やめた方がいい。スタンドで触れた瞬間、漏れ出した毒はすぐに心臓へと吐き出される」

心の内を読まれた。カーズは実験メモの内容から、吉良のスタンドを知ってしまったのだ。
それを踏まえた上で、このような非道を行っている。なんて計算高い男で、おまけに性格の悪い奴だと、パチュリーは歯噛みした。

「つまりだ……例え会場から脱出する手段を講じても、私の持つ解毒薬が無ければどちみち貴様は腐れ果てるという事だ。
 そうなるのが嫌なら、四回放送時に再びこの廃洋館に来い。もしその時この場を不在にしてた場合、そっちから死ぬ気で探し出せ。
 私の望む結果を持って来てくれるなら解毒剤を渡してやる」

嘘だ。
相手の嘘の気を掴み取れるパチュリーでなくとも、コイツの全身から溢れ出るオーラが大嘘吐きのそれだとすぐに分かる。
この時限爆弾を止める術は今のところ……コイツを抹殺する以外に無い。つまりは現状不可能だ。
『死の結婚指輪』などという洒落の利いたネーミングセンス、レミィあたりとは気が合いそうだなどと、皮肉めいた自虐まで浮かんでくる。

絶望に包まれるパチュリーを見て気分を良くしたのか、カーズはニヤリともうひと笑いすると、ディパックからひとつだけ取り出した。


「これは『スタンドDISC』か? 丁度いい、こいつも探していた所だ。これだけ貰っておこうか」


正確にはそれは『F・Fの記憶DISC』であり、能力を会得できる種の物ではない。
パチュリーはここに来るまでとうに中身を見ている為、大した損失ではない。それでもこの有無を言わさず人様の物品を奪っていくその横暴は、どこぞの白黒魔法使いだけで充分だ。


心臓に纏わり付く不快な違和感に嫌悪していると、更なる絶望の声がパチュリーに届いた。


「カーズ、様……侵入者の一人を始末、しました」


突如ホールの入り口から現れた、これまた大男。
二本角のサンタナがのそりと姿を現した。その腕に、首の潰れた人間の死体を持って引き摺りながら。

「ほう……最初はお前だったかサンタナ。思ったよりも早かったな」

物珍しそうにDISCの裏表を翻して観察するカーズに、サンタナと呼ばれた第二の化け物が従順な姿勢で報告する。
ゆらゆら幽鬼の如く、死体を携えて歩いてくるその男もまた超人的な化け物。
この状況からどう脱するかを、目まぐるしい速度で思案していたパチュリーには全く嬉しくない誤算である。


(仲間……!? それに、私の他にも侵入者が居たの……!?)


サンタナは静かにカーズの傍まで近付くと、手に持っていた男――ホル・ホースの死体を捧げるように床に寝かせ、自分も一歩引く。

全ての平穏を死骨の沼にまで引きずり込むかのような、虚無に潜む鬼気を宿した瞳――鬼人であった。

心臓を握り潰されるような悪寒に、もはや喘息すら引っ込んだ。

パチュリーの誤算ともいえる絶望は、それだけには終わらない。


「おう此処だったかカーズ、こっちは終わったぜ。火車とかいうしょうもない雑魚相手だったがな。クールダウンにもなりゃしねえ」


サンタナが現れてから三十秒も経たずして現れた、これまた筋骨隆々な大男。
彼は先のサンタナと同じく、腕に『ナニカ』を担いでズンズンと歩いてきた。
グチャグチャの肉塊を形成した、服の切れ端が引っ付いていることから先程までは人の形をしていたであろう、ナニカだ。
男の台詞からその肉塊の正体は、あの地獄の火車妖怪の彼女であったことが何とか予想できる程度。


(火焔猫……燐……あの娘も…………)


登場した第三の化け物も、サンタナの隣まで並び立ち、ホルホースの死体の上に乱暴な手つきでその肉塊を放る。

この世の希望を煉獄の焔を以て灰にし尽くすような、恐ろしく混沌に満ちた狂気を宿した瞳――狂人であった。

鼻腔を刺激する異臭に、思わずパチュリーは吐き気と共に顔を背けた。


「エシディシも終わったか。ならば後は―――」


最後の絶望が、重い足音と共に届けられる。


「カーズ様、エシディシ様。……遅れて申し訳ありませぬ。風を操る侵入者は何事も無く、このワムウが完全に始末いたしました」


そしてワムウと名乗った、第四の化け物の登場に……パチュリーはいよいよ目の前が真っ暗となった。
四人目の男もまた、張り鍛えられた肉体を輝かせる巨躯。
例に漏れずその手に持つは、今度は死体……とは少し違う。
鴉のような黒い翼。かつては双方揃えて美麗であっただろう、人並み程に大きい翼の持ち主に……パチュリーは幾つか心当たりもある。
風を操る、と言ったところから恐らく……


(射命丸、文……彼女まで…………)


ワムウはエシディシと呼ばれる男の傍に迅速に並び立ち、それまでと同じ様に死体の一部……片翼を放り出した。

降り掛かる天光を残らず薙ぎ倒すような、暴の極みを漲らせる闘気を宿した瞳――武人であった。

男に触れればそれだけで切り刻まれそうな圧倒的な暴威が、錯覚となってパチュリーの時間を完全に止めた。



「――さて、パチュリー・ノーレッジよ。
 ――これが私の同胞だ。
 ――これが我らの暴力だ。
 ――これがこのバトルロワイヤルを征する最強の四柱だ。
 ――貴様ら下等生物がどれほど集まろうと、我々の前では……所詮は吹けば消し飛ぶ、藁の砦よ」



男は。

闇に漂う死と絶望とを具現化したような、全生命を蹂躙せんとする邪気を宿した瞳――邪人であった。

カーズという名を冠した邪鬼が、嘲りながらパチュリーに囁く。

彼女の平穏と。
彼女の希望と。
彼女の天光と。
彼女の生命を。
一片の芥も残さず、消し飛ばすように。
黒く、暗く、深く、笑むのだ。

ここは地獄の一丁目か。
もはや過酷と呼ぶにも生温い光景の中心地で、パチュリーは最後に思う。

彼ら四人は、自分らがこれまで形成してきた烏合の衆とは全く違う。
届く所に在るかもわからぬ希望の星に縋り、壊滅のすぐ傍に立つ、脆き藁の砦などとは。
彼らの集団に、綻びは無い。決裂は無い。油断は無い。
『同胞』という、種族の根に繋がる、頑丈で、堅牢な芯を持つ……


そう、例えば―――



(――――――こいつらの結束、まるで……『柱』…………!)



それが、本能で分かってしまった。
間違いなく、このゲームを攻略するのに避けては通れぬ『柱』。
崩れない、『柱』。

鬼人サンタナ。
狂人エシディシ。
武人ワムウ。
邪人カーズ。
四本の柱から成る、最悪の陣が其処に立っていた。

過去に感じたことのない絶望が、魔女の心を折り。



――――――そして、彼女の意識を闇に落とした。



▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽





再び目を開いた時、まず網膜に映ったのは光。




パチュリー・ノーレッジは、気付けば館の外。泥土に寝かされ、雨に打たれながら覚醒した。
曇天といえど、それは確かに光。先までの、深淵から覗く闇のような、生きた心地がしない釜の中とは世界が違う。

『九死に一生を得る』……この言葉が“十分の九での死、十分の一での生”を謂うのなら、パチュリーは確かに一生を得たのだろう。
だがそれは決して正確ではない。彼女は“生かされた”に過ぎない。それも、時限爆弾つきの首輪を嵌められて。
これで一生を得たとは、見当違いも甚だしい。

(気絶、しちゃってたみたいね。……紅魔の魔女ともあろう私が、情けない)

今になって身体が震えだす。全身の肌に張り付くような冷たさは、雨のせいではないだろう。
もう二度と近付きたくない思いとは裏腹に、彼女はまたこの洋館に足を踏み入れなければならない契りを交わされたのだ。
素直に命惜しみ、奴らの命に従うか。それとも反旗を翻すか。
もし戦うなら……神・大妖級の味方を彼奴らと同じ人数以上に揃えなければ見込みも無い。
それを魔女の認識に刻み込むほど、彼らの陣は鉄壁だった。


「…………パチュリーさん? 大丈夫かね、酷く顔色が良くないが」

「フン。どーせ足でもスッ転ばせて頭でも打ったんでしょ」


いつの間にだか、連れの吉良とぬえが傍に立ち、言葉だけを取り繕ってパチュリーを見下ろしていた。
その表情はどこか、不安だとか焦りだのといった色が垣間見えるようだ。
きっとだが、彼らも何となく察しているのだろう。この洋館の中に恐ろしい魔物が巣食っていることを。
念の為に二人を外に置いてきて良かったという所か。もし連れていたなら二人共、少なくとも実験要因に関係ないぬえは殺されていた筈だ。
無残に殺された、あの『三人』のように。

「中に目的の人物が居なかったならとにかく、ここをさっさと離れた方がいいな。
 さっきの炎を繰り出す怪物女が追って来ているかもしれないし、館の向こう側で激しい爆撃音が二度ほど聞こえた」

「……ジョースター邸とやらはもうすぐよ。いつまでも呆けてないで、早く箒を出しなさいよ」

吉良とぬえに急かされ、パチュリーは自分の傍に落ちていたディパックに気付いた。
慌てて中を確認するも、やはり記憶DISCとやらは奪われている。それ以外の『首』や『箒』などは無事なようだ。


「ご、ごめんなさい……。中に霊夢も紫も居なかったわ。……先を急ぎましょう」

「……その服、どうしたのだね? 穴が開いているようだが……」

「……何でもない。何でもない、のよ」


フラフラと立ち上がり、露わになりかける胸部を隠しながら行動を開始する。とにかく一秒たりとも此処には滞在したくなかった。
ここで起こったこと。もしメンバーが集合したならば話さねばならない。
だが心臓に掛けられた『毒薬』……このことを果たして話すべきかどうか。


もし話したならば約一名、消沈するかも爆発するかも予想の付かない、あの科学馬鹿を抑えられる自信が……パチュリーには、あまり無い。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

【D-3 廃洋館 外/昼】

【パチュリー・ノーレッジ@東方紅魔郷】
[状態]:恐怖、体力消費(小)、霊力消費(小)、カーズの『死の結婚指輪』を心臓付近に埋め込まれる(2日目の深夜後に毒で死ぬ)、服の胸部分に穴
[装備]:霧雨魔理沙の箒
[道具]:ティーセット、基本支給品×2(にとりの物)、考察メモ、広瀬康一の生首
[思考・状況]
基本行動方針:紅魔館のみんなとバトルロワイヤルからの脱出、打破を目指す。
1:霊夢と紫を探す・周辺の魔力をチェックしながら、第三ルートでジョースター邸へ行く。
2:夢美や慧音と合流したら、仗助達にバレずに康一の頭を解剖する。
3:魔力が高い場所の中心地に行き、会場にある魔力の濃度を下げてみる。
4:第四回放送時までに考察を完了させ、カーズに会いに行く?
5:ぬえに対しちょっとした不信感。
6:紅魔館のみんなとの再会を目指す。
7:妹紅への警戒。彼女については報告する。
[備考]
※喘息の状態はいつもどおりです。
※他人の嘘を見抜けますが、ぬえに対しては効きません。
※「東方心綺楼」は八雲紫が作ったと考えています。
※以下の仮説を立てました。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」を販売するに当たって八雲紫が用意したダミーである。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「東方心綺楼」の信者達の信仰によって生まれた神である。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは幻想郷の全知全能の神として信仰を受けている。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかの能力は「幻想郷の住人を争わせる程度の能力」である。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかは「幻想郷の住人全ての能力」を使うことができる。
 荒木と太田、もしくはそのどちらかの本当の名前はZUNである。
 「東方心綺楼」の他にスタンド使いの闘いを描いた作品がある。
 ラスボスは可能性世界の岡崎夢美である。
※藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。


【吉良吉影@ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない】
[状態]:体力消費(中)、喉に裂傷、鉄分不足、濡れている、ちょっとストレス
[装備]:スタンガン
[道具]:ココジャンボ@ジョジョ第5部、ハスの葉、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:平穏に生き延びてみせる。
1:しばらくはパチュリーに付き合う。……館で何があった?
2:東方仗助とはとりあえず休戦?
3:空条承太郎らとの接触は避ける。どこかで勝手に死んでくれれば嬉しいんだが…
4:慧音さんの手が美しい。いつか必ず手に入れたい。抑え切れなくなるかもしれない。
[備考]
※参戦時期は「猫は吉良吉影が好き」終了後、川尻浩作の姿です。
※慧音が掲げる対主催の方針に建前では同調していますが、主催者に歯向かえるかどうかも解らないので内心全く期待していません。
 ですが、主催を倒せる見込みがあれば本格的に対主催に回ってもいいかもしれないとは一応思っています。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※パチュリーにはストレスを感じていません。
※藤原妹紅が「メタリカ」のDISCで能力を得たと思っています。



封獣ぬえ@東方星蓮船】
[状態]:体力消費(小)、精神疲労(中)、喉に裂傷、濡れている、吉良を殺すという断固たる決意
[装備]:スタンドDISC「メタリカ」@ジョジョ第5部
[道具]:ハスの葉、基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:聖を守りたいけど、自分も死にたくない。
1:隙を見て吉良を暗殺したいが、パチュリーがいよいよ邪魔になってきた。ていうかこの女、顔が死にかけてない?
2:皆を裏切って自分だけ生き残る?
3:この機会に神霊廟の奴らを直接始末する…?
[備考]
※「メタリカ」の砂鉄による迷彩を使えるようになりましたが、やたら疲れます。
※能力の制限に関しては今のところ不明です。
※メスから変化させたリモコンスイッチ(偽)はにとりの爆発と共に消滅しました。
 本物のリモコンスイッチは廃ホテルの近くの茂みに捨てられています。


『カーズ』
【昼】D-3 廃洋館 エントランスホール



「サンタナ」



一言、忠臣である男の名をカーズは呟いた。
つまらぬ些事。彼らからしたらどうとでもない、ちょっとしたゴタゴタ程度で終わった侵入者の掃除を終え、部屋に戻る途中でのことだった。


「…………はっ」

「貴様、少し変わったか?」


薄暗いエントランスの中央にて、足を止め振り返ったカーズが最後方に追従するサンタナを見る。
空気が変わった雰囲気を感じ取り、視線を遮る位置に居たエシディシとワムウも横に退き、成り行きを見守る。

カーズとサンタナの視線が、交差した。

「申し訳ありませんが、言葉の意味を図りかね……」

「フン。惚けるんじゃあない。貴様自身、薄々感じてきておるのだろう? その自覚に」

侵入者からの茶茶入れを挟まれ有耶無耶にされかけていたが、カーズが話すのは先のサンタナの申し出、その結論だ。
生意気にも、という言葉が頭に付くが、サンタナが徐々に変貌している様子にあることはカーズとて気付いていた。

それは『進化』と言い換えられるかもしれない。
良い方向へか、悪い方向へかは未だ真実が見えない。
先程の侵入者への対処。サンタナは決して他の同胞に後れを取ってなどいなかった。
淡々と、己の役割を全うする為に獰猛を振るったのだろう。恐怖を振り撒くという、種族の本質を。

サンタナの醸し出す進化を見て、カーズは『可能性』を見た。
進化とは可能性だ。カーズは一万年以上も昔、可能性を求めてこの地上に飛び出した。

今のサンタナの瞳……依然、虚無が渦巻いているように見えるが、少なくともあの地底で共に育った『腑抜け』ばかりの同胞とは違う。
愚かで無様だけの、進化を掴み取ろうともしない無能共と、現在のサンタナは違う。


カーズはおよそ直感に近い感覚で、サンタナをそう評した。


「サンタナ」

「はっ」

「認められたいか」

「…………」


その質問に、サンタナはすぐには返事できない。
変容しつつある己の感情を、自分でもどう操るべきか戸惑う部分も多い。
だが、


「…………はい」


何千年待ったことか、この時を。

ようやく……ようやくに、訪れたのだ。
空っぽでしかなかった己の存在意義を、認めて貰えるチャンスが。存分に揮えるチャンスが。



「…………いいだろう」



そして、カーズは答えを出した。
一族を治める頭領として。仲間を束ねるリーダーとして。
『番犬』などでなく、真に『同胞』として扱う、そのチャンスを授けたのだ。

カーズらがサンタナを見下していたのは、ひとえに彼が弱かったからだ。
そしてその無能さ以上に、彼が何の可能性も掴もうとせず、勝手にゴロゴロと道を転がり落ちていくだけだったからだ。
つまりはその空っぽの『精神性』こそが、何よりカーズたちを落胆させ、最終的に彼を見限る決断に至った要因である。

落ちていった『負け犬』が再び『可能性』を見据え、チャンスを掴み取ろうともがくのなら。

主として、与えてやろうではないか。

その―――チャンスを。


「―――『試合』だ。もし貴様がDIOと戦いたいと本気で思うのなら……まずその『やる気』を我々に示してみせよ」


「…………試、合」


カーズの提案は、鉄面皮であるサンタナを少なからず驚愕に歪めた。
試合といえば、一族間ではそう珍しい行いではない。要は組み手である。
暇と力を持て余す彼らは、たまに遊びのように仲間同士で力比べを始める。それを今ここでやれと言うのだ。

かつての大昔、サンタナにも記憶はある。
だが彼はただの一度として、仲間の誰一人に一本すら取った事は無く、それ故に呆れられていたのだが。


「相手は……ワムウ!」

「はっ」


主の一声にすぐさま反応した男――武人、ワムウ。
彼の戦闘力は誰もが認めるところであった。そのセンス、一族随一の天才也。

そのような天才と、負け犬であったサンタナが。



「闘えィ! 貴様の力、この私に認めさせよ! 半端な覚悟であったなら……貴様は『番犬』に逆戻りだ」



闘う。
サンタナとワムウ。
二人が、拳を打ち合う。


「かしこまりましたカーズ様。……サンタナ、手加減など期待するなよ」

「……望む、ところ」


サンタナの目がワムウを貫いた。
まずまともにやっても、この武人には勝てない。ワムウが現在、目を潰されているハンデを考えたとしても、だ。
それを理解しながら、サンタナは考える。己の力をどう認めさせるかを。


(……『流法』、しかない。それを、見せ付ける。……イメージは、出来ているのだ。何となくのイメージ、は……!)


流法(モード)。すなわちコレが出来ないから、主は自分を見限った。
当然だ。それすら扱えないようでは、どうして力を認めさせることなど出来ようか。


「時は『正午』! 放送の終了後、ただちにこのホールにてワムウとサンタナの試合を行う事とする!」


ここが己の、転機となる。
理解し、サンタナは心臓の鼓動が一層早まるのを……その胸に感じた。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

【D-3 廃洋館 エントランスホール/昼】

【カーズ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(小)、胴体・両足に波紋傷複数(小)、シーザーの右腕を移植(いずれ馴染む)、再生中
[装備]:狙撃銃の予備弾薬(5発)
[道具]:基本支給品×2、三八式騎兵銃(1/5)@現実、三八式騎兵銃の予備弾薬×7、F・Fの記憶DISC(最終版)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間達と共に生き残る。最終的に荒木と太田を始末したい。
1:第二回放送終了後、ワムウとサンタナの『試合』に立会い、サンタナの意思を見極める。
2:幻想郷への嫌悪感。
3:DIOは自分が手を下すにせよ他人を差し向けるにせよ、必ず始末する。
4:奪ったDISCを確認する。
5:この空間及び主催者に関しての情報を集める。パチュリーとは『第四回放送』時に廃洋館で会い、情報を手に入れる予定。
[備考]
※参戦時期はワムウが風になった直後です。
ナズーリンタルカスのデイパックはカーズに回収されました。
※ディエゴの恐竜の監視に気づきました。
※ワムウとの時間軸のズレに気付き、荒木飛呂彦、太田順也のいずれかが『時空間に干渉する能力』を備えていると推測しました。
 またその能力によって平行世界への干渉も可能とすることも推測しました。
※シーザーの死体を補食しました。
※ワムウにタルカスの基本支給品を渡しました。
※古明地こいしが知る限りの情報を聞き出しました。また、彼女の支給品を回収しました。
※ワムウ、エシディシ、サンタナと情報を共有しました。
※「主催者は何らかの意図をもって『ジョジョ』と『幻想郷』を引き合わせており、そこにバトル・ロワイアルの真相がある」と推測しました。
※「幻想郷の住人が参加者として呼び寄せられているのは進化を齎すためであり、ジョジョに関わる者達はその当て馬である」という可能性を推測しました。


【ワムウ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(小)、失明(いつでも治せるがあえて残している)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:掟を貫き、他の柱の男達と『ゲーム』を破壊する。
1:第二回放送終了後、サンタナと試合を行う。
2:霊烏路空(名前は聞いていない)と空条徐倫(ジョリーンと認識)と霧雨魔理沙(マリサと認識)と再戦を果たす。
3:ジョセフに会って再戦を果たす。
[備考]
※参戦時期はジョセフの心臓にリングを入れた後~エシディシ死亡前です。
※失明は自身の感情を克服出来たと確信出来た時か、必要に迫られた時治します。
※カーズよりタルカスの基本支給品を受け取りました。
※スタンドに関する知識をカーズの知る範囲で把握しました。
※未来で自らが死ぬことを知りました。詳しい経緯は聞いていません。
※カーズ、エシディシ、サンタナと情報を共有しました。
※射命丸文の死体を補食しました。


【サンタナ@第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(小)、再生中
[装備]:緋想の剣@東方緋想天、鎖@現実
[道具]:基本支給品×2、パチンコ玉(19/20箱)@現実
[思考・状況]
基本行動方針:自分が唯一無二の『サンタナ』である誇りを勝ち取るため、戦う。
1:戦って、自分の名と力と恐怖を相手の心に刻みつける。
2:第二回放送終了後、ワムウと試合を行い、新たな『流法』を身につける。
3:自分と名の力を知る参加者(ドッピオとレミリア)は積極的には襲わない。向こうから襲ってくるなら応戦する。
4:ジョセフに加え、守護霊(スタンド)使いに警戒。
5:主たちの自分への侮蔑が、ほんの少し……悔しい。
[備考]
※参戦時期はジョセフと井戸に落下し、日光に晒されて石化した直後です。
※波紋の存在について明確に知りました。
※キング・クリムゾンのスタンド能力のうち、未来予知について知りました。
※緋想の剣は「気質を操る能力」によって弱点となる気質を突くことでスタンドに干渉することが可能です。
※身体の皮膚を広げて、空中を滑空できるようになりました。練習次第で、羽ばたいて飛行できるようになるかも知れません。
※自分の意志で、肉体を人間とはかけ離れた形に組み替えることができるようになりました。
※カーズ、エシディシ、ワムウと情報を共有しました。


【エシディシ@ジョジョの奇妙な冒険 第2部 戦闘潮流】
[状態]:疲労(小)、上半身の大部分に火傷(小)、左腕に火傷(小)、再生中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:カーズらと共に生き残る。
1:ワムウとサンタナの試合を見学したい。
2:神々や蓬莱人、妖怪などの幻想郷の存在に興味。
3:静葉との再戦がちょっとだけ楽しみだが、レミリアへの再戦欲の方が強い。
4:地下室の台座のことが少しばかり気になる。
[備考]
※参戦時期はロギンス殺害後、ジョセフと相対する直前です。
※左腕はある程度動かせるようになりましたが、やはりダメージは大きいです。
※ガソリンの引火に巻き込まれ、基本支給品一式が焼失しました。
 地図や名簿に関しては『柱の男の高い知能』によって詳細に記憶しています。
※レミリアに左親指と人指し指が喰われましたが、地霊殿死体置き場の死体で補充しました。
※カーズからナズーリンの基本支給品を譲渡されました。
※カーズ、ワムウ、サンタナと情報を共有しました。
ジョナサン・ジョースター以降の名簿が『ジョジョ』という名を持つ者によって区切られていることに気付きました。

※ナランチャのナイフ@ジョジョ第5部はリビングルームに放置されています。
※頭の潰れたホル・ホース、射命丸文の片翼、ぐずぐずに溶けた火焔猫燐の肉塊が廃洋館ミュージックホールに放置されています。



ファニー・ヴァレンタイン
【昼】D-3 廃洋館 リビングルーム


炎の狂人エシディシが、『火焔猫燐』を殺害し、この部屋を去るのを目撃し。
風の武人ワムウが『射命丸文』を吸収し、部屋を横切って扉から完全に出て行くのを見届け。

『その男』は、リビングに備えられた箪笥の引き出しの中から、音も無くゆっくりと姿を現して出てきた。


「………………行ったか。もういいだろう。出てきたまえ」


男――ファニー・ヴァレンタインが周囲を警戒し終えてそう合図すると、同じ様にして彼ら三人……

―――ホル・ホース、火焔猫燐、射命丸文が蒼白な表情を形作り、這いずるようにして引き出しからまとめて出てくる。


「な、な、なんだったんだ……? オレたちは一体どうなりやがった……?」
「これって……ブラフォードお兄さんの時と同じ……」
「……っ」


今、何が起こったのか?
現象の説明が付かない。だが彼らが見たままを端的に述べるのならば。

『自分と同じ姿をした者たちが、なす術も無く目の前で殺された』

馬鹿げているとしか思えない。悪い夢でも見ていたというのか。
だがそれが“確かに起こった事実”だというのなら、それを起こしたのは間違いなくこの男―――

「大統領さん!」

「危なかったな、お燐」

大統領と呼ばれたその男が、駆け寄るお燐を気遣った。

(大統領!? この男が……!)

お燐の叫んだ一言は、文の心中を驚愕に染まらせる。
何をやったのかは計り知れないが、今自分たちを救ってくれたこの男が、“あの”―――!


「大統領~~~!? ……って、お燐、今のはオレの聞き違いかい? こいつが、その……」

「……緊急時だったもので紹介が遅れたな。私の名はファニー・ヴァレンタイン。アメリカ合衆国大統領を務めている者だ」


衝撃に染まるはホル・ホース。
安心に包まれるは火焔猫燐。

そして、警戒を露わにしたのは……射命丸文だった。

▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

ジョースター邸にて空条承太郎と博麗霊夢、そしてフー・ファイターズと別れた大統領は、次なる目的地を考察する。
そこで彼はディエゴに、もう幾度目かになる連絡を試みたのだ。まともに連絡の付かない彼だったが、今回でやっと繋がった。
彼は彼でコソコソと何か企んでいるようではあったが、大統領も深くは追求しなかった。どうせはぐらかされるだけだ。
そして大統領はディエゴの恐竜網から最新の情報を受け取った。
あのジョニィ・ジョースターが死んだという事実。ジャイロはまだ生きているようだが、その情報は大統領にとってプラスであった。
更にもうひとつ……命蓮寺方面からお燐を含めた三人組が真っ直ぐやって来る、というもの。

お燐が参加者を伴い、自分の居るここまでの道を戻ってくる。
“何かの意図を感じる”……大統領の決断は早かった。ジョニィの馬『スローダンサー』を走らせ、この廃洋館にお燐らが侵入していく姿をギリギリで発見できたのだ。
そこからは激動のように場が動いた。只者ではない大男が三人、お燐らを襲撃するシーンを覗いていた大統領はD4Cを発動。
急いで『隣の世界』に赴き、平行世界の火焔猫燐、射命丸文、ホル・ホースを拉致し、『土煙』と『土煙』の間から現れて彼らを突き放す。
同時に本物の三人を再び土煙の間に押し込み、基本と並行の彼らをそのまま入れ替える形にして隠した。

これが大統領の起こした顛末、その全てである。


「―――するってえと、アンタはマジモンの大統領閣下ってわけかい? 正真正銘、アメリカさんの所のトップ?」


廃洋館を脱出し、ひとまず彼ら四人は館から距離を取ることにした。あの場所は……おそらく会場内では危険度SSS級だろう。
軽く自己紹介を交わしながら大統領はホル・ホースの質問に適当に答えている。
普通ならばわざわざ危険な地に自ら向かい、参加者など助けはしない。大統領の目的、その最優先が遺体だからである。
だがお燐がその場に混ざっているとなれば、話は少々違ってくる。少なくとも彼女は大統領が渡した遺体の両脚を持っているのだ。


「私のことはもういいだろう。それより『見た』だろう? 君たちも……“君たち自身の辿る結末”を」


大統領が話すのは、ついさっき『自分たち』に起こった悲劇についてだ。
ホル・ホースもお燐も大統領の能力の謎についてはさっぱりであったが、自分にそっくりな存在が無残な結末を辿った光景は、隣の世界から覗いていた。

あれはただそっくりなだけの『人形』などでは決してない。
正真正銘の『自分そのもの』。それが分かってしまった。だからこそ戦慄するしかない。
あれは『仮想(シミュレーション)』だ。“もし大統領が居なければ、あの光景が己の身に起こっていた”という、恐ろしい仮想。

お燐は覗いてしまった。自らが焼かれ、絶叫を上げながら無残に溶かされゆく光景を。
文は覗いてしまった。外から帰還したワムウがその手に持っていた、己の肉体の一部。その片翼を。

ホル・ホースだけは並行世界の自分がどのような殺され方をしたのかは分からない。廊下まで追って殺害したサンタナが、そのまま何処かへ消えたからだ。
だが心臓を握り潰されるような悪寒は、何処かの自分が惨たらしい死を与えられて殺されたという事実をその身に感じた。

彼らが三人それぞれ死ぬ瞬間、自分が何を思い、何を後悔し死んでいったのか。
如何な並行世界の自分とはいえ、それだけは死に追い詰められた本人にしか分からないのだろう。


「と、とにかく礼を言うぜ、えーっと大統領サマ? 本ッ当~に死ぬトコだった。すまねえ」

「いや……礼には及ばないさ。私もそれなりの『見返り』を求めて、ここまでやって来たのだからな」

「見返り……? 何ですかい、それは―――」


ホル・ホースがひょうきんな態度で、彼なりに礼を述べたその直後であった。
大統領がツカツカとお燐……そして文の隣にまで歩き、その肩に手を置いた瞬間―――



「少し、彼女達を借りていくぞ。君はここで待っていてくれたまえ」



え……、と小さく驚きを漏らすホル・ホースをよそに。

大統領と文、お燐の身体が……一瞬で雨に塗れて『溶けた』。


「な……!?」
「え……」

「―――D4C」


その身に起こった現象を理解する間もなく。

雨に打たれるホル・ホースを残し、三人は『雨粒』と『雨粒』の間に挟まれ、再び隣の世界へと消えた。


↑ ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ ↑ ↓ ↑ ↓

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「―――さて、『本題』といこうか。……射命丸文くん、だったかな?」



迂闊だった。文は前髪に伝う雨と冷や汗を振り払いながら、大統領と距離を取る。
大統領のスタンド能力『D4C』についてはジョニィからおおよそ聞いていた。大統領の人柄と『これまでやってきたこと』、それら全ても。
だからこそ文は彼という男を警戒する。下手をすれば大統領は――さっきの大男よりも更に厄介な男である、とも感じる。

「……本題ですって? 貴方ほどの方が、私のような鴉天狗に何の用があるというのです?」

「…………『所持』しているのだろう? 聖人の遺体を」

心臓の打つリズムが倍にまで跳ね上がった。
この男は賢明だ。遺体を捜すお燐が私と行動を共にしている事実だけを見て、私が遺体を所持しているとあたりを付けたのだ。

「……大統領さん。この人、持っているよ……!」

大統領の横でお燐が文を指差す。
周りには自分たち三人だけだ。これでお燐は、ホル・ホースを気にすることなく文を糾弾することが可能となった。
彼がホル・ホースを向こうの世界に置いてきたのには、そういう意図も含まれているのだろう。

「……どうしてホル・ホースさんでなく、私の方が遺体を持っていると分かったのですか?」

「お燐くんの視線を見ていればすぐにピンときたよ。『この女こそが遺体を持っている』と言わんばかりの視線だったものでね」

文は思わず舌打ちでもかましそうなところを、お燐を睨みつけるだけに抑えた。
自分にとっての最悪は、何も終わってなどいなかった。あのモンスターハウスを切り抜けたと思ったら、真の最悪はこの男の方であった。


「ジョニィさんから貴方のことについては伺っております。……ここで私を殺す気ですか?」


こと遺体については、その執念に他を圧倒する凄まじいものがある。
ジョニィは生前そう言っていた。ならば目撃者の居ないこの世界で、この男は好き勝手できるということだ。

どうする?
勝てるか……? 聞く限りではえげつない能力を有すこの男に、スタンドすら持たない自分が?

……いや、殺らなきゃ殺られる。不意打ちならば、あるいは―――


―――腰に差す拳銃に手を掛ける。
―――それは『とある世界』において、大統領が己の正当性を説く裏で、ジョニィ・ジョースターを騙し討ちにかけた拳銃であった。
―――皮肉な事に、今度は大統領自身がその拳銃を向けられ……



「いや、私は君を傷付けるつもりなど一切ない」



真実、文を真っ直ぐ見据えてその男は断言した。


「……信じません。貴方は遺体の為ならば『何でもやる』男だと、ジョニィさんは仰ってました」


大統領の確固とした宣言を受けても、文の心は動じない。
ジョニィは大統領の言葉を信じ……そして裏切られたと言っていた。
文はこんな大嘘吐きの言葉など、100%信じない。


「私が遺体を欲しているのは事実だが、君を傷付けて強引に奪う真似はしない。
 ……博麗の巫女とそういう『契約』を交わしているからだ。幻想郷の民を攻撃したりはしない、とね」

「口約束なのでしょう。いつだって破れますよ、そんなもの」

「私は『嘘は吐かない』。話し合いにて君の遺体を譲って貰おうと考えている」

「どの口がそれを言うんですか……ジョニィさんを騙したクセに」

「……何の話だ?」

「いえ、お気になさらず。とにかくすぐに元の世界へ戻してください。私は貴方だけには遺体を渡すつもりなど無いのですから」

「まずは話を聞いて欲しい。遺体はこの私が持つことで、初めて意味が生まれる存在だという事を」


この対話は平行線だ。無限に続くこの並行世界のように、大統領の説得が終結することはない。
文はそう見切り、もとより遺体を手放すつもりはないとムキにすらなっている。
その想いの根底にはやはり――ジョニィ・ジョースターの意志が大きく影響を及ぼしているのだ。


そして大統領も真実、遺体を手に入れるつもりである。
だが霊夢の約束を破ったりなどすれば、彼女達の『信用』を著しく損なうことは目に見えている。


(この娘がジョニィからどこまでを聞いたかは分からない。だがこれは『試練』だ)


強硬手段を使えなくもないが、大統領にそれを行使するつもりは今の所ない。
この程度の説得すら出来ないのであれば、このさき遺体を完成させる事など夢のまた夢だろう。

厄介なのはジョニィ・ジョースターの意志。死んだ筈の男が、この期に及んで自分の邪魔をしてくる。
霊夢との契約など無ければ、間違いなくこの女は始末していた。それほどに厄介な執念を、この女からは感じる。

それでも射命丸文は殺さない。その上で、遺体は絶対に奪わなくてはならない。
それも、なるべく彼女の合意を得てからというのがベストだ。最悪、自分の正当性を保てたままであるなら、どのような形になってでも。
ハードな任務であったが、自信はある。だからこそわざわざ“目撃者を作る為”に、お燐を連れてきたのだから。


(そこで見ているがいい、お燐。このヴァレンタインの『覚悟』と『執念』を……!)


交わる事のない二つの執念が雨に消え、彼と彼女の戦いの始まりを告げた。


▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽

【D-3 廃洋館 外(隣の世界)/昼】

【ファニー・ヴァレンタイン@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:健康、濡れている
[装備]:楼観剣@東方妖々夢、聖人の遺体・左腕、両耳@ジョジョ第7部(同化中)、紅魔館のワイン@東方紅魔郷、暗視スコープ@現実、スローダンサー@ジョジョ第7部
[道具]:通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を集めつつ生き残る。ナプキンを掴み取るのは私だけでいい。
1:遺体を全て集め、アメリカへ持ち帰る。邪魔する者は容赦しないが、霊夢、承太郎、FFの三者の知り合いには正当防衛以外で手出しはしない。
2:射命丸文の遺体を説得にて手に入れる。こちらから危害は加えない。
3:形見のハンカチを探し出す。
4:火焔猫燐の家族は見つけたら保護して燐の元へ送る。
5:荒木飛呂彦、太田順也の謎を解き明かし、消滅させる!
6:ジャイロ・ツェペリは必ず始末する。
※参戦時期はディエゴと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※幻想郷の情報をディエゴから聞きました。
※最優先事項は遺体ですので、さとり達を探すのはついで程度。しかし、彼は約束を守る男ではあります。
※霊夢、承太郎、FFと情報を交換しました。彼らの敵の情報は詳しく得られましたが、彼らの味方については姿形とスタンド使いである、というだけで、詳細は知りません。


【射命丸文@東方風神録】
[状態]:大統領への敵意、胸に銃痕(浅い)、服と前進に浅い切り傷、濡れている
[装備]:拳銃(6/6)、聖人の遺体・脊髄、胴体@ジョジョ第7部(同化中)
[道具]:不明支給品(0~1)、基本支給品×3、予備弾6発、壊れゆく鉄球(レッキングボール)@ジョジョ第7部
[思考・状況]
基本行動方針:どんな手を使っても殺し合いに勝ち、生き残る
1:大統領に遺体は渡さない。
2:火焔猫燐は隙を見て殺害したい。
3:ホル・ホースを観察して『人間』を見極める。
4:幽々子に会ったら、参加者の魂の状態について訊いてみたい。
5:DIO、柱の男は要警戒。
6:露伴にはもう会いたくない。
7:ここに希望はない。
[備考]
※参戦時期は東方神霊廟以降です。
※文、ジョニィから呼び出された場所と時代、および参加者の情報を得ています。
※参加者は幻想郷の者とジョースター家に縁のある者で構成されていると考えています。
※火焔猫燐と情報を交換しました。
※ジョニィから大統領の能力の概要、SBRレースでやってきた行いについて断片的に聞いています。


【火焔猫燐@東方地霊殿】
[状態]:人間形態、妖力消耗(小)、こいしを失った悲しみ、濡れている
[装備]:毒塗りハンターナイフ@現実、聖人の遺体・両脚@ジョジョ第7部
[道具]:基本支給品、リヤカー@現実、古明地こいしの遺体
[思考・状況]
基本行動方針:遺体を探しだし、古明地さとり他、地霊殿のメンバーと合流する。
1:家族を守る為に、遺体を探しだし大統領に渡す。
2:大統領と射命丸文の成り行きを見守る。
3:ホル・ホースと行動を共にしたい。ホル・ホースには若干の罪悪感。
4:地霊殿のメンバーと合流する。
5:ディエゴとの接触は避ける。
6:DIOとの接触は控える…?
7:こいし様……
[備考]
※参戦時期は東方心綺楼以降です。
※大統領を信頼しており、彼のために遺体を集めたい。とはいえ積極的な戦闘は望んでいません。
※死体と会話することが出来ないことに疑問を持ってます。


【ホル・ホース@第3部 スターダストクルセイダース】
[状態]:鼻骨折、顔面骨折、疲労(中)、濡れている
[装備]:なし
[道具]:不明支給品(確認済み)、基本支給品×2(一つは響子のもの)、スレッジハンマー(エニグマの紙に戻してある)
[思考・状況]
基本行動方針:とにかく生き残る。
1:響子を死なせたことを後悔。 最期の望みを叶えることでケリをつける。
2:響子の望み通り白蓮を探して謝る。協力して寅丸星を正気に戻す。
3:あのイカレたターミネーターみてーな軍人(シュトロハイム)とは二度と会いたくねー。
4:誰かを殺すとしても直接戦闘は極力避ける。漁父の利か暗殺を狙う。
5:使えるものは何でも利用するが、女を傷つけるのは主義に反する。とはいえ、場合によってはやむを得ない…か?
6:DIOとの接触は出来れば避けたいが、確実な勝機があれば隙を突いて殺したい。
7:あのガキ(ドッピオ)は使えそうだったが……ま、縁がなかったな。
8:三人とも、一体何処へ消えちまったんだ……!?
[備考]
※参戦時期はDIOの暗殺を目論み背後から引き金を引いた直後です。
※白蓮の容姿に関して、響子から聞いた程度の知識しかありません。
※空条承太郎とは正直あまり会いたくないが、何とかして取り入ろうと考えています。

※現在大統領たちが居る世界は『ホル・ホース、射命丸文、火焔猫燐が既に殺されている世界』です。



144:愛する貴方/貴女と、そよ風の中で 投下順 146:迷いを断て!白楼剣!
144:愛する貴方/貴女と、そよ風の中で 時系列順 146:迷いを断て!白楼剣!
127:デュプリシティ 射命丸文 149:ALIVE
127:デュプリシティ 火焔猫燐 149:ALIVE
127:デュプリシティ ホル・ホース 149:ALIVE
141:偽装×錯綜×アンノウンX パチュリー・ノーレッジ 156:ワーハクタクは動かない ~エピソード『人間賛歌偽典』
141:偽装×錯綜×アンノウンX 封獣ぬえ 156:ワーハクタクは動かない ~エピソード『人間賛歌偽典』
141:偽装×錯綜×アンノウンX 吉良吉影 156:ワーハクタクは動かない ~エピソード『人間賛歌偽典』
117:痛みを分かち合う程度の能力 ファニー・ヴァレンタイン 149:ALIVE
139:幻想に、想いを馳せて サンタナ 154:強者たちの舞台裏
139:幻想に、想いを馳せて エシディシ 154:強者たちの舞台裏
139:幻想に、想いを馳せて ワムウ 154:強者たちの舞台裏
139:幻想に、想いを馳せて カーズ 154:強者たちの舞台裏

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最終更新:2017年04月20日 03:41