Hail 2 U!

ジョセフ・ジョースターへ。太田、といえば分かるよね?』


そのメッセージをジョセフが読み上げると、ガガガとパソコンの本体が唸り声を上げ、新たなウィンドウが勝手に画面上に現れた。
そしてそこには何と上半身裸の太田の顔が映し出され、驚くジョセフ達とは反対にニンマリと笑っていたのである。


「て、てめぇは太田!!?」


忘れるはずのない殺し合いの主催者の顔の登場にジョセフはたまらず吠え立てた。


「Yes,I am」


黄色い歯を剥き出しにし、口角を目元まで吊り上げた凄絶な太田の笑みがジョセフらの目に入る。
ゾゾッ、とたちまち三人の背中に怖気が走った。
人間性をかなぐり捨てた常軌を逸した笑顔に、人間という仮面を捨て去った醜悪な欲望の塊。
それらを露骨なまでの形で示され、人間、妖怪、月人といった種との絶望的な隔絶を、彼らは本能的に思い知らされたのだ。
更に太田の不気味さに拍車をかけてきたのがパソコンだった。回線の遅さとコンピューターの処理能力が低さでか、
画面に映る太田は鈍重なコマ送りのようにやたらカクカクとした動きで、聞こえてくる声も口の動きと一致しない。
そこから得られる印象は、おおよそ人間とは思えない別の生命体。それなのに、人目を引き付けてやまない不思議な貫禄が窺える。
異様と威容を混ぜ合わせて丹念に練り上げた高貴な汚泥のような存在が、まさしくそこにはあった。
だがしかし、とグロテスクな物体に向けてジョセフは気炎を上げてみせる。


「ヘッ、そんな気味悪い演出で、こっちをビビらせようって魂胆が見え見えだぜ、太田ァッ!!
さあ、目的を言いな!! 殺し合えって言った奴が、わざわざ連絡を取ってくるんだ!! よっぽどのことなんだろうよ!!」

「おや、随分とせっかちだなあ。もっとジョセフは余裕があるキャラだと思っていたけれど……。
ンフフ、それともあのジョセフが、この僕に恐怖でもしているのかな~?」


太田が再び黄色い歯を見せて、醜い笑顔を見せてくる。画面越しのはずだが、ややもすれば、口臭も漂ってきそうな妙な迫力と存在感。
そのプレッシャーに晒されたジョセフの額には思わず冷や汗が伝う。


「クッ……誰が恐怖しているって? 怖がっているのは、そっちだろう!? 
違うって言うのなら、こっちに来てみな、太田!!」


太田に圧倒されてはならない、とジョセフは精一杯強がってみせる。
だが、そこに返ってきた答えは、なんとジョセフの予想を超えて更に彼を圧倒するものだった。


「え、そっちに行っていいの? じゃあ、行くよ」

「な、なにぃ~~!!?」


何の抵抗も感じさせない、実にスムーズな展開にジョセフの顔は途端に驚きの色に染まる。
そしてジョセフが太田の嘘に気がついたのは、次の瞬間だった。
太田は顎を手に乗せ、もう片方の手で赤ワインが入ったグラスを揺らしながら、楽しそうに、そして愛しそうにジョセフを眺めていたのだ。
全く動く気配のない態度の太田に、ジョセフは鼻息を荒くして食ってかかる。


「てめぇ~、太田、オレをからかって遊んでやがるな~!!」

「ンフフ、そう怒らないでよ、ジョセフ先輩。ちょっとした茶目っ気じゃないか」


「野郎~!」とジョセフが拳を握り、歯軋りしているところに、突如として光に煌く銀色の糸が彼の視界の端で舞った。
目を向けてみると、八意永琳が凛と背筋を伸ばして佇み、射抜くように太田を見つめている。
そして彼女の口からはリンと鈴が鳴るような声で、何とも華麗に言葉が紡がれていくのであった。


「太田、挨拶はもういいでしょう? 貴方は……」


そこまで音が奏でられたところで、太田は無遠慮に、無感動に永琳の台詞を遮ってきた。


「いや、僕は君に興味はないんだ。君の考えそうなことは、大体分かるしね。君は邪魔だから、引っ込んでいてくれ」


気持ちが悪いほど笑みが張り付いていた太田の顔は、いつの間にか開幕であったような感情の乏しいすまし顔に戻っていた。
だけど、それは最初に見せ付けられたような余裕というよりは、どこか退屈だからというような印象をジョセフは受けた。
これは相手の気持ちを読み解く上で、重要なパズルのピースとなるかもしれない。そう思ったジョセフは、
パズルを完成させるためのピースを更に拾い集めようと、軽口を叩きつつ、太田との会話に臨んで行くことにした。


「あっれ~、おたく、オレに興味津々ってわけ~? いや~、オレってば、やっぱりカッコイイからな~。
でも、オレはカワイコちゃんが好きなわけよ。分かる? 気色悪い裸のオッサンとおしゃべりする趣味はないの。
分かったなら、顔を洗って出直してきな、太田!!」


少し余裕を取り戻したジョセフは挑発を織り交ぜて、つっけんどんに言い放つ。
この状況で、そしてまたとない機会で、随分と突き放した言い方だが、ジョセフの予想通り、
太田はまた一転して笑顔を取り戻し、朗らかに口を開いてきた。


「おや、さっきよりは、らしくなってきたかな? やっぱりジョセフの魅力は心の余裕にあると僕は思うんだ」

「随分とオレを知っているような口振りじゃねーの。なに、ひょっとしてオレのファンなわけ?」

「その問いにはイエスかな。ジョセフが大好きでね、もう君の話は何回も見返したし、これからも君の活躍を見ていきたいと思っている」


その愛の告白にも似た発言に、途端にジョセフは顔は蒼くなる。


「え、ちょっと待て! ちょっと待てよ、太田! え、それってそういう意味なの? え、マジで?
だ、だから裸なわけ? オーノー!! オレはカワイコちゃんが好きだって言ってるだろうがー!!」

「そう邪険にしていいのかな、ジョセフ?」

「ああ? それはどういう意味……ま、まさかオレにお前の気持ちを受け入れろっつってるのか!? オーマイゴッド!!」


ジョセフは頭を抱え込み、本気で目の前に現れた現実に苦しみだす。
これがジョセフが求めていたパズルのピースなのだろうか。
いや、そうであってはならない、とジョセフは頭を激しく振り、その中にあったピースを急いで追い払う。
そうして冷静に、努めて冷静に先程のやり取りを思い返し、ジョセフはやっと一つの答えに辿り着くことができた。


「邪険にしていいのかって、さっき言ったよな? それはつまり裏を返せば、何かしらの提案や譲歩がお前にはあるってことだ。
でなければ、あそこで脅迫めいた発言は出てこない。違うか、太田?」

「ンフフ、そこをそう取るのか。面白いなぁ。別にそんな意味を含ませたつもりはなかったけれど、時間もないことも確かだ。
ここは君の推理を正解として、本題に入るとしよう。さて、敬愛する荒木先生曰く、心の底からの願いには、その人の全てが表れる、だそうだ」

「それがどうした。まさかオレの願いを叶えてくれるってか? そんなわけはねーよな。さっさと話の続きを言いな、太田!」

「そこで、だ。三つ、ジョセフの願いを叶えてあげようじゃないか」

「なにぃぃぃぃぃーーッッ!!!!?」


ジョセフの驚愕が絶叫となって部屋の中で木霊した。
そしてそれが済むと、今度は怒りの咆哮でもって、ジョセフはその場を満たし始めた。
願いを叶える。この殺し合いを否定する願いを言ったら、どうなるのだろうか。
それを叶えても良いとしたら、この殺し合いやそれで死んでしまった人達に一体何の意味があったというのだろうか。
命に何の敬意も払わず、自由勝手気ままに人を弄ぶ太田に、とうとうジョセフは我慢の限界を迎えた。


「太田!! 太田ッ!! 太田ぁぁー!!! てめぇはどこまで腐ってやがる!! それとも、まだふざけてやがんのか、てめえは!!?」


黄金のように眩い輝きを放つジョセフの怒りと正義の気迫。
だが、悪を真っ白に塗りつぶさんばかりの光は、残念ながら画面の向こうの太田には届かなかったらしい。


「その質問に答えるのが、一つ目の願いかな?」


ジョセフの言動に僅かにも心を動かされることなく、相変わらずの不気味な笑顔で太田は応じた。
人の尊厳を踏みにじることに何の躊躇いを覚えない卑劣漢を前に、ジョセフの怒りは更に募り、
その激情はついに彼の意志を飛び越えて、口からこんな言葉を飛び出させてしまう。


「野郎~ッ!! 嘗めくさりやがって!! それなら、願いを言ってやるぜ! スピードワゴンのじいさんを生き返らしてみろ!!
シーザーもだ!! そして俺たちの頭ん中にある爆弾を取り除いてみやがれ!! それが出来るっつーなら、今すぐやってみろ、太田ァッ!!」

「それがジョセフの願いでいいのかな?」

「やかましい!! さっさと……!!」


その先を言おうとした所で、突如永琳の怒号がジョセフの鼓膜を殴りつけるような勢いで彼の耳に入ってきた。


「莫迦!! やめなさい、ジョセフ!! どう考えても、太田は……!!」


そこまで言った所で、今度は太田が永琳の台詞を邪魔してくる。


「おっと、ストップだ、八意永琳。言っただろう、僕は君に興味はないって? 君の助言や忠告はいらないんだよ。
これ以上、何かを喋るようだったら、この会談は無しだ。勿論、筆談なんかでジョセフに何かを伝えるのも駄目。
僕は君ではなく、ジョセフと語り合いたいんだ。そのご自慢の頭で、僕の言ったことは少しは理解できたかい?」


その質問に、永琳は太田を無言で睨みつけることで答える。
彼女の態度に、太田は満足そうに頷くと、改めてジョセフへ向き直った。


「それで、ジョセフ、君の願いはさっきの三つでいいのかな?」


太田の声を耳にすると、ジョセフは額から泉のように湧き出る脂汗を腕で拭った。
すぐ隣で永琳が質量を感じさせてしまうほど凄まじい眼力の伴った視線を、彼に浴びせ続けていたのだ。
見られるだけで寿命が減ってしまう。そんな感覚に襲われたジョセフは自分は冷静であることを告げると、
永琳の目から逃れるように、急いで自らの思考に没頭していった。


(チクショー! どうにも太田のペースに乗せられているような気がするぜ。反省しねーとな。
おかげで、橙や霖之助、そしてシュトロハイムに変な罪悪感を覚えるハメになっちまった。
とりあえず、この件に関しては、あいつらの墓を作るということで勘弁してもらうとして、問題は願いだ。
大方、太田の答えは予想はできるが、これについて確認しないと話は進まねえ)


オレは冷静だぜ、と永琳を安心させるように再び伝えると、ジョセフは飄々と太田を見据えた。


「へい、太田ちゃ~ん、さっきの単なる言い間違いだ。わりぃな。そして決まったぜ、オレの本当の願い」

「へー、興味深い。それじゃあ、その内容を聞こう」

「アラジンとかの話を初めて聞いた時から思っていたのよ。こういう時は、どうすればいいかって。
ズバリ、答えはこれ。オレの願いは、願い事を……」

「……あっ、叶える願い事を増やせっていう願いは、当然無しね。それに文句があるなら、今回の話は無かったということで」


ジョセフの言葉を待たずして、太田はその先を続けていった。
予想出来た反応ではあるが、がくりとジョセフは肩から崩れ落ちて、悔しがってみせる。


「あークソー! やっぱ、そうなるよなー」

「ンフフ、さすがにそれは僕も予想できたかな」

「……何か随分とオレの反応を気にかけてくるよね、太田ちゃん。そんなにオレのことが好きなら、
何故オレだけをさらってこなかったわけ? 他のやつらを巻き込む必要なんか全然ねーよな」

「その質問に答えるのが、一つ目の願いかな?」


雑談に興じて太田は自分たちの事情を話すつもりはないらしい。
願いを叶えるとか、とぼけた事をぬかす奴だから結構口が軽いのでは、と
思っていたジョセフの当ては残念ながら外れる形となってしまった。
もう少し太田との会話を続けて探りを入れるのもいいが、太田の言っていた「時間がない」も気になるところ。
実るか分からない果実を待って有限の時間を終えるよりかは、ここは素直に願いを言った方が有益なのかもしれない。
そう結論づけたジョセフは、いよいよをもって願いを言うことにした。


「それじゃあ、願いを言うぜ。さっき言ったスピードワゴンのじいさんとシーザーを生き返らせる願い、
そして俺たちの頭の中にある爆弾を取り除くという願いを、お前はどうやって叶えるつもりだったんだ?」

「へー、そう来たかー。確かにそれなら結構な旨味が得られるかもしれないね。ま、あればの話だけど」

「それで、どうなんだ?」

「その前に確認を一つ。それがジョセフの一つ目の願いでいいんだね?」

「ああ」


と、ジョセフが力強く頷くと、太田は黄色い歯を画面へと突き出し、その歓喜の情を露にした。


「Hail 2 U(君に幸あれ)! スピードワゴンとシーザーが生き返り、
皆の爆弾も解除されて、めでたしめでたしという夢を、ジョセフが一人見続けることになっただろうね」

「ちっくしょう! やっぱそういうオチかよ!」

「それで何か収穫はあったかな?」

「少し黙ってな、太田ちゃん」


と、悪態をつく一方で、ジョセフは頬に手をあてがいながら、考えを整理する。


(太田が提示した方法を、こっちがそっくりそのままトレースしていって無事に問題解決というわけにはいかねえか。
まあ、仮に今の質問に答えてくれたところで、その内容がスタンドみてえに個人の能力に由来するものだったら、
今の俺たちにはどうしようもねえんだけどよー。だが、元々そっちはついで。狙いは別にあるぜ。
今の願いで知りたかったのは、殺し合いを直接破綻させる願いを叶える気が太田にはあるかということ。
結果は、まぁ予想通り。それで二つ目の願いだ。直接が駄目なら、間接的に破綻させる願いってえのはどうだ?
しかし、知りたいことも、たくさんあるぜえ。殺し合いの目的、太田と荒木の居場所、何故この会談に時間に限りがあるのか、
そして俺の話を誰か聞いたとかではなく、何度も見返したという、その意味)


ややあって、ジョセフは頭を横に振った。相手の内情を訊ねても、意味がないことに気がついたのだ。
例え太田が本当のことを話してくれても、それが事実だと確認する術がジョセフにはない。
真偽の分からない情報を手に入れては、皆の間に疑心暗鬼を無意味に振りまくだけという結果にもなってしまう。
つまり、太田がちゃんと願いを叶える気がないと分かった以上、二つ目の願いについては、
ジョセフ達が確認を取れる内容でなければ、太田の言葉の信用度を計れないということだ。


それなら、当初の通り、間接的に殺し合いを破綻させる願いが叶えられるかに絞っていっていいだろう。
そして「間接的」という部分を、なるべく「直接的」に近づけて、荒木・太田の打倒へと繋げていきたい。
だが、あまり近づけすぎては、願い自体が先の例のように無益なものとなってしまう。
大切なのは線引きだ。こちらが有利になるように、かといって有利になり過ぎない。
そんな微妙なラインを慎重に吟味し、そして明確にし、最後の三つ目の願いへと役立てていかなければならない。


「おし! 決まったぜ、二つ目の願い」


ジョセフの顔は晴れやかとは程遠いが、その瞳の奥に決意という光を輝かせて、太田を見つめた。
太田はワイングラスに並々と注いだ赤ワインを一気に飲み干すと、興奮の色を隠せぬ表情でジョセフを受けて立つ。


「うん、聞こう!」

「二つ目の願いは、この殺し合いの参加者の今現在の居場所を教えてくれ。勿論、死んだ奴も含めてだぜ」

「ンフフ、さっきのことを警戒してか、随分と遠慮したものだなぁ。二つ目の願いは、本当にそれでいいの?」

「……ああ、いいぜ」

「それじゃあ、Hail 2 U(君に幸あれ)!」


太田はそう叫ぶと、参加者の位置情報を淡々と述べ始めた。
ジョセフ、てゐ、永琳ら三人は慌てて地図を取り出し、そこに言われた名前を記していく。
そうして全員の名前を書き終わったところで、改めてジョセフはその内容を検分した。


(俺がここで出会った奴らの位置は、大体合っているな。正直、地図の上側と左側の方は全然分からねえから
確認のしようもないが、太田は俺の反応を楽しんでいるような節があった。それなのにリサリサとおじいちゃんの名前を、
柱の男たちやディオ・ブランドーと同じ位置に持ってきていないってことは、その悪趣味な目的とは外れているってことだ。
つまり、この位置情報に関しては、それなりに確度があることだと思う。でなければ、わざわざ皆をバラけさせる意味がねえ。
まあ、柱の男達は全員一緒にいるみたいだがな…………)


柱の男達については気になるし、何よりも太田がこちらの動揺を誘うために嘘をついたとも考えられるが、
その可能性を論じる前に、まずは永琳らにこの情報の整合性を訊ねるべきだと、ジョセフは彼女に目を向ける。
しかし、永琳はジョセフの視線に気づかず、地図のD-5のところでペンを止めたまま、ずっとそこを睨んでいた。
いぶかしげに思ったジョセフは思わず疑問を口にする。


「おい、永琳! どうかしたか?」


その声にハッと我に返った彼女は慌ててジョセフに目線を移すと、口を開かずに、おもむろに首だけを横に振った。
その動作に一瞬、疑問を覚えたジョセフだが、すぐにその意味を理解できた。


「ああ、そう言えば、あんた喋っちゃ駄目なんだっけ? それでこの位置情報は合っていると思うか?」


永琳は無言のまま頷くことだけを答えとする。彼女から見ても、参加者の居場所に嘘は感じ取れなかったらしい。
となると、願いはちゃんと叶ったと言っていいだろう。柱の男達が全員集合していることを考えると、
ジョセフとしては頭が痛くなるばかりの思いだが、これでひとまずの前進だ。


「私はジョジョとほとんど一緒にいたからね、この情報から得られることは貴方と同じだと思うよ」


足元から突然聞こえてきた因幡てゐの声に、ジョセフは思わず飛びずさる


「うおっ!? お前、いたのかよ!?」

「いや、いたからね!! さっきから、ずっといたからね!! キツネ相手に私が大活躍したの忘れたの!?」

「あーそうねー、分かってるよー、覚えてるよー。ちょっとした冗談だろ、てゐ」

「はぁ~、まぁそれはいいけどさ、こっちの方はちゃんと分かってる? この情報が正確だとするなら……」

「そっちはマジで分かってるよ。その狙いもあって、さっきの願いを言ったんだからなあ」


全参加者の位置情報を把握している。それはつまり、太田たちはこの会場と参加者のことを監視しているということだ。
さすがにどんな方法でかまでは分からないが、荒木・太田の打倒を目指すなら、そちらへの注意も怠ってはならないだろう。
でなければ、肝心なところで奴らに足元をすくわれかねない。故に監視方法の早急な確認とその排除が必要となってくるが――。


(さて、三つ目の願いはどうする? それでいってみるか?)


ジョセフは永琳とてゐを脇に押しやり、再び思考に没頭する。


(まずは確認をしてみるか。一つ目と二つ目の願いで大体の指標はできた。
一つ、殺し合いを破綻させるような願いは、ちゃんと叶えられない。
二つ、殺し合いを破綻させない情報――参加者の現在地程度――は、問題なくこちらへと渡してくれる。
…………確認してみたが、結構微妙だな。クソ! 太田の言うとおり遠慮しすぎたかあ?
いや、でも、もっと踏み込んで願いが叶っていなかったら、今よりまずい状況になっていたかもしれねえ。
何にしても、後の祭りだ。今ある指標を頼りに、三つ目の願いを言わなければならない)


ジョセフが人目をはばからず頭を抱え込んでいると、太田は血色の良い顔にある病的なまでに痩せこけた頬をコミカルに歪ませ、
殺し合いの主催者として権威を高らかに鳴らしながら笑い声を発してきた。


「ンッフフ、悩んでいるところ悪いけれど、そろそろ時間も迫ってきている。三つ目の願いを聞こうか」

「まっ、待て! まだ考え中だ!」

「待て、というのが三つ目の願いかな?」

「だー!! やかましい!! 少し集中させろ!!」


ジョセフは必死の形相で言葉を吐き出すと、大慌てで考えに専念していった。


(クソ! どうする!? どうする!? 殺し合いを破綻させない、そして俺たちが有利になること。
何だ!? 何を願えばいい!? 監視方法か? いや、それは太田が殺し合いを進めていく上で必要なことだ。
それを奪うってえのは、太田にとっては破綻を意味するんじゃねえか? だったら、あいつらの内情を聞くか?
それで俺たちが何かを邪魔できるってわけでもないし、本当のことを話してくれるような気もする。
だが、そんな情報を得ても、俺たちがこの殺し合いで有利に動けるとも思えねえ。確かに色々と疑問は解決するがな。
なら、参加者の情報はどうだ? 誰が殺し合いに乗っているとか、誰それのスタンド能力とかは、結構重要だ。
しかし、それは他の参加者と出会って情報交換でもすれば、すんなりと解決しそうな気もする。
じゃあ、ここで発想の転換だ。情報ではなく現物を願う。飛びっきりのスタンド能力とか、会場を自由に素早く移動できる乗り物とか、
あるいは殺し合いに反対している奴らと連絡を取れる手段なんてえのも、面白いかもしれねえ。
……いや、これは俺たちにとって有利になり過ぎか!? 試してみる価値もありそうだが……。
ああ、クソ! 分からねえ! マジで本当に分からねえ! 俺は一体、何を願えばいい!!?)


チン、と太田は空になったワイングラスの縁を指で弾いた。
その音に意識を引き戻されたジョセフがパソコンの画面を見ると、太田は恋する女学生のようにうっとりとした眼差しをし、
その煌びやかな目とは正反対のような黄色い汚い歯を、アルコール臭い息と共に遠慮なくジョセフにさらけ出していた。
彼の醜悪な笑顔には、最早脅迫にも等しい不穏で不気味な色合いがある。どうやら時間切れのようだ。


ジョセフの考えは、まだまとまらない。最後に彼は藁にも縋る思いで、てゐに、永琳に目を向けてみた。
そうして、ジョセフは目を閉じ、ゆっくりと深呼吸をして、自分の考えを僅かな時で再び整理する。
そして次の瞬間、ジョセフは決然と目を見開き、迷いを払うかのように力強く声を発した。


「よし! 決まったぜ、太田! 三つ目の願い!」

「いよいよか。思うに、この三つ目こそがジョセフの本命なんだろう? ンフフ、それじゃあ、聞こうか」

「ああ、三つ目の願いは――」




      ――

   ――――

     ――――――――



「まさか、ジョセフがあんなことを願うなんてなあ」


ジョセフとの通信を終えた太田は自らの部屋で一人、興奮も冷め切らぬ様子で呟いた。
ジョセフの願いは、太田のどの予想をも裏切ってくれたのだ。そして同時に十二分にジョセフの魅力も伝えてきてくれた。
太田は過ぎ去ったジョセフとの語らいに思いを馳せ、とろけそうなほど恍惚とした表情を作る。


「太田く~ん、ちょっといいかな?」


と、そこに突然、太田の部屋の扉をノックしながらの荒木の声が聞こえてきた。
太田は驚愕のあまり、さっきの興奮もどこへやら、目を剥き出し、大口を開けて、叫び声にも似た声を上げる。


「え!? 荒木先生!? ちょ、ちょっと待って下さい!!!」


パソコンは未だ電源が点いたまま。おまけに太田は裸同然の格好と来ている。
とても悠長に荒木をお迎えする状態にはない。えらいこっちゃ、と太田は慌てて服を掴み、
パソコンのプラグを引っこ抜こうと手を伸ばす。しかし、どうやら太田は慌て過ぎたらしい。
次の瞬間、太田はドンガラガッシャーン、と大きな音を立てて、転んでしまったのだ。


「太田君! すごい音がしたけれど、大丈夫かい!?」


音を聞きつけた荒木は心配してか、部屋の主の声を待たずして、部屋に押し入ってきた。
荒木のいきなり登場に、泡を食って立ち上がった太田は、パソコンを何に使ってたか、急いで尤もらしい言い訳を考える。
だが、その場で荒木が発した疑問の声は、太田の予想とは随分とかけ離れたものであった。


「お、太田君は、どうして裸なんだい?」


見てみると、確かに太田は裸であった。先ほどの転倒の弾みで腰巻きのタオルが取れてしまったと見える。
太田は頭を掻きながら、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。


「すみません。荒木先生が来ると思ったら、つい……」

「僕が来ると思ったら、つい裸になってしまったのかい?」

「ええ、まぁ」


と、太田が答えると同時に、荒木はバタン! と大きな音で扉が閉め、ドタドタ! と大きな音を立てて廊下を走り去っていった。


「参ったなあ。荒木先生を怒らせてしまったかな?」


矢のように飛び去っていった荒木を目にした太田は、反省の意を込めて自らの頭をペチンと叩いた。


「確かに裸で人を出迎えるのは、些か以上に礼を失する。荒木先生が、あんな態度にでるのも無理はない。
あとで菓子折りでも持って謝りに行こう」


幸いにもパソコンの方には目を向けられなかったみたいだが、不幸にも荒木との確執が変な形で出来てしまった。
人生ままならないものだ、と太田は一人憂いの表情を見せる。
しかし同時に、それこそが人生の妙味でもある、と太田は一人ほくそ笑む。
人生とはお酒のように、時、場所、状況で味が変わってくるのだ。
だからこそ、面白くもあり、美味しいものに出会えた時には感動すら覚えてくる。
そしてそれは最早至福と言ってもいい、極上の体験だ。


「ンフフ、その為には、もっと、もっと『お酒』を醸さなきゃかな」


素っ裸で佇む太田は黄色い歯を剥き出しにして、舌なめずりすると、これからの宴に思いを寄せていった。



【D-4 香霖堂/真昼】

ジョセフ・ジョースター@第2部 戦闘潮流】
[状態]:精神消耗(大)、胸部と背中の銃創箇所に火傷(完全止血&手当済み)、てゐの幸運
[装備]:アリスの魔法人形×3、金属バット
[道具]:基本支給品、毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフ(人形に装備)、小麦粉、三つ葉のクローバー、香霖堂の銭×12、スタンドDISC「サバイバー」
[思考・状況]
基本行動方針:相棒と共に異変を解決する。
1:三つ目の願いは――!!
2:こいしもチルノも救えなかった・・・・・・俺に出来るのは、DIOとプッチもブッ飛ばすしかねぇッ!
3:シーザーの仇も取りたい。そいつもブッ飛ばすッ!
[備考]
※参戦時期はカーズを溶岩に突っ込んだ所です
※東方家から毛糸玉、綿、植物油、果物ナイフなど、様々な日用品を調達しました。この他にもまだ色々くすねているかもしれません。
因幡てゐから最大限の祝福を受けました。
※真昼の時間帯における全参加者の現在地を把握しました。
※三つ目の願いは後続の書き手の方にお任せします。


因幡てゐ@東方永夜抄】
[状態]:黄金の精神、精神消耗(大)、頭強打
[装備]:閃光手榴弾×1、スタンドDISC「ドラゴンズ・ドリーム」
[道具]:ジャンクスタンドDISCセット1、蓬莱の薬、基本支給品、他(コンビニで手に入る物品少量)
[思考・状況]
基本行動方針:相棒と共に異変を解決する。
1:太田!?
2:暇が出来たら、コロッセオの真実の口の仕掛けを調べに行く
3:柱の男は素直にジョジョに任せよう、私には無理だ
[備考]
※参戦時期は少なくとも星蓮船終了以降です(バイクの件はあくまで噂)
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※蓬莱の薬には永琳がつけた目盛りがあります。
※真昼の時間帯における全参加者の現在地を把握しました。

八意永琳@東方永夜抄】
[状態]:精神的疲労(小)、かなり濡れている(タオルで拭いてる)
[装備]:ミスタの拳銃(5/6)@ジョジョ第5部、携帯電話、雨傘、タオル@現地調達
[道具]:ミスタの拳銃予備弾薬(残り15発)、DIOのノート@ジョジョ第6部、永琳の実験メモ、幽谷響子アリス・マーガトロイドの死体、
永遠亭で回収した医療道具、基本支給品×3(永琳、芳香、幽々子)、カメラの予備フィルム5パック、シュトロハイムの鉄製右腕@第2部
[思考・状況]
基本行動方針:輝夜、ウドンゲ、てゐと一応自分自身の生還と、主催の能力の奪取。
       他参加者の生命やゲームの早期破壊は優先しない。
       表面上は穏健な対主催を装う。
1:・・・・・・
2:レストラン・トラサルディーに移動
3:しばらく経ったら、ウドンゲに謝る
4:柱の男や未知の能力、特にスタンドを警戒。八雲紫藤原妹紅に警戒。
5:情報収集、およびアイテム収集をする
6:計画や行動に支障が出ない範囲でシュトロハイムの事へ協力する
7:リンゴォへの嫌悪感
[備考]
※参戦時期は永夜異変中、自機組対面前です。
※シュトロハイムからジョセフ、シーザー、リサリサ、スピードワゴン、柱の男達の情報を得ました
※『現在の』幻想郷の仕組みについて、鈴仙から大まかな説明を受けました。鈴仙との時間軸のズレを把握しました
※制限は掛けられていますが、その度合いは不明です
※『広瀬康一の家』の電話番号を知りました
※DIOのノートにより、DIOの人柄、目的、能力などを大まかに知りました。現在読み進めている途中です
※『妹紅と芳香の写真』が、『妹紅の写真』、『芳香の写真』の二組に破かれ会場のどこかに飛んでいきました
※リンゴォから大まかにスタンドの事は聞きました
※真昼の時間帯における全参加者の現在地を把握しました。

○永琳の実験メモ
 禁止エリアに赴き、実験動物(モルモット)を放置。
 →その後、モルモットは回収。レストラン・トラサルディーへ向かう。
 →放送を迎えた後、その内容に応じてその後の対応を考える。
 →仲間と今後の行動を話し合い、問題が出たらその都度、適応に処理していく。
 →はたてへの連絡。主催者と通じているかどうかを何とか聞き出す。
 →主催が参加者の動向を見張る方法を見極めても見極めなくても、それに応じてこちらも細心の注意を払いながら行動。
 →『魂を取り出す方法』の調査(DIOと接触?)
 →爆弾の無効化。

※テーブルに橙、シュトロハイム、霖之助、藍のディパック(中は全員基本支給品のみ)、賽子×3、トランプセット(JOKERのみト
 リックカード)、マジックペン、焼夷手榴弾×2、飲みかけの茶が入った湯飲み(ジョセフのだけ茶柱)@現地調達が置かれています
 店内に橙の死体、霖之助の死体、秦こころの薙刀が突き刺さったまま仁王立ちのシュトロハイムの死体があります
 また、霖之助の側の椅子に宮古芳香の首が鎮座してます
 川の近くに藍の死体があります



168:星屑の巡り 絆げ靈夢の紅蒼詩 ――『絆』は『約束』―― 投下順 170:悪魔の円舞曲を踊りましょう
168:星屑の巡り 絆げ靈夢の紅蒼詩 ――『絆』は『約束』―― 時系列順 170:悪魔の円舞曲を踊りましょう
167:天よりの糸 ジョセフ・ジョースター 179:あやかしウサギは何見て跳ねる
167:天よりの糸 因幡てゐ 179:あやかしウサギは何見て跳ねる
167:天よりの糸 八意永琳 179:あやかしウサギは何見て跳ねる
157:第二回放送 荒木飛呂彦 188:太田がやってくる
157:第二回放送 太田順也 179:あやかしウサギは何見て跳ねる

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最終更新:2018年08月03日 00:14