【人文地理学】
- 人文地理学においては、1950年代から1960年代に起こった「計量革命」によって、科学的側面が急激に発達した。しかし、それは同時に人文社会科学的要素と自然科学的要素の矛盾を深めることになった。このような流れを受けて、1970年代に、計量モデルに基づく地理学への批判として登場したのが、人間主義的地理学である。それは「空間」を計量モデルによって分析するのではなく、「生きられた空間」として把握し、また「場所」のありようを「説明」するのではなく「理解」しようとするものであった。そのために、文学、音楽、美術、演劇などのアプローチを採用し、また哲学、心理学、人類学などの知見をふまえて、地域の「理解」を深めようとしている。この人間主義的地理学は、オギュスタン・ベルク、エドワード・レルフ、イーフー・トゥアンなどの研究者の背景をなしている。
【公害】
- 水俣病(発生は1956年)など激甚で大規模な産業公害が発生した日本では、宮本憲一や飯島伸子らによって1960年代から公害の被害が生物的弱者・社会的弱者に集中することが指摘されてきた。が、米国で環境思想が「生物的弱者・社会的弱者」を環境正義、環境リスク論の文脈で扱うことになるのは、それよりさらに後の話である。
- 今でこそ一般的になった「公害」という用語も、実は一般的になったのは比較的新しく、1960年代からにすぎない。英法におけるpub]ic nuisanceの訳語として導入されたといわれるが、工業生産にともなう排煙・大気汚染、水質汚濁などによる甚大な社会的災害を説明する用語として、私企業による環境汚染行為を「公害」と総称するようになった(庄司・宮本1964)。
- 公害問題の発生にはいくつかの歴史的段階がある。最も初期の頃から発生していたのが水俣病をはじめとする工場公害であり、公害裁判や公害規制等によってその後、ある程度は緩和された。その一方で、都市化が急速に進行し、大量消費型のライフスタイルが浸透してくると、生活排水や産業廃棄物,自動車による排気ガスや騒音・振動による公害のように、都市の市民生活自体が公害の発生に関与する、都市・生活公害が顕著になってくる。同時に、このタイプの公害発生においては、空港整備、新幹線整備、道路建設などをおこなう行政組織自体が、公害発生の責任を問われるようになってくる。これらが問題となったのは、1960年代以降のことである。
- 1960年代及び70年代の都市・生活公害対策の結果として、特に二つの成果を確認することができる。第一に、環境保護が国家的行動の一部となり、排気ガスや排水に部分的にかなり高率の税が課されたことが(この税金は喘息患者らへの賠償にあてられる)、きわめて顕著な効果をもたらしたこと。第二にそのことが、濾過装置から触媒式排気ガス浄化装置にいたる、環境技術の発展をもたらし、それによって日本はこの分野で先進的役割を獲得したこと。
【民衆思想】
- 1960年代の岩波瞥店の『講座哲学」(全18巻)では第17巻が「日本の哲学」に充てられて古代以来の日本思想が扱われていたが、同書店の1980年代の「新講座哲学」(全16巻)では削除されている。1960年代には、民衆世界からの「考え」に注目する“視野の広さ”があったが、70年前後からの哲学界の大勢が“思想=西洋哲学”に“純化”する傾向が現れるようになってくる。
【生命地域主義】
- 1960年代から70年代の米国では、生命地域主義が生まれる。この土壌となったのが、対抗文化(Counter Culture)である。ニューレフト、ヒッピー、コミューン生活者たちは、大量生産・大量消費社会のなかで競争に明け暮れる中産階級のライフスタイルを拒否し、オルタナティヴな社会の建設を試みた。生命地域主義は、この試みを人と自然の共生およびサブシステンスの側面から考える過程で生まれた思想であり、運動である。
【スピリチュアリティ】
- 「スピリチュアリティ(霊性)」とは、元来特定宗教の枠内で一定の規範にのっとって経験されるものだと考えられていた。それが、既存の宗教伝統や教団組織と対立したかたちで、1960 年代のアメリカ、また1970 年代の先進諸国に、「スピリチュアリティとは、特定の宗教的枠組みを越え個々人が自由に探求し経験できるものである」という考え方が現れだした(島薗)。つまり、宗教的枠組みによらなくても、個人が経験したり感じられたりするものであると解釈され、近代科学や思想に対するアンチテーゼとしての側面も持ち合わせていると見なされるようになったのである。このような考え方に則って理解される「新しいスピリチュアリティ」の特徴については、以下のように述べている。
「スピリチュアリティ」の語は広い意味での宗教性に関わっているが、宗教に関わって用いられる場合でも、体系化された教義や組織としての宗教ではなく、特に“個人に現れた宗教性”を指すのに用いられる。そして、体系的な広がりを持った宗教とは独立して、その「外部で関心を持たれ、実践されるような事柄もこの語で示すことが多い。とりわけ個人に関わる事柄として、スピリチュアリティが語られるのが特徴だ。
【フェミニズム】
- フェミニズムは19世紀末から20世紀初頭にかけて男女の法的、政治的平等を主張した第一波のフェミニズムと、1960年代からは男女の社会的関係を「支配-服従」関係として捉え、社会的、経済的のみならず文化や意識にまで踏み込んで男女関係の構造を捉えようとする第二波のフェミニズムに大きく分けられる。
【アニマル・ウェルフェア】
- 飼育動物の生活の質を向上させるような試みが、系統的かつ客観的評価を伴って行われたのは、1960年代にHarlowらアメリカの発達心理学者によってだとされている(Young2003)。心理学は1960年代までに研究施設における数々の実験を通じ大きく発展したが、その中で実験施設にて単独飼育される霊長類の多くが異常行動を示し、無気力な状態に陥るケースが観察された。そこで、彼らは照明設備や、他個体との社会的接触機会を制限するといった環境の簡素化が動物にいかなる影響を与えるかというそれまでの実験を切り替え、様々な変化を飼育環境に加えることで異常行動の表出がどの程度抑制可能となるかに関しての実験をおこなった。)。しかしこれら一連の実験は、研究目的の追求を主眼としており、必ずしも福祉的観点に基づいておこなわれた訳ではない。
【トランスパーソナル心理学】
- トランスパーソナル心理学とは、1960 年代に展開し始めた心理学の新しい潮流である。「行動主義心理学」、「精神分析」、「人間性心理学」に続く第四の心理学とされている。「人間性心理学」の確立に中心的役割を果たした、アブラハム・マズローとアンソニー・スティッチの二人によって提起された。マズローによれば、トランスパーソナルとは「個体性を超え、個人としての発達を超えて、個人よりももっと包括的な何かを目指すこと」を指す。
【進化論】
- 1960年代後半以降、非ダーウィン主義的進化論(理論的に自然選択とはは異なる)が登場する。木村「中立遺伝子進化説」、グールド/エルリッチ「断続平衡説」、リン・マーグリス「細胞内共生進化説」など。
【カトリック】
- 1960年代、カトリックは宗教としての形骸化と自己絶対化を反省し、戦争や貧困による人間の現実的苦悩に焦点をあらためてあてるとともに宗教的寛容の精神を強調する中で、異なる宗教や異なる価値観の思想との対話と協調の方針(エキュメニカル運動)を明確にした(飯坂1981)。これは、宗教界の唯物論・マルクス主義思想の評価の変化による。つまり、それらが単純に反宗教運動であると敵視することをやめ、むしろ積極的に対話・協調のパートナーと位置づけたことによる(クラッグマン1980)。
【「生存(survival)」】
- 1960年代は「生存」という語句が盛んに用いられた。このことについて、フロムは1960 年代に「生存ということばほどネクロフィリック(死体愛的)なことばはない」とイリイチに語っている。「もっともぞっとさせられたことばは生存である。人類の生存、人類の一部の生存、文化の生存〔存続〕といったかたちで用いられている生存ということばである」。これを受けて、生きてゆくということは、生存(survival)のための苦闘、あるいは、生命を手に入れるための競争に等しいものと考えられるようになった、とイリイチは言う。「いまでは、もう一世紀以上にわたって、『生命の維持』が人間の行動や社会組織の究極の動因であるかのごとくに言いたてることが習慣となってしまっている」と。フーコーの「生政治」の概念と近接する批判である。