異人殺しのフォークロア
一 異人の両義性について(p13)
「私がここで検討しようとしているのは[…]民俗社会にとっての『他者』つまり『異人』について」
「定期的もしくは不定期的に定住民の社会を訪れる旅する者たち、とくに六部や座頭、山伏、巫女」
「定期的もしくは不定期的に定住民の社会を訪れる旅する者たち、とくに六部や座頭、山伏、巫女」
「異人に対して定住民がどのようなイメージをいだいていたのか、異人についての観念が民俗社会のなかでどのような形で機能していたのか、といったことを、伝説や昔話の分析を介して垣間見ようとした」
「同じ社会にあっても時と場合に応じて、異人を歓待したり、排除したりしていた」
「古くは異人を歓待するという面が強かったが、次第にそれが忌避・虐待(排除)の面の方が前面に出てくるようになったという異人観の一般的傾向」
「古くは異人を歓待するという面が強かったが、次第にそれが忌避・虐待(排除)の面の方が前面に出てくるようになったという異人観の一般的傾向」
民俗社会の「忌まわしい側面」→「異人殺し」
二 「異人殺し」の伝説(p18)
「座頭殺しの伝説は、しばしば座頭たちが村人たちによって殺されたという事実、もしくは殺されることがあったとしても不思議ではないという村びとの意識の中から成立し、そしてそれにささえられていた」
「民俗社会は『異人殺し』という“事実”を外部のものに隠蔽する努力を試みる」
「それを語ることをタブーとしたり、“事実”を変形させた外部向けの伝説を作り出す」
「それを語ることをタブーとしたり、“事実”を変形させた外部向けの伝説を作り出す」
三 異人殺しのメカニズム(p25)
異人殺しとは、「民俗社会内部に生じた『異常』―例えば、社会全体やその内部の特定の集団に降りかかった災厄や個人に降りかかった病気や死など―の説明体系」
「[シャーマンの]託宣を“真実”と村びとが信じたそのとき、村びとの意識の中に、“歴史的事実”としての『異人殺害事件』が発生したといえる」
「なぜ村内の『異常』の原因をほかの神霊ではなく、異人の怨霊にもとめたのだろうか」
「『異人殺し』を発生させることで、人々はその家の盛衰という『異常』、子孫に生じた肉体的・精神的『異常』を美味く説明することができ、自分たちの嫉妬の念をいやすことができた」
「その家をさまざまな形で忌避し排除し差別することさえ可能となる」
「『異人殺し』を発生させることで、人々はその家の盛衰という『異常』、子孫に生じた肉体的・精神的『異常』を美味く説明することができ、自分たちの嫉妬の念をいやすことができた」
「その家をさまざまな形で忌避し排除し差別することさえ可能となる」
四 家の盛衰とその民俗的説明
家の盛衰をめぐる民俗的・超越的説明の体系
民俗社会(内)/民俗社会(外)
忌避(無)/忌避(有)
忌避(無)/忌避(有)
五 変形されていく「異人殺し」伝説
「伝承は変形されることを通じて別の伝承へと姿を変える」
「変形された話が村びとたちに外部向けの話として了解された形で読み継がれ語り継がれているならば、そのときは明らかにフォークロアといいうる」
六 現実の“表層”と“深層”
「民俗社会は、表層の現実に意味を賦与していくときには『零度に近いテキスト』を産出するが、深層の現実に意味を賦与していくてきは両義的テキストを利用する」
七 「異人殺し」伝説から「神霊虐待」伝説へ
民俗学の一般的見解
「来訪する『異人』たちを『来訪する神』と重ね合わせて考える観念の衰退」→異人殺し
「来訪する『異人』たちを『来訪する神』と重ね合わせて考える観念の衰退」→異人殺し
「『異人殺し』伝説の発生(流行?)は『異人観』の変化による村びとたちの『異人』に対する具体的行動の変化と対応している」
「むしろここの民俗社会では、『異人殺し』伝説は逆に非『異人殺し』伝説や『異人歓待』伝説へと変形されることのほうが多いのではないだろうか」
「むしろここの民俗社会では、『異人殺し』伝説は逆に非『異人殺し』伝説や『異人歓待』伝説へと変形されることのほうが多いのではないだろうか」
八 「こんな晩」―「異人殺し」の昔話
「伝説は具象的な事柄をかたる『語りもの』、いわば表層の現実を語る民俗社会の“歴史叙述”」
「昔話は個々の民俗社会に存在する個別的・具体的事物との結合から切り離された抽象的・普遍的事柄をかたる『語りもの』、つまり民俗社会の人びとの深層の現実を語る“歴史叙述”」
「昔話は個々の民俗社会に存在する個別的・具体的事物との結合から切り離された抽象的・普遍的事柄をかたる『語りもの』、つまり民俗社会の人びとの深層の現実を語る“歴史叙述”」
昔話は「単純化することを通じて主題つまりメッセージの純化が図られている」
「民俗社会の人びとが『異人』を潜在的に怖れており、『異人』を虐待したならば神秘的制裁を受けるであろうと考えていた、ということを明らかにしている」
「裏返してみれば、人びとは彼らに〈敵意〉を、さらにいえば〈殺意〉さえいだいていたということを意味している」
「民俗社会の人びとが『異人』を潜在的に怖れており、『異人』を虐待したならば神秘的制裁を受けるであろうと考えていた、ということを明らかにしている」
「裏返してみれば、人びとは彼らに〈敵意〉を、さらにいえば〈殺意〉さえいだいていたということを意味している」
九 「大歳の客」―「異人殺し」の昔話の変容
「『異人殺し』という忌まわしい要素を伝説や昔話から抹殺しようとしつつ、しかしなおかつその記憶を伝承にとどめようとしたとき、異人殺しは異人歓待に変えられ、殺害された異人の所持金は急死した異人の黄金化、もしくは死という描写を欠いたなぞめいた異人の黄金化へと変形される」
十 「異人殺し」のフォークロアとは何か
「『異人』は社会のシステムを運営していくために、具体的行動のレヴェルでもその“暴力”と“排除”の犠牲になり、また象徴的・思弁的レヴェルでもその“暴力”と“排除”の犠牲にされていた」
「民俗社会は外部の存在たる『異人』に対して門戸を閉ざして交通を拒絶しているのではなく、社会の生命をいじするために『異人』をいったん吸収した後に、社会の外に吐き出すのである」
「民俗社会は外部の存在たる『異人』に対して門戸を閉ざして交通を拒絶しているのではなく、社会の生命をいじするために『異人』をいったん吸収した後に、社会の外に吐き出すのである」