▽異人論への人類学的視点―折口信夫の「マレビト」再考(167)
一 はじめに
「民俗学者たちは、しばしば指摘されるように、分析概念と分析対象を区別するという学問の出発点ともいうべき事柄に対して、概して無頓着である」(168)。「個別的な民俗的意味に規定された語」は、抽象化によって「分析概念として一般化」(169)されることが必要である。
二 分析概念としての「マレビト」
折口信夫の「マレビト」概念は、「紛れもなく彼が発明した分析概念もしくは分析のための仮説モデルであ」る。では、それは「どのようなものであり、そうした分析概念を用いてどれだけ民俗的もしくは歴史的事象が分析できるか」(171)。
鈴木満男は「マレビト」概念には二つのモデルが含まれていると指摘する。
▼「第一次モデル」=「神話としてのマレビト」
「トコヨ」から来臨し、村びとに祝福を与え(或いは訓戒を垂れ)生活の安泰をもたらすという、神話的観念に支えられた来訪する神としての「マレビト」
▼「第二次モデル」=「歴史としてのマレビト」
「神話としてのマレビト」を現世に移したものとしての「ホカイビト」(放浪の神人)、つまり神を背負って村々を巡り歩き祝福を与える神人=芸能者としての「マレビト」
(ただしこれらは「別個の民俗的・歴史的現象から抽出されたもの」であることに注意(172))
鈴木満男は「マレビト」概念には二つのモデルが含まれていると指摘する。
▼「第一次モデル」=「神話としてのマレビト」
「トコヨ」から来臨し、村びとに祝福を与え(或いは訓戒を垂れ)生活の安泰をもたらすという、神話的観念に支えられた来訪する神としての「マレビト」
▼「第二次モデル」=「歴史としてのマレビト」
「神話としてのマレビト」を現世に移したものとしての「ホカイビト」(放浪の神人)、つまり神を背負って村々を巡り歩き祝福を与える神人=芸能者としての「マレビト」
(ただしこれらは「別個の民俗的・歴史的現象から抽出されたもの」であることに注意(172))
三 歴史的モデルとしての「マレビト」
折口の「マレビト」論のユニークさは、これらの「二つの異なる民俗的・歴史的現象を、前者の『マレビト』概念から後者の『マレビト』概念へと歴史的過程を示すものとして規定したことにある。」(173)
(「海の神―海人の神人―海人」、「山の神―山人の神人―山人」)
(「海の神―海人の神人―海人」、「山の神―山人の神人―山人」)
四 超歴史的モデルとしての「マレビト」
しかしこのような「一系進化論的」な折口の「マレビト」概念を「そっくりそのまま分析概念として受容することはでき」ず、「改修」が必要である。
① 折口の概念を分析概念として把握した上で、鈴木の二つの概念から時代性=歴史性を抜き取り、超歴史的なモデルとして並置すること(「儀礼上のマレビト」と「人間=異人としてのマレビト」)
② 人びとに祝福を与えるために来訪する「神霊」や「異人」(=「正」のマレビト)を支えるコスモロジー、及び人びとから災厄をもたらすものとして忌避され排除された「神霊(妖怪)」や「異人(ごろつき)(=「負」のマレビト)を支えるコスモロジー、それぞれの超歴史化・一般化
以上の作業を経て、「マレビト」概念は①儀礼/異人、②生/負の二軸によって四つの概念に分類される。
① 折口の概念を分析概念として把握した上で、鈴木の二つの概念から時代性=歴史性を抜き取り、超歴史的なモデルとして並置すること(「儀礼上のマレビト」と「人間=異人としてのマレビト」)
② 人びとに祝福を与えるために来訪する「神霊」や「異人」(=「正」のマレビト)を支えるコスモロジー、及び人びとから災厄をもたらすものとして忌避され排除された「神霊(妖怪)」や「異人(ごろつき)(=「負」のマレビト)を支えるコスモロジー、それぞれの超歴史化・一般化
以上の作業を経て、「マレビト」概念は①儀礼/異人、②生/負の二軸によって四つの概念に分類される。
五 「マレビト」の人類学に向けて
「現実の社会ではこれら四つのマレビト概念は互いに影響しあい、変形しあうことで、ダイナミックな動きを示している」。「しかし、それらのマレビトを結び合わせ織り上げていくところに、真の意味でのマレビトが姿を現すのだといえるかもしれない。」(178)
▽簔笠をめぐるフォークロア―通過儀礼を中心にして(181)
▼誕生儀礼における簔笠
「エナ〔=胎盤〕が簔笠に相当するものとみなされ、赤子はあの世からこの世への移動のための旅装束としてのエナをかぶって生まれてくる。エナ=簔笠のメタファーは誕生という死から生への社会的境界を越えるための道具である。それゆえ、それを生のメタファーともいうことができる。」(212)
「エナ〔=胎盤〕が簔笠に相当するものとみなされ、赤子はあの世からこの世への移動のための旅装束としてのエナをかぶって生まれてくる。エナ=簔笠のメタファーは誕生という死から生への社会的境界を越えるための道具である。それゆえ、それを生のメタファーともいうことができる。」(212)
▼婚姻儀礼における簔笠
「娘から嫁への社会境界を越えるための道具であり、社会構造から一時的隔離、儀礼的な死と再生(母胎回帰)を示すしるしである。」
「娘から嫁への社会境界を越えるための道具であり、社会構造から一時的隔離、儀礼的な死と再生(母胎回帰)を示すしるしである。」
▼葬送儀礼における簔笠
「生者の世界から死者の世界へという社会的境界を越えるための道具であ」り、「生から死への移動中にあることのしるしともなる。ここでの簔笠は死者もしくは死のメタファー」である。
「生者の世界から死者の世界へという社会的境界を越えるための道具であ」り、「生から死への移動中にあることのしるしともなる。ここでの簔笠は死者もしくは死のメタファー」である。
「通過儀礼における簔笠は、社会的境界を越える象徴的な旅の装束であり、それは日常生活から儀礼的に離脱しているしるしである。いわば、簔笠とは日常生活から隠遁し、儀礼的に見えなくなった状態をあらわしている。」
「ある社会的もしくは儀礼的状態から別の[…]状態への移行期間、つまり忌みごもり〔=「ケ」⇔「ハレ」の移行のための隔離〕の期間に簔笠が用いられる」。(214)
「ある社会的もしくは儀礼的状態から別の[…]状態への移行期間、つまり忌みごもり〔=「ケ」⇔「ハレ」の移行のための隔離〕の期間に簔笠が用いられる」。(214)