亀山研ゼミ発表
2012年10月29日
学部3年 新井栞
2012年10月29日
学部3年 新井栞
月経と文化のかかわりについて
武谷雄二著『月経のはなし 歴史・行動・メカニズム』の第1章「月経と魔女狩り ――偏見の歴史のなかで」の要約を行い、月経がかつてどのように文化的に位置づけられてきたかについて考察を行う。
Ⅰ 要約
古代社会における月経
正体不明の出血であり、不吉なもの、不浄なもの、忌むべきものといったネガティブな見方をされることが多かった
例)狩猟採集において女性は狩猟用具に触れる、月経血が獲物に触れる=厳しいタブー
一方で、子孫繁栄のシンボルともされる
例)狩猟採集において女性は狩猟用具に触れる、月経血が獲物に触れる=厳しいタブー
一方で、子孫繁栄のシンボルともされる
古代の月経に対する解釈
紀元前1550年ごろのエジプトの医学書「エーベルス・パピルス」によると
「余剰になった血液中の栄養物を排出するために血液が泡状になって流出してきたもの」(P36)
古代ギリシャの医師ヒポクラテスによると
「体内の有害な体液を排出することで体を健康に保つために起こる」(P36)
紀元前4世紀のギリシャの哲学者アリストテレスによると
「月経血はヒトの体すべてのものになる成分を含んでいる」(P38)
→人間の生命は精液と月経血が固まってつくられるものである
→このアリストテレスの説が否定されたのは17世紀半ば
(現在のような月経に対する知識が定着したのは20世紀半ばになってから)
「余剰になった血液中の栄養物を排出するために血液が泡状になって流出してきたもの」(P36)
古代ギリシャの医師ヒポクラテスによると
「体内の有害な体液を排出することで体を健康に保つために起こる」(P36)
紀元前4世紀のギリシャの哲学者アリストテレスによると
「月経血はヒトの体すべてのものになる成分を含んでいる」(P38)
→人間の生命は精液と月経血が固まってつくられるものである
→このアリストテレスの説が否定されたのは17世紀半ば
(現在のような月経に対する知識が定着したのは20世紀半ばになってから)
月経に対する世界各地の迷信
ほとんどの宗教の教えや民族の伝承では、月経中の女性には魔力が宿っており、月経血はすべての生き物に対し有害で、月経中の女性を隔離しなければならないと信じられてきた
例)南アフリカのカフィール族 … 月経中の女性が牛乳を飲むとウシが死ぬ
ローマの歴史家大オウリニウス … 「月経に触れるとあたらしいぶどう酒が酸っぱくなる、ぶどうの木はしおれる、草は枯れる、種は生えなくなる、果実が木から落ちる、鏡は曇る、ナイフは切れなくなる、ミツバチは死んでしまう、イヌは凶暴になる」(P42)
これを逆手にとってさまざまな病気の治療として用いられることも
なぜこのような迷信が広く信じられてきたのか?
→「月経に全く興味を示さない男性が社会を先導してきた」(P44)ため
例)南アフリカのカフィール族 … 月経中の女性が牛乳を飲むとウシが死ぬ
ローマの歴史家大オウリニウス … 「月経に触れるとあたらしいぶどう酒が酸っぱくなる、ぶどうの木はしおれる、草は枯れる、種は生えなくなる、果実が木から落ちる、鏡は曇る、ナイフは切れなくなる、ミツバチは死んでしまう、イヌは凶暴になる」(P42)
これを逆手にとってさまざまな病気の治療として用いられることも
なぜこのような迷信が広く信じられてきたのか?
→「月経に全く興味を示さない男性が社会を先導してきた」(P44)ため
宗教における月経のとらえ方
- ユダヤ教
古代バビロニアの聖典に登場する女神イシュタルには「満月に月経を迎えている月の女神」(P49)という見方もある
女神が月経を迎えている満月の日はsabuttuと呼ばれ、不吉な日であり、どのような労働もしてはいけないとされた
→ユダヤ教やキリスト教ではサバスsabbathとして休息日になった
月経中の女性には魔力があり、悪魔が取りつくのを避けるために隔離する
=「ニダー」
月経後や分娩後に泉や地下水の水をためた「ミクバ」に浸かって身を清める
女神が月経を迎えている満月の日はsabuttuと呼ばれ、不吉な日であり、どのような労働もしてはいけないとされた
→ユダヤ教やキリスト教ではサバスsabbathとして休息日になった
月経中の女性には魔力があり、悪魔が取りつくのを避けるために隔離する
=「ニダー」
月経後や分娩後に泉や地下水の水をためた「ミクバ」に浸かって身を清める
- イスラム教
ミクバと同様に、月経や分娩、性交の後に全身沐浴で身を清める
=「グスル」
(こうした全身沐浴の習慣は感染症予防や衛生状態の向上にも役立つ)
月経中の女性は宗教的儀式に参加できない
→これは妊婦、病人、高齢者と同じ待遇
→「月経中の女性のみを差別するというよりは一般の弱者と同じように扱」(P53)う
=「グスル」
(こうした全身沐浴の習慣は感染症予防や衛生状態の向上にも役立つ)
月経中の女性は宗教的儀式に参加できない
→これは妊婦、病人、高齢者と同じ待遇
→「月経中の女性のみを差別するというよりは一般の弱者と同じように扱」(P53)う
- キリスト教
月経に対して特別な規約はないが、欧米では月経中の女性には特別な魔力があると信じられてきた
→キリスト教の信者は暗黙のうちに様々な制約を女性に課してきた
例)月経中の女性の教会への入場を禁じる
(現在のカトリック教会の見解ではこれが偏見であったことを認めている)
→キリスト教の信者は暗黙のうちに様々な制約を女性に課してきた
例)月経中の女性の教会への入場を禁じる
(現在のカトリック教会の見解ではこれが偏見であったことを認めている)
- 仏教
「仏教の教えでは、月経は肯定や否定の対象にならない」(P54)
しかし、ヒンズー教と混交されてきた部分がある
しかし、ヒンズー教と混交されてきた部分がある
- ヒンズー教
月経中の女性は不浄または穢れており、一部の部族では呪いとみなす
→月経中の女性は隔離され、休息をとらねばならなかった
月経が終われば穢れや呪いは取り払われる
一方で、初潮を迎えた女性に贈り物をして祝う風習も
さまざまな宗教がこのように女性の社会参画に規制を加えてきたのは、「若い女性の体を庇護する」(P56)ためでもあった
→月経中の女性は隔離され、休息をとらねばならなかった
月経が終われば穢れや呪いは取り払われる
一方で、初潮を迎えた女性に贈り物をして祝う風習も
さまざまな宗教がこのように女性の社会参画に規制を加えてきたのは、「若い女性の体を庇護する」(P56)ためでもあった
魔女狩りと月経
魔女が誕生したのは人類誕生とほぼ同時期
魔女が起こすとされる災厄は月経血が起こすとされる迷信とオーバーラップする部分が多々あった
カトリック教会はもともと魔女に対して寛大な態度をとっていたが、12世紀に入り、「魔女行為は虚偽であり、悪魔が押しつけたもの」(P59)とする見解を出した
また、当時の権威者たちは「月経血には不吉なパワーがある」ことを明言した
12世紀に勃発した異端運動をきっかけに横行した魔女狩りは、多くの女性を巻き込んだ
「月経を不浄とみなすことで女性そのものの尊厳、自律性まで否定してきた」(P60)
魔女が起こすとされる災厄は月経血が起こすとされる迷信とオーバーラップする部分が多々あった
カトリック教会はもともと魔女に対して寛大な態度をとっていたが、12世紀に入り、「魔女行為は虚偽であり、悪魔が押しつけたもの」(P59)とする見解を出した
また、当時の権威者たちは「月経血には不吉なパワーがある」ことを明言した
12世紀に勃発した異端運動をきっかけに横行した魔女狩りは、多くの女性を巻き込んだ
「月経を不浄とみなすことで女性そのものの尊厳、自律性まで否定してきた」(P60)
近代の迷信
近代に入っても月経への迷信はなくならなかった
例)1878年医学雑誌British Journal of Medicine … 「月経時にある女性はベーコンを腐敗させることがある」(P61)
1920年ウィーン大学の教授 … 「月経時の女性の汗、唾液、血液中に『月経毒』が存在し、花を枯らす作用がある」(P62)
有史以来続いてきた迷信を払拭するのは容易なことではなかった
例)1878年医学雑誌British Journal of Medicine … 「月経時にある女性はベーコンを腐敗させることがある」(P61)
1920年ウィーン大学の教授 … 「月経時の女性の汗、唾液、血液中に『月経毒』が存在し、花を枯らす作用がある」(P62)
有史以来続いてきた迷信を払拭するのは容易なことではなかった
日本における月経
多くの地方では「別屋」「仮屋」と呼ばれる月経中の女性を隔離する小屋があった
→月経期にある女性は絶対に妊娠しないため、隔離することで休息をとらせる
初潮を迎えるとお赤飯を食べるという風習
→赤飯には凶事に食べることで邪気を払い清めるといった作用も持つ
神道では月経を不浄や穢れとみなし、女性は神職には就けなかった
(穢れとは「理想でない状態」、身体的にいえば健康でない状態を指す)
→月経期にある女性は絶対に妊娠しないため、隔離することで休息をとらせる
初潮を迎えるとお赤飯を食べるという風習
→赤飯には凶事に食べることで邪気を払い清めるといった作用も持つ
神道では月経を不浄や穢れとみなし、女性は神職には就けなかった
(穢れとは「理想でない状態」、身体的にいえば健康でない状態を指す)
Ⅱ 感想と疑問
近代まで月経に対する迷信が横行していたことには驚いた
→このような迷信が払拭されたきっかけはなんだったのか?
現代において男性はどの程度月経について理解しているのか?
→このような迷信が払拭されたきっかけはなんだったのか?
現代において男性はどの程度月経について理解しているのか?
Ⅲ 参考文献
「月経のはなし 歴史・行動・メカニズム」武谷雄二著
2012年3月25日 中央公論新書発行
2012年3月25日 中央公論新書発行
Ⅳ 発表の際に挙げられた質問
どの範囲の性現象を卒論で取り扱うつもりなのか?
(社会的なものor風俗的なもの、世界or日本、伝統or現代)
現代での月経はどのように扱われているのか?
月経時の女性の隔離がどのような時期にどのような方法で行われていたのか?
(差別と保護の両方の側面を示す事例はないのか?)
疑問の部分の「現代において男性はどの程度月経について理解しているのか?」について、「どの程度」ではなく「どういうものとして」と書いたほうが分かりやすい
(社会的なものor風俗的なもの、世界or日本、伝統or現代)
現代での月経はどのように扱われているのか?
月経時の女性の隔離がどのような時期にどのような方法で行われていたのか?
(差別と保護の両方の側面を示す事例はないのか?)
疑問の部分の「現代において男性はどの程度月経について理解しているのか?」について、「どの程度」ではなく「どういうものとして」と書いたほうが分かりやすい