沈んだ眸(ひとみ)を持った男であった。
恨み。辛み。憎しみ…様々な負の感情が入り混じった……。
否(いいや)。
何もだ。
何も信じちゃいない『懐疑(かいぎ)』の眸(ひとみ)だ。
信じる者は、己一人と言う『独善(どくぜん)』の黒光りだ。
白のスーツと。
黒のマントの。
吸血鬼を思わせる、その風貌(ふうぼう)…。
『 ヴィクター = 劉 』 … … 。
人呼んで…。
『 D r . 劉 』 … … っ 。
その『 Dr.劉 』が、『 全身を包帯で覆われた大男 』を引き連れて、
今、『 ジ・ハンドレッド 』の前に現れたッ!!
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○超鋼戦機カラクリオー外伝
クロガネの賛歌・番外 ー 地下プロレス最期の日 ー
第 2 話 「 南 米 よ り 死 の 香 り を 率 い て 」
劉と大男はリングに上がる。
そして劉はハンドレッドにこう言う。
「久しいな、ハンドレッド。」
ハンドレッド。
「誰かと尋ねるまでも無い。」
「なるほど。久しいな、悪魔の頭脳を持つ科学者よ。」
劉。
「この度。お前に『最期の日』を迎えてもらう事になる。」
ハンドレッド。
「隣のミイラ男が、お前を『ブッコロ死』する。と、でも言いたげだな。」
劉。
「『デビル・クラーケン』」
「彼を呼ぶ時は、そう呼びたまえ。」
ハンドレッド。
「生憎(あいにく)。ワシに『敗北の二文字』は似つかぬ言葉でな。」
「その『イカ男』とやらでは…。少々荷が重く。そして天に唾(つば)するかの如き話だ。」
劉。
「『デビル・クラーケン』だ。」
「イカ男でもタコ八郎でもない。」
「もう一度言おう…。」
「 改 造 人 間 …… 。 」
「 デ ビ ル ・ ク ラ ー ケ ン ! ! 」
そう言うと、デビル・クラーケンが猛る!!
「 『 ビ シ ャ ォ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ ウ ! ! ! 』 」
ハンドレッド。
「威勢だけは一級品。だがな、Dr.劉。」
「『だけど、喧嘩はからっきし』では、三級品と相成るぞ?」
劉。
「その打たれ強さに『嗚呼、南無三だ』と嘆き難儀するのは、お前だよ、ハンドレッド。」
ハンドレッド。
「ならば、その難儀(作麼生=そもさん)…。」
「『説破(せっぱ)』して仕(つかまつ)ろう…。」
ッ
ッ
ハンドレッドが叫ぶ!!
「 『 行(ゆ) く ぞ 、 デ ビ ル ・ ク ラ ー ケ ン ッ ッ ! ! 』 」
デビルクラーケンが戦闘態勢に入る!
「 『 フシャァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ア ! ! ! 』 」
そ
の
時
で
あ
っ
た
!
「 『 待 て ぃ ッ ッ ! ! 』 」
ハンドレッドが振り向く。
「何者ッ!我等の死合に水をさすとはどういうつもりだ!!」
観客がざわめく。
「 『 華 ッ ッ ! ! 』 」
「なんてぇ華だ…!!」
「華のある男が割って入りやがった!!」
「おい、あの男の隣…!」
「蔵金(くらがね)だ!蔵金芯太郎(くらがね しんたろう)だ!!」
「日本地下プロレス協会会長の蔵金芯太郎を連れ添っているぞ!!」
蔵金は嗤(わら)う
「ヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!」
「ヒィーヒッヒッヒッヒッヒッヒッヒ!!」
「皆さん驚いておりますなぁ。」
「ねぇ?『辰巳(たつみ)』さん??」
辰巳と呼ばれる男が蔵金にこう言う。
「アハ♪アハハ♪」
「成程なぁ、コイツはイキの良さそうなチャンプだ!!」
ダ
ン
!
辰巳と蔵金はリングに上がる!!
そして辰巳はこう言い放った!!
「本日付けで、日本地下プロレス協会の会長に赴任(ふにん)してみれば。」
「乱入するわ、乱闘寸前だわ…。」
「これぞプロレスの醍醐味(だいごみ)だよ、おっかさん…。てかぁ?」
「『アハ♪』」
「『アハハ♪』」
「『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ♪』」
「『ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ♪』」
「 『 ハ ァ ー ハ ッ ハ ッハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハッハッハハッハハハッハハハ !!!! 』 」
ハンドレッド。
「ペリカンの如き長い顎(アゴ)が、外れんばかりの馬鹿笑いをする男だ。」
「貴様が日本地下プロレス協会新会長…。」
「『 ア ン ト ン 辰 巳 』か?」
辰巳が答える。
「目が怖いぜ?ハンドレッド…。」
「そうさ。俺が『 アントン辰巳 』さ。」
「お前達には…もっと相応しい場を用意してやろう。」
「『地下プロレス絶対王者、ジ・ハンドレッドvs改造人間、デビル・クラーケン…。』」
「もっと大きな会場(箱)が居る…。」
「それに…。」
辰巳は先の死合で、ミンチになった客を見つめる。
「(観)客の安全も考えなきゃあなぁあああ~~~。」
「え?」
辰巳はハンドレッドに近寄り。
こう呟く。
「『 天 下 御 免 の サ イ ボ ー グ ♪ 』」
………。
ハンドレッドはこう返す。
「何を言っているんだ、お前は。」
辰巳はテンション高めに。
「ミルコ・クロコップで返すとは、流石は天性のショーマン!コイツは盛り上がるぜぇ~~~~♪」
ハンドレッド。
「。」
ブン!!(無言で、平手打ちを敢行するッ!)
パシッッ!!
『 捕えられたッッ!! 』
辰巳。
「いけないな。ハンドレッド…。」
「新会長の赴任(ふにん)祝いだ…。」
「手は…。」
「こうだろう…?」
ー 握 手 (シェイクハンド!!) ー
ハンドレッド!
「貴様…ッ!南米地下プロレスの元王者と聞いたが…ッ!!」
「 何 と い う 豪 力 よ ! ! 」
辰巳。
「日日(ひじつ)は、追って連絡をする。」
「構わんな、Dr.劉。」
劉は答える。
「フン。」
「私は、自分の研究成果さえ確かめられればそれで良い。」
「連絡を待つぞ、アントン辰巳。」
「戻るぞ、デビル・クラーケン!!」
デビル・クラーケンが応える!!
「ビシャォォォオオオオオオオオオオオウ!!」
Dr.劉とデビル・クラーケンは退場する。
そして、辰巳はリング中央に立ち…!
辰巳。
「では、会場の皆様…。」
「『ジ・ハンドレッドvsデビル・クラーケン…。』」
「是非ともご来場を…。」
バッッ!!
『辰巳は、拳を天へと突き上げたッッ!!』
「うぉぉぉぉおおおおおおおおおお!!」
沸き上がる観客…!!
「コイツは見るドラッグだぜぇー!!」
観客達は歓声を挙げ続けた…!!
ト…。
ト…。
ト…。
ト…。
帰路に着き。
会場を通路を歩むハンドレッドとレディ・ミィラ。
そんな二人に…。
「お待ちなしゃれ。」
語り掛ける老婆が一人。
二人は、この老婆を知っていた。
先程死した、ヂェロニモのセコンドに付いていた老婆である。
その老婆がこう言う。
「私はブラッククロスにて“魔妖香酋長(まようがしゅちょう)”と呼ばれていた者。」
「名を『プカハンタ』と言う。ぶしつけながらハンドレッド。二人に話がある。」
ハンドレッドは答える。
「聞こうではないか、プカハンタよ。」
プカハンタは…。
「はぅ~~~~~~!!」
「何と!何と言う、渋い声ぇぇぇえええええ~~~~~~!!」
「この“魔妖香酋長”プカハンタ、至福の時ぞぇぇえええええ~~~~!!」
と、身もだえをする。
レディが割って入る。
「何?アナタどういうつもりか知らないけど、ハンドレッドに惚(ホ)れてるの??」
プカハンタはあたふたしながら。
「な…何を申しますやら!私は老いも枯れた老婆だぞえ?」
「そ…そのようなブギウギした感情などとうに忘れてもうたわ。」
「フヘラフヘラヒケェェ~~~~~~~♪」
ハンドレッドは問う。
「で、何の用なのだ、プカハンタ?」
プカハンタはキュンキュンする胸の内を抑えながら。
「実はのう…。色々事情がある事とは思うんじゃが…。」
「ハンドレッドよ…。奥方を連れて二人逃げなしゃれ。」
「今回ばかりは相手が悪いのじゃ。あの『アントン辰巳』はのぅ。」
ハンドレッド。
「アントン辰巳。南米地下プロレスの元王者と聞き及んでおる。」
「強いのであろう。彼奴(きゃつ)の握手(シェイクハンド)は強烈であった。」
「しかし、ワシもまた、負けぬつもりでいる。」
「また…。」
ハンドレッドはこう言い放つ。
「ワシに挑戦を仕掛けに遠路はるばる米国よりやって来た、Dr.劉から逃げる気は無い。」
プカハンタは顔を真っ赤にしながら。
「惚れ惚れと…。惚れ惚れとする男じゃの、ジ・ハンドレッド…!!」
「ああ…許されるなら、ここで私は股(また)を開き…。」
レディ。
「何?貴女、私に喧嘩売ってるの??」
プカハンタは慌てる。
「そ・そのような事は決してぇぇぇえええええ~~~~~~!!」
「今のは『アヤ』じゃ!言葉の『アヤ』ッ!!」
「そ…そんな事よりも『アントン辰巳』の事を話しましょうぞ!!」
ハンドレッド。
「うむ。話してくれ。」
プカハンタが言うには『アントン辰巳』とはこのような経歴を持っている男である。
- ブラジル生まれのブラジル育ち。191cm110kg。38歳。
- 先祖は第2次世界大戦後、農家をしにやってきた日系である。
- 父親が借金を返せなくなり、半ば奴隷扱いで売り飛ばされる。
- その売り飛ばされた先が『ブラッククロス』であった。
- 当時の南米地下プロレスの王者である『ザ・パワーロード』の付き人になる。
- そこで行われたのは『リンチ』に等しい練習と下働きであった。
- 繰り返される理不尽…。繰り返される理不尽…!
- そんなある日。
- 辰巳がキレた!!
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それは控室の事であった。
「アハ♪アハッ♪」
辰巳は笑っていた。
そして。
ヒタ。
ヒタ。
と、ザ・パワーロードに近付く。
パワーロードは命乞いをする。
「し…知らなかったぜ。辰巳、いや辰巳さん。」
「あ…貴方様がそれほど強いとは…。フ…フハッハハハン!!」
「命だけは助けてもらえますよね?」
辰巳。
「何言ってるんだよ…馬鹿。」
「許す訳無いだ…ろ?」
「アハハ♪」
パワーロードは涙を流しながら。
「か・勘弁して下さい!」
「命!命だけh…!!」
ドッパァアアアアアアア ア ア ア ン ! !
パワーロードの首は切り落とされました。
パワーロードは即死した。
辰巳は鮮血を浴びた姿のこう言う。
「血はリングに咲く花…てかァ?」
「安心しな、パワーロード。」
「王者は俺がなってやる。」
以後20年間、辰巳は南米地下プロレスの王者として君臨する事となる。
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プカハンタは続ける。
「アントン辰巳の王者としての理念は『プロレス最強』じゃった。」
ー 打撃、投げ技、寝技は無論…。
ー 果ては反則、八百長、裏切り、裏取引。
ー 泣き落とし、ワイロ、真の“何でも有り”。
「辰巳は勝つ為なら、対戦相手の飲料に『毒物』を入れる等当たり前に行った。」
「何でもするのじゃよ。そして辰巳に目を付けられた者で『生き残った者は誰も居ない』。」
「悪い事は言わぬ。逃げなしゃれ、ハンドレッド。」
その時であった。
「クヒ!クヒヒ!そうはいかないなぁ、ハンドレェ~ッド!!」
ハンドレッド。
「蔵金のとっつあん坊やか。何の用であるか?」
身長190cm体重79kg。38歳。
蔵金芯太郎である。
蔵金はこう言う。
「そうだよ、僕だよ。ん?何の用かって??」
「呼んでるんだよ。辰巳さんが、お前をよぉ、ハンドレッド!!」
「ついて来いよ、ハンドレッド。会長室だ。」
ハンドレッド。
「元会長がヤケにいいように使われるではないか、蔵金芯太郎。」
蔵金。
「僕はね、ハンドレッド。アンタを殺す為なら何でもするのさ。」
「辰巳を招聘(しょうへいし)し、自分が地位を降り、辰巳(地獄のような男)と替わる事だってな。」
「さぁ、来るの?来ないの??早く決めろよ。」
ハンドレッド。
「良いだろう。行こうではないか。」
ハンドレッドは、会長室へ向かった。
〇日本地下プロレス会長室
豪華な…。それは豪華な一室であった。
地下プロレスと言う血香る事柄とは裏腹な…。
高価な一部屋。
そんな一部屋に…。
ハンドレッドとアントン辰巳は二人で居た。
何やら、辰巳がハンドレッドに告げ。
ハンドレッドは、こう答える。
「随分と、人を舐めた男だ。」
「そのペリカンの如く長い顎が、針金補強が施せぬ程に、粉々と砕かれたくなければ、抱き枕でもハグして、おねんねをするが良い。」
「ワシは寝言に腹を立てる程、日々、ストレスを感じてはおらぬ。」
辰巳。
「『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ♪』」
「代わりにお前にゃ、別の職場へ異動してやるっつってんだ。」
「悪い話じゃないだろう?」
「仲良くやろうぜー?互いに甘い汁啜(すす)ってよぉー。」
辰巳はハンドレッドに要件を伝えたのだ。
要件。
それは『デビル・クラーケンに負ける事。』
日本地下プロレス協会の親会社であるブラッククロスは、新しく開発をされたDr.劉の改造人間を全面的にバックアップをしていく予定である。
それに今日の試合。お前は、パトロンの一人を殺害し、更にはその人間を超越した強さに『懐疑(かいぎ)の目』を向けられている。
最早、お前に絶対王者としての価値は無い。
『 負けるんだよ、ハンドレッド!! 』
地下プロレス絶対王者の敗北は、何よりも勝る、最大のインパクトだ。これは『オイシイ』。
お前には、もっと相応しい戦場をくれてやる。
何せ。これから先『デッカイドンパチ』が始まる事になるんだ。
プロレスなんて、してる場合じゃあないんだぜぇ~。
天下御免のサイボーグさんよぉぉおおおおおおおおおおーーーーーー!!!
ハンドレッド。
「デカイドンパチとは物騒な話だ。」
「戦争でも、おっぱじめるつもりか?…ブラッククロスは??」
辰巳。
「言う必要は無い。2年前のドイツの事と言い、世界は変わり始めてるってだけ言っておこうか。」
「そんな中、お前はなぁ。ただただ…戦い続ければ良いンだよ……。」
「修羅地獄の、阿修羅みてぇーになァァアアアアアーーーーーーッッ!!」
ハンドレッドは。
「。」
辰巳をにらみ付ける。
辰巳は笑う。
「…アハ♪」
「リングじゃあ、上手くやるんだぜ…?」
ハンドレッドは踵(きびす)を返す。
「ワシは寝言を聞き入れる程、暇でもなければ、お人好しでもない。」
「失敬する。」
ー そう言い、ハンドレッドは部屋を出て行った。 ー
辰巳。
「アハ…♪」
辰巳、携帯を取り出し…。
TELをする。
トゥルルルルルルルルルル
カチャ。
「九螺魔(くらま)。」
「用意をしておけ。」
九螺魔と呼ばれる男が答える。
「はいはーい、会長ぉー任せちゃって下さいー!」
ガチャ
そして辰巳は携帯を切る。
辰巳は…。
「『アハ♪』」
笑う。
「『アハハ♪』」
「『アッハッハッハッハッハッハッハッハッハ♪』」
「『ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ♪』」
「 『 ハ ァ ー ハ ッ ハ ッハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハ ッ ハッハッハハッハハハッハハハ !!!! 』 」
その笑い声のみが、会長室に響き渡った。
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