~~弐の巻 「デュエル・オブ・ナイト・フォグ(後編)」~~
日本国、◯◯県、Y市。PM11:08。
竜蔵寺研究所を脱出した化学ニンジャ、ミスト・サンは、味方に向けて暗号を発する。それは作戦失敗のサインで、内心忸怩たる思いがこみ上げる。
だが後始末は付けねばならない。暗号を送信してから間もなく、近くの山腹に隠れていた操兵・空戦型羅甲が飛来して、ミスト・サンをその手に回収した。
だが後始末は付けねばならない。暗号を送信してから間もなく、近くの山腹に隠れていた操兵・空戦型羅甲が飛来して、ミスト・サンをその手に回収した。
その羅甲は異形である。
腕が三対六本、その姿まるで阿修羅の如く。
腕が三対六本、その姿まるで阿修羅の如く。
アムステラ神聖帝国の侵攻は、民間人を巻き込まない比較的クリーンなものとして、銀河で有名だが、そればかりではない。
裏ではブラッククロスのような、地元の反動勢力に武器や技術を供与し、侵略の一端を担わせている。
この羅甲も化学ニンジャ隊に供与された機体の一つを、パイロットの『T・スパイダー』用にカスタマイズしたものだ。
彼の役目は、第一にミスト・サンを回収して離脱することだが、今回、作戦失敗時に限りもう一つの任務がある。
裏ではブラッククロスのような、地元の反動勢力に武器や技術を供与し、侵略の一端を担わせている。
この羅甲も化学ニンジャ隊に供与された機体の一つを、パイロットの『T・スパイダー』用にカスタマイズしたものだ。
彼の役目は、第一にミスト・サンを回収して離脱することだが、今回、作戦失敗時に限りもう一つの任務がある。
『作戦失敗時には、ターゲットのドクター竜蔵寺、及び竜蔵寺研究所に、可能な限りの損害を与えた後、帰還すること』
暴力と破壊の時間が訪れたのだ。
T・スパイダーは、同僚の失態に失望しつつも、遠慮無く行える破壊行為の機会に、一方では喜びを感じていた。
「ミスト・サン、誘拐一つ出来ないとは情けないなぁ! ヒィハハハ!?」
T・スパイダーが哄笑する。ネジの外れた笑い方であった。
「笑うのは後だT・スパイダー! 予期せぬ邪魔が入った」
「ハァン!? 邪魔だと?」
「どこかの組織のエージェントかもしれん。ともかく研究所を破壊してしまえ!」
「言われねえでもやってやるさ!」
「ハァン!? 邪魔だと?」
「どこかの組織のエージェントかもしれん。ともかく研究所を破壊してしまえ!」
「言われねえでもやってやるさ!」
羅甲が静やかに飛んで行く。特殊任務用に、旋回能力を改造し、且つサウンドキャンセラー装置によって静音性も高めてあるのだ。
そんな空の悪魔が竜蔵寺研究所に接近した。手にはロケット砲を構え、研究所の建物に狙いを定める。
研究所周辺にはある程度の防衛機構が備わっていたが、このような操兵の襲撃までは想定外であった。
遅れて現れた警備ロボットが火砲を夜空に向けるも時既に遅し。
そんな空の悪魔が竜蔵寺研究所に接近した。手にはロケット砲を構え、研究所の建物に狙いを定める。
研究所周辺にはある程度の防衛機構が備わっていたが、このような操兵の襲撃までは想定外であった。
遅れて現れた警備ロボットが火砲を夜空に向けるも時既に遅し。
発射! 暗闇に火の尾を引きながら、無慈悲なロケットが基地を襲う!
このままでは研究員達の辛苦の結晶が、ドクター竜蔵寺のなんかアレな研究が灰燼に帰してしまう!
このままでは研究員達の辛苦の結晶が、ドクター竜蔵寺のなんかアレな研究が灰燼に帰してしまう!
その時――
風を切って飛来した苦無がロケット弾に直撃、空中で破壊した!
「何事!?」
T・スパイダーが目を見張る。――と、ほぼ同時に機体を翻す。
すると今しがた羅甲の飛んでいた空間を数発の苦無が切り裂いていった。危機一髪!
すると今しがた羅甲の飛んでいた空間を数発の苦無が切り裂いていった。危機一髪!
「T・スパイダー気をつけろ! 奴だ、ロボットまで用意してやがった!!」
「ぬぁぁにぃ!? こいつがかぁ!?」
「ぬぁぁにぃ!? こいつがかぁ!?」
見るとそこには黒塗りの人型ロボットが、挑発的に腕を組みながらこちらを睨んでいる。生意気!
「だが所詮は地べたを這いずるウジ虫よ」
T・スパイダーは空中を制する余裕から、この敵を無視して旋回、再び基地に狙いを定める。
これを見た黒塗りのロボ、そのコックピットに収まる黒装束の男は三度苦無を投擲。
この苦無はなんと、羅甲の構えたロケット砲の発射口を貫き、発射不可能にしてしまった!
これを見た黒塗りのロボ、そのコックピットに収まる黒装束の男は三度苦無を投擲。
この苦無はなんと、羅甲の構えたロケット砲の発射口を貫き、発射不可能にしてしまった!
「こいつ!?」
ここに来てようやく、T・スパイダーもこの黒尽くめを倒すべき敵として認識した。
使用不能になったロケット砲を捨て、腰にマウントしていたマシンガンに手を伸ばす。だがその時、急ぐあまりにミスト・サンを乗せた腕で、マシンガンを掴もうとしてしまった。
使用不能になったロケット砲を捨て、腰にマウントしていたマシンガンに手を伸ばす。だがその時、急ぐあまりにミスト・サンを乗せた腕で、マシンガンを掴もうとしてしまった。
「この馬鹿! 俺を殺す気か!」
「チッ、うぅるせーなぁ」
「チッ、うぅるせーなぁ」
回収されたままのミスト・サンにすれば気が気ではない。
だがこの状況において、ミスト・サンをコックピットに同乗させるという選択肢は無かった。
何故なら、T・スパイダーの操縦する空戦型羅甲は、見た目の特殊なら内装も特殊だからである。
だがこの状況において、ミスト・サンをコックピットに同乗させるという選択肢は無かった。
何故なら、T・スパイダーの操縦する空戦型羅甲は、見た目の特殊なら内装も特殊だからである。
ただでさえ三対六腕という複雑な機構のため、胴体のスペースは既にギリギリ。コックピットに余裕は無し。
そしてこちらが、むしろ本来の理由だが。機体が六腕なら、T・スパイダーも六腕のサイボーグ戦士なのだ!
そしてこちらが、むしろ本来の理由だが。機体が六腕なら、T・スパイダーも六腕のサイボーグ戦士なのだ!
六本ある腕をOSの管理に任せず、一本一本割り当てられた操縦桿を、個別の腕で操作する。
そうすることで、繰り出される攻撃は血の通った技となるのだ。
そういった事情から、コックピット内はもうなんだか分からない状態になっている。
ミスト・サンは冷や汗をかきながら羅甲の手にしがみつく力を強めた。
そうすることで、繰り出される攻撃は血の通った技となるのだ。
そういった事情から、コックピット内はもうなんだか分からない状態になっている。
ミスト・サンは冷や汗をかきながら羅甲の手にしがみつく力を強めた。
羅甲のマシンガンが銃火の雨を降らす! 黒塗りのロボは素早く左右に動き、これを回避。
なお、フラッシュサプレッサーで発火炎を抑えているとはいえ、その振動や排莢はミスト・サンを更に縮こませる。
なお、フラッシュサプレッサーで発火炎を抑えているとはいえ、その振動や排莢はミスト・サンを更に縮こませる。
「だから! 俺がいることを忘れんじゃねーよ!!」
「チッッ」
「チッッ」
二人の亀裂は既に深刻なレベルに達していた。T・スパイダーにしてみれば、これはミスト・サンの尻拭いである。文句を言われる筋合いは無い。
一方ミスト・サンは、己の失態は予期せぬ邪魔のせいであり、ほぼアクシデントと開き直っている。その事情を相手が汲み取るのは当然と思っているのだ。
一方ミスト・サンは、己の失態は予期せぬ邪魔のせいであり、ほぼアクシデントと開き直っている。その事情を相手が汲み取るのは当然と思っているのだ。
そうして羅甲の銃撃が鋭さを欠く中、状況は一変する。
油断して低空を飛んでいた羅甲目掛け、黒塗りのロボが飛翔してきたのだ!
スラスターを噴かせての大ジャンプ! その手に握られた忍者刀で斬りつける!
油断して低空を飛んでいた羅甲目掛け、黒塗りのロボが飛翔してきたのだ!
スラスターを噴かせての大ジャンプ! その手に握られた忍者刀で斬りつける!
ガチィッ!
逃れる羅甲。深手にはならなかったが装甲の一部を持って行かれた。空中のアドバンテージなど過信してはならない。
羅甲の手の上ではまたミスト・サンが悲鳴を上げていたが、一方で、T・スパイダーは気分が沈み込み、水のような静寂が広がるのを感じていた。
羅甲の手の上ではまたミスト・サンが悲鳴を上げていたが、一方で、T・スパイダーは気分が沈み込み、水のような静寂が広がるのを感じていた。
(これはマジで殺らねえと、殺られるな)
何かのスイッチが入った。
T・スパイダーの首に備わるネックガード。その内側には、特殊な薬品のアンプルが埋め込んであり、任意に投薬できる仕組みとなっている。
彼はそのうち一つを打ち込んだ。すると脳内物質の分泌が増大し、視界が、意識が、感覚がクリーンになっていく……。
T・スパイダーの首に備わるネックガード。その内側には、特殊な薬品のアンプルが埋め込んであり、任意に投薬できる仕組みとなっている。
彼はそのうち一つを打ち込んだ。すると脳内物質の分泌が増大し、視界が、意識が、感覚がクリーンになっていく……。
彼の化学ニンジャネームにつく「T」の字は、トリックともトリップとも言われるが、ハッキリとはしていない。
ただ言えることは、こうなったスパイダーは今までとは別人である。
ただ言えることは、こうなったスパイダーは今までとは別人である。
羅甲が敵に向き直った時、腕の一本が高速で振るわれる。何かが黒塗りのロボに直撃した。
損傷はない。だが赤黒い血飛沫が、モニターを汚していた。
損傷はない。だが赤黒い血飛沫が、モニターを汚していた。
なんということか、羅甲が投げたのはミスト・サンであった! 彼は破裂した水風船の如く血を流し、敵機の装甲の角に引っかかったまま、抗議の声を上げる事もできない……。
「ぶば……ごぼっ」
ミスト・サンの内臓機器が、爆薬となる薬品が、交じり合い爆発四散!
ああ、無情。自分を助けるはずの者に、逆に殺されるなどとは夢にも思わなかっただろう……。このような非道が許されて良いのか?
ああ、無情。自分を助けるはずの者に、逆に殺されるなどとは夢にも思わなかっただろう……。このような非道が許されて良いのか?
そして、僚友の死など気にも掛けない男T・スパイダーは、羅甲の六本の腕に、それぞれ戦斧を握らせた。
これぞ阿修羅戦斧の形。T・スパイダー必勝の構えである。
これぞ阿修羅戦斧の形。T・スパイダー必勝の構えである。
「邪魔もなくなったことだし、さあ、楽しもうじゃねえか。あぁん?」
黒装束の男。彼はミスト・サンに弔いの歌を送るだろうか?
それとも所詮、敵は敵か?
忍者は歌など歌わない。鎮魂歌など歌わない。だが……
それとも所詮、敵は敵か?
忍者は歌など歌わない。鎮魂歌など歌わない。だが……
「奴は殺してやろう」
黒塗りのロボが身構える。ここからが本当の殺伐ナイトだ。
T・スパイダーの羅甲が急降下! 戦斧を振り下ろす!
これを黒塗りのロボは刀でいなす。だが二撃、三撃と繰り出される戦斧。左右上下、どう避けようとも次の戦斧が襲いかかる。
ただ腕が多いからではない。T・スパイダーの先鋭化した感覚が、相手の動きを良く捉え、次の手を的確に打っているのだ。
これを黒塗りのロボは刀でいなす。だが二撃、三撃と繰り出される戦斧。左右上下、どう避けようとも次の戦斧が襲いかかる。
ただ腕が多いからではない。T・スパイダーの先鋭化した感覚が、相手の動きを良く捉え、次の手を的確に打っているのだ。
ガシュッ! ザシュッ!
無呼吸連打に似た羅甲の斬撃は留まることを知らない。
飛びのいた黒いロボは苦無を投擲するも、軽快なフットワークに避けられる。
ただでさえカスタマイズされた機動に、薬物による超反応が加われば、単発の苦無では捉えられない。
飛びのいた黒いロボは苦無を投擲するも、軽快なフットワークに避けられる。
ただでさえカスタマイズされた機動に、薬物による超反応が加われば、単発の苦無では捉えられない。
このまま黒装束の男は破れてしまうのか?
ガウッ!!
黒塗りロボが、一段と深く、速く踏み込んだ。そのスピードは弾き出された弾丸の如く。
たちまち羅甲の懐に飛び込むと、肩で強打! 肘で殴打! 膝で痛打! ゼロ距離打撃の猛攻!
羅甲の六腕は、敵が近すぎて斧が振るえない。だけでなく、後退りした距離をすぐに詰め、次の打撃を打ち込むこのロボに、速さに、対応できない!
たちまち羅甲の懐に飛び込むと、肩で強打! 肘で殴打! 膝で痛打! ゼロ距離打撃の猛攻!
羅甲の六腕は、敵が近すぎて斧が振るえない。だけでなく、後退りした距離をすぐに詰め、次の打撃を打ち込むこのロボに、速さに、対応できない!
「なんだっ、なんなんだテメェはー!?」
T・スパイダーは口から泡を飛ばしながら罵る。が、遂に忍者刀一閃! 羅甲の腕が一本切り落とされた!!
地上戦を挑んだ己の判断を呪った。形勢不利と見た羅甲は、空中へ逃れた。
それを追って黒塗りのロボも飛ぶ。
――好機!
空中戦においては空戦機たる羅甲のほうが分がある……! T・スパイダーは自信を取り戻し、再び斧で襲いかかった。
それを追って黒塗りのロボも飛ぶ。
――好機!
空中戦においては空戦機たる羅甲のほうが分がある……! T・スパイダーは自信を取り戻し、再び斧で襲いかかった。
「空中分解だオラーーーッ!!!」
ブワッ!!!!
それは一瞬の儚き夢だった。
黒塗りのロボはスラスターにより空中で跳躍、はや羅甲の頭上に逃れていた。
更に追い打ち。急降下して羅甲の背に乗ると体重をかけ、地面へ滑空を始めた!
……現代の人々が見れば、その様は波に乗るサーファーのようにも見えたであろう。
これぞ古代の忍者たちの間で恐れられた空中戦の奥義である。
黒塗りのロボはスラスターにより空中で跳躍、はや羅甲の頭上に逃れていた。
更に追い打ち。急降下して羅甲の背に乗ると体重をかけ、地面へ滑空を始めた!
……現代の人々が見れば、その様は波に乗るサーファーのようにも見えたであろう。
これぞ古代の忍者たちの間で恐れられた空中戦の奥義である。
大日本帝國忍術・百の技の一つ……剛筋奈落落とし!!!
背中に乗られた羅甲は姿勢を返せないまま山の尾根に滑空していく。南無三!
「そそそんなっ!? こんなのってっっっ!?」
激突! そして爆散!! T・スパイダーの駆る異形・空戦型羅甲は汚い花火となって散った。
古の時代、伝説の忍者たちにとって、空中戦は日常茶飯事だった。その中で編み出された奥義がこの剛筋奈落落としである。
この技は、忍の術が衰えてより、披露されることも無くなった。
だが、瞬時に形勢が変わる空中戦において、背後を取られることが死に直結する、という厳しい現実をまざまざと見せつける大技であった。
この技は、忍の術が衰えてより、披露されることも無くなった。
だが、瞬時に形勢が変わる空中戦において、背後を取られることが死に直結する、という厳しい現実をまざまざと見せつける大技であった。
かくして霧の夜は明けた。あとに残されたのは空戦型羅甲の残骸と、二人の化学ニンジャの残骸。そして無傷の竜蔵寺研究所である。
漆黒の忍者の姿は、影も形もない……。
漆黒の忍者の姿は、影も形もない……。
夜霧の決斗 完