~~拾六の巻 「ダンス・ウィズ・マッドドッグ前編」~~
化学ニンジャ隊による日本防衛軍基地襲撃から一夜明けた詠売新聞社。
テレビのニュースは朝から拡大枠で襲撃事件を報じ、新聞の一面も防衛軍の惨状を伝える記事で埋め尽くされた。
その背景として化学ニンジャ隊が己の名を喧伝するため、報道各社に脅迫をかけたことが大きい。
テレビのニュースは朝から拡大枠で襲撃事件を報じ、新聞の一面も防衛軍の惨状を伝える記事で埋め尽くされた。
その背景として化学ニンジャ隊が己の名を喧伝するため、報道各社に脅迫をかけたことが大きい。
だがこれだけの事件が起きれば、脅されなくとも各所競って書き立てただろう。
いつの時代もマスコミにとっては売れるニュースが良いニュースなのだ。
いつの時代もマスコミにとっては売れるニュースが良いニュースなのだ。
日本防衛軍の被害は死傷者数300人以上。
人型機動兵器の損失は32機、そのうち戦闘前の爆破で破壊されたものが半数近く、車両や航空兵器もほど近い惨状である。
基地司令官の東城は殺害され、配備されていたパワードスーツ試験部隊はほぼ全滅した。
人型機動兵器の損失は32機、そのうち戦闘前の爆破で破壊されたものが半数近く、車両や航空兵器もほど近い惨状である。
基地司令官の東城は殺害され、配備されていたパワードスーツ試験部隊はほぼ全滅した。
他方、この事件に裏で関与した疑いのある防衛副大臣も死亡した。
利用していたはずの化学ニンジャ隊によって逆に殺され、世に晒されるという哀れな末路だった。
周囲の関係者には即日捜査の手が伸びたが、重要参考人となりうる人物までのきなみ殺害されていた。
野党は首相の任命責任を問うと息巻いているが、機械将軍によって悪事をバラされた政治家は与野党どちらにも存在し、政治の混乱は避けられそうにない。
利用していたはずの化学ニンジャ隊によって逆に殺され、世に晒されるという哀れな末路だった。
周囲の関係者には即日捜査の手が伸びたが、重要参考人となりうる人物までのきなみ殺害されていた。
野党は首相の任命責任を問うと息巻いているが、機械将軍によって悪事をバラされた政治家は与野党どちらにも存在し、政治の混乱は避けられそうにない。
ダンッ!
詠売新聞社のオフィスで記者の古畑が激しく机を叩いた。
「編集長、この写真を見てください。本当にあの日の夜、テロリストと戦う男がいたんですよ!
この男が奴らの演説を妨害したんです、この目で見ました!」
この男が奴らの演説を妨害したんです、この目で見ました!」
古畑は映像から抜き出した写真をいくつか示し、編集長に持ち込んでいた。
写真に映っているのは、判別しがたいがあの黒装束の男・楔である。
彼はひょんなことからあの夜、現場に居合わせて戦いの一部をカメラに収めることに成功していたのだ。
しかし主要な話題は防衛軍の惨劇、政界への波紋や化学ニンジャ隊への関心にさらわれ、古畑の書いた記事に興味を示す者は少なかった。
写真に映っているのは、判別しがたいがあの黒装束の男・楔である。
彼はひょんなことからあの夜、現場に居合わせて戦いの一部をカメラに収めることに成功していたのだ。
しかし主要な話題は防衛軍の惨劇、政界への波紋や化学ニンジャ隊への関心にさらわれ、古畑の書いた記事に興味を示す者は少なかった。
「古畑、君が体を張って取材したことは、多少独断だったが評価する。
けど画像は粗いし、この男について情報が少なすぎる。
“現代の皇国ニンジャ”なんて見出しで書いてるけど、冷笑と失笑を買うだけで終わるぞ」
けど画像は粗いし、この男について情報が少なすぎる。
“現代の皇国ニンジャ”なんて見出しで書いてるけど、冷笑と失笑を買うだけで終わるぞ」
編集長に一蹴されて古畑は引き下がったが、このネタを捨て去る気にはなれなかった。
自分のデスクに戻ると身支度を整えて、再び現場周辺の取材に向かうことにした。
すでに新たな情報が入っている。基地から離れた場所でロボット同士の戦闘が起きた形跡があるのだという。
襲撃事件に関係あるものならば見過ごせない。
自分のデスクに戻ると身支度を整えて、再び現場周辺の取材に向かうことにした。
すでに新たな情報が入っている。基地から離れた場所でロボット同士の戦闘が起きた形跡があるのだという。
襲撃事件に関係あるものならば見過ごせない。
「待てよ古畑、お前にお客さんだ」
出立しようとした古畑だったが同僚に引き止められた。見ればやや緊張した面持ちの同僚と、その傍らにスーツ姿の男が綺麗な直立姿勢で立っていた。
官僚のような風貌だ、と古畑は一目見て思った。だが示された名刺は日本防衛軍のものだったため古畑は意外な思いだった。
官僚のような風貌だ、と古畑は一目見て思った。だが示された名刺は日本防衛軍のものだったため古畑は意外な思いだった。
「私は日本防衛軍情報部の一色というものです。君が撮影したというビデオのことで伺いたいことがありまして」
一色と名乗った防衛軍一佐の発言に、古畑はやや身構えた。
基地で起きた騒動の映像を軍関係者が確認しにきたのはいかなる理由か、同僚もそうだったが緊張せずにいられない。
だが軍人の来訪をただ拒絶するわけにもいかないため、古畑は映像データの置いてある社内の一室へ一色を案内した。
基地で起きた騒動の映像を軍関係者が確認しにきたのはいかなる理由か、同僚もそうだったが緊張せずにいられない。
だが軍人の来訪をただ拒絶するわけにもいかないため、古畑は映像データの置いてある社内の一室へ一色を案内した。
「これがその映像ですが……ご覧になりますか?」
差し出された端末をPCにつなぎ、映像を確認する一色。彼の眼はそのとき鋭く輝いたように見えた。
「この映像、他にコピーはありますか?」
「コピー? そういえば、そこまではしてませんね」
「ではコピーはしないでよろしい。このデータを預かりたいのですが」
「ちょ、ちょっとどういうことです? まるで没収するみたいじゃないですか!」
「コピー? そういえば、そこまではしてませんね」
「ではコピーはしないでよろしい。このデータを預かりたいのですが」
「ちょ、ちょっとどういうことです? まるで没収するみたいじゃないですか!」
慌てる古畑を制止した一色は、今までと違う、軍人とも異なる厳粛な空気をまとっていた。
「この映像は外に出回らないほうがいいのです。
恐らく、近いうちにこのデータを求めて訪ねるものが現れるでしょう。
場合によっては暴力に訴えてでも奪っていこうとするかもしれない。
ここから先は貴方のような人間が踏み込んでいい世界ではないのですよ」
「…………」
恐らく、近いうちにこのデータを求めて訪ねるものが現れるでしょう。
場合によっては暴力に訴えてでも奪っていこうとするかもしれない。
ここから先は貴方のような人間が踏み込んでいい世界ではないのですよ」
「…………」
古畑は閉口した。この事件がタダ事でないことはわかっていた。それでも好奇心と記者魂で切り込もうとしていたところがある。
それをこの一色は、やんわりと制止したのだった。
古畑は心中の熱とともに、思考が冷めていくのを自覚していた。
それをこの一色は、やんわりと制止したのだった。
古畑は心中の熱とともに、思考が冷めていくのを自覚していた。
それにしてもこんな映像一つに価値が生じるのだろうか。それほどこの謎の男を追うものたちがいるのだろうか。
疑問に思いながらも、思考が明瞭に戻ってきた古畑は、一色の忠告に従ってデータを引き渡した。
疑問に思いながらも、思考が明瞭に戻ってきた古畑は、一色の忠告に従ってデータを引き渡した。
一色が辞していった後、古畑は書きかけの記事を、楔の映った写真をひととおり処分した。
暫くの間、あの襲撃の夜のことは語らないことにしよう。
自分や周りの人間に危害が及ばないように。
だがいつの日か世間は知るはずだ。現代に生きる皇国忍者を。闇の世界に住むその男のことを。
ただそう信じつつ、古畑は分岐路を日常へ向けて進むことにした。
暫くの間、あの襲撃の夜のことは語らないことにしよう。
自分や周りの人間に危害が及ばないように。
だがいつの日か世間は知るはずだ。現代に生きる皇国忍者を。闇の世界に住むその男のことを。
ただそう信じつつ、古畑は分岐路を日常へ向けて進むことにした。
◆◆◆◆◆
――数日後。
信越地方に連なる山々のはるか上空にステルスめいた飛行物体の影があった。
それはオハギこと、オーバー・ハング・ギア・ゼロ。上部に機動兵器・梟を乗せて隠密飛行中だ。
そのコックピット内では楔がパラシュート降下できる体勢で待機している。
それはオハギこと、オーバー・ハング・ギア・ゼロ。上部に機動兵器・梟を乗せて隠密飛行中だ。
そのコックピット内では楔がパラシュート降下できる体勢で待機している。
「ドクター竜蔵寺。まもなく目標地点に到達する」
『あいよ了解。お前さんが降下したあと、オハギは適当な谷間に着陸して待機してるからな』
『あいよ了解。お前さんが降下したあと、オハギは適当な谷間に着陸して待機してるからな』
防衛軍基地襲撃から数日。彼らはまたしても化学ニンジャ隊に対するミッションを敢行していた。
今回は秘密拠点に対する潜入作戦。オハギと梟は移動手段としてだけでなく、敵機動兵器が出現した場合の戦力として温存される。
『オハギのレーダーが周囲を見張ってるから、異常があれば知らせてくれるだろう』
「オハギは便利だな。助かるぞドクター」
『なあにデータ取りも兼ねてるからな』
「オハギは便利だな。助かるぞドクター」
『なあにデータ取りも兼ねてるからな』
竜蔵寺はオハギを“テストを兼ねて”と言いつつ楔に貸与し、それ以外にも様々な便宜を図ってくれている。
だが楔の見たところ、竜蔵寺の受けるメリットはそれほど大きいとは思えなかった。
それにもかかわらず彼の楔に対する協力は篤さを増すばかりである。そしてそれを恩着せがましく振る舞うことはない。
そのうちに、二人の間には無言のユウジョウが強まっていくのを感じていた。
だが楔の見たところ、竜蔵寺の受けるメリットはそれほど大きいとは思えなかった。
それにもかかわらず彼の楔に対する協力は篤さを増すばかりである。そしてそれを恩着せがましく振る舞うことはない。
そのうちに、二人の間には無言のユウジョウが強まっていくのを感じていた。
『しかし楔、今回の情報はアテになるんだろうな?』
「“ウィスパー”のよこした情報、気になるか?」
「“ウィスパー”のよこした情報、気になるか?」
それは二日前のことだった……。
◆◆◆◆◆
――竜蔵寺研究所。
ここでは化学ニンジャ隊の工作員に潜入されて以来、軍から警備要員が派遣されて防衛体制が強化されていた。
また楔が留まるようになってから、セキュリティと秘匿性も向上し、今では楔用の秘密基地としての側面も持っている。
ここでは化学ニンジャ隊の工作員に潜入されて以来、軍から警備要員が派遣されて防衛体制が強化されていた。
また楔が留まるようになってから、セキュリティと秘匿性も向上し、今では楔用の秘密基地としての側面も持っている。
そんな研究所の一画に、畳張りの昭和めいた閑静な部屋がある。これは楔の要望で作られた寛ぎの間だ。
今そこで楔とマイアがちゃぶ台を囲み、テレビで『皇国の忍者』を視聴していた。
今そこで楔とマイアがちゃぶ台を囲み、テレビで『皇国の忍者』を視聴していた。
『逆賊殺すべし!』
『グワーッ!』
『――激しい死闘の末、宇宙忍者がまた一人打ち倒された。だが皇国忍者の戦いは続く……』
『グワーッ!』
『――激しい死闘の末、宇宙忍者がまた一人打ち倒された。だが皇国忍者の戦いは続く……』
「……いったいなにを見てるんだ?」
部屋を覗き込んだ竜蔵寺の第一声がそれだった。
拳を握りしめて見入っていたマイアが振り返って答える。
拳を握りしめて見入っていたマイアが振り返って答える。
「なにって、皇国の忍者ですよ」
「いやなんだよ宇宙忍者って。今はそんなのと戦ってるのか、もうちょっと現実寄りな話じゃなかったか?」
「いやなんだよ宇宙忍者って。今はそんなのと戦ってるのか、もうちょっと現実寄りな話じゃなかったか?」
長い歴史を誇る皇国忍者シリーズは数多くの敵と戦ってきた。
正統派忍者との抗争。共産忍者の殲滅。テロリズム忍者との血で血を洗う戦い。
時代のトレンドを反映した敵手との戦いも人気の一つで、今はもっぱらアムステラを意識した宇宙忍者が主な敵だった。
正統派忍者との抗争。共産忍者の殲滅。テロリズム忍者との血で血を洗う戦い。
時代のトレンドを反映した敵手との戦いも人気の一つで、今はもっぱらアムステラを意識した宇宙忍者が主な敵だった。
「楔はこんなの見て面白いのか?」
竜蔵寺の問いに楔は腕を組んだまま答えない。なにか考え込んでいる様子だ。
「楔さん、面白くなかったですか……?」
「いや、面白かったぞマイア。また見よう」
「あ、なら良かったです、来週も見ましょう!」
「いや、面白かったぞマイア。また見よう」
「あ、なら良かったです、来週も見ましょう!」
「やれやれ……ところでちゃぶ台に乗ってるカメラみたいなのはなんだ?」
竜蔵寺が指差したそれはテレビカメラのような装置で、いくつも繋がれたコードが部屋の外まで伸びている。
「オハギちゃんです」
「オハ……なに?」
「オハギちゃんを繋いでいっしょに見てたんですよ。テレビとか見ながら人間の気持ちを勉強してるんです」
『逆賊殺すべし』
「オハ……なに?」
「オハギちゃんを繋いでいっしょに見てたんですよ。テレビとか見ながら人間の気持ちを勉強してるんです」
『逆賊殺すべし』
装置からオハギの音声が聞こえた。
「勉強……」
言葉に詰まる竜蔵寺を尻目に、楔とマイアは煎餅をかじっている。
「ところで楔、お前さんに通信が入ってるぞ」
「誰からだ?」
「誰からだ?」
楔は尋ねたが、答えはおおよそ見当がついていた。
この研究所に楔がいることは特秘事項で、外部でそれを知りうるものはほとんどいない。
(もっともそれは竜蔵寺らの努力以上に、楔が忍んでいるからである)
この研究所に楔がいることは特秘事項で、外部でそれを知りうるものはほとんどいない。
(もっともそれは竜蔵寺らの努力以上に、楔が忍んでいるからである)
「例のお客さんだ」
「やはりか」
「やはりか」
「待たせたな、話を聞こうか“ウィスパー”」
専用通信室にやってきた楔はさっそくマイクに語りかけた。
『やれやれ、君はせっかちだね。もう数ヶ月の付き合いになるんだ、せめて挨拶ぐらいしたらどうだい』
「いいから本題に入れ。また何か情報を持ってきたのだろう」
「いいから本題に入れ。また何か情報を持ってきたのだろう」
この“ウィスパー”と呼ばれた相手は楔の情報提供者だった。
といっても相手の顔や名前、その他詳細はいっさいわからない謎多き人物である。
楔の化学ニンジャに対する攻撃のいくつかは、この協力者から寄せられる情報に基いて実行されたものだ。
いかに彼が帝國忍術の使い手とはいえ、ああも的確に化学ニンジャの前に現れて妨害するのは困難なことである。
といっても相手の顔や名前、その他詳細はいっさいわからない謎多き人物である。
楔の化学ニンジャに対する攻撃のいくつかは、この協力者から寄せられる情報に基いて実行されたものだ。
いかに彼が帝國忍術の使い手とはいえ、ああも的確に化学ニンジャの前に現れて妨害するのは困難なことである。
「ところで先日の防衛軍基地襲撃だが、あんたのほうで察知することはできなかったのか?」
『あの作戦は彼らの肝いりの計画で、情報の掴みようがなかった』
『あの作戦は彼らの肝いりの計画で、情報の掴みようがなかった』
化学ニンジャ四天王たちの襲撃があったとき、楔はそれをテレビの放送で知り、それから駆けつけたため大きく遅れてしまった。
この件に関して、計画の前兆すらも掴めなかったのかとウィスパーに対し不満のある楔だった。
この件に関して、計画の前兆すらも掴めなかったのかとウィスパーに対し不満のある楔だった。
『だが情報が得られたとして君に伝えたかどうかはわからないね。
あれほど周到な計画に対して君が先回りして見せれば、奴らは嫌でも情報漏れを疑うだろう。
いや、すでに手遅れかな?』
「奴らとて俺の情報源について調べているだろう。……例えば内通者とかな」
『フフ……では本題に移ろうか』
あれほど周到な計画に対して君が先回りして見せれば、奴らは嫌でも情報漏れを疑うだろう。
いや、すでに手遅れかな?』
「奴らとて俺の情報源について調べているだろう。……例えば内通者とかな」
『フフ……では本題に移ろうか』
『三日後の夜、化学ニンジャ隊の秘密研究所から、最新のサイボーグ用パーツが出荷される。
もちろん法定外規格の危険な代物だ』
もちろん法定外規格の危険な代物だ』
この時代、実用的な義肢は世間一般にも普及しており、アメリカ軍ではほぼ全身を機械化した例まであるほどだ。
ただし、その力が犯罪に用いられないようサイボーグ手術とパーツの規格には厳しい規制が設けられている。
ただし、その力が犯罪に用いられないようサイボーグ手術とパーツの規格には厳しい規制が設けられている。
『このパーツが裏の流通網に流れれば、化学ニンジャ隊の資金源になるだけでなく、違法手術を受ける犯罪者がさらに凶悪化する』
「潰せというのか」
『君にできるならね』
「情報の見返りは?」
『そんなものはいらないさ。ただこの研究所を破壊してくれればいい』
「潰せというのか」
『君にできるならね』
「情報の見返りは?」
『そんなものはいらないさ。ただこの研究所を破壊してくれればいい』
不思議な事に、この協力者は提供した情報の見返りを要求しない。その狙いはなんだというのか?
楔はこの人物を信用しきったわけではないが、実際情報は貴重だった。
楔はこの人物を信用しきったわけではないが、実際情報は貴重だった。
「研究所の所在について詳しく話せ」
『そうこなくては』
『そうこなくては』
◆◆◆◆◆
情報にあった秘密研究所は山中深くにあり、陸路で近づくのは様々な意味で困難だった。
急峻な山肌は所々に対人センサーが仕掛けられ、犬一匹忍びこむ隙もない。
よしんば優れた忍が密かに近づいても、山道が迷路のようになっていて目的地を見失うよう工夫されている。
急峻な山肌は所々に対人センサーが仕掛けられ、犬一匹忍びこむ隙もない。
よしんば優れた忍が密かに近づいても、山道が迷路のようになっていて目的地を見失うよう工夫されている。
空からの侵入に対しても、やはりセンサー網で常に不審物の監視を行っている。
だが施設を隠匿する都合上、迎撃用兵器を配備するわけにもいかず、確たる対処手段を持たない。
だがそもそも研究所の正確な位置がわからなければ、陸からも空からも侵入することは不可能であり、今まで問題視されていなかった。
だが施設を隠匿する都合上、迎撃用兵器を配備するわけにもいかず、確たる対処手段を持たない。
だがそもそも研究所の正確な位置がわからなければ、陸からも空からも侵入することは不可能であり、今まで問題視されていなかった。
その秘密研究所に、楔が位置情報を仕入れて接近する。
ステルス性能のあるオハギがセンサー範囲外の高々度から侵入。
そして楔もレーダー透過処理をした装束に身を包み、夜陰に紛れてパラシュート降下するのだ。
ステルス性能のあるオハギがセンサー範囲外の高々度から侵入。
そして楔もレーダー透過処理をした装束に身を包み、夜陰に紛れてパラシュート降下するのだ。
『その協力者、いったい何者なんだ?』
コックピット内での通信。竜蔵寺はまだウィスパーを信用しきれていない様子だ。
「かなり情報に通じていることしかわからない。
それと、化学ニンジャを付け狙っているという点のみか」
それと、化学ニンジャを付け狙っているという点のみか」
楔にしても最初は探りながら、警戒しながら接触していた。
だが化学ニンジャの拠点を襲う内に、受け取った情報の正確さに舌を巻くようになっていく。
だが化学ニンジャの拠点を襲う内に、受け取った情報の正確さに舌を巻くようになっていく。
「今は奴の思惑に乗るとする。そんなに心配か?」
『お前さんにはまだまだ調べたいことがあるからなあ。梟の解析も進んでいないんだ、死んじまったら困る』
『お前さんにはまだまだ調べたいことがあるからなあ。梟の解析も進んでいないんだ、死んじまったら困る』
竜蔵寺とスタッフたちは興味津々に梟のことを調べたり、改造したりしていた。
その関心は楔の肉体が持つ常人離れした回復力にも向けられ、レントゲン検査の結果、体内に埋め込まれた物体があることまでは判明した。
それは球形の異物で胸のちょうど中心部に埋め込まれていた。だが切開して調べるわけにもいかず、調査は保留となっている。
その関心は楔の肉体が持つ常人離れした回復力にも向けられ、レントゲン検査の結果、体内に埋め込まれた物体があることまでは判明した。
それは球形の異物で胸のちょうど中心部に埋め込まれていた。だが切開して調べるわけにもいかず、調査は保留となっている。
「安心しろ、今回もすぐに終わらせて戻る。さてそろそろ目的地だ」
『おう頑張れよ。っと、マイアが何か話したいようだぞ』
「細かい用件なら後にしてもらえないか?」
『楔さん、帰ってきたらお寿司用意しておきますから怪我しないでくださいね!』
「寿司了解!」
『おう頑張れよ。っと、マイアが何か話したいようだぞ』
「細かい用件なら後にしてもらえないか?」
『楔さん、帰ってきたらお寿司用意しておきますから怪我しないでくださいね!』
「寿司了解!」
かくして楔は新たな悪の芽を摘むため、研究所がある山腹へ降下した。
◆◆◆◆◆
『やはり来てくれたか、嬉しいよ』
「案内を始めろ」
「案内を始めろ」
ウィスパーの通信にそっけなく返す楔。相手の方は気を悪くした風もなく、言われたとおりナビゲートを始める。
月明かりも乏しい夜の闇。その中を楔はGPSの位置情報と、ウィスパーの道案内をもとに進んだ。
この山道は化学ニンジャ隊が作り上げた迷路で、似たような風景の曲道が続き気づけば同じ場所を何度も回ってしまう。
それはまるで忍の里のダンジョンのようであり、彼らがただのサイボーグ集団ではないことを伺わせる。
だがウィスパーは複雑に入り組んだ獣道も調べあげており、また楔も人並み外れた夜目を持っていた。
おかげで二時間ほど進むと目的の場所が見えてきた。
この山道は化学ニンジャ隊が作り上げた迷路で、似たような風景の曲道が続き気づけば同じ場所を何度も回ってしまう。
それはまるで忍の里のダンジョンのようであり、彼らがただのサイボーグ集団ではないことを伺わせる。
だがウィスパーは複雑に入り組んだ獣道も調べあげており、また楔も人並み外れた夜目を持っていた。
おかげで二時間ほど進むと目的の場所が見えてきた。
『大きな岩が見えるはずだ。その裏に隠し通路があって、そこから研究所に入り込める』
「うむ、たしかに岩があるな」
『だが迂闊に近づいてはならない。パーツの運び出しに合わせて、腕のたつ化学ニンジャが何名か派遣されている。
隠し通路を守る化学ニンジャがどこかから見張っているはずだ、慎重にな』
「うむ、たしかに岩があるな」
『だが迂闊に近づいてはならない。パーツの運び出しに合わせて、腕のたつ化学ニンジャが何名か派遣されている。
隠し通路を守る化学ニンジャがどこかから見張っているはずだ、慎重にな』
ウィスパーの警告に従い身を潜めて進む楔。まだ周囲には、人はおろか生物の気配は感じられない。
(ウィスパーの言うことが正しければ、何者かが潜んでいる。気配を上手く隠しているな)
楔はそう考えたが、それはすぐに改まる。
(……かすかな血の臭い?)
臭いのする方角、茂みへかき分けていった楔は、暗闇のかなに死体を発見した。
死体は二人分、どちらもサイボーグ化されている。化学ニンジャと見ていいだろう。
死体は二人分、どちらもサイボーグ化されている。化学ニンジャと見ていいだろう。
「ウィスパー、見張りらしき忍が死んでいる」
『なんだって? 確かなのか?』
「二人死んでいる。外傷は…一人は頭部を砕かれている。
もう一人は胸に致命傷。これは銃によるものか、大口径だな」
『先に誰かがそこで戦闘を……? 君の他に侵入者が?』
『なんだって? 確かなのか?』
「二人死んでいる。外傷は…一人は頭部を砕かれている。
もう一人は胸に致命傷。これは銃によるものか、大口径だな」
『先に誰かがそこで戦闘を……? 君の他に侵入者が?』
二人の疑念は直後に明白となった。隠し扉となっている巨大な岩が打ち砕かれていたのだ。
「先客に入られたようだ」
『まさか……他にこの場所を見つけ出す組織がいたとはね』
「化学ニンジャとて万全ではないか。後を追う」
『待ちたまえ、その前に注意しておくことがある』
『まさか……他にこの場所を見つけ出す組織がいたとはね』
「化学ニンジャとて万全ではないか。後を追う」
『待ちたまえ、その前に注意しておくことがある』
ウィスパーの伝えたことは、この研究所の警備状態についてだ。
『先程も言ったが、化学ニンジャ隊は多くの作戦失敗を挽回するため、今回の計画に強力な化学ニンジャを派遣している。
中でも注意すべきは“トライ・マグナム”という男で、四天王に匹敵すると言われる実力者だ』
「四天王だと?」
『君も会っただろう、あの基地襲撃を行った連中が四天王だ』
「10人近くいたが、どいつが四天王だったのだ?」
『全員だ』
「……多いな」
中でも注意すべきは“トライ・マグナム”という男で、四天王に匹敵すると言われる実力者だ』
「四天王だと?」
『君も会っただろう、あの基地襲撃を行った連中が四天王だ』
「10人近くいたが、どいつが四天王だったのだ?」
『全員だ』
「……多いな」
楔は深く追求しなかった。
「それでどんな忍者なのだ?」
『“トライ・マグナム”の名が示す通り、三丁の大口径銃を同時に使う危険な男だ』
「三丁同時……三刀流か。三丁目の銃はどうやって撃ってくるんだ?」
『“トライ・マグナム”の名が示す通り、三丁の大口径銃を同時に使う危険な男だ』
「三丁同時……三刀流か。三丁目の銃はどうやって撃ってくるんだ?」
ウィスパーはしばし沈黙した。
『実際に見てみればわかる』
「それでは遅い。情報の有無が死命を分けるときがある。戦うのは俺なのだぞ」
『……とにかく三丁の銃を巧みに扱うのだ』
「だからその三丁目はどうやって? 三本目の手が生えているのか? それとも身体のどこかに隠されているのか?」
「それでは遅い。情報の有無が死命を分けるときがある。戦うのは俺なのだぞ」
『……とにかく三丁の銃を巧みに扱うのだ』
「だからその三丁目はどうやって? 三本目の手が生えているのか? それとも身体のどこかに隠されているのか?」
なかなか答えないウィスパーは、やや間を置いてから、
『………………だ』
「なんだと?」
『股間に銃があるんだ』
「……」
「なんだと?」
『股間に銃があるんだ』
「……」
その答えに楔もしばし沈黙した。
「股間を改造しているのだな」
『そうだ。もういいだろう』
「まだだ。そいつに睾丸は残っているのか?」
『なぜそんなことを訊く!?』
「金的攻撃が効くかどうかわからないではないか」
『そうだ。もういいだろう』
「まだだ。そいつに睾丸は残っているのか?」
『なぜそんなことを訊く!?』
「金的攻撃が効くかどうかわからないではないか」
そこでウィスパーのとの通信は切られた。
「なにを怒っているのだ……?」
仕方なく楔は案内無しで研究所に潜り込んだ。
秘密研究所の内部は静寂とすえた臭いに満ちていた。
謎の侵入者は無差別に攻撃を行ったと見え、施設内の各所に戦闘員や研究員の遺体が転がっている。
楔は慎重に物陰から様子を伺うが、これでは誰何してくる者などいないだろう。
謎の侵入者は無差別に攻撃を行ったと見え、施設内の各所に戦闘員や研究員の遺体が転がっている。
楔は慎重に物陰から様子を伺うが、これでは誰何してくる者などいないだろう。
研究用の機材も遠慮なく破壊されている。楔が手をくださずともこの施設は引導を渡されたようだ。
それでも、誰がこの破壊行為を行ったか確認しておきたい。
楔は更に奥へ進む。
それでも、誰がこの破壊行為を行ったか確認しておきたい。
楔は更に奥へ進む。
「ギャゴッ!」
悲鳴が聞こえた。まだ戦っているものがいたのだ。
楔はいっそう身を潜めながら、声のした方角に向かう。
楔はいっそう身を潜めながら、声のした方角に向かう。
「もう一度訊く。素直に質問に答えなさい」
「ぐぐ……ぎぎ……」
「化学ニンジャ隊の本拠地はどこにある?」
「へっ、オレ如き下っ端には知らされてねえんだよ」
「ぐぐ……ぎぎ……」
「化学ニンジャ隊の本拠地はどこにある?」
「へっ、オレ如き下っ端には知らされてねえんだよ」
グシャッ!
「ホギーッ!」
「お前のことはデータで知っている。中忍の“トライ・マグナム”だ。
お前ほどの忍が何も知らないはずはない」
「お前のことはデータで知っている。中忍の“トライ・マグナム”だ。
お前ほどの忍が何も知らないはずはない」
そこで繰り広げられていたのは過酷なインタビュー。ボロボロの化学ニンジャが拷問を受けていた。
(一人は化学ニンジャ……もう一人の男、あの服装は見たことがあるぞ)
楔が思い当たったその服装は、カトリックの神父が身に付けるものだ。
だが片手に銃、もう一方の手には棍棒を持つその姿はとうてい聖職者には見えない。
それもそのはず、彼の正体はバチカン市国ローマ法王庁を守る精鋭たち――その名も聖堂騎士団。
神に代わって神罰を下すものたちである。
だが片手に銃、もう一方の手には棍棒を持つその姿はとうてい聖職者には見えない。
それもそのはず、彼の正体はバチカン市国ローマ法王庁を守る精鋭たち――その名も聖堂騎士団。
神に代わって神罰を下すものたちである。
「呪われし改造者よ、その生命、神に返しなさい」