影狼隊徒然記【隊長の優雅な休暇】その4
~ 中国・某所にある機動マシン修練所 早朝 ~
修練所の中央にある擂台(闘技場)で、中華系武人風の機動マシン2機が型稽古を行っていた。傍目から見るに、両者の力量はほぼ互角。
そして互いに馴染んだ相手なのだろう。彼らは激しい型稽古を続けながらも会話を交わしていた。
そして互いに馴染んだ相手なのだろう。彼らは激しい型稽古を続けながらも会話を交わしていた。
「時に兄者。妙な噂を聞き及んだがご存じか? ここ数日、名だたる拳法家が闇討ちされているそうで」
そう問うたのは、ゴーグルを掛けた赤いポニーテールの男。名を馬須九(マ・シュージウ)という。その愛機はGUN-ryo。
「うむ、知って居るぞ弟よ。襲われたのは翻子拳の林師傅と、金剛掌の陳師傅。彼らの弟子も数名、襲われたらしい」
そう答えたのは、ゴーグルを掛けた緑色のツインテールの男。名は両尾(リャン・ウェイ)。その愛機はBUN-syu。
「そのいずれも徒手空拳で十数合の手合わせの末、曲者はいずこかへ消えたそうですな」
「あぁ。両師傅とその弟子も曲者から手傷を受けたそうだが、幸い致命傷は皆無。せいぜい打撲傷止まりだそうだ」
「なんと! 武林高手の林師傅、陳師傅にすら手傷を負わせるとは、相当な曲者ですな兄者」
「それにしても判らんなぁ・・・」「何がです? 兄者」
「あぁ。両師傅とその弟子も曲者から手傷を受けたそうだが、幸い致命傷は皆無。せいぜい打撲傷止まりだそうだ」
「なんと! 武林高手の林師傅、陳師傅にすら手傷を負わせるとは、相当な曲者ですな兄者」
「それにしても判らんなぁ・・・」「何がです? 兄者」
型稽古の手を休めぬまま首をひねる両尾と、一体何が疑問なのかと問う馬須九。
「いやな。豪雨の如き連打を主体とする翻子拳と、重厚な掌撃を旨とする金剛掌では真逆な組み合わせだと思ってな・・・」
「言われてみれば確かに。ですがそもそも、曲者が何を考えて襲撃したのかすら見当が付きませんぞ」
「うぅむ・・・次は誰が狙われるのだ? 武林に生きる者として、我らも警戒せねばならんな」
「言われてみれば確かに。ですがそもそも、曲者が何を考えて襲撃したのかすら見当が付きませんぞ」
「うぅむ・・・次は誰が狙われるのだ? 武林に生きる者として、我らも警戒せねばならんな」
ド ス ッ !
彼らの会話と型稽古の手を止めたのは。機動マシン用の弓から放たれ、擂台の地面に突き刺さった大きな矢であった。
「おのれっ! 誰だ、我が『千石弓』を勝手に使ったのは!!」
「兄者、今ツッコむべきはそこではありませぬ! 矢尻に何か付いて居りますぞ!!」
「兄者、今ツッコむべきはそこではありませぬ! 矢尻に何か付いて居りますぞ!!」
姿の見えぬ犯人が既に乗り捨てた修斗から、両尾は『千石弓』を取り返す。
そして馬須九が指摘した、矢尻に結び付けられた小さな機械を手に取ると、そこから合成音声が流れだす。
そして馬須九が指摘した、矢尻に結び付けられた小さな機械を手に取ると、そこから合成音声が流れだす。
”張英傑(チャン・インチェ)氏を預った。無事に帰して欲しくば、今夜20時、ここに趙深虎(チャオ・シェンフー)氏を連れて来る事。”
”その際、非武装の『截拳(ジークン)』2機を用意されたし。深虎氏に尋常の操機武術試合を申し込みたい。”
”なお、立会人は非武装の機体で3機程度なら認める。当方も1機、銃火器の無い機体を立会人として連れて来る予定。”
”その際、非武装の『截拳(ジークン)』2機を用意されたし。深虎氏に尋常の操機武術試合を申し込みたい。”
”なお、立会人は非武装の機体で3機程度なら認める。当方も1機、銃火器の無い機体を立会人として連れて来る予定。”
「 な ぁ に い ぃ ぃ ~ っ ! ! 事もあろうに我らが師父を誘拐するとは! 何たる悪逆非道!!」
「しかも実戦で鍛えられた白鳳殿や我らを避け、鍛練が足りぬであろう深虎殿を名指しするとは。何と卑劣な奴!」
「だが・・・悔しいが師父を救うには、この指示に従うしかあるまいなぁ・・・」
「それと、早急に深虎殿と面会するには・・・やはりここは、『姫』から伝えて貰わねばならぬでしょうなぁ・・・」
「しかも実戦で鍛えられた白鳳殿や我らを避け、鍛練が足りぬであろう深虎殿を名指しするとは。何と卑劣な奴!」
「だが・・・悔しいが師父を救うには、この指示に従うしかあるまいなぁ・・・」
「それと、早急に深虎殿と面会するには・・・やはりここは、『姫』から伝えて貰わねばならぬでしょうなぁ・・・」
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~ 趙財閥所有のオフィスビル・執務室 朝 ~
高級スーツに身を固めた若者が、机の上に置いた機械が発する合成音声を、難しい顔をして聞いて居る。
机の向かい側に居るのは、2人のゴーグル男達。そして紅色と金色の瞳を持つ、虹彩異色(オッドアイ)の少女。
机の向かい側に居るのは、2人のゴーグル男達。そして紅色と金色の瞳を持つ、虹彩異色(オッドアイ)の少女。
合成音声を聞き終わった少女が、ふくれっ面をして言い放つ。
「それで? 兄様があのボンクラの尻拭いをするのなら、あたしも手伝うわ。・・・ホントはこのまま捨てときたいんだけど」
「ちょっ、『姫』?! 発言が下品ですぞ!」「『姫』、もう少しその、言葉に手心を・・・」
「あんたらもあんたらだっ! トラブルにあっさり巻き込まれるバカの弟子なんだから、あのバカをしっかり監視しときなさいよっ!」
「うぅっ・・・面目無い」「我ら、力及ばず・・・」
「そこまで。今ここで言い争っても仕方無いだろう? まずは我々に出来る事をやろうではないか」
「ちょっ、『姫』?! 発言が下品ですぞ!」「『姫』、もう少しその、言葉に手心を・・・」
「あんたらもあんたらだっ! トラブルにあっさり巻き込まれるバカの弟子なんだから、あのバカをしっかり監視しときなさいよっ!」
「うぅっ・・・面目無い」「我ら、力及ばず・・・」
「そこまで。今ここで言い争っても仕方無いだろう? まずは我々に出来る事をやろうではないか」
仲裁に入ったスーツ姿の若者は、そう言葉を掛けつつ、手元で操作していたタブレットをゴーグル義兄弟と少女に見せる。
「兄様、これは?・・・っ!」「むむっ! 毒砲氏と言えば大蛇流空手の・・・」「何とっ! それでは一連の事件は・・・」
”やぁ。深虎ちゃん元気してっか? 突然のメールで悪ぃな。こちら空手界の初代アイドル・毒砲ちゃんだ(ちなみに二代目は勝美な)。”
”そっちでも襲撃事件があった様なんで連絡した。先日、オイラのとこに『ヘルハウンド』の乗り手らしき奴が現れてなぁ~。”
”このスーパー毒砲ちゃんに野試合を挑んで来やがったんだけどな。軽くひねってやったら、尻尾巻いて逃げやがったのよ。”
”一応、そっちの軍関係にも連絡したんだが信用されなくてヨォ。仕方ねーから連絡先が判ってるお前さんにメールした訳さ。”
”んじゃ、白鳳にも気をつけろって伝えといてくれや。『ヘルハウンド』が巧く捕まったら、オイラもまた遊びたいから連絡くれよな。”
”そっちでも襲撃事件があった様なんで連絡した。先日、オイラのとこに『ヘルハウンド』の乗り手らしき奴が現れてなぁ~。”
”このスーパー毒砲ちゃんに野試合を挑んで来やがったんだけどな。軽くひねってやったら、尻尾巻いて逃げやがったのよ。”
”一応、そっちの軍関係にも連絡したんだが信用されなくてヨォ。仕方ねーから連絡先が判ってるお前さんにメールした訳さ。”
”んじゃ、白鳳にも気をつけろって伝えといてくれや。『ヘルハウンド』が巧く捕まったら、オイラもまた遊びたいから連絡くれよな。”
「・・・毒砲って確か、日本防衛軍に居る眼帯ハゲの強面親父よね。そりゃあ、こんなメールじゃ信用されないわよ・・・」
「これで大体の事情は判明した。両尾君、馬須九君、少し鍛錬に付き合ってくれ。試合の勘を取り戻したい」
「で、では深虎殿?」「奴の挑戦を受けると?」「あぁ。『截拳』の準備と、英傑師兄の捜索も手配済みだ」
「これで大体の事情は判明した。両尾君、馬須九君、少し鍛錬に付き合ってくれ。試合の勘を取り戻したい」
「で、では深虎殿?」「奴の挑戦を受けると?」「あぁ。『截拳』の準備と、英傑師兄の捜索も手配済みだ」
深虎はそう言いながら、ネクタイを緩めて鍛錬の準備をする。
「兄様。あたしも鎧風(カイフォン)で、立会人をさせて貰うわよ」
「・・・良いだろう。遊華(ユーファ)にも良い経験になりそうだからな、この試合は」
「でも、相手は『ヘルハウンド』でしょ? まともに試合すると思う?」
「思うさ。今まで襲撃された者も、障害が残る程の強打は全く受けて居ない。つまりはそういう加減が出来る相手だ」
「・・・良いだろう。遊華(ユーファ)にも良い経験になりそうだからな、この試合は」
「でも、相手は『ヘルハウンド』でしょ? まともに試合すると思う?」
「思うさ。今まで襲撃された者も、障害が残る程の強打は全く受けて居ない。つまりはそういう加減が出来る相手だ」
しかし、今度はゴーグル義兄弟が難色を示す。
「ですが深虎殿、今度は機動マシンによる操機武術試合ですぞ。生身と違ってそういう加減が出来るかどうか・・・」
「大丈夫だ、両尾君。『截拳』は本来、次世代競技用マシンとして開発したもの。搭乗者への防護安全機能は充実している」
「大丈夫だ、両尾君。『截拳』は本来、次世代競技用マシンとして開発したもの。搭乗者への防護安全機能は充実している」
「それに彼奴が深虎殿を名指しした理由も気になります。深虎殿が鈍ってるからだけとは思えぬのですが・・・」
「コラ馬須九ッ! 兄様は今でも、あんたらよりずっと強いわよ!」
「私を指名して来た理由は多分、2つあると思う。1つは私を通じて『白華鳳凰拳』を学ぶ気だろうね」
「それは英傑師父と対戦すれば…」「学べる訳無いでしょバカっ!」
「コラ馬須九ッ! 兄様は今でも、あんたらよりずっと強いわよ!」
「私を指名して来た理由は多分、2つあると思う。1つは私を通じて『白華鳳凰拳』を学ぶ気だろうね」
「それは英傑師父と対戦すれば…」「学べる訳無いでしょバカっ!」
「もう1つは『截拳』の実戦性能テスト。こちらはまぁ、我々としても望む処ではあるけれどね」
「・・・あぁ! 深虎殿の立場ならば即座に『截拳』を用意するのも容易い事ですからな! 『ヘルハウンド』め・・・なんと狡猾な」
「・・・あぁ! 深虎殿の立場ならば即座に『截拳』を用意するのも容易い事ですからな! 『ヘルハウンド』め・・・なんと狡猾な」
そうしている内にも、刻一刻と対戦時間が近づいて来る。そして・・・
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~ 中国・某所にある機動マシン修練所 夜 ~
軍用の機動マシンよりも一回りは小柄な『截拳』2機が、巨大キャリアーに載せられて修練所の出入り口から運ばれてくる。
そのキャリアーを運転しているのは、趙深虎。
続いて出入り口から入って来たのは、素手の鎧風とGUN-ryo、BUN-syu。各々擂台周囲に設置された待機区画へと移動する。
そのキャリアーを運転しているのは、趙深虎。
続いて出入り口から入って来たのは、素手の鎧風とGUN-ryo、BUN-syu。各々擂台周囲に設置された待機区画へと移動する。
「夜分、無理にご足労願って済まないな。準備が出来たら早速、始めるとしようか」
その声と共に、鎧風達とは対面の出入り口から入って来たのは一機の操兵。腕には狐面を被った黒装束の男を乗せて居る。
赤銅色の、羅甲よりも少し背の低くてずんぐりしたその操兵は、鎧風達とは別の待機区画へと移動して正座する。
狐面も、座った操兵の腕から飛び降りて、深虎の居るキャリアーの方へと歩みだす。
赤銅色の、羅甲よりも少し背の低くてずんぐりしたその操兵は、鎧風達とは別の待機区画へと移動して正座する。
狐面も、座った操兵の腕から飛び降りて、深虎の居るキャリアーの方へと歩みだす。
「 待 て え ぇ ぇ ー い !! 英 傑 師 父 は 無 事 だ ろ う な ?!! 」
「 万 が 一 、 師 父 に 危 害 を 加 え て 居 よ う も の な ら 、 こ こ が 貴 様 の 墓 場 に な る っ !! 」
その狐面に対して、機動マシンの外部スピーカーから大音声を放つゴーグル義兄弟。しかし狐面は悠々と耳をほじって一つ溜息をつく。
そして狐面の中に仕込んだ小型マイクを調整し、一般通信回路で返答をする。
そして狐面の中に仕込んだ小型マイクを調整し、一般通信回路で返答をする。
「・・・あー、そろそろ茶番を止めても良いか? 血管がブチ切れそうな大声を何度も聞く趣味は無いのでな」
「そして深虎殿、貴殿の部下は優秀だな。私の予想以上に早く、『彼ら』を発見されてしまった」
「そして深虎殿、貴殿の部下は優秀だな。私の予想以上に早く、『彼ら』を発見されてしまった」
それに対して深虎も、キャリアーの通信機から応答。
「うち(『趙商貿有限公司』)系列の菜館(料理店)で宴会をしておいて、図々しいと言うか何と言うか・・・」
「陰で監視してる君の配下を刺激したく無くて、手出し出来なかったけどね。だが、『茶番』と言うならば英傑師兄を解放して貰いましょう」
「陰で監視してる君の配下を刺激したく無くて、手出し出来なかったけどね。だが、『茶番』と言うならば英傑師兄を解放して貰いましょう」
その間に、狐面はキャリアーの截拳に近付き、赤い塗装の機体に搭乗する。
「あぁ、既に解放している・・・だが済まんな。その際、同行していた配下が結果的に宴会代を踏み倒している」
「なので、あの場に残っている英傑氏と、一緒に居たショウジとか言う武器商人に支払って貰う事になりそうだが・・・構わないかね?」
「なので、あの場に残っている英傑氏と、一緒に居たショウジとか言う武器商人に支払って貰う事になりそうだが・・・構わないかね?」
深虎も青い塗装の截拳に搭乗しながら、截拳の通信機で応える。
「構いませんとも。あの2人には良い薬となる」
~ 擂台中央 ~
キャリアーが自動操縦で擂台から退出すると、残るは赤い截拳と青い截拳。
向かい合った截拳は、包拳の構えで互いに礼を返す。
向かい合った截拳は、包拳の構えで互いに礼を返す。
「悪いが一般人相手では、無理に戦場へ出て貰う訳にも行かなくてね。少々強引な手だが、こういう形で試合を申し込ませて貰った」
「手段は感心しませんが、今は喜んで受けましょう。私も噂の『ヘルハウンド』の手筋を知りたくなりましてね」
「ほぉ・・・本気で隠してた訳でも無いが、そこまで判ってたか」
「『ヘルハウンド(妖爪鬼)』と一緒に目撃されている『マッドクレイ(水鋼獣)』がそこで座ってれば、誰だって気付くでしょう?」
「手段は感心しませんが、今は喜んで受けましょう。私も噂の『ヘルハウンド』の手筋を知りたくなりましてね」
「ほぉ・・・本気で隠してた訳でも無いが、そこまで判ってたか」
「『ヘルハウンド(妖爪鬼)』と一緒に目撃されている『マッドクレイ(水鋼獣)』がそこで座ってれば、誰だって気付くでしょう?」
2機の截拳が臨戦態勢に入る・・・が、赤い截拳がちょっと待てと制止の手振りをする。
「忘れる処だった。試合ついでに少々試したい機能があってね。いや、戦闘用ではなく記録系機能だが。いきなり使ったら驚くだろう?」
その科白と共に、赤い截拳が水鋼獣に合図を送る。すると、赤く輝いた水鋼獣の体表から多数の眼(センサー)が浮き出て来た!
「ぬおっ! 面妖なっ!!」「何だこれはぁ?!」「うわ、キモっ!」「・・・これは一体?」
「センサー性能向上システム、とでも言うかな。某所から仕入れた技術を流用させて貰った品でね、一度試してみたかった」
「センサー性能向上システム、とでも言うかな。某所から仕入れた技術を流用させて貰った品でね、一度試してみたかった」
水鋼獣の体表で多数の眼がギョロギョロと蠢いているのを思わず眺めていた中華勢だったが、それだけで特に実害は無さそうだったのと、
赤い截拳と青い截拳が構えを取り直したのを見て、再び試合へと目を向ける。
赤い截拳と青い截拳が構えを取り直したのを見て、再び試合へと目を向ける。
「 い ざ 、 尋 常 に …」「 … 勝 負 っ ! 」
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