カカトの金属パーツをペダル部分に固定し、
可動シートの位置や高さを調整してロックすると、
あたかも自転車やバイクに乗っているような恰好になる。
やや前傾姿勢だが、胸部に可変スタビライザを当てているため、
男たちもどうにか安定して乗り込むことができていた。
ただし、尋常ではなく狭い。
胸部、脚部、骨盤、さらには腕部の四つがスタビライザ越しにコクピットに接続され、
さらには背後の侵入口からも背中用の固定パーツを当てられている。
丁度、がれきの山に埋もれたような形だ。
閉鎖と息苦しさに心拍数が上昇していくのを男たちは感じる。
並外れた筋肉が、かえって自身を苦しめているのだ。
彼らに比べれば少女のほうはまだまだ余裕があるといった感で、
むろん何度も乗りなれている性もあるのだが以外にもリラックスしているようで、
どころかスタビライザが限界ぎりぎりまで伸びきっているような有様だ。
マチョズムとは相反する華奢・ズムの少女にとっては、
それこそ同じ四畳半間でも体感的に広く見えるような形なのだろう。
その余裕は、口調にも表れる。
「さて、とりあえず適性試験とゆーことなんで、
簡単な操作説明をさせてもらいます。よく聞いてくださいね。
右手に半固定で取り付けられたのは、機内操作のスイッチとグリップです。
グリップから指を伸ばせば六つのボタンに触れられると思いますが、
それらは武装変更とかドッキング機構に関する部分ですので、今回は使いません。
マトに向かって攻撃するときに人差し指でトリガー引く以外は、
振り落とされないようにグリップを握りしめるだけで特に問題ないと思います。
対して左手のほうは、かなり重要です。操縦桿ですからね。
まず、グリップガード部分にいくつかボタンが仕込まれてますが、
これらも今回は使いません。親指にあるカメラ可動用のハットスイッチくらいですね。
後は、操縦桿自体を動かしながら、ペダルを踏み込むだけのお仕事です。
あ、ただペダルにも親指とそれ以外の指で、合計二つのスイッチがありますが、
それらは踏まない様に注意してくださいね。
それじゃあみなさん、左手首を少しだけ上方に持ち上げるように捻ってみてください」
最初の説明からまったくもって変わらない声色で、皆に指示を与えている。
面白くないのは男たちのほうで、なんでこいつはこんなに余裕なのだと、
ヘルメットの下で顔を歪ませているほどだ。
つまらないのは至極動物的に仕方ないことだが、指示は指示。
従わなければテストに脱落するのは当然のこと。
嫌々ながらも少女の命ずるがままに少しずつ、あるいはわずかに大胆に、
男たちは左手首に力を込めて、機体の操作に集中する。
ただし、一名を除いて。
その例外は、到底愛すこともできそうにない一匹のバカだ。
ケロウィンに突っかかり、腋と肘の内関節に手痛い一撃を受けた、
あのマチョズムの出来損ないだ。
プライドを傷つけられた彼は、少女に復讐を果たそうと虎視眈々と機会を伺っていた。
そのチャンスが今だ。
今が一番の好機だ。
相手は今、まともに操作もできないとなめてかかっている。
ならば今こそ、今でしかないこの時こそ、
少女に向かって牙をむくべきだ、そうするべきだ。
はたから見れば完全な逆恨みどころか愚行でしかない、
仮に成功したとしても非難されるのは彼の側でしかないのに、
男は、機体を少女に向け攻撃に転じようとしていた。
もはや男の頭の中には復讐の二文字しかなく、
ジェリスヘレムのパイロットの座などちらりとも頭をよぎることはない。
アレを倒せ。
その言葉のみを信じて、力の限り左手を横へ薙ぐ。
・・・・彼が意識を保てたのは、その瞬間までだった。
彼はダメージレスポンスシステムによって、
電脳空間上とはいえ少女にダメージを与えることができると考えていた。
だから自機ごと体当たりか、あるいはそこからがむしゃらに攻撃を加えようとしたのだろう。
そうやって憂さを晴らそうとしたのだろうが、彼は誤算していた。
ジェリスヘレムの操作法は、驚くべきほどシビアだということを。
そしてダメージが、自分にも返ってくるということを忘れていた。
男が操縦桿をひく・・・・
同時に、機体が横に七千度近く回転する。
右脚のペダルを力の限り踏み込んだのも悪かったが、
より最悪だったのは操縦桿があまりにも軽かったからか。
力をかけすぎた左手はぐるりと、手の甲が時計回りに横にまで傾いた。
その結果、機体そのものがグルン・グルンと、
ジェットエンジンを何十と取り付け一斉にふかせた観覧車のように、
あるいは百六十キロ以上の野球ボールのように、回転する。
幸運だったのは二つ。
実機ではなくテスト用の電脳空間だったため、
七千度以上の急速回転によるダメージを忠実に再現できず、
システムが一秒ももたずにシャットダウンしたことが一つ。
これによって彼はちくわの中でひき肉になることもなく、
次に乗る候補生が血肉まみれにならなくて済んでいた。
そしてもう一つは、その攻撃は一応とはいえ成功していたことだ。
回転する男の機体は吸い込まれるように少女へ向けて直進する。
さながら弾丸のように。あるいはKAMI-KAZEのように向かう。
しかし攻撃が成功したとはいえ着弾するとは限らない。
少女は危なげもなくこれを回避。
もっとも、この暴挙を予見してたのか、
相手が攻勢にでる直前から回避行動に移っていた。
とはいえ少しばかり不自然な点もあったが、
その違和感に気づくものは誰一人として存在しなかった。
風に吹かれればその黄金の髪がなびく様に、
少女もまた、ふわりと避けてのけた。
そういう風に、男たちの目には映っていた。
いや、どちらかといえばあぜんとしていたと言ったほうが正しい。
開いた口がふさがらない。
そんな言葉のとおりだ。
「・・・・あー、はい、今のは悪い例ですね。
思いっきり引っ張るとあーなりますんで、みなさんは注意してくださいね。
繊細な操作と多大な空間把握能力、あとは機体に対する信頼とか、
計算能力とか、慣れとか、まあいろいろとあるんですけど、
そのぅ・・・・なんていいますか、あれですね。
あたしの言うこと聞かないと、こうなりますってことで」
可動シートの位置や高さを調整してロックすると、
あたかも自転車やバイクに乗っているような恰好になる。
やや前傾姿勢だが、胸部に可変スタビライザを当てているため、
男たちもどうにか安定して乗り込むことができていた。
ただし、尋常ではなく狭い。
胸部、脚部、骨盤、さらには腕部の四つがスタビライザ越しにコクピットに接続され、
さらには背後の侵入口からも背中用の固定パーツを当てられている。
丁度、がれきの山に埋もれたような形だ。
閉鎖と息苦しさに心拍数が上昇していくのを男たちは感じる。
並外れた筋肉が、かえって自身を苦しめているのだ。
彼らに比べれば少女のほうはまだまだ余裕があるといった感で、
むろん何度も乗りなれている性もあるのだが以外にもリラックスしているようで、
どころかスタビライザが限界ぎりぎりまで伸びきっているような有様だ。
マチョズムとは相反する華奢・ズムの少女にとっては、
それこそ同じ四畳半間でも体感的に広く見えるような形なのだろう。
その余裕は、口調にも表れる。
「さて、とりあえず適性試験とゆーことなんで、
簡単な操作説明をさせてもらいます。よく聞いてくださいね。
右手に半固定で取り付けられたのは、機内操作のスイッチとグリップです。
グリップから指を伸ばせば六つのボタンに触れられると思いますが、
それらは武装変更とかドッキング機構に関する部分ですので、今回は使いません。
マトに向かって攻撃するときに人差し指でトリガー引く以外は、
振り落とされないようにグリップを握りしめるだけで特に問題ないと思います。
対して左手のほうは、かなり重要です。操縦桿ですからね。
まず、グリップガード部分にいくつかボタンが仕込まれてますが、
これらも今回は使いません。親指にあるカメラ可動用のハットスイッチくらいですね。
後は、操縦桿自体を動かしながら、ペダルを踏み込むだけのお仕事です。
あ、ただペダルにも親指とそれ以外の指で、合計二つのスイッチがありますが、
それらは踏まない様に注意してくださいね。
それじゃあみなさん、左手首を少しだけ上方に持ち上げるように捻ってみてください」
最初の説明からまったくもって変わらない声色で、皆に指示を与えている。
面白くないのは男たちのほうで、なんでこいつはこんなに余裕なのだと、
ヘルメットの下で顔を歪ませているほどだ。
つまらないのは至極動物的に仕方ないことだが、指示は指示。
従わなければテストに脱落するのは当然のこと。
嫌々ながらも少女の命ずるがままに少しずつ、あるいはわずかに大胆に、
男たちは左手首に力を込めて、機体の操作に集中する。
ただし、一名を除いて。
その例外は、到底愛すこともできそうにない一匹のバカだ。
ケロウィンに突っかかり、腋と肘の内関節に手痛い一撃を受けた、
あのマチョズムの出来損ないだ。
プライドを傷つけられた彼は、少女に復讐を果たそうと虎視眈々と機会を伺っていた。
そのチャンスが今だ。
今が一番の好機だ。
相手は今、まともに操作もできないとなめてかかっている。
ならば今こそ、今でしかないこの時こそ、
少女に向かって牙をむくべきだ、そうするべきだ。
はたから見れば完全な逆恨みどころか愚行でしかない、
仮に成功したとしても非難されるのは彼の側でしかないのに、
男は、機体を少女に向け攻撃に転じようとしていた。
もはや男の頭の中には復讐の二文字しかなく、
ジェリスヘレムのパイロットの座などちらりとも頭をよぎることはない。
アレを倒せ。
その言葉のみを信じて、力の限り左手を横へ薙ぐ。
・・・・彼が意識を保てたのは、その瞬間までだった。
彼はダメージレスポンスシステムによって、
電脳空間上とはいえ少女にダメージを与えることができると考えていた。
だから自機ごと体当たりか、あるいはそこからがむしゃらに攻撃を加えようとしたのだろう。
そうやって憂さを晴らそうとしたのだろうが、彼は誤算していた。
ジェリスヘレムの操作法は、驚くべきほどシビアだということを。
そしてダメージが、自分にも返ってくるということを忘れていた。
男が操縦桿をひく・・・・
同時に、機体が横に七千度近く回転する。
右脚のペダルを力の限り踏み込んだのも悪かったが、
より最悪だったのは操縦桿があまりにも軽かったからか。
力をかけすぎた左手はぐるりと、手の甲が時計回りに横にまで傾いた。
その結果、機体そのものがグルン・グルンと、
ジェットエンジンを何十と取り付け一斉にふかせた観覧車のように、
あるいは百六十キロ以上の野球ボールのように、回転する。
幸運だったのは二つ。
実機ではなくテスト用の電脳空間だったため、
七千度以上の急速回転によるダメージを忠実に再現できず、
システムが一秒ももたずにシャットダウンしたことが一つ。
これによって彼はちくわの中でひき肉になることもなく、
次に乗る候補生が血肉まみれにならなくて済んでいた。
そしてもう一つは、その攻撃は一応とはいえ成功していたことだ。
回転する男の機体は吸い込まれるように少女へ向けて直進する。
さながら弾丸のように。あるいはKAMI-KAZEのように向かう。
しかし攻撃が成功したとはいえ着弾するとは限らない。
少女は危なげもなくこれを回避。
もっとも、この暴挙を予見してたのか、
相手が攻勢にでる直前から回避行動に移っていた。
とはいえ少しばかり不自然な点もあったが、
その違和感に気づくものは誰一人として存在しなかった。
風に吹かれればその黄金の髪がなびく様に、
少女もまた、ふわりと避けてのけた。
そういう風に、男たちの目には映っていた。
いや、どちらかといえばあぜんとしていたと言ったほうが正しい。
開いた口がふさがらない。
そんな言葉のとおりだ。
「・・・・あー、はい、今のは悪い例ですね。
思いっきり引っ張るとあーなりますんで、みなさんは注意してくださいね。
繊細な操作と多大な空間把握能力、あとは機体に対する信頼とか、
計算能力とか、慣れとか、まあいろいろとあるんですけど、
そのぅ・・・・なんていいますか、あれですね。
あたしの言うこと聞かないと、こうなりますってことで」
パイロット適正の試験に来たんだが、もう俺たちは駄目かもしれない。
男たちの野太い悲鳴が延々とこだました。
男たちの野太い悲鳴が延々とこだました。