「おーおー来てる来てる、うじゃうじゃ来てるな」
どこか感嘆とした響きをにおわせて、
隊長が呆れたように告げる。
水平線に色の濃い青や緑の塊は光学装備でもしっかり確認が取れた。
それを見た第一声は、なんとも間のぬけた言葉だ。
「ケロウィン中尉、聞こえるか?」
「あ、はい、聞こえます」
「友軍各機は現在両方面に退避、敵軍はこちらに進軍中。
報告によると敵は人型、亜人型、水中亜種型の混合だ。
どうも地上戦重視タイプの中隊だったようだな。
一応飛行タイプも混じってはいるが、まあ、数は少ない」
「了解です。ところで・・・・中隊って、二百人だったような気がしたんですけど」
「ん、ああ、よそじゃ知らんが、こっちでは中隊と言えば二十機くらいの感覚だ。
人に比べて大型でかさばる上に一機当たりの戦闘力は人間の非じゃない。
さらに敵の輸送ユニット一個がだいたい二十機止まりだからな、
ジェリコ・チームでは中隊一個と言えば輸送機一個で計算しているんだ」
「ははあ・・・・なるほどです、了解しました」
「よろしい、ではブラス、レクチャーは任せた」
そういって、隊長機はわずかに前進を始める。
機体名、ヘレム・B/ビショップ。
中距離間の戦闘に特化した重火器支援機だ、
最前線である『アイゼン』で待ち構えているオフェンスのサポートとして、
今から敵のフォーメーションを確認しながら随時距離をつめ始めている。
火砲支援のあるなしで歩兵が活きる分、
隊長の動きが本作戦の損耗率に直に影響を及ぼす。
そういったことをかいつまんで、
ブラスは全くの素人である少女に教え込んでいた。
いや、もう素人ではない。
人を殺すと決めた時点で、彼の教えを乞うた時点で、もう少女は戦士だ。
「人型敵機が、何かサーフ・ボードの様なものに乗っているのに気が付いたか?」
「えーと、あ、はい、確認しました」
「よろしい。あれは動力ユニットに見えないこともないが、敵の機体だ。
矢印を逆向きにしたようなものが、玉鱗。白地に水色のやつがそうだ。
それと橙色の、星形をしている奴は盤鱗。玉鱗よりも頑丈で、陸上戦も得意だ。
ただし砲撃装備は皆無の上に、頑丈さを追求したせいか火砲も持ち合わせてはいない。
後方狙撃の我々にとっては、有効致命打距離が短い分、狙うのはやや後回しにした方がいい。
ちなみにあの星形は、このあたりではメカニカル・スター・マンなどと呼んだり、
それを略してMSマンなどと呼称していることもある。
通称名で報告が来る場合もあるから、一応覚えておくように」
矢継ぎ早に解説をする。
コクピット正面右のモニタでも、敵機体の詳しいデータは表示されるが、
戦闘中に視線を外すわけにもいかない。
とりあえずは、ざっと相手の特徴をたたき込み、
前情報と自分たちの戦い方を見て覚えてもらうといった心づもりだった。
実際、間延びした口調さえ除けば、少女はなかなかに物覚えの早い生徒だ。
渡した基本教本もその日のうちに読破したらしく、
先ほどなど中隊の機数に疑問を挟んだくらいだ。
なるほど、伸びしろはあるな。
機体を海中に水没させつつ、老人はわずかに頬を緩める。
だから、あまりおしゃべりが得意でない彼でも、
時には饒舌になることだってある。
「一つ、質問いいですか?」
「許そう、むしろどんどんしてくれたまえ」
「なぜ『アイゼン』を起動して、わざわざ敵をおびき寄せるのでしょうか?
『アイゼン』ごと爆薬で吹っ飛ばす、というわけでもないですし、
敵とわざわざ地上戦をしよう、というのはこう、
なんというか、お互いに理解がないとできないですよね?」
「ああ、それは単に敵も味方も経験の問題だな。
こちらは有史以来、水中戦闘の経験が皆無だ。
いや、無いとは言わないが、少なくとも人型機体でやりあった経験は、ない。
だから経験が活きない。戦法もうまく取りづらい。どころか大の苦手だ。
渡した教本にもその手の事は一切書いてなかったはずだから理解はできるだろう。
前例なし、だから教えることは何もない、という意味・・・・投げやりだ。
かといって敵の方はと言えばかなり海慣れこそしてるが、やはり主力は陸戦のようだ。
お互い実は苦手なんだな、相手も海面方面の侵略だっていうのに。おまぬけなことだ」
「え、海軍なのに海が苦手って変じゃありませんか?」
「いや、単に敵は軍の人員が多すぎて、陸軍から漏れた奴が来ている感じだ。
ノウハウを教わってない兵が回されてると言いなおすのもいいかもしれない。
どちらにしろ、あちらもそこまで乗り気ではない、ということだ。
生憎と軍事基地よりも民間施設や家屋、漁村のほうが海面との隣接数が多い。
下手に戦って民間人に危険行為を振りかざすよりかは、
こちらが用意したフィールドで戦う方があちらとしても気が楽なのだろう。
それに水中にはこちらが用意したトラップがあるしな、
レーダーに反応しない網とか、まあいろいろだ。
どちらにしろ、相手からしてみれば戦いにくいということだ」
「あー・・・・なんとなくですが、理解しました」
そういって、少女も水深を始める。
臨機応変、しかし勝手な判断は厳禁。
少女は見事にそれらを守り、
老人の機体、ヘレム・R/レンジャーの真後ろを、
寸分たがわず同じコースを直進していく。
いや、やや半機体分ほど下側の位置。
海面を移動している敵からは捕捉され難い位置だ。
機体が密着するか否か、という位置取りをし続けているため、
おそらくは相手のレーダーでも一機分の機影しか捕捉されていないだろう。
中々どうして慣れたものだ。
老人は素直に感嘆とした評価を下す。
調整した機体のテスト稼働を担当しきっていただけあって、
機体捌きには目を見張るものがある。
以前はパイロットを呼び出して行っていたそれらを、
彼女に受け持ってもらえるのは非常に楽だな、
程度の感想しか持ち合わせてはいなかった。
しかしそれは過小評価だと認識を改める。
平常時の精密操作性に限れば、
少女を超える技量を持つ者は存在しないだろう。
特に現在前線を張っている二人組はあまりにもずぼらだ。
タッカノ・ツーメとやらを煎じて飲ませてやりたい。
苦笑交じりにそんな考えも思い浮かんでくる。
とはいえ、実践はこれが初となれば不安も残る。
今後の行動次第では徹底的な訓練も必要かもしれない。
そんなことを思いながら、自分の後ろをついてくる少女をちらりと見る。
まあ少なくとも、度胸と気配りだけは認めてやろう。
ここだけは素直に、老人も認めていた。
どこか感嘆とした響きをにおわせて、
隊長が呆れたように告げる。
水平線に色の濃い青や緑の塊は光学装備でもしっかり確認が取れた。
それを見た第一声は、なんとも間のぬけた言葉だ。
「ケロウィン中尉、聞こえるか?」
「あ、はい、聞こえます」
「友軍各機は現在両方面に退避、敵軍はこちらに進軍中。
報告によると敵は人型、亜人型、水中亜種型の混合だ。
どうも地上戦重視タイプの中隊だったようだな。
一応飛行タイプも混じってはいるが、まあ、数は少ない」
「了解です。ところで・・・・中隊って、二百人だったような気がしたんですけど」
「ん、ああ、よそじゃ知らんが、こっちでは中隊と言えば二十機くらいの感覚だ。
人に比べて大型でかさばる上に一機当たりの戦闘力は人間の非じゃない。
さらに敵の輸送ユニット一個がだいたい二十機止まりだからな、
ジェリコ・チームでは中隊一個と言えば輸送機一個で計算しているんだ」
「ははあ・・・・なるほどです、了解しました」
「よろしい、ではブラス、レクチャーは任せた」
そういって、隊長機はわずかに前進を始める。
機体名、ヘレム・B/ビショップ。
中距離間の戦闘に特化した重火器支援機だ、
最前線である『アイゼン』で待ち構えているオフェンスのサポートとして、
今から敵のフォーメーションを確認しながら随時距離をつめ始めている。
火砲支援のあるなしで歩兵が活きる分、
隊長の動きが本作戦の損耗率に直に影響を及ぼす。
そういったことをかいつまんで、
ブラスは全くの素人である少女に教え込んでいた。
いや、もう素人ではない。
人を殺すと決めた時点で、彼の教えを乞うた時点で、もう少女は戦士だ。
「人型敵機が、何かサーフ・ボードの様なものに乗っているのに気が付いたか?」
「えーと、あ、はい、確認しました」
「よろしい。あれは動力ユニットに見えないこともないが、敵の機体だ。
矢印を逆向きにしたようなものが、玉鱗。白地に水色のやつがそうだ。
それと橙色の、星形をしている奴は盤鱗。玉鱗よりも頑丈で、陸上戦も得意だ。
ただし砲撃装備は皆無の上に、頑丈さを追求したせいか火砲も持ち合わせてはいない。
後方狙撃の我々にとっては、有効致命打距離が短い分、狙うのはやや後回しにした方がいい。
ちなみにあの星形は、このあたりではメカニカル・スター・マンなどと呼んだり、
それを略してMSマンなどと呼称していることもある。
通称名で報告が来る場合もあるから、一応覚えておくように」
矢継ぎ早に解説をする。
コクピット正面右のモニタでも、敵機体の詳しいデータは表示されるが、
戦闘中に視線を外すわけにもいかない。
とりあえずは、ざっと相手の特徴をたたき込み、
前情報と自分たちの戦い方を見て覚えてもらうといった心づもりだった。
実際、間延びした口調さえ除けば、少女はなかなかに物覚えの早い生徒だ。
渡した基本教本もその日のうちに読破したらしく、
先ほどなど中隊の機数に疑問を挟んだくらいだ。
なるほど、伸びしろはあるな。
機体を海中に水没させつつ、老人はわずかに頬を緩める。
だから、あまりおしゃべりが得意でない彼でも、
時には饒舌になることだってある。
「一つ、質問いいですか?」
「許そう、むしろどんどんしてくれたまえ」
「なぜ『アイゼン』を起動して、わざわざ敵をおびき寄せるのでしょうか?
『アイゼン』ごと爆薬で吹っ飛ばす、というわけでもないですし、
敵とわざわざ地上戦をしよう、というのはこう、
なんというか、お互いに理解がないとできないですよね?」
「ああ、それは単に敵も味方も経験の問題だな。
こちらは有史以来、水中戦闘の経験が皆無だ。
いや、無いとは言わないが、少なくとも人型機体でやりあった経験は、ない。
だから経験が活きない。戦法もうまく取りづらい。どころか大の苦手だ。
渡した教本にもその手の事は一切書いてなかったはずだから理解はできるだろう。
前例なし、だから教えることは何もない、という意味・・・・投げやりだ。
かといって敵の方はと言えばかなり海慣れこそしてるが、やはり主力は陸戦のようだ。
お互い実は苦手なんだな、相手も海面方面の侵略だっていうのに。おまぬけなことだ」
「え、海軍なのに海が苦手って変じゃありませんか?」
「いや、単に敵は軍の人員が多すぎて、陸軍から漏れた奴が来ている感じだ。
ノウハウを教わってない兵が回されてると言いなおすのもいいかもしれない。
どちらにしろ、あちらもそこまで乗り気ではない、ということだ。
生憎と軍事基地よりも民間施設や家屋、漁村のほうが海面との隣接数が多い。
下手に戦って民間人に危険行為を振りかざすよりかは、
こちらが用意したフィールドで戦う方があちらとしても気が楽なのだろう。
それに水中にはこちらが用意したトラップがあるしな、
レーダーに反応しない網とか、まあいろいろだ。
どちらにしろ、相手からしてみれば戦いにくいということだ」
「あー・・・・なんとなくですが、理解しました」
そういって、少女も水深を始める。
臨機応変、しかし勝手な判断は厳禁。
少女は見事にそれらを守り、
老人の機体、ヘレム・R/レンジャーの真後ろを、
寸分たがわず同じコースを直進していく。
いや、やや半機体分ほど下側の位置。
海面を移動している敵からは捕捉され難い位置だ。
機体が密着するか否か、という位置取りをし続けているため、
おそらくは相手のレーダーでも一機分の機影しか捕捉されていないだろう。
中々どうして慣れたものだ。
老人は素直に感嘆とした評価を下す。
調整した機体のテスト稼働を担当しきっていただけあって、
機体捌きには目を見張るものがある。
以前はパイロットを呼び出して行っていたそれらを、
彼女に受け持ってもらえるのは非常に楽だな、
程度の感想しか持ち合わせてはいなかった。
しかしそれは過小評価だと認識を改める。
平常時の精密操作性に限れば、
少女を超える技量を持つ者は存在しないだろう。
特に現在前線を張っている二人組はあまりにもずぼらだ。
タッカノ・ツーメとやらを煎じて飲ませてやりたい。
苦笑交じりにそんな考えも思い浮かんでくる。
とはいえ、実践はこれが初となれば不安も残る。
今後の行動次第では徹底的な訓練も必要かもしれない。
そんなことを思いながら、自分の後ろをついてくる少女をちらりと見る。
まあ少なくとも、度胸と気配りだけは認めてやろう。
ここだけは素直に、老人も認めていた。