どこまでも広がる暗黒の宇宙……
この広大な空間には様々な知的生命体が存在し、また様々な国家、団体が所狭しとひしめき合っている
その中でも一際強烈な光を放つのは、天の川銀河等、極一部の辺境地以外を支配下に収めるという超巨大国家
彼らの祀る戦神の名を冠す『アムステラ』と呼ばれる集団であることは誰の目から見ても明らかだろう
その中でも一際強烈な光を放つのは、天の川銀河等、極一部の辺境地以外を支配下に収めるという超巨大国家
彼らの祀る戦神の名を冠す『アムステラ』と呼ばれる集団であることは誰の目から見ても明らかだろう
「見てくださいシャンディ。ほら、雪が降ってる」
そのアムステラ神聖帝国、中央都市の更に中央に築かれた豪奢な城郭に少女は居た
「はいはい、わかってますわ殿下。でも前を向いてくださいね~」
「メイク失敗しちゃっても良ければ構いませんけど」
「メイク失敗しちゃっても良ければ構いませんけど」
呼びかけた少女の真後ろ、シャンディと呼ばれたもう一人の少女がフランクに答える
目の前には化粧台の鏡。その中には白いドレスと白い肌、そして巧みな指捌きで筆を操る浅黒い肌の二人が写る
目の前には化粧台の鏡。その中には白いドレスと白い肌、そして巧みな指捌きで筆を操る浅黒い肌の二人が写る
「ごめんなさい、つい……」
鏡へ向けて硬い苦笑いを浮かべたこの少女の名は『パナーシェ・コロナ・アムステラ』
まだ十代と若年ではあるが、アムステラ皇家『コロナ公爵家』の当主であり、帝位継承権を持つの歴としたお姫様
最も皇家としては傍流の傍流、継承権も下から数えた方が早い程度ではあるのだが
まだ十代と若年ではあるが、アムステラ皇家『コロナ公爵家』の当主であり、帝位継承権を持つの歴としたお姫様
最も皇家としては傍流の傍流、継承権も下から数えた方が早い程度ではあるのだが
「此度は新たな暦の祝賀にて挨拶を任されているのですもの。気を引き締めなくてはなりませんね」
両手をグッと握り気合を込めるパナーシェだが、見ているシャンディの目は冷ややかだ
「私は別にキャンセルしても良かったと思うのですけどね」
「毎年のように暗殺未遂が起きる事、殿下だって当然ご存じでしょう?」
「毎年のように暗殺未遂が起きる事、殿下だって当然ご存じでしょう?」
アムステラ帝国は武力国家である。人型兵器『操兵』等、数々の超兵器を以って宇宙大半の統一を成し遂げた
統治の手腕もまた巧みであり、征服地からの不満も悉く抑え込んではいるだろう
……しかして、やっている事は『力による制圧』。反発を完全に取り除く事は不可能であり、
国威が増すに比例して、それらの規模もまた巨大かつ根深いものへとなっていったのだ
統治の手腕もまた巧みであり、征服地からの不満も悉く抑え込んではいるだろう
……しかして、やっている事は『力による制圧』。反発を完全に取り除く事は不可能であり、
国威が増すに比例して、それらの規模もまた巨大かつ根深いものへとなっていったのだ
そして今宵は新たな年を記念する新年祝賀の席。国教会本部大聖堂の前で執り行われるこの式典は
アムステラ本国で行われる祭事の中でも特に大規模なものの一つとなっている
この場の狙ったテロが計画された前例など枚挙に暇がない
そういった事実を指し、シャンディは苦言を呈すのであった
アムステラ本国で行われる祭事の中でも特に大規模なものの一つとなっている
この場の狙ったテロが計画された前例など枚挙に暇がない
そういった事実を指し、シャンディは苦言を呈すのであった
「私だって、そういう方が居ることは存じてますし、そういう方が話一つで改心してくれるなどとも思いません」
「ですが、こうして選ばれたということは、私を推挙してくださった方が皇家の中にも多数存在したということの他ありません」
「私はね、シャンディ……その事実がとっても嬉しいのよ。どのような含みがあろうともね」
「ですが、こうして選ばれたということは、私を推挙してくださった方が皇家の中にも多数存在したということの他ありません」
「私はね、シャンディ……その事実がとっても嬉しいのよ。どのような含みがあろうともね」
だが、ほんの微かな笑みをたたえながらパナーシェは語りかける
「今までの私は常に保護されてきました。お情けで籍を置かせてもらってると言ってもいいでしょう」
「だから、この仕事を終えることで、ようやく自分の生まれにも誇りが持てる……と、思うのです!」
「だから、この仕事を終えることで、ようやく自分の生まれにも誇りが持てる……と、思うのです!」
シャンディはパナーシェの熱い持論を程々に聞き流しながらも、手の動きを止めることはない
彼女の華奢で長い指先は、年の割には幼さとあどけなさが残るパナーシェに威厳のある美しさを被せてゆく
確認程度に警告はしたが真にパナーシェの意気を否定するつもりは端から無かった
彼女の華奢で長い指先は、年の割には幼さとあどけなさが残るパナーシェに威厳のある美しさを被せてゆく
確認程度に警告はしたが真にパナーシェの意気を否定するつもりは端から無かった
理由はいくつかある
第一にパナーシェの幾分か頑固な性格を知り尽くしてるということ
第二に自らも一枚噛んでいる式典の警備に絶対の自信を持っていること
そして、この季節なら珍しくもない雪に目を輝かせる、そんなパナーシェに最後の理由が隠されている
皇族だからという理由以外に、雪を珍しがる程、気軽に出歩けない理由を彼女は知っているのだ
第一にパナーシェの幾分か頑固な性格を知り尽くしてるということ
第二に自らも一枚噛んでいる式典の警備に絶対の自信を持っていること
そして、この季節なら珍しくもない雪に目を輝かせる、そんなパナーシェに最後の理由が隠されている
皇族だからという理由以外に、雪を珍しがる程、気軽に出歩けない理由を彼女は知っているのだ
それは……
「それにほら、私ってもう一回死んでるようなものでしょう?」
ジョークだろうか、ぎこちない笑顔とともに繰り出された言葉にシャンディの顔に一瞬皺が寄った
パナーシェ・コロナ……彼女は幼い頃、皇族を狙ったテロに巻き込まれ家族を失い、自身も癒えることがない傷跡を残している
アムステラの医療科学でも直しきれない……いや、アムステラだからこそ五体満足の状態まで復元できたと言っていいのか
後遺症もまだ残っている。顔は傷一つ無く復元できてはいるが、先程のようにどこか硬い表情になりやすい
パナーシェ・コロナ……彼女は幼い頃、皇族を狙ったテロに巻き込まれ家族を失い、自身も癒えることがない傷跡を残している
アムステラの医療科学でも直しきれない……いや、アムステラだからこそ五体満足の状態まで復元できたと言っていいのか
後遺症もまだ残っている。顔は傷一つ無く復元できてはいるが、先程のようにどこか硬い表情になりやすい
「それは笑えない冗談ね、パナーシェ……」
思わずシャンディの素が漏れる
コロナ公爵家の側近、アルハンブラ侯爵家の代表として遺児たるパナーシェの支え、共に育ってきたのがシャンディだ
今では背丈を抜かれたうえ殿下と呼んで久しいが、彼女にとってパナーシェは妹であり娘。気軽に名前を呼びあった仲
シャンディはため息をつくことで一拍置き、すぐさま平静を取り戻した
コロナ公爵家の側近、アルハンブラ侯爵家の代表として遺児たるパナーシェの支え、共に育ってきたのがシャンディだ
今では背丈を抜かれたうえ殿下と呼んで久しいが、彼女にとってパナーシェは妹であり娘。気軽に名前を呼びあった仲
シャンディはため息をつくことで一拍置き、すぐさま平静を取り戻した
「ふぅ……狡賢くなりましたよ、殿下も」
体験者として誰よりもトラウマを残したであろう者がやると言う。何も言えない
これがシャンディが止めない最後の理由だった
これがシャンディが止めない最後の理由だった
シャンディは顔のメイクを終え、身体の傷跡の上に少しづつファンデーションを乗せていく
服装で殆どが隠れる為つけなくても問題は無いのだが、一応の措置である
措置を行いながら、シャンディは内心でパナーシェが強い意志を持ってくれていることを嬉しく思っていた
だが、その分の苦労が自身にかかることに対して憎らしく思う気持ちも少なからずある
服装で殆どが隠れる為つけなくても問題は無いのだが、一応の措置である
措置を行いながら、シャンディは内心でパナーシェが強い意志を持ってくれていることを嬉しく思っていた
だが、その分の苦労が自身にかかることに対して憎らしく思う気持ちも少なからずある
彼女はパナーシェの世話役であると同時に、アムステラでも指折りの生科学者である
技術将校として軍にも籍を置く都合上か、今回のパナーシェ登壇の影響からか
本来なら門外の分野たる警備部隊の編制・指揮まで担当させられているのだ
技術将校として軍にも籍を置く都合上か、今回のパナーシェ登壇の影響からか
本来なら門外の分野たる警備部隊の編制・指揮まで担当させられているのだ
「ッ!! ……シャンディ!? なにを……ッ!!」
パナーシェが肌にかかる違和感に気づき、身体を跳ね上げる
シャンディの指先がパナーシェの傷跡をやさしく愛撫するように滑って行くのだ
シャンディの指先がパナーシェの傷跡をやさしく愛撫するように滑って行くのだ
「いや、殿下ってここら辺が敏感でしよねー……っと」
「あらぁ?白粉したのに赤くなってきてるわねぇ……不思議」
「あらぁ?白粉したのに赤くなってきてるわねぇ……不思議」
愛する殿下が手元から巣立っていくように感じて……
こちらの苦労を知らず意気揚々となっているようにも思えて、なんとなくやってみたイタズラ
まるで子供じみたイニシアチブの取り合いだが、シャンディは心底楽しんでいた
こちらの苦労を知らず意気揚々となっているようにも思えて、なんとなくやってみたイタズラ
まるで子供じみたイニシアチブの取り合いだが、シャンディは心底楽しんでいた
「だっ……駄目ッ!! お願い、止めてシャンディ!! これ以上は――――――――――」
「何してるんスか、あんたらは」
突如耳に入る第三者の声に二人ともその動きはピタリと収まった
声の主はシャンディの配下『エクシード』四人の内一人、不躾な口調に眼鏡をかけているのでフラメントだろう
見かけや背丈はパナーシェとよく似ていた。明らかに違うのは眼鏡越しに見える鋭い目つきとボサついた髪くらい
声の主はシャンディの配下『エクシード』四人の内一人、不躾な口調に眼鏡をかけているのでフラメントだろう
見かけや背丈はパナーシェとよく似ていた。明らかに違うのは眼鏡越しに見える鋭い目つきとボサついた髪くらい
「あら、フラン、準備は終わったのかしら?」
シャンディは素早くパナーシェから手を引くと何事も無かったかのように振舞う
「とっくに。護送役のアレック大佐ももう待機してますから」
フラメントは口数も少なく大して反応もない。ただ、纏う雰囲気から不機嫌なのはありありと伝わってくる
彼女はシャンディの名の元に代理として調整等の業務を委託……もとい丸投げされている
さしずめ『人がせこせこ働いてる横で乳繰り合いやがって』と舌打ちを交えながら思っているのだろう
最も何かあって責任を取るのはシャンディなので気楽な立場だが、イラつくのもわからなくはない
彼女はシャンディの名の元に代理として調整等の業務を委託……もとい丸投げされている
さしずめ『人がせこせこ働いてる横で乳繰り合いやがって』と舌打ちを交えながら思っているのだろう
最も何かあって責任を取るのはシャンディなので気楽な立場だが、イラつくのもわからなくはない
「そう、じゃああと10分だけ待ってもらって~」
だが、当のシャンディはおくびにも気にせず返答する
フラメントもそのことは十二分に理解しているので態々口に出して言う気もなかった
ただしフラメントもただ黙っているだけでは終わらない
フラメントもそのことは十二分に理解しているので態々口に出して言う気もなかった
ただしフラメントもただ黙っているだけでは終わらない
「そっすか、じゃあ5分って伝えときます」
そう言い残すとシャンディに返答の間を与えず部屋から立ち去ってしまった
傍から見るととんでもないやり取りではあるが、当人達に困惑の色はない
感情を優先して仕事を疎かにする子ではないのは二人ともよく知ってるからだ。伝令はきちんとしてくれるだろう
しかし、してやられた感じになってしまったシャンディを見て、思わずパナーシェは吹きだしてしまう
傍から見るととんでもないやり取りではあるが、当人達に困惑の色はない
感情を優先して仕事を疎かにする子ではないのは二人ともよく知ってるからだ。伝令はきちんとしてくれるだろう
しかし、してやられた感じになってしまったシャンディを見て、思わずパナーシェは吹きだしてしまう
「やれやれ……困った子ですわね。仕方ないから手早く済ませましょうか」
シャンディは怒らない。どこかスッキリした笑みを浮かべて残りの作業へと取り掛かる
そしてふと、パナーシェが窓の外を見ると、先ほどの雪はすっかり止んでしまったようだった
そしてふと、パナーシェが窓の外を見ると、先ほどの雪はすっかり止んでしまったようだった
(雪と共に新たな年を祝えたら最高だとも思いましたが……)
(でも……)
(でも……)
パナーシェは化粧台の鏡を見つめる。そこには寒空に舞う雪華にも劣らない、透き通った白が写る
(私自身が雪景色になったようで悪くないですね)
パナーシェがそう思うと、心なしか鏡に映った顔が自然と綻んだようにも思えた