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FlyWire
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FlyWire
概要
FlyWire(フライワイヤ)は、
成虫ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の脳を
ニューロン単位で再構築した大規模コネクトーム研究プロジェクトである。
成虫ショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の脳を
ニューロン単位で再構築した大規模コネクトーム研究プロジェクトである。
コネクトーム(connectome)とは、
脳・神経系に存在するニューロンと、
それらの間を結ぶシナプス接続を記録した
「神経回路の配線図」である。
脳・神経系に存在するニューロンと、
それらの間を結ぶシナプス接続を記録した
「神経回路の配線図」である。
FlyWireでは、
電子顕微鏡によって撮影された成虫メスのショウジョウバエ脳をもとに、
電子顕微鏡によって撮影された成虫メスのショウジョウバエ脳をもとに、
- ニューロンの形状
- ニューロン同士の接続
- シナプス
- 細胞タイプ
- 神経伝達物質の予測
- 脳領域
- 感覚入力から運動出力までの経路
などが再構築されている。
2024年にNatureで発表された全脳コネクトームでは、
- ニューロン:139,255個
- 化学シナプス:約5,450万個
が含まれている。
これは成虫動物の全脳コネクトームとして、
非常に大規模かつ詳細なデータセットである。
非常に大規模かつ詳細なデータセットである。
対象となる生物
FlyWireの代表的なFAFBデータセットは、
成虫メスのショウジョウバエ
Drosophila melanogaster
の脳を対象としている。
成虫メスのショウジョウバエ
Drosophila melanogaster
の脳を対象としている。
ショウジョウバエは非常に小さな脳しか持たないが、
- 歩行
- 飛行
- 求愛
- 闘争
- 学習
- 記憶
- 意思決定
- 空間学習
- 複数感覚を利用したナビゲーション
など、比較的複雑な行動を行う。
そのため、
単純な神経回路だけではなく、
「脳全体がどのように行動を生み出すか」
を研究するモデル生物として重要である。
単純な神経回路だけではなく、
「脳全体がどのように行動を生み出すか」
を研究するモデル生物として重要である。
FlyWireの全脳コネクトーム
FlyWire FAFB v783では、
- 139,255ニューロン
- 54.5 million chemical synapses
- 8,400種類以上の細胞タイプ
- 中央脳
- 視葉
- 感覚ニューロン
- 上行ニューロン
- 下行ニューロン
- 内分泌系出力
などが記録されている。
139,255ニューロンのうち、
118,501ニューロンは脳内部に完全に収まる
intrinsic neuronとして分類されている。
118,501ニューロンは脳内部に完全に収まる
intrinsic neuronとして分類されている。
どうやって作られたのか
FlyWireは、
生きたハエの脳をリアルタイムにスキャンしたものではない。
生きたハエの脳をリアルタイムにスキャンしたものではない。
まずショウジョウバエの脳を非常に薄い切片にし、
電子顕微鏡で撮影する。
電子顕微鏡で撮影する。
FlyWireの説明では、
約10nm程度の薄い脳組織断面を電子顕微鏡で画像化する。
約10nm程度の薄い脳組織断面を電子顕微鏡で画像化する。
大量の電子顕微鏡画像から、
- 神経細胞
- 軸索
- 樹状突起
- シナプス
などを再構築する。
この作業には、
AIによる自動画像解析
人間によるproofreading(校正)
が使用されている。
つまりFlyWire自体も、
AIだけで完全自動生成されたコネクトームではない。
AIだけで完全自動生成されたコネクトームではない。
自動セグメンテーション後に、
研究者や参加者がニューロン形状などを確認・修正することで
精度を高めている。
研究者や参加者がニューロン形状などを確認・修正することで
精度を高めている。
電子顕微鏡データ
FlyWireのFAFBコネクトームは、
Female Adult Fly Brain(FAFB)と呼ばれる
成虫メス全脳電子顕微鏡データから構築された。
Female Adult Fly Brain(FAFB)と呼ばれる
成虫メス全脳電子顕微鏡データから構築された。
元となる電子顕微鏡データは、
約100テラボクセル規模である。
約100テラボクセル規模である。
この巨大な画像データから、
約14万個のニューロンが再構築された。
約14万個のニューロンが再構築された。
ニューロン
FlyWireでは、
それぞれのニューロンに識別用のIDが割り当てられている。
それぞれのニューロンに識別用のIDが割り当てられている。
ニューロンごとに、
- 3D形状
- soma(細胞体)
- 接続先
- 接続元
- シナプス数
- 細胞タイプ
- 神経伝達物質予測
- 所属脳領域
などを調べることができる。
Codexでは、
個々のニューロンを3D表示することも可能である。
個々のニューロンを3D表示することも可能である。
シナプス
Nature論文では、
FlyWire全脳コネクトームに
FlyWire全脳コネクトームに
約5,450万個
の化学シナプスが記録されている。
これは「ニューロン間の接続数」とは異なる。
1組のニューロン間に
複数のシナプスが存在することがあるため、
複数のシナプスが存在することがあるため、
シナプス数
≠
ニューロンペア間の接続数
≠
ニューロンペア間の接続数
である。
CodexのFAFB v783では、
現在3,732,460 connectionsと表示されている。
現在3,732,460 connectionsと表示されている。
これは約5,450万個の個々のシナプスとは
異なる集約単位である。
異なる集約単位である。
そのため数字を比較する際には注意が必要である。
接続の信頼性
FlyWireでは、
シナプスがアルゴリズムによって検出される。
シナプスがアルゴリズムによって検出される。
各シナプスにはconfidence scoreが与えられる。
研究解析では、
誤検出の影響を減らすため、
誤検出の影響を減らすため、
一定以下のconfidence scoreを除外したり、
ニューロン間に5個以上のシナプスがある接続のみを利用したりする
ニューロン間に5個以上のシナプスがある接続のみを利用したりする
thresholdingが使用されている。
そのため、
「接続が1個検出された=必ず生物学的に重要」
とは限らない。
「接続が1個検出された=必ず生物学的に重要」
とは限らない。
細胞タイプ
FlyWire全脳データには、
8,400種類以上の細胞タイプが整理されている。
8,400種類以上の細胞タイプが整理されている。
2024年のNature論文では、
8,453種類のannotated cell types
が報告されている。
そのうち、
- 以前のhemibrain研究ですでに提案されていたタイプ
- FlyWireによって新たに分類されたタイプ
が含まれる。
FlyWireによって、
ショウジョウバエの脳全体について
非常に大規模な細胞タイプ地図が作られた。
ショウジョウバエの脳全体について
非常に大規模な細胞タイプ地図が作られた。
神経伝達物質
FlyWireデータには、
ニューロンが使用すると予測される
神経伝達物質情報も含まれている。
ニューロンが使用すると予測される
神経伝達物質情報も含まれている。
これにより、
単純な
「Aニューロン → Bニューロン」
「Aニューロン → Bニューロン」
という接続だけではなく、
どのような種類の信号を送る可能性があるか
についても解析できる。
ただし、
これらには予測に基づく情報も含まれる。
これらには予測に基づく情報も含まれる。
脳領域
FlyWireでは、
ニューロンが通過・接続する
neuropil(神経網領域)も分類されている。
ニューロンが通過・接続する
neuropil(神経網領域)も分類されている。
Codexでは、
特定の脳領域に存在するニューロンや接続を検索できる。
特定の脳領域に存在するニューロンや接続を検索できる。
これにより、
感覚入力
↓
中間回路
↓
記憶・判断
↓
下行ニューロン
↓
身体への運動指令
↓
中間回路
↓
記憶・判断
↓
下行ニューロン
↓
身体への運動指令
という情報経路を調べられる。
感覚入力
FlyWireでは、
脳へ入ってくる情報を担当するニューロンも分類されている。
脳へ入ってくる情報を担当するニューロンも分類されている。
例:
- 視覚
- 嗅覚
- 味覚
- 機械感覚
- 内部感覚
など。
ショウジョウバエは、
複数の感覚情報を組み合わせて
行動を決定する。
複数の感覚情報を組み合わせて
行動を決定する。
視覚
ハエの視覚は、
巨大な複眼から入力される。
巨大な複眼から入力される。
視覚情報は、
視葉(optic lobe)などを通して処理され、
中央脳へ送られる。
視葉(optic lobe)などを通して処理され、
中央脳へ送られる。
FlyWireのFAFBデータには
視葉も含まれている。
視葉も含まれている。
v783では、
完成したoptic lobesを含む全脳データとして公開されている。
完成したoptic lobesを含む全脳データとして公開されている。
嗅覚
ショウジョウバエは、
触角などから得られる化学情報を利用する。
触角などから得られる化学情報を利用する。
嗅覚情報は、
食物探索、
危険回避、
社会行動、
繁殖行動
食物探索、
危険回避、
社会行動、
繁殖行動
などに利用される。
FlyWireでは、
嗅覚関連回路についても
ニューロン単位で接続経路を調べることができる。
嗅覚関連回路についても
ニューロン単位で接続経路を調べることができる。
記憶と学習
ショウジョウバエの学習・記憶では、
mushroom body(キノコ体)が重要な脳領域として知られている。
mushroom body(キノコ体)が重要な脳領域として知られている。
FlyWireでは、
キノコ体を構成するニューロンや、
そこへ入力・出力するニューロンの接続も調べられる。
キノコ体を構成するニューロンや、
そこへ入力・出力するニューロンの接続も調べられる。
これによって、
感覚入力
↓
学習回路
↓
行動変化
↓
学習回路
↓
行動変化
という経路を
全脳レベルで追跡できるようになった。
全脳レベルで追跡できるようになった。
意思決定
ショウジョウバエは、
単純な反射だけで行動しているわけではない。
単純な反射だけで行動しているわけではない。
状況に応じて、
- 接近する
- 回避する
- 飛ぶ
- 歩く
- 求愛する
- 戦う
などの行動を選択する。
FlyWire全脳コネクトームによって、
感覚入力から行動出力まで
複数の脳領域をまたいだ経路を追跡できる。
感覚入力から行動出力まで
複数の脳領域をまたいだ経路を追跡できる。
ただし、
コネクトームだけで
「意思決定のアルゴリズム」が完全に判明したわけではない。
コネクトームだけで
「意思決定のアルゴリズム」が完全に判明したわけではない。
運動出力
FlyWire論文では、
脳内部の情報の流れを、
脳内部の情報の流れを、
入力:
sensory neuron
ascending neuron
sensory neuron
ascending neuron
から、
出力:
motor
endocrine
descending neuron
motor
endocrine
descending neuron
まで解析している。
特にdescending neuronは、
脳から身体側の神経系へ情報を送るため、
仮想身体やロボットを制御する研究では重要になる。
脳から身体側の神経系へ情報を送るため、
仮想身体やロボットを制御する研究では重要になる。
ただし、
FAFBは基本的に「脳」のコネクトームであり、
全身の筋肉まで含む完全な身体モデルではない。
FAFBは基本的に「脳」のコネクトームであり、
全身の筋肉まで含む完全な身体モデルではない。
身体制御まで研究する場合には、
BANCやMaleCNS/MANCなど、
脳+神経索を含む別コネクトームも重要になる。
BANCやMaleCNS/MANCなど、
脳+神経索を含む別コネクトームも重要になる。
Codex
Codexは、
FlyWireなどの大規模コネクトームを
Webブラウザから調査できる公式データエクスプローラーである。
FlyWireなどの大規模コネクトームを
Webブラウザから調査できる公式データエクスプローラーである。
Princeton Neuroscience Instituteによって提供されている。
Codexでは、
- Search
- Stats
- Annotations
- Cell Details
- Neuropils
- 3D Viewer
- Network Graphs
- Pathways
- Download Data
などを利用できる。
Search
ニューロンを、
- ID
- 細胞タイプ
- 神経伝達物質
- 脳領域
- sensory
- motor
などの条件で検索できる。
3D Viewer
ニューロン形状を
3D空間上で確認できる。
3D空間上で確認できる。
複数のニューロンを同時表示し、
「どの細胞がどこへ伸びているのか」
を視覚的に確認できる。
Network Graphs
ニューロン同士の接続を
ネットワークグラフとして表示できる。
ネットワークグラフとして表示できる。
これによって、
あるニューロンから別のニューロンまで
どのように信号が伝わり得るか調べられる。
あるニューロンから別のニューロンまで
どのように信号が伝わり得るか調べられる。
Pathways
特定の2ニューロン間について、
接続経路を検索できる。
接続経路を検索できる。
例:
ニューロンA
↓
中間ニューロン
↓
中間ニューロン
↓
ニューロンB
↓
中間ニューロン
↓
中間ニューロン
↓
ニューロンB
という経路を検索できる。
Download Data
Codexでは、
コネクトームの生データをダウンロードして
自分のプログラムで解析できる。
コネクトームの生データをダウンロードして
自分のプログラムで解析できる。
主に、
- ニューロン
- 接続
- annotation
- cell type
- neurotransmitter
- coordinates
などの情報を利用できる。
これにより、
Python・R・C++などで
独自の解析やシミュレーションを作ることができる。
Python・R・C++などで
独自の解析やシミュレーションを作ることができる。
FlyWireは脳シミュレータではない
重要な点として、
FlyWireそのものは
「動くハエ脳シミュレータ」ではない。
FlyWireそのものは
「動くハエ脳シミュレータ」ではない。
FlyWireは主として、
ハエ脳の構造
ニューロン
シナプス接続
を記録したコネクトームである。
例えるなら、
FlyWire
=
脳の回路図
=
脳の回路図
である。
回路図を取得しただけでは
ニューロンは自動的に発火しない。
ニューロンは自動的に発火しない。
実際に仮想脳として動作させるには、
- ニューロンモデル
- 発火モデル
- シナプスモデル
- 時間シミュレーション
- 感覚入力
- 身体
- フィードバック
などを別途実装する必要がある。
FlyWireだけでは分からないこと
コネクトームが非常に詳細でも、
- 各ニューロンの正確な電気特性
- すべてのneuromodulator
- ホルモン
- 生体内の化学環境
- 発達過程
- 過去の経験
- 個体固有の記憶
- 筋肉の完全な状態
- 身体からのリアルタイムフィードバック
などが完全に記録されているわけではない。
そのため、
FlyWireデータ
=
本物のハエそのもの
=
本物のハエそのもの
ではない。
FlyWireから仮想ハエ脳を作る場合
概念的には、
FlyWire Connectome
↓
ニューロンモデル
↓
シナプスモデル
↓
感覚入力
↓
神経活動
↓
運動出力
↓
仮想身体
↓
感覚フィードバック
↓
FlyWire Neural Network
↓
ニューロンモデル
↓
シナプスモデル
↓
感覚入力
↓
神経活動
↓
運動出力
↓
仮想身体
↓
感覚フィードバック
↓
FlyWire Neural Network
という閉ループを構築する。
これによって、
FlyWire由来の接続構造を持つ
仮想神経系を実験できる可能性がある。
FlyWire由来の接続構造を持つ
仮想神経系を実験できる可能性がある。
ただし、
これは本物のハエ脳の完全再現ではなく、
これは本物のハエ脳の完全再現ではなく、
「実際のコネクトームを利用した計算モデル」
となる。
関連データセット
Codexでは現在、
FlyWire以外にも複数のショウジョウバエ神経系データを閲覧できる。
FlyWire以外にも複数のショウジョウバエ神経系データを閲覧できる。
FAFB v783
- Female Adult Fly Brain
- 139,255 neurons
BANC v888
- Female Adult Fly Brain and Nerve Cord
- 158,262 neurons
MANC v1.2.1
- Male Adult Fly Nerve Cord
- 23,665 neurons
MAOL v1.1
- Male Adult Fly Right Optic Lobe
- 52,445 neurons
MCNS v0.9
- Male Adult Fly CNS
- 166,694 neurons
目的によって使い分けることができる。
脳そのものを調べる
→ FAFB
→ FAFB
脳と身体側神経系の連携を調べる
→ BANC / MCNS
→ BANC / MCNS
運動神経系を詳しく調べる
→ MANC
→ MANC
視覚系を詳しく調べる
→ MAOL
→ MAOL
という使い分けが考えられる。
注意点
FlyWireのFAFB画像には、
取得時の事情によって左右が反転していた問題がある。
取得時の事情によって左右が反転していた問題がある。
現在Codexのannotationやlabelでは
左右関係が修正されているが、
左右関係が修正されているが、
元画像や3D segmentation表示そのものは
反転した状態で表示される。
反転した状態で表示される。
左右を利用した解析を行う場合には注意が必要である。
まとめ
FlyWireは、
ショウジョウバエの全脳を
ニューロン単位で記録した
大規模コネクトームプロジェクトである。
ショウジョウバエの全脳を
ニューロン単位で記録した
大規模コネクトームプロジェクトである。
2024年に公開されたFAFB v783では、
約13.9万ニューロン
約5,450万シナプス
という規模の配線図が構築された。
FlyWireによって、
感覚
↓
脳内処理
↓
学習・記憶
↓
意思決定
↓
運動出力
↓
脳内処理
↓
学習・記憶
↓
意思決定
↓
運動出力
を脳全体にわたって追跡できるようになった。
一方、
FlyWireは脳の「構造」を記録したものであり、
そのまま実行可能なハエ脳ではない。
FlyWireは脳の「構造」を記録したものであり、
そのまま実行可能なハエ脳ではない。









