覚醒
~8月1日 20:35~
椎葉伶は、騒がしい繁華街を歩いていた。
そのフラフラとした足取りはさまよっているという表現がふさわしい。
「亜実…」
涙が止まらない。
ずっと守ってあげたかった。
いつまでもそばにいたかった。
たとえそれが屍であっても。
しかしそれはできない。
死んでいることになっている伶が警察と関わるわけにはいかないからだ。
だから、美鈴を残して逃げてきた。
ドンッ
突然、ナニカにぶつかった。
というかナニカがぶつかってきた。
「おい兄ちゃん、どこ見て歩いてんだよ」
「‥‥‥」
無視して歩き出す。
すると、肩を掴まれた。
指が食い込んでくる。
「ちょっと来てもらおうか」
気づいたら狭くて汚い路地に連れ込まれていた。
男が5人と女が2人。
ピアスをしていたり肌を焼いていたりと、見るからにヤンキーだった。
歳は全員10代後半だろう。
「ぶつかっといて謝りもしねえのかよ。まあ、とりあえず財布出せ」
リーダーらしき男が、ホラ、と手を伸ばしてくる。
「キャハハハッ!ケンちゃんヒドーい!!」
笑っている。
舌にピアスをした男も、真っ黒に肌を焼いた女も、髪を真っ赤に染めた男も、ケンちゃんも。
皆、笑っている。
それが羨ましくもあり、それ以上に憎かった。
(こんなヤツらが生きているのに、なんで亜実が…!)
「早くしろ。それと、あとで100万円用意しろよ」
さすがに付き合いきれなくなった。
キレてしまわないうちにこの場から離れよう。
「払わなかったら、お前の家族を殺すからな~」
血のような赤い髪をした男が、言ってしまった。
「…殺す?」
ドスッ
「誰が、誰を、殺すだって?」
「ぁ、ぐぁ…」
伶の右手から、赤い杭が伸びていた。
まるで血をそのまま固めたかのような、真っ赤な杭。
それは、同じように赤い髪をした男の肩に刺さっている。
「お前ガ死ねヨ」
ゾッとするような無機質な声。
言いながら、左手を男の顔の前に掲げるとーーー
グシュ
ーーーその顔にもう一本の杭を突き刺した。
「なっ…」
他の若者たちは呆然としている。
ただジッと、ビクンビクンと震えながら崩れる男を見ていた。
その体から流れ出た血が靴に触れて。
「ぅ、うわあああ!?」
ようやく彼らは逃げ出そうとする。
…が、
「ケんチャん、どコニ行クんだヨ」
路地の入り口にはなぜか、自分たちの後ろにいたハズの少年が立っていた。
‥‥‥
両手から伸びる杭の赤は、誰の血か。
薄汚い路地に7つの死体。
少年はただ、彼らのものだった笑みを浮かべてそこに佇む。
かみ合った歯車は止まらない。
新しい運命は血と共に、今、動きだす。
最終更新:2007年09月21日 23:29