アットウィキロゴ

the 10th drop

我が家




「もう大丈夫なのか?」

今まで黙っていた黒いスーツの男が問いかける。

「はい」

「それで?これからどうするつもりだ」

その言葉は、すべてを表していた。

吸血種。
人間ではなくなったソレに人間としての生活はできない、と。

「…俺は俺です。今まで通りに生きる」

「無理だな。お前は血に抗えない」

気まずい沈黙が流れる。

「知ったことか。板橋区に行ってください」

その声は力強く、それでいてはかない声だった。まるで自分に言い聞かせるかのように。



一時間ほど車を走らせると、見慣れた町並みに入った。

板橋区。
椎葉伶が生まれて育った場所。
そこは宮野美鈴と出逢った場所でもある。

「ここでいい」

「まだ家には遠いんじゃないか?」

言いながらも、運転手は車を脇によせる。

「フン、こんな目立つ車で近づけるか」

伶はさっさと車から降りていった。

「ちょ、ちょっと待ってよ~
 あ、ありがとうございました。えと…」

「熊沢政重〈マサシゲ〉だ」

…渋い。

「ありがとうございました、熊沢さん!」

ペコリと頭を下げ、先に行ってしまった伶を追いかける。



「ありがとうございました、か…」

熊沢の表情は変わらない。
いつもと同じ仕事の表情で、ポツリと呟いた。



「伶~!待ってってば~!!」

しばらく走り、やっと追いついた。
早足で歩くその隣から顔を覗きこむ。

「‥‥‥」

気のせいか、避けられているような…

「どうしたの?」

「…いや、亜実〈アミ〉たちは知ってんのかなって。俺が死んだってこと」

ひねり出した言葉は、どことなく不自然だった。

「伶は死んでないでしょ!
 う~ん、でもニュースにもなってたしそう思ってるかも」

「そうか…」

一年つきあっていればわかる。
やっぱり別のことを考えているようだ。

「ちょっといい加減に…」

怒りかけたところで、違和感に気づいた。
いつもより人が多い。

(気づかれたかな?ていうか、これは…)

人は皆、ある場所に向かっていた。
自分たちと同じ場所に。

しばらくすると人だかりが見えてきた。
そこは間違いなくーーー

「俺の家…?」

伶は思わず駆け出していた。
集まっている人々をかき分け、前へ前へと進む。

「ウソだろ…」

警察がいた。

黄色のテープで道が塞がれていた。

家の中から、ナニカが運び出されていた。

大きな袋。
我が家にはなかった物。
ソレは血が滴っており、見慣れた茶色の髪がはみ出ていた。

『お兄ちゃ~ん!染めてみたんだけど、どうかな?』

『う~ん。まぁ、いいんじゃない』



「亜実!!」


気づいたときには、警官の制止を振り切って走っていた。

運んでいた警官から袋を奪い取り、中を見る。


たった一人の妹は、傷一つなく血にまみれていて。


兄と違い、確かに死んでいた。



最終更新:2007年09月21日 23:29