優しい悪夢
夢を見た。
顔のない人と向き合っているだけの夢を。
あれは多分男の人。
よく見る、いつもの夢。
ガララ
「おはよう、亜実ちゃん」
「あ、美鈴さん!」
ドアを開けて美鈴さんが入ってきた。
ここはどこかの病院だ。
私は両親を殺されたらしい。
そのとき意識を失って、目が覚めたら何もかも忘れていた。
2つ年上の美鈴さんはよく、家族のいなくなった私の見舞いに来てくれる。
「またあの夢を見たよ」
「…知らない人が出てくるっていうやつ?」
顔が暗くなった。
なぜか美鈴さんはこの話を嫌っている。
「うん。いつもの、とっても苦しい夢」
そう、あの夢は悪夢だ。
だからとても苦しい。
「でも最近わかってきたんだ。苦しいけど、それと同じくらい暖かくてほっとする」
あの人のおかげだろうか。
顔があっても、私には誰だかわからない。
でも、すごく大切な人だった気がする。
「そう。いつかその人のことを思い出せるといいわね」
「うん!」
思い出したい。
あの人のことだけじゃなくて、全てを。
ただあの人が最優先なだけ。
しばらく話していると、診察の時間になった。
「もう時間だ…私行くね」
「今度はいつ来てくれるの?」
「明日も来るわよ。今は夏休みだから」
そうして私は1人になる。
診察の終わりは1日の終わり。
まだ外は明るいけど、することがないからもう寝よう。
(あの人はーーー)
あの人は、この世界のどこかで生きている。
いつか夢から覚めてるときに会いたいけど、今はまだ無理。
(…また夢の中で逢えるといいな)
小さな希望を胸に抱いて、求めちゃいけないモノを私は求める。
窓の外には、雲1つない青空が広がっていた。
それを見ながら目を閉じて。
私は今日も優しい悪夢を見る。
最終更新:2007年09月21日 23:30