死神の足音
研究所から数キロ離れた人気のない空き地。
美鈴は黒塗りの高級車に乗っていた。
一生乗ることはないと思っていたが、すでに二度目だ。
同じ座席に同じ運転手。
先ほどと違うのは、横に意識を失った彼氏がいるということだけ。
…訂正、運転手は血まみれ。
しかもなぜか2リットルのミネラルウォーターをがぶ飲みしてる。
15秒ほどで飲み終えると、運転手は後ろに座っている美鈴の方を向いた。
「森本博士からはどこまで聞いた?」
「あ、えっと、吸血種っていうのがいるってとこまで…」
実際にはもう少し説明された気もするが、そこまでしか理解していないのでそう言っておく。
というかあの博士の説明はとてもわかりずらかった。
「能力のことは?」
「そういうのを持った人もいるってことだけ…」
この運転手からは妙に威圧感を感じる。
もっとも、2mを超す大男が黒いスーツを着て血だらけになっているのだから当然だろう。
「博士からは我々吸血種が異能の力を持つことがあると聞いたと思うが、それは正しくない。
我々の血にその異能の力とやらが宿ることがあるんだ」
「血に?」
「そうだ。
例えば私の血は再生の力を持っている。出血が止まったのもそのおかげだ」
「じゃああの由良って男も…」
「血を飛ばしていただろう?それがやつの力だ」
自らの血を飛ばして敵を貫く。
だから、血の弾丸。
「…って、あれ?」
「気づいたか。
血を流すのだから、当然補給をしなければならない。やつは今ごろ病院でも襲ってるかもしれんな」
美鈴は貧血の吸血鬼が血を求めて暴れる姿を思い浮かべた。
シュールだ。
「ちなみに研究所で飲んだ銀色の筒はオロナミンBと言ってな、正式名称はAlternative-Blood。代替血液だ。
あれを飲んでから水を摂取することで大量の血液を補給することができる。
味は…まぁ、改良の余地ありだな」
(素直にマズいって言えばいいのに)
一気に言われて少し大変だったが、セバスチャンより随分わかりやすい。
というか、比べていいのだろうか。
「あ、そうだ。セバス…博士はどうなるの?処理って…
それに伶、私のこと覚えてなかった…」
「博士のことは忘れろ。君には関係ない。
それと君の彼氏は、記憶障害に陥っている。仮死状態でいた影響だろう。そのうち全て思い出す」
仮死状態。
改めて不安になる。
どうしてそんなことに…
すると、気を失っていた椎葉伶が目を覚ました。
「ん…み、美鈴?」
「伶!!」
思わず声が大きくなる。なにがあったかは関係ない。
ただ、伶が生きていることが嬉しかった。
「ぅ…あ…」
「大丈夫?どっか痛むとこはない?」
「ぃ、痛む?」
本当に、無事でーーー
「ぁ…ああ……が、あ、ぁ、あ…あ…ああぁぁァあああぁぁあぁああアぁあアぁァアああァアぁアあぁァァああアアぁアァァあアぁアアアあァァアアァアアアァァぁアアア!!」
「伶!?」
「アぁあアアァァアぁアあアァァァアあァァアアアアあァアアァアぁァアアアァアァァアアアア!!」
伶は を て る。
まるでナニカを ているかのように。
「当然だ。仮とは言え、一度殺されたんだぞ?ココロが砕けてもおかしくない」
「ァアァァあアアァアアアアぁアァアアアァァアァァァアアアァあアァアァァアアァァァアアァアアァアァァアアアア!!」
一度死んだという事実。
赤い月のもと、確かに感じた死の感覚。
あの時聞こえた死神の足音は、
今、ここに。
最終更新:2007年09月21日 23:29