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the 13th drop

女神




音が聞こえる。

光が射し込む。

意識が浮上する。

(俺は…そうだ。由良って男が現れて…)

ふと不安になった。
あのことは、夢だったのではないか。

      ガバッ

飛び起きる。

「ここは…」

真っ白なベッドに左腕から伸びる点滴の管。
カーテンの隙間から太陽の光が射し込んでいる。
病院にいた。

「よぅ。目が覚めたか」

由良と名乗った男がドアに寄りかかっている。

「気ぃ失ってんじゃねーよ。血を使いすぎだ、バカ」

「お前…」

「おら行くぞ。これ以上待たせたら怒られる」

由良はさっさと病室から出て行った。

「おい待てよ!?」

強引に点滴を引き剥がし、靴を履いて後を追いかける。
上着は血だらけなのであきらめた。

夢ではなかったと信じて少年は駆ける。

廊下に出ながら時計を見た。
日付は、記憶よりも1日進んでいた。

   [8月3日 13:50]



      ‥‥‥



やっぱりこれは夢なのかもしれない。

「なにボケ~ッと突っ立ってんだ。来い」

タクシーから降りたら、そこには森に囲まれた豪邸があった。

「こ、これは…」

「あん?オレんちだよ」

開いた口がふさがらない。
思えばタクシーから見えた風景も高級住宅地っぽかった気がする。
人生って、不公平だ。




しばらく歩くと、ある部屋の前に着いた。

扉が大きい。
この屋敷で一番大きい部屋なのではないか。

     コンコン

「連れてきたぜ、由那」

由良が扉を開けて中に入った。
伶もそのあとについて行く。


暗い。
それが第一印象。

明かりはなく、ただテレビがついているだけ。
その薄明かりに照らされて、ソレはいた。

絹のような長い黒髪と美しく可憐な顔立ち。
まさに神の創った最高傑作。

「はじめまして、椎葉伶さん。私は由那〈ユナ〉」

「は、はじめまして…」

その微笑みは、女神としか言いようがなくてーーー

「話は聞いてるよ。私の条件に従えば、妹さんは生き返らせてあ・げ・る♪」

「本当、なんだよな…?」

「当たり前だ。
 由那の力は‘神の奇跡’。万物の創造と破壊を司り、同時にそれを超越する絶対の力。その力に不可能はない」

由良が口を開いた。

絶対。
それは神にのみ許された言葉。


「…条件は?」


「ふふふ…」


女神のような少女が近づいてくる。

その、白くか細い腕を伶の首に回した。

そして口を近づけるとーーー

      カプリ

と、伶の首に噛みついた。


「ちぅ~~~」


そのまま血を吸っていく。

「ち、ちょっと!?」

「ぷは。あなたには、死神になってもらうわ」

由那が首から口を離す。

「死神?」

「そう。私だけの大事な大事な死神さん♪」


あどけない笑みはただの少女のよう。

けれどそれは女神でもある。


「わかりました」


迷うことなどない。

もとより選択肢などなかった。


「俺はあなただけの死神になる。あなたがそれを望むなら」


選んだ道は、女神と共に。


その先に何があるかはわからない。


少年は、たった1人の妹のために自分を捨てた。



最終更新:2007年09月21日 23:30