女神
音が聞こえる。
光が射し込む。
意識が浮上する。
(俺は…そうだ。由良って男が現れて…)
ふと不安になった。
あのことは、夢だったのではないか。
ガバッ
飛び起きる。
「ここは…」
真っ白なベッドに左腕から伸びる点滴の管。
カーテンの隙間から太陽の光が射し込んでいる。
病院にいた。
「よぅ。目が覚めたか」
由良と名乗った男がドアに寄りかかっている。
「気ぃ失ってんじゃねーよ。血を使いすぎだ、バカ」
「お前…」
「おら行くぞ。これ以上待たせたら怒られる」
由良はさっさと病室から出て行った。
「おい待てよ!?」
強引に点滴を引き剥がし、靴を履いて後を追いかける。
上着は血だらけなのであきらめた。
夢ではなかったと信じて少年は駆ける。
廊下に出ながら時計を見た。
日付は、記憶よりも1日進んでいた。
[8月3日 13:50]
‥‥‥
やっぱりこれは夢なのかもしれない。
「なにボケ~ッと突っ立ってんだ。来い」
タクシーから降りたら、そこには森に囲まれた豪邸があった。
「こ、これは…」
「あん?オレんちだよ」
開いた口がふさがらない。
思えばタクシーから見えた風景も高級住宅地っぽかった気がする。
人生って、不公平だ。
しばらく歩くと、ある部屋の前に着いた。
扉が大きい。
この屋敷で一番大きい部屋なのではないか。
コンコン
「連れてきたぜ、由那」
由良が扉を開けて中に入った。
伶もそのあとについて行く。
暗い。
それが第一印象。
明かりはなく、ただテレビがついているだけ。
その薄明かりに照らされて、ソレはいた。
絹のような長い黒髪と美しく可憐な顔立ち。
まさに神の創った最高傑作。
「はじめまして、椎葉伶さん。私は由那〈ユナ〉」
「は、はじめまして…」
その微笑みは、女神としか言いようがなくてーーー
「話は聞いてるよ。私の条件に従えば、妹さんは生き返らせてあ・げ・る♪」
「本当、なんだよな…?」
「当たり前だ。
由那の力は‘神の奇跡’。万物の創造と破壊を司り、同時にそれを超越する絶対の力。その力に不可能はない」
由良が口を開いた。
絶対。
それは神にのみ許された言葉。
「…条件は?」
「ふふふ…」
女神のような少女が近づいてくる。
その、白くか細い腕を伶の首に回した。
そして口を近づけるとーーー
カプリ
と、伶の首に噛みついた。
「ちぅ~~~」
そのまま血を吸っていく。
「ち、ちょっと!?」
「ぷは。あなたには、死神になってもらうわ」
由那が首から口を離す。
「死神?」
「そう。私だけの大事な大事な死神さん♪」
あどけない笑みはただの少女のよう。
けれどそれは女神でもある。
「わかりました」
迷うことなどない。
もとより選択肢などなかった。
「俺はあなただけの死神になる。あなたがそれを望むなら」
選んだ道は、女神と共に。
その先に何があるかはわからない。
少年は、たった1人の妹のために自分を捨てた。
最終更新:2007年09月21日 23:30