『私の世界』 前編
夢の内側から夢を観測している。
自分ではない誰かが自分のフリをして外界へと手を伸ばす。
私が消えてしまう、私が死んでしまう。そういった感覚が背骨の上を走る。
足首が痛い。瞼の裏側が熱い。お腹が、子宮が、疼いている。
自分ではない誰かが自分のフリをして外界へと手を伸ばす。
私が消えてしまう、私が死んでしまう。そういった感覚が背骨の上を走る。
足首が痛い。瞼の裏側が熱い。お腹が、子宮が、疼いている。
私にしか聞こえない声で、あの腕は私に囁いた。
――――お前は人間ではありえない。
第二話『私の世界』
背中側から発せられる軋みの音で薫は目を覚ました。
体全体を倦怠感が包む。薄いシーツを上にかけてるだけにも関わらず体が熱い。
どうやらベッドの上にいるらしい。
蛍光灯一本が薄暗く部屋を照らすこの部屋は自分の記憶にない。
体全体を倦怠感が包む。薄いシーツを上にかけてるだけにも関わらず体が熱い。
どうやらベッドの上にいるらしい。
蛍光灯一本が薄暗く部屋を照らすこの部屋は自分の記憶にない。
「起きたか」
自分の視界の外から声を掛けられて、薫は体を起こしてそちらを向く。
窓から入る月明かりが、椅子に腰掛ける長髪の女を照らしている。
目は細く吊り上っていて、頬に二本の傷がある。鼻の形がいいおかげが普通以上の顔に見えるがお世辞にも美人とは言えない。
この女は……誰だ。私は……。
頭がぎしりと痛む。
窓から入る月明かりが、椅子に腰掛ける長髪の女を照らしている。
目は細く吊り上っていて、頬に二本の傷がある。鼻の形がいいおかげが普通以上の顔に見えるがお世辞にも美人とは言えない。
この女は……誰だ。私は……。
頭がぎしりと痛む。
「痛……」
「無理をするな。仮とはいえ契約した直前に戦闘を行ったんだ、あまり動かないほうがいいぜ」
「無理をするな。仮とはいえ契約した直前に戦闘を行ったんだ、あまり動かないほうがいいぜ」
――――思い出した。
確か家の前の自販機でカタワさんに襲われて、この月に照らされている女に助けられて。
それから、私が、カタワさんを。
確か家の前の自販機でカタワさんに襲われて、この月に照らされている女に助けられて。
それから、私が、カタワさんを。
「殺した」
「ん? どうした」
「ん? どうした」
私が殺した。カタワさんの頭を、砕いた。
どす黒い塊が喉の奥にツッかえている。あの時の自分は化け物だった。
と同時に自分の居場所があそこにあったと、そうも思う。
怪異を『力』として使役し、何かを壊す快楽。己の奥に快い暗闇が広がる、あの時間。
どす黒い塊が喉の奥にツッかえている。あの時の自分は化け物だった。
と同時に自分の居場所があそこにあったと、そうも思う。
怪異を『力』として使役し、何かを壊す快楽。己の奥に快い暗闇が広がる、あの時間。
欲しいものがあった。自分を迎え入れてくれる環境。
小さい頃に失った、誰もが当然のように笑顔でいられる空間。
その輪を外側からしか眺めることが出来なかった。あの笑顔を自分がすることも、誰かに向けられることもない。
小さい頃に失った、誰もが当然のように笑顔でいられる空間。
その輪を外側からしか眺めることが出来なかった。あの笑顔を自分がすることも、誰かに向けられることもない。
だが、今日私は笑顔をした。
――――これから殺す、獲物に向けて?
そして私は笑顔を貰った。
――――姿も見えない獣の腕に?
「うぅっ……」
頭が痛い。脳髄が沸騰している。頭蓋の中心が、渦を巻いて私の外に飛び出ようとしている。
そういえば、ここはどこなのだろう。
薫は片手で側東部を押さえながら、女に質問をすることにする。
そういえば、ここはどこなのだろう。
薫は片手で側東部を押さえながら、女に質問をすることにする。
「ここは、どこなんですか?」
「ウチの割り当てられている部屋だ。あの後お前もぶっ倒れたから仲間に連絡して連れてこさせた」
「貴方は、誰なんですか」
「ウチの割り当てられている部屋だ。あの後お前もぶっ倒れたから仲間に連絡して連れてこさせた」
「貴方は、誰なんですか」
そう質問した時、部屋の扉が勢いよく開く。
「いやー、新入りがいるんだって? 猿から聞いたで」
更にその扉の勢いにも負けないくらいの勢いとテンションの持ち主が入ってきた。
顔は十八、九の青年に見えるが服装はスーツだ。短く刈った髪は真紅に燃え、耳にはジャラジャラとピアスを付けている。
目鼻立ちがよく十分に美形と言えるだろう。だがその顔の半分以上に刺青が入れてある。
異様な人物であることは姿もさることながら、部屋に入ってから片時もお喋りを止めていない所からも見て取れる。
顔は十八、九の青年に見えるが服装はスーツだ。短く刈った髪は真紅に燃え、耳にはジャラジャラとピアスを付けている。
目鼻立ちがよく十分に美形と言えるだろう。だがその顔の半分以上に刺青が入れてある。
異様な人物であることは姿もさることながら、部屋に入ってから片時もお喋りを止めていない所からも見て取れる。
「ナナシさぁ、猿を自由にしとくの良くないで。ああ見えてパラドックス共はお喋りや」
「五月蝿いボケ。ウチ指図するなゴミカス」
「口悪っ! 相変わらず口悪っ! 新入りちゃんはこんなならんどいてな」
「ぶっ殺す。それと、こいつは新入りじゃない」
「え、そうなん? じゃあなんでここにいるん?」
「『巻き込んだ』責任がある」
「でも『適合体』ではあるんやろぉ? なら入っちゃった方が安全とちゃうのん?」
「五月蝿いボケ。ウチ指図するなゴミカス」
「口悪っ! 相変わらず口悪っ! 新入りちゃんはこんなならんどいてな」
「ぶっ殺す。それと、こいつは新入りじゃない」
「え、そうなん? じゃあなんでここにいるん?」
「『巻き込んだ』責任がある」
「でも『適合体』ではあるんやろぉ? なら入っちゃった方が安全とちゃうのん?」
完全に薫を置いて話は進んでいく。自分の置かれている状況がますます良く分からなくなる。
判明したのは、女がナナシと呼ばれている事くらいだ。
この二人の話に割り込むべきか否か。
未だやむ気配のない罵り合いなのか情報開示なのか分からないやり取りを見つつ、長考する。
判明したのは、女がナナシと呼ばれている事くらいだ。
この二人の話に割り込むべきか否か。
未だやむ気配のない罵り合いなのか情報開示なのか分からないやり取りを見つつ、長考する。
「ナナシちゃん知っとる? 怒るとおっぱいちっちゃくなるんやで?」
「よし、殺す。キーコに頼んで研究棟の多重擬似深淵牢獄に放り込んでやるよカス」
「あんな化け物だらけの空間嫌やぁ。なあ新入りちゃん」
「よし、殺す。キーコに頼んで研究棟の多重擬似深淵牢獄に放り込んでやるよカス」
「あんな化け物だらけの空間嫌やぁ。なあ新入りちゃん」
うむむと顎に手を当てて考え事をしていた薫に予想外のボールが投げられる。
もちろん話など欠片も聞いていないので何も答えることが出来ない。
考えあぐねた結果、先の質問をこの男にも投げかけてみることにする。
もちろん話など欠片も聞いていないので何も答えることが出来ない。
考えあぐねた結果、先の質問をこの男にも投げかけてみることにする。
あの、ここはどこなんですか?」
「ここ? 東京やで。アポトーシス東京支部」
「おいゴミクズ。そこまで教えるんじゃねェ」
「ええやん、いずれにせよそれを言わんと話も進まれへん」
「ここ? 東京やで。アポトーシス東京支部」
「おいゴミクズ。そこまで教えるんじゃねェ」
「ええやん、いずれにせよそれを言わんと話も進まれへん」
東京……。随分と遠くに連れてこられたものだ。県を五、六個跨いでいるではないか。
それにアポトーシスという、恐らく支部とつくあたりなんらかの組織名と考えられるソレ。
とりあえず自分の大まかな居場所の把握という目的は達成した。次は一個ずつ謎を潰していこう。
それにアポトーシスという、恐らく支部とつくあたりなんらかの組織名と考えられるソレ。
とりあえず自分の大まかな居場所の把握という目的は達成した。次は一個ずつ謎を潰していこう。
「あの、アポトーシスってなんですか?」
「お、やっぱ気になる?」
「ボケカス、教えんな」
「えー、なんでなん? けちんぼさんやな君はホンマに」
「こいつはこのまま日常に戻ったほうがいいんだよ」
「お、やっぱ気になる?」
「ボケカス、教えんな」
「えー、なんでなん? けちんぼさんやな君はホンマに」
「こいつはこのまま日常に戻ったほうがいいんだよ」
「アレを見たからか?」
いつの間にか例の獣の腕がぷかぷかと扉の前に浮いていた。
薫の心臓がゾクリと跳ねた。あの時の、カタワさんの頭を吹き飛ばした時の感覚が蘇る。
と、同時に右足首が痛むことに気がつく。じくじくと熱を持ってそれが主張する。
表情はなくともあの獣の腕の持ち主が楽しそうに笑っているのが分かる。
薫の心臓がゾクリと跳ねた。あの時の、カタワさんの頭を吹き飛ばした時の感覚が蘇る。
と、同時に右足首が痛むことに気がつく。じくじくと熱を持ってそれが主張する。
表情はなくともあの獣の腕の持ち主が楽しそうに笑っているのが分かる。
「初めはただの上級適合体かと思った。けど、『アレ』はあり得ねェ。あり得ちゃいけねェ範疇だ」
「おいおい、穏やかやないなぁ。何を見たん?」
「……」
「おいおい、穏やかやないなぁ。何を見たん?」
「……」
黙ってしまったナナシに変わって獣の腕が答える。
「喰った」
「喰った? 何をや」
「矛盾、いや還元していたから『エーテル』というべきか」
「ふはは、冗談キツいで猿ちゃん。そんなん無理や」
「喰った? 何をや」
「矛盾、いや還元していたから『エーテル』というべきか」
「ふはは、冗談キツいで猿ちゃん。そんなん無理や」
チャラチャラした男が一気に苦笑いを浮かべる。それに対しナナシはいらついた様子で応答した。
「理論上は可能だろ。無理やり情報を埋めて取り込んじまえばいい」
「高機能干渉……」
「しかもその間意識が無い」
「天敵やんか」
「パラドックスに対してもウチらにとってもな」
「高機能干渉……」
「しかもその間意識が無い」
「天敵やんか」
「パラドックスに対してもウチらにとってもな」
男の方は額にじっとりと汗をかき、ナナシは腕を組んで黙ってしまった。
獣の腕も言葉を発さず。静寂が部屋を満たした。
薫は恐らく己に関する発言の数々を反芻するが一つも理解できない。完全に置いてけぼりを食らってしまった。
今更何を話していいかわからず周りと一緒に黙るほか無い。
今まで把握し切れていたと思っていた自分という存在。その自分が異様な集団に異様と称される不安感。
私という存在に対しての懐疑が大きく己の中で膨らむ。
獣の腕も言葉を発さず。静寂が部屋を満たした。
薫は恐らく己に関する発言の数々を反芻するが一つも理解できない。完全に置いてけぼりを食らってしまった。
今更何を話していいかわからず周りと一緒に黙るほか無い。
今まで把握し切れていたと思っていた自分という存在。その自分が異様な集団に異様と称される不安感。
私という存在に対しての懐疑が大きく己の中で膨らむ。
――――知りたい。知らなければならない。
拠り所を無くした自分だからこそ、さらに己を失う訳には行かない。
痛む右足。軋む頭。こうなった原因を。この静寂の理由を。私は知らなければ。
薫は自分の下半身を覆うシーツをぎゅうと握り締め口を開く。
痛む右足。軋む頭。こうなった原因を。この静寂の理由を。私は知らなければ。
薫は自分の下半身を覆うシーツをぎゅうと握り締め口を開く。
「あの、教えてください。貴方たちのこと、あの化け物のこと、それに、私のことを」
全員がこちらに意識を向ける。男は苦笑いをし、女は飽きれ、腕は笑う。
この主張が受け入れて貰えるか分からない。そうなったときに私は食い下がるのか、それとも諦めるのか。
この主張が受け入れて貰えるか分からない。そうなったときに私は食い下がるのか、それとも諦めるのか。
はぁ、とため息を付きナナシが口を開く。
「二つ約束しろ。一つ、今から聞くことを他言しない事。二つ、この話を聞いたら『選択』すること」
「はい、約束します」
「お嬢ちゃん。後悔しなさんなや」
「大丈夫です。私、知りたいんです。嫌なんです、自分を疑うのだけは」
「はい、約束します」
「お嬢ちゃん。後悔しなさんなや」
「大丈夫です。私、知りたいんです。嫌なんです、自分を疑うのだけは」
薫は過去の自分に対する出来事によって、ある種の閉塞的な自己嫌悪を抱えている。
その嫌悪に相対していたのが過剰なまでの自己愛と他者への拒絶である。
その自己愛の部分が懐疑によって崩落すれば、残るのは事故嫌悪のみとなる。そうなればきっと、自分は消えてしまう。
ソレが怖い。歩んできた道が全て虚構によるものだと考えてしまうのが嫌だ。
だから少なくとももてる限りの情報は得ておきたい。それから全てを判断すればいい。
その嫌悪に相対していたのが過剰なまでの自己愛と他者への拒絶である。
その自己愛の部分が懐疑によって崩落すれば、残るのは事故嫌悪のみとなる。そうなればきっと、自分は消えてしまう。
ソレが怖い。歩んできた道が全て虚構によるものだと考えてしまうのが嫌だ。
だから少なくとももてる限りの情報は得ておきたい。それから全てを判断すればいい。
「おーけー。とりあえず開示できる範疇だけは全部教えてやる」
ナナシは自分の座っていた椅子から立ち上がると、部屋の隅に付属していた冷蔵庫から缶ジュースを三つ取り出す。
そしてソレを、自分、男、薫に配る。
長くなりそうだからな、そういってプルタブを開けた。
そしてソレを、自分、男、薫に配る。
長くなりそうだからな、そういってプルタブを開けた。
「まず、ウチらが所属している組織から話を始める。ウチらはお前も見たように、ああいった化け物を殲滅する役割を担う組織だ。
"Anti Paradox OPerat TOpsyturvydom SItuational Society"通称『APOPTOSIS』、日本語では『対矛盾戦略及び深淵観測協会』という」
「この俺のスーツの襟元についとるのが証明バッチや。かっこええやろ」
「主な活動内容は、先にも述べた化け物の殲滅と研究。それから深淵、まぁロアでもいいがそれの観測だ」
"Anti Paradox OPerat TOpsyturvydom SItuational Society"通称『APOPTOSIS』、日本語では『対矛盾戦略及び深淵観測協会』という」
「この俺のスーツの襟元についとるのが証明バッチや。かっこええやろ」
「主な活動内容は、先にも述べた化け物の殲滅と研究。それから深淵、まぁロアでもいいがそれの観測だ」
アポトーシス……知っている。自殺細胞の事だ。己を犠牲に他を生かす細胞。その名を配しているということは恐らくそういう組織なのだろう。
それと、カタワさんと対峙したときにも聞いた深淵、ロアという言葉。
それと、カタワさんと対峙したときにも聞いた深淵、ロアという言葉。
「あの、深淵とかロアとかってなんですか?」
答えてくれるのであれば分からないことは何でも質問したほうが得だ。薫はそう判断する。
「深淵、ウチらは便宜的にそう呼称してるが基本はお前も知ってる。『誰もが知っている誰も知らない世界』のことだ」
「つまりは平行世界『パラレルワールド』や」
「パラレルワールド。そんなものが、本当にあるんですか?」
「ない。が、ある」
「はぁ?」
「つまりは平行世界『パラレルワールド』や」
「パラレルワールド。そんなものが、本当にあるんですか?」
「ない。が、ある」
「はぁ?」
訳が分からない。この人は本当に答える気があるのだろうか疑問に思う。
「あるのは『エーテル』だけだ。それに膨大な意識が結びついて世界が出来る。だから現実には存在してない。人の意識の集合体の中に存在している」
「ソレが外側に現れるのが深淵や。まぁ、嬢ちゃんには難しい話やんなぁ」
「分かりやすく説明してやる。例えば水槽が二つあるとする。片方は水に満たされている水槽。もう片方は黒い布が掛かっていて中が見えない水槽だ。
水に満たされた水槽には魚が住んでいる。黒い方は分からない。魚は夢想する。きっと黒い布の水槽の方も水が満たされていて、魚が住んでいる。
だが現実には布の下は空の水槽だ。だが水に満たされた水槽の中の魚の中では、黒い布の下の世界が存在する。それが、平行世界だ」
水に満たされた水槽には魚が住んでいる。黒い方は分からない。魚は夢想する。きっと黒い布の水槽の方も水が満たされていて、魚が住んでいる。
だが現実には布の下は空の水槽だ。だが水に満たされた水槽の中の魚の中では、黒い布の下の世界が存在する。それが、平行世界だ」
……例えそうだとしても結局中身が空なら実体がないではないか。
しかし薫を襲ったあの化け物も、あの暗闇の世界も本物だ。質感も、匂いも全て覚えている。
しかし薫を襲ったあの化け物も、あの暗闇の世界も本物だ。質感も、匂いも全て覚えている。
「納得いかんって顔しとるで」
「だって、それだと私の身に起こった事が説明付きません」
「それには次の話に移る必要がある。『エーテル』という世界を満たす情報伝達因子の説明だ」
「エーテル……」
「だって、それだと私の身に起こった事が説明付きません」
「それには次の話に移る必要がある。『エーテル』という世界を満たす情報伝達因子の説明だ」
「エーテル……」
これもまた実体のない話だ。過去、世界はエーテルで満たされてるとした学説が存在した。光、音、そういったものを伝播させる性質をもつ物質。
しかし結局その学説は科学の発展とともに淘汰されていった。高校時代に何かの科学本で読んだ覚えがある。
ならば、この人たちがいうエーテルとは一体なんなんだ。
しかし結局その学説は科学の発展とともに淘汰されていった。高校時代に何かの科学本で読んだ覚えがある。
ならば、この人たちがいうエーテルとは一体なんなんだ。
「お前、幽霊と都市伝説の違いが分かるか?」
ナナシから薫へ唐突にそんな質問が投げかけられる。
幽霊と都市伝説の違い。都市伝説の中にも幽霊が関わっているのも存在するが基本は違うはずだ。
幽霊は、どことなく信憑性にかける気がするが、都市伝説にはどこか信じてしまう部分がある。
遠くと近く。そんな違いがあるように薫は考える。
上記の考えをナナシに提示する。
幽霊と都市伝説の違い。都市伝説の中にも幽霊が関わっているのも存在するが基本は違うはずだ。
幽霊は、どことなく信憑性にかける気がするが、都市伝説にはどこか信じてしまう部分がある。
遠くと近く。そんな違いがあるように薫は考える。
上記の考えをナナシに提示する。
「三十点だな」
「なんも知らん子にキッツぅない?」
「なんも知らん子にキッツぅない?」
なんとなく悔しい。そもそも両者ともに噂程度の記憶の中にしか存在できないような曖昧な存在ではないか。
ソレに対して違いも何もあったもんじゃない。結局は両方とも怪異という括りで済ますことが出来ると考える。
ソレに対して違いも何もあったもんじゃない。結局は両方とも怪異という括りで済ますことが出来ると考える。
「じゃあ、仮にその両者が存在しているとして、その生成条件はなんだと思う?」
また問題を出される。しかし先の点数による評価で回答する気をなくした薫は早々に白旗を振った。
それに対し小馬鹿にしたような笑みをナナシは浮かべ、話を続ける。
それに対し小馬鹿にしたような笑みをナナシは浮かべ、話を続ける。
「霊とは単体の情報にエーテルが集合した物で、都市伝説は情報を有したエーテルが複数集まり形を形成したものだ」
そんなの分かる訳ないじゃないか。理不尽を感じながらも、黙っていたほうが早く話が進みそうなので黙っている。
しかしナナシの後ろで含み笑いをしている男を見て若干のイラつきを覚えた。
話は続いている。
しかしナナシの後ろで含み笑いをしている男を見て若干のイラつきを覚えた。
話は続いている。
「エーテルとは本来ならば現実に存在することの出来ない曖昧で弱い情報ですら収束する伝導体のことだ。氣・魔力・霊子とも呼称される。
人間には松果体という機関が脳にあり、それが普段エーテルを全て漉し取っているので本来知覚することが出来ない。
が、霊媒の家系・魔術師の家系と言った種類の人間たちの松果体は『開いて』おり、故にそれらを知覚ないし使役することが可能とする」
人間には松果体という機関が脳にあり、それが普段エーテルを全て漉し取っているので本来知覚することが出来ない。
が、霊媒の家系・魔術師の家系と言った種類の人間たちの松果体は『開いて』おり、故にそれらを知覚ないし使役することが可能とする」
「アポトーシスはそういう『開けてる』人間が雇われて出来とるんや」
「そしてそのエーテルが全てにおいて重要な役割を果たしているんだ」
「じゃあ霊と都市伝説の違いから、我々の敵であるパラドックスの話をしよか。まず霊からや。
人間は死に際強い恨みや念、イコール膨大な情報を放つ場合がある。それにエーテルが急激に収束し形を成す。これが霊の正体や。
エーテルには強い情報には急激に集まる性質があるからなぁ。ソレが起因になっとる。
生前と同じ動きをする幽霊やとか、自縛霊等は、焼きついた情報があまりにも断定的且つ強すぎて、本来霊にはないはずの『設定』が作られてしまってんねや。
霊のいる場所で体が重くなるっちゅーのも、通常の密度を遙かに超えるエーテル量に常人の松果体が異常反応を起こすからや。
ちなみに呪いも全てはエーテルで証明されとる。過度な濃度で収束を続けるとやがてエーテル体は『腐る』。
その腐ったエーテルを取り込むと松果体が異常反応してメラトニンが過剰分泌され、結果死に至るっちゅーわけやな」
人間は死に際強い恨みや念、イコール膨大な情報を放つ場合がある。それにエーテルが急激に収束し形を成す。これが霊の正体や。
エーテルには強い情報には急激に集まる性質があるからなぁ。ソレが起因になっとる。
生前と同じ動きをする幽霊やとか、自縛霊等は、焼きついた情報があまりにも断定的且つ強すぎて、本来霊にはないはずの『設定』が作られてしまってんねや。
霊のいる場所で体が重くなるっちゅーのも、通常の密度を遙かに超えるエーテル量に常人の松果体が異常反応を起こすからや。
ちなみに呪いも全てはエーテルで証明されとる。過度な濃度で収束を続けるとやがてエーテル体は『腐る』。
その腐ったエーテルを取り込むと松果体が異常反応してメラトニンが過剰分泌され、結果死に至るっちゅーわけやな」
「だが、都市伝説は単一からなる霊とは違い複数からなる。エーテルには似た情報と結合する性質も存在する。
この似た情報が寄せ集まって出来るのが都市伝説だ。そこのハゲカスが言ってたように霊は死んだ人間の念が作り出す。
故に上書きが出来ない。霊はその霊以外に変わることがないんだ。だから対処も容易いし、そこらに転がってる似非霊媒師モドキでも消せる場合がある。
けど都市伝説、いやパラドックスは違う。何度でも上書き可能だ。何度でも何度でも人間が噂を付け足す限り際限なく成長を続ける。
それがパラドックスの恐ろしい所だ。まぁ、だから不安定でウチらの世界では具現化出来ないんだけどな」
この似た情報が寄せ集まって出来るのが都市伝説だ。そこのハゲカスが言ってたように霊は死んだ人間の念が作り出す。
故に上書きが出来ない。霊はその霊以外に変わることがないんだ。だから対処も容易いし、そこらに転がってる似非霊媒師モドキでも消せる場合がある。
けど都市伝説、いやパラドックスは違う。何度でも上書き可能だ。何度でも何度でも人間が噂を付け足す限り際限なく成長を続ける。
それがパラドックスの恐ろしい所だ。まぁ、だから不安定でウチらの世界では具現化出来ないんだけどな」
「唯一の救いやね」
「つまり、エーテルの存在によって並行世界もパラドックスも生まれ得るという訳だ。
だが、松果体が閉じてる人間には知覚すら出来ない。故に、『ない、しかし、ある』とウチは言ったんだ」
だが、松果体が閉じてる人間には知覚すら出来ない。故に、『ない、しかし、ある』とウチは言ったんだ」
……。
理解が追いつかない。エーテルという魔法みたいなものが世界中に溢れてて、それのせいで化け物や幽霊が生まれる。
御伽噺を聞きにきた訳じゃない。私が、私が知りたいのは。
理解が追いつかない。エーテルという魔法みたいなものが世界中に溢れてて、それのせいで化け物や幽霊が生まれる。
御伽噺を聞きにきた訳じゃない。私が、私が知りたいのは。
「理解し難いか。だがお前も襲われたろう。そろそろ諦めて認めろ」
「でも、それじゃあその『開いてる』人間以外がその存在を知覚できないなら、都市伝説――――パラドックスに襲われる人は皆開いてる人間なんですか?」
「それは違う。違うからこそ都市伝説という名前が付いている」
「そや、パラドックスは都市部でのみ、好き勝手に人間を深淵に引きずりこめる」
「だから、『都市伝説』」
「人口がある一定を超えると、それだけ情報の量は増える。奴らパラドックスにとっては活動しやすくなるって訳だ」
「そもそもそれ以外の場所では不安定すぎてすぐに拡散してしまうけどなぁ」
「ウチらはそういった都市に溢れるパラドックスによる被害を防ぐために先手を打って殲滅する。
都市部にて引き起こる平行世界、深淵を観測しパラドックスを見つけ、殺す。それがウチらの仕事」
「でも、それじゃあその『開いてる』人間以外がその存在を知覚できないなら、都市伝説――――パラドックスに襲われる人は皆開いてる人間なんですか?」
「それは違う。違うからこそ都市伝説という名前が付いている」
「そや、パラドックスは都市部でのみ、好き勝手に人間を深淵に引きずりこめる」
「だから、『都市伝説』」
「人口がある一定を超えると、それだけ情報の量は増える。奴らパラドックスにとっては活動しやすくなるって訳だ」
「そもそもそれ以外の場所では不安定すぎてすぐに拡散してしまうけどなぁ」
「ウチらはそういった都市に溢れるパラドックスによる被害を防ぐために先手を打って殲滅する。
都市部にて引き起こる平行世界、深淵を観測しパラドックスを見つけ、殺す。それがウチらの仕事」
「……どうしてパラドックスは人を襲うんですか?」
「そういう設定がされてるからや。いや、そういう設定がされてる奴が人を襲うタイプっちゅーか」
「ある化け物が人を襲う、殺すって噂がエーテルと結びついて形を得れば、当然その化け物は人を殺すだろ。
だってそういう情報で出来てんだからさァ」
「ある化け物が人を襲う、殺すって噂がエーテルと結びついて形を得れば、当然その化け物は人を殺すだろ。
だってそういう情報で出来てんだからさァ」
「じゃあ、私たちは自分の首を自分で絞めてることになるじゃないですか!
そんななんにも考えずに発信した噂に殺されるなんて!」
そんななんにも考えずに発信した噂に殺されるなんて!」
「人間どの時代だって自分の首を絞めて生きるもんやで、まぁそうさせないために俺らが組織されたんやけどな」
「他を生かすために己を犠牲にする。それがアポトーシスだ」
「おややぁ? ナナシちゃんそんな嘘ついてええのん? ホンマは殺したいだけとちゃいますのん?」
「あぁ!? 粉微塵にすんぞハゲカスが!」
「だって、『復讐』のためでもなかったら、あんな危険な都市伝説と契約するかいな」
「猿吉を悪く言うんじゃねぇ! 好きで連れてんだよ。……ってあれ? 猿吉は?」
「さっき出てったわ。ホンマ自由な腕やで」
「おややぁ? ナナシちゃんそんな嘘ついてええのん? ホンマは殺したいだけとちゃいますのん?」
「あぁ!? 粉微塵にすんぞハゲカスが!」
「だって、『復讐』のためでもなかったら、あんな危険な都市伝説と契約するかいな」
「猿吉を悪く言うんじゃねぇ! 好きで連れてんだよ。……ってあれ? 猿吉は?」
「さっき出てったわ。ホンマ自由な腕やで」
薫を置いて喧嘩を始める二人。その間薫は今までの情報を整理することにした。
まず、世界にはエーテルという情報と結合する性質を持ったものが存在する。これに嘘は無いだろう。恐らく本当にある。
更にそれが、人間の噂と結びつき寄せ集まることで平行世界が生まれ、更にその中に都市伝説が生まれる。
これはどうだ。なにか重要な部分を隠されている気がする。とりあえず今はこれも信じるほか無い。
次に都市伝説についてだ。奴らは都市部でしか存在できない。理由は一定の人口数がないと情報の結合が弱くて拡散してしまうから。
これは……概ね真実だろう。仮にこの部分が嘘でもあまり問題はない。
最後に、所々に出てくる設定と契約という言葉。これに関してはあえてノータッチなのか、それともこれから説明してくれるのか。
まず、世界にはエーテルという情報と結合する性質を持ったものが存在する。これに嘘は無いだろう。恐らく本当にある。
更にそれが、人間の噂と結びつき寄せ集まることで平行世界が生まれ、更にその中に都市伝説が生まれる。
これはどうだ。なにか重要な部分を隠されている気がする。とりあえず今はこれも信じるほか無い。
次に都市伝説についてだ。奴らは都市部でしか存在できない。理由は一定の人口数がないと情報の結合が弱くて拡散してしまうから。
これは……概ね真実だろう。仮にこの部分が嘘でもあまり問題はない。
最後に、所々に出てくる設定と契約という言葉。これに関してはあえてノータッチなのか、それともこれから説明してくれるのか。
――――総合して、『話せる部分のみ話している』と判断する。
初めからそういう取り決めだったが、やはりそれらから核心の部分まで推測するのは不可能に近い。
自分の置かれている立場はやはり対等なものではないと足元も再確認させられる。
自分の置かれている立場はやはり対等なものではないと足元も再確認させられる。
ふと気が付くと、先ほど姿を消した獣の腕がなにやら紙を持って入ってくるところだった。
「おお、猿吉どこ行ってたんだよ」
「キーコのところだ。どうせお前らには設定の話がうまく出来ないだろうと踏んで、キーコにわかりやすい資料を制作して貰った」
「猿、気が利くやん!」
「まあな。あと、次に猿っていったら殺す」
「キーコのところだ。どうせお前らには設定の話がうまく出来ないだろうと踏んで、キーコにわかりやすい資料を制作して貰った」
「猿、気が利くやん!」
「まあな。あと、次に猿っていったら殺す」
薫が紙を受け取ると、ベッドの側面に男とナナシが寄ってくる。結果三人で紙を見ることになった。
*
『 キーコのなぜなに都市伝説☆
【設定】
【設定】
※このフリーペーパーは初めて都市伝説を知った初心者ちゃん向けに発行されています!
都市伝説は『噂』という不確定な情報の複合体がエーテルに焼きつくことで生まれる。
しかしながら非常に不安定な存在なので、不確定要素に対し一定水準の確率を常に安定させることの出来る
ロア世界でしか存在できない。(強制的にロア世界に引っ張られる)
しかしながら非常に不安定な存在なので、不確定要素に対し一定水準の確率を常に安定させることの出来る
ロア世界でしか存在できない。(強制的にロア世界に引っ張られる)
都市伝説の行動は全て人間の作り出した噂の影響力・浸透率の大小で決定されている。これが設定である
☆例
カタワさんは人間の血を失った部位に塗りつけると、その部位が生えてくるから人間を殺す。
という情報(噂)が存在するとして、
町規模(日数で言うと一週間前後)でその情報が定着している場合、殺すという事象の大きさも加味して
恐らく傷が治る程度しか機能しない=その設定は正常に機能していない
恐らく傷が治る程度しか機能しない=その設定は正常に機能していない
都市規模(日数で言うと一ヶ月前後)でその情報が定着している場合、殺すという事象の大きさも加味して
恐らく失われているパーツが復元する=設定が正常に機能する
恐らく失われているパーツが復元する=設定が正常に機能する
式で表すと
設定=情報の定着量÷事象の大小
が一定の数値を超えると都市伝説に完全に書き込まれる。
事象の大小とは現実世界における影響力の強さであり、
ただ横をすり抜けるだけで危害を加えないという都市伝説の情報よりも、
殺す、呪われるといった影響の強いものほど設定の定着には多くの噂の広がりが必要になる
殺す、呪われるといった影響の強いものほど設定の定着には多くの噂の広がりが必要になる
この事象の大小には引きずり込みと呼ばれる、人間をロア世界へ迷い込ませる力にも影響する。
小さい事象ほど小さい範囲で引きずり込みが行われる。
小さい事象ほど小さい範囲で引きずり込みが行われる。
☆例
車を走らせていると、物凄い速さのババアが隣を走り抜けていった。
↓
車の内部ないし人間の体のみこちらに引きずり込めば十分可能。
↓
車の内部ないし人間の体のみこちらに引きずり込めば十分可能。
カタワさんに殺される。
↓
町規模で仮想空間としてロア世界を構築しなければ不可能。
↓
町規模で仮想空間としてロア世界を構築しなければ不可能。
人間はその条件や設定が行われるのにもっとも適した範囲でロア世界に引きずり込まれることになる。
殺人などの大きな事象はそれだけ大きな範囲を生成しないと基本的に成り立たない場合が多い
故に複数人で都市伝説に遭遇したり、殺されるシーンや証拠となるシーンを誰も目撃していないというケースが多発する。
殺人などの大きな事象はそれだけ大きな範囲を生成しないと基本的に成り立たない場合が多い
故に複数人で都市伝説に遭遇したり、殺されるシーンや証拠となるシーンを誰も目撃していないというケースが多発する。
基本的な部分は以上! 分かったかな? 』
*
こう書いてくれたこうが、会話で教えられるよりも分かりやすいなと薫はうなずく。
隣の二人もしきりに感心して紙を眺めている。
隣の二人もしきりに感心して紙を眺めている。
「まぁこの程度のこと知っとったけどな。復習や復習」
「その割には声が上ずってるぜェ足立よぉ」
「はぁ? 何言うてますのん。俺韓国語わかれへんねん」
「テメェ殺す!」
「その割には声が上ずってるぜェ足立よぉ」
「はぁ? 何言うてますのん。俺韓国語わかれへんねん」
「テメェ殺す!」
再度二人が喧嘩をし始めた。
と同時に天井付近に付属していたスピーカらしきものから危険を知らせるアラートと、緊急放送が流れ始めた。
【ガガッ――――司令部より緊急放送。研究棟地下実験室よりロアが流出。
AからFまでの隔壁閉鎖。非殲滅部隊は指定の緊急脱出経路より外部へ移行してください。
殲滅部隊壱は脱出経路の警備、殲滅部隊零は地下研究施設にてロアを完全排除してください。】
AからFまでの隔壁閉鎖。非殲滅部隊は指定の緊急脱出経路より外部へ移行してください。
殲滅部隊壱は脱出経路の警備、殲滅部隊零は地下研究施設にてロアを完全排除してください。】
また、戦いが始まろうとしていた。
To Be Continued…