「都市伝説と戦う為に、都市伝説と契約した能力者達……」 まとめwiki

連載 - Tさん-20

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 宴も終わり、人も、それ以外のモノも全て居なくなった宴会場の廃ビルの前、欠けた月の光の下に幾人かの影があった。
 Tさん、俺、リカちゃんと、俺たち三人に向き合うようにして立っている夢子ちゃんの影だ。
「今回の私たちが起こした事件のこと、その解決も、それ以後の交渉も全てやっていただきありがとうございました。
 感謝してもしきれません」
 そう言って頭を下げる夢子ちゃん。今はクソ爺に操られていた頃と同じ貫頭衣姿だ。
「あなた方の為になら私たちはなんでもやらせていただきます、なんでもおっしゃってくださいね」
 そう言う夢子ちゃんに俺はリカちゃんと一緒に、
「ならここにもっといようぜ?」
「そうするの」
 言うが、Tさんにたしなめられる。
「旅立ちは夢子ちゃんの意志だ、妨げになるようなことを言ってやるな。
 それに、もう会えないわけじゃない。黒服さんの地下トンネルもある」
 そう言ってくれるけど、
「あの人にいつも会うことはできないだろ? そもそも住所すら分かんないんだしさ」
 Tさんにも夢子ちゃんにも悪いと思うけども、つい愚痴っぽくなる。そうしていると夢子ちゃんが控えめに声をあげた。
「あの」
 そう言って俺たちにそれぞれ一枚ずつ紙片を差し出す。
「こいつは?」
 疑問顔で訊くと、
「パスポートです」
 と夢子ちゃんは答えた。
「?」
 疑問符が頭上に浮かんでいる俺の顔を見て、夢子ちゃんはパスポートの説明をしてくれる。
「これがあれば≪夢の国≫とその関連物、≪関係者以外立ち入り禁止≫の場所にも入ることができます」
 要は≪夢の国≫への入国権をくれた。ということみたいだ。
 ってことは、
「これで地下カジノ辺りでならいつでも会えるっつうことか?」
「はい」
 ≪夢の国≫は常に移動しているのでそこに入るには専用の都市伝説が必要ですけど。と注意しながら夢子ちゃんがうなずく。
 そりゃあ嬉しい限りじゃないか! それこそ会おうと思えばかなり頻繁に会えることになる。だけど何故か夢子ちゃんは若干及び腰だ。
「地下カジノにはやはり行きづらいか?」
 Tさんが言うと、夢子ちゃんは無言でうなずいた。
 そういえば、たしか地下カジノは≪夢の国≫がクソ爺に歪められている時にクソ爺に反対して事を構えていたんだっけか。
「まあ最初は行きづらいだろうがそのうちに慣れるさ。――それまでは、」
 そう言ってTさんはなにやらリュックを夢子ちゃんに渡した。
「えっと?」
 受け取って不思議そうな顔をする夢子ちゃん。
「慣れるまでの間ずっとコンビニ弁当と言うわけにもいくまい。少しだが日持ちする物を用意させておいた」
 と言うTさん。相変わらず準備が良い。
「ありがとうございますっ」
 頭を下げる夢子ちゃんにTさんはん、とうなずき、
「料理の作者に伝えておこう」
 と言って俺に顔を向けた。その意図を察して俺は一つうなずき、
「で、これも持ってけ」
 ポケットからペンダントを取り出して夢子ちゃんの目の前に突きだした。
「これは?」
 緑がかった青色の石でできたペンダントをしげしげと見て夢子ちゃんが問うてくる。
「パワーストーン、だっけ?」
 力はある。ということだけしか言われていない俺にはこいつの力とか由来とかはわからん。Tさんに説明を求める視線を向けると、
「ターコイズ、旅の守護と災いをさける石だ。旅立つ夢子ちゃんにはちょうどいいだろう」
 なるほど、なんというか、流石のチョイスだ。すげえ。
「わ、ありがとうございます」
 夢子ちゃんはそう言って首にさっそくターコイズのペンダントをかけた。
 王様って感じは夢子ちゃんが着ている衣装からしてさっぱり無いけど、その素朴な感じが良い、似合ってる。王様の品格よりもかわいらしさが先に立ってる感じなのがまた、良い。
「それでは」
 夢子ちゃんはまた頭を下げる。ずいぶん腰の低い王様だなと笑うと、「感謝を忘れるような王様にはなりたくないですから」と言われた。
「さすが、器が違うぜ」
「契約者の器が小さいとも言うな」
「ちがわい!」
 Tさんに反射的にそう言うと夢子ちゃんにくすくす笑われた。
 夢子ちゃんの笑いが収まると、場の空気が緩やかに動き出す。
「いっちゃうの?」
 リカちゃんが訊く。
「はい、決めたことですから」
 そう言って夢子ちゃんは一歩後ろに下がる。
「なんかあったら俺らのとこに来いよ? いつでも来ていいんだからな?」
 旅立っちまう気配を感じて声をかける。夢子ちゃんは笑顔で「はい」とうなずき、俺たちに背を向けた。月光が夢子ちゃんのさらりと揺れる長い髪を淡く輝かせている。
 背を向けた夢子ちゃんは両の手を広げ、周囲に呼びかけるように声を張り上げる。
「さぁみんな、行こう! これからみんなで、新しく始めよう?」
 言葉と共に俺たちの周りに賑やかな気配が現れた。それはつい先程まで行われていた宴会がまた行われ始めたかのような賑やかさをもった、明るい華やかな気配で、
「にぎやかなの」
「賑やかなのはいいが、これは見つからないのか?」
 リカちゃんとTさんがそれぞれ言う。確かにこう賑やかだとすぐに誰かに察知されそうだ。
 そう思っていると夢子ちゃんは、知ってる? と声をかけてきた。
「≪夢の国≫にはね、≪カラスを寄せ付けない特殊電波≫が流れているんだよ?」
 ――そして、
「それは少し弄れば人避けにもなるんだよ?」
 そう言って振り返り、夢子ちゃんはいたずらっぽく笑う。
「ですから、最初だけ、この町を出るまでの間だけはにぎやかに行こうって、住人の皆の意見で」
 その言葉と共に一人、また一人と人影やマスコットが現れた。やがてパレードの櫓が現れて、
 王様が彼等の先頭に立った。
「行ってきます」
 そう夢子ちゃんは旅立ちを告げた。
 そして夢子ちゃんは、≪夢の国≫は旅立って行く。
 住人やマスコット、櫓を率いて≪夢の国≫の王様が歩いて行く。これから多くの人々に夢を与えに、その揺るがない意志と共に。
 どこまでも、どこまでも。
 その身が消え去るその日まで。


           ●


 夢子ちゃんが見えなくなってからも俺は夢子ちゃんが去って行った方向を見続けていた。
 Tさんとリカちゃんは辛抱強く付き合ってくれていた。
 やがて、日が昇り始め、
「さて、これで俺の人間時の心残りは無事に済んだな」
 Tさんが、俺とTさん自身の心の区切りをつけさせるように言って、懐から血濡れの紙切れを取り出し、ビリビリと破いた。
「Tさんもどっか行くとか言わねえよな?」
 やけに晴れ晴れした口調で言われたせいで不安になり、反射的に訊いていた。
 Tさんは目を丸くして俺を見、力の抜けた笑みを浮かべると、
「これが幽霊なら未練なく成仏するところだが、」
 まぁ、
「数日しか寝食を共にしなかった奴との別れが寂しくて寂しくてつい無理にはしゃぐような人間を放ってはおけんな」
 と言った。
「わたしもそうなの」
 肩の上でリカちゃんもTさんに同意している。
「そう、か…………」
 深いため息と共につぶやくと、
「どうした? 不安になっていたのか?」
 Tさんに問われた。
「……まぁな。人と別れるのはやっぱ寂しいもんだろ?」
 言うと、頭に自分のそれよりも大きな手の感触が乗った。そのままグシャグシャと髪をかき混ぜられる。
 どうもなでられているらしい。
「な、なんだよ」
 なぜかこっぱずかしくなってTさんを見上げると、
「別に?」
 野郎は笑って頭を軽く叩き背を向けた。
 そして言葉をかけてくる。
「さぁ、帰って寝るぞ。徹夜続きはよくないだろう?」
「連徹する羽目になったのはTさんの出した宿題が原因なんだけど」
「普段勉強しない契約者が悪いな」
「ねむいの~」
 朝陽がまぶしく視界を焼く中、俺たちは何日かぶりの家路につくのだった。


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