カツーン…カツーン…
真夜中の森の奥深く…鉄と鉄がぶつかり合う音だけがこだまする。
いや、鉄の音だけではない。
「…っそたれがぁ…!…こん畜生が…!」カツーン…カツーン…
彼女、いや彼は、まだ槌を振るう。三日ほど寝てないだろうか。
契約のお陰でろくに食事をしなくても困らない体質にはなったものの、睡眠はとらなければならない。
「早く…早く倒れやがれよ…っ!」カツーン…カツーン…
彼はなお大木に五寸釘で藁人形を打ち付ける。
木の幹には所狭しと禍々しい藁人形が並んでいる。しかし大木は全く倒れる気配が無い。
「くっ…早く…早く俺を元の体に…!」カツーン…カツーン…
ぐらぁっ。
突如、木が歪む。
…ついに、倒れた…!…いや、違う!?
歪んでいたのは、彼の視界そのものだった。
三日三晩寝ずに槌を振るい続けたのだ、無理もない。
「ちく…しょう…が…ぁ」ふらぁっ。
彼が平衡感覚を失い、倒れる…
「いよぉぉっし、間に合ったぁー!」
ぽすん。
彼は、地面に体をたたきつけるわけでもなく。
誰かに体を支えられていた。
「まったくもー。こもるならこもるって言ってくださいよー!しばらく帰ってこないから心配しちゃったじゃないですかー!」
「…幽名…?」
彼を覗き込むのは、白い着物に映える短く整えられた黒髪。見慣れた顔だったが、不思議と初めて会うような感覚を覚えた。
彼が都市伝説と契約するきっかけになった幽霊少女。名前は彼が勝手に「幽名(ゆうな)」と名付けた。
以来彼がどこへ行くにもついてきてくれる大切なパートナーである。
以来彼がどこへ行くにもついてきてくれる大切なパートナーである。
「それにしても…探すの苦労しましたよ?あなたの気がまるで変わっちゃってるんですもの」
そりゃ男から女だもの。出す気だって変わるさ。
「…じゃあ、なんで俺だと分かった…?」「それは…あなたの負のオーラも感じましたし…何より…ず、ずっと一緒にいるんですよ?近くまでくれば分かります」
えへん、と彼女は大きな胸をさらに強調する。
えへん、と彼女は大きな胸をさらに強調する。
「…そか。ありがとな」そう言って彼は彼女を撫でる、と見せかけて…
彼女の胸をむんず、とつかむ。
「ひ、ひやぁっ!だ、だから急に胸に触るのはやめてくださいっ!!」「いや、触ってくれと言わんばかりの強調の仕方だったからつい」
顔を真っ赤にしてぽかぽかと叩いてくる幽名。久々にいい感触だ。
「…で、この大木にずっと打ち続けている、と」「あぁ…そういう…ことだ…なっ」カツーン…カツーン…
「でも周りの住人さん達には気を付けてくださいね?向こうのほうに教会だって立ってるんですから」
幽名の指さした方向を見ると、遠くのほうの建物から明りが漏れている。…気付かなかった。
「ほら、おにぎり作ってきましたから。今日はこれでも食べてゆっくり休んでください。」
釘を打つ手を止め、差し出されたおにぎりを一口、食べる。
久々に感じる、温かいご飯の食感。塩の味さえないが、彼は幸せだった。
……早く、元の体に戻らねぇとな……
嬉しそうにおにぎりの感想を聞いてくる幽名を見ながら、彼はさらなる決意を固めた。